マダマダ続く夏休みなのだが、遊園地での一日の後――ファニールが夏月と、オニールが秋五と交わった其の次の日からコメット姉妹には目に見える急成長を遂げる事になった。
身長は元々鈴よりも僅かに高かったのだが、その身長は今や160cmに届く勢いとなっており、バストサイズも乱と同等の80cmに到達していた――楯無達のようなグラマラスなプロポーションではないが、コメット姉妹は『スレンダー美少女』と言うべきプロポーションを獲得するに至っており、それを見た鈴は『この世に神は居ないのか~~!!』と血涙を流して絶叫していた……夏月の嫁ズの中で一番の盆地胸となってしまったのだからその絶叫も致し方ないのかも知れないが。
其れはさて置き本日一行が訪れていたのは『ムーンラビットインダストリー』の本社で、夏月組は専用機のメンテナンス(夏月の嫁ズの出身国は、夫々の専用機のメンテナンスに関して、夏月が所属する『ムーンラビットインダストリー』にも関わるように打診し、社長の『東雲珠音』が其れを了承していた。)で、秋五組は会社見学と言うスケジュールになっていた。
一行の前には『ムーンラビットインダストリー』の社長にして開発主任の『東雲珠音』が現れて、一行を出迎えてくれたのだが――
「……一体何をしているんですか姉さん?と言うのは言うだけ今更ですね。
臨海学校の際に一夜達が使っている『騎龍シリーズ』のメンテナンスを行っていたので『もしや』とは思っていましたが、『騎龍シリーズ』の開発元であるムーンラビットインダストリーの社長は矢張り姉さんだったのですね。」
「うわ~お、今まで誰一人として見破る事が無かった私の正体を初見で見破ってしまうとは素晴らしいね箒ちゃん!
此れはアレだね、姉妹愛がなせる業だね!さぁ、その愛を更に深めるためにハグをしようじゃないか箒ちゃん!其れとも、ハグだけじゃなくなくて抱きしめてキスもした方が良いかなぁ?」
「……木刀とのキスがお望みですか?」
「おうふ、私に気付かれないスピードで木刀を抜くとは腕を上げたね箒ちゃん……てかなんで木刀なんて持って来てるのさ?」
「護身用です。立場的に何時何処で誰に狙われているか分かりませんから。」
箒がその正体を見破り、秋五組は箒を除く全員が驚く結果となった――コメット姉妹はファニールは夏月から聞かされてはいたモノの『オニールには言わないでおいてくれ』と言われていたのでオニールは知らなかったのだ。
そんな感じで衝撃の会社訪問となった訳だが、夏月達の専用機のメンテナンスはバッチリ行われ、夏月組は束の秘書を務めていると言うラウラ似の少女『クロエ・クロニクル』の案内で社内を見学して回った――その最中、ふとした事からクロエの出自を知る事になり、ラウラはクロエの事を『姉上』と呼ぶようになってしまったのだが特に問題はないだろう。
夏月組の専用機のメンテナンスでは、束が改めて『ファーちゃんとニールちゃんは夫々独立した専用機を作った方が良いね』と言って、メンテナンス後にコメット姉妹の最新のパーソナルデータを採った上で、カナダ政府に『コメット姉妹の専用機改めて作っから。異論は認めねーからその心算で』と相当に強引な連絡を入れてコメット姉妹には新たに『騎龍化』のプログラムが組み込まれた専用機が用意される事になり、その日の夜にはファニールに『コズミック・メテオ』が、オニールに『シューティング・メテオ』が授与されるのだった。
そして其れだけでなく、秋五組の専用機にも『騎龍化』のプログラムを組み込み、機体性能も底上げし、特に白式は此れまでの燃費の悪さが嘘のように改善され、更に『零落白夜』にもテコ入れして、『絶対防御貫通』はオミットされ『当たればシールドエネルギーを強制的にゼロにする』仕様になり、一撃必殺は此れまでと変わらないが操縦者の命を奪ってしまう危険性を排除していた。
また、夏月とヴィシュヌはゴールデンウィークでデートした際に保護したキツネの『クスハ』とも久し振りに会っており、ゴールデンウィークの時には子ギツネだったクスハも、あれから三ヶ月経った今では身体は大人のモノとなり、黄金色の毛並みが美しい立派なキツネとなっていた……クスハの首輪に束が開発した『動物語自動翻訳機』が搭載されていた事で普通に意思疎通が出来た事には驚かされたのだが。
そして本日の予定も終わったのだが、その帰り際――
「かっ君としゅー君にお願いがあるんだけど、束さんが開発したこの秘密のドリンクのモニターをやってくれないかな?
