夏月から齎されたヒントの一つである『織斑計画』の詳細を、束からの情報で知った秋五は己の出生の真実にショックを受けて茫然自失となってしまい、傍目には『自我が崩壊した』と取れる位の状態となっていたのだった。
勿論秋五の嫁ズも此の状態の秋五を何とかしようと慰めたりもしたのだが、その効果はあまりなかった――そんな中でラウラは『私の出生は秋五の出生が元になっているとなると、私と秋五は兄妹だったのか!?』と、ある意味で正解であり、ある意味では大間違いの見当違いな事を言っていたが。
「……秋五のショックは僕達が思っている以上に大きいみたいだけど、だからこそ此の状況で秋五を立ち直らせる事が出来たら、僕の株は大きく上がると言うモノだよね?」
「此の状況でもお前は真っ黒だなシャルロットよ?
だが、此の状況で秋五を立ち直らせる事が出来るのは恐らくは私だけだろう……このメンツの中では、私が一番秋五と過ごした時間が長いからな。」
「そうね……この場は貴女に任せるわ箒。」
「あぁ、任されたよセシリア。」
シャルロットが此処で普通に聞いたらドン引きレベルな事を言ってくれたが、箒が其れを諫めると、自分が秋五の所に行くと宣言し、セシリアも箒に全てを託し、他の嫁ズも其れに倣った――小学一年生の時から秋五の事を知っている箒以外に秋五の事を立ち直らせる事は出来ないと、そう判断したのだ。
「たのもー!入るぞ秋五!!」
「……箒?」
秋五の嫁ズを代表して箒が部屋に入ると、室内では電気も点けずに秋五がベッドの上で膝を抱えて丸くなっていた――『織斑計画』の事を知ってから、秋五はこんな状態になってしまい、同室の箒も今日までは夏月組の離脱によって空きが出来た部屋で寝泊まりしていた位なのである。
「秋五……お前の出生に関しては私達も驚いたが、お前は此のままで居る心算なのか?己の出生にショックを受けて、其のままで居る心算か!」
「僕だって此のままで居たくはない……だけど、僕は普通の人間じゃなかった……僕も姉さんも『最強の人間』を作り出す計画の中で誕生した存在……良く言えば『超人』、悪く言えば『化け物』だ……普通の人間じゃない僕が、此れから如何生きて行けばいいのか……其れが分からない――箒達も僕の事をどう思ってるか分からなくなってしまったよ……」
「ふむ……成程な……お前の気持ちは分からなくとは言えん……お前が受けた衝撃は私達の比ではないだろうからな……だが、何時までそうしている心算だ!!歯を食いしばれ秋五!!」
そんな秋五に……なんと箒は手加減一切なしの鉄拳を叩き込んだ!
箒のパンチ力は秋五の嫁ズの中では最強であり、その拳を真面に喰らった秋五は壁まで吹っ飛ばされ、更に箒に胸倉を掴まれて強制的に立たされる事になった。
「人工的に作られたから普通の人間ではないだと?バカな事を言うなよ秋五!その理論で言えばラウラも普通の人間ではないと言う事になる……まぁ、確かにラウラは少し天然なところもあるが、其れでも私達と変わらない人間だ。
そして其れはお前も同じだろう秋五!其れに、私達がお前の事をどう思っているか分からなくなってしまっただと?……見くびるな!お前の出生は驚くべきモノだったが、たかがその程度の事で私達のお前に対する思いが変わるとでも思っているのか!!私達のお前への思いはそんなに安くも軽くもない!
