夏休みの最終日である八月三十一日、その日は夏月組も秋五組もこれでもかと言う位に遊び倒した。
午前中は海に繰り出して海水浴を楽しんだ後にランチは夏らしく流しそうめんを堪能し、午後は複数のスポーツが楽しめるスポーツパークでフリーバッティングやボーリングを楽しんだ。
ボーリングでは夏月と楯無がパーフェクト三百点を叩き出し、フリーバッティングでは箒が『令和の怪物』に設定したピッチングマシンの剛球を見事にホームランして見せていた。
そして夕食は打ち上げ花火を楽しみながら河原でバーベキューで、グリフィンは最早お馴染みとなっているステーキ一口食いを披露していた。
そんな濃密な夏休み最終日を過ごした訳だが、翌日の九月一日も夏月は何時も通りに目を覚ますと、これまた何時も通りの早朝トレーニングを行って更に自分を強化していく――昨日の遊び疲れは微塵も感じさせないレベルだ。
「今日も早いですね夏月?昨日も思い切り遊び倒したというのに、疲れ知らずですか?」
「俺は『最強の人間』を作る計画の中で生まれた存在だから、そもそもにして疲労なんてモノとは無縁の存在なのかもな……てか、俺に言わせればそんな人外のポーズが出来るお前の方が本当に普通の人間なのか小一時間ほど問いたいところだぜヴィシュヌ?
両足を頭の後ろで組んだ上で背面合掌って、どうやったらそんな事が出来んだよ?」
「ヨガを毎日続けていれば、としか言いようがありません……尤も、私はまだ口から火炎を吐く事も手足を伸ばす事も出来ないので、ヨガの極意は極めてはいない訳ですが。」
「うん、其れが出来るようになったらマジで人間じゃないから。ダルシムみたいな妖怪ヨガは目指さなくていいぞヴィシュヌ。」
そしてヴィシュヌもまた早朝の瞑想とヨガを行っており、其処で『普通は絶対不可能』なポーズを決めているのもお馴染みの光景と言えるだろう――此の柔軟性は果たして何処まで凄くなるのか分かったモノではないだろう。
なにせヴィシュヌには楯無が本気で関節技を極めても全然通じず、並の人間だったらギブアップしているであろう角度で極めても全然平気な顔で、挙句の果てにはその柔軟性をもってしてするりと抜け出してしまうのだから。
「にしても今日から二学期か……なんとなくだけど、一年にとっては二学期からが本番かもな。専用機持ち、代表候補、国家代表は兎も角、一般生徒にとっては特に。
一学期は同じ所からのスタートだったが、二学期は夏休みをどう過ごしたかで大きく差がついてくるだろうからな?
一組の一般生徒の中には間違いなく超レベルアップしてるのが六人居る訳だけど、さて他に一学期の時よりレベルアップしたのがドレだけ居るのかってのも二学期の楽しみかもな。」
「其れは確かに言えてるかもしれません……夏休みを怠惰に過ごしたか、それとも全力で遊んで鍛錬して勉強したのか、その差は大きいですから。」
夏休みの過ごし方で二学期から差が出ると言うのはIS学園に於いては一般高校よりもより顕著と言えるだろう。
夏休みであっても学園の施設は利用可能であり、学園に配備されている訓練機も普段より借り易くなっているので、其の機会を有効に活用した者は大きく其の力を伸ばす反面、夏休みをダラダラと過ごした場合は一学期終了時のまま、或いはレベルダウンしてしまうので、IS学園に於ける夏休みは一種の篩い落としの場面とも言えるだろう。
そんな中で、鷹月静寐、四十院神楽、鏡ナギ、相川清香、谷本癒子、夜竹さやかの六人は夏休み中もストイックに己を鍛え、遂には真耶他数人の教師及び学園長の轡木十蔵の推薦で日本の国家代表候補生になっており、同時に静寐、神楽、ナギは夏月の、清香、癒子、さやかは秋五の嫁の座を獲得する資格を得た状態になっていた。
尚、アメリカは学園が夏休み終了の土壇場でダリル・ケイシーを夏月の、ナターシャ・ファイルスを秋五の婚約者として発表した――世界のリーダーを自称するアメリカとしては自国の人間が世界に二人しかいない男性IS操縦者との繋がりがないと言うのは色々と政治的な面でも見過ごせない部分があったのだろう。