人の潜在能力を解放させるドリンクを作ってみたんだけど、どんな副作用が出るか分からねーんだよね此れが……束さんも飲んでみたんだけど、束さんってばそう言った副作用もレジストしちゃうみたいで副作用出なかったからさ~~?二人にどんな副作用が出るか試して欲しいんだよね。大丈夫、死ぬ事だけはないから。」
「束さん、何処に副作用が出るって分かっててモニターやる人間が居るんですか?」
「其れに、僕達にとって其れって何のメリットもないですよね?」
「メリットか……この依頼を受けてくれたら、今年オープンした此の『リゾートプール・エバーラスティングサマー』のチケットをプレゼント!勿論かっ君としゅー君の分だけじゃなくて嫁ちゃんの分もね!しかも、施設内レストランの無料パスも付属で如何だぁ!!」
「「やります!!」」
束がなんとも怪しげなドリンクのモニターを依頼して来たのだが、その報酬が今年オープンした屋内の大人気リゾートプールのチケットであり、更には施設内レストランの無料パスも付属となればその依頼を断ると言う選択肢は夏月も秋五もなかった。
夏月も秋五も男の子……嫁ズの水着姿は矢張り見たいのだ――特に夏月は臨海学校では楯無とグリフィンの水着姿を見る事が出来なかったので尚更だろう。
そんな訳で夏月と秋五は束開発のドリンクを――夏月は『クレイジースプライト』、秋五は『アトミックコーラ』を飲み干した。
束の話では『副作用は飲んだ翌日に現れて副作用は一日のみ』との事だったので、此の日は更識邸に戻った後に夕食を摂って風呂に入り、そして就寝となったのだが、翌朝夏月と秋五には予想以上にトンデモナイ副作用が現れるのだった。
夏の月が進む世界 Episode55
『夏休みEvent RoundEX~反転・縮小Crisis!~』
AM5:00。
今日も今日とて早朝トレーニングを行う為に目を覚ました夏月だったが、布団から身体を起こした所で身体に違和感を感じた――妙に身体が重かっただけでなく、何故か胸部に物凄い存在感を感じたのだ。
『なんだ?』と思って胸に手を当てると……
――ムニュ……
「……は?」
其処には本来ならば有り得ない感触が存在していた――其れは楯無達と『夜のISバトル』を行った際に感じた感触と同じではあると同時に男ならば絶対に有り得ない感触だった。
その感触に嫌な予感を覚えた夏月は股間に手を伸ばすと、其処には本来あるべきモノが存在していなかった。
本来あるべきモノが存在せず、本来存在しえないモノが存在していると言う異常事態――詰まるところ、夏月は身体が『女体化』してしまっていたのである。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そして当然の絶叫は更識邸に響き渡り、その絶叫によって楯無達も目を覚ましたのだが、女体化した夏月を見て思わず思考が停止してしまった――と言うのも、女体化した夏月は『イケメンが女体化したら美少女になる』を体現したかの如き超絶美少女になっており、夏月の面影を残しながらも女性的になったその顔は、誰もが認める美少女でありながら顔の傷痕が『ワイルド美少女』と言った感じであり、プロポーションも抜群でありながら腹筋はバッキバキのシックスパックになっていると言う『マッスル美少女』となっていたのだ。
「夏月君……どうしてこうなったのかしら?」
「束さんのドリンクの副作用だろうなぁ……俺が女体化とか誰得だよ?こんな筋肉質な女体の需要って何処にあるんだよ……つーか、野郎のシャツだと胸が大分キツイな。」
「ふ……女体化しても君の魅力は変わらないよ夏月……此れほどの美少女が私達の伴侶であると言うのならば其れは其れでマッタクもって問題はない。寧ろ私的にはバッチ来いだよ。」
「お前はどんな時でもブレねぇなロラン!?」
取り敢えず女体化した夏月に関しては夏月の嫁ズは少しばかり暴走しかけたモノの、なんとか理性を取り留めたのだが――秋五組の方では夏月よりも、もっとトンデモナイ事態が発生していた。
