IS学園も夏休みまで後少しとなったのだが、夏休み前の大イベントとて一年生の臨海学校があった。
例年通りならば、護衛の為に教師部隊が派遣されるのだが、今年は先の学年別タッグトーナメントにおける乱入事件で教師部隊が隊長である真耶までもが戦闘不能になり、更に全治一カ月の診断を受けた事で臨海学校に参加不可となり、臨海学校に参加する生徒及び教師の護衛には更識のエージェントにして亡国機業の実働部隊『モノクロームアバター』の隊長であるスコールと、副隊長のオータムが派遣されていた――スコールは競技科二年生の担任でもあるので、臨海学校中は競技科二年の実技は基本自習である。
教師部隊の代わりがたった二人とは思うだろうが、スコールとオータムの実力はIS学園の教師部隊を一人で壊滅出来るだけのモノがあるので問題はないだろう――教師部隊の隊長である真耶であっても此の二人に勝つ事は出来ないのだ……競技者とガチの戦闘民族との壁は分厚いのである。
因みにスコールは教師部隊の副隊長でもあるので当然大ダメージを受けたのだが、幸か不幸かダメージを受けた場所が機械化している部分だったのでスグに束に修理して貰って即復活したのである。
「ガキ共の護衛をするのは別に構わねぇんだけどよ……オレ、なんでこんなにガキ共からお菓子貰ってんだ?」
「あら、本人は無自覚なのね?
貴女、今年の新入生からの人気高いのよ?『警備員の人カッコいい』とか、『タバコ吸ってる姿にハートブレイクされた』とか、『警備員さんと『オベリスクゴッドハンドクラッシャー』したいとかね。」
「おい、今なんか変な音声入らなかったか?」
「気のせいじゃないかしら?」
「気のせいか……んで、なんでオメーはジャージなんだよスコール?」
「楽なのよねジャージって……普段の授業でも基本ジャージだし。
ぶっちゃけて言うとドレスとかスーツとか普通にかたっ苦しくて着てられないのよ……そう言う意味ではレディーススーツを普段から着てられる貴女が凄いと思うわよオータム。」
「だからってジャージは流石にアレだろ……せめてアレだ、ジーパンにTシャツ位にはしろよ?」
「其れも良いかも知れないわね?
ちょうど夏月から母の日のプレゼントに『義母さんなら似合うと思うから』ってダメージジーパンとシルバーチェーン貰ったからね……私は本当に良い息子を持ったわ。」
「アイツ程の男は早々居ねぇだろ。夏月はオレにとっても可愛い弟分だからな。」
スコールのジャージ姿は最早IS学園における一種の定番となっているので今更だが、スコール的に拘りがあるのか、ジャージは全てNIKE制で、色もブラックとレッドに限定されていた――ジャージも突き詰めればオシャレの1ジャンルであるのかもしれない。
ともあれバスは進み、車内ではカラオケ大会が開催され、生徒達に半ば無理矢理マイクを持たされて一曲せがまれたオータムがヤケクソ気味に『運命ひらり』を熱唱して大喝采を浴びるのだった。
夏の月が進む世界 Episode101
『臨海学校開催~Ein turbulenter Ausbruch~』
臨海学校の期間でもIS学園本島では二年生以上は通常の授業カリキュラムとなり、競技科の二年生は実技の時間となっていた。
スコールが臨海学校に参加しているので代役の教師なのだが、代役の教師は真耶の同期であり、真耶が国家代表になっていたら並んで国家代表になっていた実力者だ。
だが、真耶が国家代表になれなかった事を聞いて自分に来ていた国家代表の話を蹴って、数年のフリーター生活を経てIS学園の教師となった異色の経歴の持ち主である。
其の実技授業で最初に行われたのはデモンストレーションバトルのタッグマッチで、夏月&ロランvs箒&ラウラの戦いとなっていた。
箒とラウラのタッグは近接戦闘がメインになるモノの、近接戦闘における攻撃手段のバリエーションならば可成り豊富であり、箒にはシールドエネルギーの回復能力が、ラウラにはAICがあるのでガッチリかみ合えば相当に強いタッグであるのだ。
「良い攻撃だが、箒は少しばかり素直過ぎるかな?
