更識の仕事に夏休みと言うモノはなく、IS学園が夏休みであっても更識の仕事で夏月と楯無と簪が夜に出掛ける事は少なくなかった――夏月の嫁ズには更識の仕事の事は話しており、更識がどんな家であるのかも話していたのだが、秋五組は更識の仕事や家の事はマッタク知らなかったので、秋五がそれとなく聞いた事もあったのだが、其処は楯無が話せる範囲である『警察、自衛隊とは異なる治安維持機構のトップである事』、『主な仕事は要人の護衛や重要人物の監視』等を話す事で納得してもらっていた――裏の仕事に関しては秋五達にはまだ話すべきではないと判断したのだ。
そんな中で今日も更識の仕事に出掛けた更識姉妹と夏月。
本日のターゲットは警察でも捜査が難航している『連続レイプ事件』の犯人だ――犯人の親は警視庁の上の方の人間であり、息子の犯行及びその証拠を自身の持つ権力で揉み消していたのだ。
身内の犯罪を表沙汰にしたくないとは言え、法の裁きを受けずに犯した罪も償わずにのうのうと生きている事が許される筈もなく、其れが結果として更識のターゲットとなり、外法の裁きを受ける事になってしまった訳だが。
「取り敢えず眠っとけ!」
「暫し、良い夢を見てね♪」
犯人の男が暮らしているのは親の別荘であり、其処には金で雇われた屈強なボディーガードも存在しており、普通ならば正面から押し入るのは相当に難易度が高いだろう。
だがしかし、ありとあらゆる格闘技・武術を身に付けている更識の人間にとっては表の世界のボディーガード程度は脅威の存在ではなく、夏月と楯無は門番のボディーガード達をあっという間に気絶させて無力化すると、真正面から犯人が居る別荘内部に乗り込み、内部の使用人には即効性の睡眠剤スプレーを吹き付けて眠らせ、警備担当と思われるボディーガード達は出会い頭に速攻で叩きのめして無力化し、突入から僅か五分ほどで目的地であるターゲットの居る部屋の前まで到着し、そしてその部屋の扉を夏月が派手に蹴り破った。
「お楽しみのところ申し訳ないけれど、年貢の納め時よ腐れ外道さん♪」
「醜悪な 腐れ外道は 地獄逝き~~……俺達から逃げられるとは思うなよ?」
「「「「「!!?」」」」」
部屋の中ではターゲットと其の仲間と思われる如何にも真面な職業には就いていなさそうなチンピラ……否、チンピラにすらならない半グレと思われる男達が昼間から酒盛りをしていた。
突然の乱入者に驚いた男達だったが酒が入っている状態では直ぐに動く事は出来ず、瞬く間に夏月と楯無に意識を刈り取られて戦闘不能になり、ターゲットの男はイキナリの事に慌てながらも懐からナイフを取り出して攻撃するも、夏月は其れを簡単躱すとカウンターのローキックで膝を破壊し、更にカイザー・ニーキャノンでナイフを持った手の骨を砕き、その隙に楯無が背後に回ってワイヤーで首を絞めて意識を刈り取る。
こうして確保されたターゲットは更識家の地下にある拷問部屋にて楯無が用意した『夏休み拷問スペシャル(人間ダーツ、人間バーベキュー、腹上ねずみ花火、人喰い鮫入りプールで水泳)』を喰らった末に地獄へと叩き落されたのだった。
そしてターゲットの親は息子の犯罪を隠蔽していた事が明らかになって懲戒免職となった上で『犯人隠匿』、『証拠物違法廃棄』等々の罪で裁かれ、『懲役六年』の実刑判決を受けたのだった……悪事は最後まで貫き通す事は出来ないと言う事だろう。
「みたいな内容の漫画をウェブで公開しようかと思うんだけどどうかな?」
「簪ちゃん、此れは色々とアウトだわ……名前を変えるのは当然にしても、内容も完全フィクションにしないとヤバいわ。知ってる人が読んだら何の事か分かってしまうわよこれでは。」
「うん、此れはダメだろ簪……どうせやるなら名前を変えるだけじゃなくて登場人物の容姿も完全に別人にしないとだぜ?……マッタク無関係の人間がフィクションとして読むには面白いのかもしれないけどな。」
「登場人物が完全にフィクションならまだ良いかも知れないけど、この状態での公開は絶対にNGよ簪ちゃん?」
「お姉ちゃんと夏月の性別を入れ替えればそれだけで割と大丈夫かも……折角ネームを完成させたのをボツにするのは勿体ないから、公開しても問題がないように修正してからピクに上げる事にする。」