それに何より、こんな事でショックを受けるのは兎も角として塞ぎ込んで腑抜けになって、そんな状態であの世の一夏に顔向けが出来るのかお前は!地獄で鬼を相手に喧嘩をしているであろう一夏に笑われてしまうぞ其の体たらくでは!」
秋五を強制的に立たせた箒は一気に捲し立てて自分の、自分達の思いを秋五にぶつける――そして、其れは秋五の瞳に光を取り戻す事にもなった。
箒の鉄拳によって物理的な衝撃を受けた秋五は半ば強制的に意識を覚醒させられ、其処に箒が嘘偽りのない思いをストレートにぶつけて来た事で、『織斑計画』の内容を知った時以上の衝撃を受け、精神的にも急激に浮上する事になったのだ。
「箒……そう……だね……こんな状態じゃあの世の一夏に笑われちゃうよね……生まれが如何あっても僕が僕である事に変わりはない。そんな簡単な事を忘れてしまうなんて、僕もマダマダだね。
若しかしたら夏月は、僕が僕の真実を知って、其れを乗り越えられるかを試したのかな……乗り越えたのなら其れで良いけど、乗り越える事が出来なかったら戦う価値もない、其の選別をするためのモノだったのかもしれないな『白騎士の正体』と『織斑計画』は。
……ありがとう箒、君の、君達のおかげで僕はなんとか乗り越える事が出来たよ……だから、今度夏月達と対峙する事になったその時は迷わないで僕が正しいと思う判断を出来そうだ――愛の籠った拳は、身体よりも心に響くんだって言う事も知ったよ。」
「私を含め八人分の愛を拳に込めたからな……其れは兎も角として、その目が出来るようになったのであればもう大丈夫だな秋五?」
「あぁ、心配かけてごめん。僕はもう大丈夫だ。」
結果として秋五は立ち直り、其の後箒が他の嫁ズを部屋に招き入れて、部屋に入って来た嫁ズは口々に秋五に『心配した』と伝え、体育会系の清香は所謂『気合注入の闘魂ビンタ』を炸裂させ、秋五は改めて嫁の愛を物理的に受ける事になったのだった。
ともあれ秋五は立ち直り、嫁ズとの絆もより深くなったので、『織斑計画』の真相を知った事による秋五の一時の塞ぎ込みは、『雨降って地固まる』と言う結果に繋がったと言えるだろう。
だが、其れと同時に秋五は地下に幽閉状態にある千冬(偽)と何とか面会を取り付けて『織斑計画』について聞く必要があると考えていた――自分は知らなかった、もとい『忘れさせられていた事』であったが、千冬(偽)が其れを全く知らないとは思えなかったからだ。
しかし、現在の千冬(偽)は如何なる理由があっても生徒は面会する事が出来ない状態となっているので、秋五が千冬(偽)に『織斑計画』に付いて聞く機会は無かったのだった。
夏の月が進む世界 Episode64
『Trennende Wege und individuelle Entscheidungen』
学園を離脱し、束が魔改造を施した無人島にやって来た夏月達は、IS学園が復興して通常運転を再開するまでは亡国機業と更識の仕事……所謂『裏社会』の仕事を熟す事になったのだが、夏月の嫁ズは全員が『殺しの技』を会得している一方で、実際に『殺しの経験』があるのは楯無と夏月とダリルだけであり、他のメンバーは其の経験は無かった。簪は拷問の手伝いをした事はあっても直接的に手を下す事はなかったので未経験扱いだ。もとより簪はバックス担当なので『殺しの経験』其の物は不要ではある――其れは其れとしても寧ろ、高校生の身分で『殺しの経験』がある方が普通ではないのだが。
だがしかし、此れから裏社会の仕事を行う上で『殺しの経験が無い』と言うのは時と場合によっては致命的な弱点となるので、先ずは其の経験をする事から始まった――とは言え、イキナリ『生の殺し』を経験させるのはハードルが高すぎるので、束が開発した『VRシミュレーター』を使っての経験からだ。
VRであれば所詮は仮想現実なのだが、其処は世紀の大天才である束が開発したシミュレーターなので、VR体験であっても『人を斬った感触』、『相手の断末魔の叫び』、『血の匂いと味』をこの上なくリアルに体験できるモノとなっており、初めてこのシミュレーターを使った後、ロラン達は多大なる精神的ダメージを負う事になったのだった。
可成りキツイ仮想現実の体験ではあったが、楯無から『人を殺したその日に焼き肉やステーキを食べられるようにならないと裏の仕事は出来ないわよ』とのトンデモナイ事を言われ、同時に夏月と楯無は仮想現実での訓練なしにぶっつけ本番の『殺し』をやった事を知って、ロラン達は奮起してVRでの訓練を行い、四日後には全員がVRシミュレーターでの訓練後も精神的ダメージから寝込む事が無くなったのであった。
