夏休みであっても早朝トレーニングを欠かさない夏月は今日も今日とてマラソンと各種ウェイトトレーニングを行った後で仮想敵(身長195cm、体重120㎏のコンバットレスリングの達人)とのスパーリングを限界ギリギリの極限まで行った挙句に、ヨガの柔軟体操と太極拳を行って筋肉の剛性と柔軟性を高めて強化に強化を重ねて行く……IS操縦者として、武道家として、更識のエージェントとして、そして何より八人もの嫁を守る為には日々鍛錬は欠かせないのだ。
其のトレーニングを終えた夏月はシャワーで汗を流した後に厨房にやって来たのだが――


「箒、もう来てたのか……思ったよりも早いな?」

「早朝のトレーニングを行っていたのだろうお前は?ならばお前の方が早起きだ一夜。」


厨房には既に箒の姿があった。
実は本日は夏月組と秋五組で遊園地に繰り出す事になっており、夏月と箒は昼食の『弁当』を作る為に厨房を訪れていたのだ。
夏月よりも先に厨房に入って弁当を作ってた箒は、既に弁当の定番であり殿堂入りとも言えるメニューである『玉子焼き』を完成させて重箱に詰めていた――この玉子焼きは箒が母親の冬馬から習ったモノなのだが、オリジナルレシピが玉子に和風のカツオダシの粉末と塩と砂糖で味付けしたモノだったのに対し、箒はそのレシピを完璧に再現出来るようになったところで独自のアレンジを加えて和風のカツオダシの粉末と塩を白だしに、砂糖をハチミツに変え、少量の味醂を加えて味付けして焦げ易くした上で何回にも分けで玉子液をフライパンに入れて巻くを繰り返す事で断面が見事な渦巻き模様になった玉子焼きを完成させていた。


「おぉ、美味そうじゃん。黄色にうっすらと入った茶色の焼き色が良い感じだ。ハチミツ使うと焦げ易いからこの色に仕上げるのは難しんだけどな?」

「数え切れぬ失敗の末に漸くこの色に仕上げる事が出来るようになってな……自分で言うのもなんだが努力の結晶と言う奴だ。
 それだけに料理の腕に関しては秋五のパートナーの中では一番だと自負している――最近、洋食に関してはセシリアが物凄い勢いで伸びて来ているので油断は禁物だが。」

「そんな話を聞くと、嫁ズの誰よりも料理の腕前が上な俺がちょっと複雑な気分……まぁ、俺の嫁ズは全員料理出来るけどさ。嫁の料理にはやっぱり憧れるって。」

「ならばそう言って作って貰えば良いのではないか?だがまぁ、家事全般が出来るに越した事はあるまい?
 今の御時世、男性も家事が出来なくてはダメだからな……『家事は女の仕事』等と言う前時代的な考えでは生涯独身は免れんのではないかと思うぞ――姉さんのように『家事は一切出来なくてもまったく問題なく生活する事が出来る』と言うのも如何かとは思うが。」

「束さんは其れで良いんじゃね?ぶっちゃけ束さんのお眼鏡に適う男性なんぞ早々存在しねぇって……其れこそ『キラ・ヤマト』や『不動遊星』レベルのヤッベェ奴じゃないと無理だと思うんだけど、妹としてお前は如何思う?」

