夏月の嫁ズと秋五の嫁ズは二度目となる真っ向からの勝負となっていたのだが、其れは最早勝負になっていなかった――夏月の嫁ズの機体はほぼ無傷であったのに対して秋五の嫁ズは箒の紅椿の単一仕様である『絢爛武闘』でシールドエネルギーこそ回復出来ていたのだが、機体の装甲は半壊状態となっていたのだった。


「く……私達とお前達では此処までの差があると言うのか……」

「ふむ……此の状況ではそう思ってしまうのも致し方ないが、私と君達ではIS操縦者としての差はそこまでないよ箒――だが、操縦者としての差は大きくないとしても機体の性能差と覚悟には大きな差がある。
 其の差がこの結果と言うところだね。」

「機体の性能差と覚悟の差、だと?」


IS操縦者としてのレベルは夏月組も秋五組も其処まで大きな差はないが、機体の性能差と覚悟の差となると話は別だ。
秋五の嫁ズも秋五の為に戦う覚悟は決めているが、『秋五の為に人を殺す事が出来るか?』と問われると、其れは否だ……秋五の嫁ズの中で、『実戦剣術を学んでいる身』である箒と、現役軍人であるラウラは『命の重さ』を理解してはいたが、『殺す覚悟』は実戦経験が皆無なので矢張り決めているとは言えない状況だった。


「私達は全員が夏月の為ならば此の手を血で染め上げる事は厭わない……寧ろ夏月ならばそんな私達でも愛してくれるだろうからね。
 だが君達は如何だ?織斑君の為に其の手を血に染める覚悟が出来ているのか?……いいや、出来てはいない――其れだけでも大きな差なのだが其処に絶対的な機体の性能差が加われば君達が私達に勝つ事が出来ないのは分かるだろう?
 私達の機体……特に『騎龍シリーズ』は、束博士が最初から『兵器』として開発したモノなのだから。
 宇宙用のパワードスーツとして誕生したISが『現行兵器を凌駕する兵器となった』のならば、束博士が最初から『兵器』として生み出した『騎龍』の性能がどんなモノであるのか、君には分かるだろう箒?」

「姉さんが最初から兵器として作った機体……其れは最早『ISをも超えるIS』と言う事か……!!」


加えて其処に『圧倒的な機体の性能差』まであっては秋五の嫁ズでは夏月の嫁ズに勝つ事は不可能と言えるだろう。
秋五の嫁ズの機体にも『騎龍化の因子』が組み込まれているとは言え、其の因子が覚醒して騎龍化しなければ通常のISと同じであり、『兵器』として開発された騎龍シリーズとは世代差も大きい――箒の専用機である『紅椿』が現行のISで最高である第四世代なのだが、騎龍シリーズは現行ISの世代で言えば第八~九世代となり、二次移行した夏月の羅雪に至っては第十四世代と言うぶっ飛んだモノなのである。
更にロラン達は学園に居た頃には機体に掛けていた『競技用リミッター』を解除した状態になっており、其の攻撃は全てが絶対防御が発動するレベルのモノなのだ……グリフィンとファニール、ダリル、静寐、神楽、ナギの機体は騎龍化していないが、其れでも夫々が自身の相手を圧倒しているのは実戦経験の差なのだろうが。


「……少し会わない間に随分と差が開いたわねオニール?
 このまま戦ってもアタシ達が負ける事はないけど、其れでもまだやる?これ以上やるって言うならそれこそ一切の手加減は出来なくなるんだけど……出来ればこれ以上アタシはアンタを傷付けたくないのよね。」

「ファニール……でも、其れでも学園を守るためには戦わないと……!」

「あ~~……成程ね。
 なら徹底的に叩き潰してやるわ……って言えばとっても悪役らしいんでしょうけど、此の展開は夏月の予想通りだから、そろそろアタシ達が戦う理由は無くなるんじゃないかしら?」

