臨海学校の初日は何事もなく終了――と思っていたところで、生徒の最終就寝時間が過ぎたところで新織斑達が花月荘に現れていた。
其れに対するのは亡国機業の実働部隊『モノクロームアバター』の隊長であるスコールと副隊長であるオータムだ――スコールは亡国機業の実働部隊の隊長であり、嘗ては更識のエージェントでもあったので実力は申し分ないのだが、オータムもまたスコールとはタメを張る実力者だ。
オータムも実は子供の頃に両親が離婚して母方に引き取られたモノの、実母は働かずにギャンブル三昧で借金を富士山レベルにした上で飛び、最後は飛んだ先でヤクザに引きずられ、父は離婚後にガンで命を落とし、オータムは若干十歳で天涯孤独となり、其処から必死に生き抜いて亡国機業に身を寄せて今の地位に就いたのだ。
其の時の苦労を思えばどんな事でも出来るからこそ、臨海学校の場に現れた新織斑達に動揺する事も無かった。
「スコールとオータムか……先ずは貴様等カら排除してやル!!」
「やってみろよ、出来るならな……てか、ISは持って来てねぇのか……オレ達の相手をするのにISは必要ねぇってか……舐められたもんだなぁオイ!!」
対する新織斑達はISは持ってきてはおらず、手にはナイフや刀、拳銃やショットガンが握られていた。
IS学園の一年生くらいならばISを使わずとも制圧出来ると考えたのか、それとも機体は整備中なのか、何方かは分からないが少なくとも此の場でISを使う事はないだろう。
そんな新織斑達に対しオータムはISの拡張機能に収納しておいた身の丈以上の大剣を取り出し、スコールは機械義手の右腕をグレネードランチャーとトンファーブレードの複合武器に変形させる。
「オータム、貴女そんなモノ持っていたかしら?」
「束に頼んで作ってもらったんだよ。
『攻撃力に全振りの剣を作ってくれ』って頼んだら、見事にオレ好みの武器を作ってくれたもんだ……重量武器だけに細かい動きは出来ねぇが、束が攻撃力に全振りで作ってくれたおかげで中々に極悪だぜコイツは?
此の肉厚の刃は、掠っただけでも骨を斬るからよ……肋骨に覆われてない部分なら掠っただけで致命傷ってな!」
「彼女が作ったのならば性能は間違いないわね。
私の右腕も彼女に改造して貰ったモノですもの……グレネード弾が通常のグレネード弾だけでなく『火炎弾』、『氷結弾』、『硫酸弾』、『雷撃弾』、『ウィルス弾』と使い分けられるのもポイントだわ。」
「ウィルス弾は流石にヤベェだろ……」
「大丈夫よオータム。
束博士は被弾した相手にだけウィルスが感染するように遺伝子調整してるから♪」
「ウィルスの遺伝子まで弄れんのかあの兎……最早何でもアリだなアイツはよぉ!
だがまぁ、其れは其れとして此処から先には行かせないぜ雑魚が……夏月達が出張るまでもねぇ……テメェ等は此処で人生にピリオドだぜ――オレがそう言った以上、テメェ等が夏月と同レベルじゃない以上、其れは絶対だぜ。」
一見すればスコールとオータムの態度は隙だらけなのだが、スコールとオータムは軽い遣り取りをしながらも新織斑達に向けて殺気を放っており、其の殺気で動きを止めていたのだ。
そして此処でオータムが其の殺気を全開にして吠え、大剣を掲げて新織斑達に突撃して行った――臨海学校初日の夜は、生徒達が平和に寝ている裏で凄まじいバトルが開催されるのだった。
夏の月が進む世界 Episode102
『襲撃者の正体と本命の狙い~The Next Stage~』
亡国機業に於いてオータムはスコールの右腕であり、モノクロームアバターのナンバー2との認識であり、オータム自身もスコールを支える立場としてモノクロームアバターのナンバー2の地位に居たのだが、実は総合能力ではスコールの方が上だが、近接戦闘に限定すればオータムはスコールを遥かに上回る実力を持っていた。
「オォォラァァァァァァ!!」
鋭い踏み込みから放たれた横薙ぎは、新織斑の一人をガードごと吹き飛ばして追撃を行おうとしていた新織斑に命中し、諸共吹き飛ばして見せた――此れだけでもオータムのパワーがドレだけか分かるだろう。
其処から更に別の新織斑に斬りかかり、激しい剣戟を繰り広げる。