サムライガールの真っ向からの攻めは苛烈なだけでなくフェイントも使ってはいるが、如何せんフェイントが分かり易い……其れでは相手は引っ掛からないさ。」
「逆にラウラは軍人だけに色んなパターンを想定しすぎて若干自分で処理し切れなくなってねぇか?
其れでAIC使えなくなったら意味ねぇだろ。」
「私のフェイントが通じんのはお前達だけだーー!!」
「想定されるパターンが最低でも五十種はあるお前達がオカシイのだ!クラリッサですら十五種が限界だったと言うのに!!」
其れでも夏月とロランのタッグの前には攻撃を当てる事すら出来ていなかった。
箒とラウラはトップクラスの実力者であるのだが、夏月とロランはその更に上を行く絶対強者クラスであり、其の差は地球人最強とサイヤ人最強位あるので致し方ないだろう。
更に箒に対応しているのがロランで、ラウラに対応しているのが夏月と言うのも大きかった。
ロランのメイン武装である『轟龍』は槍に斧を追加した武器であるハルバートであり、ただでさえ『槍に剣で挑むのは三倍の実力が必要』と言われているのに、其の槍に『叩き潰す攻撃』が加わったハルバートを相手にしたら何倍の実力が必要になるのか分かったモノではなく、ロランと箒の実力差が可成り大きいので相性が悪過ぎるのだ。
一方で夏月とラウラの場合は体格差が大きかった。
ISバトルとは言え体格差を完全に補う事は出来ず、背の高さ、腕と足の長さ、体重、全てに於いて夏月はラウラを上回っており、結果として近距離戦であってもラウラの間合いの外からの攻撃が可能となっていたのである。
「さて、其れじゃあそろそろ終わりにしようか!」
「見切れるモノなら見切ってみな!」
此処で夏月がワンオフアビリティの『空烈断』を発動し、空間を斬り飛ばして自分とロランを瞬間移動させながら箒とラウラに回避も防御も不可能な連続攻撃を叩き込んで行く。
特に箒は集中的に狙われた事で『絢爛武闘』を発動する暇もなくシールドエネルギーを削り取られて機体が強制解除となり、ラウラは其れでも孤軍奮闘したのだが、最後は夏月とロランに『NIKU→LAP』を喰らわされてシールドエネルギーがエンプティとなり、此のタッグバトルは夏月とロランのタッグの勝利となったのだった。
「負けるなら、せめてマッスルドッキングを喰らってみたかった。」
「どんな感想だよ其れ……お前、いっその事簪と一緒に同人サークルでも開いたらどうだ?結構いい線行けるんじゃないかと思うぜ俺は。」
「ふむ……其れもアリかも知れんな。」
其の後の授業は滞りなく進み、『ISチームバトル』を模した試合形式の模擬戦が行われた。
五対五のチーム戦で双方五人が総出のバトルになるのだが、全勝したのが『夏月、ヴィシュヌ、乱、静寐、神楽』のチームで、次いで一敗で『ロラン、鈴、フォルテ、ナギ、ファニール』のチーム、三位が『秋五、箒、セシリア、ラウラ、シャルロット』となっていた。
なお、同日の午後に行われた競技科三年生の実技では、楯無とグリフィンとダリルが無双していた――主に楯無とダリルが『メドローア』を使った事で、秒殺の山を築いてしまったのだである。
何れにしても、まだまだIS学園の勢力図には変更がなさそうだ。
――――――
一方の臨海学校。
宿泊先は去年と同じく『花月荘』であり、生徒達は割り当てられた部屋に荷物を下ろすと、早速水着に着替えて真夏のビーチに突撃して行き、護衛のスコールとオータムも水着に着替えてビーチにやって来た。
スコールはシースルーのロングパレオ付きの金色のビキニで、オータムはシンプルな黒のビキニだったのだが、ビキニと言う事は腹部丸だしな訳で、オータムの鍛え抜かれたバッキバキのシックスパック腹筋も披露されており、一部の筋肉フェチの女子の注目を集めていた。
「あ~~……ビール飲みてぇ!キンッキンに冷えたビール飲みてぇ!
