「ラクスの抹殺に失敗しただけならばまだしも、キラが生きていたとは……しかも新型の、其れもフリーダムの強化機体を使って来たとはな。
 マッタクもって忌々しい……数多の犠牲の上に存在している咎人の分際で生きているとはな……まぁいい。イチカやキラになれなかった者達は存外多かったらしく、生きている奴等は全て此方で回収した。
 其れ等を総動員して奴等を殺す、其れだけだ。」

「奴等は償わねばならないからな……数多の命の犠牲の上に成り立っている自分と言う存在其の物が罪である事に対する償いをな。」


ストライクフリーダムによって壊滅した部隊を改修後、マドカとレイはこんな会話をしていた。
圧倒的な敗北を喫してもなお諦めずイチカとキラを狙う執念には脱帽するが、其の目的を達成する為にマドカとレイはスーパーコーディネーター計画とオリムラ計画で失敗作として生まれ、しかし処分されずに生き残った者達を探し出して仲間としていた――無論、其れを探し出す事に関してはタバネが一枚噛んでいるのだが。


「とは言え、今暫くは動く事は控えた方がよさそうだな?
 俺は行けるがお前が十全でなければ勝つ事は難しい――俺でもキラとイチカの二人を同時に相手にするのは些か厳しいのでな。」

「そうかも知れないが、ザフトがオーブに攻め入った其の時は介入するぞ?
 オーブとザフト、その両方を弱体化した上でロゴスを壊滅する事が出来れば、それが我々にとっての理想の形なのだからな。」

「そしてロゴスを壊滅させたその後で、改めて奴等に宣戦を布告してイチカとキラを葬る……存在其の物が罪であると言う事を其の身に刻み込ませた上で殺してやる……私は、イチカになれずに死んで行った者達の代弁者だ。
 必ず奴に届かせ、そして死を持って償わせる……消えて行った者達の為に、私が私であるために!!」


キラとアスランが生きていた事に驚いたマドカだったが、それでもイチカとキラの抹殺に関しては諦めてはいなかった――スーパーコーディネーター計画とオリムラ計画で犠牲になった者の数は計り知れず、マドカは己を犠牲になった者達の代弁者と称していた。

が、其れは独りよがりの考えであり、自己弁護の自己擁護でしかなかった。

マドカもレイも、自分の出生を理由にして、少し聞いた限りでは尤もらしい理由を挙げてはいるが、その実は其れを理由にしたただの八つ当たりに過ぎないのだ――そして其れはアヴェンジャーズの面々全てに言える事だろう。
先の戦争で連合、ザフト夫々に恨みや怒りを抱いている人は少なくないが、其の全てがアヴェンジャーズの一員となっているかと言えば其れは否――大半の人々は『戦争だったのだから仕方ない』と折り合いをつけて生きている中で、其れが出来なかった者達がマドカとレイに唆されたのだから。


「何よりも最近忌々しい夢を見るので余計に気分が悪い。」

「悪夢か?」

「私にとっては最悪のな……夢の中で私はイチカを兄と呼んで慕っているのだ……奴を兄と呼んで慕うなど、考えただけで吐き気がする。」

「其れは……確かにお前にとってはこの上ない悪夢だな。」


だが其れとは別に、マドカは夢でイチカと仲睦まじく暮らしている光景を目にしていた。
マドカ自身は無自覚ではあるが、深層心理に眠っている前世の記憶が夢と言う形で現れたのかも知れない――とは言え、今のマドカにとっては忌々しい光景でしかないので完全に悪夢でしかなかった訳なのだが。









機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE89
『黄金の意思~Goldener Wille~』









「ヘブンズベースにブルーコスモスの盟主の姿は無かったか……そして君の考えではロゴスの盟主であるロード・ジブリールはオーブに潜伏している可能性が高いと。」

「高いってかほぼ確定ですよ議長。
 タバネさんからセイラン家とジブリールの野郎が繋がってる証拠が送られてきましたからね……セイラン家とジブリールが繋がりを持ったのは一年前って事ですから、セイラン家はオーブを連合に加える事で甘い汁を吸う心算がバリバリだった訳っすよ。」

