亡国機業とIS学園の戦闘が終わった後、束は最後に暮桜の反応をキャッチした太平洋上の無人島を訪れていた――千冬(偽)の生死と暮桜が己が打ち込んだウィルスで本当に崩壊したのかを確認する為にやって来たのだ。


「暮桜の最後の反応をキャッチしたのは此処なんだけど、何もないって言うのは解せないなぁ?
 仮にあいつが死んでたとして、其の死肉がカラスや海鳥に喰われたとしても骨は残る筈なのに、骨の欠片すら残ってないって言うのは流石にあり得ないよね?此処がアフリカのサバンナなら骨もハイエナが喰い尽くしちゃうから残らないかもだけど――最後の反応をキャッチしたのは島の中央だから波に持ってかれたって言うのも考え辛い……若しかして、しゅー君のかめはめ波で完全に消滅しちゃったのかな?
 いや、其れなら暮桜の最後の反応をキャッチ出来ないか。」


其処で束は千冬(偽)の遺体、或いはその痕跡を見付ける事が出来ずにいた。
秋五の攻撃で完全に消滅したのであれば暮桜の最後の反応をキャッチする事は出来ず、逆に此の場に千冬(偽)が吹き飛ばされて到着していたのなら、生死を問わずに何らかの痕跡が残っている筈だが其れもなかった。
生きているのならば此の場から移動するなり、生きる為に戦闘による負傷を治療しようとした痕跡、食料を確保しようとした痕跡等々、一つ位はそう言った痕跡が見つかるモノだが其れはない。
では死んだのかと言うと、遺体らしきモノは何処にも見当たらない――カラスや海鳥が群がったのであれば死肉はあっと言う間に食べ尽くされてしまうのだが、其れでも骨は残る。しかしその骨すら欠片も見当たらないのだ。


「この無人島に吹き飛ばされた後で消滅したって考えるのが一番妥当なんだろうけど、何て言うかシックリ来ないな……暮桜が見当たらないのは私の仕込んだウィルスで消滅した訳だから良いとしても、何か違和感があるんだよね……まるで何か重大な見落としをしているような。
 アイツが死んだなら其れで終わりな筈なのに、私の第六感が警鐘を鳴らしてるのは何でだ?……まさかとは思うけど、束さんでも理解出来ない『何か』が存在してるのか?……なんて、其れこそまさかだね。
 『月より近くて遠い場所』って言われてる地球の深海の生物もほぼ全て網羅し、世界中のオーパーツの謎を解明した束さんに理解出来ない事なんてマジで存在しないっしょ?……古代エジプトの『王の記憶の石板』が実在してる事には驚いたけどね――高橋先生は何処で此れの存在を知ったんだか。」


束は自身の第六感が警鐘を鳴らしている事を感じながらも、其れを思い過ぎだと考える事にした――己の能力を過信している訳ではないが、専門の研究者ですら頭を悩ませている事案を解明してしまった束は、少なくとも此の地球上には自分を超える頭脳の持ち主は存在しない事を確信しており、だからこそ己が出した結論には絶対的な自信を持っていたのだ。


「だけど、警戒だけはしておいた方が良いかも知れないね……此の世に絶対は無いって言うから。
 騎龍が必要になる世界なんてのは無い方が良いんだけど、私は騎龍は世界にとって必要になると思ったから作った……ある意味では矛盾してるのかもしれないけど、私が騎龍を作ったから其れが必要になる世界になるのか、それとも其れが必要になる世界になるから私は騎龍を作ったのか……うん、考えても答えは出ないから、此れに関しては考えるのを止めようかな♪
 何れにしても世界は必要な選択をする筈だから……アイツの処遇を世界が決めたのなら、其れに従った上で、そして最終的にぶち殺すだけだね。」


