夏休みのある日、IS学園の『e-スポーツ部』は『e-スポーツの全国大会』に参加していたのだが、其処では凄まじい活躍を見せていた。
リズムゲーム部門ではファニールが圧倒的な強さを見せて優勝し、パズルゲーム部門では楯無とロランがワンツーフィニッシュを決め、スポーツゲーム部門では鈴と乱と顧問の真耶が表彰台を独占した。
格闘ゲーム部門では『KOFⅩⅤ』で簪が『草薙京』、『K’』、『アッシュ・クリムゾン』の『KOF歴代主人公チーム』を使って優勝し、『STREET FIGHTERⅢ~3rd ストライク~』に参加した夏月は持ちキャラである『リュウ』で参加して決勝戦までコマを進めていた。

決勝戦の相手は韓国の有名プレイヤーで、過去には格闘ゲーム界のレジェンドと言わている『ウメハラ』をも破った実績を持つ強豪であり、『3rdの闇』とも言われている超絶強キャラの『春麗』を使って来たので一筋縄では行かないだろう。

上級プレイヤー同士の戦いだけに、互いの動きの読み合いとなり互いに攻め手に欠いたのが、何故か夏月は中距離で単発の『波動拳』を放つ際に『一度しゃがむ』と言う動作を入れていた――『波動拳』はコマンドの関係上単発出しの場合は一瞬しゃがむ事がなくはないのだが、夏月のそれはあまりにもあからさま過ぎだった。
夏月のプレイングに少しばかりの違和感はあったもののそのまま試合は進み、第一ラウンドは中距離で突如しゃがんだリュウに対して、『波動拳か?』と思った相手が春麗の『気功拳』を放って来たのだが、リュウは『波動拳』を撃たずにジャンプで気功拳を躱すと、ジャンプ強キックから地上の立ち強パンチに繋ぎ、立ち強パンチをキャンセルして昇龍拳を叩き込んでKOして見せた。
これこそが夏月が『中距離からの単発波動拳の前には必ずしゃがむ』と言う動作を行っていた事の答え――『中距離単発波動拳の前には必ずしゃがむ』事を相手に刷り込む事で『中距離でしゃがんだ=波動拳』と言う思考を植え付けたのである。

だが相手も此れでは終わらず、第二ラウンドは春麗が『最強キャラの面目躍如』と言わんばかりの立ち回りを見せ、リュウの通常技が届かない間合いから届く大パンチや中足払いで間合いを制すると、春麗の特権とも言える『下段狩りが出来る立ち大キック』、間合いがクソ広くなる『歩き投げ』等を駆使して一本取り返して来た。

そして運命のファイナルラウンド。
互いに手の内を知っているだけに削り合いの様な戦いになり、互いに一歩も退かないままリュウも春麗も体力が半分を切ったところで相手が飛び込んで来たので夏月は昇龍拳で対空しようとしたのだが、其れは罠で春麗は真下に落下して攻撃する特殊技を使って昇龍拳を空振りさせると、着地の隙に中足払いからの鳳翼閃を叩き込み、更に追撃を加えて左右の二択を迫って来た――その二択は何とか捌いた夏月だが、リュウの体力は後一発強通常技以上の攻撃を喰らったらKOされてしまうところまで追い込まれていた。
更に悪い事に春麗は未だゲージが一本残っているのでスーパーアーツをもう一度打つ事が出来る状況であり、そうなると鳳翼閃は『弾抜け』の性能を持っているのでリュウは波動拳を使う事も出来ない……其れでもブロッキングで攻撃を捌きながら投げでダメージを与える事が出来たが、其れでも状況は不利。
そんな状況で、相手は普通に歩いて間合いを詰めて来ると単発で鳳翼閃を発動して来た――多段ヒットする鳳翼閃をガードさせて削り倒す心算なのだろう。
正に絶体絶命の状況なのだが……



――カキーン!カキーン!カキーン!



此の土壇場で夏月は伝説の『ウメハラブロッキング』を成功させて鳳翼閃を捌き切ると、ジャンプ中キックからターゲットコンボに繋ぎ、ターゲットコンボにキャンセルを掛けて昇龍拳を放ち、更に昇龍拳にスーパーキャンセルを掛けて『1ゲージスーパーアーツとしては最強の破壊力』を持つ『真・昇龍拳』を叩き込んでKOし、見事な逆転勝利をして見せたのだ。
嘗てウメハラ氏が見せた『背水の陣からの逆転劇』を再現して見せた夏月に観客席は大いに沸き、対戦相手の韓国代表の選手も夏月の見事なプレイングを賞賛したのだった。
こうして『e-スポーツ大会』はIS学園の生徒と真耶が席巻したのだが、この年の夏の高校生大会は甲子園を除いてIS学園が席巻する結果となった。
剣道の全国大会では箒が個人戦(女子の部)と団体戦で優勝し、個人戦(男女混合)で準優勝して見せ、秋五は個人戦(男子の部)と個人戦(男女混合)で優勝、セシリアが所属するラクロス部と相川清香が所属するハンドボール部も全国制覇を成し遂げ、陸上競技ではIS学園の陸上部に所属している生徒が次々と大会新記録を樹立して行ったのだ。
ISと言う特殊なパワードスーツを操縦するには相応の身体能力が求められるモノであり、その意味ではIS学園の生徒は一般的な高校生と比べると日々のトレーニングで高めの身体能力を獲得するに至っているのだろう。
そうであっても、此れまでは此処までIS学園が大会を席巻する事はなかったのだが、今年は圧倒的な状況となっているのは今年の新入生が粒揃いだった事が大きいと言えるだろう。
専用機持ちは言わずもがなだが、今年の新入生のイレギュラーである二人の男性操縦者に適応されている『男性操縦者重婚法』の存在もあるだろう……夏月と秋五の嫁の座を得んとして己磨きを怠らない生徒が多く、結果として部活に於いても其のトレーニング成果が発揮されていたと言う訳だ。

そしてその中でも特に特出した成長を見せた夏月の嫁の座を狙う『鷹月静寐』、『鏡ナギ』、『四十院神楽』、秋五の嫁の座を狙う『相川清香』、『谷本癒子』、『矢竹さやか』であり、夏休みが終わる頃には彼女達は『日本の代表候補生』となるまでの成長を遂げるのだった。