「ネットに上げるのを止めはしないのね……取り敢えず修正したら見せて頂戴な。本当に大丈夫かチェックするから。」
「ん、分かった。」
此処までの話は、実は全て簪がネットに上げようとしていた漫画の内容だったのだが、内容が実際の更識の仕事を題材していたので大問題であり、そもそも内容以前に楯無と夏月が実名で、しかも容姿が本人そのものだったので楯無も夏月も当然の如くダメ出しをして、しかしそれでも簪は諦めずに登場人物の名前と容姿、更に楯無と夏月の性別を入れ替えた完全オリキャラとした上で内容も完全なフィクションとしてネット上で公開する事を考えていたりした……オタク根性は早々簡単に己が作ったモノを諦めはしないのである。
楯無を『有剣(うつるぎ)』、夏月を『華月(かづき)』と名を変えて性別も入れ替えて描き直した漫画はネット上で大人気となり、簪のSNSでのフォロワーの数も一気に爆増するのだった。
夏の月が進む世界 Episode58
『夏休みEvent FinalRound~コミケでコスプレです!~』
夏休み最後の土曜日、一行は東京ビッグサイトへとやって来ていた。
その目的はタダ一つ――本日東京ビッグサイトで開催されるオタクにとっての夏の一大イベント『コミックマーケット』に参加するためである……とは言っても同人サークルとして参加するのではなく、コスプレでの参加だ。
夏休み前から簪は此の日の為に複数のコスプレ衣装を制作しており、夏月組と秋五組全員のコスプレ衣装を一人二着ずつ完成させていたのだ……簪は拘り派なので、細部までとことん再現した最高レベルのコスプレ衣装をだ。
「いやはや、凄い人だなこれは?
一般のお客さんは会場に入るまでに数時間掛かるんじゃないのか此れは?」
「間違いなく掛かる。
昨日の夜からスタンバイしてた人なら兎も角として、今朝から並んだ人は六時の人で会場入りが出来るのは早くて十時……コミケでトップ会場入りすると言うのは可成りのハードモード。」
「そう、みたいだね……初めて来たけど、此れは凄いな。」
会場である東京ビッグサイトには『何処からこれだけの人間が集まってきたのか?』と思う位の人が集まっており、其れがコミックマーケットがドレだけ夏の一大イベントとなっているのかを示していた。
一般客は会場入りするのに長蛇の列に並ばなければならないが、サークル関係者やコスプレイヤーは別の入口から会場入りする事が出来るので直ぐに会場内に入る事が出来るので、夏月達はコスプレイヤーの為に用意された更衣室に向かって行き、更衣室の前で男女に分かれて着替える事になった。
「コスプレって言うのは初めてやるけど、なんだかドキドキするね。」
「だろうけど、慣れちまうと中々に楽しいもんだぜコスプレってのは……特に簪お手製のコスプレ衣装はクオリティが滅茶苦茶高いから、見た目だけならキャラになり切る事も難しくねぇんだわ。
衣装だけじゃなく、小物も確り作り込まれてるからな……此のガンブレードなんか、マジで本物みたいだからな。」
「簪さんの器用さには頭が下がるね。」
そうして着替えて更衣室から出て来たのだが、一行のコスプレはレベルが凄まじく高かった。
夫々のコスプレは、夏月が『ファイナルファンタジーⅧ』の『スコール・レオンハート』、楯無が『ファイナルファンタジーⅩー2』の『ユウナ(ガンナー)』、簪が『ドラゴンボール』の『ケフラ』、ロランが『ザ・キング・オブ・ファイターズ』の『アンヘル』、鈴が『空の軌跡』の『エステル(SC)』、乱が『リリカルなのは』の『高町なのは(Vivid
Ver)』、ヴィシュヌが『ストリートファイター』の『エレナ』、グリフィンが『ザ・キング・オブ・ファイターズ』の『レオナ(ⅩⅣ)』、ファニールが『遊戯王』の『水霊使い・エリア』と言う出で立ち。
そして秋五組は秋五が『ファイナルファイト』の『ガイ(ストZEROVer)』で、箒が『リリカルなのは』の『シグナム(劇場版)』、セシリアは『私の推しは悪役令嬢』の『クレア=フランソワ』、ラウラは『リリカルなのは』の『チンク・ナカジマ』、シャルロットは『ドラゴンボール』の『未来トランクス(精神と時の部屋での修行後)』、オニールは『遊戯王』の『スターダスト・トレイル』と言う出で立ちで、会場入りするや否やコスプレイヤー目当てで会場にやって来ていた『レイヤー撮影隊』に取り囲まれる事になっていた。
