学園祭最終日は、突如として祭りから戦場へと変わり、箒を初めとした『秋五の嫁ズ』も無人機に対処していたのだが、其処にマドカが駆る『サイレント・ゼフィルス』と全身装甲の専用機を駆るナツキが参戦した事で様相は一変した。

最初はマドカとナツキの参戦により、今回の襲撃もまたクラス対抗戦の時と同様に『国際IS委員会』による抜き打ちのセキュリティチェックかとその場に居た全員が考えたのだが……


「今回はセキュリティチェックではなく本物の襲撃だ……本気で戦わねばISを纏っていても無事では済まんぞ!
 ホラホラ、ボサッとしていると学園が火の海になってしまうぞ!!」

「く……BT兵装の技術だけでなく、操縦技術は全て其方の方が上ね……!」


マドカはその可能性を真っ向から否定すると攻撃を再開する。
マドカのIS操縦者としての腕前は国家代表レベルを凌ぐものであり、BT兵装の操縦技術もセシリアよりも遥かに上で、更に其処に全身装甲のナツキと無人機まで加わったら学園の専用機持ちだけでは持ち堪えるのは難しいだろう。
だが、其処に真耶率いる精鋭揃いの『教師部隊』が戦線に加われば其の限りではなく、特に真耶の『単騎で戦えるスナイパー』とも言える特異な戦い方はマドカも舌を巻くほどであり、このまま行けば襲撃を鎮圧するのは難しくない――いや、難しくない筈だったのだ。


「ロラン……其れに鈴達まで……一体何の心算だお前達!!」


楯無と簪とグリフィンを除く夏月の嫁ズが、『ゴールデンドーン』を纏ったスコールと共に攻撃をして来るまでは。
夏月の嫁ズの中では最強の楯無が居ないとは言え、夏月の嫁ズの実力は非常に高く、特にロラン、鈴、乱の専用機は『騎龍』であり、ヴィシュヌの専用機も『騎龍』に覚醒しているので秋五の嫁ズや他の学園専用機持ち、教師部隊とは機体の性能面で大きく優位に立っており、更には『競技用のリミッター』も解除されているので全ての攻撃が一撃必殺レベルとなっていたのだ。
そしてスコールとダリルは炎を扱う事が出来るので、『パイロットを直接燃やす事で絶対防御を強制発動させる』攻撃を行って次々と教師部隊を戦闘不能にしていった――其れでも意識を刈り取っても怪我は軽傷で済ませていたのだが。


「貴様等、此度の襲撃者の仲間だったのか!それともこの場で裏切る気か!」

「裏切ると言うのは少し違うかなラウラ?
 私達は、此の場に居ない楯無を含めて全員が夏月と共に歩む事を決めているだけの事さ――そう、夏月が一時的ではあるけれどIS学園と敵対する選択をしたからこそ私達も彼と共に其の道を行くと言うだけの事。
 君達だって織斑君と同じ道を歩む事を決めているのだろう?嗚呼、愛があればこそ其の選択が出来る訳だね。」


IS学園でもトップクラスの実力者である夏月の嫁ズが襲撃者側に付いたと言うのはIS学園からしたらなんとも有り難くない事だろう――そして、其れ以上に事態が複雑なのはコメット姉妹だ。


「ファニール、如何して……!」

「如何してって、ロランが言った通りよオニール。
 アタシは夏月と一緒に行く。だから、アンタがそっち側に留まるってんならアタシはアンタと戦う事になるわね……まぁ、多分だけど今回だけじゃなく、最低でももう一回はアタシ達は戦う事になると思うけどね。」


ファニールはオニールに近接戦闘ブレード『デブリクラッシャー』の切っ先を向けてそう告げ、そして夏月組と秋五組は戦闘状態となり、ロランvs箒、鈴vsセシリア、乱vsシャルロット、ヴィシュヌvsラウラ、ファニールvsオニール、静寐vs清香、神楽vs癒子、ナギvsさやかとの組み合わせになり、スコールとダリルとフォルテは残る教師部隊と専用機持ちの相手をするのだった。