夏の月が進む世界  Episode56
『夏休みEvent Round3~矢張りプールは基本!~』










夏休みも残すところは後十日程となったある日の事、夏月組と秋五組は今年オープンしたリゾートプール施設『リゾートプール・エバーラスティングサマー』にやって来ていた――言わずもがな、先日の束が試作したドリンクのモニターを務めた際の報酬として貰っていたチケットを使った訳だが。
『施設内のレストラン無料パス券』はチケットを切る際にスタッフからプラスチック製の無料パス券が付属したリストバンドを渡され、其れを手首に巻いていた。
チケットを切った後は夫々更衣室に移動して水着に着替える事に。


「秋五、臨海学校の時に一度見てるとは言えやっぱりテメェの嫁さんの水着姿ってのはやっぱり期待しちまうよな?……楯無さんとグリ先輩の水着姿は今回が初めてだし、ファニールは臨海学校の時よりも成長してるから、ヤッパリ新鮮だしな。」

「うん、正直僕も期待してるのは否定しないさ……彼女達の水着姿は華があるからね。」


先に水着に着替え終えてプールにやって来た夏月と秋五は、主に女性客の視線を一身に集める事になった――夏月も秋五も日々のトレーニングを欠かさずに理想の肉体を手にしているのだが、夏月が『格闘家系究極の細マッチョ』であるのに対して、秋五は『男性グラビアアイドル系細マッチョ』と言った対照的な肉体美を手にしていたのだから、こうなってしまうのは致し方ないだろう。


「ハァイ♪待たせたわね夏月君♪」

「待たせたな秋五。」


だがしかし、更衣室から現れた夏月の嫁ズと秋五の嫁ズは男性客の注目を集める結果となった。
全員が容姿端麗なのは言わずもがなだが、プロポーションが中々にぶっ飛んでいたのだ――鈴と乱とコメット姉妹とラウラはバストサイズこそ小さいモノの、スレンダー美少女としての魅力が爆発しているのだ。
逆に更識姉妹、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、箒、セシリア、シャルロットはプロのモデルでもビックリする位の見事なプロポーションであり、特に『学園の生徒最強』と言われる箒の胸部装甲の破壊力は凄まじく、自己主張も激しいそれに野郎の何人かが前屈みになってしまったのは致し方ないだろう。
更に彼女達は其れだけ抜群のプロポーションを誇りながらも、IS乗りとして鍛えられたアスリートの筋肉が必要な部分に必要なだけ付いている『美しさと強さを兼ね備えた最高の肉体』となっている――彼女達は守られるだけの少女ではなく戦う為の爪牙を有する『女豹』でもあるのだ。
そしてそんな美少女軍団は二人の少年に向かって行ったので、彼女達に注目していた男性客は一転して向かった先に居た夏月と秋五に怨念と妄念が入り混じった視線を向けて来たのだが、夏月と秋五は其れを軽く受け流していた――同じ様な事は此れまでにも何度も体験しているので最早完全に耐性が付いてしまい、眉一つ動かしていなかったのだ。


「楯無さん、グリ先輩……最高ですその水着。」

「ウフフ、ありがとう夏月君♪でも、この水着ってデザインは自分で選んだけど色は夏月君が選んでくれたのだから似合ってるのはある意味当然なのよねぇ♪」

「カゲ君は私達に一番似合う色を選んでくれた訳だからね♪」


そんな中、夏月は臨海学校では学年が違うと言う事で不参加で拝めなかった楯無とグリフィンの水着姿に感激して柏手を打っていた……それ程までに楯無とグリフィンの水着姿は刺激的で素晴らしいモノだったのだ。
加えて成長した事で水着を新調したコメット姉妹の水着姿も魅力的だった――ファニールはアイスブルーのビキニで、オニールは白のビキニで、此れは以前使っていたワンピースタイプと同じカラーなのだが、ファニールは夏月が、オニールは秋五が以前に選んでくれたカラーをそのまま持って来たコーディネートなのである。
勿論水着を新調したコメット姉妹の水着姿を褒めるのも忘れない夏月と秋五である。


「そんじゃあ、思い切り遊びまくる前にモンエナチャージと行きますか!羅雪の拡張領域にストックしといて良かったぜ!」

「おやおや、何だか随分と久々な気がするねモンエナチャージは……因みに本日のフレーバーはなんだい?此れまで見た事のない缶のデザインなのだけれど?」

「コイツは『モンスターエナジーTHE DOCTOR』だぜロラン。
 パイプラインパンチやカオス、ウルトラパラダイスみたいに果汁のフレーバーが爽やかなんだけど、其処はCrazyが売り物のモンエナ。フルーツ系の中ではトップクラスのヤバい仕上がりになってるんだ此れが!此れを飲んだら最高にHighって奴だ!!
 今の俺なら範馬勇次郎や超サイヤ人ブルーベジットにも勝てるんじゃないかって思う位にはなぁ!!」

「めっちゃテンション上がってるんだけど……此れって聞きようによってはヤバい薬キメた奴のセリフよね?」

「うむ、否定出来んな。」


全力で何かをする際には最早お馴染みになっている夏月のモンスターエナジーチャージを終えてから、先ず一行がやって来たのは此のリゾートプール一押しの目玉アトラクションであるウォータースライダー『超絶ウォータースライダー・ビッグウェーブヘルorヘブン』だった。
落差500mは日本どころか世界中にあるのウォータースライダーとしても最大であり、2レーンタイプのコースの途中にはレーンが切れている部分もあるのでスリルも相当なモノだろう――同時に、恋人同士ならば一緒に滑る事も出来るので、夏月はジャンケンでトップバッターになったヴィシュヌを、秋五はこれまたジャンケンでトップバッターになった箒を後ろから抱え込む形でスタンバイして、其処から一気にスタート!
スタート直後の急降下から、サイドロールが加わり、一回転捻りが来て、其処から急降下して加速した上でレーンが切れてる場所を勢いで突破し、其処からまた急降下した後に一回転捻りが入り、連続ループを通過した後に最後の急勾配ストレートを疾走してゴールのプールに突撃してターンエンド。


「ぷはぁ!スリル満点のウォータースライダーだったな?……ぶっちゃけ、ジェットコースター以上だったぜ。」

「確かにジェットコースター以上のスリルがありましたね。」


だが此れで終わりではなく、夏月は此処から七周、秋五は四周して嫁ズとのウォータースライダーを楽しむ事になるのだが、先に滑り終えた嫁ズは終わるまでプールサイドで待つ事になる訳で、そうなれば当然の如くある事が発生するのだ。


