亡国機業、其れも実働部隊『モノクロームアバター』の隊長を務める『スコール・ミューゼル』からIS学園に突き付けられた『襲撃予告』、そして『織斑千冬の身柄を此方に引き渡せば襲撃は行わない』と言う通達に対しての対応は緊急に開かれた学園会議でも意見が分かれた。
『千冬一人で学園と生徒を守る事が出来るのであればその提案を受け入れるべきだ』と言う意見がある一方で、『千冬を引き渡したからと言って、本当に襲撃が行われないと言う保証がない以上は戦力を整えて迎え撃つべきだ』と言う意見もあった――『抗戦』を訴える教員の中には、『此処でテロリストに屈してはIS学園其の物の信頼を失う事になり兼ねない』との意見もあり、学園長の十蔵は頭を悩ませる事になっていた。
何方の意見も一理あるので簡単に決める事は出来なかったのは元より、学園祭から数日経った今では各国から新たに『代表候補生』や『国家代表』が学園に送り込まれ、その何れもが専用機持ちであるので学園から離脱した夏月組の戦力をある程度は補填出来ていたのが逆に問題だった――なまじ戦力が補填されてしまったからこそ『抗戦』との意見が出てしまったのは否めないからだ。


「意見がハッキリと分かれてしまいましたか……こんな状況で君に聞くのは卑怯であるかもしれませんが、織斑先生の弟である君はどう考えますか?」


此の会議の場には秋五の姿もあった。
亡国機業が『織斑千冬の身柄の引き渡し』を要求して来たので、千冬の弟である秋五も会議に参加させられており、秋五の意見によって最終決定が行われる、そんな感じの会議となっていたのだ。


「僕は……姉さんを亡国機業に引き渡すべきだと考えます。」

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」


だからこそ、秋五が『姉さんの身柄を亡国機業に引き渡すべきだ』と言った事には、『抗戦』を訴えた教師達は驚く事になった――千冬の弟である秋五ならば姉の擁護に回ると思っていたからだ。
確かに一夏が存命だった頃の秋五であれば千冬の擁護に回ったかもしれないが、一夏の死後に自ら変わる事を選んで其の道を進んで来た秋五に千冬を擁護する気はサラサラ無かった――今の秋五にとって千冬は『一夏を死なせた元凶』であるだけでなく『教師の立場を勘違いしているDQN』でしかない上に、夏月が与えてくれたヒントによって、『白騎士事件』の際の『白騎士』である事も知ったので、千冬は完全に『忌むべき存在』となっていたのだ。


「……理由を聞いても?」

「姉さんは『白騎士』……其れが答えです学園長。
 姉さんは、織斑千冬は『白騎士』として日本に飛来したミサイルを叩き落しただけでなく、近隣海域に展開してた自衛隊の空母や、アメリカ軍のイージス艦を攻撃して破壊し、多数の死傷者を出した罪人でありながら、其の罪を裁かれる事なく、そして償う事もなく生きているなんて事が許されて良い筈がないでしょう?
 彼女の身柄は亡国機業に引き渡して其の罪を償わせるべきだと僕は考えます……何よりも、彼女一人とIS学園の安全なら天秤に掛けるまでもないと思いますよ?『百を救うための一の犠牲』。『コラテラルダメージ』ってやつだと思いますよ此れは。」

「織斑先生が白騎士……その証拠は?」

「インターネットで調べてみたら『白騎士の正体=織斑千冬説』が非常に多かったので箒に頼んで束さんに『白騎士事件』の真相を聞いて貰ったらアッサリと束さんが教えてくれましたよ『白騎士は織斑千冬で自分が依頼した』と――但し、束さんが依頼したのは『ミサイルの迎撃』だけで、後の事は全て彼女の独断との事でした。」