なぁスコール、一杯だけ!一杯だけ飲んでも良いだろぉ?折角海に来たってのにビール飲まないなんて勿体ねぇって!海の家のソーセージを肴にビール飲んでも良いだろぉ?ソーセージと生ビールがオレを呼んでるんだよぉ!」
「勤務中なのだから飲んで良い訳ないでしょう……貴女は何杯飲んでも基本的に酔わないけれど、生徒の護衛が酒臭いなんてのは流石にNGよ。
だから臨海学校中は、少なくとも生徒の最終就寝時間が過ぎるまではお酒はダメ……但し、生徒の最終就寝時間が過ぎた後は其の限りではないから好きにしなさい――其の時は私も付き合うわ。」
「其処までの辛抱かよ~~!
だが、辛抱した分だけより其の酒は旨く感じるってか?……スコールも付き合ってくれるんなら最高だから、仕方ねぇ今は我慢するとするか。」
臨海学校の初日は旅館到着から夕食時まで自由時間となっているので生徒達は真夏の海を心行くまで堪能していた。
海で泳ぐ者、海の家でサーフボードを借りてサーフィンに勤しむ者、泳げないので浜辺での潮干狩りを行う者、海の家が航行しているクルーザーに乗って釣りを楽しむ者、ビーチバレーを楽しむ者など様々だ――中にはサンドアート作りに勤しんで、ビーチに芸術作品を出現させる猛者も居たが。
「そんじゃあ行くぜガキ共!オレのサーブはレーザービームだ!!」
そんな中、オータムはビーチバレーに誘われ、その高い身体能力を発揮してレーザービームの如き高速のサーブと、落雷の如き鋭いスパイクを武器に一対二のハンディキャップマッチであるにも拘らず、完封勝利での二十連勝を記録して見せた。
此の圧倒的な強さにオータムのファンは更に増えてしまったのだが、其れはまぁ良い事と言えるだろう。
一方のスコールはクルーザーで数人の生徒と共に沖に出て釣りを行っていた。
クルーザーの船長が良く釣れるポイントに連れて来た事もあって、入れ食いとまでは行かないまでも生徒達もスコールも其れなりの釣果を上げていた。
アジにイワシにサバと、足の早い青魚が中心だが、いずれも新鮮ならば刺身で食べる事が出来るだけでなく釣った魚は花月荘に持ち帰れば夕食に刺身で出してくれる事になっているので今夜は中々食べる事が出来ない『サバの刺身』が食べられるだろう。
「此れは……大物が掛かったわね!」
と、此処でスコールの竿が大きなアタリを見せた。
スコールは急いでリールを巻いて竿を引いたのだが、掛った獲物は相当な大物らしく、中々引き上げる事が出来ない。
普通の釣り人ならば此処から最大で一時間を超える魚との格闘が幕を開けるのだろうが、生憎とスコールは普通の人間ではない――更識と亡国機業と言う事なる裏の組織で幹部級に上り詰めたと言うだけでなく、スコールは白騎士事件の際に失った身体を機械で補っている、所謂サイボーグであり、機械化されている部分には、今回の修理で束による強化が施されているのだ。
「出力最大解放よ!!!」
其れが機械義肢の一時的なブーストであり、其れを発動すれば機械義肢のパワーは通常時の十倍となるのだ。
パワーが十倍となれば相手がクジラでもない限りは負ける事は無く、スコールはリールを巻きながら竿を引っ張り、針に掛かった獲物が水面まで来た所で一気にぶっこ抜いてクルーザーの甲板に釣り上げた。
「此れは……カジキマグロ!!」
「初めて見た……!」
釣り上げたのは立派な角を持ったカジキマグロ。
其の全長は250㎝もあり、ホンマグロだったら億単位の値が付くだろう――マグロと比べてカジキは値が安いので流石に億単位とは行かないだろうが、其れでも100万単位にはなるだろう。
何れにしても、本日の釣果は上々だったので、夕食のメニューが豪華になるのは間違いない――寧ろ確定である。