「やれやれ……なんとも度し難い。
 国を護るために散ったウズミ元代表が聞いたら嘆き悲しむだろう……アスハ代表だったら大激怒は回避不能かな?」

「カガリだったら紫ワカメの顔面にダッシュストレートブチかましてからアッパー喰らわせて、トドメに垂直落下式DDTのコンボ喰らわせてKOすると思います。」

「アスハ代表が垂直落下式DDTを発射OKになったところにアスランがSTOをかます合体技のフジヤマも良いかも知れないわね♪」


ザフトがオーブに攻め込む準備を始める前、イチカとカタナはデュランダルと次にどう動くかを話し合っていた。


「やれやれ、マッタクもって厄介な事になった。
 ロード・ジブリール……ロゴスの盟主たる彼がオーブに潜伏しているとなれば此方としても無視する事は出来ない……アスハ代表がオーブに居ればこんな事にはならなかっただろうが、其れは言っても仕方ない。
 さて、如何したモノか……流石にイキナリ攻め入る事は出来ないから、先ずはオーブにジブリールの身柄を引き渡すように通告するか……其の上でジブリールの身柄を引き渡すのならば其れで良いが、其れを拒むのであればその時は仕方ないかな?」

「其れで良いと思いますよ議長。ミネルバを通じてアークエンジェルに伝えておく必要はあると思いますが。
 作戦を伝えておけばオーブがザフトに攻撃された直後にカガリも動くでしょう……でもってあの紫ワカメは自分が窮地に陥れば其の危機に現れたカガリを疑う事無く本物だと認めるでしょうから、そうなればカガリが代表首長権限で紫ワカメの拘束を将兵達に命じる可能性が高い――そうなればカガリがオーブのトップに返り咲いた事になるから俺達としてもジブリールの拘束に集中する事が出来ますからね。」

「うむ、矢張りその線で行くのがベターな方法か。
 ユウナ・ロマ・セイランが賢い選択をしてくれる事を願うが……其れは望み薄だろうね。」


先ずはオーブに対してジブリールの身柄の引き渡しを要求し、その要求をオーブ……もといセイラン家が呑めば其れで良しだが、そうでない場合はオーブに攻め入る事になるのは当然と言えるだろう。
だが、オーブに攻め入るのもまた作戦の一つに過ぎなかった。
事前にミネルバを通じてアークエンジェルに作戦を伝える事で、ザフトがオーブに攻め入った瞬間にカガリが動けるようにし、窮地に陥ったユウナが自ら墓穴を掘る様に仕向けたのだ。
其の後、ミネルバを旗艦とした部隊が結成され、一路オーブへと向かうのだった。








――――――








ミネルバからの通信で作戦を知ったアークエンジェルでも作戦会議が行われていた。


「ジブリールがオーブに……何を考えているんだユウナは!!」

「セイラン家はロゴスと癒着していた……そう考えるのが妥当でしょうね――ザフトの要求をセイラン家が拒んだ場合はオーブが攻撃される事になるわ。
 そうなった時には介入して欲しいとの事だったけれど……ルージュが無いのが痛いわね?アレが無いとユウナ・ロマにカガリさんが来たと言う事を認識させるのは難しいじゃないかしら?」

「私の声を聴いて都合よく解釈する気もするが、確かにルージュが無いと少しばかり不安ではあるな。」


作戦其の物には同意したモノの、現在のアークエンジェルにはカガリの専用機であるストライクルージュがない事が懸念事項だった。
ムラサメで出撃すると言う選択肢もあるのだが、ストライクルージュがないと最悪の場合ユウナが通信を入れて来たカガリを本物だと認めない可能性があったのだ。


「せめて一目で私が来たと分かる機体があれば良いのだが……」

「その機体だがな……あるぞ。」

「キサカ?」

「オノゴロ島の地下に其れがある。」


ここでカガリの補佐役であるキサカがカガリ用の機体があると言い、一行はオノゴロ島の地下に。
オノゴロ島の地下にはモビルスーツの格納庫が隠されており、更に其の格納庫は三重の扉と言う厳重なセキュリティがなされていた――それだけにオーブにとって相当に重要なモビルスーツが格納されていると考えられるだろう。