「篠ノ之束博士が言うのであれば間違いないでしょう……織斑先生は未曽有の被害を出した事件の実行犯だったとは。」


秋五に理由を聞いた十蔵だったが、その理由を聞けば秋五が『千冬の身柄を亡国機業に引き渡すべき』と言ったのも納得出来るモノだった――ISが世に認められると同時に最悪の被害を出した『白騎士事件』の『白騎士』が『織斑千冬』であると言うのであれば、千冬は、千冬(偽)はトンデモナイ数の死傷者を出した『罪人』であり、其の罪が裁かれる事もなく、罪を償う事もなく生きている事は到底許される事ではないだろう。
加えて、千冬(偽)は去年楯無に実技授業で『舐めプの末の引き分け』になった後から教師としての資質に疑問を持たざるを得ない事を幾度となく起こした上に今年の臨海学校では女性権利団体を扇動して夏月の事を殺そうとしており、其の結果として現在は学園島の地下にある地下牢に閉じ込めているのだが、『ブリュンヒルデ』のネームバリューもあり、IS学園としても如何処分したモノかと悩んでいたのだ。
しかし千冬(偽)の実弟である秋五から『亡国機業に身柄を引き渡すべき』と言われ、更には其れに値する情報が齎されたのであればIS学園としても千冬(偽)を漸く処分出来るので、会議の最後の採決では『織斑千冬の身柄を亡国機業に引き渡す』事に対して会議参加者の九割が賛成した事で千冬(偽)の身柄は亡国機業に引き渡される事が決定したのだった。
当然反対した一割の『織斑千冬の信奉者達』は抗議したが、其処は十蔵が『学園長の鶴の一声』でもってして強制的に黙らせた――『此れは決定事項であり覆りません。これ以上異を唱えるのであれば解雇も止む無しですが?』と言われては黙らざるを得ないのだが。
こうしてIS学園は回答期限内に通信を繋げて来たスコールに対して『織斑千冬の身柄を其方に引き渡す』と伝えると、スコールも『三時間後にIS学園に出向く』と言う事を伝え、真耶は教師部隊数名を引き連れて千冬(偽)を地下牢から連れ出すために学園島の地下へと向かって行ったのであった。










夏の月が進む世界  Episode65
『Der starkste Angriff nach dem Schulfest』










IS学園で緊急の会議が行われていた頃、その会議の様子はリアルタイムで夏月達に伝わっていた。
IS学園に唯一残った生徒会のメンバーである虚は当然会議に参加しており、その際に虚は制服のポケットの中でスマートフォンを操作して楯無のスマートフォンに連絡を入れ、其れを受けた楯無はスマートフォンを『ハンズフリー』の『スピーカーモード』にして会議の内容が夏月組全員に聞こえるようにしていたのだ。


「秋五の奴も束さん経由で『白騎士事件』の真実に辿り着いたみたいだな。其れから『織斑計画』についても……自分の出生の真実を知っても精神崩壊起こさなかったのは箒達が居たからだろうな――嫁さんの存在は偉大だぜ。
 それはさて置き、あのクソッタレの身柄がこっちに来るってのは最高だよな?……楯無さん、取り敢えずアイツにどんな拷問ブチかましてやりましょうかね?」

「実は案外簡単に死ねない『磔刑』、四肢を荒縄で縛って壊死させる『達磨刑』、全身をゆっくりと腐らせてウジなんかに喰わせる『スカベンジャー』、致命傷にならない場所にナイフを刺していく『黒ひげ危機滅殺』の、さてどれが良いかしらね?」


此れによりIS学園が千冬(偽)の身柄を亡国機業に引き渡す事は確定事項となったのだが、夏月達は身柄を引き取った千冬(偽)に対する拷問方法を話し合っていた――夏月は当然として、夏月の嫁ズにとっても千冬(偽)は『織斑一夏』だった頃の夏月が不当な扱いを受ける原因を作った元凶であり、絶対に許してはならない存在なのでこうして次々と拷問方法が上がって来るのだろう。


「私としては十字架に磔にした上で密閉した部屋で煙で燻すのが良いのではないかと思うのだがどうだろうか?『ブリュンヒルデの燻製』と言うのは中々にネーミング的にイケてるとは思わないかい?
 何よりも、燻されながら死んで行くと言うのは火炙りにされるよりも辛いモノだと思うからね……煙で息が遮られ、そして真面に息が吸えないとなれば、其れは最悪レベルの苦痛に過ぎないモノさ。」