「え?」


此のまま戦っても秋五の嫁ズ――引いてはIS学園側が不利になるのは目に見えている。
戦力は亡国機業側の方が圧倒的に上であり、如何に真耶が優秀なIS操縦者であり現役の国家代表とも量産機で互角以上に戦える実力者とは言え多勢に無勢では勝つのは難しいだろう。
だが、そんな中でファニールがオニールに対して意味深な事を言った次の瞬間だった。


『皆、聞こえる?』

「「「「「「「「秋五!」」」」」」」」

『戦いは此処で終わりだ。
 学園が攻撃されているのは姉さんが……織斑千冬が亡国機業に引き渡されるのを拒否して学園の地下に封印されてた暮桜を引っ張り出して亡国機業を攻撃した事が原因だ……だから、僕は此れから夏月と共に織斑千冬を討つ!
 皆も力を貸してくれ!』


「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」


秋五から通信が入り、学園が攻撃されている理由が伝えられ、更に『その元凶である千冬を討つから力を貸して欲しい』と言われ、同時にファニールがオニールに言った事の意味を秋五の嫁ズは知るに至った。
秋五が千冬(偽)を討つと言うのであれば其れは亡国機業の目的とも合致するので、そうなれば亡国機業とIS学園が戦う理由も無くなるのだ。
なので、夏月の嫁ズも秋五の嫁ズも此処からは千冬(偽)を討つ為に共闘する事になるのだが――


「……やれやれ、無粋な乱入者と言うモノは実に美しくない、そうは思わないかい箒?
 アドリブが劇を面白くする事は少ないくないのだけれど、アドリブはやり過ぎるとシラケるモノだよ……まして、誰も望んでいないアドリブは余計なモノでしかない――ともすれば不愉快極まりないね。」

「ならば、その要らんアドリブは力技で叩き潰して本筋に戻せば良いだけの事……寧ろ嘗ての世界最強に挑む前の準備運動としては丁度良いだろうさ。」


其処に束から情報提供と機体(一度きりの使い捨てで機体エネルギーは搭乗者の生命力)提供を受けた『女性権利団体』の残党が現れ、夏月の嫁ズと秋五の嫁ズは先ずは其方に対処する事になった。
箒は紅椿のワン・オフ・アビリティーである『絢爛武闘』で味方のシールドエネルギーを全回復させる秋五の嫁ズと共に女性権利団体の残党に向かって行ったのだった。










夏の月が進む世界  Episode66
『血塗られたブリュンヒルデをDQNヒルデを討て!』










スコール&オータムvs千冬(偽)の戦いは、スコールとオータムのコンビが千冬(偽)を圧倒するかと思いきや、意外にも拮抗していた。
二人を相手にしているので千冬(偽)が攻撃する機会は中々無く、一撃必殺の零落白夜もシールドエネルギーを消費するので使えないが、其れでもスコールとオータムの猛攻を的確に防いで受けるダメージは最小限にしていたのだ。


「現役を引退して鈍っているかと思ったけれど、思ったよりもやるわね?
 楯無に舐めプされて引き分けになって、夏月には双方機体がオーバーヒートした末に負けたと聞いていたけれど、若しかして其の戦いでは手加減をしていたのかしら?」

「いや、量産機の打鉄ではアレが限界だった。
 だが私の専用機である暮桜を使う事が出来るであれば話は別だ……暮桜こそ私が全力を出し切る事が出来る機体であると同時に、戦闘中でも相手のデータを集積して其れを即座に反映し、更にそのデータを私自身にインストールして私を強化する機能が備わっている。
 故に、引退した身であっても暮桜を纏って戦えば私はあっと言う間に現役時代の、或いは其れ以上の力を手にする事が出来るのだ!」