夏月と簪はゴールデンウィークの際に同じような状況になっていたので特に慌てる事はなかったが、写真の被写体になる経験がない他のメンバーは突然の事に慌ててしまったのは致し方がないだろう――其れでも即対応した楯無達は流石と言うべきだが。
「スコール君はガンブレードを構えて不敵に笑って、ユウナちゃんはハンドガンを構えながら挑発的なポーズで。
ケフラちゃんは気を溜めるポーズ、アンヘルちゃんは出来たら勝利ポーズの一つの『コーンな感じ?』で!エステルちゃんは棒術具を脇に抱えてブイサインで、なのはちゃんは勝気な表情でレイジングハートを構えて、エレナちゃんはY字バランス、レオナちゃんは手刀を構えて、エリアちゃんは杖を掲げてくれるかな?」
「ガイは腕を組んで、シグナムは抜刀して不敵な笑みを、クレアは高笑いのポーズでチンクはランブルデトネイターを構えて、トランクスは剣を逆手に持って、スターダスト・トレイルはシンクロの準備に!」
撮影隊の希望のポーズを可能な限り応えつつ、夏月達はアドリブを交えながら撮影会を盛り上げて行った――特に人気だったのは夏月扮する『スコール・レオンハート』と、楯無扮する『ユウナ』の組み合わせだった。
スコールもユウナもファイナルファンタジーシリーズで主人公を務めたキャラクターだが、他のシリーズの主人公にはない個性が人気で、発売から彼是二十年以上経った今でも凄まじい人気を誇っており、そのコスプレとなれば自然と人が集まり、夏月と楯無のツーショットを求める撮影隊で溢れかえっていたのだった。
勿論他のメンバーのコスプレも完成度が高く、特にエレナコスのヴィシュヌと、レオナコスのグリフィンには『レイヤーの写真を求める』男性陣が殺到していたのだった……エレナコスのヴィシュヌとレオナコスのグリフィンはセクシーさが限界突破しており、男性撮影者の多くは股間のミサイルが発射スタンバイ状態になって前屈みになってしまったのだが、其れはある意味で仕方ないだろう――そんな彼等には夏月から容赦ない殺気を向けられてビビッて退散する場面もあったのだが。
また、箒の『シグナム』も完成度が非常に高く、撮影を求める声が多かった。
『大和撫子』と『サムライガール』が同居している箒の『黒髪のシグナム』は新鮮かつ、レヴァンティンを構える姿は剣道・剣術を修めているが故に非常に安定感があり、箒の『キリッ』とした雰囲気もシグナムのイメージにピッタリだったようだ。
「取り敢えず一段落ってところだな……此処まで注目されるとは、やっぱり簪の手作り衣装は完成度バリ高いって事なんだろうな?着替えただけなのに此れだけ注目されるんだからな。」
「真のコスプレは衣装のみで勝負すべき。
髪型を弄るのは兎も角として、髪を染めるのはまだ甘い……髪色をキャラと同じにしなくとも衣装と髪型だけでキャラになり切るのが真のコスプレ。奇しくも今回は箒がそれを証明してくれた。」
「あはは……箒可成りの人気だったからね。」
「正直此れほどの人に囲まれる事などなかったから凄く緊張してしまった……緊張が顔に出ないようにすると言うのも中々に難しいモノだと実感したぞ?」
「その割にはノリノリでポーズを決めているようにも見えたけれど……人は緊張が限界を超えると逆に冷静になると言う事なのかしらね?」
会場入りしてから一時間半が経った頃には撮影会も一段落したので、一行はコミックマーケットそのものを見て回る事にした。
とは言ってもコスプレイヤーは目立つので行く先々で撮影されてしまう事になったのだが、それでも各種サークルを見て回って、どんな同人誌が売られているのかを見るだけでも楽しかった。
ちょうどこの日は『全年齢』の日だったので、二次創作でもR-18は排除されていたので、同人誌のサンプルも立ち読みで楽しみ、気に入ったモノは即購入して、連載物に関しては今日持ってきた在庫分が完売した後は、委託しているサイト(虎の穴やメロンブックス)にての購入を検討していた。