「燻製刑ってか?其れも新しいから候補に入れておこう。他に意見は?」

「アジア象の鼻で締めあげるのは如何でしょうか?
 アジア象はアフリカ象と比べると小柄なので力も弱いですが、其れでも鼻で締め上げる力は人間の握力に換算したら余裕で1000kgを越えますので、ブリュンヒルデであろうとも全身骨折は免れないかと。」

「硫酸を表皮にうすーく塗って表皮が溶けた所に塩と唐辛子を塗り込むって言うのは如何かな?此れは凄まじい激痛が全身を貫くから無敵のブリュンヒルデでも耐える事は出来ないと思う。」

「大人しそうな顔してエッグイ拷問方法を提案してくれた事に驚きだぜ静寐……だが、其れもアリかもな。」


そんな中でシンプルながらも聞くだけで鳥肌が立つレベルの拷問を提案して来たのは静寐だった――『硫酸で表皮を溶かした上で其処に塩と唐辛子を塗り込む』と言うのは絶叫を通り越した激痛でありながらも死ぬ事はないので拷問としては最強クラスと言えるだろう。それこそ拷問ソムリエの『伊集院先生』が称賛するレベルと言っても過言ではないだろう。


「だが、この拷問はアイツが大人しくこっちに来た場合の事だ……アイツが大人しくこっちに身柄を引き渡されるとは到底思えねぇから、多分戦闘になるのは間違いないと思うから、そうなった時は頼むぜ?」

「そっちも抜かりはないわ夏月君。
 寧ろ戦闘になってくれたのならば私達としても都合が良いんじゃないかしら?私達が戦闘行為を行ったと言うのは、IS学園が此方の要求を拒否した、或いは織斑千冬が独断専行を行ったからとの大義名分があるのだからね。
 こう言ってはなんだけど、流石は時雨さん、お父様が先代の『楯無』だった頃に当時の『楯無』の右腕だったのは伊達じゃないわ……今回の交渉は結果が何方に転んでも亡国機業側に利がある結果になるのだからね。」


だがしかし、IS学園が何方の選択をしても利があるのは亡国機業の方だった。
『織斑千冬の身柄を亡国機業に引き渡す』事を選択した場合は兎も角として、『織斑千冬の身柄を亡国機業に引き渡さない』選択をした場合、IS学園は亡国機業からの一斉攻撃を受ける事になるのだが、その場合には束が世界に向けて『白騎士事件の真実』を暴露する事になっており、何方に転んでも亡国機業が敗北する未来は存在していないのである――そもそもにして、束が亡国機業側に付いている時点でIS学園側は詰んでいるとも言える訳だが。


「マジで抜かりねぇな……そんじゃ行くか!マドカ、お前にも働いてもらうからな?」

「任せておけ夏月。
 姉と言うモノは弟や妹が見てる前では其の能力が数倍に跳ね上がるモノだからな……今の私は阿修羅をも超える存在だ!お前ならば分かるだろう、更識楯無ぃ!!」

「えぇ、とっても良く分かるわお義姉さん♪」


IS学園には夏月率いる『モノクロームアバター・オルタナティブ』も同行する事になっており、夏月達はスコールと共に移動用の『ステルス輸送機』に乗り込むとIS学園へと向かって行った。
余談ではあるが、夏月とマドカは夏月達が亡国機業の一員となって直ぐにISバトルを行ったのだが、その試合の結果は夏月の圧勝だった。
近距離主体の『騎龍・羅雪』と射撃型で尚且つBT兵装によるオールレンジ攻撃が出来る『サイレントゼフィルス』ならば、機体相性ではサイレントゼフィルスの方が圧倒的に有利なのだが、夏月はビームダガー『龍尖』でBT兵装を全て破壊するとイグニッションブーストからの居合で切り込んで近距離戦に持ち込むと、鞘を使っての疑似二刀流、空手、ムエタイ、マーシャルアーツ等の体術でマドカを圧倒し、最後はタイを訪れた際に『帝王』から受け継いだ『カイザーニークラッシュ』を喰らわせてサイレントゼフィルスのシールドエネルギーをゼロにして勝利したのだった――この勝利により、マドカは『私の弟は世界一強い!』等と言って、更に夏月への愛を深める事になったのだが其れは特に問題はないだろう。