「起きているか一夜ぁぁぁ!!」
夏月組の就寝部屋に突如突撃して来た箒は小脇に秋五似の少年を抱えていた――如何やら秋五は夏月とは異なり、女体化せずに幼児化してしまったのだった。
夏月組は幼児化した秋五に驚き、秋五組は女体化した夏月に驚いたのは当然と言えるだろう。
そうなった原因は間違いなく昨日飲んだ束特製ドリンクなので、夏月はどうしたモンかと束に連絡を入れたのだが……
『此の電話番号は本日限定で使われておりません。』
「アンのクソウサギ、モニターしてたのは当然として、俺と秋五のまさかの副作用を知ってバックレやがったな……まさかの副作用だったから言いたい事は山ほどあるんだけど、バックレたとなったら言いたい事を言うだけじゃ済まさねぇぞマジで……!
取りあえず野田の兄貴の『無駄無駄無駄無駄野田ぁラッシュ』と小林の兄貴の『憧れのサイスポー・ハードグリングリーン!』は確定だな。秋五、お前も束さんに対する制裁考えとけ!」
電話は繋がらなかった。
束は当然の如くリアルタイムで夏月と秋五の事をモニターしていたのだが、夏月が女体化し、秋五が幼児化すると言うまさかの副作用に『あ~~……此れは予想外だったから改造必須だね』と速攻でラボに閉じ籠り、スマホも上記のメッセージが流れるように設定してドリンクの改造を行い始めたのだ――その結果として、夏月からシバかれる事が半ば確定してしまったのであるが。
そして夏月は同じくトンデモナイ状況になってしまった秋五にも『束さんへの制裁考えとけ』と言ったのだが、そう言った夏月の事を秋五は不思議そうに見上げ――
「凄い顔の傷……でも、怖くない……お姉ちゃん、誰?」
「……は?」
まさかのセリフを口にしてくれた。
此れには此の場に居た全員が驚き、秋五の嫁ズが秋五に話し掛けるも、秋五は彼女達の事を本気で分かっていないらしく『お姉ちゃん達、誰?』と返したのだった。
演技をしているようには見えず、秋五は本気で此の場に居る全員が誰であるのか分かっていない様子で、しかし自分の事は『織斑秋五』と名乗った事から、幼児化した秋五は一時的に記憶が飛んでしまったらしいのだ。
「こんな状況になった際に一時的に記憶が飛んでるってのはある意味で幸運かも知れないが……この状態にあった時の記憶が元に戻った際に有ったらバチクソ地獄だけどな。
んで、お前は何してんだ箒?」
「し、秋五……私の事を、『箒お姉ちゃん』と呼んでみてくれないか?」
「え~っと……箒お姉ちゃん?」
「……グハァ!!」
「ちょっと~~!お約束ではあるけど大丈夫なの箒~~~!?」
「うむ、此れほど派手に鼻血を噴出すると言うのは軍人である私であっても初めて見たが……出血量は致死量ではないから大丈夫だろう多分。」
そんな中、箒は魔が差したのか秋五に『箒お姉ちゃん』と呼んでくれるように頼み、呼んで貰ったら予想以上の破壊力に鼻から愛を噴出して気絶してしまい、現場は一時騒然となり、やめておけば良いのにセシリアが其れに続いて『セシリアお姉ちゃん』と呼ばせて、『あぁ、尊いわ……』と恍惚の表情を浮かべた状態で気絶してしまったのだった……箒は普段妹として束と接しているので、『お姉ちゃん』と呼ばれた破壊力は凄まじいモノであったらしい。
まさかの早朝の騒動があったので夏月は何時ものトレーニングは行えなかったのだが、其れでも何時もの半分ほどの量の朝トレーニングを行うと、トレーニング後にシャワーで汗を流してから手際良く朝食を作り上げ、朝食タイムに――別室の総一郎と凪咲に朝食を持って行った時には流石に驚かれたが、事情を説明すると原因が原因だけに納得したようだった。
「しかしまぁ、まさか一日限定とは言え女の身体になっちまうとはな……声も何時もより高くて自分の声の筈なのに違和感しか感じねぇよマジで――つか、女性ビルダーかってのよ今の俺は。
取り敢えず今日は一日此処で過ごした方が無難だろうな。」
「うふふ……そんな事が出来ると思ってるのかしら夏月君?いえ、今は夏月ちゃんと言うべきかしらね?
