『祭りは準備している時が一番楽しい』とは誰が言ったかは分からないが、二学期最初の大イベントである『学園祭』に向けて各クラス&各部活が、夫々の出し物の準備をしているIS学園は活気に満ちていた。
普段の授業は普通に行われていたのだが、それが終わった放課後は学園祭の準備に全振り状態となっており、各クラス、各部活の熱気は限界突破で燃え盛ったバーニングソウルとなっていた。
そん中で一年一組では、夏月と秋五が新たな嫁ズと共に『学園祭の出し物に必要な物の買出し』の名目で放課後のデートを行う様になっていた――其れを提案したのはロランと意外な事に箒だった。
ロランは夏月と、箒は秋五と同室と言う圧倒的なアドバンテージがあるからこそ、『嫁ズの平等』を誰よりも考えて、新たな嫁ズに夏月や秋五との放課後デートの時間を与えるべきだと判断したのだろう……その判断が出来るのは素晴らしいと言うより他はない。
無論、放課後デートは休日のデートよりも時間が限られており、一応は『学園祭の出し物に必要な物の買い出し』との理由で外出許可を貰っているので自由に遊べる時間は少ないのだが、其れでも僅かな時間でも其れなりに遊べるゲームセンターや、買い物ついでのウィンドウショッピング等を楽しむ事は出来ていた。
「この間の実技の授業の模擬戦の時に分かった心算だったんだが、静寐は射撃の腕がハンパないなマジで?
ガンコンのシューティングゲームでノーミスってのは何度か見た事あるけど、雑魚は全部ヘッドショットで即死させて、ボスも弱点だけを攻撃して怯ませ続けて何もさせないでクリアってのは初めて見た。
弾幕攻撃なら簪の方が上だけど、精密射撃なら静寐の方が上なんじゃないか?……下手すりゃオルコットとタメ張れるレベルだと思うぜ。」
「私を含めた新代表候補生六人は夏休み中、山田先生にお願いして、山田先生の時間がある時には直接指導して貰ってたの。
で、その際に山田先生が私達の得意分野を見抜いて徹底的に其れを鍛えてくれたおかげで此処まで成長出来たんだ。
山田先生って、現役時代はガンナーだったから銃器の扱い方の指導が的確なのは勿論なんだけど、近距離戦での戦い方も物凄く的確に指導してくれて驚いた……ガンナーだからこそ分かる近距離型の弱点、其れをどうやったらカバーしつつ戦えるのかとかね。
私はガンナーよりのバランス型だったみたいで、中距離での射撃の命中精度と近距離での銃器と近接武器の使い方を徹底的に叩き込まれたわね。」
「指導する相手がどんなタイプかを見極めて適切なトレーニングを行うとは、指導者としてもやっぱり最高だな山田先生は……でもって、『近距離型じゃないから』って言う馬鹿で阿呆極まりない理由で山田先生を国家代表にしなかった日本政府とIS委員会の日本支部のお偉いさんは今更後悔してるかもな。
山田先生が日本の国家代表になってたら、日本はモンドグロッソで三連覇を達成してたかもしれないんだから。」
此度新たに日本の国家代表候補生になった鷹月静寐、四十院神楽、鏡ナギ、相川清香、谷本癒子、矢竹さやかの六人は夏休み中もトレーニングを続けていただけでなく、真耶に頼み込んで直接指導をしてもらっていたのだった。
真耶は生徒の得手不得手を見抜く力も高く、また向上心のある生徒に対してはより指導に熱が入るので、結果として静寐達六人は夏休み中に凄まじいレベルアップを成し遂げて、国家代表候補生に上り詰めたのである。
そして真耶によって判明した六人のバトルスタイルは静寐が『ガンナー寄りのバランス型』、神楽が『完全近距離型(遠距離攻撃は銃器は適性がないが弓矢型の武装であれば遠距離攻撃も可能)』、ナギが『近距離戦寄りのバランス型』で、清香が『スピード重視のヒット&アウェイのバランス型』、癒子が『ISバトルのセオリーに囚われないトリッキー型』、さやかが『普段はガンナー型、追いつめられると近距離型』と言う感じになっており、秋五組の方が中々に尖った個性が揃っているようだった。
「でもって、静寐達のそんなデータを束さんは既に得てるだろうから、近い内に学園に静寐達の専用機が送られてくるんじゃないか?