「大人しくこっちに身柄を渡せばそれで終いだが、アイツが馬鹿な事をしたら其の瞬間に俺達は学園を攻撃する事になる訳だが、そうなったら今度はお前はどんな選択をする秋五?
 白騎士事件の真実を知ったお前が選択を間違えるとは思えないけど、もしも選択を間違っちまった其の時は嘗ての兄として、そして今のダチ公として俺はお前を討つぜ。」


其の輸送機の中で夏月は秋五が今度はどんな選択をするのかを楽しみにしつつ、秋五が選択を間違えてしまったその時は『元双子の兄』として、『今のダチ公』として秋五を討つ事を決めていた。
そして其の夏月の顔には『ダークヒーロー』其の物の不敵な笑みが浮かんでおり、嫁ズが其れを見て惚れ直したのは当然として、其れを見たマドカは鼻から愛を大量に噴出して出撃前に戦闘不能になりかけると言うまさかの事態に陥っていたのだった……其れでも即持ち直したのだから『究極的に突き抜けたブラコン』と言うのは不死身で無敵であるのかもしれない。








――――――








学園では会議終了後に、真耶達教師部隊が千冬(偽)を地下牢から出すべく地下牢に向かい、幾重もの厳重なセキュリティを解除して千冬(偽)が居る地下牢までやって来ていた。
その地下牢で千冬(偽)はグレーの囚人服を身に纏い、両手足には鎖付きの手錠と足枷を付けられて自由が大幅に制限された状態で居た――一人で食事が出来るように手錠の鎖は幾分長めではあるが、其れでも腕を広げ切る事は出来ないので動きは大分制限されるだろう。


「……山田君か?……君が来るとは珍しいな……私に何か用か?」

「亡国機業からの要請を受けて貴女の身柄を亡国機業に引き渡す事になりましたので此処からは出て貰う事になります。」

「亡国機業に?……テロリストに屈するとは、IS学園も地に落ちたか?」

「いいえ、此れは学園長の正当な判断です。
 貴女の身柄を引き渡さなければIS学園は亡国機業の襲撃を受ける事になり、そうなれば少なくない犠牲がIS学園に齎されるでしょう――其れが、貴女一人を引き渡せば回避出来るのであれば当然の決定であると思います。
 『百を救うための一の犠牲』、貴女はIS学園の生徒の為の生贄にされたんですよ『先輩』。」


自分が亡国機業に引き渡されると言う事を聞いた千冬(偽)は『IS学園はテロリストに屈したか』と嘲笑して来たが、真耶は其れを真っ向から否定し『貴女の身柄を引き渡すのはコラテラルダメージ』だと言い放ち、トドメに最大限の侮蔑と嘲笑を込めて『先輩』と呼んでいた――IS操縦者として千冬に憧れていたからこそ真耶の千冬の本性を知った際の失望は大きく、其れだけに千冬(偽)をIS学園の生徒を守るために生贄として差し出す事に関しては微塵も迷いはなかった。

地下牢から出された千冬(偽)は真耶によって強引に両腕を後ろに回されて、更に真耶に背後からフルネルソンに極められて身動きが取れなくなっていたので大人しく引き渡し場所である学園島の埠頭に向かうしかなかったのだが――


「千冬様!!」

「助けに来ましたブリュンヒルデ!」


此処で千冬(偽)にとっては幸運と言える事が起きた。
『織斑千冬の信奉者』である教師はクラス対抗戦と学年別タッグトーナメントの後に全て解雇されていたのだが、生徒に関しては『退学理由』が無かったので学園内に残っており、其の『織斑千冬の信奉者』の生徒が此処でやらかしてくれたのだ。
『ペットボトルに重曹と一味唐辛子と酢を入れてシェイクすれば簡単に出来る催涙爆弾』を使って真耶達を怯ませると、その隙に千冬を真耶達から引き剥がすと、千冬(偽)を送り主不明のメールに記されていたIS学園の地下施設に連れて行った――そして其処には千冬(偽)が現役時代に使っていた専用機である『暮桜』が存在していた。
最後に動かしたのは三年前なので真面にメンテナンスを行っていなかった今現在動くのかは分からなかったのだが……