束は誰に言うでもなくそう言うと専用の『人参型ロケット(ステルス迷彩搭載)』に乗り込むと無人島から飛び立って行ったのだが、其の無人島のある一本の木の枝には『首から上が千冬(偽)になったカマキリの抜け殻』が引っ掛かっており、其れは人参型ロケットが発射する際の噴出に押されて枝から外れて、更に島に吹き付けた強風によって海に飛ばされて海上に落下し、海上に落下した抜け殻はウミガメなどの海洋生物に食されて姿を消し、千冬(偽)と宇宙から飛来した宇宙生物が融合した事実は誰にも知られる事はなく、千冬(偽)と融合した宇宙生物(以降キメラと表記)は地下深くで其の力を蓄えるのだった。










夏の月が進む世界  Episode67
『戦闘終了後のIS学園は平穏其の物であります!』










亡国機業がIS学園を襲撃してからの週末を経た月曜日、学園祭の際にIS学園から姿を消していた夏月組は約半月ぶりにIS学園に其の姿を現していた。
夏月組が亡国機業のメンバーとなったと言う事は秋五組を含めてIS学園でもごく一部の生徒しか知らない事ではあるとは言え、こうして普通に登校していると言うのはあの戦いに参加したメンバーからしたら信じられない事だろう。


「夏月……だけじゃなくて君の嫁さん達もだけど、なんで普通に登校してるのさ?」

「俺達は亡国機業のメンバーではあるが、だからと言ってIS学園を退学した訳じゃないし、IS学園も俺達を退学処分にはしてないから、事が終われば復学ってなモンだぜ秋五。」

「うん、そうだとは思った、
 束さんがバックに居るなら君達が復学するのも簡単だとは思うからね……だけど、どうして君の義母とオータムが学園に居るのさ!?」

「其れは俺にも分からん。多分束さんが裏から手を回したんだろうな。」


幸いにも学園を襲撃したメンバーの事を知っているのは秋五組と真耶とごく限られたメンバーだったので、夏月達は無事に復学し、何の事情も知らないクラスメイトには適当な事情を説明して理解して貰っていたのだが、其れとは別にスコールが新たにIS学園の教師として就任し、オータムは学園警備員となっていたのだ。
どうしてそうなったのか、その詳細は夏月も知らないのだが、スコールとオータムは亡国機業でも指折りの実力者であるので、其れだけの実力者がIS学園に居ると言うのはIS学園としても頼もしい事であるのでスコールとオータムを受け入れたのだった――因みにスコールは一年四組の副担任と言う扱いだ。


「皆さん、席に付いて下さい。ホームルームを始めますよ。」


此処で一組には担任である真耶がやって来てホームルームが始まったのだが、真耶が担任となってから、一組の生徒達は真耶が教室に来ると席に付くようになっていたので、真耶の教師としての存在は千冬(偽)を上回っていると言っても良いだろう――千冬(偽)が担任だった頃は、ホームルームが始まっても生徒達は一部を除いて騒いだままだったのだから。


「今日は皆さんに新たなお友達を紹介したいと思います――入って来て下さい。」


それはさて置き、真耶は必要な連絡事項を伝えると、此処で編入性を教室に呼び込み、呼ばれた編入性は一組の教室に入って行ったのだが、其の編入生の容姿に一組はざわつく事になった。
と言うのも、編入性の容姿は嘗て一年一組の担任を務めていた千冬(偽)と瓜二つだったからだ。


「此度IS学園に編入した『織斑マドカ』だ、宜しく頼む――『織斑』の名で察した者も居るかもしれないが、私は此のクラスの『織斑秋五』の姉だ。」


更に此処でマドカが爆弾を投下して来た……新たな編入生が秋五の姉と言うのは中々のパワーワードであり、其れによって夏月組と秋五組を除く一年一組は暫し混乱状態になったのだが、其れは真耶が一喝して黙らせていた。


「彼女が僕の姉って……如何言う事なんだ?」

「其れが知りたきゃ昼休みに屋上に来な……其処で俺が知ってる限りの真実をお前に教えてやるよ。」


己の姉を名乗るマドカの登場に秋五は訝し気な表情を浮かべたが、其の詳細は昼休みに教えてやると夏月が言った事で秋五は取り敢えず今は深く詮索するのは止めてホームルームや授業に集中する事にしたようだ。