実に見事なカジキマグロだったので縦に吊るした状態にして記念撮影を行い、何人かの生徒が自身のSNSに『臨海学校で先生が特大のカジキ釣り上げた』と投稿し、其れに対して『マジか!すっげぇ!!』、『先生って此の金髪美女?此の人が釣り上げたとか凄すぎ!』、『先生が美人で羨ましい!』等の反応があり大いにバズったのだった。
そうして自由時間は終わり一行は花月荘に戻って行ったのだが、その際にオータムが魚の入ったクーラーボックス三つを左手で持ち、右肩にカジキマグロを担いで持って行った様がなんとも言えない迫力があった。
自由時間終了後は先ずは入浴タイムとなり、温泉を堪能した後に夕食に。
臨海学校初日の夕食は、夏月達が参加した去年よりも豪華なモノであり、釣り組が釣り上げた魚が刺身と天婦羅で振る舞われ、スコールが釣り上げたカジキマグロは刺身だけでなくステーキでも振る舞われ、頭は豪快に兜焼きで提供された。
それに加えて天婦羅には地場産の夏野菜も使われ、小鉢も『味付けミックス海草』、『イカの沖漬け』、『生シラス』と中々に凝ったモノとなっていた。
「イカの沖漬け……最高の酒の肴じゃねぇかよぉ!ビール!ビールが飲みてぇ!」
「まだ駄目よオータム。」
「限界まで我慢した酒は最高に旨いと思うけどよ、こんな最高の逸品を前にして酒が飲めないとか最早拷問レベルだろマジで!!」
夕食タイムは極めて平和であり、生徒達も教師陣も絶品料理に舌鼓を打っていた。
夕食後は就寝時間までフリータイムとなり、花月荘の遊戯室では生徒達が卓球や筐体型のゲーム、ボードゲームやダーツ等を楽しんでいた他、宴会室にあるカラオケマシンを使ってのカラオケ大会も多いに盛り上がっていた。
「リーチだ!」
「警備員さん、其れロン。国士無双。」
「なんだとぉ!?」
ボードゲームではオータムが麻雀で連勝した後にまさかの大逆転負けを喫する結果となり、罰ゲームとしてカラオケで『浪花恋しぐれ』、『天城越え』をはじめとした演歌五曲を熱唱し、生徒達から拍手喝采を浴びたのだった。
――――――
臨海学校初日は平穏無事に終わって就寝時間となり、生徒達は思い切り遊び倒した事もあって全員が夢の世界へと旅立っていたのだが、そんな平和な花月荘に忍び寄る影があった。
「国家代表、代表候補生は攫う。其れ以外は無視だガ、俺達の姿を見た相手は麻酔銃で眠らせた上でタバネが作った記憶消去薬を飲マせておけ。
殺してしまうのが一番なのだろうガ、殺すト色々と面倒ダからな。」
その陰の正体は新織斑達だ。
臨海学校に参加している一年生の中から国家代表と代表候補生を攫いに来たようだ――国家代表、そして代表候補生ともなれば其の能力は可成り高いのでタバネが洗脳すれば大きな戦力になるだけでなく、新たな『織斑』を生み出すための貴重な母体としても使えるのだから狙って来るのは当然と言えば当然と言えるだろう。
「やっぱり来やがったか……ガキ共の楽しみを邪魔するんじゃねぇよクソが。」
「此処から先には行かせないわよ……絶対にね。」
だが、新織斑達の前に立ちはだかった影が二つ――言うまでもなくそれはスコールとオータムだ。
スコールとオータムは生徒達が寝静まった後で晩酌を楽しんでいたのだが、其れでも危機察知能力を全開にしていた事で新織斑達の襲撃を予測し、そして喰い止める事が出来たのである。
「臨海学校の初日に仕掛けて来るとは良い度胸だが、此処がテメェ等の墓場だ。
模擬戦は兎も角として、実戦でオレから逃げられた奴は居ねぇからな……精々オレを楽しませて見せろよ夏月の劣化品共が!!」
そしてオータムの一言が戦闘開始の合図となり、スコールとオータムのタッグは新織斑達との戦闘を開始したのだった――!
To Be Continued 
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