レクイエムのビーム偏向の一時中継点であるステーションワンを破壊した連合軍はそのまま月の裏側に隠されていたロゴスの第二基地『パンデモニウム』に向かおうとしたのだが、此処で予想外の事が起きた。


「アークエンジェルの左舷、ミネルバの右舷より敵影!ナスカ級四隻とモビルスーツ多数!!」

「奇襲!?
 でも此れまでレーダーには何も……まさか、ミラージュコロイド……!!」


連合軍を挟み撃ちにする形でアベンジャーズの部隊が現れたのだ。
其れは此れまでアークエンジェルもミネルバも、そしてエターナルもレーダーで感知していなかった……故にマリューもタリアもミラージュコロイドの存在を疑ったのだが、実はミラージュコロイドではない。
そもそもにしてミラージュコロイドはコストが高く、戦艦とモビルスーツ五十機以上に搭載するとなったら其れこそアカツキの開発コストを余裕で上回るのでアベンジャーズの資金ではミラージュコロイドを搭載する事は度台不可能――なので、奇襲部隊の戦艦とモビルスーツにはステルス戦闘機に使用されているレーダー電波を弾く特殊な塗料での塗装が行われていたのだ。

更に此の奇襲だけでなく……


「な~んか見えるぞ?なんだアレ?」


月の陰から巨大な建造物が姿を現した。
其れは三角錐をひっくり返したような物体で、その中央には巨大なパラボラアンテナのような装置が見て取れる――一見すると何が何だか分からない代物であるのだが、前大戦のヤキンドゥーエ攻防戦に参加していたイチカ達には其れが何であるのかを理解する事が出来た。


「アレは……まさかジェネシス!!」

「馬鹿な、ジェネシスは内部でジャスティスを自爆させて完全に破壊した筈だ……!」

「宇宙空間だと地球上よりも核爆発の威力が抑えられて思いのほか残骸が残ったって事だろうな……其れでも瓦礫と化したモノを再建したってのはトンデモねぇけどよ……!!」


其れは先の大戦でパトリック・ザラが使用した核爆弾をも上回る最終決戦兵器、ガンマ線レーザー砲『ジェネシス』だった。
先の大戦にて、『ジェネシスが地球に向けて発射されていたら、地球上のほぼ全ての生物が死滅し地球は死の星になっていた』とも言われるほどの凶悪な兵器をアベンジャーズはジェネシスの残骸を回収して再建していたのだ。


「破滅の光で消え失せろぉぉぉ!!」


そして放たれたジェネシス改め、ネオ・ジェネシスのガンマ線レーザーは連合軍の戦艦数隻と多数のモビルスーツを一瞬で消滅させてしまった――アークエンジェル、ミネルバ、エターナルは無事でありイチカ達も無事だったのだが一撃で一部隊級の戦力が削られてしまったのは脅威だろう。


「そんなモノまで持ち出して来るとはな……俺だけを狙って来るなら未だしも、無差別ってんならマジで救えないぜマドカ……!!」

「此れは、流石にオイタが過ぎるわね……!」


最悪最強の切り札であるネオ・ジェネシスの登場と連合軍が挟み撃ちに遭った事で戦局は一変し、最終決戦は一気に混沌として行くのであった。









機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE96
『マドカとレイ~The Chronicle Of Dark~』









オーブの主力戦艦である『クサナギ』と『ツクヨミ』は連合軍からは離れて月基地のレクイエムの破壊に向かっていたのだが、レクイエムの表面には強固なエネルギーシールドが展開されており、オーブの主力であるムラサメのビームライフルでは歯が立たないだけでなく、クサナギとツクヨミの艦首陽電子砲ですらも弾いてしまったのだ。

これでは打つ手がなくツクヨミとクサナギは暫し沈黙する事になったのだった。


一方でステーションワン付近でも戦いが激化していた。
連合軍はアベンジャーズの挟み撃ちを受けた事で取り囲まれてしまい、身動きが取れない状況となっていた――其れでも、連合軍はアベンジャーズのモビルスーツと互角以上の戦いをしているので押し切られる事はなかったが突破する事も難しくなっていた。

ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスはミーティアをパージして広域殲滅戦仕様から対モビルスーツ戦仕様になると、ストライクフリーダムはドラグーンを展開してのフルバーストを行い、インフィニットジャスティスはビームブーメランの投擲とファトゥム01の突撃、本体の格闘戦で敵機を戦闘不能にして行き、キャリバーンフリーダムとエアリアルジャスティスはエスカッシャンによる攻撃と防御を巧みに使い分けて戦っていた。


「イチカァァ!今日こそ殺してやるぞ!此処が貴様の墓場だ!!」

「マドカ……ったく懲りねぇなお前も!!」

「キラ・ヤマト……お前は討たらねばならない!!」

「(……何だ、この感じ……この感じはラウ・ル・クルーゼ?……いや、有り得ない……彼はあの時に死んだ筈なんだから……)」

「キラァァァァ!!今度こそ殺してやるぞ!!」

「更に黒いインパルス……君もか。」


其処にファラクトテスタメント、レジェンド、デスインパルスが参戦し、互いに全戦力をつぎ込んでの全面対決の様相を呈して来たのだった。
それだけでなく、キソのデスインパルスはフォース、ソード、ブラストの三種類のシルエットを統合したかのような、『マルチプルアサルトシルエット』とも言えるシルエットを装備した『パーフェクトインパルス』の状態だったのである。


「インパルスの偽物……アンタ如き、キラさんが出るまでもなく私で充分よ!!」

「邪魔するな!!」


ストライクフリーダムに向かって行ったデスインパルスの前にはオリジナルのインパルスが立ち塞がり、ビームジャベリンでデスインパルスのシールドを切り裂いて見せた。
砲撃型のブラストシルエットだが、近接戦闘用にビームジャベリンが搭載されており、近接戦闘も其れなりに行う事が出来るのである。

とは言え、レクイエムの破壊を最優先にしていた連合軍はステーションワンには少数精鋭で向かっており、戦力の七割がレクイエム本体に向かっていたので数の上では此の宙域限定でアベンジャーズの方が上回っていたりする。
加えて、アベンジャーズの戦力にはイチカとキラが生まれる過程で誕生した『失敗作』の生き残りも存在しており、イチカやキラと比べれば圧倒的に劣っているが、コーディネーターとしては高い能力を有しておりナチュラルはもとより並のコーディネーターでは凡そ勝つ事は出来ず、連合軍の量産型モビルスーツは次々と撃破されて行ったのだ。


「ククク……どうだ私達は?ナチュラルや並のコーディネーターでは相手にならんぞ!!」

「傭兵崩れ……じゃねぇな?……お前や黒いインパルスのパイロットと同じ奴等か……ったく、処分されずに生き延びた奴多すぎだろ流石に……!!」

「貴様やキラに成る事は出来ずに居た奴等の怒りと恨みを其の身に刻み込め!!」

「お断りだ馬鹿野郎!!運命に抗う事を諦めた奴等に負ける気はねぇ……パーメット8!!」



――バシュゥゥゥン!!



此処でイチカはSEEDを発動すると、バリアブルロッドライフルを薙ぎ払うように発射し多数の105ダガーとウィンダムを撃墜し、バルムンクでファラクトテスタメントに斬りかかる。


「パーメット5!!」


それに対しマドカもファラクトテスタメントのパーメットスコア5を発動してキャリバーンフリーダムのリライド機能をシャットアウトし、トリケロス改でバルムンクの斬撃に対処する。
イチカとマドカがタイマン状況の中、ストライクフリーダムはレジェンドと切り結び、インパルスはデスインパルスと交戦し、デスティニーとインフィニットジャスティスはイチカやキラの成り損ないを撃破していく。
だが其れでも囲まれているだけに連合軍は此の場から動く事が出来ず、レクイエム本体に到達するのが難しくなっていたのも事実であり、混戦によって部隊が分断状態になっているのも良くない事だった。