こんな状況だからこそ、今日は全員で遊びに行くわよ~~!夏休みは一日たりとも無駄にする事は出来ないから、課題が終わってるなら遊んで遊んで、此れでもかって言う位に遊び倒すのが夏休みの正しい過ごし方なの!と言う訳で、今日は水族館に行くわよ~~!!」
「出来るとは思わなかったけどヤッパリですよねコンチクショウ!
つーか水族館か……となるとイルカショーは必須で水飛沫に被弾する可能性があるんだよな?……流石に女の身体でノーブラってのは拙いだろうけどスポーツブラであっても付けるのは抵抗あるから、仕方ねぇサラシ巻いてくか。」
「筋肉質だからアレだけど、アタシって今の夏月にもバストサイズ負けてんのよね?……この世から胸の脂肪細胞なんて死滅すれば良いのよ~~~!!
なんで、如何してアタシの胸は中学一年の時から1mmも成長してくれないのよ!牛乳飲んでチーズ食べて、バストアップの体操までしたのに……アタシの努力を返せってのよ!神様のバカヤロー!!」
其の朝食タイムにて、夏月は今日は更識邸で大人しくしている心算だったのだが、楯無が其れを許す筈もなく本日は水族館に繰り出す事が決定した――尤も、此れは元々のスケジュールではあったのだが。
夏月としては出来るだけ外出を控えたかったのだが、だからと言って短期間に詰め込んだスケジュールをキャンセルするのは如何かと思い、口では彼是言いながらも其れに異を唱える事はしなかった――もっと言うなら、今の自分ならば誰も『一夜夏月』とは気付かないだろうから、外出先でマスコミに突撃される事も無いだろうとも思っていたのだ。
夏休みでの外出では、何度かパパラッチ的マスコミに嫁ズとの時間を邪魔される事もあったので、少々辟易してのは事実だったのである――そんなマスコミには束がキッツイ制裁(取材データの抹消等々)を加えて来たのだが、其れでも突撃して来るマスコミは少なからず存在していた訳なのだ。
そんなこんなで一行は二台のリムジンで本日の目的地である水族館へとやって来ていた。
夏月と秋五のファッションだが、夏月はブラックジーンズに黒地に銀色で『我こそ拳を極めし者』と入ったTシャツを合わせ、秋五は楯無が部下に命じて織斑家から持って来させた、『秋五の子供の頃の服』を纏っており、半袖半ズボンの子供秋五に箒とセシリアは又しても気絶し掛けたのだが、其処は何とか持ち堪えたのだった。
其れはさて置き、本日訪れた水族館は入館直後に最近発掘された最強最大の巨大魚『ダンクルオステウス』の全身化石がお出迎えしてくれた――『最強最大の肉食魚』と言われているダンクルオステウスの全身化石は迫力満点で、特に幼児化した秋五は目をキラキラと輝かせていた。
「箒お姉ちゃん、セシリアお姉ちゃん、このお魚とっても強そう!」
「此れは現代のサメ以上の攻撃力を有していた最強の肉食魚だそうだ……サメのような鋭い歯は持たないが、代わりに頭骨全体が鎧のようになっており、口の部分には歯に該当する強固な突起物が存在していたらしい――と、パネルに書いてあった。」
「箒、最後の一言で色々と台無しよ。」
この大迫力の化石のお出迎えの次に待っていたのは円柱形の水槽で飼育されてる魚達だった。
其処にはアジやイワシと言った食卓でお馴染みの魚だけでなく、『コブダイ』や『イシガキダイ』と言った珍しい魚も展示されており、豆知識的な感じで水槽に『シラスとシラウオの違い』を記した紙が張られていて、ちょっとしたトリビアを楽しめるモノとなっていた。
其処から続いては『浅瀬の生き物コーナー』となり、其処には浅瀬に生きる小型のウミガメや、フグ、カニなどが展示されていた――尚、この水族館では夏休み限定のスタンプラリーが行われており、第一のスタンプが此の『浅瀬の生き物コーナー』にあったので全員が入館の際にスタッフから渡されたスタンプカードに捺印したのだった。