「ねぇ彼女達、俺達と一緒に遊ばない?退屈させない事は約束するよ~?」

「君達みたいな可愛い子達が女の子同士だけでってのはすこ~し勿体ないから、俺達と遊ぼうよ?一夏のアバンチュールってのを体験してみるのも良いだろぉ?」


そう、其れはこう言う場所ではある意味で風物詩とも言えるところ『NA・N・PA』である。
此の施設は広いので彼女達が夏月、秋五と一緒に居るところを見ていない野郎も当然居る訳で、そう言った輩にとっては彼女達は恰好のナンパ相手として映ってしまい、早速声を掛けて来たと言う訳だ
此の時声を掛けて来たのは五人組の大学生位の男性で、全員がスポーツ系の部活に所属しているか、或はボディービルでもやっているかの如くガチムチマッチョマンだった……見た目は凄いが、夏月や秋五と比べると無駄な筋肉が多いのもまた事実なのだが。
正直な事を言えば彼女達にその気はマッタク無く、断るのが上策であるのだが、この手の輩は断ったところでしつこく食い下がって来た上で最終的には逆上して力尽くと言うのがオチだ――無論力尽く出来たところで撃退する自信はあるが、其れをやったら撃退してもバックヤードでの取り調べは不可避となり折角のプールを楽しむ事が出来なくなってしまうだろう。
如何したモノかと考えたところで――


「What do you want for us?It's bad manners to call out to a woman, you know?(私達に何か用?女性にイキナリ声を掛けるとはマナーがなっていないわ。)」


セシリアが英語で対応した。
此れには思わずナンパ男達も驚いてしまった――英語ならばなんとなくでも分かるのではないかと思うかも知れないが、日本人に馴染みがあるのは『アメリカン・イングリッシュ』であり、イギリスの『ブリティッシュ・イングリッシュ』では同じ単語でもアクセントや音が重なる部分が微妙に異なるので初めて聞いた場合には『?』となってしまうのだ。
同時に此れはナンパ男達を撤退させる最善の方法でもあった。


「Ik ben dankbaar voor het hartstochtelijke aanbod van de man, maar helaas hebben we iemand in ons hart tot wie we besloten hebben, dus zou je het kunnen opgeven?(男性からの熱烈な申し出は有り難いけれど、生憎と私達には心に決めた相手が居るのでね、諦めてくれないかい?)」

「Erstens magt ihr Mattaku nicht, also verschwindet sofort aus eurem Blickfeld.(そもそも貴様等なんぞはマッタクもって好みではないから即刻目の前から消え去れ。)」

「Je veux dire, je ne veux pas que tu me parles parce que ces muscles sont incroyablement dégoûtants.(って言うか、その筋肉が途轍もなく気持ち悪いから話しかけないでほしいんだけど?)」

「No tengo nada que ver con el daruma muscular de mala calidad, así que siento que debería venir anteayer ♪(見掛け倒しの筋肉達磨に用はないから一昨日来やがれって感じかな♪)」

「C̄hạn næanả h̄ı̂ xxk cāk thī̀ nī̀ thạnthī t̄ĥā nạts̄ụ s̄ụki læa khn xụ̄̀n«h̄ĕn c̄hāk nī̂ khuṇ ca mị̀ plxdp̣hạy(私としては即この場を去る事を推奨します。此の光景を夏月達が見たら貴方達は無事では済まないでしょうから。)」


其処からロランがオランダ語で、ラウラがドイツ語で、シャルロットがフランス語で、グリフィンがブラジルの公用語であるスペイン語で、ヴィシュヌがタイ語で一気に捲くし立てて来たのだからナンパ男達は堪ったモノではなかった。
セシリアのブリティッシュ・イングリッシュだって碌に分からなかったのに、其処にオランダ語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、タイ語が加わったら訳が分からなくなってしまうのは当然だろう――タイ語に至っては使用文字も特殊なモノなので文字に書き起こしてもアルファベットに直さないと意味不明な暗号状態なのだ。
よもやナンパした相手が理解不能な外国語を話してくるとは思っていなかったナンパ男達は互いに顔を見合わせると、『し、失礼しました~~!』、『ごゆっくりぃ!』と言って走り去ってしまった。
暴力を振るわず、暴力を振るわせずに撃退する――国際色豊かな夏月と秋五の嫁ズだからこそ出来た最善にして最高の方法だったと言えるだろう。
其の後は秋五が最後のオニールと滑り終わった事で彼女達の傍に居る事になったので彼女達がナンパされる事はなく、夏月が最後に楯無と共に滑り終えるまで特別問題は起きなかった。

先ずは目玉アトラクションを楽しんだ訳だが、此のウォータースライダー以外にも此のリゾートプールには人気のコーナーが多数あり、その一つが人工の浜辺のあるプールだ。
此のプールでは人工的な大波を発生させて屋内に居ながらサーフィンを楽しむ事が出来るようになっているのである。
一行は早速サーフボードをレンタルすると人工波でのサーフィンに繰り出した――全員がサーフィンは初体験であるにも拘らず、其れなりに様になっているのはアクロバティックな動きが多いISバトルを行う為に体幹が鍛えられていたからこそだろう。
其れだけでも充分に凄いのだが、夏月は波乗りをしながら自分の嫁ズと次々とパートナーを変えながら水上ダンスを披露すると言う離れ業を披露し、人工浜辺に居た客達からスタンディングオベーションを受ける事となった。最後のダンスパートナーとなったロランとビッグウェーブに乗った上で浜辺に着地し、大きく仰け反ったロランの背を夏月が片膝を付いて支えると言うフィニッシュポーズもオーディエンスの評価を上げる要因だったと言えるだろう。

其の後は普通のプールでビーチボールやイルカやシャチ型の浮き輪を使って楽しみ、楯無の提案で夏月と秋五が夫々のパートナーを肩車しての『水上騎馬戦』が行われ、秋五の嫁ズ五人に対して、夏月の嫁ズからは楯無、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、鈴が選ばれて熱戦を演じ、最終的には三対二で夏月の勝利と相成ったのだが、鈴vs箒の試合では箒の胸部装甲の凄まじさに嫉妬した鈴が、箒の水着のトップスを剝ぎ取ると言う蛮行を行って反則負けになっていた――水着を剥ぎ取られた箒はその瞬間に自らプールに飛び込んだのであられもない姿を公衆に晒す事はなかったが。