「んだ其のクソチート機能は!?
 血反吐を吐くほどのハードトレーニングを熟した末に今の力を手にした夏月に土下座して謝りやがれ此のクソッタレが!」


其れは千冬(偽)の力ではなく暮桜の力が大きかった。
千冬(偽)の人格には白騎士のコア人格が融合しているので、ISのコアにアクセスする事も容易であり、束から手切れ金として渡された暮桜の性能を一部書き換えて自分に都合の良い機能を追加していたのだ。


「力こそが全て……力がなければ何も成す事は出来ないが、力さえあれば何でも出来る!」


激化する戦闘の中で、千冬(偽)はスコールにカウンターの居合を決めて右腕を斬り飛ばす。
利き腕である右腕を斬り落とされたとなったら普通は其処で戦闘不能になるところだが、スコールは白騎士事件の際に右腕と左足を失って、失った右腕と左足を機械義肢にしていたので斬り落とされても問題はなかった。
それどころか――


「腕を斬り落とされたくらいでは私は止まらないわ!」


ゴールデンドーンの背部に搭載されてるパーツをパージすると其れを斬り落とされた右腕に接続して先端からビームサーベルを展開する――束によって魔改造されたゴールデンドーンには背部に新たに二機のBT兵装が追加されていたのだが、其れは只のBT兵装ではなく、スコールの機械義肢のスペアであると同時にマニュピレーター未搭載の状態であれば腕と一体化したビームサーベルとして機能するモノであり、ビームサーベルだけでなくビームライフルとしての運用も出来るモノだった。

とは言え、ビームサーベルもビームライフルもエネルギー系の攻撃なので零落白夜がある暮桜に対しては決定打になりえないのだが――


「年貢の納め時だぜDQNヒルデーーーー!!」

「僕の大切なモノを守るため、僕は此処で貴女と戦う事にした!」


此処で夏月と秋五が戦線に加わり、千冬(偽)に強烈な飛び蹴りをブチかまして吹っ飛ばす――夏月が飛び膝蹴りだったのは『帝王』直伝のカイザーニークラッシュを叩き込んだからだろう。
マッタクもって予想していなかった攻撃だけに、千冬(偽)も避けられずに真面に喰らってしまった訳だが、千冬(偽)は攻撃された事以上に、其の攻撃に秋五が加わっていた事に驚いていた。


「秋五……何故お前が……!如何してお前が私を攻撃する!?お前は私の弟だろう!!」

「弟だからだよ……姉さん、否、織斑千冬……貴女が大人しく亡国機業に身柄を渡していたら此の戦闘は起きなかったし、学園の生徒達が危険に晒される事もなかった。
 学園の生徒の事を第一に考えるのなら、貴女は大人しく亡国機業に其の身を委ねるべきだった……其れなのに、貴女が無駄な抵抗をした事で不必要な戦闘が起き、その末に僕の婚約者達は不必要な戦いを行う事になって無用なダメージを負う事になった……僕は僕の大切な人達が傷付く原因となった貴女の事を許す事は出来ない!!まして、白騎士事件の罪を償う事もしないでのうのうと生きている貴女の事が許せない!!」


千冬(偽)にとって、秋五は自分の言う事を何でも聞く優秀な人物であったのだが、一夏の葬儀後に秋五は千冬(偽)の言う事を問答無用に聞くだけではなくなり、自分で考えて行動するようになり、『織斑秋五』と言う一人の人間としての自分を確立するに至ったので、だからこそ今回の千冬(偽)の行いを許す事は出来なかったのだ。


「だから、僕は此処で貴女を討つ!」


肚を決めた秋五は『一撃必殺』の『零落白夜』を発動すると、イグニッションブーストで千冬(偽)に接近し、頭上からの唐竹割りを繰り出す――其の攻撃のタイミングは完璧であり、防御も回避も不可能で、千冬(偽)は零落白夜を真面に喰らってしまったのだが……


「……何で、如何してシールドエネルギーがゼロにならないんだ!?」

「零落白夜は此の暮椿のワン・オフ・アビリティであり、お前の白式の零落白夜は所詮は模倣品に過ぎないと言う事だ……オリジナルならば模倣品を防ぐ事は造作もないのでな。」