そして同じ頃、更識姉妹とグリフィンは一般生徒と来客を誘導して地下のシェルターに避難させていた――此度の襲撃はあくまでも千冬(偽)を引き摺り出す為の前段階なので、関係ない人達には被害が出ないように考えられていたのである。
そして避難誘導が終わると、更識姉妹とグリフィンも専用機を展開して戦場に向かって行った――同時に其れは学園側にとって戦局が更に苦しくなる事を意味するモノだった。










夏の月が進む世界  Episode63
『学園祭最終日の戦闘と其の後の彼是Et cetera』










一方で校舎内の男子更衣室内では、夏月が秋五に『騎龍・羅雪』の近接戦闘ブレード『心月』の切っ先を突き付けて選択を迫っていた――夏月が参戦するまでの事を考えれば、其の選択は『このまま戦うか、其れとも大人しく白式を渡すか』との選択となるだろう。
少なくともオータムは『白式を寄越せ』と言って秋五を襲撃したのだから。


「なんてな。
 この状況で戦うか否かの選択を迫るのはフェアじゃねぇ……お前の機体はシールドエネルギーの残量が30%を切ってる状態だが秋姉の方はシールドエネルギーの残量が60%以上ある上にまだまだ元気一杯の俺が参戦したんじゃお前に勝ち目はないからな。」

「夏月、君もさっきまでの『学園全体鬼ごっこ』で追われる側だったはずなのに、なんでそんなに元気なのさ?まさかとは思うけど、疲れ知らずの無敵ファイターとか言わないよね?」

「なんでって、そんなのモンエナの最強フレーバートップ3のカオスとスーパーコーラとドクターを連続で飲んだからに決まっとろうが。
 でもって其れに加えて、寮に戻っておじやと梅干と炭酸抜いたコーラって言う『即エネルギーに変わるメニュー』を摂取して来たからバリバリ元気ってな訳だぜ……今の俺の攻撃力は神をも超えるぜ!ってのはまぁ良いとしてだ。」


だが、此処で夏月は心月を納刀して見せた。
其れは秋五からしたら謎な行動と言えるだろう――夏月は武力をもってしての選択を放棄したと言えるのだから。


「質問を変えるぜ秋五。
 お前は此のまま学園に残るか、それとも俺と一緒に来るか、どっちを選択する?どっちを選択してもお前は何かを得る代わりに何かを失う事になる訳なんだけどな。」


しかしここで夏月は新たな選択を秋五に迫って来た。
学園に留まるか、其れとも夏月と共に行くか――此れは確かに武力にモノを言わせた選択肢ではなく、更に夏月も剣を収めているので秋五の気持ち次第となる選択と言えるだろう。
学園に残る選択をすれば学園での日々を得られる代わりに夏月という親友兼ライバルを失い、夏月と共に行く選択をすれば親友兼ライバルを得る代わりに学園での日々を失う事になる。
だからこそ秋五は迷う――此の選択が、自分だけでなく嫁ズにも影響があるからだ。


「その前に聞きたい事がある……なんで学園祭でこんな事をしたんだい?
 学園祭にはIS学園の生徒だけでなく、外部からの一般人も参加している……其の一般の人達の安全は考えなかったのか!」

「学園祭だからこそだ。
 不特定多数の人間が学園を訪れるから、秋姉をはじめとした亡国機業の人間も簡単に入り込む事が出来たからな……其れと専用機を持ってない一般生徒と外部の一般参加者は楯無さんと簪とグリ先輩が地下のシェルターに誘導してるから問題はないぜ?
 亡国機業は一般人への被害を最小限にするように努力していますってな。」


取り敢えず一般生徒と一般参加者は更識姉妹とグリフィンが地下のシェルターに避難誘導した事で無事であり、夏月は秋五に其れを伝える。
其れを聞いた秋五は一先ず安堵したモノの、しかしだからと言って夏月と一緒に行くか、それとも学園に残るかの選択が出来るかと言えば其れは否であり秋五はその答えを出す事は出来なかった。