そんなハプニングはあったモノのプールを思い切り楽しみ、気が付けばランチタイムとなっていた。
此の施設のレストランは全てプールサイドに存在しており、客が一々着替えずに水着で入店する事も出来るのが特徴だった――普段は服を着て入る場所に水着で入ると言うのは中々に新鮮な気分が味わえるモノだろう。
レストランとしては寿司に焼き肉にイタリアン、ファーストフードからお好み焼きと多種多様取り揃えてあるのだが、レストランだけでなくプールでは定番の軽食である『フランクフルト』、『焼きそば』、『カレー』等を提供している屋台もあり思わず目移りしてしまうのは仕方ないだろう。


「夏月、『浜焼き』とはどのような料理なのでしょうか?」


そんな中、ヴィシュヌが『浜焼き屋・海坊主』と言う店の看板を見付けていた。
日本人である夏月、更識姉妹、秋五、箒、日本で暮らしていた経験のある鈴と乱は過去の夏休みに浜辺で実際にやった事があるので知っているのだが、他の海外組から未知のモノだろう――『浜焼き』と言う名称からどんなモノであるのかイマイチ想像し辛いと言うのも理由としては大きいのかも知れない。


「浜焼きってのは簡単に行っちまえば海の幸のバーベキューだな。
 肉じゃなくて貝とかイカとか魚を網で焼いて食べるんだけどさ、貝は活きたまま焼くから、焼き上がりのサインで二枚貝の口が開くのが中々に迫力があるんだ。シンプルに塩や醤油だけで食べるってのも特徴だな。」

「お肉じゃないバーベキューってとっても興味ある!ねぇ、ランチは此処にしよう!!」

「うむ、最近は砂浜も規制が厳しくて浜焼きをリアルでやるのは難しくなって来ているから其れも良いかも知れんな?秋五、如何だろうか?」

「僕は良いけど、皆も其れで良いかな?」

「「「「「「「「「「「異論なーし♪」」」」」」」」」」」


更にグリフィンが興味を示し、箒が秋五に聞き、秋五が皆に聞けば満場一致だったので本日のランチは浜焼きに決定した。
店内に入って人数を伝えると席に案内されたのだが、店内は人工の砂浜になっており、其処に浜焼き用のグリルが内蔵されたテーブルが幾つもあり、夏月達は『団体客用』の大きなテーブルに案内された。
六人掛けのテーブルを三つ繋げたようなテーブルで、グリルは大きめのモノが三つ設置されているので焼くのには困らないだろう。
席に着くと早速タッチパネルの端末を操作して『食べ放題・プレミアム海鮮コース』を人数分、ドリンクバーを付けてオーダーを出す――最上級コースであるプレミアム海鮮コースは通常ならばドリンクバーを付けて税込み四千四百四十七円なので高校生ではとても手が出せないのだが、『施設内のレストラン無料パス券』があるのならば話は別だ。『施設内のレストラン無料パス券』込みで入場券を購入した際には単体で入場券を購入するよりも可成り割高になるのだが、施設内のレストランが全て無料で使える事を考えると逆にお得であると言えるのかもしれない。
コースをオーダーした一行はタッチパネルで夫々オーダーを出すと、ドリンクバーで好みのソフトドリンクをグラスに注いで席に戻ると、自国語で『乾杯』をして浜焼きランチスタート。因みに『乾杯』は、英語では『Cheers』(カナダも同様)、ドイツ語では『Beifall』、フランス語では『Acclamations』、オランダ語では『Proost』、タイ語では『Chịyo』、中国語では『干杯』(台湾も同じ)、スペイン語では『Salud』であった。
程なくしてオーダーしたメニューが運ばれて来たので早速焼き網に乗せて行ったのだが、プレミアム海鮮コースではエビやイカ、ホタテなどの定番だけでなく、高級食材である『伊勢海老』、『ハマグリ』、『岩ガキ』、『アワビ』等も注文可能になっているので、其れ等をオーダーして豪快に網で焼いて行く。
貝類は活きたままなので、アワビは『踊り焼き』になるのも特徴と言えるだろう。
伊勢海老は一尾を縦割りにしたモノが提供され、其れを網で焼いて軽く塩を振ってミソと一緒に堪能すると言うのは中々の贅沢であり、夏月と秋五は件のドリンクで中々にアレな目に遭ったのだが、其れを差し引いても報酬としてこのチケットを用意してくれた束には感謝していた。
メニューは貝やエビ、イカだけでなく普通の魚もあり、捌き立てのサバやアジは言うまでもなく、プレミアム海鮮コース限定でオーダー出来る大トロの表面を軽く炙った『大トロのレアステーキ』は絶品であり、全員が舌鼓を打っていた。
最上級コースとは言え、食べ放題で此れだけの魚介類を提供して採算が取れているのかとも思うだろうが、此の『浜焼き屋・海坊主』で提供している新鮮な魚介類は市場に卸せない所謂『規格外品』であり、店長が毎朝市場で漁師から直接買い付けているので食べ放題でも提供出来るのである。
更に浜焼きだけでなくサイドメニューも豊富で、『ウニイカ』、『マグロの山掛け』、『ピリ辛サーモンユッケ』等の一品料理から、ご飯&麺モノも『マグロユッケビビンバ』、『キンメダイのピリ辛茶漬け』、『海鮮親子冷麺』等々豊富に取り揃えてあったので浜焼き以外のシーフードも堪能出来るのである。