そして其処に格納されていたモビルスーツは――


「此れはイチカが使っていたビャクシキ?……いや、形は同じだがこの黄金のモビルスーツは……」


其れは二年前の大戦でイチカが使用していたビャクシキと同じ機体だったが、ビャクシキが白を基調としていたのに対して此のモビルスーツは全身が眩いばかりの金色となっていたのだ。


「ウズミ様がお前に残した遺産だカガリ。」

「お父様が?」

「ウズミ様は平和な世界を望まれていたが、それでもオーブが危機に陥り、お前が戦わねばならなくなった時の為にお前専用のモビルスーツの開発を極秘裏に進めていたんだ。
 ビャクシキはその試作機だ……ビャクシキで得られたデータを最大限反映しつつ新たな技術も総動員して作られたのがこのアカツキだ。」

「アカツキ……」

「因みにアカツキ一機を製造するのに、M1アストレイ二十機分のコストが掛かる。」

「キサカ、其れは別に知りたくなかったぞ。」


其のモビルスーツの名は『アカツキ』。
プロトタイプであるビャクシキで得られたデータを最大限に反映しつつ、最新技術をふんだんに盛り込み、更に『オオワシ』と『シラヌイ』の二種のストライカーパックを換装する事が出来る機体だった。


「お父様……アカツキ、有り難く使わせて頂きます。」


ウズミの先を見越した判断に父の偉大さを感じると共に、カガリはウズミからの愛を感じて涙し、そしてアカツキに乗る事を決意したのだった。








――――――








其れから数時間後、ミネルバを旗艦としたザフトの部隊はオーブを包囲する形で陣形を展開し、その上でデュランダルがジブリールの身柄の引き渡しをオーブ政府に申し入れたのだが……


「ロード・ジブリール氏がオーブに潜伏していると言うのは根拠のない情報であり、事実オーブにジブリール氏は潜伏していない。
 このような事を言われ疑いの目を向けられるのは真に遺憾であり、プラントに対して強く抗議する。」


ユウナは其れを蹴り、あろう事かプラントに対して遺憾の意を示し、更には抗議文まで電信して見せたのだ。
だが其れは最悪の悪手であり、ユウナの声明の後にザフトはミネルバを旗艦とした部隊で一気にオーブに攻め入って来た。


「あの紫ワカメ、マジで無能の極みだったみたいだな……カガリ、出てくるタイミングを間違えるなよ?イチカ・オリムラ、キャリバーン!行くぜ!」

「カタナ・サラシキ。エアリアル、出るわ!」

「シン・アスカ。デスティニー、行きます!」

「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。セイバー、発進する!」

「ステラ・ルーシェ。ガイア、出る!!」


ミネルバからは最新鋭の機体が発進し、他の戦艦からもザクやグフが出撃してオーブに攻め入る。
ルナマリアは『ジブリールがオーブ国外へ脱出しようとした際の最終攻撃手段』としてミネルバに残っていたのだが、格納庫ではインパルスがコアブロック状態ではなくインパルスに合体した状態で待機していたので命令があれば即座に出撃出来るだろう。

一方、オーブでの戦闘は――


「不殺ってのは、案外難しいもんだな?
 マルチロックオンのフルバーストをブチかましても不殺で終わらせるキラがマジでハンパねぇ……最強の機体となると意見が分かれるだろうが、最強のパイロットとなれば其れは間違いなくキラだろうな。」

「其れは否定出来ないわね。」


これはザフトの部隊が圧倒していた。
ムラサメは最高クラスの性能を有している機体だが、其れでもワンオフ機と比べれば機体性能に大きな差がある上に、オーブ軍の一般兵とザフトの赤服では越えられない壁があるので、この結果はある意味で当然と言えるだろう。


「居ないって言ってるのに、何で彼等は撃って来るの!」

「それが嘘だと分かっているからです!」

「でも、二年前は同じ状況でウズミ代表が……」

「あの頃とは情勢が異なります!そんな事も分からないのですが貴方は!!」

「う、煩い!とにかくモビルスーツを向かわせるんだ!!」


ユウナは声明に反して攻撃して来たザフトにいら立ちを見せたが、軍本部の司令官に己のミスを指摘されては国内の立場をもってして命令する以外に出来る事はなかった。
この命令を受けてモビルスーツ隊は出撃して行くモノの、一部のセイラン派の軍人を除いてモチベーションは最低レベルだった為士気は上がらず、次々とイチカ達の不殺戦法で戦闘不能にされて行った。