其れからは少し施設を下ってから施設最大の『大水槽』にやって来た。
この大水槽には回遊魚や小型のサメやエイ、熱帯の海に住む色鮮やかな熱帯魚、ウミガメなどが展示されており、夏休みの特別企画として飼育員による『餌やり』が公開されると同時に、アナウンスとモニターでどの様なモノが餌として与えられているのかも紹介されていた。
餌の多くはアジやイワシ、スルメイカにアサリと言った海産物だったが、ウミガメ用に『バナナ』が用意されていると言う意外性もあり、其れを聞いているだけでも大いに楽しむ事が出来て、大水槽を楽しんだ後は大水槽前で集合写真を撮って、次は深海エリアだ。
深海エリアは流石に生きている魚を展示するのは難しいので『リュウグウノツカイ』の剝製や深海生物のCGが展示されるに留まったのだが、展示されているリュウグウノツカイの剥製は10m以上もあり、迫力がハンパなモノではなかった。
「これだけ長いのに頭から下は喰われる事前提で長くなってるってんだから、ある意味で潔くねぇかなリュウグウノツカイって。」
「喰われる事前提ってのがネガティブなのかポジティブなのか若干迷うところではある……戦略的撤退みたいな感じなの、かな?」
「其れは、何とも言い難いわねぇ……」
「箒お姉ちゃん、セシリアお姉ちゃん、このお魚さんとっても長いよ!」
「あぁ、そうだなとっても長いな。長縄跳びが出来そうだな。」
「このお魚さんが海面に浮いて来た時は天変地異の前触れと言われているそうよ?2011年に日本で起きた『東日本大震災』の前にも関東の近海でリュウグウノツカイが海面に上がったらしいからね。」
さて、幼児化した秋五を除いて本日は美少女の集団となっている夏月組と秋五組であり、此れだけの美少女が集まっていたらナンパ師が寄って来そうなモノなのだが、一行をナンパする野郎は居なかった――幼児化した秋五が居るので、『子供の面倒を見てる奴をナンパ出来ねぇよな』と考えたのもあるが、一番の原因は夏月である。
今の夏月は誰が見ても『美少女』と言える女性となっているのだが、顔の傷痕と、女体化しても変わらない『究極の細マッチョ』にナンパ師達はビビッて声を掛ける事が出来なかったのだ――女体化した事で夏月の筋力は本来の30%ほど低下しているのだが、其れでも並の成人男性の筋力を遥かに凌駕しているので、ナンパ師を撃退する事は余裕なので、ナンパ師達が自重したのは良い判断だったと言えるだろう。
「それで、次のコーナーに来た訳だけど……箒ちゃんは何をしているのかしら?」
「ダイオウグソクムシと睨めっこをしています更識会長。」
深海コーナーの次は、『水族館で展示できる深海生物のコーナー』となっており、其処で箒は水槽越しにダイオウグソクムシと睨めっこをしていた……臨海学校の時もそうだったが、箒は己と目が合った海洋生物とは睨めっこをしなければ気が済まないのかも知れない。
其処からエスカレーターで上がった先には中型の水槽に様々な魚を展示してあるコーナーとなり、マンボウや色々なサメ、南の海のサンゴ礁なんかが再現された水槽があり、サンゴ礁を再現した水槽の前では箒がウツボと睨めっこをしていた。
「チンアナゴって、アナゴ?なら食べられるのだろうか?」
「食べるってどうやって?」
「素麵みたいに汁に浸けてツルツルと。」
「其れは流石に可愛そうだろ……」
『チンアナゴ』の水槽の前ではこんな珍会話が行われ、その先にある『北海の海コーナー』では『流氷の天使』の異名を持つハダカカメガイ、俗称『クリオネ』が展示されていたのだが、タイミングが良いのか悪いのか餌の時間だったらしく、頭部の『バッカルコーン』を展開して餌を食べると言う『悪魔の食事風景』を見てしまい、秋五はちょっと固まっていた。