『全年齢』とは言っても、原作的に『同性愛表現』がある同人誌も少なくはなかったが、その辺は最近の『性の多様性』と言う事だろう……百合作品が目立っていたのは『機動戦士ガンダム 水星の魔女』を題材にした同人誌を販売しているサークルがそこそこあったからだろう。
『ガンダムで百合展開は驚きだったけど、スレミオは尊い』とは簪の弁である。
そんな感じで午前中を終えて昼時となり、夏月達は一度コスプレを解除してからランチタイムに。
コミックマーケットの会場である東京ビッグサイト周辺には色々な食事処が存在しており、昼食のメニューには事欠かないのだが、『なんでもいいよ』と言う意見が多かった中で、『私はラーメンがいいね』と明確に意見を言ったロランの意向を尊重して、一行は東京ビッグサイト近くにあるラーメン店へとやって来ていた。
この店はネットでのレビューでも平均四つ星を獲得している人気の名店であり、だからこそ其の味には期待が出来ると言うモノだろう。
入店してカウンター席を夏月組と秋五組で占領した後に注文を出した。
オーダーは夏月組が、夏月が『スタミナ豚骨辛味噌チャーシュー麺』の『特盛』、楯無が『ネギ塩チャーシュー麵』、簪が『フライドニンニク塩チャーシュー麺フライドニンニク増し』、ロランが『濃厚煮干し豚骨ラーメン』、鈴が『四川風汁なし冷やしタンタンメン』、乱が『ピリ辛台湾ラーメン』、ヴィシュヌが『タンメン野菜増し』、グリフィンが『超濃厚鶏白湯麺角煮乗せ角煮マシマシ』の『横綱盛』、ファニールが『塩チャーシュー麺』で、秋五組は秋五が『夏季限定スタミナキムチラーメン』、箒が『スタミナラーメン全部増し』、セシリアが『濃厚豚骨つけ麺』、ラウラが『元祖醤油ラーメン』、シャルロットが『冷やし塩ラーメン』、オニールが『塩まぜソバ』のオーダーとなり、更にシェアするサイドメニューとして『餃子』と『唐揚げ』をオーダーした。
其れから待つ事十分弱で注文したメニューが運ばれて来たのだが、グリフィンがオーダーした『超濃厚鶏白湯麺角煮乗せ角煮マシマシ』の『横綱盛』のインパクトは凄まじかった。
『横綱盛』と言う事で特盛以上のデカ盛りなのは想像出来たが、出て来たのはバケツサイズの丼に盛られたラーメンであり、其処には丸ごと一本の豚バラ肉の角煮がなんと五本も乗っていると言う凄まじいボリュームのモノであり、普通ならば角煮だけで満腹になってしまうだろう。
予想以上の凄まじいボリュームのラーメンだったが、健啖家を超えたスーパー健啖家であるグリフィンには普通に食べ切れる量だったらしく、豪快に一本モノの角煮に齧り付いたかと思うと次の瞬間には麺を啜り、食べながらカウンターにある『おろしにんにく』、『ラー油』、『おろしショウガ』、『トウバンジャン』等を加えて味変をしながらバケツサイズのラーメンをドンドン食べて行く。
その豪快な食べっぷりには他の客も思わず食べる手を止めたくらいで、一本モノの角煮を一口で食べた時には店内に拍手が鳴り響いたほどだった。
そしてグリフィンは誰よりも盛が多いラーメンを誰よりも早く平らげ……
「すいませーん、追加でチャーハンの大盛りと塩チャーシュー麺の特盛チャーシューマシマシでお願いします♪」
「胃袋が甘いぜ!お留守だぜ!!がら空きだぜ!!!」
更に鬼の追加注文をしてくれた。
そしてその追加注文もペロリと平らげてしまったのだからグリフィンの大食いは最早人類最強レベルと言っても良いだろう――其れこそ、かの『ギャル曽根』とグリフィンがタッグを組んだら日本全国のデカ盛りチャレンジメニューを完全制覇する事だって夢ではないレベルと言えるのだから。
グリフィンがスーパー健啖家ぶりを思い切り発揮してくれた昼食タイムは平和に終わり、精算の際に夏月と秋五はテイクアウトで『ニラ饅頭』を人数分購入していた――冷凍品だが、専用機の拡張領域にぶち込んでしまえば問題なしだ。
そして一行は再び東京ビッグサイトを訪れ、コミックマーケットの午後の部に午前中とは異なるコスプレで参加した。
