学園祭最終日もIS学園には多くの客が訪れており、其の中でも一年一組の出し物である『ガールズバー風カフェ』はぶっちぎりの人気で、最終日も午前中から長蛇の列が出来ていた。
ホステス役の女子生徒は勿論として、バーテンダー役の夏月と秋五も休む間もなくノンアルコールのカクテルを作っていた。
「ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク……出来たぁ!!」
「アイスピックだけで球状の氷を作るって言うのは最早神業なんじゃないかと思うね。」
一年一組の出し物が大人気だったのはホステス役の女子生徒のレベルが高かったのは勿論だが、バーテンダーを務めている夏月のパフォーマンスが本職のバーテンダーに負けず劣らずの見事さだったのも大きいだろう。
アイスピック一本で氷の塊から球状の氷を作り上げ、シェイカーアクションでは両手にシェイカーを持ってカンフー映画伝説的スターである『ブルー・スリー(誤字に非ず)』もビックリのヌンチャクアクションさながらのパフォーマンスを披露してくれたのだから話題にならない方がオカシイと言えるだろう。
「と言う訳で新作のカクテル作ってみたから試飲してみてくれ秋五。」
「炭酸系なのは分かるんだけど、なんだろう色からして物凄く危険物な気がしてならないんだけど……取り敢えずカクテルの材料を利かせてくれると有難いんだけどな夏月?」
「なに、大したモノは使ってねぇって。
モンスターエナジースーパーコーラをベースにして、其処にレモンとジンジャーエール、それからマムシドリンクと高麗人参とガラナのエキスを混ぜた一口飲んだらパワー完全回復の『クレイジーモンスターエナジー』ってところだ。」
「いや、それ色々混ぜすぎだよ!パワー完全回復どころか、飲んだら脳の血管切れるんじゃないの其れ!?」
「因みに精力剤としての側面も持ち合わせてるから、夜のISバトルでは野郎は無限マグナム状態になる事も可能だぜ……と言う訳で一気に飲み干してみてくれ秋五。安心しろ屍は拾ってやるから。」
「やっぱり死ぬんじゃないか其れ!!」
「ってのは全部冗談で、コーラにレモンとジンジャーエール、レモン汁を混ぜたモノにブルーキュラソーシロップ混ぜたらヤバそうな色になっちまったんだよなぁ……やっぱ食い物や飲み物に青色を使うのは難しいもんだな。」
「はぁ、冗談なら冗談らしいテンションで言ってくれないか?君の冗談は分かり辛い上に少し怖いよ……まぁ、其れが一夜夏月って人間なんだろうけどさ。
其れよりも、最終日には生徒会主催のイベントがあって、会長さんは僕達にも協力して欲しいって言ってたけど具体的には何をやる心算なんだろう?」
「さぁ、其れは俺が聞いても詳細は教えてくれなかったから分からんが……楯無さんは『祭りは賑やかな方が良い』って考えてる人だから、普通じゃ思い付かないようなぶっ飛んだイベントをかましてくれるかもしれねぇぞ?」
夏月の冗談に秋五は驚かされたモノの、本題は学園祭最終日の本日に行われる生徒会主催のイベントについてだった。
二日目が終わった昨夜、夏月組と秋五組は楯無に生徒会室に呼び出されて、最終日の生徒会主催のイベントに協力して欲しいと頼まれ、そのイベントが『観客参加型』である事は聞かされたモノの詳細は語られていなかったのだ――普通なら断るところだが、『二人しかいない男性IS操縦者と、其の婚約者が開催側として参加していると言うのは大きな売りになるから』と頼まれては断る事も出来ないのでイベント参加を決めたのだ。あくまで秋五組はだが。
夏月組は其れより前に楯無から話を聞いていたのでイベントの詳細は知っており、そして其れがスコール率いる亡国機業実働部隊の『モノクロームアバター』が学園を襲撃する為の隠れ蓑としてのモノである事も分かっていた。
「(でもって、お前の相手は秋姉だろうな……実力的にはほぼ互角だろうが、実戦経験がある分だけ秋姉の方が有利ってところだが、お前は戦いの中でも成長するから、戦闘が長引けはその差はなくなるか。
……秋姉に、秋五と戦い始めて五分経ったら連絡入れてくれって伝えとくか。)」
一年一組の出し物にはオータムもやって来ていたのだが、夏月もオータムも互いに『客とバーテンダー』として接して親しい関係にある事を、夏月の嫁ズ以外には知られる事なく過ごし、オータムはレディースのスーツを纏った『バリバリ仕事が出来るOL』と言った風体だったのでホステス役の女子生徒から少しばかりの憧れの目を向けられて居た。
