連合軍とアベンジャーズの戦いは互いに一歩も譲らず激化の一途を辿っていたが、現在の戦局はアベンジャーズの方に傾いていた。
戦力其の物の総合力では連合軍の方が上なのだが、状況的にはアベンジャーズに分があるのだ。
連合軍がアベンジャーズを制圧した上でレクイエムとジェネシスを破壊しなければならないのに対し、アベンジャーズはステーションワンの再建とジェネシスの第二波のエネルギー充填が終わるまで連合軍を此の場に釘付けに出来れば良いのだから。
アベンジャーズの戦い方も、基本的には『倒す事』よりも『此の場から動かさない事』に重きを置いているので連合軍としてもやり辛い事この上なかった。
「仕掛けに乗せられたか……拙いぞキラ。このままでは一時中継点も復活する……オーブとプラントが討たれる……!!」
アスランも此の状況に焦りを感じているようだ。
「状況を打開するには大胆な一手が必要になるか……シンにルナマリア、其れにカタナ達はレクイエムに向かえ!それとミネルバも!」
「アスランは行って!あとアークエンジェルも!この要塞は僕とイチカ、エターナルで抑えます!!……えっと、命令です!!」
だがこの状況を打開する為にイチカとキラは、自分達+エターナル以外の全ての戦力をレクイエムへと向かわせる作戦に打って出た。
「デスティニーとジャスティスならレクイエムのシールドを突破出来るからな!」
「だけど其れではエターナルが……」
「此の艦よりもオーブとプラントです。
オーブとプラントが討たれたら、彼等によって世界の秩序は破壊され、武力こそが正義の世界となってしまうでしょう……其れだけは絶対に避けなくてはなりません。」
「……分かった。」
無論此の作戦はイチカとキラが居ればこその作戦だ。
最高のコーディネーターと最強のコーディネーター、そして共に最強の性能を備えた『自由』の名を冠するモビルスーツを操るイチカとキラが此の場に残ってアベンジャーズの相手をするからこそ成立するのだ。
二人の事を良く知るアスランは、短く『分かった』とだけ言うと戦場を離脱してレクイエムへと向かい、それに続くようにエアリアルジャスティス、デスティニー、インパルス、ガイア、アカツキ、三機のドムトルーパー、50機以上のザクとグフ、そしてアークエンジェルとミネルバがレクイエムに向かって行った。
無論其れを追おうとするアベンジャーズだったのだが――
「やらせねぇって言ってんだろ!!学習能力ないのかテメェ等は!!」
「此処から先には行かせない!!」
追撃部隊はキャリバーンフリーダムのエスカッシャンとストライクフリーダムのドラグーンの超多角的攻撃によってあっと言う間にダルマにされて戦線離脱を余儀なくされる事になったのだった。
それを見たキソはストライクフリーダムを攻撃しようとする。
「キソ、お前はレクイエムに向かった連中を追え。
俺達が勝利する為にも奴等を討つんだ……レクイエムとジェネシスを護り切る事が出来れば俺達の勝利であり、キラ・ヤマトを討つのは其の後でも遅くはない――奴に最大限の絶望を与えてから討つと言うのも一興だろう?」
「レイ……分かった。」
其処をレイに見事に言葉巧みに誘導され、離脱したシン達を追う事になった――キソ自身もシンに興味が湧いていたので改めて戦う機会を得る事が出来たと言うのは嬉しい事ではあったのだが。
こうして戦場はジェネシス組とレクイエム組に完全に二分され、各々でその激しさを増して行くのであった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE97