午後の部のコスプレは夏月組が、夏月が『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の『キラ・ヤマト』、楯無が『機動戦士ガンダム00』の『ロックオン・ストラトス(ライル・ディランディ)』、簪が『機動戦士ガンダム00』の『ティエリア・アーデ(セカンドシーズン)』、ロランが『機動戦士ガンダム00』の『グラハム・エーカー』、鈴が『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の『チュアチュリー・パンランチ』、乱が『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の『ミオリネ・レンブラン』、ヴィシュヌが『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の『ニカ・ナナウラ』、グリフィンが『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の『スレッタ・マーキュリー』、ファニールが『機動戦士ガンダム00』の『フェルト・グレイス(セカンドシーズン)』と夏月組は全員がガンダム関係でまとめて来た。
一方の秋五組は、秋五が『餓狼~Mark Of Wolfs~』の『キム・ジェイフン』、箒が『ザ・キング・オブ・ファイターズ』の『不知火舞』、セシリアが『月華の剣士』の『雪』、ラウラが『ザ・キング・オブ・ファイターズ』の『ハイデルン』、シャルロットが『サムライスピリッツ』の『シャルロット』、オニールが『餓狼~Mark
Of Wolfs~』の『双葉ほたる』と秋五組は全員が格闘ゲーム関係でまとめられていた。
そしてそれは全員が実に見事に衣装とマッチしており、午前中以上に『レイヤー撮影隊』の的になっていた。
特に箒の『不知火舞』には野郎が殺到しまくるという結果に……IS学園の生徒最強のバストサイズを誇る箒の不知火舞コスは破壊力が凄まじく、ゲーム内での舞の凄まじい『乳揺れ』も完全再現してしまっているのだから仕方ないだろう。
布面積が極端に少なく、半乳半ケツの衣装は流石に拙いので、其処は簪がコスプレ衣装用に布面積を増やしていたのだが、それでも不知火舞の衣装のセクシーさと露出度は物凄いモノがあるので、それを着ると言うのは羞恥心マックスなのだが、その羞恥心が振り切れてしまったのか箒はノリノリでカメラマンの要求に応えていて、『よ、日本一ぃ!』のポーズも見事に決めていた。
一方、夏月組で人気なのはロランだった。
女優であるロランは芝居がかった仕草は得意中の得意であり、ある意味地になっている部分があるのだが、其れがグラハムのキャラとジャストマッチしており、『己に酔っているポーズ』をさせたら右に出る者は存在していなかった……撮影者のリクエストに応えて、グラハムの名台詞である『乙女座の私は運命を感じずにはいられない!』、『名乗らせてもらおう、グラハム・エーカーであると!』、『今の私は、阿修羅をも超える存在だ!』、『抱きしめたいなぁ、ガンダム!』なんかを完璧に再現したと言うのも大きいだろう。
ロランと箒が大人気ではあったが、他のメンバーもコスプレレベルが高かったので撮影者が殺到して、色々なポーズでの撮影が行われていった。
そんな中で、キラコスの夏月には『キラの早口OS設定を言って』と言う無茶振りレベルのリクエストも来たのだが、夏月は其れを拒まず、ストライク・フリーダム起動時の『CPG設定完了。ニュートラルエンゲージ。イオン濃度正常。メタ運動野パラメーター設定。原子炉臨界。パワーフロー正常。全システムオールグリーン』を早口で言ってリクエストを消化しギャラリーを沸かせていた。
ロックオンコスの楯無が『目標を狙い撃つぜ♡』のセリフと共に手を拳銃の形にして撃つポーズには男女問わずハートをぶち抜かれ、『水星の魔女』のキャラクターに扮した鈴、乱、ヴィシュヌ、グリフィンは『地球寮組』、『株式会社ガンダム組』として四人での撮影を望む声が多かった。
撮影会が一段落した後は、コミックマーケットの午後の部を見て回り、午後から参加のサークルの同人誌を立ち読みしたり、東京ビッグサイトにコミックマーケット限定で出店した屋台のグルメを堪能した。