尤も此の二人は実力的には問題ないので夏月の嫁ズも秋五の嫁ズもOKしたのだが。
ともあれ本日から始まる二学期。
其の初日の朝食も勿論夏月が作り、本日の朝食は『雑穀米』、『ネギと油揚げとなめことエノキとしめじの味噌汁』、『納豆(カツオ節、卵黄、アサツキのみじん切り、もみノリトッピング)』、『アジの開き』、『キュウリとキャベツの塩昆布和え』だった。
そして夏月が最初で最後となる『フライパンとお玉』での轟音目覚ましで全員を起こして、二学期の朝が始まったのだった。
夏の月が進む世界 Episode59
『二学期は初日からまさかの超絶急展開!』
朝食を終えた一行は制服に着替え、持ち物に忘れ物はないかを確かめた後に更識邸を出発して学園島行きのモノレールの駅へと向かっていた。
モノレールの駅まではリムジンではなくマイクロバスでの移動なのだが、此のマイクロバスもまた更識所有のモノであると言うのだから驚きだろう――更識はその仕事の関係上、様々な乗り物を有している訳だが。
モノレールの駅に到着すると、其処には同じく学園島に向かう生徒が複数居て駅は大分混雑しているようだった。
「凄い混雑だな……こりゃ満員電車ならぬ満員モノレールは確実だよなぁ?……周囲が女子だらけの満員モノレールとか、俺と秋五にとってはある意味バツゲームじゃねぇかな?」
「私達でガード出来れば良いのだけれど、混雑する車内だと其れも難しいでしょうから、此処も更識の力を使った方が良いかも知れないわね。」
二学期早々満員モノレールで学園島までと言うのは夏月と秋五にとってはメンタル的に宜しくないだろう。
夏月も秋五も複数人の婚約者が居る訳だが、だからこそ其の婚約者以外の女性との不必要な接触は避けたい訳だが、満員モノレールに乗っていたらあらぬ事を言い立てて、其れをもってして夏月と秋五に関係を迫る生徒が居ないとも限らないので、満員モノレールは避けるが吉と言えるのである。
なので楯無はスマートフォンで更識の家に連絡を入れると夏月達を再びマイクロバスに乗せ、マイクロバスはモノレールの駅から少し離れた場所にある埠頭に向かい、その埠頭には高速クルーザーが停泊していた――楯無は更識の家に連絡を入れて高速クルーザーを埠頭に回して、海路で学園島に向かうように手配したのだ。
「高速クルーザーまで所持してるとか、会長さんの家って本気でドレだけなのさ……なんて言うか、僕はリアルに『こち亀』の『中川さん』を見ているような気分だよ。」
「あ~~、そりゃあ中々に適切な表現だぜ秋五。」
そうして一行は高速クルーザーに乗って一路学園島へ。
移動中に楯無が学園に連絡を入れていたので学園島の埠頭には『万が一の時の為』に複数人の教師が待機しており、其の中の一人であるナターシャは高速クルーザーから降りて来た秋五に抱き着こうとして、抱き着く直前で真耶からハリセンの一撃を喰らって撃沈していた……アメリカ政府公認で秋五の婚約者となったナターシャだったが、其処は公私を分けろと言う事なのだろう。突っ込みにしては強烈過ぎる一撃だった事は指摘してはイケナイ訳だが。
「あの~、ナターシャさん大丈夫ですかね山田先生?」
「峰打ちだから大丈夫です。」
「ハリセンのミネウチとは一体どういう事なのだろうか……分かるかいカンザシ?」
「『スパーン!』って良い音がして炸裂するのがハリセンの本気で、音はしないでぶっ叩くのが峰打ち……ハリセンに関しては峰打ちの方がダメージが大きいから注意が必要。」
「成程、突っ込みの基本のハリセン打ちも中々に奥が深いようだ。」
取り敢えず其処から夫々の寮の部屋に向かって荷物を部屋に置くと、講堂での始業式に。