確率は可成り低いが、束さんが其の専用機の外見を『ガンダム』にした場合、静寐の専用機は『フリーダム』でナギの専用機は『ジャスティス』になるだろうな間違いなく。」
「其れは流石に著作権に抵触するから無いと思うけど……そういえば夏月君ってガンダムも好きだよね?ガンダム作品で一番好きな機体って何?」
「ガンダム型の機体ならぶっちぎりでSEEDシリーズ最強無敵のストフリだけど、ガンダム型以外の機体だと水星の魔女に登場したダリルバルデだな。」
放課後デートで雑談をしながら必要な買い物を済ませた夏月と静寐は、モノレールの駅前にあるたこ焼き屋で小腹を満たすと学園島へと戻り、少し遅れて秋五と清香が同じくモノレール駅前のたこ焼き屋で小腹を満たしてから学園島へと戻って行った。
そして二学期が始まって五日目、IS学園には束から『かっ君としゅー君の新しい嫁ちゃん達へ』とラッピングされた巨大なコンテナが送り込まれ、その中には夏月と秋五の新たな嫁ズの専用機が収められているのだった。
夏の月が進む世界 Episode60
『学園祭は準備から楽しめ!何があってもな!』
束から静寐達に専用機が送られてくるかもしれないと言う事は、夏月が楯無を通じて学園長に既に報告していたので専用機の受領は滞りなく進み、即フォーマットが行われて、其の専用機『鎧空竜』は静寐達の専用機となったのだが、其の専用機は基本的な外見は同じながらカラーリングと装備は大きく異なっていた。
静寐機は黒を基調としたカラーリングで、武装はビームハンドガンとビームサブマシンガンと近接専用のISブレードとISコンバットナイフ。
神楽機は赤紫を基調としたカラーリングで、武装はビーム薙刀と弓矢型の射撃武器であるビームアローで、ナギ機はダークブルーを基調としたカラーリングで、武装は日本刀型のISブレード二振りとビームマシンガン二丁。
清香機はベージュを基調としたカラーリングで、武装はビームライフルとビームサーベルとシールドだがバックパックに強力なブースターとスラスターが搭載されており、癒子機はオリーブグリーンを基調としたカラーリングで、武装は基本となるISブレードとISライフルを装備しつつ、スモークグレネード、スタングレネード、対BOWガスグレネード等の特殊装備を搭載――『対BOWガスグレネード』はISバトルに於いてはマッタクもって無力であるのだが、束とてそんな事は分かり切っているので、それでも敢えて其れを搭載した事には何か意味があるのだろう。
さやか機は桜色を基調としたカラーリングで、武装は遠距離型の高威力長射程ビームランチャーと近距離用のレーザーブレード対艦刀の両方を搭載している尖った機体となっていた。
国家代表候補生が増えただけでなく、彼女達の専用機も増えたのでIS学園は此の専用機の事も国際IS委員会に報告し、国際IS委員会からは機体のスペックの詳細を求められたのだが、此の専用機は国際IS委員会でも、日本政府でも、それこそ国連でも手を出す事の出来ない『この世界に生まれたバグ』、『生まれた時からチートだった』、『チートバグとは彼女の為にある言葉』、『この人に近付いたらスマホが電源オフになったんですけどマジで』等の異名を持つ、『世紀の大天才』にして『ISの生みの親』である、『篠ノ之束』が作ったモノであり、カタログスペックは兎も角として、詳細な機体スペックはIS学園でも把握し切れていなかったため、『詳細スペックは分かり次第報告』と言うに留まったのであった。
そんな訳で無事に静寐達の専用機の受領は終わり、今日も今日とて放課後の学園祭の準備なのだが、本日の放課後、夏月はダリルに『ちょっとばっかし頼みがある』と言われて彼女が所属している『IS学園プロレス同好会』の部屋に連れてこられていた。
そしてその場に連れてこられていたのは夏月だけでなく楯無とグリフィンとヴィシュヌの姿もあった。
「夏月、貴方も呼ばれたのですか?」
「若しかして、とは思ったけれど本当に連れて来られるとはね?」
「ん~~……結局なんで私達って連れて来られたのダリル?」
「俺だけじゃなくてヴィシュヌと楯無さんとグリ先輩も巻き込むってのはただ事じゃないよな?