其の剣戟にて、オータムは避けようと思えば避けられる攻撃を回避もガードもせずに敢えて受けていた。
とは言え、深く入らないようにオータムは皮を斬らせるだけに留まる様に調整はしていたのだが――其れでも斬られれば血は出るし、服も着られ、結果としてオータムは血濡れの状態となり、着ていたシャツとジーパンもボロボロになってしまった。
「おい、如何したガキ共……オレはまだまだ元気一杯だぜ?」
しかし其れがオータムの凄みを増す結果となった。
血濡れで壮絶な笑みを浮かべるオータムの迫力は凄まじく、堅気の人間なら其れを見ただけで白目剥いて失神しているレベルである――亡国機業のオータムの名は裏の世界では知れ渡っているのは伊達ではないのだ。
尤も、オータムの名を知っていても其の姿を知る者は至極少ない――オータムに狙われた者は極一部を除いて閻魔大王の元に強制送還されているのだから。
「お前、痛みを感じないのカ?」
「あぁん?痛みを感じないかって?感じるに決まってんだろ馬鹿野郎。
だがな、痛みってのは人間が感じる感覚の中では最も耐える事が出来る感覚なんでな……気合入れりゃ、肌を斬られる程度の痛みなんぞ蚊に刺されたほども感じねぇんだよボケナスがぁ!!」
其処に攻め込んで来た新織斑に対し、オータムはカウンターのケンカキックを繰り出して吹き飛ばす――上段の前蹴りであるケンカキックは、実はカウンター技としては優秀で、ノーモーションからの上段前蹴りはほぼ回避不可能なのだ。
「(ん?なんだ此の感触……人間を蹴った感触じゃねぇ――コイツ等まさか!)」
だが、カウンターのケンカキックをかましたオータムは襲撃して来た新織斑達に違和感を覚え、ケンカキックで吹き飛ばした後でジャケットのポケットからウィスキーのポケット瓶を取り出すと、其れを新織斑達の真上に放り投げると銃を抜いて瓶を撃って破壊し、新織斑達をウィスキー塗れにしてしまった。
「此れでアイツ等はアルコール塗れになって燃えやすくなったってな……派手に燃やしてくれよスコール!」
「任せなさいオータム……此れで終わりよ!!」
ウィスキーはアルコール度の高い酒であり、それこそ火が点くレベルなのだが、オータムは其れを利用して新織斑達にアルコールの雨を降らせてからスコールの炎で焼き尽くしたのだ。
こうなれば最早新織斑達は戦闘不能なのだが――
「ハッ、やっぱりテメェ等は偽物のロボットだったか!」
燃え盛る炎の中から現れたのは、数体の人型ロボットであり、それが今回襲撃して来た新織斑達の正体でもあった――どこぞのターミネーターの如く、機械の本体を人工皮膚で覆っていたのだ。
百戦錬磨のオータムは、蹴った時の感触で相手が人間でない事を見抜いていたのである。
「まさかロボットだったとはね……だけど、其れならあっと言う間に勝負が決まるわね……此の硫酸弾と雷撃弾のゴールデン乱射でね!」
だが、相手がロボットであるのならばスコールとオータムにとっては人間よりも簡単な相手だった。
人間よりも高度な思考が可能とされているAIだが、それはあくまでも初期状態から幾多もの学習をしての事であり、そうでなければAIは時にトンチンカンな思考をするので、人間がAIを超える事は難しくないのだ。
スコールは本体が顕わになった偽新織斑達に硫酸弾と雷撃弾を乱射。
硫酸弾は金属の身体を容赦なく溶かし、硫酸で濡れた所に放たれた雷撃弾によって全身に強烈な電撃が走り、結果としてショートし行動不能になってしまった。
「コイツは偽物って事は、オレ達は仕掛けに乗せられちまったのか?」
「……いえ、それはないわオータム。
旅館内部の警備を行ってる更識のエージェントに確認したのだけど、旅館内に侵入した人物は居ないとの事だったわ……更識のエージェントは特殊メイクですら見破る事が出来るから、新織斑達がIS学園の関係者に成りすましたとしても直ぐに分かるから。」
「旅館の方は無事ってか……だったら、コイツ等の狙いはなんだったんだ?……IS学園に何かあれば、連絡がある筈だから、其れがねぇって事はIS学園の方も大丈夫って事だからな。