ホームルームが終わり、一時間目は『歴史(世界史)』だったのだが、担当教師が授業の途中で歴史話から脱線した事と、授業内容が『古代エジプト史』だった事から古代エジプトのミステリーやら何やらに関しての話題で盛り上がり、更に其処から夏月とロランが『遊戯王ネタ』をぶち込んだ事で話題は更に脱線して授業が終わったのだった。

授業終了後の二時間目との休み時間には予想通りと言うかなんと言うかマドカの周囲には生徒達が殺到してマドカを質問攻めにしていた――『織斑君の姉って如何言う事?』、『なんで今になって?』との質問に対してマドカは『秋五は私が姉であった事を覚えていないから話していなくても仕方ない。』、『私の方でも漸く準備が整ったからだ』と答えていた。
箒達もマドカに何か聞きたそうにしていたのだが、其処は秋五が『昼休みに夏月が説明してくれる』と言う事を告げると此の場でマドカに色々と聞くのは止めたのだった。

続く二時間目の『語学(担当教師はその都度変わる)』は本日は『日本語』だったので多くの生徒は問題なかったのだが、此処ではラウラが黒兎隊の副官であるクラリッサから教えられた『間違った日本語の使い方』を実に見事に披露して担当教師に何度目になるか分からない困惑を与えるのだった。
『糠に釘』の意味を『糠味噌に釘を入れると漬物が美味しく出来る』と答えられたら困惑もするだろう――尚、糠味噌に釘を入れると美味しくなるのではなく糠漬けの色が良くなるので誤解無きよう。

ラウラがボケをかました以外は特に問題なく二時間目は終わり、三時間目は体育だ。
本日の体育は『バレーボール』で、夏月と秋五は夫々の嫁が居るチームに配属され、夏月チームと秋五チームが試合を行う事になったのだが、其の試合は『此れはプロの試合か?』と思う位に凄いモノとなっていた。
チームメンバーは夏月チームが『夏月、ロラン、静寐、神楽、ナギ、本音』と言う構成で、秋五チームが『秋五、箒、セシリア、ラウラ、シャルロット、清香』と言う構成だったのだが、何方も一歩も引かない点の取り合いとなっていたのだ。
夏月チームは本音が穴にも見えるが、本音はアタッカーとしてはダメダメでもディフェンダーとしては優秀で、秋五チームのスパイクを拾える時には確実にレシーブして反撃に繋げていただけでなく、スパイクの為のトスも絶妙なタイミングで上げていたのだった――本音はセッターとしての能力が極めて高かったのだ。

そうして試合は互いに譲らぬままデュースとなり、夏月チームが一点リードで迎えたサーブ。
サーブを打つのはロランだ。
二、三度ボールを床に打ち付けたロランはボールを高くトスすると、ジャンプサーブではなく落ちて来たボールをアンダーサーブで高く上げた――ジャンプサーブではなく、『バレーボールの魔球』とも言われる『天井サーブ』をロランは打ったのだ。
天井スレスレまで上がったサーブ球は落下点が読み辛いだけでなく、通常のサーブとは比べ物にならない『落下速度』が追加されているので対応するのが極めて困難なのだが、其処は箒が天性の勘の鋭さでボールの落下地点に滑り込んでレシーブしてサービスエースは防いだ――のだが、レシーブ球はアーチを描いて夏月陣営に飛んで行き――


「ダイレクトォォォォォッォ!!」


其れを夏月がバックからダイレクトスパイクをブチかまして秋五陣内に突き刺してデュースを制したのだった――夏月のスパイクを受けた床は少しばかり焦げ付いていたのだが、その程度であるのならば然程問題はないだろう。
夏月が本気のフルパワーでスパイクしていたら体育館の床はぶち抜かれていたのだから。