そんな訳で訓練を終えた嫁ズと共に夏月が本日やって来たのはロシアにあるとある施設。
首都モスクワからそれほど離れていない場所にあるこの施設は、表向きには『食料生産プラント』となっており、缶詰やその他非常食の生産を行っているのだが、其の裏では核ミサイルやIS用の軍事兵器を開発している『違法軍事施設』だったのだ――そしてそれだけならば未だしも、『ISに搭載可能な核兵器』と言う世界を滅ぼしかねない極悪兵器の開発まで行っていたのだから亡国機業としても更識としても見過ごす事が出来ない存在なのである。
「入り口の警備は二人……ザンギエフみたいなのが居たら厄介だったけど、あれくらいの兵士だったら俺と楯無さんなら楽勝かな?」
「君とタテナシならば突破は可能だろうが、此処はもっとスマートに行こうじゃないか。」
入り口にはロシア軍の兵士と思われる男性二人が警備にあたっていたのだが、真っ向から突入しようとする夏月に対してロランが『待った』を掛けると、サイレンサー付きの遠距離狙撃ライフルを持ち出し、其れを見た静寐も同じ物を持ち出して照準を警備兵に合わせ……そしてライフルの引鉄を引いて見事なヘッドショットで警備兵を沈黙させる。
其れと同時に夏月達は入り口まで移動し、簪が遠隔操作で施設のシステムにハッキングをして入り口の扉を開けて、一行は中に雪崩れ込む。
「な、なんだお前達は!?」
「此れから死ぬ奴に名乗る必要はないだろ。」
無論施設内部には多数のロシア軍の兵士が存在しており、施設に侵入して来た夏月達に対して攻撃をして来たのだが、プロの軍人が相手だろうとも夏月組は恐れる事なく向かって行き、夏月は一足飛びと同時に抜刀するとあっという間に五人の兵士を『斬首刑』に処し、楯無も両手に装備した『扇子型の暗器』を使って兵士を永眠させる。
ロラン達も『仮想現実での殺しの体験』が功を奏して、襲い来るロシア軍兵士に対して恐れる事なく返り討ちにしていた――グリフィンがコンクリートの地面にツームストーンパイルドライバーをブチかまして、ロシア兵を文字通り『脳天粉砕』したのには少しばかり驚かされたのだが。
そうして幾多の障害を排除して辿り着いた最奥部。
此の先には此の施設の責任者が居るのは確定だ――簪が責任者が最奥部に逃げ込んだ事を既に掴んでおり、その情報は夏月達に知らされていたと言う事を考えると、責任者は完全に『チェックメイト』となった訳だ。
「ハッハー!どうも、キック力を極限まで高めた『マスター・モンク』で~~す。本物DEATH!」
「どうもこんにちは、お初にお目にかかるね外道さん?今宵は満月、人を殺すには良い夜だとは思わないかい?」
「お祈りは済んだ?トイレは?拷問室でガタガタ震える準備は出来てるかしらね?」
其の最奥部扉は夏月が黒のカリスマも称賛するレベルの『喧嘩キック』で蹴り破り、同時に室内に夏月組が雪崩れ込んで施設責任者の護衛を務めるロシア兵との戦闘となったのだが、四日と言う短時間で人を殺せるようになったロラン達にはプロのロシア兵も敵ではなく、あっと言う間に全員が戦闘不能&あの世行きとなっただけでなく、ヴィシュヌとグリフィンが対処した相手は打撃かサブミッションかの違いはあれど、全身の骨がバラバラになると言う恐るべき結果となっていたのだった――そして護衛が全滅すれば施設の責任者を確保する事は容易であり、責任者の背後に回った夏月が完璧と言うべきチョークスリーパーを極めて責任者の意識を刈り取って、其の責任者は無人島の地下にある拷問部屋へと連行されるのだった。
――――――
拷問部屋に連行された責任者は腰に布を一枚巻いた状態で太い杭に荒縄で括りつけられており、夏月から喰らったチョークスリーパーの影響で未だ意識を飛ばした状態にあった――だが、だからと言って楯無が手加減をするかと言えば其れは否だ。
「ロラン、この外道の目を覚ましてあげなさい。」
「了解だ。外道の目覚ましには熱湯よりも煮えた油の方が効果が高い。」
此処で楯無の命を受けたロランが、煮え滾った油を柄杓でターゲットにぶっかけて強制的に意識を覚醒させる――熱湯よりも煮え滾った油の方が肌に張り付いて重度の火傷を負う事になるので、煮え滾った油を浴びるのは熱湯を浴びる以上の苦痛となるのである。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!此処は、此処は何処だ!?何故私はこんなところに居るんだ!?」
「此処は地獄の一丁目ってな……アンタが此処に居るのはある意味で当然だろ?