そして、マドカとナツキも来店していたのだが、マドカは髪を金髪に染めて逆立てると言う大胆な変装をしていたので、クラス対抗戦の後にモニター越しに現れた『国際IS委員会のシークレットエージェントのM』である事は当事者である夏月達にもバレる事はなかったが、バーテンダー姿の夏月と秋五に見惚れつつもなんとか鼻から愛が噴出するのを堪え、そして待機状態のサイレントゼフィルスに仕込んでいた小型カメラで写真を撮影しまくっていたのだった。
夏の月が進む世界 Episode62
『学園祭最終日は色々とぶっ飛んでいるぜ!』
午前中の客入りが一段落したところで夏月と秋五は順番で休憩を取る事になり、秋五の方が先に休憩を貰って学園祭を回っていた。
嫁ズと一緒ではなく、一人で学園祭を回ると言うのも悪いモノではなく、秋五は射的やヨーヨー釣り、金魚すくいと言った祭りの定番イベントを心行くまで満喫していた――金魚すくいでは、ポイが破れるまでに十匹モノ金魚をすくってしまったので、二匹だけ貰ってあとは水槽に戻したのだった。貰った二匹が珍しい『赤い出目金』と超珍種の『ピンクの出目金』だったのは、ある意味で当然と言えるだろう。
其れから秋五は一旦寮に戻って金魚を水を張ったバケツに移し替えてから学園祭回りを再開し、祭りの定番である『フランクフルト』を購入し、ソーセージの本場であるドイツ出身のラウラの『カリーブルスト以外でソーセージにケチャップは邪道だ。ソーセージには粗挽きマスタードが一番だ』との意見を取り入れて粗挽きマスタードのみでフランクフルトを堪能していた。
「織斑様、少しよろしいでしょうか?」
「ん?」
そんな秋五に声を掛けて来た女性が。
その女性はオレンジ色のロングヘア―が特徴的でレディースのスーツを身に纏っていた――其の女性の正体は、言わずもがなオータムだ……作戦の前段階としてオータムは秋五に接触して来たのだ。
「えっと貴女は?さっき一組の出し物にも来ていましたよね?」
「其れに気付くとは思った以上に鋭いのですね?
申し遅れました、私はIS開発関連企業『ムーンラビットインダストリー』の『巻上礼子』と言います。つきましては織斑様に弊社の新装備を使って頂きたいのですが……」
「ムーンラビットインダストリーって、夏月が所属してる企業だったよね?
其処の新装備ってのはとっても試したいんだけど、僕の白式を開発したのは倉持技研だから、他者の装備を僕の独断で試す事は出来ないんだ……だから今回はごめんです。」
オータムの勧誘はあからさまだったが、秋五は其れを見事に躱して自由時間を楽しみ、少しずれて自由時間となった夏月と合流して定番の屋台を回るなどして学園祭を満喫していたのだった。
そして昼休みを挟んで午後の部になったのだが――
――ピンポンパンポーン
『此れより、生徒会主催のイベントを開催しま~す♪
参加希望者は十三時三十分までに講堂に集まってね~~♪』
午後の部開始と同時に楯無の放送が入り、生徒会主催のイベントに興味がある生徒&一般客は講堂に集まり、講堂にはキャパシティの限界を超えた一万人以上が集まっていた。
予想を超えた参加者の数に楯無は驚いたモノの、流石に其処は暗部の長、驚きは顔に出さずに生徒会主催のイベントの詳細を述べて行く。
『良く集まってくれたわ――はじめましての人ははじめましてね?私がIS学園生徒会長の『更識楯無』よ。以後お見知りおきを♪
さて、早速だけど生徒会主催のイベント、其れは『学園全体の鬼ごっこ』よ。
此れからコンピューターが参加者の中からランダムにターゲットを選んで、其のターゲットを捕まえるのがターゲットに選ばれなかった参加者、つまり鬼の成すべき事よ――制限時間内に『ターゲット』を捕まえる事が出来たら賞品が出るから頑張ってね。
勿論『ターゲット』に選ばれた人も、制限時間まで鬼から逃げ切る事が出来たら豪華賞品がプレゼントされるので全力で逃げてね♪』
更に楯無は詳細を述べながら『ターゲット』を捕まえた参加者と、最後まで逃げ切った『ターゲット』には賞品が出ると言う事を伝えて参加者のやる気を高めて行く。
『それじゃあ、ターゲットを決めるガチャガチャ行くわよーーー!!!』
其処からガチャが行われ、『ターゲット』として選出されたのは夏月と秋五と楯無だった――『ターゲット』は三枠で、夏月と秋五が選出される事は決まって居たのだが、ランダム選出の三枠目に楯無が選ばれると言うのは予想外の事だったと言えるだろう。
『あ、あら……私?……此れは予想外だったけど、私を捕まえたのが学園の生徒だった場合には来年の生徒会長の座も追加でプレゼントね♪