暮桜のシールドエネルギーはゼロにはならず逆に白式に反撃して来たのだった。
千冬(偽)が言うように、零落白夜は本来暮桜のワン・オフ・アビリティだったので、オリジナルではない白式の零落白夜をレジストする機能くらいは搭載されているのだろう。
だが其れは秋五にとっては有り難くない事この上ないモノだった――ISでの戦闘に於いては間違いなく最強、ともすればチートレベルの零落白夜が通じないとなると秋五は雪片・弐型を使っての剣術のみで戦うしかなくなる上に、白式は『近接戦闘に於ける戦闘能力は非常に高いが、其れを帳消しにするレベルで燃費が悪い機体』であり、臨海学校と夏休みに束によって其れは大幅に改善されていたのだが、其れでも『並のISと比べると燃費は良くない機体』であるので短期決戦が出来ないと言うのは可成りのデメリットだ。
『クラス代表決定戦』前に幾度となく楯無によって地獄を見せられて鍛えられた防御と回避の技術があれば千冬(偽)の攻撃が直撃する事はないが、其れでも攻め手に欠けるのは痛いだろう。
更に千冬(偽)は暮桜の機能で戦いの中でドンドン強くなって行くと言うのだから更に性質が悪い――此のまま戦えば秋五はジリ貧になってしまうだろう。


「其の回避と防御は見事だが其れも大分見切れるようになって来た……お前が私に反抗するとは残念だよ秋五。お前ならば私の後継者として申し分ないと思っていたのだがな。
 だが、私に反抗するのであれば致し方あるまい……真の零落白夜によって沈め。」

「!!」


此処で千冬(偽)は零落白夜を発動して秋五に斬りかかる。
至近距離での斬り上げを回避した秋五は、至近距離からの攻撃を受けた事で攻撃を回避はしたが一瞬動きが止まってしまい、其の一瞬が実戦では命取りになってしまうのだ。


「ところがギッチョン、そうは行かねぇんだよな此れが!」

「彼の覚悟がどれほどかを見極めるために此処までは静観していたけれど、彼の覚悟は本物だと分かったから、此処からは改めて参戦させて貰うわ。」

「やるじゃねぇか天才優男……テメェが男じゃなかったらオレはガチで惚れてたかもな!」


だが此処で此れまで秋五と千冬(偽)の戦いを静観していた夏月とスコールとオータムが参戦して来た。
千冬(偽)の攻撃を夏月が受け、其処にスコールとオータムが斬りかかって暮桜のシールドエネルギーを此の戦闘が始まって初めて大きく減らす事に成功していた。


「一夜……貴様、何故零落白夜を受けて平然としていられる?此れを喰らったら即戦闘不能の筈なのだがな?」

「さっきアンタが秋五に言ったセリフを返すぜDQNヒルデ。
 俺の機体は束さんのお手製だ。束さんお手製の機体なら、同じく束さんが作った零落白夜を無効に出来るってモンだぜ……特に俺の羅雪は、お前が白騎士事件の際に強制的に其の身体から追い出した奴がコア人格になってるんだからな!」


其れだけならば未だしも、零落白夜を受けた夏月の羅雪は戦闘不能になっていなかったのだが、其れは騎龍シリーズが束が開発した機体である事と、羅雪は二次移行した際に『ISコアのコア人格』となった『本物の織斑千冬』が完全覚醒状態なっていた事が大きかった。
騎龍シリーズには元々『零落白夜』をある程度レジストする機能が備わっており、零落白夜を喰らってもシールドエネルギーはゼロにはならず、『現在のシールドエネルギー50%を消費する』仕様になっており、最終的には『シールドエネルギー1で踏みとどまる』仕様になっていたのだが、騎龍・羅雪はコア人格である羅雪(千冬)が夏月と意思疎通が出来るようになった事で其の力を最大限に発揮出来るようになり、零落白夜を完全にレジストする『無上極夜』を備えるに至っていたので、零落白夜は『威力がデカいだけの斬撃』でしかなくなっていたのだった。