えぇ、ISに核兵器を搭載しようとしてた『死の技術者達の総元締め』さんよぉ?ISを軍事転用してるだけでもぶっ殺しモンだってのに、ISに核兵器を搭載しようとするとか、世界滅ぼす気なのかロシアは?形骸化してるとは言えISの軍事転用を禁じた『アラスカ条約』の中でも特に重要な『ISへの核兵器搭載』を禁じる部分だけはどの国も守ってるってのに、其れを破るとは……あり得ねぇだろ普通に?」
其れを浴びたターゲットは苦痛で目を覚まし、自分の状況を理解すると喚き立てて来たが、其処は夏月が強烈な殺気をぶつけて強制的に黙らせた。
強制的に黙らせながらも相手が気絶しないように殺気の強さをコントロールした訳だが、殺気のコントロールが出来ると言うのは並大抵の修練で出来る事ではなく、夏月組で殺気のコントロールが出来るのは夏月と楯無だけなので、此の二人がドレだけのレベルであるのかが分かると言うモノだ――ダリルは殺気の大雑把なコントロールは出来るが、『相手を黙らせながらも気絶させない』と言った細かいコントロールは未だ出来ていなかった。
「さてと、最低限のルールすら犯そうとしたロシアなのだけれど、此れは大統領の命令だったのかしら?其れとも貴方達の独断?どっちだったのか教えてくれるかしらね?」
更に其処に楯無が追撃とばかりに『絶対零度の笑み』を浮かべた表情でターゲットに問うと、ターゲットは恐怖で失禁しながらも『今回の事はロシア大統領の指示ではなく自分達の独断である』と白状した。
祖国であるロシア、ひいては大統領を庇うための方便である可能性もなくはなかったが、人は極限状態に置かれると嘘を吐く事が出来なくなるモノであるので、此れは嘘ではないのだろう――だからと言ってターゲットへの処置が変わる事は無いのだが。
「そう……つまり貴方達は自分達の技術を試したいが為にISへの核兵器搭載を行おうとしたのね……うん、本物の技術者ならば『犯してはならない領域』と言うモノを弁えて、其処には踏み込まないモノだけど、貴方や貴方の部下達はそうじゃなかった訳ね?