屋台は色々なモノが出店していたが、夏月組と秋五組が揃って購入したのは『たこ焼き』だった――購入したのは普通のたこ焼きではなく、多めの油で揚げ焼きにした『揚げタコ』で、カリッと揚がった生地とマヨネーズの相性が抜群の逸品であり、ロラン達海外組もあっと言う間に揚げタコの虜となってしまっていたのだった……カラッと揚がった生地とタコのプリプリの食感にマヨネーズは最強なので此れに抗う事は最早不可能であると言えるだろう。
そんな感じで一行の屋台巡りは続き、グリフィンが『ジャンボ串焼き』の屋台で、『牛カルビ』、『豚バラ』、『鶏モモカルビ』、『牛タン』を一本ずつ『塩』で購入し、夏の定番屋台の『かき氷』では全員が涼をとるために注文し、シロップで舌を染めていた。
特に『メロン』や『ブルーハワイ』を注文した者はバッチリ舌が染まってしまい、宛ら『グレート・ムタ』が毒霧噴射した後のような状態になっていた――それほどまでに舌を染め上げるかき氷のシロップ恐るべしだ。
屋台巡りを終えてコミックマーケットの会場に戻ると、其処ではステージイベントとして『コスプレイヤー選手権』の結果が発表されているところだった。
『コスプレイヤー選手権』は文字通り、コミックマーケットに参加したコスプレイヤーの中でのナンバーワンを決めるコンテストであり、来場者の投票にて決まるモノで、投票は一人一票であり、投票所にはカメラが設置されて立会人も居るので同じ人間が重複投票する事は出来ないようになっていて、票が意図的に操作されないように工夫がなされていた。
そうしてステージ上で開票が行われ、得票数のトップ10が発表されて行き、ベスト5にはエレナコスのヴィシュヌ、レオナコスのグリフィン、シグナムコスの箒が選出されたのだが、栄えあるグランプリを獲得したのは同票数で『スコールコスの夏月』と『ユウナコスの楯無』であり、グランプリを獲得した二人はステージ上に招かれる事になった――ので、速攻で午前中の衣装に着替えてステージに上がるのだった。
グランプリが同票数によるダブル受賞と言うのは中々に珍しい事であり、それだけでも注目される事なのだが、夏月と楯無がステージ上で自己紹介をすると更に会場はざわめく事になった――世界に二人しかいない『男性IS操縦者』の一人と、その婚約者の一人にしてISの日本国家代表が此の場に居るとなればそれも致し方ないだろう。
此れには進行役のMCも驚いたが、それでも二人に『グランプリを獲得した気持ちは?』とのインタビューを行い、夏月と楯無もそれに応じながらも、『グランプリを獲得出来たのは衣装の出来が良かったから』とサラリと簪の仕事が良かったからだと言う事を口にし、その流れから衣装を作った簪もステージに呼ばれてインタビューを受ける事になり、其処からトップ5に選ばれたコスプレイヤーの衣装は全て簪が作っていた事が明らかになり、簪には急遽『夏コミコスプレ特別賞』が贈られる事になったのだった。
グランプリを獲得した夏月と楯無には賞品としてトロフィーと一万円分のクオカードが贈られ、特別賞の簪には五千円分のクオカードが贈られるのだった。
そして最後に楯無が膝を付いた状態で二丁拳銃を交差して構え、その後ろに夏月が立ってガンブレードを構えてポーズを決めると、ステージに向かってカメラのシャッターが凄まじい勢いで切られると同時にフラッシュが輝き、それはまるで大物タレントや大物政治家の記者会見に集まったマスコミのカメラの如しであった。
「まさかグランプリを獲得しちまうとは思わなかったぜ……しかも楯無さんとのダブル受賞とはな。」
「オホホ、それだけ私と夏月君のコスプレ姿は魅力的だったと言う事よ……尤も、それもまた簪ちゃんが心血を注いで作ったコスプレ衣装があればこそだった訳だけどね?
こう言ったらなんだけど、簪ちゃんネットでコスプレ衣装の製作を有料で受け付けてみたら如何かしら?きっと依頼が殺到して稼げると思うわよ?」
「そうなったらそうなったで学園生活に影響が出そうだからやめとく。コスプレ衣装制作はあくまでも趣味の範囲でしかやる気はないから。」
「なら、学園卒業したらそっち関係で生計を立てるのもアリかも知れないね?