始業式は特に大きな問題はなく進み、学園長の挨拶は十蔵が定型文を使いながらも簡潔にまとめ、生徒会長の挨拶では楯無が『夏休みでチャージしたエネルギーを二学期で発散させるわよ♪』と言って拍手喝采だった。
始業式後はロングホームルームとなり、ロングホームルームが終われば二学期の初日は終了となり、あとは生徒のフリータイムである。
其のロングホームルームにて一年一組では――
「其れでは皆さんにお知らせがあります。
昨日、この一年一組の生徒である鷹月静寐さん、四十院神楽さん、鏡ナギさん、相川清香さん、谷本癒子さん、夜竹さやかさんが日本の国家代表候補生となりました。
彼女達は夏休み中もストイックに己を鍛えていたので、私他複数の教師と学園長の推薦で国家代表候補生となりました――なので、皆さんも此の六人に負けないように頑張って下さいね?」
真耶が鷹月静寐、四十院神楽、鏡ナギ、相川清香、谷本癒子、夜竹さやかが日本の国家代表候補生となった事を伝えていた。
それを聞いた一年一組の面々は自分達のクラスから国家代表候補生が誕生した事に驚きつつも、それを祝福して惜しみない拍手が送られ、静寐達は少しばかり照れながらも其の拍手に応え――そして、拍手が鳴り止んだ次の瞬間に静寐、神楽、ナギは夏月に、清香、癒子、さやかは秋五に公開告白をブチかまして来た。
真っ直ぐで純粋な好意に加えて、彼女達は国家代表候補生となっただけの実力があり、夏月や秋五のパートナーになる条件は満たしている……そして何よりも夏月も秋五も彼女達が自分達に向けている感情には気付いていたので、其の告白を受け入れて、静寐、神楽、ナギは夏月組に、清香、癒子、さやかは秋五組に加入する事になり、夫々の嫁ズも其れを承認したのだった。(一年一組の生徒でないパートナーにはLINEで連絡を入れ、休み時間に来て貰ったのだが。)
だが、夏月組への加入は夏月への本当の好意、相応の実力、他の嫁ズの承認だけでは決まらない――つまりは、夏月の真実を知ってなお、其れを受け入れて夏月と共に居る事が出来るか、その覚悟があるのかどうか、其れが一番必要な事なのだ。
なので夏月はロングホームルーム終了後に、静寐と神楽とナギを寮の自室に招いて己の真実を話す事にした。勿論他のメンバーも一緒である。
「此れだけ入ると流石に狭いな二人部屋だと……少し話は長くなるんだけど何か飲む?つってもモンエナかノンアルのビールかカクテルなんだけどな冷蔵庫に入ってるのは。」
「其れ、高校生の冷蔵庫の中身じゃなくてほぼ社畜と化してるサラリーマンの冷蔵庫の中身……」
「飲み物以外は至って普通なのだけれどね……何故かこうなってしまったのだよ♪」
「同室であるのにロランさんは止めなかったのですね。」
「止めるどころか逆に乗っかった可能性があるんじゃないかしらねロランちゃんは♪」
先ずは冷蔵庫の中身をネタにして軽く雑談をすると、新たに夏月組に加入した三人に対して夏月が『これから話す事は全て真実であり、他言無用だ。特に秋五にはな』と前置きをすると、三人も表情が真剣なモノに変わり、此れから夏月が話す事はとても重要な事であるのだと感じたようだ。
其処から夏月は己の真実――『自分が本当は織斑一夏であり、第二回モンド・グロッソの時に誘拐された事』、『その際に今の義母であるスコールと姉貴分であるオータムに助け出されて一夜夏月となった事』、『自分と秋五と織斑千冬は織斑計画と言う『最強の人類を作る計画』で生み出された人造人間である事』を告げた。
「「「…………」」」
「……まぁ、いきなりこんな話を聞かされたら、そりゃ驚くよな?……でもな、全部事実なんだ――俺は普通の人間じゃない、ある意味では生物兵器って言っても良い存在だ。
そんな俺でも、本当に良いのか?」
「えっとね、織斑計画とか言うのには確かに驚いたし、一夜君が織斑君の双子のお兄さんだったって言う事にも驚いた、それは間違いないけど、一夜君が一夜君である事に変わりはないんだよね?