「羅雪、此処で秋五の機体が進化するってのは激熱展開だと思うんだけど如何よ?
 『堕ちたブリュンヒルデを進化した弟が討つ』って言う展開は、瞬間最大視聴率も狙えるんじゃないかって思うのよ俺は……此の激熱展開は、瞬間最大視聴率60%は堅いんじゃね?」

『うぅむ……其れは否定するのが難しいが、確かに此の局面に於いて秋五の白式が進化するのは最高にして最大の一手になるのは間違いないか……少しばかり強引だが、白式のコア人格と秋五をコア人格の世界で引き合わせるか。』

「因みにそれ如何やんの?」

『白式のISコアにアクセスしてコア人格をISの表層意識まで強制的に引っ張り出して、コア人格に秋五の意識をコア人格の世界に連れて来させる。尤も、白式のコア人格を引っ張り出した時点で、コア人格が無意識に秋五の意識を連れて行ってしまうだろうがな。』

「うわ~お、思った以上に力技だった!」


そして此処で羅雪のコア人格が白式のコア人格にアクセスして強制的にISの表層意識まで引っ張り出した上で秋五の意識をISのコア人格の世界に連れて来させると言うトンデモナイ力技を使って秋五の意識をコア人格の世界に送り、そして其れによって動きを止めてしまった秋五をカバーする為に夏月とスコールとオータムは千冬(偽)を攻め立てて、千冬(偽)が動きを止めた秋五を攻撃出来ないようにしていた。


「背部装備が腕になるって……ダリルバルデかよ義母さん?」

「言われてみれば此れは確かにダリルバルデね……束博士、『水星の魔女』に大ハマりしてたから少なからず影響を受けているのかもしれないわね。」


夏月とスコールとオータムが其の気になれば千冬(偽)を倒すのはいとも容易い事だったかもしれないが、其れをしなかったのは『千冬(偽)の撃破は秋五が覚醒している時に行うべき』だと考えたからだろう。


「秋五が戻ってくるまで、少し遊んでやるよDQNヒルデ。シールドエネルギーの貯蔵は充分か?」

「一夜、私を相手に『遊んでやる』と言うとは中々に良い度胸だと褒めてやるが……暮桜を、私を倒せる奴はいないと言う事を其の身、其の命をもってして知るが良い――喜べ一夜、貴様の墓石には私が貴様の名を刻んでやる!」

「ジョーダン。アンタに殺されたんじゃ死んでも死にきれないぜ!」


夏月が居合で斬り込めば、千冬(偽)はギリギリではあるが其れをガードして斬り返すと、其のカウンターを夏月はダッキングで躱してカウンターのカウンターとなる斬り下ろしをかましたが、千冬(偽)は其れをガードする――と同時にスコールが斬りかかり、オータムが六刀流で攻めて来たので、千冬(偽)は一旦其の場から距離を取る事を余儀なくされていたのだった。








――――――








同じ頃、羅雪によって強制的に『白式のコア人格が表層意識に引っ張り出された事』で、白式のコア人格が無意識にコア人格の世界に連れて来た秋五の意識は常夏のビーチにあった――其れだけだったなら秋五もそれほど困惑する事は無かったのだが……


「常夏のビーチ……の海の家で全裸でポテチつまみながらレトロゲームを満喫してる君は誰?」

「うわおおぉっぉ!?」


其の常夏のビーチの海の家では、全裸でポテトチップスをつまみながらレトロゲームに勤しむ金髪ロングの美幼女の姿があった。
此の美幼女こそが白式のコア人格であり、羅雪によって強制的に表層意識に引っ張り出されたのだが、強制的に引っ張り出された事で逆にコア人格の世界を満喫してるようだった。