「まぁ、此の場で決めろってのは難しいかもだな――だからお前にヒントを二つやるよ秋五。
 一つ目のヒントは『白騎士事件』。より正確に言うなら『白騎士の正体』だな。そいつを調べてみろ。追加ヒントで、義母さんは白騎士事件の被害者な。
 そして二つ目のヒントは『織斑計画』、或いは『プロジェクト・モザイカ』だ。こっちに関しては碌に情報は残っていないかもしれないが、其れでもネットで調べれば何かしらの情報を得る事が出来るだろうし、束さんを頼ればより詳細な情報を得る事が出来るだろうさ。
 束さんを頼ればお前達『織斑』の真実が分かるかもしれないぜ?」


答えを出せずに居る秋五に其れだけ言うと、夏月は『騎龍・羅雪』を展開して、オータムと共に其の場を離脱して嫁ズに連絡を入れると、嫁ズも同じく其の場を離脱するのだった――離脱前に更識姉妹は戦闘に参戦後に真耶以外の教師部隊をあっと言う間に全滅させると言うトンデモナイ事をしてくれたのだが。

更に離脱後は上空で束が用意した光学迷彩ステルス機能を持った空中移動要塞に乗り込み、要塞は光学迷彩ステルスを起動するとマッハ4と言うトンデモナイ速度で学園島上空から移動し、文字通り『その場から消えてしまった』のであった。
因みに、夏月の嫁ズと秋五の嫁ズの戦いは夏月の嫁ズの方が終始優勢であった――ロラン、鈴、乱、ヴィシュヌは機体性能もぶち抜けているが、其れ以上に夏月組は全員が楯無から『殺しの技』を習っていた事が大きいだろう。
秋五組で『殺しの技』を身に付けているのは現役軍人であるラウラだけであり、剣術を修めている箒でも『殺人剣』は身に付けていなかったので、『スポーツ』と『実戦』の差が出てしまったと言う訳だ。
無論実際に『経験』があるのは楯無と夏月だけだが、『知っている』のと『知らない』、『会得している』のと『会得していない』のでは大きな差が存在するのである。
一応、紅椿の『絢爛武闘』でシールドエネルギーの回復は出来たとは言え、シールドエネルギーは回復出来てもパイロットの体力とダメージの回復は出来ないのでジリ貧になってしまい、最後の最後で参戦して来た楯無が『沈む大地』で秋五組を行動不能にしたところに、リミッター解除の『クリアパッション』を叩き込んで一気にシールドエネルギーをゼロにして見せたのであった。
ともあれ学園祭最終日に起きた襲撃から始まった戦闘は、事実上IS学園側の敗北と言う形で幕を閉じたのである。


「白騎士の正体と織斑計画……夏月の義母さんは白騎士事件の被害者……一体如何言う事なんだ?……特に僕と姉さんの姓である『織斑』の名を関した計画と言うのは……?
 此れは、本腰入れて調べてみる必要がありそうだね。」


そして一人更衣室に残された秋五は、夏月に言われた事が頭から離れず、『白騎士の正体』、『織斑計画』または『プロジェクト・モザイカ』について本気で調べようと決意を固めていた。
同時に嫁ズが全員戦闘不能になった事を白式に入った通信によって知り、自分達は強制的にIS学園に残留する事を決められたのだと知ると同時に、夏月達と自分達の間にある決定的な力の差を思い知ったのだった。








――――――








襲撃後、一般生徒と来客の安全を確認した後、学園祭にやって来ていた来客には学園長の十蔵が謝罪をした上で、後日改めて謝罪の場を設ける事として帰宅してもらい、其れ等の事が全て終わった後にIS学園では緊急の会議が執り行われ、其処で真耶が学園長の十蔵に今回の襲撃による被害を報告していた。


「IS学園側の被害としては校舎とアリーナの一部損壊、教師部隊の隊員数名が軽傷を負った程度で一般生徒及び外部から学園祭に参加していた人々の中に怪我人はなく人的被害は実質的にはゼロですが、一夜夏月、更識楯無、更識簪、ロランツィーネ・ローランディフィルネィ、凰鈴音、凰乱音、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、グリフィン・レッドラム、ファニール・コメット、ダリル・ケイシー、鷹月静寐、四十院神楽、鏡ナギ、フォルテ・サファイアの計十四名が襲撃者――亡国機業と共に学園から離脱し、現在行方不明となっています。」