「えぇい、フリーダムはなにをしている!!」

「なんだよ助けてほしいのか?」

「違うわ馬鹿者ぉ!!」


此の膠着状態にイザークはいら立ちを募らせ、其処にディアッカが毎度お馴染みの煽りとも受け取れる合いの手を入れてるのを見る限り、まだ余裕はあるのかも知れないが、此処でアベンジャーズのアークエンジェル級戦艦が動きを見せた。


「敵戦艦、陽電子砲を展開!」

「!!」


アベンジャーズのアークエンジェル級戦艦は艦首陽電子砲『ローエングリン』を展開し、その照準をアークエンジェルに向けて来たのだ。
エネルギー消費の関係で二門あるローエングリンを同時に放つ事は出来ないが、其れでも陽電子砲は一撃で戦艦を跡形もなく消滅させる事が出来るだけの破壊力があるので決まれば戦局を大きく変える事が出来るだろう。


「今我が艦が動けばエターナルが……!」


喰らえば絶命必至の状況に於いて、しかしマリューは回避を選択しなかった――何故なら、アークエンジェルのすぐ後ろには連合軍の真の旗艦とも言えるエターナルが居たからだ。

エターナルの艦長であるラクスは、ともすればプラント最高評議会のデュランダルを上回るカリスマ性を持っている上にコーディネーターのみならず一部のナチュラルからも絶大な支持を得ているので絶対に失う訳には行かない人物なのだ。
なのでマリューはアークエンジェルをエターナルの盾にする心算だったのだが……


「させるかよぉ!!!」


ローエングリンの陽電子ビームがアークエンジェルに直撃する寸前でネオが操縦するアカツキが割って入り、シールドで陽電子ビームを受け止めて見せた。
それは奇しくも二年前の大戦の最終版であるヤキンドゥーエ攻防戦にてムゥがストライクで捨て身の防御を行った時と同じ状況だった――のだが、其れがネオの脳裏にある映像を蘇らせていた。
陽電子砲をシールドで受け止め、そして崩壊したストライク、ギリギリで一命をとりとめた所をロゴスに回収され記憶を上書きされ『ネオ・ロアノーク』としてファントムペインの隊長となった事……ネオ・ロアノークの真実を此処で知ったのだ。


「(マリュー……!!)」


二年前、ストライクは陽電子砲で破壊されたが、ビームに対して無敵の装甲であるヤタノカガミを搭載したアカツキは破壊されず、流石に反射は出来なかったが陽電子ビームを無効化すると、ビームライフルでローエングリンを撃ち抜き、更にシラヌイのドラグーンを射出してビームを放ち、そのビームをドラグーンのヤタノカガミで反射する事でエネルギーシールドを作り出してアークエンジェルを包み込み、追撃のミサイルやビームを完全シャットアウトして見せたのだ。


「俺は死なない!全部思い出したぜ!!だから、一緒に帰ろうマリュー!」

「ムゥ……はい!!」


全てを思い出したネオ……否、ムゥはマリューにそう告げると、双刃式のビームサーベルを手にし、ドラグーンの多角的攻撃と近接戦闘の二刀流戦法でアベンジャーズのモビルスーツを落として行く。
エンディミオンの鷹は、此の土壇場で其の翼を取り戻したのだった。


「おとなしく私に殺されろイチカァ!
 私も、アイツ等もお前になれずに死んでいった者達の代弁者だ……お前は幾多の命を犠牲にして誕生した生まれながらの咎人であり、其の罪は己の命で償う以外に方法はない!!」

「知るかボゲェ。
 文句なら俺達を作った奴等に言えってんだ……俺だって望んでこうなった訳じゃないんだからな?……ま、戦闘に特化したコーディネーターって事に関してはこうして軍人としての本分を果たす事が十二分に出来てるからありがてぇけどよ!!
 そんでもって其れが俺の価値だ……テメェの価値は何処にあるんだマドカ?」