普通の人間じゃないって言っても、見た感じでは私達と何が違うのか分からないし、寧ろその強さに納得したかな……うん、全然何も問題ないよ。」
「私も驚きましたが、ですが貴方が貴方である事、其れは変わらないのならば全然何も問題ありませんよ一夜さん……その程度の事で、私達の思いは変わりません。」
「私としては寧ろ織斑君のお兄さんだったって事に納得した感じ。
一夜君と織斑君って、『他人の空似』にしては似過ぎてると思ったからね……其れと、貴方が織斑一夏なら織斑先生に対しての態度もある意味で納得出来るしね。」
普通ならば衝撃の事実であるのだが、静寐も神楽もナギも驚きはしたモノの夏月の真実を聞いても其の思いは変わらなかったどころか、夏月の千冬(偽)に対しての態度や、ある意味で異常とも言える強さに納得したと言った感じだった。
あまりにもアッサリと受け入れ過ぎと言うなかれ、こうして受け入れて貰えたのもまた夏月が一学期の間に築き上げた人徳があればこそだ――一組のクラス代表としてクラス対抗戦や学年別タッグトーナメントで結果を出しただけでなく、クラスメイトと積極的に係わり、時には一般生徒と共にトレーニングを行っていたりしたので、『一夜夏月』と言う人間に対しての評価や信頼は可成り高く、それ故に夏月が本当は何者であるとか、そんな事は『炒飯にグリーンピースが乗っているか否か』以上に如何でも良い事であるのだ。
「ファニールがアッサリ受け入れてくれた時も驚いたけど、まさか鷹月さん達もアッサリと受け入れてくれるとは予想外だったんだが……俺が織斑だった事は兎も角、人造人間だったって事は驚くべきだと思うんだけどな?」
「人工的に生み出された強化人間……それはつまりガンダムSEEDのコーディネーターと同じだからある意味で耐性があるのかもしれない。」
「お前のせいかキラァァァァァ!!」
簪の言った事はある意味では間違いではないのかも知れないが、ともあれ夏月の真実を知ってなお其の思いが変わらなかった静寐、神楽、ナギの三人は正式に夏月組の一員となり、その後は夏月の専用機である『騎龍・羅雪』のコア人格である『羅雪』と対面し、其の見た目が『織斑千冬』である事に驚きつつ夏月から事の真相を聞いて納得して挨拶をし、羅雪も新たに加わった夏月の嫁達を歓迎していた。
「オレも含めて嫁が十二人も居るとは本気でハーレムだなエロガキ?……いや、オレがお前の嫁になると自動的にフォルテも付いてくるから十三人か?」
「サラっと自分の恋人を俺の嫁にするなよダリル先輩。」
二学期は初日から急展開だったが、夏月が己の真実を話し、静寐、神楽、ナギが其れを受け入れ、羅雪が三人に挨拶し、その際には当然の如く驚かれたが、羅雪の正体に関しても説明し、静寐達はまたトンデモナイ秘密を知った訳だが其れもまた受け入れた後は、『e-スポーツ部』の部室で夏月組に新加入したメンバーの歓迎会が行われ、其れは最終下校時刻まで続いて大いに盛り上がった。
其の歓迎会の最中、メールで『IS学園e-スポーツ部にKOF2002UMでのオンラインマッチを申し込み』が届き、其れに返信すると直ぐに返信が来て、『オンライン対戦部屋を設置します』との事だったので、すぐさまPS5を起動してKOF2002UMを立ち上げるとオンラインでの対戦部屋を検索し『vsISGAKUEN』のルーム名を見つけると、其処に入室してオンライン対戦開始。
e-スポーツ部での格闘ゲーム最強は夏月なので、夏月がオンライン対戦を行ったのだが、夏月は得意の投げキャラのチームではなく、『草薙京、テリー・ボガード、リョウ・サカザキ』の『SNK格ゲー主人公チーム』を使って対戦相手を圧倒していた。
「強いね一夜君……ううん、此れからは夏月君って呼ばせて貰うけど。
そう言えば貴方は私達の事を受け入れてくれたけど、私達に恋愛的な意味の好意を持ってる訳じゃないんだよね?……好意を持っていないのに告白を受けてくれたのはどうして?」
「格ゲーで俺に勝つなんぞ百年早いってな。なら俺も、名前で呼ばせてもらうぜ。
でもって俺は確かに静寐達に恋愛的な好意を持ってる訳じゃないが、でもクラスメイトとして、同じ学園に通ってる仲間としての好意は持ってる。
ヴィシュヌとグリ先輩とファニールも最初はそんな感じだったけど、今じゃ愛しく思ってるから、恋愛感情がなくても愛を育む事は出来るんだって、そう思ってるんだ俺は。衝動的な恋よりも、育んだ愛の方が価値があると思うしな。」
「それは、確かにそうかもしれませんね。」
「愛か……それじゃあ、今夜さっそく一発やってみっかエロガキ!」
「ダリル先輩、俺はそんな節操なしじゃねぇからな?