IS学園の人的被害は実質的にはゼロだが、IS学園屈指の実力者である夏月組がIS学園から離反し『行方不明』となってしまったのはIS学園としては大きな痛手と言えるだろう――IS学園の最強クラスの戦力がIS学園と敵対する相手となってしまったのだから。
『最強の存在は味方であるうちは頼もしいが、敵となった時は最大の脅威となる』とは誰が言った事だったか分からないが、IS学園は正にその状況になってしまった訳である。


「十四名もの生徒――其れも専用機持ちが亡国機業を名乗る襲撃者と共に学園から離脱した上に行方不明とは……此れは由々しき事態なので、早急に捜索を開始し発見し次第彼等の確保を。暫くは其方の任務に務めてください山田先生。」

「了解です。」


十蔵は即捜索開始を命令したが、其れを了解した真耶も、その会議に出席していた秋五組も夏月達を捜索するのは難しいだろうと考えていた――と言うのも、夏月組のバックには亡国機業が存在しており、その更に裏には束の存在が見え隠れしているからだ。
亡国機業だけならばギリギリ何とかなるかもしれないが、束がバックに居るとなれば話は別だ……束が敵側に居ると言う事はつまり、『ラスボスよりも強い最強の敵』を相手にするのと同じであり、束が本気を出せば誰も夏月達の行方を掴む事など出来る筈がないのだから。


「それにしてもまさか更識君が襲撃者側に付くとは……この事を、君は知っていたのですか布仏君?」

「知っていたら報告しています。
 確かに私はお嬢様の従者ではありますが、だからと言ってお嬢様の傀儡ではありません……お嬢様が学園に損害を与えるであろう事を事前に知っていたのであれば私は其れを報告しますよ。
 私はお嬢様の従者であると同時に友人です……その友人が間違った事をしようとしているのであれば其れを止めるのまた友の役目と思っています。」

「……そうですか、そうですね……失礼な事を聞きましたね。気分を害したのであれば謝罪します。」

「いえ、此の状況では私が疑われるのは当然であると思いますので。」


続いて今度は虚に十蔵の矛先が向いた。
虚が楯無の従者である事は十蔵も知っているので、だからこそ虚に疑いを向けるのは当然の事であるのだが、虚は十蔵から言われた事を真っ向から否定して見せた。
無論此れは真っ赤な嘘なのだが、虚も『更識の人間』故に、幼い頃から『暗部』として様々な訓練を受けて来たので、自分よりも遥かに年上で人生経験が豊富な十蔵が相手であっても欺く事くらいは造作もない事であり、十蔵が欺かれてしまえば其の場の他の誰も虚の言った事を『嘘』だとは見抜けず会議は終わり、結局は『夏月達を捜索し発見次第確保する』と言う事が確定した。
しかし同時に腑に落ちない部分がある事も会議に参加した誰もが感じていた――其れは、一般生徒や来客の避難誘導を行ったのが亡国機業と共に学園を去った更識姉妹とグリフィンだった事だ。
此の三人は避難誘導が済んだ後に戦闘に参加して教員部隊や秋五の嫁ズと戦っている事を考えると態々避難誘導を行っていた意図が不明であり、同時に『襲撃は本当の目的ではなかったのではないか?』と別の目的があった可能性を考えざるを得なくなり、『次』の事を考えて学園の警備強化が早急に行われる事になり、更に今回の一軒に関しては一般生徒に緘口令が敷かれる事になり、マスコミにも報道規制を掛ける事になったのだった――世界に二人しか存在しないIS男性操縦者のうち一人が、自身の婚約者と共にIS学園と敵対する事になったなど、とても外部に漏らす事は出来ないのだから。


「白騎士の正体と織斑計画?そして一夜の義母が白騎士事件の被害者だと?」

「うん、夏月は確かにそう言った――そして、白騎士の正体と織斑計画について調べてみろともね……僕は、夏月達が今日まで僕達を騙していたとはとても思えない。
 夏月達がIS学園から離脱したのには相応の理由があったからだと思うんだ……だから、其れを知る為にも僕に力を貸して欲しい。
 僕一人では調べるにしても限界があるから。」

