新織斑達は国際IS委員会を強襲し、先ずは本部前のガードマン達を全滅させて見せた――国際IS委員会の本部の護衛の任に就いているのは、日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、イタリア、スペイン、フランス、台湾等々の各国から厳選された一級品のエージェントだったのだが、兵器として生み出され、己れが兵器である事を受け入れている新織斑達の前ではマッタクもって無力だった。

正面玄関の護衛は簡単に撃破され、ロビーにいた受付嬢は有無を言わさずに惨殺されてしまった。


「各国の精鋭が揃っているとは聞いていたけど、やはり人間じゃ兵器に勝つ事は出来ないか……」

「私達に勝つ事が出来るのは兄上達だけだろうよ……此の程度の雑魚では準備運動にもならん。」


新織斑達は国際IS委員会の本部の職員達を手当たり次第に殺害して侵攻し、遂には本部の心臓部である『委員長室』の前までやって来た――委員長室の前には門番以上の護衛が配置されており、国際IS委員会が発足してから今まで、此処を突破した人間はゼロと言う鉄壁の護衛部隊が守っているのである。


「侵入者か……此処から先には行かせん……死ぬが良い!」


新織斑達を見た護衛部隊は一斉に胸元から拳銃を抜いて連射する。
其れは正に弾丸の雨霰であり、普通の人間が喰らったら全身蜂の巣になって絶命確定なのだが、織斑計画によって生物兵器として生まれた新織斑達にとっては其の限りではなかった。


「誰が死ぬって?死ぬのはアンタだよオッサン!」

「反応は悪くなかったが、だが其れも所詮は普通の人間レベルに過ぎん……兵器である私達には遠く及ばんな。」


その連射を全てナイフや刀で斬り飛ばして無効化すると、一瞬で距離を詰めて護衛の首を斬り飛ばし、或いは心臓を貫いて絶命させると、委員長室の扉を蹴り破ってコンニチワだ。


「君達は……一体何が目的だ!なぜこんな事を!!」

「其れをアンタが知る必要はねぇよ……取り敢えず死んどけ。」


そして、国際IS委員会の委員長までもが新織斑達によって殺害され、新織斑達は国際IS委員会の本部を乗っ取る事に成功し、続いて世界に向けての衝撃の発表を行うための準備を進めるのだった。










夏の月が進む世界  Episode103
『明かされた織斑の真実~Project Mosaic~』











時は少し遡り、スコールとオータムが臨海学校から帰還し、臨海学校で襲撃して来た新織斑達を模したロボットの残骸をスコールとオータムから受け取った束は、その残骸の解析を進めていた。
殆ど原形を留めていないジャンクパーツの残骸なのだが、それでも束の手に掛かれば必要な情報を可能な限り引き出す事が出来るのである。


「ふむふむ……フレームはまさかの合成ミスリルで其のフレームを生きた組織で覆ってたか……リアルターミネーターかよ。
 だけど、此れで相手が何者なのか分かったよ……どうしてそうなったのかは分からないけど、新織斑達の背後に居るのは私じゃない私――無数に存在する並行世界に存在してる私だね……これだけの事が出来るのは束さん以外には存在しないからね。」


其の結果として、束は新織斑達の背後にいる存在が何者であるのかを看破していた――世紀の大天才だけに、新織斑達の偽物であるロボットのスペックは自分と同等レベルの者でなければ作り出せず、此の世界にはそんな人間は存在しないので、消去法で此の答えに辿り着いたのである。


「敵側にも束さんが居るってのは厄介だなぁ……って普通なら思うんだろうけど、ところがギッチョン、そうは行かないんだよねぇ?
 束さんレベルが敵側に居るってのは厄介なんだけど、だからと言って束さんを超えてる訳じゃない……このロボットの構造は、既に十年前には私が設計してるしね。
 何よりも、束さんのお気に入りであるカッ君と嫁ちゃん達に牙を剥いた時点で私の逆鱗に触れてんだ……出来損ないのクズ共に加担するってんなら、異世界同位体の自分が相手でも容赦はしねーからね。」


相手が自分ではない自分だと知っても束に焦りも戸惑いもなかった――良くも悪くも束の根幹には『合理主義』の考えがあり、極端な事を言えば『自分の利になる存在は味方、そうでない存在は敵』が基本になっているのだ。
故に味方には厚情、敵には酷薄が上等であり、新織斑達と異世界同位体のタバネに対して一切の容赦をする心算はなかった。