ダリル先輩……俺達に何を要求する心算だ?」
「夏月、楯無、グリフィン、ヴィシュヌ……スマン、オレ達『プロレス同好会』の出し物に協力してくれ!!!」
マッタクもって予想していなかった事態に夏月がダリルに問うと、ダリルは夏月と楯無とグリフィンに見事なDO・GE・ZAをかました後に、何故こんな事を行ったのかを説明してくれた。
ダリルが所属する『プロレス同好会』は学園祭の出し物として、小アリーナを借り切っての『プロレス大会』を企画しており、其の大会のメインイベントが『同好会顧問と同好会会長と同好会副会長の三人タッグvs同好会会員の四人タッグ』のハンディキャップ戦だったのだ。
プロレス同好会の顧問の教師は男性で、五年前までは地方のローカル団体とは言えプロレス団体でトップを張った経験があり、更には『男女混合マッチ』で自分が三人タッグである事から、対戦相手は四人タッグと言うハンディキャップマッチを提案して来たのだ。
其れだけならば特に問題はなかった、此れが一学期のイベントであったならば。
ダリルは静寐達よりも一足早く夏休み中にアメリカ政府によって『一夜夏月の婚約者』として発表されており、プロレス同好会の顧問も当然その事を知っているので、学園祭でのイベントを盛り上げるのにダリルが夏月の婚約者となった事を使わない手はないと考え、夏月達にプロレス同好会のイベントに参加して貰おうと考えたのだ。
そして夏月以外の三人に関しては、夏月の嫁ズの中で格闘技の経験者である事から選んだと言う訳だ――ダリルは亡国機業のメンバーなので格闘技は身に付けているのだが、表向きには『中学時代は地元のアメリカでアマレスのジュニア大会で優勝経験がある』、アマレス経験者と言う事になっている。ジュニア大会で優勝したのは事実であるが。
話を聞いた夏月達は『要は客寄せパンダって事か?』と顧問に聞いたのだが、顧問もローカル団体とは元プロレスの選手なので夏月達の事を『客寄せパンダ』とは考えてはおらず、イベントの大筋から説明してくれた。
プロレス同好会のイベントは、顧問と会長と副会長が所謂『ヒール軍団』となり、ダリル率いる『ベビーフェイス軍団』と戦う『対抗戦』の形で学園祭初日に全九試合を予定しており、其のメインイベントが四対三のハンディキャップ変則マッチとなっているのだった。
其のメインイベントにて、ベビーフェイス軍団のリーダーを務めるダリルが助っ人として楯無、グリフィン、ヴィシュヌを連れて来たと言う形でチームを組んだ事にして客の興味を引き、しかし夏月の存在は此の段階では明らかにはしないのだと言う。
「俺は当日参戦の『究極のMr.ⅹ』って事?」
「そう言う事になるかな?
だけど、当日一夜君が普通に登場しても面白くないと思うから、メインイベントの変則マッチの時に、ピンチに陥ったダリル達を助けに来た形で試合に乱入して盛り上げてほしいんだ。」
「成程。」
夏月もプロレスは大好きなので、顧問の言っている事、特にメインイベントに関する話は所謂『アングル(試合全体の流れと大まかな取り決め)』だと看破したらしくより詳しく話を聞いていた。
楯無とグリフィンとヴィシュヌも最初はあまり乗り気でなかったのだが、話を聞いている内に『案外面白そう』と思ったのか段々と乗り気になって来て、アングルの提案なんかをするようになって来ていた――其の中で、『ガチで当たると危険だから』との理由で、ヴィシュヌのムエタイキックは禁じ手となり、ヴィシュヌの蹴り技はプロレスで使われる蹴り技に限定されたのだった。
「そう言う事なら○○が絶体絶命のピンチの時に会場の照明が落ちて、照明が復活したら○○装束の俺が花道に現れて、リングイン後は窮地の嫁を守るように立ち塞がって、其処から○○ってのはどうかな?」
「うむ、それは良いかも知れない。」
「其れで○○が何とか復活したところで夏月君が相手をコーナーポストに振って、其処から私達の波状攻撃で最後は○○でフィニッシュと言うのは中々に良いと思うのだけれど?」
「確かにそのフィニッシュは盛り上がりそうね……良し、それで行きましょう!ヒールは悪の限りを尽くした上で散るのが最高の華だからね。」
「つ~訳で、俺達はプロレス同好会のイベントに協力するぜダリル先輩。」
「マジでありがてぇ!!今度学食で何か奢るぜ!!」
メインイベントの流れも大体決まり、其の後は当日のコスチュームを作るために夏月達の採寸を行ってプロレス同好会との話し合いは終わり、同好会を後にしてからは夫々のクラスに戻って学園祭の準備に精を出すのだった。
