「連合の暗殺部隊がお前達を?……ストライクは兎も角、フリーダムが最強のモビルスーツである事は知られてても、其のパイロットがお前だって事を知ってるのは今となっては旧三隻同盟の連中だけだからお前が狙いだったとは思えねぇ。
……狙いはラクス、或いは親父さんがブルーコスモスの一員だったフレイか?」
「或いは元ザフト軍の兵士であるバルトフェルド隊長を狙ったかだな。」
キラとカガリと再会したイチカとアスランは、キラ達が暮らしていた孤児院が連合の暗殺部隊に襲撃されたという事を聞いて驚くと同時に、其の目的が何であるのかを推測していた。
フリーダムの圧倒的な強さは連合、ザフト共に認知していたモノの、其のパイロットが誰であるかを知る者は少なく、それを考えるとキラが狙われたとは思えない。
だが、プラントだけでなく地球でも名前と顔が知られているラクスや、父親がブルーコスモスの一員であったフレイは連合でも顔が知られているので、連合の隠密部隊がその所在を調べ上げていてもおかしくはない――バルトフェルドに関しても同様だ。
最も、対象がラクスやバルトフェルドの場合は殺害であり、フレイの場合は拉致となるのだろう――ブルーコスモスの一員の娘となれば利用価値は小さくないのだから。
「イチカもアスランもどっちも違う。
連合の目的は、僕達にプラントへの不信感を抱かせる事にあったんだ。」
「お前達にプラントへの不信感を抱かせる、だと?」
「如何言う事だキラ?」
「僕達を襲撃して来たのはアッシュって言うザフトの水陸両用の最新鋭機だった。
だけどその機体はロールアウト直後に何者かによって盗み出されて連合の手に渡ったんだ……」
「アッシュ……議長が言ってたロールアウト直後に強奪された機体か。
ザフトの最新鋭機がお前達に牙を剥いたとなればお前達がプラントに不信感を抱くのは当然ってな……だが、今のお前とカガリを見る限りプラントに不信感を抱いてるようには見えねぇ。
アッシュの襲撃以外に何がったキラ?」
「……タバネさんに会った。」
キラはイチカとアスランの予測を否定しながらあの日孤児院を襲った相手の詳細を明らかにし、更にはタバネに会った事も暴露してくれたのだが、これに驚いたのはイチカだ。
「お前、タバネさんに会ったのか!?」
「うん会った。
そしてタバネさんが教えてくれたんだ、連合が僕達にプラントへの不信感を抱かせようとしてるって――僕達にプラントへの不信感を抱かせる事でプラントと敵対させようとしてるんだって。」
「最強のアークエンジェルをプラントへの当て馬にしようってか……マジで腐ってやがるな連合は。」
タバネがキラ達の前に現れたというのだから驚くなと言うのが無理なのだが、それでもタバネがキラ達の前に現れたのはそうしてでもキラ達に伝えなければならない事があったのだとイチカは理解していた。
「其れでキラ、アークエンジェルは此れからどうするんだ?」
「ザフトと連合の戦場に介入するよアスラン。」
「同時にオーブ軍に連合からの離脱を私は何度でも呼びかける心算だ……だが、それよりも気になったのは黒いモビルスーツを操っていた奴等だ。
一機はテスタメントだったが、もう一機は……奴等は何者なんだ?」
「テスタメントの操縦者はマドカだ……どうやら生きてたらしい。
アイツ等は言うなれば、おそらく先の大戦の亡霊……其れこそユニウスセブンを落とした連中と似たような奴等だろうさ――マドカ同様、此の世界を受け入れる事が出来なかった馬鹿野郎の集団だ。
こいつ等は其れこそ手加減不要の全殺しだぜ。」
マドカ率いる第三勢力の情報も共有したところでイチカとキラとアスランは拳を合わせて共闘を約束し、其の後アスランはカガリと抱擁した後にイチカとアスランはミネルバに、キラとカガリはアークエンジェルに戻って行った。
「二年振りね?元気してた?」
「ミリアリア、エルスマンとは如何?」
「超絶遠距離恋愛に苦労してる♪」
キラとカガリがアークエンジェルに戻った直後にミリアリアもアークエンジェルのオペレーターとして復帰し、戦場の大天使は先の大戦に負けず劣らずの戦力を確保したのであった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE75
『罪の在処~Wo das Verbrechen liegt~』