北海の海コーナーの次は『海獣コーナー』となっており、ラッコやアザラシ、海鳥の展示を楽しんだ後に、今年生まれたアザラシの赤ちゃんの名前を募集していたので全員で応募用紙に夫々が考えた名前を記載して投票箱に入れていた――と同時に、此処でスタンプラリーの二個目のスタンプをゲットした。
此処まで来たところでランチタイムとなったので、水族館内でのフードスクエアでランチを摂る事に。
フードスクエア内には様々な店が出店していたのだが、グリフィン以外の全員が『海鮮丼専門店・丼姫』にオーダーを出したのだった。
夏月は『パーフェクトマグロ丼の特盛』、楯無は『大盛りマグロユッケ丼』、簪は『大盛りネギトロキムチ丼』、ロランは『大盛り生シラス丼』、ヴィシュヌは『大盛り鯵タタキ丼』、鈴は『大盛り漬けカツオ丼』、乱は『大盛りイワシのナメロウ丼』、ファニールは『大盛り漬けマグロ丼』、秋五は『お子様寿司セット』、箒は『大盛り海鮮テンプラ丼』、セシリアは『大盛りうに丼』、ラウラは『大盛り活イカ丼』、シャルロットは『大盛り貝丼』、オニールは『大盛りネギトロユッケ丼』をオーダーしていた。
唯一別の店でオーダーを出したグリフィンは、『ステーキハウス・肉野郎』にオーダーを出しており、そのオーダーは『サーロインランチの肉500gをレアで、肉三倍』と言う相当にぶっ飛んだモノだった。
肉500gで肉三倍となれば1500gのステーキとなるのだが、オーダーしたメニューが運ばれて来たグリフィンは其の超絶ステーキを実に美味しそうに完食して、更にはおかわりとしてまたしても合計1500gをオーダーすると言うぶっ飛び具合を見せてくれたのだが、グリフィンの食べっぷりには周囲の客も驚きながらも感動したらしく惜しみない拍手が送られていた。
尚、客の中には此の光景に驚き、思わずスマートフォンで動画を撮ってSNSにアップする者も居て、SNS上ではこの動画が『ステーキ爆食美少女』とのタイトルで暫しバズるのであった。
――――――
ランチ後の午後の部は水族館の大人気イベントとも言える『イルカショー』から始まった。
夏休みの特別企画となっているイルカショーは人気が高く、立ち見になる客も少なくなかった――夏月達は運良く座席を確保する事が出来たのだが、水槽の最前列だったので水飛沫に被弾するのは間違いないのだが、水飛沫に被弾するのもまたイルカショーの醍醐味なので此の座席は寧ろ美味しいと言えるだろう。
夏休みのイルカショーのプログラムは『ウルトラマン』とコラボしており、『地球を侵略しに来たバルタン星人vs地球防衛軍』と言った形となっており、バルタン星人に模したボールをイルカがジャンプからのテールキックで撃退し、一気に五つのボールが降りて来た際にはウルトラマンが降臨して戦うも、途中でエネルギー切れとなってしまい絶体絶命となったのだが、此処でイルカの背に乗ったアシカがヒレをぶん回して観客のヒートを集めてキスでイルカに其れを伝え、イルカがハイジャンプからのドルフィンキックでボールを蹴ってウルトラマンにエネルギーを譲渡して、最後はアシカを背に乗せたイルカがハイジャンプして宙に浮くボールにテールキックをブチかますと同時に、残る一個のボールに『スペシウム光線』のエフェクトが走ったと思った次の瞬間にはボールは破裂した。
『フォフォフォ……よもや此れほどとは……少しばかり君達を甘く見ていたようだ――だが、次はこうは行かないぞ地球人よ。』
「来るなら来いバルタン星人!お前達が何度来ても俺達は負けない!地球は俺達が守る!そしてその意思がある限り、ウルトラマンは俺達の味方でいてくれる!
