戦争が一応の終結を迎えたとは言え、世界情勢は安定しておらず、テロリストによる破壊工作などは少なくない件数が発生していた――地球でのテロにはアークエンジェルの部隊が、プラントでのテロにはミネルバ隊かジュール隊が対処して被害を最小限に止めてはいたが。
だからこそ軍人には日々の鍛錬が欠かせなかった。
其れはモビルスーツのシミュレーターを使ったモノだけではなく、生身での戦闘訓練も然りだ。
「今日こそは一本取らせて貰いますよイチカさん!」
「生意気な……とは言わねぇ。
お前の成長には目を見張るものがあるからな?……若しかしたら一本取れるかもしれないぜ?マジでな。」
ザフトのトレーニングルームにあるスパーリング用のリングではイチカとシンが対峙していた。
イチカは黒いインナーに袖なしの紫の空手着にオープンフィンガーグローブで、シンは黒のTシャツに赤いジャージのズボンにオープンフィンガーグローブの出で立ちだ。
スパーリング開始のゴングが鳴るとシンは一気に距離を詰めてからの左右のジャブを高速連打するが、イチカは其れを的確にガードして決定打を許さない。
総合力ならばイチカの方がシンよりも上だが、スピードに限定すればシンの方がイチカを上回っているので先ずはスピードを生かした連打でペースを握るのは悪くないだろう。
加えて今日のシンは高速連打の中に時折強打を混ぜ込んでイチカのガードを強引に抉じ開けに来ていた……要はスピードとパワーの合わせ技だ。
高速連打の合間に強い打撃を挟まれるのは割とキツイモノであり、更に何時強打が織り込まれるかも分からないとなれば対処は難しいのだが、其処はイチカの経験が勝った。
「高速連打の中に強打を混ぜ込むってのは悪くないが……強打を放つ前の溜めが丸分かりだぜシン!!」
「んな!」
シンの強打のタイミングを呼吸で見破ったイチカは強打を肘でカチ上げると膝裏へのローキックでシンの体勢を崩し……
「一撃必殺!!」
腰の入った正拳突きをシンのボディーに炸裂させ、其れを喰らったシンはロープを超えて場外までフッ飛ばされ、リングに戻る事は出来ずに試合終了。
並の人間が喰らったら胃の中のモノをリバース確定なボディブローを喰らっても咳き込んだだけで済んだシンも中々にぶっ飛んだ身体能力をしていると言えるのかもしれないが。
「くっそ~~!今回は行けると思ったのにダメだったか~~!!」
「早々簡単に師匠越えはさせねぇよ。
だが、お前は確実に強くなってるぜシン?……今のお前はアカデミア時代の十倍は強いよ。俺のお墨付きをくれてやるぜ。今のお前の戦闘力は十万は下らねぇな。」
「俺で十万だとイチカさんの戦闘力はどれ位なんですか?」
「俺の戦闘力は53万だ……そしてキラの戦闘力は1000万は下らねぇ……下手すりゃ億超えてるぞアイツは……」
「キラさん、人間ですよね?」
「多分な。」
其の後今度はリング上でカタナとルナマリアがスパーリングを行い、激しい攻防を繰り広げた末に、カタナが初代タイガーマスクも絶賛するであろう高角度かつパーフェクトなブリッジを描いてのジャーマンスープレックスを決めて勝利を収めていた。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE99
『平和な一幕~Peaceful time ~』
大戦終了後、マドカはタバネのGAND手術を受けて一命を取り留め、レイもタバネが遺伝子治療を行い、DNAのテロメアの延長手術を行い、更にテロメアの分解を常人よりもやや早い程度に抑えた事で、レイは最低でも還暦までは生きられる身体となっていた。
タバネは『私ならもっと完全な身体を作って其れに記憶を転写できるけど、其れはレイちゃんの人生とは言えないからね』と、中々に危険な事を言っていたのだが。
それはさて置き、プラントの病院ではマドカが必死のリハビリを続けていた。
データストーム汚染で脳に大ダメージを負ったマドカは普通ならば一生をベッドで過ごす事になっていたのだが、タバネのGAND手術とプロジェクトモザイカで生み出された特異性によって、戦争終結から一カ月が経つ頃には歩行訓練が行えるまでに回復していたのだ。
「ふ……ぐ……うぅぅ……!」
「慌てなくて良いですよマドカさん。自分のペースで行きましょう。」
「其れでは足りんのだ……私は兄さんの隣に立てなくては存在価値がないからな。」
今はまだバーを使っての歩行訓練であり、その訓練も息も絶え絶えの状態なのだが、マドカの足取りは日に日に良くなっていた――此れならば或いはもう一度モビルスーツに乗る事も出来るかもしれないだろう。
其のマドカのリハビリの様子をイチカとシンはリハビリ室の外から見ていた。
「順調に回復してみたいで安心したぜ……タバネさんが一枚噛んでるから当然と言えば当然かもだけどよ――ったく本来なら死んでたマドカをあそこまで回復させるとかぶっ飛びすぎだろタバネさん。
そんでシン……やっぱりマドカの事は許せないか?」
「アイツの事ってか、アイツがした事は許せませんよ……ハイネだってアイツに殺されたんですから。
だけど本人が其れをまるっきり覚えてないんじゃ責める事も出来ませんって……其れに、あぁやって必死にリハビリやってる奴に怒りを向けるのはなんか違う気もしますからね。
にしても、記憶を失うだけじゃなくて全く別の記憶を持ってるってどういう事なんです?イチカさんの事も兄さんって……」
「あ~~……まぁ、なんだ。マドカも俺やカタナと同じって事だ――前世の記憶って奴を持ってるんだよ。」
「アイツもなんですか!?」
「そうだ。