「否定出来んのが悲しいな。最悪の場合は全てを全部自動でやってくれるアンドロイドを作ってしまう気すらするぞ。」


雑談をしながら、夏月は夏月で冷蔵庫から昨日の内に下味をつけていた鶏肉に米粉を塗して衣を付けると、其れを煮立った油に投入して、これまた弁当の大人気おかずである鶏の唐揚げを作って行く。
欧州組とカナダの双子の夏バテ解消メニューの時に作った唐揚げとは違い、本日の唐揚げは王道の『ニンニクショウガ醤油』と洋風の『白ワインと塩コショウ』、ナンプラーとシラチャーソースで味付けしたエスニック風、ヨーグルトとカレー粉と塩とチリパウダーに浸け込んだ『タンドリーチキン風』の四種だ。
小麦粉ではなく米粉なのは、米粉は小麦粉よりも『ザクッ』とした食感の衣になり二度揚げの手間がなく、冷めても衣がシンナリしにくいと言う特徴があるので弁当向きなのである。序に米粉は小麦粉よりも油を吸わないのでカロリーカットにもなると言うおまけ付きなのだ。
其処から夏月と箒は次々と弁当のメニューを作り上げて行き、唐揚げと玉子焼きの他に『ほうれん草とモヤシとゼンマイのナムル』、『銀鱈の西京みそ焼き』、『キンピラゴボウ』、『揚げナスの肉みそ和え』、『筑前煮』、『ジャガイモのマヨチーズ焼き』が完成。
主食は『おにぎり』であり、その具材も定番の梅干し、焼き鮭、昆布の佃煮の他に箒が『高菜明太』、『ジャコたくあん』、『アジのヨーグルト味噌漬け』を、夏月が『スモークサーモンと醤油漬け筋子』、『刻んだナムルと肉みそと冷凍卵黄』、『白いペースト状の何か』と言った変わり種を用意していた――白いペースト状の何かはツナマヨに似ていたが、ツナマヨとはまた異なったモノだろう。
そのおにぎりも定番である焼きのりで巻くだけでなく、おぼろ昆布、大判削りのカツオ節、高菜の塩漬けの葉っぱ等を巻くと言う拘りっぷりだった。
こうして弁当を完成させた夏月と箒だったが、夏月は休む間もなく朝食の準備に取り掛かり、瞬く間に十五人分(グリフィンが居るので実質二十人分)と言う凄まじい量の朝食を作り上げ、その手際の良さには箒も手伝いながら、只々目を丸くするだけだった。


「私の手伝いなど必要なかったのではないかと思う位の手際の良さは見事だが……一夜、お前その鍋とお玉を持って何処に行く心算なのだ?」

「え?いやほら朝飯出来たから皆を起こそうかなぁって。アニメとかマンガであるじゃん、鍋をお玉で叩いて起こすやつ。アレやろうかなって。」

「止めんか!アレで目が覚めるのは創作の世界だけだろう!?
 いや、現実でも目は覚めるかも知れんが、今まで眠っていた所に金属がぶつかり合う甲高い轟音を聞かされたらビックリし過ぎて心臓に悪い上に自律神経も乱れてしまうだろうが!」

「自律神経の乱れまで指摘するとか、意外と人体に詳しいっすね箒さんや?」

「剣道をやって行く中で、只我武者羅に剣の腕を鍛えれば良いのではないと気付いて、如何すればもっと効率良くトレーニングの成果を上げられるかを研究して行く内に自律神経と言うモノのバランスを整えるのも大事だと知ってな。」

「何処でどんな知識を得るのかってのはホント分からんモノだよなぁ……そんじゃ、別の方法で起こすとしますか。」


朝食が完成したので、他のメンバーを起こそうとマンガやアニメでお馴染みの『例の方法』を行おうとした夏月を箒が『其れは危険だ』と止めて、最終的に『全員の専用機と広域通信を繋いで音楽を流す』と言う方法で起こす事に決まった。
その際に箒が、『ゆったりとした曲調で始まりながらも、途中で激しいリズムになるモノだと自律神経が副交感神経から交感神経に切り替わり易い』と言い、夏月は該当する曲をスマートフォンのライブラリから探して、羅雪とUSB接続した後に眠っているメンバーの専用機と広域通信を繋げるのだった。