「僕が言うのもおかしいかも知れないけど、本当に人間なのか君は?」

「徹底的に自分を鍛えて鍛えて鍛え抜くと此れ位の事は出来るようになるって言うサンプル……まぁ、その過程で何度か奇麗なお花畑で知らないお爺ちゃんとお話しする事になりますが……」

「うん、取り敢えず一般人には無理だよね。」


夏月もまた『織斑計画』によって誕生した存在なのだが、秋五はその事は知らないので『本当に人間なのか?』と感じても致し方ないだろう――とは言え他のクラスメイト達は特別突っ込んでは来なかったので、『一夜君のぶっ飛び具合は一組の常識だよね♪』と言う感じになっている可能性は否定出来ないのかもしれない。と言うかそうなっているのだろう。まぁ、平和である事に間違いはなさそうだ。








――――――








体育の後の四時間目の『数学』も恙無く終わって昼休みとなり、夏月組は屋上でランチタイムとなっていた。
本日のランチも夏月お手製の弁当であり、主食はおにぎり三種(高菜明太子、野沢菜ジャコ、葉唐辛子と昆布の佃煮)でおかずは『ハチミツだし巻き卵』、『洋風豚の角煮』、『コールスローサラダ』、『四川風キンピラゴボウ』と言ったモノだった。
そして其処には秋五組も参加していた――マドカの真実を知る為に此処に来ていたのだ。
因みに秋五組のランチは箒と、箒から料理を教えて貰っているセシリアが一緒に作った弁当であり、主食は此方もおにぎり三種(ツナマヨネーズ、カレーミンチ、スモークサーモン)、おかずに『オムレツ風卵焼き』、『チーズ入りミニハンバーグ』、『ズッキーニのサラダ』と言ったラインナップだった。


「此処に来たって事は、真実を知る覚悟が出来たって事で良いか秋五?」

「あぁ、その通りだ……君が知っている事を全て僕に教えて欲しい。」

「了解だ。
 織斑計画の事は調べただろうから其れの詳細は省くが、コイツもまた織斑計画によって誕生した存在だ――但し、お前や織斑一夏みたいに『量産型』としてではなく、『唯一の成功例のバックアップ』としてな。」

「其れってつまり織斑千冬のバックアップと言う事だよね?
 データのバックアップではなく生身の人間をバックアップとして作るって言う事は……若しかして彼女は、織斑千冬に何かあった時の為のスペア、或いはドナーとして生み出されたって言うのか!?」

「察しが良いじゃないか秋五、流石は天才と言われただけの事はある。
 そして私が姉と言うのはだな、お前と一夏は私よりも後に誕生しているのだ――だが、お前達は『成長促進機』の中で六歳位まで身体を成長させてから外に出されてな、肉体的には十六歳で六年分の記憶も後付けで存在しているのだが、稼働時間で言えば十年であり、稼働時間が十三年の私の方が姉と言う事になる訳だ。」

「え~と、つまり僕と一夏は六歳までは精神と時の部屋状態だったって事?六年分の成長を数日位で行ったって事か……ますます業が深いね織斑計画と言うのは。
 ん?だけど如何して君は計画が凍結された際に僕達と一緒に『織斑家』の一員にならなかったんだ?」

「私は織斑千冬のバックアップであった事で記憶操作が出来なかったらしくてな……織斑千冬の記憶操作に苦労していた連中は『もう一度同じ事を行うのは面倒だ』と思ったらしく、私をスタンガンで気絶させて適当な場所に放置したのだからな。
 まぁ、そうして捨てられたところをスコールに拾われて今に至る訳だが。」


そうしてマドカに関しての真実を話すと、秋五と秋五の嫁ズは大層驚いていたが、其れ以上に気になったのが『マドカが千冬のバックアップであった事で記憶操作が出来なかった』と言う点だ。
逆に言えば其れは千冬もまた記憶操作が出来なかったと言う事になるのだから。