IS学園の生徒会長は生徒最強の証……私を捕まえた生徒には其れを名乗る権利があるからね?さてと……取り敢えず鬼ごっこの始まりよ!』
だが、楯無は少し怯んだモノのすぐさま気持ちを立て直すと改めて生徒会主催の『鬼ごっこ』の始まりを宣言し、IS学園は学園島全体が凄まじい熱気に包まれる事となり、同時に亡国機業がいつ襲撃してもおかしくない状態となっていたのだった。
先ずはターゲットとなった夏月と秋五と楯無が講堂から飛び出し、其れから一分後に残る参加者が講堂から出撃して、最大規模の『鬼ごっこ』が始まったのであった……そして、この鬼ごっこの開始と同時にオータム達も動き始めていた。
「更識の嬢ちゃんも良く考えたもんだなマッタク……おかげさんでオレ達は動き易くなったけどよ……んじゃ、オレは夏月の弟君の方に行くとすっか。
『天才』って呼ばれた奴がどの程度なのか、先ずは見させて貰うぜ?――今度は実戦でな!」
夏月が予想した通り秋五の相手となるのはオータムのようだ。
先程の勧誘を見事に躱して見せた秋五にオータムは感心しながらも、だからこそ実際の戦闘ではドレだけの腕前であるのか興味が湧いたのだ――今や自分と互角以上に戦う事が出来る夏月の弟である秋五の実力を其の身で確かめたくなった訳だ。
こうして、生徒会主催の大イベントの裏ではIS学園を揺るがす事になる襲撃の準備が着々と進んでいるのだった。
――――――
学園島全体を巻き込んだ鬼ごっこで鬼から逃げていた秋五は、何とか逃げ切ったモノのスタミナ切れを起こしてしまっていた――この状態で襲われたら一溜りもないだろう。
一般客が出撃した後に、夏月と秋五の嫁ズも『ガーディアン』として出撃していたのだが、単純計算でターゲット一人につき三千人超の鬼が居るのだから制限時間まで逃げ切れと言うのがドダイ無理な話と言えるのだ。
「はぁ、はぁ……夏月が『絶対に必要になるから』ってモンスターエナジー・カオスを渡して来たのは間違いじゃなかったね……此れは確かにモンエナでチャージしないととても持たないよ。
最高に盛り上がるのは間違いないとして、此れはハード過ぎないかな会長さん?」
物陰に身を潜めた秋五は夏月から渡されていた『モンスターエナジー・カオス』でエネルギーをチャージすると鬼が途切れた隙を突いて物陰から飛び出して次の隠れ場所を探し始めたのだが、その最中に運悪く鬼に見つかってしまった。
「ターゲット発見!者ども、出合え、出合え~~!!」
「逃がさないよ織斑君!!」
そしてあっと言う間に鬼が集まって来て、秋五は一気にピンチに陥ったのだが、簡単に捕まるかと言えばそうは問屋が卸さない。この場合の問屋が何を扱っているのかは突っ込んではいけないのだろうが。
「秋五を捕まえたいのならば……」
「私達の屍を越えて行くのね。」
そんな鬼の先頭隊は箒のプラスチック刀とセシリアのエアガンの攻撃によって進路を塞がれてしまった――そして箒とセシリアだけでなく、ラウラにシャルロットにオニール、清香、癒子、さやかが秋五のガーディアンとして立ち塞がって鬼を喰い止めていた。
其の隙に秋五はその場を離脱して別の場所に向かっていたのだが、その最中に運悪く別の鬼に見つかってしまい、其処から全力での追いかけっこが始まり、秋五は持ち前の運動能力でなんとか追い付かれていなかったが、しかし逃げ切る事も出来ていなかった。
モンスターエナジー・カオスでエネルギーをチャージした事で疲労は回復したとは言え、だからと言ってが体力が回復した訳ではないので、秋五は可成りキツイ逃走劇となったのだが――
「織斑様、こっちです!此処に逃げ込んでやり過ごしてください!」
「え?……取り敢えず、此れは天の助けかな!」
その最中、『男子更衣室』から伸びて来た手を秋五は取り、次の瞬間には『男子更衣室』の室内に転がり込んでいた。
距離を離す事は出来なかったが、この男子更衣室前のコーナーを鬼が曲がるのは秋五が曲がってから約十~十二秒後になるので、鬼からしたらコーナーを曲がったところで秋五が消えたと錯覚するだろう。
「ふぅ……助かりましたよ、巻紙さん。」
「いえいえ、私としても織斑様とはもっと話をしたいと思っていましたので。」
秋五を助けたのは『巻紙礼子』を名乗ったオータムだった。
秋五に声を掛け、男子更衣室内に引き込んでからドアを閉めて鍵を掛けるまでの手際の良さは実に見事なモノであり、その動きには一切の無駄がない洗練されたものだった。
「僕と話をしたいって、其れってさっきの新装備を使ってくれとかそう言う事ですか?
