オーブ上空で続く戦闘。
イチカはマドカと、キラはレイと夫々戦っていた。
「ジブリールの確保が最優先だからお前の相手をしてる場合じゃねぇって言っても、お前は退かねぇよな……だったらトコトン相手してやるぜマドカ?如何やらお前は余程俺に殺されたいみたいだからな。」
「私を舐めるなよイチカ!お前は殺す、絶対に!!」
「その機体は……君は一体?」
「キラ・ヤマト……俺はお前の存在を認める訳には行かない!!」
パーメットスコアが5に達したテスタメントにキャリバーンフリーダムの操作奪取『リライド』は通じず、真っ向からの勝負となり、ストライクフリーダムとレジェンドは互いに重力下ではドラグーンが使えないので此方も真っ向からの勝負となっていたのだが、レジェンドは円盤状のプラットフォームに装備されたドラグーンの角度を変えると凄まじい物量のビームを放って来た。
レジェンドは重力下では使えないドラグーンを円盤状のプラットフォームで角度を変える事で固定式のビーム砲として使用出来るようになっていたのだ。
此のビームの雨に晒されたら普通ならば撃墜または大ダメージ確定なのだが、ストライクフリーダムはビームサーベルを抜くとレジェンドのドラグーンから放たれたビームを全て斬り飛ばして見せた。
一流の剣士は相手の目線や銃口の角度から弾丸を見切る事が出来ると言うが、モビルスーツの戦闘に於いては目線は分からず、ドラグーンの攻撃では銃口の角度も分からないのに、其れを全て見切ってビームを切ったキラは流石はスーパーコーディネーターと言ったところだろう。
同じ頃、オーブ軍の指令室に辿り着いたカガリはユウナの胸倉を掴んで締め上げていた。
「私とお前の考えは違う、だが其れでもオーブを思う気持ちは同じだと思っていたのに、ブルーコスモスと手を結んだ末にオーブを危険に晒すとは、如何やら私とお前では根本的にオーブに対する考え方が異なっていたようだなユウナ!!」
カガリの鋭い眼光に射抜かれたユウナは委縮するしかなかった。
『所詮は世間知らずの少女』と侮り、自分ならば如何とでも出来ると思っていたカガリが本気で激高した姿を見て、ユウナは初めてカガリがウナトの『オーブの眠れる獅子』の娘なのだと実感させられていた。
子猫だと思っていた相手は、猫の皮を被った姫獅子だったのだ。
「ち、違うんだカガリ!ぼ、僕はオーブの為を思って……」
「ロゴスの盟主を匿っておきながら何がオーブの為だ!寝言は寝て言え!戯言はラリッテから言え!体重×握力×スピード=破壊力!!歯を食いしばれユウナ!!!」
――バッキィィィ!!
「いってれぼぉ!!」
「お前とウナトは戦闘終了後軍法裁判にかけられる……最低でも無期懲役は免れないと思え!!」
カガリはユウナに渾身の鉄拳を叩き込んで気絶させると兵士にユウナを独房に収監するように命じ、そしてオーブ軍に市民の避難を最優先に行うように命令を下し、オーブ軍の暗部である『黒兎隊』に『ジブリールの確保』と『セイラン家並びに其れに従うモノ達の暗殺』を命じ、クラリッサを隊長とする黒兎隊はオーブの暗部としての任務を遂行するのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE91
『反撃の声~Stimme des Gegenangriffs~』
キャリバーンフリーダムvsテスタメント、ストライクフリーダムvsレジェンドの戦いは互いに一歩も譲らない展開となっていた。
キャリバーンフリーダムのバルムンクとテスタメントのトリケロス改のビームエッジがぶつかり合い激しいスパークを起こした一方で、ストライクフリーダムはレジェンドが放ったビームを全てビームサーベルで斬り飛ばす。
カタナはカタナでセイラン家派のオーブ軍兵士を相手にし、ネオの乗るスカイグラスパーも奮闘していたのだが、スカイグラスパーはモビルスーツとの性能差が影響して被弾し、飛行を続ける事が難しくなってしまった。
「ちぃ……アークエンジェル、入れて貰えるか?」
このままの戦闘継続は不可能と判断したネオはアークエンジェルに着艦許可を求めた――拒否される事を考えなかった訳ではないが、ネオはなんとなく『大丈夫なんじゃないか?』と思ったのだろう。
「スカイグラスパーの着艦準備を!」
其れを聞いたマリューはクルーに着艦準備を言い渡すとネオに着艦許可を通達し、スカイグラスパーは無事にアークエンジェルに収容されたのだった。
其の間も戦闘は続き、セイラン派のオーブ軍のムラサメは次々と撃墜され、その内の数機がユウナが収容された収監所に落下して爆破炎上し、収容されていたユウナは其の爆発に巻き込まれて見事に爆死し遺体は欠片も残らなかった――ロゴスに同調し、オーブを危険に晒した愚者に相応しい末路だったと言えるだろう。
「此れ以上オーブをやらせるか!!」
「さぁて、ラクス様の命令だ!派手に暴れるよお前達!」
「一丁やりますか!!!」
「コイツは中々の大仕事かもな。」
戦場には、此処でアスランのインフィニットジャスティス、更に上空から降下してきた三つのポッドから見慣れぬ三機のモビルスーツが参戦して来た。
此の三機こそ、インフィニットジャスティスとは異なる三機の新型モビルスーツ『ドムトルーパー』だった。
元々はザフトの新型量産機として考えられていたモノだが、グフとのコンペティションに敗れて量産化が見送られた機体データをデュランダルがターミナルに持ち込んでラクスの指示で開発された最新鋭機だ。
其れを駆るのはターミナル内でも屈指のラクスの忠臣である『ヒルダ・ハーケン』、『ヘルベルト・フォン・ラインハルト』、『マーズ・シメオン』の三人組、人呼んで『漆黒の三連星』である。
戦場に降り立ったインフィニットジャスティスと三機のドムトルーパーは、セイラン家派のオーブ軍のムラサメを数機を破壊し、更にインフィニットジャスティスはテスタメントにビームブーメランを投擲し、レジェンドに脚部のグリフィンビームブレードを展開してハイキックを放つ!
