ジブラルタル基地からプラント本国へと戻ったミネルバ。
ミネルバのクルーはユニウスセブン落下事件で地球に降り立ってから暫くぶりとなるプラントへの帰還となった。


「地球の重力下で長らく暮らしてたからプラントだと身体が軽いぜ。」

「ホントに軽いっすね……今なら走り幅跳びの世界記録も出せる気がしますよ。」

「プラントの重力は地球の半分くらいだから頑張れば20m位イケるかもだな。」


戦争中ではあるが、プラントは厳戒態勢と言う事も無く、市民は日常生活を普通に行っていた――其れが可能だったのは、デュランダルが最新鋭戦艦であるミネルバを地球のザフト軍との連携をさせた事で、連合の目をミネルバに釘付けに出来た事が大きいだろう。
ザフトの最新鋭戦艦をある意味でプラントの平穏の為に囮にしたとも言えるのだが、裏を返せばデュランダルがミネルバに多大な信頼を寄せていたからこその判断とも言えるだろう。


「お姉ちゃん!」

「カンザシちゃん!久しぶりね~~!元気にしてた?」

「うん、私は元気だよ♪お姉ちゃんは?」

「元気に決まってるでしょ?イザークも元気そうね?」

「元気に決まっているだろう!
 軍人は身体が資本だからな、常に万全の状態で居る事は当然の事だ……何よりも指揮官に元気が無くては部隊の士気も上がらんからな?自慢ではないが生まれてこの方風邪一つ引いた事すらないわ!!」

「貴方が風邪を引いた事が無いとなると、『馬鹿は風邪ひかない』ってのは大嘘になるわね♪」


其処ではカタナとカンザシが久しぶりの姉妹の再会を果たすと同時に、イザークも加わり嘗てのクルーゼ隊では日常だった遣り取りが交わされていた。


「お兄ちゃん!」

「マユ?どうして此処に……?」

「スマホにお兄ちゃんが今日帰って来るってメールが入ったんだ。知らない人からだったけど、議長のお友達って事だったから其れなら大丈夫かなって。」

「マユ、危機意識低いって……でもイチカさん、そのメールの送り主って……」

「100%タバネさんだな……まぁ、中々に粋な計らいをしてくれるじゃないかタバネさん?次の戦いまでは、暫し兄妹水入らずの時間を過ごすってのも良いんじゃないか?
 ……マユちゃんにステラを紹介しとかないとだろうからな。」

「其れは、そっすね。」


更に其の場にはシンの妹であるマユもやって来ており、シンは出撃命令があるまでマユと過ごす事になり、ルナマリアとステラも呼んで、マユにステラを紹介する事となった。
マユにステラを紹介した際、『シンの妹?……可愛い、とても』と言ってマユに抱き着いてマユが大慌てとなり、シンとルナマリアでステラをマユから引き剥がす事になったのだが、其れも決戦前の平和な一場面と言えるだろう。
しかし、そんなしばしの平和の裏では着実に決戦の時が近付き、ミネルバにはデュランダルから連合の月基地『ダイダロス基地へ向かうように』との指令が下され、準備を整えたミネルバは一路月のダイダロス基地へと向かうのだった。









機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE92
『闘う者達~Diejenigen, die kämpfen~』









ミネルバがダイダロス基地に向けて出発した直後、イザークも自身が隊長を務める『ジュール隊』を率いてプラントから出発し、何時戦闘が起きても良いように部隊を展開していた。
尚、ジュール隊にも新型量産機であるグフイグナイテッドが配備され、隊長であるスラッシュザクファントムからホワイトにカラーリングされたグフイグナイテッドに乗り換え、副官のディアッカはガナーザクウォーリアからブラックにカラーリングされたブレイズザクファントムに乗り換えている。


「カンザシ、ロゴスの動きは察知できたか?」

「もう少し待って……セキュリティが可成り頑丈だけど突破出来ないレベルじゃない……デュランダル議長公認のカリスマハッカー『岩イルカ』を舐めないで。」

「……どこかで聞いた事のある名だな其れは。」


出撃準備万端のジュール隊だが、其れに加えてカンザシがロゴスのコンピューターへのハッキングを行って情報を引き出していた。
カタナがモビルスーツのパイロットとしてザフトで五本の指に入る実力者ならば、カンザシはオペレーターで五本の指に入る実力者であり、更にハッキングの能力にも長けており、デュランダルからのお墨付きを貰っているくらいなのだ。
そんなカンザシが本気でハッキングすればロゴスの作戦を丸裸にする事位は朝飯前の夜食である。


「此れは……結構最悪かも。」

「カンザシ、連中は何を考えているか分かったのか?」

「分かったけど、これは本当に最悪過ぎる。
 ロゴスはコロニーを利用した偏向ビーム兵器『レクイエム』でプラントの首都であるアプリリウスを狙う心算で居るみたい……ビーム偏向機能を持ったコロニーを破壊しないと、アプリリウスが討たれる、確実に……!!」