夏月君!」
「アイサー!」
楯無に呼ばれた夏月が手にしたリモコンのスイッチを入れると、ターゲットが括りつけれている杭が伸び始めた。
其れに合わせてターゲットの身体も引っ張られるのだが、人の身体は筋肉と軟骨によって骨が繋げられているので、引っ張られてもそう簡単には骨同士が離れる事はないだが、其れだけに限界を超えて引っ張られると言うのは凄まじい苦痛となるのだ。
そして限界を超えて引っ張り続ければ、やがて筋肉は伸縮限界を迎えて切れ、軟骨も骨から剥がれる事になり、そうなってしまえばあっと言う間に身体は伸びる杭に合わせて伸ばされるだけなのだ。
だが、ただ身体を伸ばされただけでは致命傷にはならない――切れた筋肉と外れた軟骨を元に戻す手術は必要になるだろうが、医療機関で適切な処置を施せば、完全回復は難しくとも未だ助かるだろう。
だが、外道相手にそんな慈悲は有り得ないのが『更識流』であり『亡国機業』なのだ。
「精々苦しんで死ぬのね。ISに核兵器を搭載するなんて事をしようとした貴方には、徹底的に苦しんだ末の死こそが相応しいわ。」
胸筋と腹筋と腹筋が切れ、背骨の軟骨接合も無理やり剥がされたターゲットの身体は伸び切っていたのだが、楯無が『徹底的に苦しんで死ね』と言った次の瞬間に伸び切ったターゲットの身体を楯無と簪以外の嫁ズが羽根箒で撫で始める――痛みはないが、此れは逆に辛いモノであった。
『痛み』ならば気を張る事で耐える事が出来るのだが、人間が如何足掻いても耐えられない感覚が『くすぐったさ』と『痒さ』であり、抵抗出来ない状態で全身を羽根箒で撫でられたターゲットは耐えきる事は出来ずに笑う事になる訳で、しかし『笑う』と言う行為は『息を強制的に吐かされるのに息を吸う事が出来ない』状態でもあるので相当な苦しみを感じる事になるのだ。『笑い過ぎて窒息死した』と言う事例も存在するほどであり、拷問でのくすぐりは『死の笑い』に他ならないだろう。
「あらあらそんなに笑って、楽しそうじゃない?それじゃあ、もっと楽しい事をしましょうか?鈴ちゃん、乱ちゃん、やっちゃいなさい。」
「お任せあれよ楯姐さん!」
「此処からが本当の地獄の始まりよ!」
ターゲットが『死の笑い』を上げている中で、今度は鈴と乱が秘孔を刺激して『痛覚が数倍になる状態』にすると、ロランがアッパー掌打を叩き込み、ヴィシュヌがハイキックで側頭部を打ち抜き、グリフィンがブラジリアン柔術式の当て身を喰らわせ、ファニールが脳天チョップ、ダリルが串刺しシャイニング・ウィザード、静寐と神楽がサンドウィッチラリアット、ナギがストーンコールドスタナーを叩き込み、痛覚が数倍になったターゲットは意識を飛ばしかけるモノの、意識が飛ばないように威力は抑えられており、そして此の程度では終わらないのが更識流拷問術の真に恐ろしいところだ。
「外道が……貴様には地獄すら生温い。己の愚行を悔いたまま死ぬが良い!
ホォォォォアァ!!ア~ッタッタッタッタッタッタッタ、ア~ッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタ!ア~ッタッタッタッタッタッタッタ、ア~ッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタ!ア~ッタッタ!ア~ッタッタ!オワッタァア!!北斗百裂拳!!!
……お前はもう、死んでいる。」
「ひ~で~ぶ~~!!」
トドメは夏月が目にも留まらない超高速のパンチのラッシュと百烈脚を超えた千烈脚をも上回る『萬烈脚』とも言える連続蹴りを喰らわせた後に強烈なアッパーカットで顎を打ち抜き、其の攻撃を喰らったターゲットは断末魔の叫びを上げた後に、アッパーが炸裂すると同時に最大級の力で身体を引っ張られた事で上半身と下半身が永遠に『さようなら』をする事になり、同時にターゲットの命は此処で尽きたのだった。
「外道は精々閻魔に金払って沙汰を軽くして貰うんだな――現世で得た金をあの世に持っていけるかどうかは分からないが、『地獄の沙汰も金次第』って言葉があるように、金さえあれば厳しい裁きを回避出来るかもだからな。」
「お金で沙汰を変えちゃうってのはあの世の裁判官としては如何なモノかと思うけれどね♪」