「千冬さんが記憶操作を出来なかったのならば織斑計画を行っていた連中は一体如何したと言うのだ?
 秋五と一夏の記憶を操作しても、千冬さんの記憶を操作出来なかったら意味はないだろう?……まさかとは思うが、マッタク別の人格を人工的に作り出して其れで蓋をしたとか言う訳じゃないだろうな?」

「箒、ファイナルアンサー?」

「え~と、ファイナルアンサー。」

「…………正解。」

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」


千冬の記憶操作に関しては、箒が見事なまでの勘の良さを発揮して正解を導き出していた。
束が理論で正解を導き出すのであれば、箒は直感で正解を選んでしまうと言う束とは異なる『天才』であるのかもしれない――『究極の理論と究極の直感は同じ答えを導き出す』と言われているが、束と箒は正にそうであるのだろう。理論の天才と天才的直観の姉妹とは、なんとも凄過ぎるのだが。


「箒が言ったように、織斑千冬は記憶操作が出来なかった事で、より強烈な人格で本来の人格に蓋をする事になったんだ――でもって、織斑計画をやってた連中は、とにかく本来の織斑千冬の人格に蓋をする事だけを考えて、倫理観とかを無視した兎に角強烈な人格を作り出して蓋をする事になった訳なんだが、話は其処で終わりじゃない。
 白騎士事件の際に、あろう事か白騎士のコア人格が織斑千冬の身体を乗っ取ろうとして彼女の身体に入り込み、蓋をされていた本来の織斑千冬の人格を白騎士のコアに送り込んだんだ。」

「な、なんだって!?」


更に追撃として夏月が『本来の織斑千冬の人格がどうなった』のかを伝えると、またしても秋五組は全員が驚き、ラウラに至ってはネットで見る『バカの人』の顔になっていたのだった。
此れだけでも十分に驚くべき事なのだが、夏月は『本来の織斑千冬の人格がどうなったのか』を説明する為に、羅雪のコア人格を半実体化させて秋五達に見せていた――羅雪は、白いレディーススーツを身に纏ってヘルメットタイプの仮面を被った『プロスペラ』の姿で現れて、『初めまして、羅雪のコア人格です。』とボケをかましてくれたのだが。

まさかのボケだったが、仮面を外した羅雪のコア人格は織斑千冬と瓜二つの容姿であり、羅雪から事の顛末を聞いた秋五達は又しても驚かされる事になった。特に秋五は、本当の姉がISのコア人格になっていると言う事実に心底驚き戦慄している様だった。


「貴女が本当の織斑千冬で僕の本当の姉さんなのか?……でも、だったらどうして姉さんは夏月の機体のコアに居るんだ?僕の機体じゃなくて……」

『其れはだな……夏月も私にとっては弟だからだ。
 束から織斑計画の事は聞いているだろうが、織斑計画の『イリーガル』についても聞いているだろう?其の『イリーガル』こそが夏月なのだ――初期能力は低く、しかし経験を積む事で劇的に成長する大器晩成型の夏月は、『生物兵器』としては失敗作としてマドカと同様に捨てられたのだが、其処をスコールに拾われた末に更識家に其の身を寄せる事になったのだ。』


「って、君も織斑計画で誕生した存在だったの夏月!?」

「実はそうでしたってな。
 どう言う訳か俺はお前達と同じ遺伝子から作り出されたにもかかわらず、目の色が金色になっちまった挙句にまさかの大器晩成型になっちまった訳なんだけどよ。因みに、俺の方がお前や一夏より先に誕生したらしいぜ。」


其れだけでは終わらず、羅雪は夏月の正体も虚実を織り交ぜた上で暴露して、夏月も其れを肯定していた――夏月=一夏である事は明かさないが、夏月もまた『織斑計画』によって誕生した存在であると言う事は伝えておいても問題はないと判断したからこそだが。