「なんだとぉ!?」


そのハッキング結果は『ロゴスがプラントの首都を直接攻撃する』と言うトンデモないモノだった。
筒状のコロニーを使用し、月の裏側からプラントを攻撃できる超長距離高威力ビーム砲『レイクエム』――これこそがロゴスと言うかジブリールの切り札であり、此れでプラントの首都であるアプリリウスを攻撃し、あわよくばデュランダルを抹殺しようと言う所だろう。

其れが現実となったらプラントは壊滅状態になるだろうが、ジュール隊屈指のバックスであるカンザシがハッキングによってジブリールの作戦を明らかにした事によりジュール隊は近隣の部隊に連絡を入れて緊急出動する事となった。


「絶対にプラントを撃たせるな!ジュール隊、イザーク・ジュール。グフ、出るぞ!!」

「ったくなりふり構わなすぎだろ流石に?ジュール隊、ディアッカ・エルスマン。ザク、行くぜ!!」


イザークはホワイトのグフ・イグナイテッドで、ディアッカはブラックのブレイズザクファントムで出撃し、其の二機に続くように次々と戦艦からザクやグフが出撃していく。
その中にはショルダーアーマーをオレンジにカラーリングした嘗ての『ハイネ隊』のザクも含まれていた……ハイネ亡き後も彼のパーソナルカラーであるオレンジのカラーリングを機体の一部に施したままでいるところにハイネがドレだけ隊員から慕われていたかが伺えるだろう。

このザフトの部隊に対し、ロゴス側はダガーL数十機とザムサザーとゲルスゲーを三機ずつ投入し迎撃に当たった。
ストライカーパックを搭載したダガーLならばザフトの量産機とも互角に戦える、ザムサザーとゲルスゲーには陽電子リフレクターがあるので早々やられはしないと思ったのだろうが其れは大きな間違いだった。
確かにストライクをベースとして開発されたダガーLはストライカーパックを搭載する事で其の真価を発揮しどんな戦局にも対応する事が出来るのだが、其れはザフトのザクも同じであり、ザクとダガーLでは機体性能に大きな差がある……ビームライフルとビームトマホークが標準装備となっているザクの方が、ビームライフルとビームサーベルはオプション装備のダガーよりも勝るのである。


「邪魔をするな、選民思考に同調する愚物どもがぁ!!」


其の戦闘で、イザークはグフの電磁ウィップでダガーLを絡め取ると、ハンマー投げの様にぶん回して周囲のダガーLにぶつけて破壊すると、そのままぶん投げてザムサザーを破壊する。
ビーム兵器に対しては無敵とも言える陽電子リフレクターだが、物理攻撃を無効に出来る訳ではなく、ましてやモビルスーツのような巨大な質量をぶつけられたら防御のしようがなかったのだ。


「有効な攻撃だとは思うけどよ、ちょっと無茶苦茶すぎんじゃないのイザーク?」

「此れ位の事ならば、イチカは普通にするだろうが!
 奴の戦い方を見て、俺は戦場に無茶苦茶と言う言葉は無いと知った!戦場では何でもアリだ、本当の意味でな!!」

「イチカの影響かよ……アイツとキラはマジで別格だよなぁ?……それとタメ張ってるアスランも大分ぶっ飛んでる気がするけどな。」


更に連合の新型巨大MAは陽電子リフレクターを搭載している事で一見すると鉄壁の防御を誇っているように見えるが、その実本体の装甲は通常装甲である上に並のモビルスーツの装甲よりも薄く、近接戦闘には極めて弱いと言う弱点も明らかになっている以上撃破は容易で、ザムサザーの一機をイザークのグフがビームブレードで斬り付ければ、追撃にディアッカのザクがビームトマホークで斬り付け、トドメにグレネードを投擲してザムサザーは爆発四散!

更に此の戦闘に乗じてガナーウィザードを搭載したザクがビーム偏向機構を持ったコロニーの一つを超長距離砲撃で破壊し、其れに続いて更に二つの中継地点が破壊され、アプリリウスが被害を受ける事はなくなった。


「アプリリウスを狙う事は出来なくなったが……だが、其れでもプラントに大ダメージを与える事は出来る――レクイエム、発射!!」


しかし其れでもジブリールはレイクエムの発射を断行し。その結果としてイザーク達の奮闘もあってアプリリウスは撃たれなかったモノの、複数のコロニーが破壊され、此の攻撃で命を落とした非戦闘員であるコーディネーターは嘗ての『血のバレンタイン』での犠牲者を上回る事になったのだ。