「君は、若しかして白式?」

「あぁ、その通りだ秋五……私は白式のコア人格だ。
 羅雪のコア人格に無理やり引っ張り出されたのだが、成程あいつは私とお前を此処で会わせる為にお前の意識を連れてきやすい表層意識まで引っ張って来たと言う事か。」


白式のコア人格は黒いイブニングドレスを構成して身に纏うと、改めて秋五に向き直る。
秋五としては千冬(偽)と戦っていたのに、イキナリ景色が変わった事に驚いてはいたが、目の前に居る美幼女が白式のコア人格である事を知ると、此処が『ISのコア人格の世界』であると理解していた。『天才』と称されているのは伊達ではなく、最小限の情報から正解を導く事は秋五が得意とするモノでもあったのだ。


「僕は、如何して此処に呼ばれたの?」

「簡単に言えば私が、白式が進化するために必要な事だったからだ。
 お前の此れまでの経験で私は二次移行する事は出来るのだが、母上が私に植え付けた『騎龍化の因子』を覚醒するには私とお前が邂逅して、私とお前がより強固な絆を紡ぐ必要があったのだよ。
 取り敢えず座れ。此処でどれだけの時間を過ごそうとも、外の世界では十秒ほどしか経過していないのでゆっくりして行け。と言うよりも相手になれ。一人プレイはつまらん。」


白式が二次移行する事は可能だが、その先の『騎龍化』を果たすには秋五と白式のコア人格がより強固な絆を紡ぐ必要があるとの事で、更に此処でどれだけの時間が経過しても外の世界では十秒ほどしか経過しないとの事なので、秋五は白式のコア人格に付き合って彼女がプレイしてたレトロゲーム『ストリートファイターⅡ´ターボ』で対戦する事になり、互いに最強と名高い『エドモンド本田』を使っての暑苦しい対戦が何度か展開されたほか、リュウとケンのライバル対決、ザンギエフとバイソンのプロレスvsボクシングの定番の異種格闘技対決などを行っていた。


「ぐおぉぉぉ、ダッストを吸い込むのかスクリューは!」

「これ位は驚く事じゃないよ……夏月なら、最弱と言われてた初代ストⅡのザンギエフで圧倒的不利が付くと言われてるダルシム相手にパーフェクト勝利しちゃうからね。」

「其れは本気で凄いな!?
 ……其れでだ秋五よ、お前は実の姉を討つ決意をしたみたいだが、こう言っては何だがアイツは最悪の場合は殺さねば止まらないだろう――お前は実の姉を殺す事が出来るのか?」


そんな中で白式のコア人格は秋五に『実の姉を殺す事が出来るか?』と聞いてきた。
千冬(偽)は確かに戦闘不能にした程度では止まらず、その命を奪わねば止める事は出来ないだろう――命を奪わずとも、脊髄神経を断裂して身体の自由が利かなくなるくらいの事はせねばならないだろう。


「殺す事が出来るかどうかは分からない、だけど必要なら僕は彼女に刃を向ける事に迷いはない。
 一夏が死んでからずっと考えていたんだ……一夏は本当は死なずに済んだんじゃないかって……彼女が決勝戦を棄権して一夏を助けに行ったら間に合ったんじゃないかって――でも、そうはならずに一夏は殺されてしまった。
 ある意味で一夏は実の姉であるあの人に殺されたとも言える……白騎士事件の際に多くの人を死なせ、或いはその人生を奪っただけではなく、実の弟まで殺したあの人を僕は絶対に許さない。
 だから、僕はあの人に断罪の刃を振り下ろさなければならないんだ。」

「ふ、少しばかり甘さはあるが答えとしては及第点と言ったところか……だが、此れならば私は騎龍化出来そうだ。
 では最後に私に名を付けてはくれまいか秋五よ?二次移行して、更に騎龍化したら私は白式ではなくなるのでな……新たな姿となる私に名を授けて欲しいのだ。」