夏の月が進む世界  Episode54
『夏休みEvent Round2~遊園地で遊び倒せ~』










夏月が選択した楽曲は、確かに箒が言った事に合致していたのだが、まさかの黒のカリスマの入場テーマ曲だった『Crash~nWo.Ver~』だった……鐘の音から始まるこの曲はゆっくりとしたテンポで始まり、『N・W・O』の音声の後にロックのメロディーが流れるモノだ。
其れだけならば特に問題なかったのだが、夏月が途中で『ガッデ~ム!!朝だオラァ!朝飯出来てるから起きろガッチャメラ!』と黒のカリスマのモノマネをブッ込んで来たのだ――此れにはまだ夢の世界に居た他のメンバー達も一気に目を覚ます事になり、揃って通信先の夏月に異口同音に突っ込みを入れるのだった。

目を覚ましたメンバーは顔を洗ってから着替えると食事場所となっている大広間に集合。
夏月組と秋五組が更識邸に泊まるようになってからは、総一郎と凪咲は別室で二人で食事を摂っているので其方の方に配膳をしてある――総一郎曰く『オジャマ虫は引っ込んでいるよ』との事なのだが、実のところは『若者だらけの空間だと話が合わずに気まずい空気を流してしまいそうだから』であった。先代の楯無であってもジェネレーションギャップを埋めるのは難しいようだ。


「まさかの目覚ましに驚いたけれど、今日の朝ご飯も美味しそうね?」

「美味しそうじゃなくて美味しいんだよ楯無さん。今日は箒が手伝ってくれたから何時もよりも捗ったしな。」

「いや、私は居ても居なくても同じだったのではないだろうか?」

「同じじゃないぞ?
 お前が居てくれたから何時もよりも量が多いのに、何時もより早く作れたからな――アスリートの世界では0.1秒を縮めるのも大変な事を考えると、分単位で短縮出来たお前の働きは誇って良いモノなんだぜ。」

「少し釈然とせんが、そう言う事にしておこう。」


全員が長机の前の席に着き(和室なので座布団です)、『いただきます』をしてから朝食タイムに。
本日の朝食のメニューはご飯(雑穀米)とわかめとネギと豆腐となめこの味噌汁に納豆(卵黄、ネギ、もみのり、ちりめんじゃこ、辛子トッピング)、アジの開きのグリル焼き新ショウガの酢漬け添え、ほうれん草の胡麻和え、玉子豆腐である。玉子豆腐もスーパーで購入した既製品ではなく夏月が手作りしたモノだ。
因みにアジの開きは厨房のグリルでは一気に焼けないので、大型のバーベキューコンロを使って一気に焼き上げた――その結果、炭火焼きとなった事で旨さが爆増した訳ではあるのだが。


「玉子豆腐を手作り出来るって、其れって可成り凄い事だと思うんだけど?」

「そうでもないだろ?茶碗蒸しの作り方を知ってれば玉子豆腐だって簡単に作れるからな?
 最大限ぶっちゃけると、玉子豆腐って『具材が入ってない冷たい茶碗蒸し』だから。『具材を入れて蒸して温かい状態で出すか』、『具材を入れずに蒸した後に冷やして出すか』、茶碗蒸しと卵豆腐の違いは本当に其れだけだからな。
 其れは其れとして、海外組もすっかり納豆が平気になったな?」

「初めて食べた時は強烈な臭いが気になったけれど慣れてしまうと納豆も美味しいわね?
 調べてみたら栄養価も豊富で、特にたんぱく質が豊富で美肌効果もあるって事だから、英国淑女としては外せない食材であるのかも知れないわ……納豆には卵黄とカツオ節とネギ、そして辛子と醤油ね。」

「うむ、其れが納豆のトッピングの基本だセシリア。個人的にはシラスや塩昆布もお勧めだがな。」

「タイにもインドから伝わった納豆に似たモノがあるのですが、タイでは刻んだ青唐辛子やナンプラーを混ぜて食べる事が多いですね――若しかしたら納豆にカレー粉はアリなのかもしれません。」