『加速する戦場~Accelerating Battlefield~』
レクイエムへと向かっているアークエンジェルとミネルバとジュール隊の戦艦、そしてイチカとキラ以外のモビルスーツだったが、アベンジャーズもマドカとレイ以外の全ての戦力をレクイエム周辺に展開して連合軍の行く手を阻もうとする。
突破したい連合軍と突破させまいとするアベンジャーズの戦闘は両軍入り乱れての宛ら『バトルロイヤル』状態となっており、艦では連合軍もアベンジャーズも味方機のシグナルを確認する事が困難なレベルになっていた。
「アスラン君は?」
「ダメです、シグナルロスト!」
「俺が行く!!」
「ムゥ!!」
「ムラサメ一個小隊、ついてこい!!」
此処でムゥがオーブのムラサメ一個小隊を引き連れてアベンジャーズの陣営突破を試みる。
これに対してアベンジャーズのモビルスーツはビームを放って撃墜しようとする……その選択は間違いではなく限りなく正解に近いのだが、今回ばかりは相手が悪かった。
「アカツキはビームじゃ倒せねぇんだよ!黄金の装甲はビームには屈さぬ!朽ちぬ!砕けず!神の世界への引導を渡してやるぜ!!」
アカツキは放たれたビームをヤタノカガミで反射して攻撃して来たアベンジャーズのモビルスーツを返り討ちにしたのだ。
ストライクフリーダムやデスティニーが『最強の攻撃力』を有したモビルスーツだとしたら、アカツキは『最強の防御力』を有したモビルスーツと言えるだろう。
こうしてムゥがムラサメ一個小隊を引き連れてレクイエムに向かう中、アークエンジェルがシグナルロストしたジャスティスもアベンジャーズのモビルスーツを相手に奮闘していた。
ビームサーベルの二刀流で擦れ違いざまに二機のウィンダムを戦闘不能にしたかと思えば、即座にビームサーベルを連結した双刃状態にして105ダガーを三連続で両断し、ビームブーメランを投擲して105ダガーとウィンダム計五機の頭部を斬り落とし、向かって来た相手を脚部のグリフィンビームエッジで蹴り斬って見せた。
「相変わらずの足癖の悪さねアスラン?」
「俺はまだカワイイ方だカタナ。
足癖の悪さなら俺よりもキラやイチカの方が上じゃないのか?どれだけ敵機に蹴りをかましてるんだキラとイチカは……」
「先の大戦ではアークエンジェルを狙ったレイダーにフリーダムで画面外から飛び蹴りかましてたわねぇキラ君は……」
「画面外ってなんだ!?」
「オホホ、気にしないで頂戴な♪
其れじゃあギアを上げるわよ?パーメット8!!」
――パリィィィン!!
更にカタナがSEEDを覚醒させてエアリアルジャスティスのスコア8を発動して敵モビルスーツ八機と敵戦艦一隻のコントロールを奪い動きを止めると、インフィニットジャスティスが背部のファトゥム01を発射してモビルスーツをグリフィンビームブレードで斬り裂き、戦艦には機関部に突撃して航行不能に陥らせる。
加えて航行不能になった戦艦にはエアリアルジャスティスがエスカッシャンでビームの雨を降らせるダメ押しを喰らわせて爆破炎上!――少しばかりやりすぎな気がしなくもないが、死と破壊を撒き散らすだけの存在でしかないテロリスト相手にはこれ位の方が丁度良いのかもしれない。
イージスセイバーとガイアもモビルアーマー形態とモビルスーツ形態を絶妙に使い分けてアベンジャーズの部隊を翻弄し、的確に105ダガーとウィンダムを撃破していた。
「舞台はクライマックスを迎えようとしているのに、居るのは観客ではなく敵役ばかりか……ならば其の敵役を一掃しての大団円で観客を呼び寄せて拍手喝采と行こうじゃないか!