趣味を仕事に出来る、それは実に素晴らしい事であり、趣味を仕事に出来るのであれば、それは絶対にやめる事はないだろうからね――私も卒業後は女優業とISバトル競技者の二足の草鞋をやる心算だからね……勿論、最優先にすべきは夏月の伴侶である事だけれど。」
ステージ上での最後の大撮影会を終えた夏月と楯無は仲間達と合流し、雑談をしながら更衣室に向かい、更衣室で私服に着替えるとコミックマーケットの会場である東京ビッグサイトを後にし、ゆりかもめで新橋まで戻ってくると、其処から電車で上野まで足を延ばした。
そして上野駅前にあるホビーショップに入って時間を潰しつつ、プラモデルを売っているフロアでは夏月と簪が『ガンダムSEEDシリーズ』のガンプラの『RG』を複数購入し、ラウラもMGの『フリーダム・ガンダムRM』、『ジャスティス・ガンダム』、『プロヴィデンス・ガンダム』を購入し、地下にあるカードゲームのフリースペースでは『e-スポーツ部』の面々が『遊戯王』で無双していた――中でも夏月の『青眼デッキ』と簪の『超HEROデッキ』の強さはぶっ飛んでおり、夏月は『ドラゴン目覚めの旋律』のサーチからの融合や儀式、蘇生召還等の特殊召喚を駆使して攻撃力三千以上のモンスターを鬼展開して一撃必殺を行い、簪は『マスク・チェンジ』や『超融合』を使ってバトルフェイズ中に次々とモンスターを特殊召喚して攻撃をする凄まじいラッシュで一気に相手のライフを消し飛ばしていた――次いで凄かったのは楯無のハンドレスであり、『インフェルニティ・ガン』が制限されているとは言え、『氷結界の龍 トリシューラ』が無制限となった今、ハンドレスからの脅威の展開力で先攻トリシューラ三体で相手の戦術を瓦解させ、そしておまけとばかりにシンクロ召喚した『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』の魔法・罠無効能力で完全に相手の戦術を完封してしまっていた。
ホビーショップで時間を潰した後は夕食に良い時間になっていたので、これまた上野駅前のビルにある『お好み焼き屋』で夕食を摂る事にした。
浅草で『もんじゃ焼き』も良かったのだが、『もんじゃ焼き』は海外組には食べ方が難しいのでお好み焼きになったのだった。
人数が人数なので一つのテーブルとは行かず、幾つかのテーブルに分かれる事になったのだが、夏月組、秋五組ともに『誰が夏月、秋五と同じテーブルになるのか』でじゃんけんバトルが行われ、その結果ロラン、ヴィシュヌ、ファニールが夏月と、箒、セシリア、オニールが秋五と同じテーブルになったのだった。
「夏休みももうすぐ終わりですが、この夏はとても楽しかったです。
日本の夏を体験出来たと言うのも大きいですが、夏月が作ってくれた『夏向けのメニュー』にも感激しました――私は特に、メカブとオクラとトロロと納豆をトッピングした冷やしそうめんが気に入りました。」
「夏向けの『ネバトロ冷やしそうめん』か。
メカブの冷やしそうめんはテレビの料理番組でやってて、オクラとトロロは『吉野家』のCMで見て、『此れってぶっかけ冷やしそうめんに良いかな』って思ったんだけど、そこで『どうせなら究極のネバトロにしてやれ』って考えて納豆も加えてみたんだけど、此れが思った以上に大当たりだったみたいだぜ。
上から掛ける冷たい汁も、カツオ節とサバ節に昆布と干しシイタケから取った出汁に濃い口醤油とナンプラーを合わせた手作りだからな……気に入ってくれたのなら拘った甲斐があったってもんだぜ。」
「冷たい麵と言うのはオランダでは馴染みがなかったから実に新鮮だった。
ぶっかけ冷やしそうめんに冷やしラーメンと実に美味だったが、私は『冷やし明太スパゲッティ』に感激したよ夏月……辛子明太子のプチプチ感と絶妙な辛味にネギとミョウガ、青じその清涼感がプラスされていて実に素晴らしかった。」
「温泉卵を使った『冷やし月見うどん』も美味しかったわよ?冷たい汁と揚げ玉って意外なほどに合うのね。」
「冷たい麺の可能性は無限大ってな。日本人の発想力を舐めたらダメだぜ……外国から入ってきた料理をアレンジして日本風にするのは日本人の十八番とも言えるからな。
ぶっちゃけ、カレーうどんとカツカレーは日本が世界に誇る日本食と言っても良いと思ってる。」
「うむ、それは確かに言えてるな。」
夫々のテーブルでは雑談をしながらお好み焼きが焼かれて行き、夏月と秋五は見事なへら捌きでお好み焼きをひっくり返し、良い感じに焼けたところでソースとカツオ節、マヨネーズを散らして鉄板の上で切り分け、そしてヘラでの食べ方を教えていた。