「いっただきま~~す♪」

「其れを一口で行くとか、グリ先輩の食べっぷりには無限の可能性を感じちまうんだけど如何よ?」

「其れは否定出来ないわねぇ♪」


200gある『サーモントロステーキ』のレアを一口で平らげたグリフィンには全員が驚いていたが、グリフィンは500gの牛のサーロインステーキでも二口で完食してしまうので200g位は余裕なのだ。
そんな感じで浜焼きを楽しみ、〆のご飯&麺モノでは夏月が『アルティメット海鮮丼(ウニ、イクラ、大トロ、キンメダイ、アワビ、キャビアトッピング)』、楯無が『三種のイクラ丼(紅サケ、ヤマメ、キングサーモンの魚卵の塩漬け)』、簪が『ナメロウ冷やし味噌ラーメン』、ロランが『マグロユッケビビンバ丼』、鈴が『海鮮冷麺(生エビ、炙りトロ、蒸しウニトッピング)』、乱が『漁師のTKG(ご飯にタコの卵トッピング)』、ヴィシュヌが『究極のウニ丼(生ウニ、焼きウニ、蒸しウニトッピング)、グリフィンは『大トロステーキ丼』の富士山盛、ファニールは『海の宝石丼(ホタテの貝柱、イクラ、ウニ、トビッコトッピング』で、秋五は『アルティメット海鮮石焼ビビンバ(ビビンバに大トロ、岩ガキ、生の桜エビトッピング)』、箒は『究極の貝丼(アワビ、ホタテの貝柱、アカガイ、ホッキガイ、岩ガキトッピング)』、セシリアは『炙りハラス丼』、ラウラは『究極のサーモン丼(生サーモン、生トロサーモン、炙りハラス、イクラトッピング)』、シャルロットは『白身丼(真鯛、キンメダイ、ヒラメ、エンガワトッピング)』、オニールは『期間限定生シラス丼』をオーダーした。
流石に浜焼きでたらふく食べていたので、〆はほぼ全員が『並盛』でオーダーした中、一人だけ『特盛』をも遥かに超える『富士山盛』でオーダーして、正に富士山の如く盛られた大トロステーキ丼を完食してしまった光景には夏月達は慣れたモノだが他の客は大層驚く事になった。


「もう何度言ったか分からないけど、グリ姉さんは何であれだけ食べて全然太らない訳?って言うか、明らかに余裕で胃の容積を超える量を食べてるような気がするんだけどさ?」

「胃袋に食べ物が入って来た瞬間に超強力な消化活動が始まって、即消化して腸に送っちまうのかもな……ぶっちゃけグリ先輩の消化システムに関しては束さんでも解明諦めるんじゃないかと思ってるんだ俺は。」

「姉さんでも匙を投げるとは相当だな彼女は……」


浜焼き+αを楽しんだ後は軽く食休みを入れてから午後の部に突入。
本日の午後はイベントとして『水上レース』と『水着コンテスト』が予定されており、『水上レース・女性の部』には夏月組から乱と鈴とファニールが、秋五組からはラウラとオニールがエントリーしており、『水上レース・男性の部』には夏月と秋五がエントリーし、『水着コンテスト』には夏月組から更識姉妹とロランとヴィシュヌとグリフィンが、秋五チームからは箒とセシリアとシャルロットがエントリーしていた……箒の水着コンテストエントリーは意外と言えば意外かもしれないが、彼女ならば並み居るライバル達に圧倒的な大差をつけて優勝してしまう可能性があるのは否めない事だろう。
とは言え、イベント開始まではまだ時間があるので、一行は『流れるプール』や、『波が発生するプール』、『小型の渦潮が発生するプール』を楽しんでいた――『小型の渦潮が発生するプール』では、夏月が渦に飛び込み中国拳法の極意の一つである『通背拳』で渦を掻き消すと言うトンデモナイ事をやってくれたのだが。


「おや、お嬢様達ではありませんか?」

「夏月と秋五、お前達も……って言うか嫁さん達も一緒に来てたんだな。」

「あら、奇遇ね虚ちゃん?五反田君とデートかしら……なぁんて聞くまでも無い事よねぇ♪」

「のほほんさんと妹ちゃんが付いて来ちまったのは、ある意味当然か?」

「行くとなったらテコでも動きそうにないからね此の二人は……」


そんな中で布仏姉妹と五反田兄妹とエンカウント。
勿論デートの真っ最中なのだが、弾は虚を此のリゾートプールに連れて来ようとほぼ夏休み返上で毎日『五反田食堂』の厨房で鍋を振り続けてコツコツ金を貯めて居たのだ……妹の蘭が『お兄、アタシも連れてってくれるよね?』と来るのは予想していたので『連れてってやるのは構わないが、本当に連れてくだけだから入場料その他は自腹切れよ』と五寸釘をぶっ刺してやった。
弾がコツコツと金を貯めていたのはあくまでも虚とのデートのためであり、決して蘭を遊ばせてやるためではないのだ――と、普通ならここで終わるのだろうが、虚の方も妹の本音が『連れてって~~♪』とくっついて来たのだ。
勿論虚も『連れて行くだけですから入場料その他は自分で支払いなさい』と言った――虚としては本音がお菓子やらその他諸々の購入で親からの小遣いはほぼ毎月使い切っているのを知っていたのでこう言えば諦めるだろうと思ったのだ。
だが、天は本音に味方したのかとある日に商店街で買い物をしたところ福引券をゲットした本音はその福引でまさかの特賞をデステニードローし、その特賞が此の『リゾートプール・エバーラスティングサマー』のチケット二枚であり、それをゲットした本音は暗部補佐の実力をもってして蘭のスマートフォンの番号を調べ上げて連絡を取り『貴方のお兄さんの彼女の妹だよ~~』と自己紹介をしてから蘭を誘ったのだ。
普通ならば警戒してしまうところだが、マッタクもって警戒されなかったのは本音は暗部補佐と言う立場の人間でありながらもその本質は人畜無害な『のほほんさん』だからだろう。
そんな訳で本音と蘭もこうしてやって来たのだ……自腹を切った訳ではないがチケットを入手してしまったのならば弾も虚もそれ以上は何も言えないのでこうなったと言う訳だ――ある意味で妹ズの執念が運を呼び寄せたと言っても過言では無いのかもしれない。


「のほほんさん、妹ちゃん、デートの邪魔はしちゃダメだぜ?人の恋路を邪魔する輩は馬に蹴られてなんとやらって言うからな?」

「分かってます一夜さん。
 デートの邪魔ではなく、お兄が虚さんに無礼を働かないか、或いは他の女性に見とれてしまわないか、それを監視してるだけですので……お兄は女性に関しては若干信用出来ない部分がありますからね。『IS学園に野郎二人だけとか、マジハーレムじゃねぇか!』とかほざいてましたので。」

「う~ん……蘭ちゃん、それは弾なりのポーズだと思うよ?
 僕が知る限り、五反田弾って人間は表面上は軽く振る舞ってるけど、その本質は一本気な性格の好漢だよ……だから、布仏先輩と交際してるなら大丈夫。惚れた女性には弾は誠心誠意をもって付き合う筈だからね……そうだろう、弾?」