そんな状況の中オノゴロ島の地下では――


「ユウナ……まさか此処までバカだったとはな。
 だが今こそオーブを取り戻す時だ!」


カガリがオーブの現状を知ってアカツキに乗り込んでいた。
更にムラサメ隊も出撃準備を完了し、アスランもバルトフェルド専用のムラサメに搭乗し出撃準備をする。


『ORB-01アカツキ。発進どうぞ。』

「カガリ・ユラ・アスハ。アカツキ、発進する!!」


そしてオノゴロ島の地下より黄金のモビルスーツが出撃し、ムラサメ隊と共にオーブ本国へと向かう。

其の間も戦闘は行われ、ムラサメは次々と撃墜されて行った――イチカ達は不殺戦法を使っている上に機体の飛行能力は奪っていないのでパイロットは全員無事だが、其れでも被害は甚大だろう。


「圧倒的に負けてる状況なのにまだジブリールを庇うのかねぇあの紫ワカメは……ジブリールとオーブ、どっちが大事だってんだ此のバカやろうが!!」

「どうやら強制的に終わらせるしかないみたいね……」


此の状況に於いてもジブリールの身柄を明け渡そうとしないセイランの態度に業を煮やしたイチカとカタナはSEEDを発動しようとしたのだが――


「オーブ軍、ザフト軍!双方直ちに戦闘を停止せよ!!」


オープンチャンネルで其の場に居た全ての人間に通信が入って来た。


「私はオーブ首長国連邦代表首長のカガリ・ユラ・アスハ!
 オーブ軍よ、直ちに戦闘を停止せよ!またザフト軍にも戦闘行為の停止を要求する!」


其の通信主はカガリだ。
イチカ達は『満を持して来たな。』と言った感じだったが、このカガリの登場に誰よりも歓喜したのは他でもないユウナだ――カガリが戻って来たのならカガリの力でオーブ軍をもっと好きなように動かせると考えたのだろう。
機体はストライクルージュではなくアカツキだが、強烈なインパクトを与える黄金の機体がカガリが乗っていると短絡させたのも大きいだろう。


「カガリィ!待ってたよ!僕の女神!!」

『ユウナ……私を本物のカガリと認めてくれるか?』

「うんうん!勿論じゃないか!」

『そうか……では代表首長の権限を持って命じる。
 将兵達よ、ユウナ・ロマを国家反逆罪で逮捕、拘束せよ!!』


「へ?」


だがそんなユウナに対し、カガリは断罪の一手を打って来た。
代表首長であるカガリの認証も得ずに勝手に連合と協力関係を結び、ジブリールと癒着してオーブ国内に匿って国を危険に晒したのだから国家反逆罪は当然であると言えるだろう。


「そんじゃ失礼しますよ!合わせろコウ!」

「行くぜキラ!」

「「マスク狩りじゃあ!!」」

「ネプチューンマン!」


オーブ軍の将兵によって拘束されたユウナだが、その際にキラ・アスカ一尉とコウ・カンゲン一尉のクロスボンバーを喰らって頚椎に全治一カ月の重傷を負う事になった……だけでなく他の将校からもフルボッコにされていたので、ドレだけユウナがオーブ軍の軍人に嫌われていたかが分かるだろう。
連行されるユウナの顔は原型が分からないレベルでボッコボコにされていたのだから。
また、カガリがオーブの最高権力者に復帰した事を受け得てイチカ達は戦闘行為を停止し、オーブ軍も戦闘行為を停止したのだが――


「はっはっはーー!!此処で第三勢力のアヴェンジャーズの登場だ!さて、如何する!!」

「アレはテスタメント?……来やがったかマドカ……此のバカやろうが!!」


此の局面でマドカ率いるアヴェンジャーズが介入して来た。


「アイツ等は……ドレだけ戦場を混乱させれば気が済むのか――お前達は此処で落としてやる!」


カガリは介入して来たアヴェンジャーズ――マドカのテスタメントに対してビームライフルを放つと、マドカも獰猛な笑みを浮かべて其れに対処し、戦場はザフトvsセイラン派オーブ軍vsアヴェンジャーズの三つ巴の様相を呈するのだった。















 To Be Continued