「発酵食品と発酵食品の組み合わせは最強だから粉チーズとキムチも全然アリだと思う……と言うか、納豆キムチのチーズピザトーストはとっても美味しかった。」

「其れを実行したアンタに驚きよ簪!てか、其れって焼き上がった後トースト内がめっちゃ臭くなりそうなんだけど……」

「実際に臭かったから即ファブリーズした。」


朝食タイムは、何故か納豆談議が開催され、全員が納豆耐性を獲得している夏月の嫁ズは夫々がお勧めのトッピングを披露していた――秋五組ではセシリアが納豆耐性を獲得していたのが驚きだが。
その中でもファニールが言った『納豆にメープルシロップ+醤油』とは中々に斬新だろう――メープルシロップの独特の風味が納豆の臭いを消すのかも知れない。真相は分からないが。

朝食後は一休みした後に本日の目的地である遊園地に向かう事になった。
目的地は東京ドームシティでも、東京ディズニーワールドでもユニバーサルスタジオジャパンでも富士急ハイランドなく、本日向かうのは北関東某所に此の夏オープンしたばかりの新施設『ジャパン・サブカル・ワールド』なる遊園地だ。
此の遊園地は、今や日本が世界に誇る文化の一つと言える『アニメ・マンガ・ゲーム』をテーマにしたテーマパークで、園内には日本国内のみならず海外でも大人気の作品をテーマにした施設やアトラクションが多数存在しており、オープンするや否やSNS上で話題となって、あっと言う間に新たな『サブカルチャーの聖地』として連日大盛況となっているのだ。
其れだけ人気のテーマパークともなればチケットを購入するのも中々に難しそうだが、其処は世紀の大天才にして自称『正義のマッドサイエンティスト』である束がが味方のこの一行、束がこのテーマパークのホームページをハッキングしてチケット購入のプログラムを弄って人数分の『一日フリーパス券』を見事に手に入れていたのである――勿論これは普通ならば間違いなく犯罪なのだが、束はチケットを手に入れるだけでなく、ちゃんと電子マネーで購入金額を支払っているので盗んだ訳ではない。言うなれば『コネを使ってチケットを優遇して貰った』と言うところだろう……方法は可成りグレーではあるが、代金を支払っているのだから其処まで大きな問題にはならないだろう。
そもそもにして運営側からしたら『十五人分の一日フリーパス券が売れた』と言う結果しか残らないのでハッキングされた事にすら気付く事はないのだ――束のハッキングを見破って対処出来る人間がこの世に果たして存在するのかと言う問題もあるだろうが。

そんな経緯でチケットは手に入れた訳だが、其の目的までの移動に用意されたのはまさかのリムジン。
人数が人数なので、リムジンはサイズの異なる二台用意されており、、大きな方には夏月組が、通常サイズには秋五組が乗り込んで移動する事になったのだが、リムジンに乗った事がなかった面々は此れだけで驚いてしまっていた……更識姉妹とセシリア、そしてテレビの企画で何度か乗った事があったコメット姉妹は慣れたモノだったが。

其れから首都高を突っ切って北関東某所に突入して高速を降りると一路目的地に向かって二台のリムジンはエンジンを吹かし、高速を降りた三十分後には目的地であるテーマパークに到着していた。


「お疲れ様。帰りは改めて連絡を入れるから、連絡が来たら迎えに来てちょうだいな。」

「了解しました楯無様。」


リムジンを降りた楯無は運転手にそう告げ、其れから入り口で全員が『一日フリーパス券』を提示して園内に入ったのだが、其処はまるで別世界だった。
様々なアニメ・マンガ・ゲームの世界観が再現されているのは当然として、園内スタッフが様々なアニメ・マンガ・ゲームキャラに扮したコスプレをしており、中には『アニメやマンガ、ゲームの世界から飛び出して来たのではないか?』と思う程の完成度を誇るコスプレもあり、思わず簪がスマホで撮影しまくったくらいなのだ。

