夏月達は新織斑達との決戦に向かうべく、束が開発した最新鋭の戦闘飛空艇である『コスモ・ソニック』に乗って新織斑達の拠点である国際IS委員会へと向かって行った。
此のコスモソニックには光学迷彩ステルスと通常のレーダーステルスの両方が搭載されているので、レーダーにも引っかからなければ視認する事も出来ない非常に優れた飛空艇なのだ。
そして其れだけではなく武装として『122mmガンランチャー』、『135mmビーム砲』、『128mmミサイルポッド』、『115mm電磁レールガン』を搭載しており、攻撃面でも隙が無かった。


「ふぅん……どうやら向こうの方から仕掛けて来たみたいだねぇ?
 光学迷彩にレーダーステルスとは見事だけど、私の前では無力なんだよねぇ……と言うか、向こうのバックに居るのが此の世界の私だからこそか。
 其の程度なら十二分に対処は出来るのさ。」


其のコスモソニックは、タバネが存在を感知していた――腐っても鯛の如く、タバネは束に匹敵する頭脳を持っており、更に夏月達のバックに居るのが束である事を知っていたので、束の思考をトレースして光学迷彩もレーダーステルスも見破るレーダーを開発していたのだ。


「兄さん達が仕掛けて来たか……まぁ、決戦日は指定していなかったのだから向こうから仕掛けて来たとしても不思議はないけどな。
 全戦力の三分の二を兄さん達の対処に当て、残りは全てIS学園に向かわせるとしよう……兄さん達が如何に強くとも、圧倒的な数の暴力には太刀打ち出来ないだろうからな。」


夏月達が国際IS委員会の本部に向かって来ていると知った新織斑達は戦力の三分の二を此の場に残し、残りをIS学園に向かわせる事にした――IS学園を制圧するには其れで充分と考えたのだろう。
人工授精と発育促進機によって、新織斑達の戦力は現在千人に届く勢いなのだ……そして、其の三分の二の戦力が投入されると言う事は、夏月達は六百人を超える敵と戦う事になるのである。

正に圧倒的な物量であり、並の相手なら抵抗する事すら出来ずに瞬殺されてしまうだろう。


「さぁ、来いよ兄さん……織斑同士の生き残りをかけた最強で最大の兄弟喧嘩をしようじゃないか――最終的に勝つのは、俺達新たな織斑だってのは決まってるけどな。」


新織斑達も流石の夏月も圧倒的な物量を突破する事は出来ないと考え、此の布陣であれば勝つ事が出来ると考えていた――だが、その考えは夏月達がやって来た後に粉々に砕かれる事になるのだった。










夏の月が進む世界  Episode105
『最終決戦の開幕~Final Battle set up!!~』










新織斑達の拠点に向かって驀進するコスモ・ソニック――其の船内には夏月達を送り出したはずの束の姿もあった。
コスモ・ソニック自体は束が開発したAI搭載の自動操縦型なのだが機体の最終メンテナンスと、もう一人の自分との決着は自らの手でつけるべく束は一緒に乗り込んでいたのだ――帰りを待っているかのような事を言いながら普通に一緒に来るのが束らしいと言えばらしいのだが。


「タバ姐さん、ちょっと良い?」

「ん?なんだい鈴ちゃんや?……おっぱい大きくする方法だったら残念だけど束さんも知らないよ~?知らないうちにこんなに大きく育っちゃったから♪」

「滅殺すんぞ和製ホルスタイン!――じゃなくって、タバ姐さんは夏月の事良いの?」

「ん?あぁ……其れねぇ?うん、良いんだよ。
 私の初恋の相手は『織斑一夏』であって『一夜夏月』じゃないから……いっ君がカッ君として生きると決めた其の時に、私の初恋は終わったのさ。」

「其れよ!
 其れを言うならアタシも同じっしょ!アタシは一夏の事が好きだった……でもその一夏はもう居なくて夏月になった――だけどアタシは夏月の嫁の一人になってる……タバ姐さんとアタシと何が違うのよ?」

「……お父さんはいっ君の才能を見出して剣道じゃなくて剣術を教えて、それが今のカッ君の強さの根底を形作ってる……でもさ、私はいっ君には何もしてあげられなかった。
 今でこそカッ君のサポートを全力で行ってるけど、いっ君には何も出来なかった……初恋の人を助ける事が出来なかった私はカッ君の隣に立つ事は出来ない――周囲が敵だらけだった中で、どんな時でもいっ君の味方で、助けようとしてた君とは決定的な違いがあるんだよ鈴ちゃん。」