「新たな名前……なら、雪桜って言うのは如何かな?雪のように白い肌と、桜色の瞳が印象的だからね。」

「雪桜か……うむ、気に入ったぞその名前♪」


秋五の答えは甘さが残るモノではあったが充分に及第点だったので白式のコア人格は此れならば騎龍化出来ると確信し、最後のトリガーとして秋五に新たな名を求め、秋五も其れに応えた事で白式の進化が始まり、雪桜と名付けられた美幼女が輝いたかと思った次の瞬間に、秋五の意識は急速に浮上して元の世界に戻って行ったのだった。








――――――








「オラオラオラ、如何したブリュンヒルデ?テメェなんざ足だけで十分だぜ。」

「貴様……舐めるな!」


秋五が白式のコア人格とコア人格の世界で邂逅していた頃、夏月は見事なまでに千冬(偽)を手玉に取っていた。
暮桜の機能で全盛期以上の力を身に付けるに至った千冬(偽)だが、其れは所詮『表面を上書きした』に過ぎないので、更識姉妹との訓練で数えるのも面倒になるレベルで『奇麗なお花畑で見知らぬお爺ちゃんと出会った』経験がある夏月には脅威となる相手ではなかったのだ。
其の結果として足だけで対処すると言うトンデモナイ事をやっているのだが、タイで本場のムエタイを学んだ夏月の足技は見事なモノとなっており、最強の合体戦士と名高いベジットもビックリレベルの足だけ対処をやって見せたのだ。
千冬(偽)の攻撃を悉く蹴りで潰しただけでなく、一瞬の隙を突いてカイザー・ニークラッシュを叩き込み、更に二連続の回しハイキックを側頭部に叩き込むと其処から飛び足刀蹴りを喰らわせて暮桜のシールドエネルギーを大きく減らす。


「でもって追撃のアシュラバスターだ!」


吹き飛ばされた千冬(偽)はオータムがサブアームを使った六本腕で拘束し、キン肉バスターの上位互換版であるアシュラバスターをブチかます……絶対防御が発動した事で戦闘不能は免れたが、暮桜のシールドエネルギーは此れで更に大きく減少した。


「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁ!!」

「秋五!」

「覚醒しやがったか……!」


更に此処で秋五が覚醒し、白式は二次移行すると同時に騎龍化して、『騎龍・雪桜』として生まれ変わった。
其の姿は他の騎龍シリーズに酷似しているが装甲は新雪の如き純白だが、腰に搭載された刀は桜色の鞘に納められており、何よりも『雪桜』は秋五がコア人格に送った名であるので、此れこそが白式の真の姿であるとも言えるのかもしれない。


「雪桜……行くぞ、此処で織斑千冬を討つ!」


此処で強化された秋五が参戦した来た事で、千冬(偽)は一気に窮地に陥る事になった。
と言うのも、秋五が強化されるまでの間の時間稼ぎを行っていた夏月とスコールとオータムも本気を出した事で千冬(偽)は暮桜の能力をもってしても追い付く事が出来なくなってしまい、被弾が多くなってしまったのだ。
加えて秋五の雪桜は白式だった頃よりも攻撃手段が増え、特に腕部に搭載されたビームクローは単純な近接戦闘武器だけではなく、ビームクローを発射する事も出来たので、近距離での突然の射撃には千冬(偽)も対処し切れていなかった。


「捉えたぜ……今だ、やれぇぇぇぇ!!」

「貴様……!!」


そして一瞬の隙を突いて千冬(偽)の背後を取ったオータムが六本腕で千冬(偽)拘束すると、其処にオータムが『デス・メテオ』レベルの巨大な火球をブチかまし、続いて夏月がワン・オフ・アビリティの『空烈斬』で暮桜の装甲を切り裂くと同時に、女性権利団体を蹴散らした嫁ズが参戦して夫々が強烈な攻撃を叩き込んで暮桜のシールドエネルギーをガリガリと削って行く。
更には束が外部ハッキングで暮桜のシステムに介入して暮桜のコアにシールドエネルギーがゼロになると同時に自己崩壊を起こすウィルスを仕込んでおり、暮桜の完全破壊も準備が完了していた。