そんで前世に於いて俺とマドカは確かに兄妹だったんだ……そしてその時のアイツは頭にウルトラ馬鹿が付くほどのブラコンだっただけじゃなく、カタナの事も『義姉さん』って呼んでめっちゃ懐いてた。」
「なんなんすか其れは……」
シンとしては胸中複雑なモノはあるのだが、マドカが記憶を失っているのでは責める事は出来ないと一応の折り合いはつけているようだった。
尚、マドカは日常生活が送れるようになった後はザフト軍に編入され、ミネルバ隊に配属される事が決まっていたりするのだが、これは連合と比べると絶対数で劣るザフトとしてはマドカのモビルスーツパイロットとしての技量を手元に置いておきたいと言う思惑があったと共に、万が一の事があってもミネルバ部隊ならばマドカを抑えられるとの考えがあったからだと言えよう。
尚、レイは既にザフトに復隊しておりミネルバ隊に配属されていた――とは言え、流石に赤のままとは行かないので一般兵の緑に降格とはなったのだが。
マドカのリハビリの様子を見届けたイチカとシンはカタナとルナマリアと合流し、其の後ダブルデートとしゃれ込むのだった。
――――――
大戦後、オーブのモルゲンレーテ社にはストライクフリーダム、∞ジャスティス、デスティニー、キャリバーンフリーダム、エアリアルジャスティス、イージスセイバー、インパルス、ガイアが搬入され次世代となるバッテリー型エンジンと核搭載型エンジンの開発が行われていた。
核エンジン搭載型の『モビルスーツの開発』は条約で禁止となっているが、『既存のモビルスーツの核エンジン開発』は実は禁止事項となっていないので此のエンジン開発は合法なのだ。
尤もカガリはこれから先何か大きな事が起きた時に、其れを制圧するための手段として新型の核エンジンの開発を命じていたのだが。
そして其れは別に新型のモビルスーツの開発も行われていた。
一つはオーブの量産機であるムラサメの後継機となるムラサメ・改であり、これは純粋にムラサメの各種性能をグレードアップしたモノであり、PS装甲こそ搭載されていないが単独での大気圏飛行能力と汎用性を量産機としては極限まで高めた機体となっている。
そしてもう一つが……
「此れがストライクの究極系か……」
ターミナルに所属する連合の兵士によって持ち込まれた、『ファントムペイン』の別動隊で使われていたストライクの後継機である『ストライクノワール』のデータを基に開発された『Z(ゼータ)ストライク』だ。
ストライクノワールの素体であるストライクEタイプの性能はそのまま受け継ぎつつも、標準装備のビームライフルショーティに『ストライカーパック未装備での出撃』を考慮してアーマーシュナイダーを搭載する等、ストライカーパック未装備でもある程度の近接戦闘が行える改良が施されていた。
そして専用のストライカーパックである『Zストライカー』はノワールストライカーをベースにしつつ、より近距離戦に特化した造りとなり、フラガラッハビームソードの代わりに二本のシュベルトゲベールが搭載され、高速機動用のウィングもフリーダムに酷似したモノになっていた。
「願わくば、これ等を使う機会が訪れない事をだな。」
カガリはそう言いながらも、しかし今の平和が長続きしない事を悟っているようだった。
因みに此のZストライクはイチカ専用機として開発されたのだが、同じ頃プラントではキラとアスランの新たな専用機として新フリーダムと新ジャスティスの開発が行われているのだった。
――――――
ダブルデートのイチカ&カタナとシン&ルナマリアは遊園地を訪れて絶叫系のアトラクションを中心に楽しみ、ホラーハウスでは襲って来たゾンビにカタナがカウンターのSTOをブチかましてKOすると言うハプニングがあったが、取り敢えず概ね平和にダブルデートは進んでいた。
そのダブルデートもランチタイムになったので遊園地内のラーメン屋に入ったのだが……
「俺はプレミアム塩とんこつラーメンの大盛りにトッピング全部乗せの多め薄め固めで。油は背脂に変更でヨロ。それから餃子と炒飯で。」
「私は辛ネギ味噌チャーシュー麺の大盛りを激辛で固め多め濃いめで。それからご飯の大盛りと生卵と餃子で♪」
イチカとカタナのオーダーが中々にバグっていた。
尤もある意味ではラーメンの王道と言えるオーダーであるのかもしれないが。
因みにシンは『チャーシュー麺の大盛り』と『マヨチャーシュー丼』で、ルナマリアは『塩チャーシュー麺』に『ラーメン屋さんの卵掛けごはん』だった。
そしてランチタイム後一行はゲームセンターに移動してエアホッケーでまさかの100ラリーを達成したり、ハウス・オブ・ザ・デッドCEエディションでランキング上位4位を独占したりとダブルデートを楽しみ、ゲームセンターの最後では記念のプリクラを撮影した。
其の後一行はカラオケボックスに移動し、カラオケのオールナイトを楽しむのだった。
こうして戦争後の世界は平和だったのだが……
「此の平和は恒久的なモノじゃないよね……」
オーブの浜辺でトリィを肩に乗せたキラは其れだけ呟くと踵を返してラクスとフレイが待つ孤児院へと歩みを進めるのだった。
なおこの日の孤児院ではラクスとフレイの提案でバーベキューパーティが開催され、子供達は炭火で焼かれた肉や野菜、海産物に舌鼓を打つのだった。
そしてその夜――
「キラ、貴方の愛を私に下さい。」
「来て、キラ。」
「フレイ、ラクス……!!」
――バシュゥゥゥン!!
自室で裸エプロンで待ち構えていたフレイとラクスにキラのSEEDが発芽して、一晩中愛し合う事になるのだった。
To Be Continued 
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