そして一行が先ずやって来たのは園の目玉アトラクションであるジェットコースターだった。
此のジェットコースターは、『遊戯王5'Ds』をモチーフにした、其の名も『ライディング・コースター』。
遊戯王5D'sの主人公『不動遊星』の愛機である『遊星号』を模したゴンドラが特徴なのだが、ライディングデュエルと言えば超高速は当然として、時として壁走りや天井走りをするトンデモ無いモノなので、其れを再現したとしたら相当ぶっ飛んだアトラクションであるのは想像に難くない。
運良く全員が同じゴンドラになったのだが、その最前列になったのは夏月と秋五だった……此れは喜ぶべきか嘆くべきか意見が分かれそうである。
そして定員に達した所でゴンドラは動きだし、長い上り坂を上って行く……その高さは500mと国内最大で、頂点に達した直後にこれまた国内最大となる八十度の傾斜を一気に降りる事になると言うトンでも仕様。
四十五度の傾斜ですら降りる際にはほぼ垂直落下の感覚であると言うのに、其れが八十度ともなれば最早自由落下の其れに近いだろう。


「さて、そろそろ頂点だな……其れじゃあ行きますか!
 レベル8シンクロモンスター、スターダスト・ドラゴンに、レベル2シンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!
 集いし夢の結晶が、新たな進化の扉を開く!光さす道となれ!!」



――ガコン……



そして遂にゴンドラは頂点に達し、其処から一気に急降下!


「アァクセルシンクロォォォォォォォォォォ!!」


先ずは落差400mの急降下に始まり、その急降下後には急上昇からの4回転捻りが入り、其処からまた急降下した後に横倒しのストレートから天地逆転の上昇した後に天地逆転のまま急降下し、天地逆転のまま一回転かと思いきやこの一回転がメビウスの輪になっていて強制的に天地が元に戻され、其処から連続の三連ループを経て急上昇すると、最後の急降下が行われ、三回転、天地逆転ストレート、横倒しストレートを経て最後のバックストレートで激走してターミナルに到着。
絶叫系大好き人間であってもグロッキーになるであろうハードなジェットコースターだったのだが……


「いやぁ、実に見事なアクセルシンクロだったわねぇ……実際はもっと速いんだろうけど。」

「と言う訳で無事に招来しました『シューティング・スター・ドラゴン』。」

「思った以上に過激だったけど楽しかったね?次は何処に行く?」

「私は此処に行ってみたいな?バイオハザードをモチーフにしたホラーハウスと言うのは中々に興味がある。」


夏月組も秋五組もマッタク持って平気だった。
と言うのもISバトルにおける激しさはジェットコースターの比ではなく、ジェットコースター位の激しい軌道は日常的に行っているので耐性が付いていたのだ――自分でやるのか、外部から強制的にやられるのかと言う違いはあれど、耐性があると無いでは矢張り違いは大きいだろう。実際に初めてこれに乗った者達は軒並みグロッキーになっていたのだから。

そんなジェットコースターを楽しんだ後は、ラウラのリクエストでホラーハウスにやって来ていた。
此のホラーハウスは、大人気サバイバルホラーゲームの『バイオ・ハザード』をモチーフにしており、第一作の洋館を模した外観が特徴的だ――更に特徴として、ホラーハウスでは当たり前の一方通行設計ではあるが進路途中に自分で開けることが出来る扉が幾つも存在しており、扉を開けて中に入るか否かを自分で選択出来ると言う事が上げられるだろう。
自分で選択出来ると言う事は、言うなれば自ら恐怖の演出の扉を開ける事になる訳だが、必ず扉を開けた先に恐怖の演出が待っているとは限らないので、ドキドキ感は普通のホラーハウスよりも大きいだろう。
そうしてホラーハウスに入って行った夏月組と秋五組は館内を移動したのだが、簪が『ゲームを忠実に再現してるなら、あの部屋に何かある』と言ったので、その部屋に入ってみたら、其処には何かを貪る人らしき何かの姿が……