同時に此れにて今回の仕事は終了となったのだが、此の日を皮切りに世界各国の『IS関連の違法組織』や『武器の密売組織』、『麻薬の密売組織』と言った裏社会の組織は次々と壊滅して行ったのだった――更識と亡国機業が本格的に手を組んだ今の状況では、表の法の効力が及ばない裏社会であっても『裏社会のルール』すら無視した連中には然るべき裁きが下されるようになっていたのだ。
そして、何回目かの違法組織を叩き潰したあと、夏月組は『焼肉宝〇』のアメリカの支店にて『任務達成』の打ち上げを行っていた。
シミュレーターでトレーニングを行っていたとは言え、短期間で裏の仕事に慣れてしまったと言うのは恐るべき順応性であるのだが、此れもまた全員が『夏月と交わっている事』が影響しているだろう。
スコール達が『違法な人体実験とISの開発を行っている施設』を襲撃して制圧した際に入手した『織斑計画』に関するデータには夏月と秋五には『他者の成長を促進する因子』が埋め込まれている事が記されており、其の因子は共にトレーニングを行ったり、共に戦ったりする事で其の力を発揮して他者の成長を促進させるのだが、其の因子が最も活性化するのが実は『性的な交わり』であり、全員が夏月との夜を経験しているのであらゆる方面での成長が促進し、『人を殺す事』に対する耐性も普通よりも早く獲得する事になったのである。
「いっただきまーす!!」
「おい夏月、『宝〇カルビ』はハサミで切って食べるモノだと思っていたんだが、その認識が間違っていたのか?一口で行ったぞアイツは?と言うか、あれって一口で食べられるモノだったのか?」
「マドカ、其れは突っ込んだら負けだ。
グリ先輩はやろうと思えばワンポンドステーキですら一口で平らげる事が出来るから、宝〇カルビなんぞは余裕で一口で行けるっての……『もっと味わえよ』って言う人もいるかも知れないけど、グリ先輩はアレで味わってるから何も言えねぇ。
寧ろ、あの喰いっぷりには謎の可能性すら感じるからな。」
「まぁ、確かにコイツの喰いっぷりはいっそ清々しいがな……成程、食い放題コースを選択したのはコイツの為か。」
其の打ち上げではグリフィンが毎度お馴染みとなっている見事な喰いっぷりを披露してマドカを驚かせていた。
食い放題でも最上級のコースである『国産牛プレミアムコース』であってもグリフィンが居れば十分に元が取れるモノであり、期間限定メニューである『柔らかみすじステーキ』と『厚切りイチボステーキ』もグリフィンは一口で食べ切って見せ、他の客から拍手喝采を浴びていたのだった。
「それにしても、こうして裏の仕事に携わるようになった事で初めて知ったけど、世の中には許しがたい『悪』って言うモノが私が考えていた以上に蔓延っているモノなんだね……表の法で裁かれなかった外道を滅するためにも外法をもってして外道を裁く裏の組織は絶対に必要なんだって言う事を身をもって知ったよ。」
「だからこそ『更識』も『亡国機業』も今まで存在する事が出来ていたのよ静寐ちゃん。
表の法で裁く事が出来ない外道が存在する限り、外法をもってして悪を裁く裏の組織もまた存在し続けるモノなのよ――そんな裏の組織なんてモノは存在出来なくなる方が世界にとっては良い事なのだけれどね。」
『裏の仕事』に係わる事になった事で、更識姉妹とダリル以外の夏月の嫁ズは『世界の闇』を知る事になったのだが、同時に其れを絶対に許して野放しにしてはならないとの思いも抱いていた。
其の闇を野放しにしていたら其れはやがて世界を侵食し、最悪の場合は三度目の『世界大戦』を引き起こす引き金を引きかねない――三年前の『織斑一夏誘拐事件』も、日本政府の対応によっては日本とドイツの間で戦争が起きてもオカシクなかったのだから、少しでも戦争の火種になりかねないモノは徹底的に排除して然りなのである。
「追加注文は、『厚切りイチボステーキ』を六人前、ソースは無しでね♪」
「うわぉ、グリ姐さんグレイトォ……」
其れは其れとして、此の打ち上げではグリフィンが『健啖家』の真髄を発揮して店側が損しないようになっている『食べ放題コース』で『元を取る』と言う偉業を成し遂げたのであった――一人で3㎏以上の肉をペロリと平らげてまだまだ余裕があるグリフィンは、脳の食欲中枢と胃の消化能力と腸の吸収能力がバグっていると言っても罰は当たらないだろう。