因みに一年一組の出し物は『ガールズバー風カフェ』だが他のクラスの出し物がどのようなモノかと言うと、鈴と乱が所属する一年二組は『中華喫茶&台湾屋台』、ヴィシュヌとコメット姉妹が所属する一年三組は『クイズ迷路屋敷』、簪が所属する一年四組は『ISマルシェ(物品販売)』、楯無、グリフィン、ダリルが所属する競技科二年は去年楯無が所属していた一年一組が行った『冥土喫茶』のバージョンアップ版となっていた。
更に、今年から学園祭には外部からの客は誰でも入れるようになり、去年までの『招待状制』は廃止となって居たのだが、此れは『招待状』がセキュリティ面で殆ど役に立っていなかった事を去年の学園祭後に楯無が十蔵に報告していたからだ――去年の学園祭に、夏月は特殊メイクを施して性別を偽り『楯無と簪の従姉妹の更識ツルギ』として参加したのだが、事情を知っている楯無と虚以外は誰一人として其れを見抜けず、招待状で来場者数を制限しても招待状を送られた人間になり切った侵入者を完全にシャットアウト出来ないと言う事が明らかにされたと。
招待客を制限する事には効果がないのならば、フリー入場を可能にした上で学園内のセキュリティを強化した方が良いと提案し、今年からは招待状制が完全撤廃され、学園島の監視カメラは増設され、学園祭中は教師部隊が私服で見回りをする事になったのである――真耶が隊長となった今の教師部隊ならばキッチリと仕事をしてくれるだろう。
それはさて置き、夏月は学園祭の準備を堪能しており、その期間中に静寐、神楽、ナギ、ダリルとの絆も深めて行き、放課後は自クラスの出し物の準備をしながらプロレス同好会に顔を出して楯無達とプロレス技を練習をして、持ち前の運動神経でプロレスのアクロバティック技や雪崩技もマスターして行ったのだった……どんな試合になるかは当日までのお楽しみと言ったところだろうが。
そうして充実した日々を送り、学園祭まで十日を切ったある日の昼休み、スマートフォンにスコールからのメッセージが届いた。
「義母さん……そうか、遂にやるんだな。」
そのメッセージには『学園祭の最終日に貴方を迎えに行く』とだけ記されていたのが、夏月はこのメッセージが意味する事がなんであるのかを正確に理解していた。
と言うのも、スコールが夏月を更識家に預けたあの日、スコールは夏月に『私達の準備が出来たら、必ず貴方を迎えに行くから、其の時までに信頼出来る仲間を出来るだけ作っておきなさい。其れが、貴方の為にもなる事だから。』と言っていたのだ――そして、夏月は今や仲間以上の関係である婚約者が(フォルテは特殊過ぎるので除外して)十三人も存在しているので、スコールが言った事を現実のモノとしていたのだ。
「(義母さん……でも、此れは楯無さん達にも伝えないとだよな。)」
スコールからのメッセージが意味するモノがなんであるのかを夏月は理解しており、自分だけならばスコールのメッセージに諸手を挙げて賛成していたところだが、夏月はスコールの養子であると同時に更識の一員でもあるので、己の判断だけでスコールのメッセージに応える事は出来ず、結果として楯無達にスコールからのメッセージの内容を伝える事になったのだった。
―――――――
夏月から『皆に伝えたい事があるから、生徒会室に皆を集めて欲しい』とのLINEのメッセージを受信した楯無は、即座に『夏月の嫁ズ』のグループLINEで自分以外の嫁ズ全員にメッセージを送って生徒会室に集合するように伝え、そして本日の放課後の生徒会室には夏月の嫁ズがフルコンプリート状態となっていた。
「其れで、私達に伝えたい事って何かしら夏月君?」
「今日の昼休み、義母さんから『学園祭の最終日に貴方を迎えに行く』ってメッセージが入ったんだよ楯無さん。」
「スコール……時雨さんから?」
其処で夏月はスコールからのメッセージ来たと言う事と、そのメッセージの内容を伝えたのだが、其れを聞いた嫁ズ達の表情は一気に引き締まったモノとなった。
楯無と簪は『更識』の人間であり、ダリルも亡国機業のメンバーなのでスコールの正体は知っているのだが、他の嫁ズも夏月の義母である『スコール・ミューゼル』が亡国機業の幹部であると言う事は夏月の口から聞かされてたので、其のスコールが『夏月を迎えに来る』と言うのが只事ではないと理解したのだろう。
「夏月、彼女が君を迎えに来るとは具体的に如何言う事なのかな?