ヘラで食べ易いように賽の目にカットするのが関西風なのだが、このヘラで食べると言うのが海外組には大うけで、英国貴族のセシリアも鉄板から直接ヘラでお好み焼きを食べていた。
勿論、たった一種類では満足出来ず、最初の一枚を焼いた後は、『豚玉』、『タコ玉』、『イカ玉』、『エビ玉』と言ったお好み焼きの定番を注文し、更に『牛スジ』、『ナンコツ』等の変化球メニューも注文してそれを堪能し、締めには『焼き豚骨ラーメン』をオーダーした。
『焼きそば』とも異なる『鉄板焼き麺』は少し焦げ目がつく位に焼かれた中華麺に豚骨ラーメンのスープを加えて炒めるのだが、そのスープも半分は鉄板の上に直接落として焦がしてから麺に絡めるのが焼きラーメンの極意であり、最後に揚げ玉と紅ショウガをトッピングして完成だ。
「此れが焼きラーメン……焼きそばとはまた違った美味しさだねこれは。」
「タイで人気の焼きビーフンよりも美味しいかも知れませんねこれは……日本の麵料理はお世辞抜きで無限の可能性があるのではないかと思います。」
「お好み焼きも焼きラーメンも美味しかったわ~~……特に牛スジのお好み焼きは絶品だったわ。」
「満足して貰えたなら何よりだ。」
お好み焼き屋での夕食には全員が満足し、そして上野駅から電車で移動し、新宿駅からは迎えに来ていたリムジンバスで更識邸に向かい、その道中で何処かの遊園地が夜のアトラクションとしてあげていた花火を鑑賞した。
遠目であるからこそ花火の全体像を見る事が出来たので、予想外の花火鑑賞に全員が感嘆し、お馴染みである『たまや、かぎや』の掛け声を上げながら更識邸への帰路を楽しんでいた。
週が明けての水曜日からは二学期の始まりであり、今回のコミックマーケットでのコスプレが夏休み最後の一大イベントになった訳だが、夏月組、秋五組共に夏休みはこの上なく満喫出来た事だろう。
『夏休みを満喫したか?』と問われたら、それには間違いなく『満喫しまくった』と答える事が出来るのだから――故に、今年の夏休みは色々と大成功だったと言えるだろう。
そして始まる二学期――其れは同時に新たな戦いが始まると言う事も意味しているのだった。
――――――
同じ頃、亡国機業の実働部隊である『モノクローム・アバター』はある施設を襲撃して、そして制圧していた――其処は孤島の無人島に建設された施設なのだが、『違法な人体実験とISの開発を行っている』との事で、亡国機業のターゲットとなり、襲撃される事になったのだった。
施設の武装隊員は応戦したモノの百戦錬磨の『モノクローム・アバター』の隊長であるスコール・ミューゼル、『モノクローム・アバター』の三強である『オータム』、『織斑マドカ』、『蓮杖ナツキ』の敵ではなく、瞬く間に制圧されてしまった――生半可な実力ではこの四人に勝つ事など無理難題なのだ。
「此れは……まさか、此処でこんなデータを入手出来るとは思っていなかったけど、此れは私にとっては嬉しい誤算だわ――此れで夏月を迎えに行く事が出来るのだからね。」
そうして施設を制圧したのだが、その中でスコールはあるデータを目にしてその顔に笑みを浮かべていた――そして、夏月を迎えに行けると零していたのだが、其れはこのデータがあればこその事だった。
スコールが目にしたデータには『織斑計画』に関する詳細の他に、成功例である千冬にすら埋め込まれなかった、量産型の一夏と秋五だけに埋め込まれていたある因子の存在が明記されていた。
其れは『他者を惹きつける因子』と『他者の成長を促進する因子』であり、その因子は異性により効果があるモノであるとの事だった――尤も、前者はほぼ機能していないとの事なので、夏月と秋五がハーレム状態になっているのは、前者の因子は関係なく、彼等の人間的魅力が大きかったからなのだが、後者の因子に関しては正常に機能しているとの事で、ならば夏月と秋五のパートナー達がトレーニングしただけ強くなるのも納得であり、彼等と交わったコメット姉妹が身体的に急成長したのも頷けるだろう。
「長かった……本当に長かったわ――だけど漸く私は目的を果たす事が出来る……精々首を洗って待っていなさい織斑千冬……貴女が白騎士事件で生み出した亡霊と、貴女が切り捨てた嘗ての弟が貴女の首を刈りに行くからね。
IS学園の二学期、面白い事になりそうだわ。」
スコールは口元を三日月の如く歪め、己が人でなくなった原因である千冬に対しての復讐の時が来た事を心底喜んでいるようだった――こうして、濃密な夏休みは終わり、新たな戦いが確定している二学期が幕を開けるのだった。
To Be Continued 
|