さっきも言いましたけど、僕の機体を開発したのは倉持技研なので、その手の話は僕じゃなくて倉持技研に連絡を入れて欲しいのですが?そもそも僕の一存で決められる事でもないですし。」
「えぇ、其れは分かっています。
我が社の新装備を使って頂くのは今回は諦めるとしましょう。ですが私としても収穫なしで帰る事は出来ませんので……付きましては、手土産として織斑様の白式を頂こうかと思いまして。」
秋五は巻紙礼子がしつこく勧誘に来たのだと思って、先程と同じようにあしらおうとしたのだが、先程とは違い礼子から強烈で純粋な殺気と闘気が溢れ出したと思った次の瞬間にはISのサブアームが秋五に向かって伸びて来て、秋五は其れをギリギリで回避したのだった。
サブアームは其のまま背後にあった金属製のロッカーを凹ませていたので、もしも回避出来ていなかったら秋五は一撃で戦闘不能になっていただろう。
「ほう、良く避けたな?完全に虚を突いたと思ったんだが、コイツを避けるとは、あらかじめ可能性の一つとして考えてなきゃ無理な事だ……お前、学園祭で何か起きる事を想定してやがったのか?
優男に見えて、意外とやるみてぇだなオイ?」
「会長さんから『男性操縦者を狙う輩が来るかもしれないから警戒は怠らないように』って言われていたからね……加えて、夏月が所属してる企業を名乗った時点で貴女の事は警戒していましたよ巻紙さん。
夏月が所属している企業の名を名乗れば僕が油断すると思った、そうでしょう?」
「流石は『天才』と言われるだけの事はあるな?
大体正解だぜ……だが、如何にお前が天才でも此の状況は可成り拙いだろ?散々逃げ回って体力消耗した状態でオレと戦ったらタダじゃ済まねぇって事は分かんだろ?痛い思いをしたくなかったら大人しく白式を渡しな!」
「本当に頭が良い人間なら白式を差し出すんだろうけど、僕は天才と言われても馬鹿だったみたいだ――白式は渡さない!
そして貴女の事も倒して此処で捕らえる!なによりも皆が力を合わせて作り上げた学園祭を無茶苦茶にする貴女を僕は許す事が出来そうにない!!」
「ハッ、言うじゃねえか……学園祭を無茶苦茶にするオレを許さないってのは悪くないが、オレを倒して捕らえるか……やってみな、出来るもんならな!」
そしてそこから秋五と礼子――オータムの戦闘が始まった。
オータムの専用機『ア・スラ』はサブアームによる『六本腕』とも言える近接戦闘の強さが売りであり、その圧倒的な手数をもってして秋五を攻め立てていたのだが、秋五も楯無の地獄の訓練によって身に付けた見事なディフェンスタクティクスでクリーンヒットを許さない戦いになっていた。
更に秋五は、攻撃を防いだ刹那にカウンターを放ってもいた――其のカウンターもオータムはサブアームで防いでしまったのだが、近接ブレード一本しか武装がない白式で、手数では六倍にもなるア・スラと互角に戦えていると言うのは凄いと言えるだろう。
「中々に良い戦いをするじゃねぇか?オレの六本腕と互角に遣り合ったのは片手の指で足りるほどしか居なかったんだが……だがまだ足りねぇな?