最低でもデート一回した後だやっちまうのはな!いや、それでも十分早すぎると思いますけどねぇ!!つーか、俺の事を万年発情性欲野郎みたいに言うんじゃねぇっての!
少なくともブラチラパンモロのアンタにだけは俺はエロガキとは言われたくないぜダリル先輩!!つーか百歩譲って俺がエロガキで良いとしたらアンタはなんだ?エロメスガキか!?」
「さぁて、そいつは如何だろうなぁ?」
e-スポーツ部での歓迎会は大いに盛り上がり、夏月がKOF2002UMのオンライン対戦で無双していた事も其れに拍車をかけていた――そうして盛り上がった後に、全員が部室で寝泊まりする事になり、二学期初日は急展開からの濃密な一日となったのだった。
尚、秋五組の方でも新たな婚約者は好意的に迎えられていた。
因みに、夏休み中に急成長を遂げたコメット姉妹に、多くの生徒が『誰?』、『あんな子居たっけか?』と言った反応を示したのだが、コメット姉妹だと言う事が分かると一様に驚く事になり、急成長の理由なんかを聞いて来たのだがファニールもオニールも己の急成長に関して心当たりのある事は、内容が内容だけに適当にごまかしてはぐらかしていたのであった。
――――――
IS学園の二学期の最初のイベントは学園祭だ。
普通ならば最初の学園イベントは体育祭であり、例年ではIS学園も二学期最初の学園イベントは体育祭なのだが、今年は異例の男子生徒が二人も居る事で体育祭の種目選びが難航して例年通りの開催が難しくなったので、今年限定で二学期の最初のイベントは学園祭になったのだった。
学園祭では各クラス、部活ごとに店を出して、ドレだけの客を呼び込む事が出来たのかが重要な要素だ――集客率が最も高かった店には生徒会から特別ボーナスが出るとあっては此れは気合が入るだろう。
そんな訳で二学期二日目のロングホームルームでは『学園祭での出し物』を何にするかの学級会議が行われ、其れはもう怒涛の勢いで様々な案が出て来た。出て来たのだが……
――『夏月と秋五とツイスターゲーム』、『夏月と秋五とポッキーゲーム』、『夏月と秋五とレスリング基本講座』、『夏月と秋五のファッションショー』etc…etc
出て来た案はドレも採用出来るモノではなく、議長を務めるクラス代表である夏月は副議長を務める副代表のロランに『全部ボツで』と伝え、ロランは出て来た案全てにデカデカとバツ印を付けて『不採用』と書き加えていた。
これ以上トンデモナイ案が出てきたら秋五も何か言ってやる心算だったのだが、その前に夏月が全部ボツにしたのでホッとしているようだった……秋五組の中でも箒は『秋五とポッキーゲーム……秋五と……』等と呟きながら顔を真っ赤にしていたが、なにやら妄想したのだろう。
なんにしても夏月と秋五の婚約者がクラス内に合計で十人も居ると言うのにこんな案を出して来た彼女達の心臓の強さは相当なモノと言えるのかもしれない……嫁ズが敢えて何も言わなかったのは婚約者としての余裕か、其れともそもそもこんな案が通る筈がないと考えているからなのかは分からないが。
「え~~、全部ボツにするって酷くない一夜君?其れに、案が出ただけで採決もしてないのに。」
「採決するまでもなく議長権限でボツだこんなモン!