「ちーちゃん、無上極夜の効果をカッ君の嫁ちゃん達の機体全てに付与する事は出来る?」

『愚問だな束。
 強制的にさせられたとは言え、私は白騎士のコア人格だ……全てのISコアに干渉するのは簡単な事だ――機体のファイアーウォールも、私ならば殴り壊して突破出来るしな。』


「脳筋乙♪」

『自慢ではないが、細かい事を考えるのは苦手なのでな……殴って何とかなるならそっちの方が分かり易い。』


夏月の専用機である『龍騎・羅雪』のコア人格である『ラセツ』は電脳世界ならば自由に渡り歩く事が出来るので、束のスーパーコンピューターに移動し、其処で半実体化して束とコンタクトを取っていた。
強制的に白騎士のコア人格と入れ替わらされたとは言え、羅雪は白騎士のコア人格の権限も自分のモノとしており、ほぼ全てのISコアに対して干渉する事が可能となっていたのだ。
故に、夏月の『無上極夜』を夏月の嫁ズの機体に付与する程度は簡単な事であり、これにより新織斑達の利点は完全に潰される事になったのだった。








――――――









臨海学校も無事に終わり、日常が戻って来たIS学園。
其の放課後、トレーニングルームのリングではヴィシュヌと鈴がスパーリングを行っていた――ムエタイと中国拳法の異種格闘技戦は此れまでも何度も行われて来たのだが、それにも関わらずリングサイドには多くの生徒が集まっていた。

基本ステータスの平均値ではヴィシュヌの方が鈴よりも上なのだが、能力別のステータスでは攻撃力とリーチがヴィシュヌが圧倒的に上な中で、スピードだけは鈴がヴィシュヌを圧倒的に上回っていた。


「破ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


鈴は其のスピードを生かしたラッシュをヴィシュヌに繰り出したのだが、ヴィシュヌは其の攻撃を全て適格にガードして決定打を与えず、其れだけではなく首相撲からの連続膝蹴りを叩き込んで鈴にダメージを叩き込む。


「くっそー!なんでアタシの攻撃は当たらないのに、アンタの攻撃は当たるのよ!毎度ながらマジでムカつくわ!」

「其れは……体格差でしょうか?」

「体格差……胸か!胸なのか!……マジで呪殺すんぞ即席ホルスタイン!!」


鈴も功夫とは言え中国拳法を修めているので生身での格闘ではIS学園のトップテンに名を連ねる実力者なのだが、ヴィシュヌは其れを上回るムエタイファイターであり、生身での格闘に関しては夏月、楯無に続く三位の実力者なので、鈴の猛攻も的確に捌き――


「隙ありです!」

「しまった!!」


その攻防で僅かに生じた隙を捉えたヴィシュヌは、鈴に飛び膝蹴りから二連続のジャンピングアッパーカットを喰らわせる、『ムエタイの帝王』の得意技を独自にアレンジした技だったのだが、その技は強烈無比であり、其れを喰らった鈴はマットに大の字になってダウン。
飛び膝蹴りもジャンピングアッパーカットも的確に顎を捉えていたので鈴は脳を揺さぶられて立ち上がる事が出来ず、テンカウントでヴィシュヌの勝利が確定したのだった。


「此れでヴィシュヌは鈴に三十連勝だね……実力的には同レベルの筈なのに、なぜ此処まで戦績に差が付くのだろうか?」

「其れはヴィシュヌも言ってたが体格差だぜロラン。
 ヴィシュヌは鈴よりも10㎝近く背が高いだけじゃなく、身体の半分以上が足だからな?……蹴り技に関しては膝蹴りを除いては全部が鈴の攻撃の間合いの外から攻撃出来るんだよ。
 立ちの打撃に限定したら最強なのはムエタイだ……鈴がヴィシュヌの凶器の蹴りを掻い潜って懐に入ったとしても、其処には凶器の肘攻撃と首相撲からの膝蹴り地獄が待ってる――ムエタイの肘攻撃と膝攻撃はプロレスのエルボーやニードロップと違って、最も鋭くて硬い部分を突き刺す訳だからな。」