「ふふ、お前も私を待っていたか暮桜!」


千冬(偽)が搭乗すると暮桜は問題なく起動した――だけでなく僅かながら其の姿を変えていた。
シャープな全身装甲なのは三年前と変わらないが、シャープさは残しながらも『甲冑騎士』を思わせる外見が『鎧武者』を思わせるモノに変わっており、頭部には三年前にはなかったブレードアンテナが追加されていた。


「ククク……この力があれば恐れる事は何もない……亡国機業も私が全て蹴散らしてくれる!」


暮桜を纏った千冬(偽)は意気揚々と地下から飛び立っていったのだが、其れは最悪の選択であると言う事には気付いておらず、更に秋五が自分の味方ではなくなっていると言う事にも気付いていなった――千冬(偽)は、ある意味で自ら『断罪のボタン』を押したと言える、そんな選択をしたのである。
其の選択の先にあるのは、決定的な敗北であると言う事には気付かずに。

そう、先の生徒達にメールを送り付けたのは束であり、束は暮桜ごと千冬(偽)もとい『千冬の代替人格と白騎士のコア人格の融合人格の慣れの果て』を始末する為に『ブリュンヒルデ』の幻想から覚める事の出来ていない生徒を煽ったのである――全ては束の掌の上の事であり、千冬(偽)も其れを助けた生徒達もその事には気付かずにまんまと乗せられてしまったと言う訳だ。
加えて奇襲された真耶がすぐさま教師部隊に『一般生徒と一般教師を地下シェルターに避難させ、専用機持ち達には出撃準備をさせて下さい』と命じたのだが、此の時既に亡国機業のメンバーは学園に到着しており、学園長である十蔵と埠頭で『織斑千冬の身柄引き渡し』の為に顔を合わせており、真耶が十蔵に連絡を入れたのは少しだけ遅れてしまったのだった。








――――――








IS学園からの連絡を受けたスコールは『モノクロームアバター・オルタナティブ』のメンバーと共にIS学園を訪れて、埠頭にて学園長の十蔵と話をしており織斑千冬の身柄が亡国機業に引き渡されるのは確定したのだが――



――ドッガァァァァァァン!!



其の場に突如ISのエネルギー攻撃が着弾した――其の攻撃は地面を爆ぜただけだったので十蔵とスコールは無傷だったのだが、だからと言って無視出来るモノではないだろう。


「轡木十蔵学園長、此れは一体如何言う事かしら?
 織斑千冬の身柄を引き渡すと言うのは私達を誘き出す為の罠で、其の本心は此の場で私達を葬る事だったと、そう言う事だととっても?」

「そ、そんな心算は……私達は本気で彼女を――と、失礼。
 山田先生、如何しました?……何ですと!?織斑先生のシンパの生徒が襲って来て織斑先生を奪取して何処かへ連れ去ったと!?……と言う事は、まさか今の攻撃は!」


スコールは束から話を聞いていたので此の場で千冬(偽)が襲撃してくる事は分かっていたのだが、其れでも『引き渡し現場で襲撃された』と言う事に対して十蔵に聞く形を取り、十蔵もそのタイミングで真耶からの連絡が入って千冬(偽)が自由の身になった事を知り、同時に今の攻撃が千冬(偽)からのモノであると気が付いたのだった。


「流石はDQNヒルデ、自分が自由になる為なら他の連中がどうなろうと知ったこっちゃねぇですか……ったく大したモンだぜマッタクよぉ?
 まぁ、学園長がどう考えていたかは兎も角として、アイツの身柄の引き渡しは行われなかったんだから俺達は予告通りにIS学園を襲撃するしかなくなっちまった訳だ……恨むなら、馬鹿なDQNヒルデを恨めよ学園長。」