「かゆ……うま……」


その正体はゾンビ……に扮したスタッフなのだが、此の状況では雰囲気がありまくり過ぎた。
迫真の演技にコメット姉妹は恐怖で失神してしまい、夏月がファニールを、秋五がオニールを担ぎ上げて其の場を離脱したのだが、部屋を出たところで待っていたのはハンターだった。
驚かそうと襲って来たのだが、其れは更識姉妹がビンタをかまして撃退……相手が人外(に扮した存在)であっても驚く事は無いらしい。こんな所でも更識として鍛えて来たモノが役に立っている様である。
其れからも様々なクリーチャーが襲い掛かって驚かせてくれて、施設を出ようとした最後にはラスボスのタイラントが現れて最高に驚かせてくれたのだった……其処で目を覚ましたコメット姉妹が再び気絶すると言うハプニングがあり、更には此のタイラントを倒さないとゴール出来ないようになっており、其の場にはモデルガンのマグナムとグレネードランチャーとショットガン他様々なモデルガンが置かれていたので、コメット姉妹以外の全員が其れを手に取って引き金を引きまくった結果、タイラントは倒れて無事に洋館から脱出したのだった――モデルガンが玩具火薬搭載の『発火モデル』だったので臨場感がハンパなモノではなかったが。

ジェットコースターとホラーハウスと言う過激なアトラクション二連続となったので、コメット姉妹が目を覚ました後はコーヒーカップやメリーゴーランド、レールサイクルと言ったファンシー系のアトラクションを楽しんだ。
コーヒーカップはカップが『スーパーマリオ』の『クッパクラウン』になっており、メリーゴーランドの馬は遊戯王の『サンライト・ユニコーン』、『サンダー・ユニコーン』、『ボルテック・バイコーン』、『ライトニング・トライコーン』、『ファイヤーウィング・ペガサス』で、馬車は『巨大戦艦 クリスタル・コア』で、レールサイクルの足漕ぎゴンドラは歴代仮面ライダーのバイクを模したモノとなっていた。

そんな感じでファンシー系のアトラクションを楽しんだ所でランチタイムとなったので、一行は屋外スペースにて長テーブルを二つくっ付けて席を作ると、其処に夏月と箒が作った弁当を展開する。
事実上二十人前となる弁当は重箱に詰められており、五重段が四つと言う時点で可成り凄まじいのは間違いないだろう。


「此れだけの重箱、何処に隠してたの?」

「羅雪の拡張領域に入れといた。
 拡張領域に入れときゃ量子分解されて持ち運びも便利だし、取り出したその時は出来立て状態が維持されてるってんだから便利だよなぁ?この拡張領域の技術はデリバリー専門業者に売れば良い感じの収入源になる気がしてならねぇわ。」

「こう言うのを『廃スペック』って言うのかな?其れとも技術の無駄遣いの方が合ってるんだろうか?」

「秋五、其れは気にしない方が良いと思うわ……多分永遠に答えは出ないと思うから。」

「だね。」


そしてランチタイムがスタート。
夏月と箒が作り上げた弁当は実に美味であり、夏月製の唐揚げと箒製の玉子焼きは特に大人気で、あっと言う間にソールドアウト状態になったくらいだ――勿論其の他のメニューも大好評で、主食のおにぎりも大人気だった。
ノリ以外のモノも巻いてあると言う事と、多種多様な具材が高評価だったのだが、夏月が作った『白いペースト』を具材にしたおにぎりを口にした時には全員が動きを止める事になった。
其れはツナマヨに酷似しているがツナマヨではなく、もっと深い味わいを感じたのだ。


「此れは、ツナマヨではないね?ツナマヨよりも深い味わいを感じる……此れは何だい夏月?」

「コイツは鯖の水煮缶のリエットだ。
 常温に戻して柔らかくしたクリームチーズ100gに鯖の水煮缶190gの骨を取って身を解したモノと、味噌大さじ一、マヨネーズ大さじ三を加えてよく混ぜたモノだ。
 本来はバゲットやクラッカーに塗って食べるモノなんだが、『ツナマヨのノリでおにぎりの具材にも使えんじゃね?』と思って使ってみたんだがビンゴだったか。」