「当たり前だろ秋五……俺みたいなのが虚さんのような素晴らしい女性と交際出来るようになったってのがそもそもにして宝くじで一等を当てる位の奇跡と言っても良いレベルだからな?俺は、虚さんの事を絶対に放さねぇ!そんでもって何があっても絶対に守り通してやんぜ!!」

「あ、あの弾君、その辺にしておいて下さい……さ、流石に少し恥ずかしいので。//////


蘭はあくまでも弾の監視との事だったのだが、弾は実は純愛なので虚以外の女性に目移りする事はなく、弾のストレートな言葉を聞いた虚は瞬く間に茹蛸状態となって顔面が真っ赤になってしまった……虚のこんな姿は楯無でも見た事はなかったのでとても新鮮だった。
お互いにデート中と言う事で弾と虚とは其処で別れたのだが、本音は簪が、蘭は乱が二人のデートの邪魔にならないように強引に引き剥がしてコチラ側に連れ込んでいた。


「かんちゃーん、なんでおねーちゃんと一緒に行かせてくれないの~~~?」

「本音は無意識に虚さんと五反田君の邪魔しそうだし、本音は存在其の物が本日限定でお邪魔虫。だからこっちに来る事、此れは命令。」

「それはないよかんちゃーん!って言うか、立場的に私ってかんちゃんのメイドって立場なんだから命令されたら歯向かえないんじゃな~~いかな~~?」

「アンタも兄貴の監視なんてしてないでこっちに来て、この数多存在している美女達の中から自分が目指す女性像を見つけたら如何?……まぁ、中には如何やったところで到達出来ない存在がいるけどねぇ……」

「確かに、約一名日本人とは思えない胸部装甲を搭載している人がいるわね……」


簪は立場を利用して命令し、乱は謎の理論を展開して強引に二人を引き込み、イベントの時間まで施設を回り、午前中も訪れたウォータースライダーをもう一度楽しんだのだが、今回はラストに頭から突入した夏月の上にグリフィンがサーフィンのような体制で乗っかり、最後は『マッスル・インフェルノ』のポーズでプールに突入し、プールの壁にぶつかる前にグリフィンが飛び降り、夏月は勢いは其のままに身体を反転させるとプールの壁を蹴ってジャンプしてからプールサイドに着地して周囲から拍手喝采を受けていた――因みに、その直後に弾が虚と共に滑り降りてきたのだが、滑り終わってプールサイドに上がってきた虚は割と余裕があったのだが、弾は少しばかりダメージを受けていたようだった。
それでも心配した虚を安心させようと精一杯強がって見せた弾は漢の意地は持っているのだろう。

その後も適当に施設をぶらついていたのだが、今度は夏月とロラン、秋五と箒とセシリアとラウラとシャルロットにとってはクラスメイトである鷹月静寐、鏡ナギ、四十院神楽、相川清香、谷本癒子、矢竹さやか、そして一年先輩であるダリル・ケイシーと其の恋人であるフォルテ・サファイアとエンカウント。
出会い頭にダリルは『相変わらず世の男どもに恨まれそうな事してんなぁエロガキ共!』と言って来たのだが、『エロガキって、制服がパンチラブラチラなダリルパイセンには言われたくないっすねぇ?』と夏月がカウンターをブチかましていた。


「それよりもダリル先輩、同性とは言えフォルテって恋人が居るにも係わらず俺にアプローチ掛けてくるのは流石に如何かと思うんですけど?フォルテに悪いと思わねぇんですか?」

「それに関しては問題ねぇっすよカゲツ。
 アタシ全然OKしてるっすから♪アタシはダリルの同姓の恋人でカゲツは異性の恋人だから全然問題ないっす!其れに、ダリルがカゲツにアプローチしたくらいで目くじら立てるような心の狭い嫁じゃないんすよアタシは!」

「いや、お前何処のレンブランさんだよ!?」

「つー訳で、オレがお前にアプローチするってのはマッタクもって問題ねぇって事だよな?自分で言うのもなんだが、実力的にもオレはお前のパートナーとして相応しいと思ってっからよ。」

「それはそうかも知れないけどさ……其れと、彼女達もだよなぁ……」


ダリルが自分にアプローチしてくる事に関しては『フォルテが居るだろ!』と言ったモノの、当のフォルテが其れを認めているとなれば夏月はそれ以上何も言えないだろう――ダリルのアプローチに対する懸念はフォルテ只一点だったのだから。
また彼女に加えて、『鷹月静寐』、『鏡ナギ』、『四十院神楽』からのアプローチに関しても夏月はソロソロ答えを出そうと考えていた――此れに関しては『相川清香』、『谷本癒子』、『矢竹さやか』の三人からアプローチを受けている秋五も同様だ。
彼女達六人は『男性操縦者重婚法』が制定されてからと言うモノ、其の座を射止めんと一般生徒として出来る限りの訓練(基礎フィジカルトレーニングのみならず訓練機やシミュレーターを使っての実戦トレーニング、図書館での専門学の勉強等々。)を欠かさずに行い、一年生の一般生徒の中でも頭一個抜きん出た実力を持つようになり、一部の生徒の間では夏月組狙い組を『三月光』、秋五組狙い組を『三秋燃』と呼ぶようになっていた。
ISの実技の授業の際には見学者を除き全員がISスーツに着替えるので、夏月も秋五も当然彼女達の身体は何度も見ているのだが、今日会った彼女達の身体は四月の頃とは比べ物にならないほどに鍛えられている事が分かった――外見的な変化は大きくないが、皮下のインナーマッスルが鍛えらえれており、タダ歩くだけでも体幹がブレていない事が見て取れたのだ。
それからしばし雑談をしてから彼女達とは別れたのだが――


「夏月、ダリルは言うまでもないがダリル以外の彼女達も相当に本気みたいだが……如何するんだい?今の彼女達を『実力不足』と言う事で断る事は出来ないと思うけれど?」

「次にアプローチしてきた其の時は、そりゃ真摯に応えるさ。
 俺のパートナーの地位を手に入れるために頑張ったってのは、そりゃ男として嬉しい気分がないかって言われたらないとは言えないし、此れまでは『実力不足』って事だけが唯一の懸念点だったからな……専用機はなくとも素で十分な実力があれば問題ないだろロラン?」