「罪なき無辜の人々すら君は殺すのかジブリール……だが、君がそう来るのであれば此方とて最早容赦はしない。
 私としては平和に事を済ませたかったのだが、其れを拒否するのならば致し方あるまい……自らの行いが招いた結果と悔いるが良い。今日が君の命日だジブリール。」


戦闘自体はロゴスの戦力を退けた事でプラント側が優勢となったのだが、レクイエムの発射で首都のアプリリウスこそ無事だったモノの、射線上に存在していた複数のプラントが壊滅し、そしてその多くが軍事産業とは無関係のコロニーだったのだ。
先の大戦におけるユニウスセブンへの核攻撃も一般市民を虐殺した行為だったが、今回のレクイエムの一撃は其れを上回る大量虐殺であり、其れ故にデュランダルはロゴスの盟主であるジブリールの抹殺を決意したのだが……対話で解決できれば其れに越した事はないのだが、そもそも相手に対話の意思がなく、こちらを殲滅する意思しかないのであれば、生き残るためには戦う以外に方法は無いのだから。


「ジュール隊にミネルバに合流するように伝えろ。プラントの最高戦力を集結してロゴスを討つ。」

「了解いたしました。」


デュランダルはジュール隊をミネルバと合流するように言うと、ミーアに『ロゴスを討つまでは身を隠した方が良い』と言い、ミーアは暫しアプリリウスとは異なるコロニーにあるデュランダル夫妻の別荘にて過ごす事になった。
勿論護衛の方もぬかりなく、デュランダルの警護を務めているシークレットサービスが護衛に当たっているので仮にロゴスの刺客がミーアを狙って来たとしても問題はないだろう。








――――――








プラントがロゴスによる攻撃を受け、多くの市民が犠牲になった事はタバネの情報操作もあって瞬く間に世界中に広がり、一部の『反コーディネーター』の思想を持つ人々を除いて、世界中でロゴスへの非難、抗議が沸き起こり、ハッカーによってロゴスを媒体とするブルーコスモスのメンバーの顔と名前と住所が特定されてネット上に晒され、其処に人々が押しかけて時には警察沙汰になる事態にまで発展していた。

勿論此の事はオーブにも伝わっており、カガリはアークエンジェルとクサナギ、ツクヨミ、計三隻の戦艦を宇宙に向かわせる事を決めたのだが、カガリ自身はセイラン家が好き勝手やってくれた国内の安定を行わねばならないのでオーブ国内に留まる事にしていた。

カガリが行かないとなればアカツキが空位となってしまうのだが……


「ロアノーク大佐、貴方にアカツキを託したい。」

「アンタ、本気で言ってるのか其れ?
 俺がコイツを持ち逃げするとか考えないのかよ?」


カガリはネオにアカツキを託そうとしていた。
普通に考えれば連合の特別部隊の隊長を務めていた人間にオーブの最新鋭機を託すなどと言うのは正気の沙汰ではなく、ネオ自身が言っているように機体を持ち逃げされる可能性もあるので絶対に有り得ない事だろう。


「微塵も考えないな。
 貴方は覚えていないだろうが、私達は嘗て共に戦った仲間だった……だからこそ、貴方を信じてアカツキを託す事が出来る――何より、不可能を可能にする男にこそ此の機体は相応しいと思うからな。」


真っ直ぐ、そして力強い光を灯した瞳で言い切ったカガリにネオは逆に言葉を詰まらせると同時に、連合での日々が脳裏をよぎっていた。
ファントムペインの隊長として連合の、ロゴスの為に働いていたが、その労を労われる事は一度としてなく、逆に無茶ぶりとも思える命令を何度も何度も命じらえる日常……此れまでは何も疑問に思わなかったが、こうして連合を離れてみると連合が可成りブラックであった事に気付く事が出来たのだ。


「お人好しも此処まで来ると勲章モンだが……其処まで信頼して貰って裏切る程、俺は腐ってない。
 アンタの申し出、有り難く受けさせて貰うぜアスハ代表。拾った命を、俺を信じてくれる人の為に使うってのも悪くないからな。」

「貴方ならそう言ってくれると思った……では、改めてアカツキを頼むぞロアノーク一佐。」


更にカガリはネオを大佐ではなく、オーブ軍で使われている『一佐』と呼び、ネオもキラ達と同様に正式なオーブ軍の一員となった事を示していた。

ネオにアカツキを託したカガリは執務室に戻る途中でメイリンと出会った。


「……アスランの事を頼む。私は一緒に行けないからな……」

「アスハ代表?」

「……お前もアスランの事が好きなんだろ――同じ男性を好きになったからこそアイツの事を頼める。」

「えっと、確かにアスランさんの事は好きですけど、良いんですかアスハ代表?」

「イチカはキラに『一人の女性しか愛していけないと誰が決めた』と言ったそうだが、その逆を言うのならば『複数の女性が一人の男性を愛してはいけないと誰が決めた』ってところだ。」