だが、如何なる理由があろうとも亡国機業側からすれば『織斑千冬の身柄の引き渡し』がなされなかった訳で、そうであるのならば事前に通告した通りに『IS学園への攻撃』を行うだけであり、夏月達は夫々専用機を展開すると散開して学園への攻撃を開始する。
勿論此の攻撃は一般生徒と一般教師の避難が完了している事を虚から知らされたからこそ行ったのであって、真の目的は専用機持ちの生徒――より正確に言うのであれば秋五組を此の場に引き摺り出してこうなってしまった原因を伝える事にあったのだが。


「その機体、暮桜かしら?貴女が現役時代に使っていた時とはデザインが変わっているみたいだけれど……もしかして自己進化していたのかしらね?」

「あぁ、そうだ……暮桜は進化したのだ!今の私が最大の力を発揮出来るようにな――時に貴様は誰だ?
 私の前に立つと言うのが何を意味するか分かって私の前に現れたのか?私の前に立つと言うのは即ち私と本気で戦う意思の表れだ……私の前に立ったのは更識姉と一夜に続いてお前で三人目だが、今回は前の二人のようには行かんぞ?
 私は私本来の力を揮う事が出来る状態になっているのだからな。」

「貴様は誰か……まぁ、貴女には白騎士事件の被害者なんて言うモノは取るに足らない存在でしょうね……私は、白騎士事件の際に貴女が手当たり次第に攻撃した事で撃沈された艦船に乗っていた者よ。
 幸いにして一命は取り留めたけれど腕と足を失い、子を宿す事まで出来なくなってしまったわ……あの日から何時か白騎士を此の手で討つ事を考えて生きて来たけれど、今日その機会が来た事には感謝するわ。
 骨の髄まで焼き尽くしてあげるわ、ブリュンヒルデ。」


埠頭の上空では暮桜を纏った千冬(偽)とゴールデンドーンを纏ったスコールが対峙しており、スコールは千冬(偽)に『己が白騎士事件の被害者』だと言う事を伝えると両手に火の玉を作り出すと其れを『ベジータのグミ撃ち』並みの連射で千冬(偽)に向けて放つ。
全弾ヒットしたらシールドエネルギーは大幅に減少するだろうが、千冬(偽)は抜刀すると零落白夜の瞬間発動を使った斬撃で火の玉を全て迎撃して見せた――『エネルギーを強制的にゼロにする』零落白夜は物理攻撃でない攻撃に対しても有効であり、ビームや炎に対しては圧倒的な強さを発揮して一撃必殺の剣だけでなく、無敵の盾としても機能するモノなのだ。


「ハァァァァ!!」

「ちぃぃぃ!!」


無論スコールも其れは分かっているので、全ての火の玉が霧散するとと同時に斬り込んで近接戦闘を仕掛けていた。
スコールの手には新たに束が開発したゴールデーンドーン用の近接戦闘武器である『ビームジャベリン』と『ビームクナイ』を連結させた『ビームランス』が握られており、スコールはビームランスによる猛攻に加えて、ビームランスを分割してのビームジャベリンとビームクナイの二刀流の攻撃も混ぜ合わせて千冬(偽)を翻弄していた。
零落白夜があるのでビームエッジは無効化されてしまうのだが、ビームジャベリンとビームクナイはビームエッジが展開出来なくても本体が束が新たに開発した特殊素材で出来ているので既存のISブレードとは余裕でチャンバラが可能だった。


「背後がお留守だぜブリュンヒルデ!」

「!?……貴様……!!」


更に其処にオータムが参戦して来た事で千冬(偽)は一気に窮地に立たされる事になった。
オータムの専用機『ア・スラ』は四本のサブアームを搭載した機体であり、本体とサブアームによって機体の名称の元となった『阿修羅』さながらの『六本腕』での攻撃が可能で、本体とサブアーム全てに近接武器を搭載すれば、文字通りの『六刀流』となるのだ。