「タバ姐さん……」

「付け加えて言うなら、自分がカッ君ハーレムに加わるよりも、カッ君ハーレムのラブラブとイチャイチャを見てる方が滾る!漲る!燃えて来る!!
 ぶっちゃけ君達のラブラブとイチャイチャでご飯三杯はイケるから!!」

「シリアスな理由としょうもねぇ理由が入り混じってたーー!!」


そこで鈴が束に夏月との事を聞いたのだが、束から帰って来たのは割とまじめな答えと、しょうもない答えが入り混じっていた――しょうもない答えに関しては普通ならば『照れ隠し』となるのだが、束が言うのであれはガチの本気なのだろう。
恋愛クソ雑魚な世紀の天才は、常人には理解不能な理由で初恋を終わらせていたのだ……だからこそ世紀の天才と言えるのかも知れないが。


「だけどタバ姐さん……アンタ、最高に良い女だわ。少なくとも私はそう思うわ♪」

「にゃはは~~、そう言ってもらえると嬉しいね♪
 さてと、お喋りは此処まで……メンテナンスももう終わるから君も戻りな鈴ちゃん……第二次織斑計画が生み出した害悪を駆逐する準備をしないとだろうからね。」

「うん……アイツ等は全員ぶっ倒す!
 アタシ等に喧嘩売った時点でアイツ等に未来はねぇっての……序に言うと、夏月と楯姐さん以外はハイパーモードとやらの前に不覚を取ってるからリベンジは必須だからね……ま、アタシ達もアレから更に強くなったから二度同じ相手には負けないって!
 パワーアップした夏月組の総合戦闘力は最低でも二十億は下らないからね♪」


そんな会話をしながらコスモ・ソニックは新織斑達の現在の拠点である国際IS委員会の本部にもう間もなく到着と言う状態になっていたのだが、到着直前のタイミングでレーダーがISの機影を捉えた。


「……腐っても鯛、DQNになっても束さんか……どうやら読まれてたみたいだね。
 だけど、此の程度を読まれたくらいじゃ何の痛手にもならないってモンなんだよね……予定より少し早いけど行けるかい、カッ君?」

「言われるまでもねぇ……何時でも行けるぜ束さん!」

「そんじゃ、やっちゃって♪」


それに対して夏月達は即出撃し、数分後には新織斑達と相対するのだった。










――――――









夏月達が国際IS委員会へと向かってから数十分後、IS学園に向かって驀進する一団があった――言うまでもなく新織斑達が学園に放った刺客であり、其の数は凡そ三百と言ったところだろう。


「来やがったか……山ちゃん、戦闘が終わるまで、絶対に生徒達を外に出すんじゃねぇぞ。」

「り、了解です!!」

「さぁてと、腕が鳴るわ――息子と同じ顔をした相手を撃滅すると言うのは少しばかり思う所もなくはないけど、『誰の許可得てその顔をしてるのか』と思う事があるのも事実だわ……一匹残らず狩り倒してあげるわ♪」

「アタシの機体は広域殲滅型……数だけ来ても無意味だ。」


その集団が到達するより先にオータムが真耶に生徒の避難を行わせて生徒の安全を確保すると新織斑達がタバネが開発した専用機を展開してやって来たのだった。


「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

「何が目的だ……なんて事を聞いても答える事はないわな。
 テメェ等が何者で何が目的なのか、そんな事は知らねぇけどよ……オレの可愛い弟分と敵対しようってんなら其の限りじゃねぇ……どんな理由があろうとも夏月に手を出した奴は滅殺一択なんでな!……生きて帰れるとは思うなよ?」

「数だけは大層なモノだけど、数で私とオータムを圧倒出来ると思ったら大間違いね……戦いにおける年季の違いと言うモノを其の身で知ると良いわ!」


数の上では圧倒的に新織斑達の方に利があるのだが、其の圧倒的な数を前にしてスコールもオータムも眉一つ動かす事なく新織斑達と相対し、そして専用機を展開する。


「オラオラオラァ!!
 どうした改造人間!テメェ等は普通の人間よりも強いんだろ?だったら、反撃してみろよオラァ!!」

「似ているのは顔だけね……全然実力不足だわ。」

「人造強化人間でも経験がなければ此の程度か……」


其処からは一方的な展開となっていた。
オータムの専用機である『ア・スラ』は四本のサブアームを展開しての疑似六本腕での近接戦闘が持ち味なのだが、この六刀流はタイマンのみならず、一対多での戦闘でも高い力を発揮し、新織斑達を次々と撃破していった――試合ではない戦場なので、撃破された織斑達は死亡であろう。