イチカとアスランはミネルバに帰還し、艦長のタリアにアークエンジェルの今後の動向を伝えると、タリアは『アークエンジェルが味方であるのならば、これ以上に心強いモノはないわね』と笑みを浮かべていた。
其れは其れとして、イチカとアスランが帰還したミネルバは、シン達が調査に向かった施設を改めて調べるべく当該地区に向かっていた。
此処が破棄された連合の施設と言うだけなら再調査をする事はなかったのだが、シン達が持ち帰った資料に『あるコーディネーターの成長記録』が有ったのを見ると、この施設ではコーディネーターを作る為の技術を流用した研究が行われていた可能性が高いのである。
ミネルバが当該施設がある場所に接岸し、イチカ、カタナ、シン、ルナマリア、ロラン、アスランが改めて施設内の調査に向かった。
「カタナ……大丈夫か?ミネルバに戻って休んでた方が……」
「大丈夫よイチカ……うん、大丈夫。」
カタナも体調が戻ったので調査チームの一員となっていたのだった。
施設内のセキュリティは未だ健在だったのだが、カタナとシンとルナマリアとロランは既に一度見ている罠なので通じず、話を聞いていたイチカとアスランも罠を華麗に回避して研究所の最深部に到達し、其処で新たな資料を入手した。
「此れは……」
「二年前の大戦で出て来た三馬鹿か?」
その資料には先の大戦で現れた連合が生み出した三体の生体CPUのデータが記されていた。
連合はコーディネーターの存在を否定しながらも、コーディネーターを作る技術を流用して強化人間を作っていたのだ――過去に戦闘用コーディネーターを作ろうとして失敗した経験があるだけに、確実に己の手駒となる者を欲したのだろう。
そして資料は其れだけでなく、連合が行って来た非人道的な実験の数々が記されている資料が山ほど見つかったのだ。
「なんだよ此れ……子供を実験台にしてたってのかよ……連合の奴等には人の心ってモノがないのか!!」
コーディネーターの技術を流用した強化人間を開発するための実験には、身寄りのない子供が使われており、実験に使われた子供達はその多くが命を散らす結果となっていた。
其の事実にシンの赤い瞳に怒りの炎が宿って居た。
「気持ちは分かるがブチキレるのは少し待っとけシン。
其の怒りは溜め込んで、今度連合とやる事になった其の時に全開放して連中に目にもの見せてやれ……俺が許可する。次の戦闘では連合の奴等を容赦なくぶった切れ。」
「はい!」
そのシンの怒りの爆発を抑え、次の戦闘に溜め込ませたイチカは流石はシンの師匠兼兄貴分と言ったところだろう――笑みを浮かべて拳を合わせる様はまるで本当の兄弟の様だった。
――――――
その頃、連合の特別部隊『ファントムペイン』の隊長であるネオの元には、廃棄された連合の施設にザフトがやって来たという情報が入って来た。
既に廃棄された施設ではあるが、其処には持ち出されずにそのままになっている資料もあり、その資料には連合にとって表沙汰にしたくないモノもあり、プラントには渡したくないモノもあるので、ネオはステラ、スティング、アウルの三名に迎撃に向かうように指示したのだが、其処で少しばかり問題が発生してしまった。
「おい、落ち着けよアウル。そんなに焦っても良い事はないぜ?」
「此れが落ち着いていられるかよ!あそこには母さんが……母さん?母さん……あぁぁぁぁぁ!!か、母さん……いやだ、いやだぁ!!」
スティングに『落ち着け』と言われたアウルは『母さん』と口にしたのだが、其の瞬間に精神が不安定になってしまった――連合がエクステンデットを管理する為に設定した強制停止コード『ブロックワード』……アウルの其れは『母』だったらしい。
「いやだ、死なないで母さん!」
「死ぬ?……死ぬはいや、怖い!!」
更に二次被害として『死』のワードを聞いたステラが戦闘不能状態になるどころか暴走状態となり本能のままにガイアに乗りこんで当該施設へと向かって行ったのだ――飛行能力のないガイアだが、四つ足のモビルアーマー形態での機動力は相当なモノがあり、あっと言う間に当該施設付近に到着したのだった。
この異常事態に気付いたネオが格納庫に向かうも既にガイアは出撃後であり、ブロックワードの発動で精神が不安定になったアウルをスティングと共に抑える事となりステラの後を追う事は出来なかった。
「モビルスーツ反応?……艦長、ガイアです!ガイアが単騎で此方に向かって来ています!」
「単騎で?一体何の心算かしら?