「貴方の頼みを断る筈が無いでしょう秋五?
 私達が少しでも力になれるのなら、喜んで協力するわ。」

「セシリア……ありがとう。」


一方で会議終了後に夏月は嫁ズに頼んで『白騎士の正体』と『織斑計画』について調べる事に協力して貰い、即座にインターネットで該当ワードを検索すると、『白騎士の正体』に関しては直ぐに大量の情報が見つかった。
その多くはインターネット上の巨大掲示板に上げられたモノであり、白騎士の正体に関しても『無人機説』、『篠ノ之束が開発した最新鋭機説』、『宇宙人の気まぐれ説』、『古代の超文明が目覚めた説』など様々だったが、中でも取り分け真実味が高かったのが『白騎士は織斑千冬説』だった。
其れが真実味が高かった理由としては他の説が根拠の薄い荒唐無稽な説であったのに対して、『白騎士=千冬説』は、後年の『モンド・グロッソ』に於ける千冬の戦い方と白騎士の戦い方が酷似している事、白騎士も現役時代の千冬の専用機である暮桜も近接戦闘タイプである事、己の力を誇示するかのような戦い方が似ている等々、千冬(偽)が白騎士である事を裏付ける情報が多かったのだ。


「白騎士の正体は姉さん?……そしてスコールさんは白騎士事件の被害者って言う事は、目的は姉さんへの復讐なのか?
 ……いや、まだそうと決まった訳じゃない……白騎士の正体が姉さんだったとして、其れと織斑計画って言うのが如何関わってくるのかは未だ分からないからね……『織斑』の秘密、其れって一体何なんだ?」

「お前の姓と同じ『織斑』の名を関した謎の計画……調べられるだけ調べてみて、其れで何も収穫が無かったら姉さんを頼るしかあるまい――学園と敵対する立場になった姉さんが協力してくれるかは些か微妙なところではあるがな。」

「箒が頼めば大丈夫じゃないかしら?
 束博士は敵味方問わず箒の事は溺愛しているでしょうから貴女が頼めば間違いなく情報を提供してくれる筈よ……束博士を思いのままに出来る貴女の存在こそが世界最強かもしれないわね箒?」

「其れは喜んでいいのか少々悩むぞセシリア。」


白騎士の正体に関しては確定的な情報が得られた一方で、織斑計画またはプロジェクト・モザイカに関してはネットでも『そんな計画があったっぽい』程度の情報しかなかったので、最後の手段として束を頼る事になったのだった。
束はIS学園と敵対状態になってしまったので、果たして情報が得られるのかと言う疑問はあったのだが、セシリアの言うように箒が直々に聞けば何かしらの情報を得る事は出来るだろう――『世紀の天才にして天災』と言われている束だが、その本質は誰よりも箒の事が大好きな『世界最強のシスコン』なので箒の頼みを断ると言う選択肢はそもそも存在していないのである。
しかし其れでもIS学園と敵対する側に回った束と直ぐに連絡を取る事は箒でも出来ず、秋五達は暫し『我慢の時』を過ごす事になったのだった。








――――――








一方で、学園島から文字通りマッハで離脱した束の空中移動要塞は太平洋上にある無人島に着陸していた。
無論此の無人島は只の無人島ではなく、束が見つけた無人島を開発して魔改造を施した島となっており、島には最高級のホテルや旅館が白目を剥くレベルの宿泊施設が出来上がっており、その施設には束が世界各国のホテルのスタッフやシェフ及び調理スタッフを徹底的に観察して開発したAIが搭載されたロボットスタッフが配置されていたので、冗談抜きに三ツ星ホテルを余裕でぶっちぎる宿泊施設となっていたのだった。

そして其の宿泊施設にて夏月組は改めてマドカとナツキと顔合わせをする事になった――移動要塞のスピードが速過ぎたため、ドッグルームから更衣室に移動して着替えている間に此の無人島に到着してしまったので互いに自己紹介する時間が無かったのだ。


「初めましてって訳でもないが、そっちは俺等の事知ってるんだよな?
 でもって俺も眼鏡の人以外は知ってるんだよなぁ……だけどまぁ、改めてコンニチワだなマドカ?……それとも、マドカ姉って呼んだ方が良いか?」