「私の価値は、お前を殺した先に存在している!
 お前を殺してこそ、私は私の存在を確立する事が出来る……いや、私だけでなく『イチカ・オリムラ』になれなかった全ての存在が!!」

「その考えが自分で自分を否定してるって事に気付かないかねぇ……って、気付いてるならそもそもこんな事しねぇか……悪いがお前等は俺の敵じゃねぇんだわ――大人しく散っとけ。」


激化する戦いの中、イチカはマドカとドッグファイトを行いながらもエスカッシャンでの多角的攻撃を行いキャリバーンフリーダムに向かって来た105ダガーとウィンダムをあっと言う間に鎧袖一触!
105ダガーとウィンダムのパイロットはイチカになれなかった者達であり、並のコーディネーターとは比べ物にならない程の能力を持っているのだが、完成体であるイチカとは大きな差があり、更に二年前の大戦でキラと共に圧倒的に不利な戦場を駆け抜けて来たイチカとは実戦経験の面では月と鼈なのでマッタクもって勝負にならなかった――一撃でコックピットを撃ち抜いたのは『せめて苦しまずに死なせる』と言う、戦場で出来る最大級の優しさだったのだろう。


「量産機とは言え、こうも簡単に……!
 ククク……だがそうでなくては殺し甲斐もないし面白くもない……今日ここでお前を殺して私は私になる!私はお前を超えるぞイチカァァァァァァ!!」

「寝言は寝て言え、戯言はラリッてから言え……今のままじゃお前が俺を超える事は出来ねぇよ、絶対にな!!」


そして次の瞬間、キャリバーンフリーダムのシェルユニットが眩いばかりの白銀の光を放ち、逆にファラクトテスタメントのシェルユニットは不気味な紫色の光を放った――キャリバーンフリーダムは『スコア8.5』と言うべき状態となり、ファラクトテスタメントは『スコア5.5』と言うべき状態になり、イチカとマドカの戦いは更に激しさを増すのだった。








――――――








同じ頃、インパルスはデスインパルスとの激しい戦いを繰り広げていた。
基本的なスペックには差がないのだが、砲撃仕様のブラストインパルスに対して、デスインパルスはシルエット全部乗せの『パーフェクトインパルス』の状態だったので機動力と近接戦闘能力に於いてはインパルスが少し負ける展開となっていた。


「く……!!」

「キラ・ヤマトは俺が討つ……邪魔をするなぁ!!」


デスインパルスは近接戦闘を仕掛け、ブラストインパルスの主砲であるケルベロスビーム砲ビームブーメランで破壊すると、エクスカリバーでインパルスのコックピットを貫こうとする。
シルエットが破壊された衝撃で機体の体勢が崩れていたインパルスには其れを避ける手段はなく、ルナマリアは死を覚悟したのだが――


「やらせるかぁ!!」


其処にデスティニーが割って入り、パルマフィオキーナでデスインパルスのエクスカリバーを一本破壊したのだった。


「シン!!」

「無事か、ルナ!」

「無事よ、アンタが守ってくれたからね……尤もケルベロスは使い物にならなくなっちゃったからシルエット交換しないとだけど――此の状況だとフォースがベストよね?」

「此の状況ならフォースシルエットだな……だが其れは其れとして、お前よくもルナをやりやがったなぁ!!」


ギリギリでルナマリアを護ったシンだが、ルナマリアが狙われた事に怒り爆発状態となり、其の怒りに呼応するかの如くデスティニーの光の翼は大きく、そして輝きを増し、その姿はまるで展開の戦天使の如しだ。


「ルナを傷付ける奴は、絶対に許さない!!!」

「(キラではないが……何なんだ此の異様な威圧感は……!!)」


デスティニーの登場にデスインパルスのパイロットであるキソは驚きを隠せず、同時にシンのパイロットとしての能力の高さも見抜いた事でシンに興味を持ちキラを討つ前に戦ってみるのも良いと考え、デスティニーと交戦状態になるのだった。

戦闘は激しさを増しているが何れにしても、全ての戦闘が終結するにはまだもう少し時間がかかるだろう――













 To Be Continued