君は世界に二人しか存在しない『男性IS操縦者』であり、其の存在は世界各国が喉から手が出るほど欲しい存在だ……だからこそ、『男性操縦者重婚法』等と言うモノが出来上がり、一国が君を独占しないようにした訳だからね。
にもかかわらず、君を迎えに来ると言うのは、文面通りに取るならば、君をIS学園から連れ去ると取れるのだが……」
「まぁ、概ね間違っちゃいないと思うぜロラン……だけど連れ出すのは俺だけじゃなくて俺の婚約者である皆もだ。
そしてタダ連れ出すだけじゃなくて、派手にドンパチやらかしてからになると思う――普通に連れ出すのは不可能に近いから、『学園祭中に学園が襲撃されて、その際に行方が分からなくなった』って形を取るんだと思うから、間違いなく戦闘は起こる筈だ。」
「「「「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」」」」
其処でロランが『夏月を迎えに行くとは如何言う事なのか』と聞くと、夏月は『俺だけじゃなく、俺の婚約者も全員IS学園から連れ出すんだと思う』と答えた。
其れを聞いた嫁ズは楯無ですら絶句していた――夏月だけでなく、夏月の嫁ズもIS学園から連れ出すと言う事は、つまり夏月を含めて十五人もの専用機持ちをIS学園から奪う事であり、其れはIS学園の大幅な戦力低下を意味していたからだ。
千冬(偽)が此れまでの権限を全て失い、IS学園の防衛の要である教師部隊の隊長には真耶が新たに就任し、同時に有事の際の最高指揮官も真耶になった事でIS学園の防衛能力は以前よりも格段に上がったのだが、其れでも其の教師部隊をも超える力を持った専用機持ち達が一気に十五人も学園から居なくなると言うのはIS学園にとってはありがたくない事この上ないのである。
夏月、更識姉妹、ロラン、鈴、乱の騎龍シリーズは現行のISを遥かに上回る機体性能を有しており、ヴィシュヌの専用機も臨海学校の際に束が埋め込んだ『騎龍化』の因子が覚醒して『騎龍』に進化し、グリフィン、ファニール、静寐、神楽、ナギの専用機にも『騎龍化』の因子が組み込まれており、ダリルの専用機の『ヘル・ハウンド』にも、ダリルが夏月の嫁の一員となった際に束がオンラインで『騎龍化』の因子を送り込んでおり、序にダリルの恋人のフォルテの専用機『コールド・ブラッド』にも『騎龍化』の因子をインストールしていたので、その『騎龍化の因子』が全機で覚醒した際にはIS学園の教師部隊ではとても相手にならないのだ――秋五組の機体にも『騎龍化の因子』はインストールされているので、其れが覚醒すれば夏月達とも渡り合えるのかもしれないが。
「俺は義母さんと一緒に行く。
だけど皆には其れを強要はしない……俺と一緒に来るって事は、一時的にとは言えIS学園と敵対する事になる訳だからな――ファニールは俺と一緒に来た場合はオニールと戦う事になるかもしれないから慎重に判断してくれ。」
夏月はスコールと共に行く心算だったが、嫁ズには『本当に一緒に来るのかを考えてくれ』と言った。
三年前のあの日、夏月が更識の家に預けられるまでに、夏月はスコールから『自分は白騎士事件の被害者である』と言う事を聞いており、スコールが『白騎士』こと『織斑千冬(偽)』に対して深い恨みを持っている事も知っていた。
同時に夏月自身も千冬(偽)に対しては三年前の『第二回モンドグロッソ』の際に自分を見捨てた事に対して思うところがあったので、其れを清算する意味でも一時的にIS学園と敵対する事になってでも、千冬(偽)は此の手で討つと心に決めていたのだが、其れはあくまでも夏月の都合なので、嫁ズに『俺と一緒に来い』と強要する気はなかった――特に双子の妹が秋五の嫁であるファニールには。
「オニールと戦う事になるのは確かに少し思うところがなくはないけど、でもオニールを殺せって事じゃないんでしょ?……だったら私はアンタと一緒に行くわよ夏月!