ヴィシュヌと鈴のスパーリング結果は夏月の言う通りなのだが、それに加えて鈴には生身での格闘の実戦経験がヴィシュヌに比べれば圧倒的に足りないのも原因だろう。
ヴィシュヌも鈴もIS学園に離反した際には更識と亡国機業のエージェントとして実戦を熟して来たのだが、ヴィシュヌは其れ以前からムエタイでのリアルファイトを何度も体験していたのに対し、鈴は中国拳法を実戦投入したのは生身では更識と亡国の任務が初めてだったので、其の差が出たのだろう。

其の後は総当たりのバトルロイヤルな模擬戦を行い、本日のトレーニングは終了だ。


シャワー後に夕食となったのだが……


「俺は……マグロキムチ丼を特盛。
 其れが飯で、おかずは鮭のムニエル、肉じゃがコロッケ、鶏の唐揚げ、青椒肉絲で。それから味噌汁の代わりに味噌ラーメン。」

「私はねぇ……デジカルビ丼をご飯と肉二倍で。
 其れがご飯で、おかずは牛ハラミの鉄板焼き、ワンポンドステーキ、大判チキンカツ、ポークスペアリブの照り焼きで♪あと味噌汁の代わりにアルティメットチャーシュー麺をチャーシュー二倍の特盛で!」


今日も今日とて夏月とグリフィンのオーダーはバグっていた。
特にグリフィンは『肉300%』なメニューだ……此れと同等のメニューを食して怪我を完全に回復させてしまったグリフィンの超回復力には脱帽せざるを得ないだろう。

取り敢えずディナータイムは平和だったのだが……突如として食堂内のモニターがゴールデンタイムのバラエティ番組から緊急ニュースの画面に切り替わった。


『番組の途中ですが速報をお伝えします。
 日本時間の今日午後五時頃、国際IS委員会本部が何者かのテロ攻撃を受けたとの情報が入って来ました。
 委員会本部建物は既に占拠されたものと見られており、現在IS委員会の日本支部、アメリカ支部、ヨーロッパ支部、ブラジル支部、台湾支部が現地に職員を派遣するなどして情報収集に当たっています。
 繰り返します。
 日本時間の今日午後五時頃……』



其の緊急ニュースが伝えたのは、『何者かによって国際IS委員会本部が襲撃された』との事だった。
此のあまりにも衝撃的な緊急ニュースに、平和なディナータイムを過ごしていた生徒達のみならず、IS学園の全ての人間が――否、世界中の人々が衝撃を受けていた。
国際IS委員会のセキュリティは国連やアメリカのペンタゴン、日本の皇居並に強固とされており、現に発足してからはタダの一度も部外者の侵入を許した事が無いのだから、其れが突破され、更に建物が占拠されていると言うのは衝撃極まりないだろう。


「……愚弟共が、そう来やがったか……!」

「愚弟って……まさか!」

「あぁ、そのまさかだよ楯無……犯人は間違いなく新型の織斑達だ。」


夏月は其の犯人が直ぐに誰であるのかを看破していた。
並のテロリストでは突破出来ないセキュリティを突破するとなれば、プロの軍人以上の力を持った者でなければ不可能であり、ビルごと破壊する無差別テロでないのならば尚更だ。
建物を占拠しているとなれば、ほぼ間違いなく建物内の人間は皆殺しにされているだろう……圧倒的な人数差をものともせずに無傷で相手を全滅させる等と言う事は、人間には不可能であり、それが可能なのは兵器だけ――其れを考えると、おのずと犯人は新織斑に絞られるのだ。


『やぁ、御機嫌如何かな平和ボケした地球人の諸君。』


此処でまたモニターの画面が切り替わった。
其処に現れたのは複数の男女と思われる人間だったが、全員が仮面を被って素顔を隠していた。


『我々の名は『モザイカ』――国際IS委員会の本部を襲撃した一団だ。
 既に此の場所は我々が占拠した……建物内にいた人間は、全て殺害してね――そして、其れを行った者達の素顔は此れさ。』



モニターに映った一団は、一人がそう言った次の瞬間に一斉に仮面を脱ぎ捨ててその素顔をあらわにする――そして、その素顔には夏月組と秋五組以外の多くの人間が驚く事になった。
其処に現れたのは夏月と秋五にそっくりな少年と、マドカにそっくりな少女だったからだ。


『私達の容姿に大いに驚いた事だろう?
 特に男の方は、世界に二人しか存在しない男性IS操縦者と瓜二つなのだから。いや、女性体の方もブリュンヒルデに瓜二つかな?
 初めに断っておくが、私達は彼等の弟や妹でもなければクローンでもないが、ある意味では弟や妹とも言える存在だ。』