「ど、どちらでもお前の呼び易い方で良いぞ……と言うか、お前に名前を呼んで貰えただけで我が人生に一片の悔いなし!!」

「待て待て待て!人生にピリオドを打つのはまだ早いぞマドカ!」


その顔合わせの場で夏月に名前を呼ばれたマドカは、ブラコントリガー(?)が発動して盛大に鼻から愛を噴出した後に、『世紀末拳王』の様な事を言っただけでなく拳を天に向けて突き上げており、ナツキが必死にマドカの意識を繋ぎ止める事になった。
まさかのハプニングはあったモノの、マドカがやらかしてくれた事で緊張とは無縁な空気が流れ、其処からは改めて互いに自己紹介をして、夏月達は眼鏡の人物が『蓮杖ナツキ』と言う名前である事を此処で初めて知ったのだった。
そして夏月の嫁ズは自己紹介をした後に、マドカに異口同音に『宜しくお願いしますねお義姉さん』と言った事でマドカはまたしても意識を失い掛けたのであった……夏月の嫁ズに『義姉』と呼ばれるのもマドカは望んでいたのだった。ブラコンでシスコンとは、中々にマドカは『姉弟・姉妹愛』を拗らせていると言えるだろう。


「そんで、俺達はIS学園から離脱しちまった訳だが此れから如何するんだ義母さん?」

「今回の一軒でIS学園側の人的被害はゼロに出来たけど、結構派手に学園施設を壊しちゃったから其れが復興するまでは亡国機業と更識の仕事をメインに活動する事になるわね。
 そして、IS学園の復興が済んだら改めてIS学園に攻撃を仕掛けるわ――但し、今度は今回みたいな奇襲じゃなくて、襲撃する事をIS学園に伝えた上で『此方の要求を飲めば襲撃はしない』と伝えるけれどね。」

「その要求は『織斑千冬の身柄を寄越せ』だろ?」

「えぇ、その通りよ♪」


顔合わせと自己紹介が終わったところで、夏月はスコールに此れからの予定を聞くと、IS学園の復興が済むまでは亡国機業と更識の仕事をメインに活動するとの事だった――更識の仕事に関しては頭首である楯無がIS学園から離反したとて無くなる訳ではなく、そもそもにして更識は此れまでの長い歴史の中で歴代の『楯無』が真の目的を達成するために本家を離れる事は少なくなかったので、其れを考えれば今回の事もまた『楯無の歴史の一つ』でしかないのである。


『だが、奴が大人しく身柄を渡される筈がない……己の身が此方に引き渡されると知ったら奴は間違いなく身柄の引き渡し先である此方に対して攻撃を行うだろう。
 其れこそ、IS学園の地下に封印されている『暮桜』をも持ち出してな――と言うか、第二回モンド・グロッソを最後に三年間も使われていなかった『暮桜』は今更起動する事が出来るのかが些か疑問ではあるがな。』


「ん~~……普通のISなら三年間もメンテナンスしないで放置してたらスクラップになっちゃうんだけど、暮桜は如何やらコアがあの人格と共鳴してたみたいで三年間で自己進化してるっぽいね?
 尤も、自己進化したところで性能は第三世代止まりだから、束さんが開発並びに改造を施したカッ君とカッ君の嫁ちゃんの敵じゃねーし、初っ端から本気を出せばオーちゃんも余裕で勝てるんでないかな?
 グレちゃった娘には、束さんが直々に一発かましてやる心算でいるから、誰がアイツと戦う事になっても然るべきタイミングで機体に『強制停止コード』をぶち込んでやるけどさ♪」


更に其処で羅雪のコア人格が半実体化して現れたのだが、此れには亡国機業の面々は驚く事になった――羅雪のコア人格は『本物の織斑千冬の人格』であり、容姿も千冬だったのだから。
其れに関しては夏月と羅雪が説明をした事でスコール達も納得したが、マドカは『お前の事は何と呼べばいい?』と聞き、羅雪は『お前の好きなように呼べば良かろう?』と答えた事で、マドカは羅雪の事を『羅雪姉さん』と呼ぶようになったのだった。


「強制停止されて動けなくなったところをフルボッコ……時を止めて動けなくなった相手に『オラオラ』のラッシュをかます空条承太郎の如く――9ゲージでのスタープラチナ・ザ・ワールド後にスタンドモードの『スターブレイカー』を二発かました後での、本体モードでの『プッツンオラ』と本体の波状攻撃は一撃必殺のコンボだから。」