何よりも、アンタの婚約者になった時点で私は何があってもアンタと一緒に居るって、アンタを裏切らないって決めてるんだから、そんな事は聞くだけ無駄ってモンよ!!」
「うふふ、言うわねファニールちゃん♪
だけどファニールちゃんの言った事はある意味で私達の総意でもあるわ……貴方が一時的にと言えIS学園と敵対すると言うのなら、私達も貴方と一緒にIS学園と敵対する。
……此の判断は『更識楯無』としては正しくないのかもしれないけど、『更識刀奈』はそうすべきであると判断したわ。」
だがファニールは、『オニールを殺さないのなら』と言う事が大前提で夏月と一緒に行く事を決め、楯無も夏月と一緒に行く事を決めていた――奇しくも楯無は夏休み中に、先代の『楯無』である父の総一郎から言われた『楯無としてよりも刀奈としての判断をする時が来る』と言うのを此処で経験する事になったのだが、此処で楯無は『更識刀奈』としての判断を優先して夏月と共に行く事を決断したのだった。
そして、楯無とファニールだけでなく、夏月の嫁ズは全員が夏月と一緒に行く事を迷わずに選択してくれた――ダリルは亡国機業のメンバーなので兎も角としてだ。
「皆……良いのか?」
「私達を甘く見るなよ夏月?
君の義母が亡国機業の幹部であると聞いた其の時から、私達は裏の世界と関わる覚悟は決めているからね……だから、君が行く所には私達は全員が一緒に行くさ――それも一つの愛の形だと思うからね。」
「ロラン……そうか。
ったく、俺が『織斑一夏』だった頃なら考えられない展開だぜコイツはよ……『織斑一夏』の味方は片手の指で足りるほどしか居なかったが、『一夜夏月』には両手の指でも足りない位の味方が居るんだからな。
だけど、それが皆の意思なら俺がとやかく言う事は無いか……なら、学園祭の最終日、その時が来たら精々大暴れやらかしてやろうぜ?
でもって、学園祭はあくまでも本命の為の下準備……本命はその後、学園祭で派手なドンパチをブチ起こした後で義母さん、と言うか亡国機業は改めて学園に襲撃予告を入れる、『織斑千冬の身柄を差し出せば襲撃は取りやめる』って条件でな。
そうすれば学園はアイツを差し出す判断をするかもしれないが、アイツは其れを聞いて大人しく身柄を渡されるような奴じゃない。必ず自ら戦いの場に出て来るだろうからな……そうなれば俺と義母さんの一番の目的は果たされるってモンだぜ。
学園祭でIS学園を離脱した後で、改めてアイツを引き摺り出して全てを清算してやる……!!」
「あは、それ良いわね夏月?