「六刀流、相手にしてみるか?」

「更に私は二刀流……合わせて八刀流の私達に死角はないわね♪」

「……スコール、まさか変態専用ガンダムの専用セリフをオマージュして来るとは予想外だったが――久しぶりに大暴れやらかそうじゃねぇか?亡国機業最強コンビの力をその身に刻みなブリュンヒルデ!」

「テロリスト風情が吠えるか……良かろう、『ブリュンヒルデ』の力をその身に刻み込め――そして後悔しろ、己が一体誰に喧嘩を売ってしまったのかと言う事をな!!」


状況的には不利であるのだが、其れでも千冬(偽)には投降すると言う選択肢はなく、スコールとオータムのコンビを相手に戦闘を続けるのだった――此れは世界最強のハンディキャップマッチであった。
この戦闘と同時に真耶率いる教師部隊は避難誘導其の他諸々を終えて教師部隊に配備された『打鉄カスタム』と『ラファールリヴァイブ・カスタム』を纏って戦場に出るのだった。








――――――








散開して学園島を取り囲んでから攻撃を開始した夏月組は、出撃して来た秋五組と対峙してた――実力的には夏月組の方が上なので一方的に叩きのめそうと思えば叩きのめす事が出来たのだが、夏月組は敢えてそうしなかった。
因みに対峙しているのは『夏月と秋五』、『楯無と箒』、『ロランとセシリア』、『ヴィシュヌとシャルロット』、『グリフィンとラウラ』、『ファニールとオニール』、『静寐と清香』、『神楽と癒子』、『ナギとさやか』となっており、フリーとなった簪、鈴、乱、ダリル、フォルテは教師部隊と交戦していた。


「フォルテ・サファイア……裏切者は此処で始末します。」

「うげ、ベルベット!?アンタ学園に来てたんすか。」


フォルテにはIS学園に新たにやって来たギリシャの国家代表である『ベルベット・ヘル』が対処していた――ベルベットはフォルテが亡国機業の一員となったと言う事を聞いてフォルテが裏切ったと感じ、フォルテを始末する為にIS学園にギリシャの国家代表としてやって来ていたのだ。
なので、フォルテとベルベットの戦いは激しいモノとなっていたのだが――


「夏月、どうしてこんな事を……!」


夏月と対峙した秋五は夏月達が学園を攻撃した意図が分からず、夏月に其れを問うていた。
『織斑千冬の身柄を亡国機業に引き渡す』事が決定しているのならば、其れがなされればIS学園は平和であったのだから秋五がそう思うのはある意味で当然と言えるだろう。


「どうしてだって?
 そんなのは決まってんだろ……お前の姉貴がISを纏って攻撃して来たからだ――アイツの身柄が大人しく引き渡されたのなら俺達は学園への攻撃は行わない心算だったんだが、アイツが自分の手で其れをぶっ壊してくれたんでな……俺達としても其れを見過ごす事は出来ないからこうしてIS学園を攻撃する事になったって訳だ。
 全てはあのDQNヒルデの選択が引き起こした事だったって訳だ――マッタクもって大したモンだぜ『ブリュンヒルデ』ってのはよ。」


其れに対して夏月は悪意たっぷりの笑みを浮かべてそう告げると、更に偽悪的な笑みを浮かべて秋五を睨みつけた――そして同時に秋五は『最後の砦』とも言うべき精神面での障壁が突破され、秋五には『織斑千冬=白騎士』と言う真実だけではなく『織斑千冬=忌むべき白騎士』である事が確定されたのであった。


「姉さんが?……一夏を見殺しにしただけじゃなく、IS学園の生徒を全て犠牲にしても満足しないのかアンタって人はぁぁぁぁぁ!!……そうであると言うのならば僕が姉さんを討つ!」

「OK,良く吠えたな秋五。」


其れを聞いた秋五は自らの手で千冬(偽)を討つ事を心に決め、そして夏月と共に千冬(偽)が戦闘を行っている埠頭の上空まで全速力で向かうのであった――同時に秋五達が其の場に到着した其の時が、此度の襲撃の終幕の時でもあったのだった。










 To Be Continued