お前達が地球を侵略する事は永遠に出来ないぞバルタン星人!!」
『ウルトラマンを味方に付けたとなれば些か分が悪いので今は退散するが……君達が道を間違えれば味方だったウルトラマンは即敵となる――精々光の巨人が永遠の味方である為の努力を怠らない事だ。』
「分かっているさ……だから、俺達はウルトラマンを裏切らないように努力していくだけだ――じゃあな、バルタン星人。」
『フォ~ッフォッフォッフォ!!』
最後は地球防衛軍の隊員に扮した調教師とバルタン星人の音声での遣り取りが行われ、バルタン星人に見立てたボールにイルカがハイジャンプドルフィンキックをブチかましてターンエンド。
グレーな結末だったが観客はスターディングオベーションとなり惜しみない拍手を送っていた。
イルカショーを楽しんだ一行は『淡水魚コーナー』で池や川の生き物を楽しむ事に。
此の『淡水魚コーナー』にはアユやフナ、コイと言ったお馴染みの魚だけでなく生きてる姿は中々お目に掛かる事が出来ない『ナマズ』や『ウナギ』、『斑点模様がないニジマス』と言った珍しい魚も展示してあり、更には全長が180cmもある『ヨーロッパオオウナギ』まで展示してあり、一行はその大きさに驚く事になった。
其の後は夏休み限定の企画展である『大アマゾン展』で『デンキウナギ』や『ヘラクレスオオカブト』、古代魚の『ガー』、超巨大なナマズ、アナコンダと言ったアマゾン付近に生息している南米の生き物を観覧し、此処でスタンプラリーの最後のスタンプをゲットして、スタンプラリーの景品である『オリジナル納涼扇子』を手に入れ、秋五は小学生以下限定の水族館のマスコットのキーホルダーも手に入れた……本来は高校生なのだが、今の秋五は誰が何処から見ても五歳児ほどにしか見えないのでギリOKだろう。
最後は土産コーナーで夫々色々な土産(水族館オリジナルクッキー、マスコットのヌイグルミ、水族館オリジナルのナマズカレー等々)を購入した後に迎えのリムジンに乗り込み、楯無が予約していた『ジビエ料理』の店に足を運んで『ボタン鍋』に舌鼓を打つ事になった。
ジビエ料理は全員が初体験だったのだが、イノシシの肉は牛肉に近く、ボタン鍋は『すき焼き』のようなモノであり美味しく頂き、〆のうどんも『うどんスキ』で美味しく頂いたのだった。
そのジビエ料理を堪能した後で更識邸に戻りお風呂タイムとなったのだが――
「何で入って来てんだよ楯無さん達は!?」
「今の夏月ちゃんは女の子だから問題ないでしょう?……と言うか、一緒にお風呂とか今更でしょ?と言うか、一緒にお風呂以上の関係になってる訳だしね?夏月君の○○○は凄かったわ……何度絶頂してもまた欲しいと思ってしまったんですもの……愛には限界量は存在しないわね。
そうだわ、折角だから夏月ちゃんの状態でってのは如何かしら?」
「待ってお姉ちゃん。
女性が感じる性的快楽は男性が感じる其れの凡そ百倍で、男性に同等の刺激を与えるとショック死するって聞いた事がある。」
「そうなのかいカンザシ?其れは初めて聞いたが……またとない機会だから、その説が本当かどうか是非とも検証してみるべきではないかと思うのだが、君は如何考える夏月?」
「そんなモン却下に決まってんだろ!つーかそもそもにして普通俺に聞くかロラン!?