イタズラが成功したイタズラっ子のような笑みを浮かべて夏月はその正体を明かす――鯖缶のアレンジレシピは豊富ではあるが、リエット風に仕上げると言うのは中々に斬新であり、更にそれをおにぎりの具材にすると言うのは可成り革新的な発想であると言えるだろう。

夏月と箒の弁当に舌鼓を打ったランチタイムの後は午後の部に突入し、一行は先ずは『3Dシアター』に。
此の3Dシアターでは定期的に上映作品が変わるのだが、夏休みの期間は『遊戯王5D's』の『デュエルBOX』の特典として付属されていた『遊星vsジャック』の特別デュエルが収録されたモノであり、スターダスト・ドラゴンとレッド・デーモンズ・ドラゴン等のモンスターが大迫力の3Dで映し出される光景に思わず興奮し、本編とは異なり龍亞・龍可兄妹がアキの事を『アキ』と呼んでいるのも新鮮な印象だった。
その3Dシアターでは上映作品に因んだ入場特典が配布されており、『遊戯王』が上映されている今は、大人気カードである『ブラック・マジシャン・ガール』の『劇場版記念』のイラスト違いのシークレットレアと言う大盤振る舞いだった。

3Dシアターを楽しんだ後は、『マリオカート』を意識したゴーカートでレースをして、フリーフォールの絶叫アトラクションであり『転がり魂』をモチーフにしたモノには腹の底から絶叫し、『Fall Guys』を模した立体的な迷路では全員が見事に迷いまくった挙げ句のゴールをしたり、『ONE PEACE』をモチーフにしたウォーターコースターを楽しみ、今はゲームコーナーで様々なゲームに勤しんでいた。
このゲームコーナーはアミューズメントゲームだけでなく、筐体型の対戦ゲームも多数取り揃えており、特に格闘ゲームの対戦台では格闘ゲームブームに沸いた世代が熱い戦いを繰り広げていたのだが……


「此の俺に格ゲーで勝とうなんぞ一千万年早いぜオラァ!!KOFⅩⅤのオンラインマッチ現在八十五連勝中を舐めるなぁ!!」


『KOF99』の対戦台では、夏月が『京、クラーク、マキシマ』のチームで無双していた。
KOF99ではマキシマは『System1マキシマスクランブル』からの三段攻撃で超必殺技一発分のダメージを叩き込む事が出来て、クラークは必殺投げからの起き攻めの二択が強力で、京は鬼性能の弱版の轢鉄と百八拾弐式が強く、カウンターモード発動時の屈B×2→弱轢鉄→スーパーキャンセル弱百八拾弐式(溜め1)の連続技が兎に角強力で、夏月は飽きて態と負けるまでに二百連勝を達成していた――夏月の使用チームが強かったと言うのもあるが、そのチームがKOF99における夏月の持ちキャラ全集結であるとなれば誰も文句は言えないだろう。

ぶっちぎりの連勝記録を打ち立てた夏月は、大画面の『ストリートファイターⅢ(一作目)』で、リュウを使ってラスボスのギルのゲージを満タンにした上で『真・昇龍拳』でKOした後に、『リザレクション』が発動する前にお手玉コンボを繰り返して得点をカンストさせると言う偉業を成し遂げ、『F-ZERO』や『マリオカート』等のレースゲームでは意外な事にグリフィンが『超鋭角ドリフト』、『スピンブーストショートカット』当のテクニックを披露して圧倒的強さを見せ、アミューズメントゲームでは秋五と共に嫁ズのリクエストする景品をゲットしまくり、特に夏月は簪が所望したアニメキャラのフィギュアをゲットするだけでなく、『一回千円』の高級ユーフォーキャッチャーでは見事に『MGデュエルガンダム・アサルトシュラウド』をゲットして見せたのだった。

ゲームコーナーのラストは限定フレームでのプリクラだったのだが、一番最初に撮った夏月と楯無は、シャッターが切られる直前に夏月の頬にキスをして、プリントアウトされたシールが他のメンバーに目に触れた事で、夏月と秋五はプリクラ撮影時に嫁ズから頬へのキスを受ける事になったのだった……少しばかり恥ずかしくはあったモノの、此れもまた婚約者同士の大切な繋がりであるのは間違いないだろう。