さぁ、共に行こうステラ!!」
「ロランの言ってる事は良く分からないけど、頑張る。
戦いが終わったらラーメン食べに行きたい。」
「ラーメンか……アレは無慈悲なまでに美味だからねぇ?私も同伴させて貰うよ――因みにステラが好きなラーメンはなんなのかな?」
「濃厚塩とんこつラーメンに辛子高菜、チャーシュー、味玉、メンマ、焼きのりトッピングで、固め多め濃いめ……イチカから『これがラーメンのオーダーの基本だ』って教わった。」
「うむ、間違いではないが味変を楽しむのならば味は薄めがいいぞ?」
「味変するなら薄めで……分かった。」
ロランとステラの会話には緊張感が無いようにも思えるが、こんな会話が出来るだけの余裕があるとも言えるだろう――イチカやキラに成れなかった者ならば未だしも、其れ以外のアベンジャーズのメンバーは先の大戦終結後にくいっぱぐれてしまった傭兵崩れが大半であり、其れなりに強くともザフトとオーブの連合軍にとっては然程脅威となる存在ではなかったのである。
そしてイチカやキラに成れなかった者達も、一般兵ならば圧倒出来てもエース級のパイロットが相手ではそうは行かず、イザークとディアッカ、ドムを駆るラクスの親衛隊には苦戦した末に撃破されていたのだった。
「道を開けろこの野郎!邪魔するなら容赦しないぞ!!」
「アンタ等はお呼びじゃないのよ!」
そんな中で獅子奮迅の活躍を見せていたのだがシンとルナマリアだ。
シンが駆るデスティニーは超射程ビームキャノンを放ってアベンジャーズの部隊を散会させると一気に間合いを詰めてアロンダイトで切り裂き突き刺しぶった切り、パルマフィオキーナで琴月
陽を叩き込んで爆発四散させる。
ルナマリアのインパルスはシルエットをフォースに換装する予定だったのだが、ミネルバから射出されたのはデスティニーのバックパックに酷似した見た事も無いシルエットだった。
これはデスティニーを開発する切っ掛けとなった統合兵装シルエット『デスティニーシルエット』であり、本来はインパルスに搭載させる予定だったのだが、エネルギーの消費が非常に大きくお蔵入りとなり、デスティニーを核エンジン搭載機として開発する事になったのだ。
しかし、デスティニーシルエット自体の性能は非常に高く、武装の変更とエネルギー消費の改善、デスティニーシルエットに大容量のバッテリーパックを搭載する事で実用化に至り、此の決戦に密かに投入されていたのだ。
結果としてデスティニーシルエットを搭載したインパルスはその超高性能を発揮してアベンジャーズの部隊を粉砕!玉砕!!大喝采!!
「俺から逃げられると思うなよ……殺してやる。キラを血祭りにあげる前にお前等を始末してキラに絶望を味わわせてやる!!」
此処でキソがシン達に追い付き、シンの抹殺を宣言した。
「お前如きがキラさんと戦うに値するかよ!
お前の相手なんて俺で充分だぁ!!」
エクスカリバーで斬りかかって来るデスインパルスに対し、デスティニーもアロンダイトで応戦して激しい剣戟が繰り広げられビームエッジがスパークし激しい火花を散らす。
機体の性能的にはデスティニーの方が圧倒的に上だが、デスインパルスはコックピットが破壊されない限りは破損部位の換装を行う事で戦闘を継続出来る利点があるので総じて戦えば其処まで大きな差はなく、決定打となるのはパイロットの腕前だろう。
「見えるぞ、お前の動きが!!」
キソはスーパーコーディネーターになれなかったとは言え、並のコーディネーターと比べれば其の能力は遥かに高く、嘗てのキラとの戦いで其の能力も大幅に上昇しており、デスティニーの動きも直ぐに見切り、アロンダイトの斬撃をギリギリで躱してカウンターとなるビームを放って見せた。
完全なカウンターだけに防御も回避も不可能なのだが――
――フッ……
「き、消えただとぉ!?」
ビームが命中したデスティニーが蜃気楼のように消え去ったのだ。
これにはキソも驚いたが、これはデスティニーが発する光の翼が放出するミラージュコロイド粒子が作り出した分身だったのである――そして気が付けばデスインパルスの周囲には無数のデスティニーが存在していた。
そして其の無数のインパルスが一気に突撃して来たのだ。
「この程度ぉ!!」
圧倒的な物量だが、キソはデスインパルスに搭載されている火器を全開にして放ち分身デスティニーを粉砕していく。
だが其の全てを打ち落とせるはずもなく、遂に一体の分身に接近を許してしまった――とは言え、分身ならば実体はないので恐れる事でもないのだが……
「分身と思って油断したわね!」
「インパルス!!」
其の分身の中からインパルスが現れ、デスティニーシルエットを改修する際に開発された大型の実体対艦刀『マサムネ』でデスインパルスに斬りかかって来たのだ。
本来ならばPS装甲に実体剣は無力なのだが、このマサムネはストライクのアーマーシュナイダーにも使われていた『高周波振動ブレード』を更に発展させた実体ブレードとなっており、絶対振動数を調節する事でアクティブ状態のPS装甲を切り裂く事も可能となっているのである。
此の攻撃をキソは超反応で回避しようとしたのだが、此処で思わぬ事が起きた――此の土壇場でキソの操縦技術が機体性能を超えてしまい、デスインパルスがキソの思い通りに動かせなくなってしまったのだ。
キラならば即座に運動プログラムを修正するのだろうが、キソに其の力はなく、結果としてデスインパルスはマサムネで左腕を肘で斬り落とされてしまった。
それだけならばチェストフライヤーを交換すれば良いのだが、無数のデスティニーの分身を相手にしている状況では其れも難しかった――どの分身に今のインパルスのような存在が隠れているか分からないとなれば尚更だろう。
「く……こんなところで俺は!俺はキラを殺す!キラを殺してこそ俺は俺になれるんだ!俺こそが、本物のキラ・ヤマトに!!」
「キラさんを殺したところでお前がキラさんになれるかよ!