「秋五、最大の一撃をブチかましてアイツを叩きのめせ!!」

「言われるまでもないさ夏月……織斑千冬は僕の手で討つ!此れで終わりだ……二十倍界王拳かめはめ波ぁぁぁぁぁーーーーーー!!」


其の攻撃の〆となるのは、秋五の雪桜の攻撃だ。
騎龍化した事で秋五の機体には新たに両掌にビーム発生装置が搭載されたのだが、秋五は其れを使って『地球上で最も有名な必殺技』を再現して千冬(偽)を暮桜諸共太平洋の遥か彼方に吹き飛ばしたのだった。


「かめはめ波はやっぱり最強の必殺技で間違いないな。」

「ガンダム種デスではデスティニーがかめはめ波を撃つって話もあったんだけど、結局は実現しなかったから残念……ガンダムがかめはめ波を撃つ事が実現していたら、日本のアニメ業界は今とは違う発展をしていたかもしれない。」

「簪、其れは其れとしてだぜ。」


吹き飛ばされた千冬(偽)がどうなったかを確認する術はないが、秋五の最後の一撃は雪桜のシールドエネルギーまでをも回した一撃だったので、其れを喰らった千冬(偽)が真面な状態で居るとは考えられないだろう。
仮に生きていたとしても、五体満足と言う事はあり得ない――其れを踏まえると、此度の戦いは此れにて終幕となったと言っても間違いではないだろう。


そして管制室が千冬のシグナルをロストしてから十分後に十蔵から『戦闘終了』が言い渡され、IS学園島に於ける戦いは幕が下りる事になったのだった。








――――――








太平洋上にある無人島、秋五の最後の一撃で吹き飛ばされた千冬(偽)の身は其処にあった。
暮桜の絶対防御が発動したおかげで一命は取り留めていたが、右腕以外の四肢は吹き飛び、右目は潰れ、頭髪も半分を失うと言う悲惨な状態になっていた。
普通の人間ならば絶命していたもオカシクないのだが、其れでも生きていたのは彼女が『織斑計画』の数少ない成功例である事が大きいだろう――だとしても其の命は風前の灯火なのだが。
そして絶対防御が発動した事でシールドエネルギーがゼロになった暮桜は束が送り込んだウィルスによってコアが自己崩壊を起こし、機体其の物は砂となって此の世から消え去ったのだった。


「クソ、クソ、クソ……こんなところで、こんなところで終わって堪るか……私は織斑千冬だ……世界最強の存在なんだ……其れを思い知らせてやる!!」


其れでもその執念は凄まじく、残った右腕で何とか身体を起こそうとするが其れが出来る筈もなく、精々身体を仰向けにするのが背一杯だった。


『………』

「カマキリ?にしては妙にバカでかいな?」


其処に現れたのはカマキリを取り込んで進化した宇宙からの来訪者だった。
カマキリ型の存在は千冬を取り込もうとしてカマを振り下ろしたのだが、千冬(偽)は唯一残った右腕で其れを掴むと逆にカマキリ型の存在に喰らい付いてそして其の存在を完全に喰らい尽くしてしまった。
だが、其れを喰らい尽くした千冬の身体には異変が起き、グニャグニャになったと思ったらあっと言う間に人間大の大きさのカマキリとなったのだが、カマキリの首から上は人間の上半身となっており、其処には両腕がカマキリの腕となった千冬(偽)が存在していた。
地球にとって近い将来に最悪の敵となる存在が、今ここに誕生したのであった――!!









 To Be Continued