「なんだか無茶苦茶な理論な気もしますけど……妙に納得してしまった私が居ます。」


カガリはまさかのイチカ理論の逆論を持ち出してメイリンにアスランの事を頼んでいた……近いうち、オーブでは重婚が法律で認められる日が来るのかもしれない。
それはさておき、アークエンジェル、クサナギ、ツクヨミの三隻は出港準備が整った後にマスドライバーで宇宙へと上がり、ターミナルが保有する宇宙コロニーの一つである『スターライト』にてエターナルと合流。
此処でラクスとフレイはエターナルに移り、キラとアスランはアークエンジェルで夫々の専用モビルスーツに乗り込む。

そして――


『進路クリア。ストライクフリーダム、発進どうぞ。』

「キラ・ヤマト。フリーダム、行きます!」

『続いてインフィニットジャスティス、発進どうぞ。』

「アスラン・ザラ。ジャスティス、出る!」


「よーし、ミーティアリフトオフ!」


ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスが発進し、更にエターナルからミーティアがリフトオフされストライクフリーダムとインフィニットジャスティスとドッキングし、自由の翼と正義の剣は最強無敵の殲滅兵器と化したのだ。
そして其れだけでなくクサナギとツクヨミからは多数のムラサメが出撃し、オーブの精鋭軍は一路ロゴスの月基地を目指すのであった。








――――――








月の宙域での激戦の火蓋が斬って落とされようとしていた頃、ミーアはデュランダル夫妻の別荘で過ごしていた。
この別荘の警護にはザフト軍の軍人に負けず劣らずの戦闘能力を持ったデュランダル直属のシークレットサービスが就いているので、万が一ロゴスの兵がミーアを本物のラクスと思って襲撃して来たとしても余裕で返り討ちに出来るだろう。
だからこそデュランダルもミーアを別荘に避難させ、ミーア自身もまさかデュランダル夫妻の別荘を訪れる事が出来るとは思っていなかったので暫しの別荘暮らしを満喫していたのだが――


「な、なんだお前達は!何処から入って来た!止まれ……止まらねば撃つ!!……げはぁ!!」

「な、なんだ?うぼがぁ!!」


突如別荘の外が騒がしくなり、其れはやがて別荘内部にも広がっていき、人の悲鳴や断末魔の叫びのようなモノまで聞こえてくるようになった。


「え?ちょっと、なんなのよ?」

「どうやら賊が現れたようです……ラクス様、中央の本棚の裏に隠し扉がありますので、其処から地下のシェルターにお逃げ下さい!賊は我々が必ず排除いたしますが安全の為に!」

「わ、分かった。」


如何やら別荘が何者かに襲撃され、警護に当たっていたシークレットサービスが応戦しているらしいが、別荘内部に入り込まれたらしい事を考えると一筋縄で行く相手ではないのだろう。
だからこそシークレットサービスの一人がミーアに地下のシェルターに避難するように言い、ミーアも其れに従い隠し扉から地下のシェルターに避難したのだった。


それからドレ位の時間が経っただろうか――ミーアが避難した地下シェルターに近付く足音があった。
ミーアはシークレットサービスが侵入者を排除して迎えに来てくれたモノだと思って内心ホッとしていたのだが、目の前に現れた人物を見て、その安心は一気に絶望の底に叩き落される事になった。


「成程、見分けが付かんほどに瓜二つだ。余程腕の良い整形外科医だったようだなぁ、ラクス・クラインの影武者よ?」

「貴様には本物のラクス・クラインを誘き出すための餌となってもらう。」


ミーアの前に現れたのは返り血を浴びたマドカとレイだった。
マドカもレイも整った容姿だけに返り血による迫力が際立っており、特にマドカの顔には大量のデータストームを受けた証である『発行する赤い痣』が浮かび上がり、ともすれば人非ざる雰囲気をも醸し出していた。

其れにミーアは一瞬怯むも、此処で捕まったら大変な事になると直感し、デュランダルから護身用にと渡されていたスタングレネードを投げようとしたのだが、其れよりもマドカの方が早かった。


「無駄な抵抗はしないで眠れ。」


一瞬でミーアの背後に移動すると延髄に手刀を入れてミーアの意識を刈り取ったのだ。


「恐ろしく速い手刀だ……俺や、イチカ、キラ、アスラン、シンレベルでなければ見逃してしまうだろうな。」

「どこかで聞いた事があるセリフだな其れは。」


こうしてアヴェンジャーズはミーアの身柄を確保し、プラントとオーブの連合軍とロゴスとの決戦の裏で策略を巡らし、最終決戦への準備を密やかに、しかし確実に進めるのであった――!!














 To Be Continued