「確かにその通りだね。」

「それはお前も同じ考えか秋五?」

「まぁ、そうだね。
 彼女達の事が嫌いだって言うなら兎も角として、嫌いじゃないなら唯一の懸念点がなくなれば断る理由は逆に何処にあるって感じだからね。」


夏月も秋五も次に彼女達がアプローチを掛けて来た時には断らずに受け入れようと考えていた。
ダリル以外の六人は『実力不足』が唯一の懸念点であったのだが、その懸念点がなくなったとなれば断る理由もない。もとより別に彼女達の事が嫌いと言う訳ではないのだから。
逆に『好きか?』と聞かれたら其れは其れで現時点では『Like』の方の『好き』に留まるのだが、交際当初に恋愛感情がなくとも愛を育む事が出来ると言うのは夏月も秋五も良く知っているので問題はない――特に一種の『契約』のような関係から始まった秋五とシャルロットの婚約が、今ではガチになっているのだから何処で愛が育つのか、芽生えるのかは分かったモノではないのである。
因みに夏月の嫁ズも秋五の嫁ズも新たなメンバーが増える事に関しては『抜け駆けしない事』、『相応の実力を持つ事』、『裏切らない事』が絶対条件ではあるモノの基本的にはウェルカム状態である。『守護者は多い方が良い』との考えもあるのだろうが。



――ピンポンパンポーン!



『只今より本日の第一イベント『水上レース・爆走アクアロード女性の部』を開催いたします。
 参加エントリーの方は中央大プール前の受付にてエントリーを、また事前エントリーを済ませている方は中央大プール東に設置されたゲート前にお集まり下さい。
 繰り返します。只今より本日の……』



此処でイベントの時間となり、場内アナウンスで『水上レース・女性の部』の開催が告げられると、レースに参加する鈴と乱とラウラとコメット姉妹はゲート前に向かいレースの開幕を待つ。
この水上レースは、よくあるタイプの水面に並べられた浮かぶ足場を渡って行くタイプではなく、プール上に幅5mほどのレーンが設置され、其れを駆け抜けると言うモノなのだが、レーンは平坦ではなくアップダウンや平均台、定番の浮く足場等が存在しており簡単にはゴール出来ないようになっている上にある程度の妨害行為も認められているので決して平穏なレースとは言えないだろう。
更に、フォルテにナギ、清香に癒子もエントリーして来ているので油断は出来ない――そんな中でエントリーが締め切られ、総勢百名近い参加者がスタートゲートに集結し、司会からルールの説明を受けた上で位置に付き、そしてレーススタート!
参加人数に対してレーン幅が狭いので最初はすし詰め状態になるかと思いきや、このレーンには転落防止用のフェンスが設置されていないので、我先にとスタートした多くの参加者で外側に陣取って居た者達はレース開始直後に押し出される形でプールに落下して早々に失格となってしまった――ラウラも落ち掛けたのだがギリギリでレーンの端っこを掴んで生き残ると即座にレースに復帰した。
さて、このレースにてトップに立ったのは意外にも鈴と乱の二人だった。
レース参加者の中にはモデルのように手足の長い女性や、女性ビルダーのような人も存在し、それ等と比べたら鈴と乱は圧倒的に小柄なのだが、このレースではこの小柄な体型が役に立った。
小柄だからこそ他の参加者の間を縫うように走る事が出来るだけでなく、小柄ゆえの身の軽さで軽快にアップダウンをクリアし浮く足場もあっという間にクリアしてゴールは目前に――なったのだが、ここで最後の障害として二人の『ゴールを守るガーディアン』が現れた。
悪役女性レスラーを彷彿とさせるペイントを顔に施し、スポンジ製の棘バットで襲い掛かって来たのだが、鈴と乱はスライディングでガーディアンの足の下をすり抜けて見事にワンツーフィニッシュ!
シチュエーション的に『ゴールを守るガーディアン』を倒さなければならないと思ってしまいがちだが、実は倒す必要はなく如何にガーディアンをやり過ごしてゴールするかが重要なのだ――そう言う意味では鈴と乱は最高レベルのゴールを決めたといえるだろう。
そして鈴と乱のゴールから遅れる事四十秒、コメット姉妹とラウラが横一直線で現れ、ラウラがスライディングで二人のガーディアンの体勢を崩すとコメット姉妹はガーディアンを馬飛びし、そのまま三人揃ってゴールイン!一位は鈴、二位は乱、三位がコメット姉妹とラウラと言う結果になった。『三位が三人』と言うのは少しばかり奇妙な結果ではあるが、リゾートプールのイベント結果に細かい事を言うモノではないだろう。
因みにナギは七位、清香は八位、癒子は十位で、水上レース・女性の部の入賞者枠はIS学園の生徒が席巻する結果となったのだった。

続いて男性の部だが、其処には意外な人物が参加して来ていた。


「帝王、アンタが参加して来るとは流石に予想外だったぜ。」

「ふ、偶には少しばかり息抜きをするのも良いかと思ってな……お前と会うとは思わなかったがな夏月よ。」

「この人が帝王……うん、まごう事なきサガットだね。」


其れは夏月が『嫁ズの家族への挨拶旅行』でタイを訪れた際に、ヴィシュヌの実家のムエタイ道場で出会った『ムエタイの帝王』と呼ばれる巨漢だった。
強敵を求めてアジア方面を旅している途中に日本に立ち寄り、『偶には息抜きも必要か』と此の場所を訪れてイベントに参加したのだ――己の奥義を授けた夏月と出会えたのは嬉しい誤算だったのかもしれないが。
夏月にとっては予想外の参加者が居た訳だが、水上レース・男性の部がスタートし、スタート直後に帝王が其の巨躯をもってして周囲の参加者を吹き飛ばしながら爆走し、夏月と秋五はスリップストリームのようにその後を付いて行く。
高低差のあるアップダウンも2mを超える巨躯の前には大した障害にはならずに帝王は楽々とクリアして行き夏月と秋五は片方が上に跳ね上げて、跳ね上げられた方が引き上げるコンビネーションでアップダウンをクリアし、浮く足場には少しばかり梃子摺るかと思ったが、帝王は助走を付けてから鋭い飛び蹴りで浮く足場ゾーンを飛び越え、夏月と秋五はこれまでに鍛えた見事な体幹をもってして浮く足場をクリアし、ゴールまでは三人がほぼ横這いに。
そしてゴール直前にはお約束の『ゴール前のガーディアン』が登場――女性の部に出てきた『ゴール前のガーディアン』と比べると『ガチのプロレスラーじゃないのか?』と思ってしまうほどの体格で、やはり悪役レスラーのような風貌だ。