ゲームコーナーを後にした一行は、待ち時間が少ないアトラクションや施設を狙って楽しみ、気が付けば日が暮れて夜のパレードの時間が迫っていた――ので、園内のレストランで夕食を済ませると、パレードを見るために沿道に参列する。

そして程なくして夜のパレードが始まり、その華やかな演出に誰もが目を奪われていた。
日本のアニメ・マンガ・ゲームを再現したパレードは華麗かつ刺激的で、パレード車の上では超サイヤ人に覚醒した悟空に扮したスタッフとフリーザ様に扮したスタッフが見事なアクションを行っており、別のパレード車では武藤遊戯に扮したスタッフと不動遊星に扮したスタッフがデュエルを行い、他のパレード車でもアニメ・マンガ・ゲームの魅力をこれでもかと凝縮したモノが展開されており、沿道の客は惜しみない拍手を送っていた――そして其れは夏月組と秋五組も同じであり、最後まで此のパレードを楽しんだのだった。
尤も最後までパレードを楽しんだ事で時間がリミットオーバーしてしまったので一行は今日は近くのホテルに泊まる事になり、楯無はその旨を更識家に伝えて迎えは明朝に来る事と相成ったのだ。








――――――








夕食はホテルのバイキングを堪能し、その後はお風呂タイムとなり、夏月と秋五は露天の大浴場を堪能していたのだが――


「流石、一流ホテルの大浴場は違うわね?此れならゆったりと楽しめそうだわ。」

「広い風呂を独占出来るとは、何とも言えない贅沢だな。」


此処で嫁ズが突入して来た。
夏月と秋五は露天使用前に札を『使用中』に変えたのだが、施設を訪れていた子供が其れを反転させて『空き』にしてしまった事で嫁ズがやって来たのだ……バレても特に問題はなさそうだが、思わず身を隠してしまったのは致し方ない事と言えるだろう。


「夏月君、思った以上にベッドの上では巧かったけど、織斑君は如何だったのかしら箒ちゃん?」

「秋五も思ってた以上に……まさか理性を飛ばされてしまうとは思っていませんでした……ですが、恥ずかしかったけれどとても幸せだったのは間違いないと思います。其れが本音ですね。」

「ぶっちゃけると、また愛して欲しい。と言うか愛に限界はないから一杯ほしい。」

「其れはまた盛大にぶっちゃけたね簪。」


そして其処で夫々の嫁ズの本音を聞いてしまった夏月と秋五は、部屋に戻ると嫁ズの本音を叶えると言わんばかりの勢いで嫁ズと『夜のISバトル』に突入し、コメット姉妹も無事に少女から女になったのだった。
『ロリコン』とは言うなかれ……年の差など関係ない、純粋な愛の証として夏月と秋五はコメット姉妹に己を刻み込んだのだから――こうして夏月組も秋五組も晴れて全員が真の意味で『嫁』となったのだった。
序に言うとコメット姉妹は夏休み中に誕生日を迎えて十三歳となり、九月からが新年度となるカナダ基準で行くと夏休みが終われば中学生になる訳で、小学生相手ではないのでギリギリではあるが問題はないのだ――尚、これを機にコメット姉妹に『ある変化』が訪れるのだが、其れはまた後の事だ。

尚、リムジンの運転手が予想をぶっちぎって翌日の出動となった事に血涙をブチかまして、総一郎から『今日は休むか?』と提案されたのはまた別の話なのだが、本日の一件を持ってして夏月と秋五がより嫁ズとの関係を深くしたと言うのは間違いないだろう。

だがしかし、暑い夏のイベントはまだまだ此れで終わりではない……夏休みの定番イベントはマダマダ存在しており、定番以外の珍イベントも待っている……のかも知れない。
楽しい夏休みはまだまだ続くのだった。











 To Be Continued