大体俺と秋五の負担がハンパない上に誰得だよこんな出し物?誰も得しない上に俺と秋五にだけ負担が集中するって事で全部却下だ!異論は此れまた議長権限に於いて全て認めない!」
「職権乱用!権力の横暴だ~~~!!」
「やかましい、使うべき時に使わないで何が権力だってな!
今この学級会議に於いては俺が最高権力だ!恨むなら俺をクラス代表として認めた自分達を恨めってんだ!!権力最高!!」
勿論、採決もせずに全部ボツになった事に対してブーイングが上がるが、夏月はどこぞの蟹のような髪型をしたデュエリストが聞いたら『オイ、デュエルしろよ』と言い兼ねないような事を言って強制的にブーイングをシャットアウトした。
この学級会議に於いて議長を務めている夏月の決定は絶対であり、正当な理由がない限りは其の決定を覆す事は出来ない――そして今回の事は、案を出した生徒は『貴重な男子を活かさない手はない』と言う理由だけで提案しており、倫理観や夏月と秋五に掛かる負担其の他諸々はマッタク全然考えていなかったので夏月の決定に対して異を唱える事は出来なかった訳である。だからこそ夏月も権力の暴力を使った訳だが。
「秋五とのポッキーゲーム……私は全然ウェルカムだけれど?」
「ナターシャ先生、今度は伝説の突っ込み武器『10tハンマー』を喰らってみますか?」
「其れは遠慮するわ真耶先生。(滝汗)」
ナターシャは悪乗りしかけたが其処は真耶がとっても良い笑顔で喰い止めた。
千冬(偽)が完全に失墜した今、真耶はIS学園の教師陣では最強の存在となっており、其の指導力の高さと親しみ易さから生徒からの人気も高く、実力的にも現役の代表候補生や国家代表と互角に戦える事から、元軍人のナターシャでも真耶の本気の覇気には気圧されてしまったのである。
「つっても、此のままじゃ出し物が決まらない訳なんだが、何か良い案は無いか?勿論、ボツになった案以外で。」
「ふむ、其れならばIS学園は基本女子高であると言う事を活かして『ガールズバー』と言うのは如何だろうか?
女子はホステスとなり、秋五と夏月はバーテンダーとなればやって出来ない事もないだろうと思う――流石にアルコール類は提供出来ないが、ソフトドリンクのカクテルならば提供出来るし、スナック類も冷凍食品やレトルト食品を使えば簡単に出来るだろう?」
とは言え、此のままでは出し物が決まらないので夏月は改めて『何か案はないか』と聞いたところ、新たな案を出してくれたのはラウラだった。
ラウラは黒兎隊の副官であるクラリッサから日本のサブカルチャーを可成り間違った知識を含めて大量に教えられていたのだが、今回は其の知識を有効活用する事が出来た。
『ガールズバー』と言うと少しばかり『お水系』のイメージが無くもないが、本来は女の子と楽しくお酒を楽しむ場であり、少しアレンジしてアルコール類を提供しないようにすれば学園祭の出し物としても充分に使える物ではあったのだ。
夏月と秋五はバーテンダーをやれば良いと言うのもポイントだろう――バーテンダーならばソフトドリンクのカクテルやスナックを作る事が仕事になるので少なくともボツ案のように夏月と秋五にだけ負担が集中する事は無いのである。客の相手は他のクラスメイトが行うのだから。
「ガールズバー風の出店……アリかもね!
IS学園は基本が女子高だから学園祭には男性客も多いと思うし、其の男性客を纏めて呼び込めるよ此れなら!一夜君と織斑君のバーテンダも学園の生徒や女性客を引き寄せる要素になると思うからね。」
「ラウラ、ナイス提案!」
そしてラウラの提案は好評で、更に其処から『ホステス役の女子はコスプレしても良いんじゃないか』、『どうせならメニューにオリジナルの名前を付けては如何か?』、『一夜君はチョイ悪系不良バーテンダー、織斑君は正統派爽やか系バーテンダーが良いと思う』、『店名は『Bar
IS Girls&Guys』で如何?』等々の意見が出て来て、そしてラウラの提案以外に他の案は出なかったので、一年一組の学園祭での出し物は『ガールズバー風カフェ』に決定した。
「ガールズバー風カフェで決まった訳だが、そうなると山田先生とナターシャ先生は如何なる?」
「マヤ教諭はカフェのママで、ナターシャ教諭はカフェのオーナーで良いんじゃないかな?