狙いが分からねぇってのはマジで厄介極まりねぇな。」
襲撃して来た新織斑達はロボットの偽物であり、普通ならば其れを陽動部隊とした本命があると考えるのだが、本命と思われる襲撃はなく、楯無が厳選した更識のエージェントも旅館をガッチリ警護していたので、IS学園の生徒達は穏やかな夜を過ごす事が出来ていた。
「クソが……何がしてぇんだアイツ等はよ!」
「それは本人にしか分からないでしょうけれど、このロボットの残骸は束に送っておきましょう――敵勢力の貴重なサンプルだからね……此れを解析する事で得られる情報は決して少なくないと思うわ。」
「確かに、束なら限界まで情報を吸い出すだろうな――何にしても警戒は怠らずに、だな。」
結局この日はこれ以降は何も起こらず、臨海学校二日目、三日目も何も起こらずにIS学園に帰る時がやって来た。
「「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」」(カギカッコ省略)
「うふふ、来年もまた当旅館をご利用くださいね♪」
お世話になった花月荘にお礼を言ってクラス別にバスに乗り込み、一路IS学園行きのモノレール駅がある東京目指して出発進行だ。
「結局、偽物共の襲撃だけで終わったんだが……スコールよぉ、あくまでもオレの勘なんだけどよ、あのロボット達は言うなれば見せ技だったんじゃねぇかと思うんだよ。
わざわざあんな精巧なロボットを寄越しておきながらその次がねぇってのは流石にクサいだろ?……連中の本命は、もっとデカいところにあるんじゃねぇのかな?」
「其の可能性はあるわね……だけど、今のところ束博士が何も言って来ていないから大丈夫だとは思うわ――何かあれば、束博士が即伝えて来る筈だからね。」
「まぁ、確かにそりゃそうだな。」
今回の一件に少しばかりのモヤモヤをオータムは感じていたのだが、スコールに『何かあれば束が伝えて来る』と言うのを聞いて納得していた――束の情報収集能力はFBIにCIA、KGBを纏めて相手にして楽勝出来るレベルなのだから。
其の後、帰りのバスの中でもカラオケ大会が行われ、スコールとオータムがデュエットで『三年目の浮気』を熱唱して大喝采を浴びるのだった。
――――――
その頃、国際IS委員会の本部に六人の男女の姿が突如として現れた。
空から降りて来るでもなく、地面から這い出してきたでもなく、本当に突然瞬間移動の如く現れた六人に本部の警備員も度肝を抜かれたが、其処はプロの警備員らしくすぐさま銃を抜いて其の銃口を向ける。
「止まれ!」
日本とは違い、海外では銃口を向けるのは威嚇ではなく、止まらなければ即発砲であり、『止まれ』はある意味で最終警告なのだが、其れを受けても六人は止まる事無く進んで来たので、警備員は発砲したのだが――
「おっせぇんだよ雑魚が。」
「狙いは悪くなかったけれど、相手が悪かったわね。」
その次の瞬間に警備員の首は胴から離れていた――発砲と同時に相手が斬り込み、一瞬で首を刎ねたのだ。
「脆いなぁ……まぁ、人間じゃ兵器に勝つ事は出来ねぇよな。」
「タバネが作った私達の偽物はやられてしまったけど、だからこそ此方がマークされなかった……ククク、瞬間移動装置があればギリギリまで感知される事が無いと言うのも最高だ。」
国際IS委員会の本部に現れたのは新織斑達だった。
IS学園の臨海学校にロボットを送って其方に目を向けさせた上で其れ以上の事はせず、臨海学校が終わるタイミングで国際IS委員会への襲撃を行ったのだ――タバネが其の方が効果が大きいと判断したのだろうが。
「此れが俺達からの改めての宣戦布告だ……受け取ってくれよ兄さん達!」
「さぁ、戦争の始まりだ――此の戦争で生き残った方が世界に必要な存在と言う事になる……果たして世界は旧織斑と新織斑、何方を選ぶのだろうな?」
新織斑達は警備員を皆殺しにすると、夫々得物を手にして国際IS委員会本部の建物に悠々と入って行くのだった……
To Be Continued 
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