お前は強いがマダマダオレとやるには経験が足りてねぇ……だが、学園祭をぶち壊すオレを許さねぇって怒りがお前の力を底上げしてるか……なら、お前が本気でブチ切れたらオレも楽しめるかもだな……此処は限界突破で怒ってもらうとするか――オイお前、お前の双子の兄の『織斑一夏』が死んじまったのはなんでだか知ってるか?」
「姉さんが第二回モンド・グロッソの決勝戦に出場したから、だよね?
姉さんの大会二連覇を阻止しようとする連中に誘拐されて、其れで一夏を使って決勝戦を棄権させようとしたけど、姉さんが決勝戦に出た事で一夏は殺された……其の後犯人からの声明で一夏はバラバラにされて海に捨てられて、手下も殺したって……でも、あれから三年経った今も犯人は誰なのかの目星すらついてない。」
「其れで正解だが、織斑一夏を殺した奴は今お前の目の前に居るぜ?ククク、さて、どんな気分だオイ?」
「僕の目の前に居るって……貴女が、貴女が一夏を殺したのか!?」
「ククク、その通りだぜガキンチョ!
誘拐されたアイツにトドメを刺したのは他でもないオレだ!……テメェの兄貴を殺したのはこのオレ、亡国機業のオータム様よ!
ククク……マッタクもってアイツの最期の姿は中々に見ものだったぜ?織斑千冬が第二回モンド・グロッソの決勝戦に出場したのを見て、自分は見捨てられたんだって事を知った、あいつの絶望の表情はよ!」
此処でオータムは秋五の真の本気を引き出すために悪に徹し、秋五にとってはトラウマであると同時に自分を変える切っ掛けとなった一夏の死の真相(と言う名のオータムの捏造)を告げて秋五の怒りに火を点けようとしていた。
「貴女が一夏を?
貴女が一夏を殺したのか……なんで、どうして一夏を殺した!目的が達成されなかったからって一夏を殺す必要はなかった筈だ!其れを、どうして殺したんだアンタはぁぁぁ!!」
其れは見事に成功し、一気に怒りのボルテージがマックスになった秋五はオータムに斬りかかるが、その斬撃は先程までとは異なり、オータムがア・スラのサブアームを使った六本腕でも捌くのが困難なレベルの超高速の斬撃となっていた。
格段に攻撃の質が上がった秋五にオータムは笑みを浮かべると同時に戦闘開始から五分が経ったので夏月へとプライベートチャンネルで連絡を入れるのだった。
――――――
オータムが秋五との戦闘を始めたころ、学園島全体でも事態が動いてた。
突如学園島を正体不明のISが襲撃して来たのだ――其の襲撃に対しては、真耶率いる教師部隊が応戦すると同時に、専用機持ちの生徒達が主体となって一般生徒や学園祭に参加している一般客の避難誘導を行っていた。
襲撃して来た正体不明機は真耶が機体スキャンを行ったところ、無人機である事が判明したので教師部隊も遠慮なく攻撃する事が出来た事で次々と堕とされて行ったのだが、堕とされると即次が補充されるのでキリがない戦いとなっていた。
「いやぁ、あの巨乳ティーチャーが率いる教師部隊は中々に優秀だね?
『ISを纏っていない人間は攻撃しない』って制限を付けてるとは言え、この私が作った無人機をこうもあっさり落としてくれるとは……逆に言えば、あの屑がドンだけ無能だったのかって事が証明されてる訳だけどね。」
「……あの無人機、矢張り貴女の仕業でしたか姉さん。」
「ふ~ん?……束さんの背後を取るとは、中々に成長したね箒ちゃん?」
そんな中、『東雲吏』として学園祭にやって来ていた束の背後には紅椿を展開して近接ブレードを向ける箒の姿があった。
突如無人機が学園島に現れた其の瞬間に、箒は此れが束がやった事だと看破していたのだった――『要人保護プログラム』によって家族がバラバラになるまでは箒は誰よりも近くで束の事を見ていたので、ある程度は束の思考をトレース出来るようになっていたのだろう。
「こんな事をして一体如何言う心算ですか姉さん?返答次第では、私は貴女を斬ります……何故、どうしてこんな事を!!」
「ん~~……道を踏み外しちゃった娘に母親として一発カチ喰らわせてやるため、かな?とは言っても、此れはその前段階だけどね……因みにあの無人機は、ISを纏ってない人間には攻撃しないように設定してあるから、一般生徒や一般客を攻撃する事はないからご安心をだね♪」
「道を踏み外した娘に一発カチ喰らわすって、姉さん未婚ですよね?……いや、まさかISですか!?」
「うん、正解だよ箒ちゃん――束さんが最初に作ったIS『白騎士』は盛大に道を踏み外してトンデモナイ事をしてくれたからね……生みの親として此れは見過ごせないでしょ?