お前はお前でキラさんはキラさんだろうが!お前とキラさんは別人だって事が分からないのか!!……このクソ馬鹿野郎!!!」
それでもキラへの恨み言を口にして戦おうとするキソに対し、デスティニーはビームブーメランを放って両足と右腕を斬り落としてダルマにすると、そのままデスインパルスの頭を掴んでブースターを吹かせ、勢い任せに小惑星に叩き付けてからパルマフィオキーナを放って爆発させ、デスインパルスは上半身が完全に吹っ飛んでしまったのだった。
上半身が吹っ飛んだと言う事はコックピットも吹っ飛んだと言う事であり、キソはキラとの再戦をする前に戦場から退場となったである。
「お前の敵はお前だったのかもな……もしもお前がキラさんに固執してなかったら違う結果になっていたのかもな。」
「シン……」
「だけど其れを言ってもしょうがないからな……今の俺達がやるべき事をやるぞルナ!俺達がなすべき事は、レクイエムの破壊だぁ!!」
「うん!」
デスインパルスを退けたデスティニーはインパルスと共にレクイエムへと向かって行ったのだった。
――――――
一方、パンデモニウム付近の宙域ではキャリバーンフリーダムとファラクトテスタメント、ストライクフリーダムとレジェンドが激しい戦いを繰り広げていた。
互いに決定打を許さず、正に削り合いのような戦いなのだが、イチカはマドカの能力を上回っていた事で苦戦する事はなかった。
キラもまたレイに後れを取りはしないのだが……
「(誰だ、君は誰なんだ!!)」
レジェンドと相対した其の時から感じていた既視感が気になっていた。
そのせいで精彩を欠く事はなかったが、其れでも少しばかり反応が遅れているのも事実だった。
「分かるだろうお前には……俺は、ラウ・ル・クルーゼだ!!」
「ラウ・ル・クルーゼ……!!」
そんな中でレイから告げられたのはキラにとっては衝撃の事実だった。
レジェンドのパイロットであるレイは、二年前の大戦の最終決戦に於いてキラがイチカと協力して漸く討つ事が出来た難敵にして最強のナチュラルとも言うべき存在である『ラウ・ル・クルーゼ』を名乗ったのだから。
「だけど、僕は退かない!大事なモノを護る為に、僕は戦いから逃げない!!」
『大層な理想だが、理想は所詮理想であり現実にはならん……その理想を抱いて死ねキラ・ヤマト!!」
「悪いけどそれはお断りだ……フレイにラクス、僕を待ってる人が居るからね!!」
其れでもキラは大きく動揺する事も無く、レジェンドとビームサーベルで切り結んだ後に、互いにビームサーベルの攻撃をビームシールドで受け、ビームシールドがスパークしストライクフリーダムもレジェンドも視界が遮られたのだが……
「そこだぁ!!」
「!!」
そのスパークの向こうからストライクフリーダムが現れ、レジェンドの顔面に渾身のケンカキック一閃!
此の一撃でレジェンドは体勢を崩したのだが、直後のドラグーンを射出してストライクフリーダムを牽制してストライクフリーダムの追撃を躱して見せたのだった。
「これ以上戦うって言うのなら僕も容赦は出来ない……本気で君を倒しに行く!!」
「来い、キラ・ヤマトぉ!!」
次の瞬間、ストライクフリーダムもドラグーンを射出し、キラとレイの戦いは如何やら空間認識能力と並行思考能力がモノを言う戦いになりそうだった――!
To Be Continued 
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