「僕が人工的に作られた存在だったって言う事だけでも驚きなんだけど、君もまた同じ存在だったとは驚かされたよ夏月……だったら君の事は『兄さん』と呼んだ方が良いかな?」

「いや、其れは今まで通りで良いぜ秋五。
 同い年の野郎に『兄』と呼ばれるのは違和感があるし、下手したら『漫画研究会』の腐女子共に要らないネタ提供する事になるかもだからな……冬コミで俺とお前のBL同人誌が販売されるとか冗談じゃないからよ。」

「其れは、僕としても冗談じゃないかな。」


だが、驚きの連続だったとは言え秋五組は全員がマドカの真実と千冬の真実と夏月の真実(若干改変)を受け入れていた――確かに驚くべき事であったのだが、だからと言って夏月が夏月である事に変わりはなく、羅雪に関しても『そう言うモノだ』と思ってしまえばそれまでであり、恐れるモノではなかったと言うのが大きいだろう。
箒達は羅雪が本当の織斑千冬である事を知って、秋五の婚約者となっている事を改めて伝えて挨拶して、羅雪も『秋五の事を宜しく頼む』と言って箒達の事を秋五の婚約者として認めていたのだった。


そんな感じで昼休みを過ごした五時間目は二組との合同授業の『IS実技』だ。
一組には夏月と秋五の婚約者である専用機持ちが多数存在しており、二組にも夏月の婚約者で専用機持ちである鈴と乱が居る事で、此の合同授業は生徒のレベルアップの幅が大きくなっていた――特に新たに夏月の婚約者となった静寐、神楽、ナギと秋五の婚約者となった清香、癒子、さやかは専用機持ちとなって日は浅いモノの其の実力は可成り高く、一般生徒の指導役としても申し分ないモノがあるのだ。

其の合同授業は、先ずは『夏月&静寐&神楽』vs『秋五&箒&セシリア』のチーム模擬戦が『お手本』として行われる事になった。
そして此の模擬戦は、夏月チームは静寐と神楽の『鎧空竜』が此れまでの戦闘経験を『IS自己進化プログラム』が学習して『近接型のオールラウンダー』として機体が自己進化しているので『近接戦闘がメインだがどの距離でも戦う事が出来る』チーム構成となったのに対して、秋五チームは『近接型の秋五と箒、後方支援のセシリア』と言う役割分担が明確になっているチーム構成の戦いとなった。
夏月チームにロランや鈴が居ないのは、夏月が戦力バランスを考えてチーム構成をしたからだ――秋五はこの間の戦いで機体が二次移行&騎龍化しているので夏月の羅雪と機体の性能差はほぼ無くなっているが、秋五組の他のメンバーの機体は騎龍化していない為、ロランや鈴をチームに加えると性能差があまりにも大きくなってしまうと考えて静寐と神楽を選んだのである。
試合のルールは通常のISバトルのルールに加え、決着の条件に『相手チームを全滅させるか、相手チームのリーダーを戦闘不能にする』が加えられた。
相手チームを全滅させるか、其れともリーダーのみを狙うのか、其れによって戦い方が変わってくると同時に瞬間的な判断力が必要になってくるのは間違いないだろう。
例えば相手チームに超絶強力な広範囲攻撃が出来る機体があった場合開始直後に全滅を狙ってくる可能性があるので真っ先に其れを潰す必要があるだろうが、逆にステータスを近接戦闘のタイマンに全振りした機体があった場合はリーダーを狙われる危険性があるので其れへの対処が必要になってくるのである。


「それでは、試合開始!」


真耶の号令で始まったチーム戦は、先ずは秋五組のセシリアがBT兵装を射出して『十字砲』の陣形を作り出して夏月組の動きを制限した上で、更に空間制圧を行おうとする。
夏月チームは『近接戦闘メインのオールラウンダー』であるため、高威力、長射程の遠距離武器が機体には搭載されていないので、空間制圧を完了すれば圧倒的なアドバンテージを得る事が出来るのだ。
無論夏月組も其れは解っているのでセシリアの十字砲の布陣を潰しに掛かるのだが、夏月には秋五が、神楽には箒が対応して十字砲の布陣を崩させないようにする――静寐がフリーになるとも思えるだろうが、その静寐にはセシリアが十字砲布陣のBT兵装から絶えずレーザーを放ち、更にライフルで攻撃する事で動きを封じていた。