テスタメントはトリケロス改のシールドでブーメランを弾き、レジェンドもハイキックをビームシールドで防いだのだが、その行動で生じた刹那の隙を逃すイチカとキラではない。
「ドラグーンは重力下だと使えないのが難点だな!」
「此れで!!」
キャリバーンフリーダムはエスカッシャンでレジェンドのドラグーンを破壊し、ストライクフリーダムは腹部のカリドゥス複相ビーム砲でテスタメントのトリケロス改を破壊する。
ドラグーンを破壊されてもレジェンドにはビームライフルとビームジャベリンがあるので戦闘は可能だが大幅に不利になるのは避けられず、トリケロス改を破壊されたテスタメントは武装のほぼ全てを失った状態なので此れ以上の戦闘は不可能だろう。
「キラ・ヤマト……だが、其れが如何したぁ!!私の狙いは、イチカだけだぁ!道を開けろ雑魚共ぉ!!」
だがテスタメントは、頭部のバルカン砲でムラサメを攻撃して頭部を吹き飛ばすと、ビームライフルとビームサーベルを奪い取り、キャリバーンフリーダムに向かって行ったのだが……
「ガハッ!!」
其の最中にマドカは吐血した……スコア5を超えたデータストームの負荷に身体が悲鳴を上げたのだ。
「テスタメントの動きが止まった……限界が来たのかマドカ……此処は退くのが賢明だな――撤退だマドカ。そんな状態では奴に勝つ事は出来んだろう?
無駄死にする必要はない。次の機会を伺うぞ。」
「はぁ、はぁ……致し方あるまい……だが、此の死の高揚感が私を更に強くする――そして此の死の高揚感を超えた先に私はお前を超える事が出来ると確信している……其の命、今は預けておくぞイチカ!」
此れ以上の戦闘続行は不可能と判断したレイによってアヴェンジャーズは戦場から撤退し、イチカも今の目的はあくまでもジブリールの確保なので深追いはせずに此の場は見逃す形となった。
――――――
一方でセイラン家のシャトル発着場に向かっていたシン達は、セイラン家派の軍人達を蹴散らしてシャトル発着場に辿り着いたのだが、僅かに遅く、ジブリールを乗せたシャトルは発進してしまっていたのだった。
だが、シンは慌てる事無くミネルバに通信を入れるとルナマリアを出撃させるように要請した――自分がデスティニーに戻って出撃するよりも、ルナマリアが出撃した方が早いと判断したのだ。
「ルナマリア・ホーク。インパルス、行くわよ!」
フォースシルエットを装備して出撃したインパルスだが、その右脇にはルナマリア専用のガナーザクウォーリアのオルトロスビーム砲が抱えられていた。
オルトロスビーム砲は本来ならばガナーウィザードのエネルギーパックに接続されており、エネルギーパックの接続がない状態ではインパルスと言えど数発の発射で機体エネルギーが枯渇してしまうのだが、此度の出撃ではインパルスに飛行能力と長距離射程砲撃能力の両方が必要になった時の事を考えて簡易のバッテリーが接続されておりガナーウィザードと同等の砲撃回数が可能となっていた。
「落ちろぉぉぉぉ!!」
ルナマリアはジブリールが乗ったシャトルに向けてオルトロスのビーム砲を放つ。
普通ならばシャトルの速度にモビルスーツなら追い付けると考えるだろうが、宇宙空間ならばいざ知らず、大気圏を突破する為に射出されたシャトルの速度は凡そモビルスーツで追い付けるモノではないので長距離射程砲撃で大気圏を突破する前に落とす以外に方法は無いのだ。
しかし其れだけにモビルスーツとシャトルの距離は大きく開く事となり、僅か1㎜の誤差でも大きなずれとなってしまい、インパルスの砲撃は中々シャトルに命中しない。
「待てやゴラァ!逃がさねぇって言ってんだろオンどりゃぁぁぁぁ!!!!」
「イチカさん!?」
此処にキャリバーンフリーダムがバリアブルロッドライフルに搭載されたクアッドスラスターを全開にしてジブリールのシャトルを捉え、バリアブルロッドライフルと背部のバラエーナー、そして計十機のエスカッシャンのビームを放ったのだが、圧倒的な速度で上昇するシャトルを捉える事は出来ず、結果としてジブリールはまんまとオーブを脱出して宇宙へと逃げおおせたのだった。