「フルボッコも良いが、一撃で仕留めると言うのもロマンではないかなカンザシ?動けなくなったところを『轟龍』のような巨大武器で叩き切ると言うのも良いモノだと思うけどね。」

「普通ならそれもあり。
 だけど、アイツには一撃で終わらせるよりも何度も何度も攻撃した後に終わらせた方が良い……簡単には殺さずに苦しみを可能な限り持続させた上で殺すのが更識流拷問術の真髄だから。」

「うっわぁ……拷問ソムリエの伊集院先生のルーツってもしかしたら更識なのかもしれないわね……」


千冬(偽)の処分に関しては簪が可成り物騒な提案をして来たのだが、どうなるかはその時の状況次第と言う事になるのだろう――仮にどんな状況であろうとも千冬(偽)に待っているのは地獄一択なのは間違いないだろうが。


「そんで義母さん、俺達はこれから何処に向かうんだ?」

「先ずは中国、続いてロシア、その次で北朝鮮ね。
 此の三国はIS登場以降、ISを使った分野で業績を伸ばしているけれど、ISの軍事転用を禁止した『アラスカ条約』を無視した機体開発を他の国よりも積極的に行っているから少しお仕置きしてあげないとだわ。
 特にロシアは未だにウクライナへの軍事侵攻を続けているから、其れを止めさせる意味でも特別厳しくやっておく必要があるわね。」

「先ずは其処からか……ったく、マジでその三国はロクデナシが作った国って言っても過言じゃないぜ――まぁ、だからこそ俺達も迷わずに本気を出す事が出来るんだけどよ。」

「ロスケ、チョンコロ、チャンチャン坊主に情け容赦必要ねーでしょマジで?
 あんな嘘八百で塗り固められた国は寧ろ滅んだ方が世の為人の為だと思ってるから、容赦なくやっちゃって良いよカッ君♪むしろぶっ殺しちまえってな感じだよあんな国はね!」

「了解しました~~……と言いたいんだけど、お前の祖国が攻撃対象になってるんだが、大丈夫か鈴?」

「あ~~……其れは気にしないで良いわ夏月。
 確かに中国はアタシの祖国だけど、短くない時間を日本で過ごしてるから、中国に帰国した際に中国がドンだけトンデモナイ国なのかって事を知っちゃったのよね……ぶっちゃけて言うなら、今の中国と言うか東アジアは嘗ての『大東亜共栄圏』の名のもとに日本が統治すべきだったんだって心底思ったわ。
 日本が管理してくれてたら、中国も朝鮮もこんな国にはならなかった筈だから。」


移動要塞は此れから中国、ロシア、北朝鮮に出向いて亡国機業が『粛清』を行う予定であり、夏月組も当然其れには参加する事となったのだが、中国出身である鈴も中国を攻撃する事には躊躇いはなかったようだ――其れは逆に言うと、中国の若者は中国に見切りを付けている者が少なくないと言う事にもなる訳なのだが。
ともあれ、亡霊の牙は『覇権主義』を貫こうとしている『共産国家』に向けられるのであった。








――――――








移動要塞が中国に向かっていた頃、秋五達には待ちに待った束からの返事が来て、返事のメールには『織斑計画』の詳細を記したPFDファイルが添付されていたのだが、そのファイルを開いた秋五組は驚愕する事になった。


「僕と一夏、そして姉さんは人工的に作られた存在……其れも『最強の人間を生み出す』と言う目的の元に……アハハ……僕達は普通の人間じゃなかったのか――僕達は、化け物だったのか……!」

「織斑計画……ドイツのアドヴァンスド計画は其れを元にしていたのか……!」


秋五は己のルーツを知って茫然自失となってしまい完全に其の表情が『無』となり、意識までもが飛びかけた。
そんな秋五を見た箒達が必死になって意識を繋ぎ止めた事で秋五は『精神的ショック』を受けた事による廃人にならずに済んだのだが、『織斑』の真実を知った秋五が受けた衝撃は想像を絶するモノであったのは間違いなく、己と千冬の存在に対する疑問と疑念が頭の中で渦巻いていたのだった――










 To Be Continued