あの『血濡れのブリュンヒルデ』を血祭りにあげる……其れをやるのがアイツの嘗ての弟であるアンタってのは最高此の上無いでしょ?……アイツには『一万年続く苦痛を一万回繰り返す』最悪の地獄ですら生温いと思うから、現世で最大の絶望を与えてから地獄に叩き落とすべきよ。」
「お姉ちゃんの意見に賛成だね。
アイツには生きる価値もないから。」
『やれやれ、ここまで嫌われるとはある意味で凄いなアイツは……いや、この場合はアレを作り出した研究者達を褒めるべきか?……いずれにしても奴に終焉の時が近づいているのは間違いないか。
奴が戦場に出て来たとしても、零落白夜を無効に出来るようにはなっているから大した脅威ではないがな……いや、そもそもにして今の奴では、新たに代表候補生になったばかりの鷹月達にすら勝てんだろうがな。』
誰一人迷わずに夏月と一緒に行くと選択したのは、其れだけ夏月と嫁ズの絆が深いと言う事であると同時に、絆の深さ以上の『愛』の力があったからこそだろう――『愛』があるからこそ、嫁ズは一時的とは言えIS学園と敵対する事になる選択をしたのだ。
真実の愛があればこその選択だったのだ此れは。
「楯無さん、本当に良いんだな?」
「勿論よ夏月君。
お父様からも、『本当に大事な選択をする場面が来たその時は『楯無』ではなく、『刀奈』として正しいと思う選択を、己の本心に偽らざる選択をしなさい』って言われたからね……さっきも言ったけど、更識刀奈としては此の選択が最も正しいと、そう判断したのよ。」
「そうか……ありがとな、楯無さん。俺と来る事を選んでくれて。」
「うふふ、此れは当然の選択よ♪」
日本の暗部である更識の長である楯無に改めて聞けば、『楯無としての判断よりも、刀奈としての判断を優先して、それが正しいと思った』と言われてしまったら其れ以上は何も言う事は出来ないので、夏月は改めて礼を言って楯無達が自分と一緒に来てくれる判断をしてくれた事に感謝するのだった。
「だが、そうなった時、お前は如何する秋五?」
だが一つの懸念事項があるとすれば、それは秋五と彼の嫁ズだ。
秋五も其の嫁ズももはや千冬(偽)には見切りをつけており、『此れ以上は関わりたくない』とすら思っているのだが、だからと言ってIS学園と一時的であっても敵対する理由は何処にもないので、学園祭最終日には夏月組と秋五組が真っ向からぶつかる可能性は決して低いモノではないのである。
「簡単な選択じゃないのは分かるが、選ばないって選択肢はあり得ないからな……お前は世界と姉、最終的にどっちを選ぶのか――『織斑一夏』が死んじまった後で、其れを後悔して変わろうとしたお前がどんな選択をするのか、見させて貰うぜ。」
秋五と其の嫁ズが其の時にどのような選択をするのかはマッタクもって予想が出来ない事ではあるが、夏月は秋五がどんな選択をするのかを楽しみにしている様だった。
そして此の時の夏月の顔には『獰猛な肉食獣』の如き凄惨な笑みが浮かんでおり、其れを見た嫁ズは改めてハートブレイクされ、その日の夜には新たに『夏月の嫁』となった静寐、神楽、ナギ、ダリルが夏月と『ISバトル』を行う事になり、夏月は全員と『最低四回』やった上でマダマダ健在と言う凄まじい『絶倫』っぷりを発揮してくれたのだった。
其れは其れとして、学園祭の準備は滞りなく進み、そして遂に学園祭の日がやって来たのだった。
―――――
IS学園島で学園祭の準備が行われた頃、日本近海の名もなき島ではあるトンデモない事が起こっていた。
『…………』
其れは宇宙から飛来して地球のモグラと融合した謎の生命体が、地球の既存生物を次々と吸収して其の力を高めていたのだ――此れまでに取り込んだのは昆虫なのだが、昆虫は『全ての生き物サイズが同じだったら最強の存在』と言われており、そんな昆虫の力を得たと言うのは相当な脅威と言っても良いだろう。
カマキリの挟む力は人間の握力に換算すると500kgを余裕で越え、アリの怪力は人間に換算すると『一人でジャンボジェット機を引き摺る』事になり、ノミのジャンプ力は人間に換算すると助走なしのジャンプで東京タワーを飛び越すと言うのだから凄まじい事この上ないのだが、その驚異的な能力を宇宙から飛来した謎の存在が得たとしたら、それは間違いなく地球人類にとって脅威の存在となるだろう。
こうして束にすら悟られる事なく、地球にとって脅威となる存在は地下深くで其の力を蓄えるのだった……同時に、IS学園の地下で幽閉生活を送って居た千冬(偽)は、此の存在の事を微弱ではあるが感じ取っていたのだった。
取り敢えず断言出来るのは、千冬(偽)と、宇宙からの飛来者が邂逅したらその時は間違いなく世界にとってトンデモナイ事になると言う事だろう――そうして時は進み、IS学園の学園祭の日が遂にやって来たのだった。
To Be Continued 
機体説明
鎧空竜
束が静寐達の為に開発した第五世代の専用機であり、全機に『騎龍化』の因子が組み込まれており、搭乗者のレベルが上がるか、或いは危機的状況に陥った際に『騎龍』に覚醒するようになっている。
また試験的に『IS自己進化プログラム』が組み込まれており、此れにより『鎧空竜』は搭乗者の戦いに合わせた自己進化が出来る機体となっている。
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