大体その説が本当だったら俺死ぬじゃねぇか!死因は何だ?腹上死か!?」
楯無達が突撃して来た事により、夏月は何ともドタバタなお風呂タイムを過ごす事になり、何とか本日は夜のISバトルはしない方向に持って行く事に成功し、ひとまず無事に就寝する事になったのだが、眠ったら眠ったで、羅雪のコア人格の世界に呼ばれていた――しかも夏月だけではなく、夏月の嫁ズも一緒だった。
「羅雪、俺だけじゃなくてロラン達まで呼ぶとか何かあったのか?」
「特別何があった訳ではないが、一人で飲むと言うのも些かツマラナイから誰かと一緒に飲みたくなったので呼ばせて貰った。
勝手で悪いが暫し付き合え――ISのコア世界は精神世界であり、夢と同じなので、飲酒をしても問題あるまい。
現実世界で未成年が飲酒したとなれば大問題だが、夢の世界での飲酒であるのならば誰も文句は言えない上に何が問題になる訳でもないからな――だから今宵は私の晩酌に付き合え。未来の義妹と飲むと言うのも一興だしな。」
「そう言う事ならば付き合わさせて貰いますわ、お義姉さん♪」
呼ばれた理由はまさかの『一人で飲んでもツマランから付き合え』との事だったが、精神世界であれば酔う事はない上に幾らでも飲む事が出来るので断る理由はなく、大人数で精神世界での酒盛りを大いに楽しんだのだった。
因みに夏月の姿は女体化していなかったが、身体は女性になっても精神は男のままだったので精神世界では元の姿だったのだろう。
――――――
そして翌日、夏月の女体化と秋五の幼児化は効力を失って、夏月は元の身体に戻り、いつもの早朝トレーニングを熟した上で、これまた元の姿に戻った秋五と共に『ムーンラビットインダストリー』に出向き、ラボで束と向き合っていた。
「オイコラ天才クソウサギ、昨日はよくもバックレやがったなぁ?
まさか女体化するとは思わねぇだろうが!おかげで昨日は色々と大変だった事もあったんだぜ?水族館のトイレとか!……最後にこの世で言う事はあるか?」
「そうだねぇ……箒ちゃん、愛してるよ……もし私が生きてたら、ベッドの上で姉妹の愛を語ろうじゃないか!そう伝えてくれるかな?」
「前半は兎も角、後半は色々とアウトなので割愛するぜ束さん……取り敢えずこの技で戦闘不能になっとけや!必殺『7000万パワーマッスルスパーク』!」
「ペギャらっぱあ!?」
限られた空間のラボ内では逃げ回る事は出来ず、そもそも出入口は秋五がガードしているのでラボの外に逃げ出す事も不可能となり、ドリンクの効果で潜在能力が解放された夏月に束はアッサリと捕まってしまい、脱出不能の超絶技『マッスルスパーク』を喰らって完全KOされていた――しかしながらKOされた束の表情はドリンクの効果を身をもって体験した事もあり、『やり切った笑み』が浮かんでいたのだった。
まさかまさかの展開となったが、此れもまた夏休みの良い思い出になる事だろう。
「秋五、お前マジで昨日の記憶無いのか?」
「それが不思議とないんだよね……君から聞いた限りでは無い方が幸せだけどね……君は如何なんだ夏月?」
「バッチリあるからある意味では地獄……記憶があるってのは、時としてトンデモねぇディスアドバンテージになるのかも知れないぜ――女体化した俺の事を誰もが完全に認めてくれたらまた違うのかも知れないがな。
ま、今回の事は貴重な経験だって思った方が良いのかもだぜ――こんな機会はこの先滅多に起こらない事だからな。」
だが其れでもこの一幕は夏休みの思い出に過ぎない――夏休みも残りは半月ほどなので、残る時間をドレだけ充実して過ごす事が出来るのか?取り敢えず、夏月組と秋五組も残る夏休みを充実した日々にすべき為の計画を練っているのだった。
To Be Continued 
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