此れだけ食べた後で、テイクアウトで『カルビ弁当』を『ご飯とお肉倍盛り』でオーダーしたのだから本気で凄まじいモノだと言う以外にはないのだが、グリフィンの大食いも、夏月組のモチベーションの維持にも繋がっていたので特に誰も何も言う事はなかった――グリフィンがご飯を美味しく食べる事が出来ている内は問題ないと言うのが、夏月組のスタンスだったりするのだ。
そして、この日以降も夏月組は裏の仕事で多大なる成果を上げ、亡国機業からスコール率いる『モノクロームアバター』とは異なる実働部隊『モノクロームアバター・オルタナティブ』の名称を与えられ、夏月は其の部隊の隊長に抜擢されるのだった。
「俺が隊長ってのはガラじゃないかもしれないが……取り敢えず、外道相手にはこれまでと同様に手加減不要のスタンスで行くぜ?異論はあるか?」
「無いわよ夏月君……外道の皆さんには、此れから先は『何時自分が殺されるか分からない恐怖』を感じながら生きて貰いましょうってところね――ドレだけの恐怖を感じたとところで、行き着く先は地獄一択なのだけれどね♪」
「私達は地獄の使者かい?……其れも悪くない。
嗚呼、愛する人と共に外道に外法の裁きを下す地獄の使者となる事がこれほどまでに甘美な事であるとは思わなかったよ……否、愛があればこそ此れも甘美に感じるのだろうね?愛は素晴らしいな夏月。」
「お前の言わんとしてる事が分かるような分からないような……取り敢えず、愛は素晴らしいって事で良いな。」
ロランが芝居がかった仕草で訳が分かるような分からないような事を言っていたが、其れは其れとして夏月率いる『モノクロームアバター・オルタナティブ』は此処に結成され、裏社会に蔓延る『法の手の届かない闇』に対する粛清の手が増えたのであった。
――――――
学園祭から二週間が経ったIS学園では通常の学園運営が行われていた。
学園祭で起きた襲撃事件に関しては厳重な緘口令が敷かれ、其れを口にしただけで地下の懲罰房送り、最悪の場合は退学処分がとられる事もあって誰も学園祭の事は口にする事はなかった――学園祭以降不登校となっている『夏月組』に関しては、『学園祭の際に起きた戦闘によって重傷を負って本土の病院に入院して、現在は面会謝絶状態にある』と言う事にして何とか誤魔化していたのだが。
だが、この日の放課後に、IS学園を揺るがす事態が起こった。
『あ、あ~~……テステステス、マイク入ってる?え~と、聞こえてるかしらIS学園の皆さん?』
IS学園に配置されている全てのモニターが突如起動したかと思った次の瞬間には、画面にスコールの姿が映っていたのだ。
『私は亡国機業の実働部隊『モノクロームアバター』の隊長を務めているスコール・ミューゼルよ。
IS学園が無事に復興した事を先ずは祝福するわ――だけど、復興が済んだからこそ私達は改めてIS学園を攻撃する事が出来る……万全の状態にあるIS学園を相手に勝利してこそ意味があるのだからね。
今から二十四時間後に亡国機業はIS学園に対して攻撃を開始する事を通達するわ。
だけど、こちらの要求に応えてくれるのであれば攻撃は中止する――私達の要求は『織斑千冬の身柄を此方に引き渡す事』ただそれだけよ。
此方の要求を飲んで学園を戦火から逃れさせるか、其れとも此方の要求を拒否して学園を戦火に包ませるか、其の何方を貴方達は選ぶのか……ふふ、良い答えを期待しているわ。』
其のスコールが口にしたのは『二十四時間後にIS学園を再度襲撃する』と言う事と、『此方の要求に応えれば襲撃は行わない』との事であり、その要求とは『織斑千冬の身柄を亡国機業に引き渡せ』との事だった。
此れは千冬(偽)の身柄を引き渡せばIS学園の平穏を守る事が出来るのだが、『ブリュンヒルデ』のネームバリューは未だに絶大なモノがあるので、IS学園としても難しい選択を迫られる事になったのだった。
To Be Continued 
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