「見事な薙刀捌きだが、その動きは素人ではないな?薙刀の経験者なのか四十院は?」

「実戦的な薙刀は未経験ですが、私は幼少の頃より白拍子を学んでいましてその中で……白拍子は男装して舞う事もあり、其の舞には薙刀を使うモノもありましたので――源義経の妾として知られている静御前も白拍子であり、実は薙刀の名手であったと言われていますので。」

「槍に刀で挑むには三倍の力量が必要と言われているが、槍の『斬る』、『突く』、『打つ』に加えて防御の『受け流し』がある薙刀には三倍以上の力量が必要となるか……私も二刀流には自信があるのだがな!」


「僕の機体も騎龍化したのに……マッタクもって差が縮んだ気がしない……!」

「機体が進化した程度で俺とお前の差がそう簡単に埋まる筈がねぇだろ?俺とお前じゃ潜ってきた修羅場の数がダンチだからな……俺との差を埋めたいならウージー持った悪党一ダース相手に刀一本で切り抜けるって事を最低五回はやらないと無理ってモンだぜ!
 それと、此の作戦はお前が考えたモノだろうが、良く出来てるが少しばかり静寐の事を甘く見たな?確かにフリーになる静寐をセシリアに任せるってのは悪くないが、其れで静寐をジリ貧に出来ると思ったら大間違いだぜ。」

「え?」


神楽は箒と、夏月は秋五と正に『火花を散らす近接戦闘』を行っており、此のままの状況が続けば静寐をセシリアが戦闘不能にして其のまま秋五組の支援に入ると言う流れになっていたのだが、夏月が秋五に端的に『静寐を甘く見るなよ?』と言った次の瞬間、十字砲布陣を完成していたBT兵装の一機が破壊された――静寐がビームダガーを投擲して破壊したのだ。
此れによりBT兵装による十字砲は弱体化したのだが、其れだけでなく静寐はセシリアからの狙撃と残ったBT兵装からの攻撃を躱しながらビームダガーを投擲、或いはビームハンドガンで攻撃して次々と破壊して行き、遂にはBT兵装を全て破壊するに至ったのだ。
静寐は夏月組では特に突き抜けた能力はなく、IS操縦者としては『凡百な近接型オールラウンダー』と言った感じなのだが、静寐の真骨頂は其の観察眼にある――相手の一挙一動を見逃す事なくつぶさに観察して攻防のクセ、其れによって生じる隙を見出す能力が超人的に秀でているのである。
其の能力によってセシリアの十字砲撃のクセと弱点を見極めた静寐は、攻撃を完璧に回避してBT兵装を全て破壊し、そして今度は自分の領域である『近接戦闘』に強引に持ち込んだのだった。


「なんと言う観察眼……でもこれも夏月がいなかったら埋もれていた才能……その稀有な才能の持ち主とこうして戦えると言うのはこの上ない幸運ね!」

「亡国機業でも可成り鍛えられたからね……勝たせて貰うよセシリア!」


セシリアも銃剣術で近接戦闘に対応するが、静寐は学園祭で夏月と共に亡国機業の一員となった後、オータムやマドカ、ナツキに何度も地獄を見せられたので代表候補生としては新米であっても国家代表クラスの実力を獲得していた――其れは神楽とナギにも言える事なのだが。
其の経験で近接戦闘の力を高めた静寐と銃剣術も出来る狙撃型のセシリアでは其の差は歴然であり、静寐の小太刀二刀流がセシリアの『銃剣術に対応した新装備』である『スターライトMk.Ⅴ』のブレードと銃身を斬り落とし、トドメは目にも留まらぬ逆手二刀流の連撃でブルー・ティアーズのシールドエネルギーをゼロにした。