『俺達は『最強の人間を作る』って言う思想の元に行われた『織斑計画』によって誕生した人造の強化人間――言うなれば生物兵器さ。
 そして、世界に二人しか存在しない男性IS操縦者の一夜夏月と織斑秋五、そしてその二人の姉である織斑マドカも俺達と同じ存在――俺達よりもずっと先に『第一次織斑計画』によって誕生した生物兵器なんだよ。』



其れだけでも衝撃的な事なのだが、更に素顔を晒した新織斑達は、夏月と秋五とマドカの正体をも暴露した。
夏月達の正体を暴露する事で夏月達をIS学園や社会から孤立させる事が狙いだったのだろうが――


「一夜先輩と織斑先輩は人造の強化人間だったのね……そりゃ勝てる筈ねぇわ。」

「でもその一夜先輩とタメ張る生徒会長も大分ヤバくない?」


IS学園の生徒達は寧ろ夏月と秋五の強さに納得している様子だった。
更に夏月組のメンバーは夏月と、秋五組のメンバーは秋五と交わり『織斑の遺伝子』を体内に取り込んでいるので身体能力は超人の域に達しており、特に夏月と互角以上に戦える楯無は最も織斑に近い存在と言えるだろう。
少なくとも、IS学園に於いては夏月と秋五は其の正体が明かされても受け入れられていた。


『其れは兎も角として、国際IS委員会の本部は我々が占拠した。
 これにより、我々は世界中のISを管理する権限を得た――よって現時点を持ってして、我々が所持しているIS以外の全てのISの機能を停止させる!』



此処で新織斑達は、国際IS委員会の本部に設置されている『全てのISの機能を強制停止させるプログラム』を起動した――ISが兵器として使用された際に使われる切り札であり、国際IS委員会本部の立場をIS界で絶対としていたモノだ。
全てのISが停止したとなれば最悪極まりないだろうが……


『残念だが、そのプログラムは私が破壊した。』

『オウオウ、中々に舐めた真似してくれんじゃんよ出来損ないのクズ共が♪』



今度はモニターの画面にラセツと束が現れた。
新織斑達がISの強制停止プログラムを起動した瞬間にラセツはネットワークの海を一瞬で移動してプログラムを殴って壊し、更に束が夏月組及び亡国の機体に強制停止コードをシャットアウトするフィルターをオンラインで設置したのだ。


『此れだけの事をしたのは褒めてやるけど、まだまだ詰めが甘いんだよお前達は。
 此の程度でカッ君達に喧嘩売るとか身の程知らずにもほどがあるってモンだ……まぁ、お前達のバックにも束さんが居ればこそ、こんな事が出来たんだろうけどさ――隠れてないで出て来いよ束さんの劣化版。』

『ふぅん、アンタが此の世界の篠ノ之束なんだ……』



此処で束は新織斑達のバックに居るタバネに呼びかけ、そして新たにモニターにはタバネの姿が現れた。


「ね、姉さんが二人?……いや、後から現れた方は偽物だな……本物の姉さんは色々とぶっ飛んでいても姉として尊敬できる人だったが、後から現れたのはまるで尊敬出来ん。
 何よりも本物の姉さんからは感じられない嫌な感じがするからな……」


其れは束と瓜二つの存在だったが、箒は即座に後から現れたタバネが束とは異なる存在だと感じ取っていた――幼少の頃から妹として束に可愛がられていた箒だからこそ違いが即座に分かったのだろう。


「やれやれ、束さんの偽物まで現れたか……だが、世界中を電波ジャックしてまで俺達に喧嘩を売って来たんだ、此れは買ってやるのが礼儀ってモンだ。
 今度は逃がさねぇ……人の心を持たねぇ生物兵器は存在してる事自体が間違いだからな?一人残らず滅殺してやる……!」

「うふふ、誰に喧嘩を売ったのか、後悔させてあげましょう♪
 そして知ると良いわ……歴代の女楯無が其の身を捧げた男性は、間違いなくその時代における最強の存在であったと言う事をね……!」


ともあれ、新織斑達の宣戦布告は夏月達には伝わり、夏月達は来るべき決戦の時に備えてその準備を進めるのだった――










 To Be Continued