個人的な意見を言わせて貰うのであれば、マヤ教諭には着物をアレンジした衣装がよく似合うのではないかと思っている……そしてその和の衣装を絶妙に着崩してくれれば言う事なしだね。」
「ロラン、お前其れはぶっちゃけ過ぎだろ……そもそも山田先生が其れを承認するとは思えないし。」
「私がカフェのママですか……分かりました、その大役謹んで務めさせて頂きます!着物のアレンジ衣装を着崩してくれと言うなら其れにも応えますよ?学園祭を盛り上げる為なら、余程の事じゃない限りは私はやっちゃいます!」
「と思ったら意外とノリノリでしたとさ!」
真耶も此の出し物にはノリノリであり、ナターシャも『オーナー』との立場にノリノリであったので問題はないだろう。
こうして一年一組の学園祭での出し物は決まり、その日は其の後の授業も滞りなく進んだ――実技の授業では、新たに日本の国家代表候補生となり、夏月の婚約者となった静寐、神楽、ナギと一般生徒三人によるチーム戦が行われ、静寐(ラファール・リヴァイブ)と神楽(打鉄)とナギ(ラファール・リヴァイブ)のチームが見事な連携で相手チームを圧倒してノーダメージのパーフェクト勝利を収め、真耶は『スタートラインは同じでも、日々の鍛錬の差で此処までの違いがあるんです。皆さんも彼女達に負けないように頑張って下さい。』と言って生徒達の向上心に火を点けていた。
専用機持ちでない一般生徒であっても日々己を苛め抜くレベルの鍛錬をしていれば国家代表候補生に昇り詰める事は出来ると言う事をクラスメイトが証明してくれたのだから向上心にも火が付くと言うモノだろう……新たに日本の国家代表候補生となった此の六人の存在は学園の生徒全体に対して良い刺激になったのは間違いなさそうだ。
――――――
「あは、良いね良いね、良いねぇ?
かっ君としゅー君の隣に立つ事が出来るのはローちゃんや箒ちゃん達だけだと思ってたんだけど、まさか一般生徒に過ぎなかった彼女達がその資格を得るとは束さんも思ってなかったよ♪
束さんの予想を超えてかっ君としゅー君の隣に立つ資格を得た彼女達には束さんが直々に専用機を用意してやるべきだよね!此れは束さんは俄然燃えて来た!正に束さんの魂は燃え盛ってバーニングソウルさ!」
同じ頃、IS学園の様子を盗撮――もといドローンカメラでモニターしていた束は、夏月と秋五に新たな婚約者が出来た事に驚きながらも彼女達に専用機を作る事を決めていた。
束が彼女達にどのような専用機を用意するのかマッタクもって不明ではあるが、束が直々に開発した機体であるのならば現行の第三世代機をよゆうのよっちゃんイカで凌駕しているのは間違いないだろう。
「イキナリ騎龍でも良いけど、ある程度のレベルに達したら騎龍に変わる機体の方が良いかな?最初から騎龍を作るよりも、騎龍化の因子を組み込んだ機体の方が作り易いしコスパも良いからね~~?
騎龍化の因子を組み込んどけば、必要な時には羅雪の中のちーちゃんが因子を強制覚醒させてくれるかもしれないしね♪いや~、色々と楽しくなって来たよ此れは!!」
こうして束は新たに『騎龍化の因子』を組み込んだ機体を六機開発して『かっ君としゅー君の新しい嫁ちゃん達へ』とラッピングした巨大なコンテナをIS学園に送り込むのだった。
同時に其れは束が漠然と感じていた『近い未来に起こりうる地球全土を巻き込む戦い』に対する布石でもあったのである――とは言え、此の先にどんな未来が待っているのかは、未だ誰にも分からない事だろう。
だがしかし、少しずつだが確実に決戦の時は近付いているのだった。
To Be Continued 
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