そしてこれにより夏月組は数の上で有利となり、夏月は静寐とスイッチしてフリーとなると、ビームダガーを可能な限り大量に投擲し、其れを空中でホバリングさせて固定する。
その狙いは言わずもがな秋五と箒だ。


「見えている事が逆に恐怖だろう?お前達は将棋やチェスで言うところの『詰み』にはまったのだ……逃げ場はないぞ!」


此処でビームダガーが一斉に発射され、其れと同時に静寐と神楽は夫々戦闘空間から離脱し、秋五と箒に無数のビームダガーが向かう――秋五と箒は其れを何とか全て叩き落そうとするモノの、あまりの数の多さに全てを落とす事は出来ずに何本かは喰らってしまう結果に。


「終わりだ……」


更に其処にダメ押しとばかりに夏月が羅雪のワン・オフ・アビリティの『空烈斬』を発動して、秋五と箒の周囲に『空間斬撃』を無数に発生させ、其れを喰らった秋五と箒は機体のシールドエネルギーを大きく減らす事になった。
其れでも箒の『紅椿』のワン・オフ・アビリティの『絢爛武闘』を使えばシールドエネルギーを回復出来たのだが、そうはさせまいと夏月と静寐と神楽は秋五に近付き、夏月は逆袈裟二連斬、静寐は小太刀二刀流六連斬、神楽は薙刀円舞斬を叩き込んで雪桜のシールドエネルギーをゼロにする――秋五チームのリーダーは秋五なので、秋五が戦闘不能になった事でこの試合は夏月チームに軍配が上がったと同時に、チーム戦での戦い方の難しさを他の生徒に伝えるには充分なモノとなっていた。

チーム戦後は専用機持ちごとにチームが分けられて本日の課題を熟す事になった――本日の課題は『空中での姿勢の安定』だったのだが、夏月達の指導の良さと真耶のサポートもあって、この授業でほぼ全ての生徒が空中での姿勢制御を身に付けたのであった。








――――――








その日の放課後、放課後の訓練を終えた夏月達は『e-スポーツ部』の活動に勤しんでいた。
ロランと簪は『未改造のストラクチャーデッキでのデュエル』を行い、ロランは『精霊術の使い手』を使い、簪は『王者の鼓動』を使っていたのだが、フィールドに各属性の『憑依装着』、魔法罠ゾーンにペンデュラムの『ダーク・ドリアード』、永続魔法の『憑依覚醒』を揃えた事で各憑依装着は夫々攻撃力が二千ポイントアップして攻撃力三千八百五十となってレモン軍団を圧倒していた……コンボによってはレベル四のモンスターでもレベル八のモンスターを圧倒する事が出来るのである。


「これだけでも凄いのに、魔法族の里で魔法カードの発動を封じられたらもうどうしようもない……回った時の霊使いデッキは恐るべしだね。」

「逆に言えば、回らなかったらどうしようもないのだけどね。」


此のデュエルはロランに軍配があった。
そして同じ頃夏月はオンラインマッチで『KOFⅩⅢ』対戦を行っており、『ネスツスタイル京』、『大門』、『クラーク』のチームで連勝を重ね、『格闘ゲームでの対戦動画』をアップしているユーチューバーとも戦い、大門での三タテ、クラークでの三タテ、ネスツスタイル京での三タテを決めて絶対的勝利を収めたのだが、後日此の対戦動画が公開された事で、対戦相手が誰なのかを特定する動きがあったのだが、其れは楯無が更識の力と束の力を使って全力で妨害したのでこの試合の対戦相手が誰であったのかと言うのはIS学園の『e-スポーツ部』の部員以外には知る者は居なかったのだった――居なかったのだった。大事な事なので二回言いました。
そして同時に、現在のIS学園は平穏無事其の物なのであった――








 To Be Continued