「猛虎咆哮……!!」

「帝王直伝……!!」

「「カイザー・ニー・クラァァァァァッシュ!!」」

「うわぁ……」


だが其れも夏月と帝王の『カイザー・ニークラッシュ』が吹き飛ばす……因みに直撃したのではなく、技の余波だけで吹き飛ばしたのだから恐ろしい事この上ないだろう。
このまま夏月と帝王が同率一位でゴールし、其処から0.1秒遅れて秋五が二位通過、更に其処から三十秒遅れて弾が三位でゴールした……虚に良いカッコを見せたかったのだろうが、同じ思惑を持って参加した者達に潰されずに表彰台に到達したのは見事と言えるだろう。
こうして、水上レース・男性の部は一位が夏月と帝王、二位が秋五、三位が弾と言う形になった――因みに、水上レースの優勝賞品は男女関係なく『売店チケット三万円分』であり、二位は『一万円分』、三位は『五千円分』となっている。
束が用意したチケットでは売店までは無料ではないので、此れは嬉しい臨時収入と言えるだろう。


そして続くは本日の第三イベント、と言うよりもメインイベントである『水着コンテスト』が始まり、夏月組からエントリーした更識姉妹、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、秋五組からエントリーした箒、セシリア、シャルロットが観客の目を引ていたが、ダリル、静寐、神楽、さやか、そして虚も中々に注目されていた――此の場に真耶が居たらぶっちぎりだったかもしれないが。
因みに、己の嫁ズ達に不埒な視線を送って居た野郎共は夏月が更識式の暗殺術を駆使して一時的に視界を奪っていたが、其れは誰にも分からなかったので特に問題はないだろう。
序に夏月組が夏月に、秋五組が秋五に、虚が弾に笑顔で手を振った際には夏月と秋五と弾の半径2m以内に居た野郎共はハートを撃ち抜かれてしまった……撃ち抜かれて戦闘不能になった訳であるが。

そしてコンテストが始まってから三十分ほどで参加者は全てアピールを終えて、いよいよグランプリが決定される。
水上レースと違って二位も三位もない、グランプリはたった一人のみなのだが、そのグランプリを決める審査員会議は揉めに揉めていた――グランプリ候補として選出されたのは楯無、ヴィシュヌ、箒の三人なのだが何れも甲乙付け難く中々決まらずにいたのだ。
白い肌と蒼い髪、紅い目がミステリアスな楯無、黒髪黒目のポニーテールが大和撫子然としていながら圧倒的なバストサイズが強インパクトな箒、褐色肌がエキゾチックな雰囲気を演出し、その肢体を包む白いビキニのコントラストが美しく、手首と足首に装着した輪っか状のアクセサリが魅力的なヴィシュヌと夫々魅力が異なるのだ――それでも、此処まで絞り込んだのだが。
そして十分近い審査の末に遂にグランプリが決定し、お馴染みのドラムロールと共にスポットライトが交錯し、三つのスポットが重なってヴィシュヌの姿を照らし出したのだった。


『グランプリは、エントリー№24!ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー!!』


グランプリに選ばれたのはヴィシュヌ。
審査員は悩みに悩んだ末に、楯無と箒を上回る足の長さが最後の決定ポイントとなり、ヴィシュヌがグランプリに輝いたのだった。
グランプリに輝いたヴィシュヌには、グランプリの証である盾とトロフィーが送られ、その後は参加者全員で記念撮影が行われ、希望者にはスマホに高画質の画像データが送られる事になった。

コンテスト後は良い時間になったのでシャワーを浴びた後に来訪時の服に着替え、売店で水上レースで手に入れた『売店チケット』を使って様々なお土産を購入していた。夏月と更識姉妹は総一郎と冬馬に『地酒のセット』と『地魚の燻製セット』も購入していた――簪が『ガンダム』とコラボしたぬいぐるみ『メンダコズゴック』をゲットしたのはアレだが本人は満足しているようなので突っ込みを入れるのは無粋だろう。
売店での買い物を終えた一行はリムジンバスに乗り込み、あとは夕飯なのだが――


「そう言えば秋五よぉ、俺達って今年の夏は嫁ズの家族への挨拶旅行やってたから土用の丑の日逃してるんだよなぁ?やっぱ夏は一度は食いたいよな鰻?」

「言われてみれば確かに……食べたいね、鰻。」

「はいはい、それじゃあ今日の晩御飯は鰻ね♪」


嫁ズの家族への挨拶旅行で夏月と秋五は日本の『土用の丑の日』を逃してしまっており、夏月の提案で本日の夕飯は鰻となった。
早速楯無が更識御用達の鰻屋に予約を入れた――其の店は江戸時代から続く老舗であり蒲焼のタレは代々継ぎ足しで伝えられており、関東大震災、東京大空襲、東日本大震災の際にも、此のタレだけは死守していたりする。
むろん蒲焼だけでなく白焼きも可能で、白焼きには赤穂の粗塩を使う拘りっぷりでありながらも、鰻の脂が苦手な人の為に脂の少ない穴子で鰻同様のメニューも提供していたりするのである。
そんな最高の鰻屋で、夏月は特上の『鰻の白焼き重』を、秋五は特上の『鰻の蒲焼重』を注文し、嫁ズもそれぞれ好きなモノを注文して、本日の夕食タイムも楽しく過ごしたのだった。








――――――








嘗て木星軌道から射出された『ソレ』は誰にも気付かれる事なく――其れこそ地球上のありとあらゆる天体観測用の望遠鏡に捉えられる事無く地球へと到達していた。
大気圏で燃え尽きずに地球に降りたったそれは野球ボール位大きさなのだが、その周囲にはクレーターは存在しないので、よほど静かにこの地に降りたったのだろう。


『…………』


やがて其の野球ボール位の大きさの物体の中から、ゲル状の何かが溢れ出し、其れはあたかも意志を持っているかのように地面を這いずり回り、やがて地上に出て来たモグラに遭遇すると、ゲル状の何かはモグラを覆い始めた。
無論モグラは抵抗するも、すぐに抵抗は無くなり、ゲル状の何かは『モグラ』に酷似したモグラではない何かとなって地中にその身を潜めて行くのだった――まるで力を溜めるかの如くに……











 To Be Continued