「宇宙に逃げたかジブリール……なら、其処が貴様の死に場所だ――地球連合の最高司令者が宇宙で散るってのは、中々に皮肉その他が効いているかもだぜ。」
「イチカさん……若しかしなくてもすっごく悪い顔してません?」
「さて、如何だろうな?」
ジブリールが宇宙へと逃げおおせた事でオーブでの戦闘は終結となり、なおも戦闘を続けるセイラン家派のオーブ軍人は纏めて粛清され、粛清された兵士のムラサメの残骸が落下した先は黒兎隊によって捕らえられたウナトとセイラン家派の人間が拘束されていた場所で、落下の衝撃と直後の爆発によって全員爆死する事になった。
そして其れは同時にオーブ国内からロゴスに同調する勢力が完全に駆逐された事を意味していた。
其の後、ザフトはタリアの、オーブはカガリの命令で兵を退く事になり、ジブリールこそ取り逃す事になったが、ロゴスに対して一定のダメージを与える事が出来たとの事で概ね成功と言えるだろう。
――――――
戦闘終了後、アークエンジェルの甲板ではネオとマリューが向き合っていた。
「まさか、入れて貰えるとは思ってなかった。」
「貴方からの要請を断る……その選択肢が私には無かったのよ……」
「そうかい……俺はネオ・ロアノーク。地球軍第81独立機動群、通称『ファントムペイン』の隊長……だった筈なんだが、なんだか自信なくなっちまった。
アンタはきっと本当の俺を知ってるんだろう……そして俺も多分アンタの事を知ってる――其れこそ、心も身体も全てな……だが俺にはその記憶がない。
なぁ、此処に居ても良いか?自分が何者なのか……俺は其れを知りたいんでね。」
「断る理由がないわ……貴方の思うように行動すればいいんじゃないかしら。」
「……ありがとよ。」
そう言うとネオはマリューを抱きしめ、マリューも其れを受け入れる。
ネオとしての自分に疑問を持ち、本当の自分が何者であるのかを知ろうとしている辺り、ネオの奥底に眠っているであろう『不可能を可能にする男』が目を覚まそうとしているのかもしれない。
そして其れと時を同じくしてオーブの代表首長に返り咲いたカガリと、ジブラルタル基地のデュランダルは地球全土及び全ての宇宙コロニーに向けて『ロゴス撲滅』を宣言し、ミネルバはデュランダルを乗せて宇宙へと向かい、アークエンジェルもまたオーブ国内での情勢が一通り整った後に宇宙に向かう事となったのだった。
尚、アスランはミネルバには戻らずにメイリンと共にアークエンジェルに残る事になった。
だが、ミネルバが宇宙に向かったのと同じタイミングでアヴェンジャーズの部隊もまた宇宙へと飛び立って行った……
――――――
一方で辛くもオーブから逃げ出したジブリールは月の基地にやって来ていた。
オーブを手駒に出来なくなった今、ロゴスの息が掛かった連合の部隊が最後の命綱であり、完全に追い込まれた状況なのだがジブリールの顔には笑みが浮かんでいた。
「私が月に到達すれば状況は打開できる……プラントを此れで焼き払えば全てが終わる……コーディネーター共、これが貴様等に送る葬送曲だ!『レクイエム』を起動しろ!!」
ジブリールは『レクイエム』なる装置の起動を命じ、更に月基地の格納庫には嘗てザフト軍を大苦戦させた『ザムサザー』、『ゲルスゲー』、そして『デストロイ』が多数存在しており、正にロゴスの全戦力を集結させた状態となっていた。
「青き清浄なる世界の為に……コーディネーターは滅びるべきなのだ!!」
どこぞの戦闘民族が聞いたら『バカヤロー!』と言われそうな事を言いながらジブリールは口角を釣り上げ、自らプラントとの最終決戦の火蓋を切って落とす事を決めていた。
静かに、しかし確実に決戦の時は刻一刻と迫っているのだった……
To Be Continued 
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