スコールの『ゴールデン・ドーン』は束によってミューゼル家が代々継承して来た炎を操る能力が強化されており、放たれる炎の最高温度は百五十万度にまで上昇していた。
ISは元々単機での大気圏突破と大気圏突入を想定して作られているので耐熱温度は非常に高く、アラスカ条約に於いて『最低五千度以上』の耐熱性能を搭載される事が義務付けられており、現行の第三世代機でも地球上には存在し得ない二万度までの耐熱能力を有しているのだが、ゴールデン・ドーンの火力は其の耐熱能力の実に七十五倍と言う凄まじい火力を有していたのだ。
因みに百五十万度がドレくらいの熱かと言うと、至近距離で鉄が蒸発し、100m離れて鉄が熔解、2㎞先の木が燃え上がる程の熱量だ……其れだけの熱量を周囲に影響を及ぼす事なく放たれたターゲットにだけ喰らわせるように調整した束は正に世紀の天才と言って間違いない。
スコールの炎に触れた者は一瞬で蒸発し、此の世に影すら残さなかったのだ。

ナツキの『カオス・セラフィム』は多数の火器を搭載した『一対多』を得意とする機体なのだが、此れも束によって新たにBT兵装が追加され、より多数を相手にした戦闘が得意となっていた。
本体を動かしながらのBT兵器操作には高い空間認識能力と並行思考能力が求められるのだが、ナツキはその両方を有しているのでBT兵装を手足の如く操りながら新織斑達を殲滅して行った。


「箒、今よ!」

「流石はセシリア、正確な射撃だ!」


そして学園防衛戦に参加しているのはスコールとオータムとナツキだけではなく、秋五組も参加していた。
人を殺した経験のない秋五組では詰めの甘さが出てしまうかもしれないのだが、殺せずとも大ダメージを与える事は可能であり、実際に秋五組が対応した新織斑達もガリガリとシールドエネルギーを削られていたのだ。


「お~し、よくやったお前等!
 あとは俺に任せときな……纏めて閻魔の前に送ってやるぜクソ共が!!」


そしてシールドエネルギーを削られた機体はオータムが次々をトドメを刺して沈黙させ、残った機体と操縦者はスコールが太陽の炎であっと言う間に蒸発させてターンエンド。


「……スコール、まだ来るみたいだぜ?」

「数だけはいるみたいね……だけど、雑兵が何百人増えたところで意味はないわ……寧ろ全部倒して、戦力を枯渇させるってのも良いかも知れないわ。」

「ククク……確かに良いかもな♪」


それでも後続が来るので連続戦闘となるのだが、スコール達の目に迷いも苦戦の色もなく、新たに現れた新織斑の増援に向かって行き――そして、其の全てをあっと言う間に制圧していた……裏社会で長年生きて来たのは伊達ではないのだ。


だが、倒しても次から次へと増援が現れるのでIS学園の戦闘が終結するには、まだかかりそうだが。








――――――








夏月組の接近を知って本拠地から出撃した新織斑達は夏月組と相対し、其処から戦闘となったのだが、其の戦闘は夏月組が新織斑達を圧倒していた。
鈴が『龍の結界』を使い、乱が其れをコピーして二重の龍の結界を展開。
此れにより新織斑達は動きを制御されてしまっていた。
結界を形作っているチェーンに僅かでも触れれば即座に龍砲が放たれると言う極悪な結界が二重になっているので新織斑達にとっては此れ最悪レベルの初見殺しと言えるだろう。

それでも新織斑達は動きを制限された中で楯無とダリルの分断に成功していた――楯無とダリルの氷と炎の対消滅攻撃は絶対に阻止しなければならない事だったからだ。


だが――


「行くぜおらぁぁぁぁ!!」

「此れで吹き飛ぶと良いさ!!」


何と此処でまさかのダリルとロランが氷と炎の対消滅攻撃をぶっ放して来た。
此れには新織斑達も驚き、避け切れなかった数名が此の世からサヨウナラしたのだが、生き残った新織斑達には一体何が起きたのか理解出来なかったのだ。


「何が起きたのか理解出来ないって顔をしているね……一体いつから私がロランちゃんに見えていたのかしら?」

「そしていつから私がタテナシに見えていた?」


だがその答えは直ぐに示された。
新織斑達がロランだと思っていた人物が楯無に変わり、楯無だと思っていた人物がロランに変わったのだ。


「なに、一体何が起きて……」

「此の程度のトリックを見抜けないようじゃマダマダだな……其の程度で俺達に喧嘩売って来た度胸だけは褒めてやるよ。」

「度胸だけは褒めてやるが、其れだけだ。
 お前達如きが私達を倒そうなどどおこがましいと知れ!!」


マッタクもって何が起きたのか理解出来ていない新織斑達を尻目に夏月組は一気に切り込んで新織斑達と戦闘状態になった――と同時に、此処に最大の戦いが幕を開けたのだった。









 To Be Continued