だから、それを引き摺り出す為にこんな事をした――とは言え、此れは前段階だから束さんは此処でお暇するけど、箒ちゃんは此れから選択を迫られると思うよ?
そしてその選択によっては、親しい人と戦う事になるだろうね……取り敢えず、自分の心に従うのが正解だとは思うけどね――それじゃあ、さらばだ!」
「待って下さい姉さん!」
箒の問いに束は飄々とした態度で答えながらも、自分の目的を伝え、そして何とも気になる事を言って束は煙玉を使うと其の場から消えてしまった――其の場に残された箒は、束が最後に言った事が頭にこびりついていた。
選択によっては親しい人と戦う事になるかもしれない、其れが頭から離れなかった――煙玉の煙幕が晴れた後、箒は迷える瞳で虚空を睨み付けるのであった。
そして同時に、戦場にはマドカとナツキも参戦して来た事で一気に混戦の様相を呈して来たのだった
――――――
一方でオータムと秋五の戦いは秋五が劣勢となっていた。
怒り爆発状態で地力が底上げされてオータムと互角以上に戦っていた秋五だったが、怒り爆発の一時的なブーストでも体力の消耗を補う事は出来ず、徐々にオータムに追い詰められる形となってしまったのだ。
「此処までみてぇだな?まぁ、オレ相手に良くやったと思うぜお前は?(正直、体力消耗してなかったらオレ負けてたかもだからな。)」
内心では若干冷や汗を掻きつつも、オータムは更衣室の壁に叩き付けられた秋五に近接ブレードの切っ先を向ける――此の状況は秋五からしたら絶体絶命だろう。
白式はまだ動くがシールドエネルギーの残量は30%を切っており、此れでは一撃必殺の零落白夜を使う事も出来ないのだから。
「たのもーーー!!」
だが此処で夏月が更衣室のドアを蹴り破って現れた。
このトンデモナイ登場に普通ならば驚くところなのだが、秋五は安堵していた――絶体絶命の状況で自分よりも強い存在が現れてくれたのだ……此れならば何とかなる、そう思うのは当然と言えるだろう。
「秋姉、幾らなんでも煽りすぎ。
秋姉は確かに織斑一夏誘拐事件の場に居たけど、秋姉は一夏の奴を助けるためにあそこに行ったんだろ?だけど間に合わなくて一夏は殺された後だった……其れが真相だろ?」
「アハハ、流石にやり過ぎちまったか?
でもこれ位は大目に見てくれよ?お前が『天才』って言った奴と本気で戦いたくなっちまうのは分かるだろ?……特にオレみたいな人間はよ。」
「まぁ、其れは分からなくないけどな。」
だが、現れた夏月はオータムと親しげに話し始めており、其れが秋五には異質に映った。
夏月は『ムーンラビットインダストリー』の企業代表であるが、其れが『亡国機業』の一員であるオータムとあたかも顔見知りであるかのように接しているのが分からなかった。
「夏月……君はその人と知り合いなのか?」
「ん?あぁ、そう言えば言ってなかったけかな?
俺はムーンラビットインダストリーの企業代表で、更識の一員であると同時に亡国機業の一員でもあるんだ……だから、此の場では俺はお前の敵と言う事になる訳か。」
「君が、亡国機業の一員だって!?」
「その通りだ……さて、此の絶体絶命の最悪の状況で正義の味方は如何動くんだ秋五?」
その答えは秋五にとっては衝撃的なモノであったが、驚く秋五を傍目に夏月は羅雪を部分展開すると日本刀型の近接ブレード『心月』を抜いて其の切っ先を秋五の喉元に突きつけ、そしてある意味で『究極の選択』と言える選択を秋五に迫るのだった。
同時に学園島の各地では夏月の嫁ズが無人機、そしてマドカとナツキ側に付いた事で学園側との対決姿勢を明らかにした事で学園側有利の状況が崩れてしまい、其の戦闘の最中で秋五の嫁ズと向き合う状態となり、学園祭の最終日のIS学園は楽しい祭りの会場から一転して戦場になったのであった――
To Be Continued 
|