だけれど本当に単騎で向かって来ているのならばガイアを奪還するチャンスでもあるわ。イチカ、シン、すぐに出撃を!」
ガイアの接近をレーダーでキャッチしたミネルバは、すぐさま艦長のタリアがイチカとシンに出撃命令を下していた。
今回の施設調査でミネルバのモビルスーツパイロットは全員が何時でも出撃出来るように自分のモビルスーツをミネルバ内から外に出しており、出撃命令を受けたイチカとシンは夫々キャリバーンフリーダムとインパルスに乗り込んでガイアを迎撃、奪還する為に向かって行った。
「シン……」
「大丈夫よルナマリアちゃん、シン君は強いし、イチカも一緒だから。
私達は施設内に残っていた膨大な資料を全部ミネルバに積み込んじゃいましょ?……此れだけの資料があれば、今後連合が何をして来るか予測するのも容易くなるでしょうしね。」
「仕方ないとは言え、此の状況で男手が二人も居なくなるのはキツイな……なんなんだ此の段ボールの山は……」
「人力で運ぶのは効率が悪いから、モビルスーツでミネルバに搬入するとしようか?」
「ロラン、お前の意見に賛成だ。」
残ったアスラン達は施設内で入手した資料をミネルバに搬入する事に。
モビルスーツを使えばあっと言う間だったが、それでも入手した資料は紙媒体、USBメモリ、破損したパソコンなど諸々合わせて段ボール箱三十個以上になったというのだから驚きだろう。
逆に言えば其の数は其のまま連合の非道な実験がドレだけ行われて来たのかの証明な訳だが。
一方でイチカとシンは施設に向かって来ているガイアと接敵していた。
「地上での機動力はガイアの方が上だが、制空権はこっちにある。
ガイアのジャンプじゃギリギリ届かない高度を保って攻撃する――但しコックピットには当てるなよ?パイロットは捕虜にして色々と情報を得る事が出来るだろうからな。」
「はい!」
ガイアは『セカンドステージシリーズ』の一機として開発され、地上戦に特化した性能になっており人型と獣型を使い分ける事で地上戦に於いては無類の強さを発揮してくれるのだが、致命的な弱点として単独での飛行能力を有していないのだ。
ザフトで運用する場合は飛行支援機である『グゥル』を使う事を想定してたのだが、連合にはその手の飛行支援機はないので、ガイアは重力下では地上戦しか行う事が出来ないのだ。
「さてと、返してもらうぜガイアを!」
キャリバーンフリーダムのクリスタル状のユニット、『シェルユニット』が赤い光を放つと同時に、エスカッシャンを射出し、立体的なビーム攻撃でガイアを翻弄し、更にバリアブルロッドライフルの高出力ビームを放ってガイアを追い詰めて行く。
モビルアーマー形態の機動力を活かして其の攻撃をギリギリで回避しているガイアだが、生憎と相手はキャリバーンフリーダムだけではない。
「イチカさんに気を取られて隙だらけなんだよぉ!!」
「!!」
ギリギリの回避を続け、最後の回避でジャンプした先にはコンバットナイフを装備したインパルスが待ち構えており、カウンター気味にコンバットナイフをガイアの両肩の関節部に突き立てる……PS装甲には無力のコンバットナイフだが、PS化されてない関節部には有効なのだ。
此の攻撃で両肩の電源ケーブルが切断されたガイアは両腕が使えなくなったのだが、此処でシンはダメ押しとばかりに某黒のカリスマが百点満点の評価を下すであろうケンカキックをブチかましてガイアを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたガイアは岩場に激突し、其の衝撃で機体エネルギーが尽きてPSダウン状態に……こうなってしまってはもうどんな抵抗も出来ないだろう。
「取り敢えずガイアの奪還成功だな?……あとはパイロットの確保だ。
PSダウンを起こすほどの衝撃が加わったとなればパイロットは失神してるかもしれないが、細心の注意は怠るなよシン?」
「分かってますよイチカさん。『勝ちを確信した其の瞬間にそいつは負けている』ですよね?」
「そうだ。ジョセフ・ジョースターは偉大なセリフを残してくれたぜ。」
ガイアが行動不能になったのを確認したイチカとシンは、ガイアのパイロットをコックピットから引き摺り出すべく機体から降りて行動不能になったガイアに登ってコックピットまで移動し……
「どぉぉっせぇぇぇぇい!!」
「モビルスーツのコックピットって、外部から人力で開けられるモノでしたっけ?」
イチカがガイアのコックピットを外から強引に、それこそ力任せにこじ開けてパイロットを確保しようとしていた……尚、モビルスーツのコックピットハッチは一流のプロレスラーやスモウレスラーであっても簡単に開ける事は出来ないモノである事を考えると、イチカの異常性が分かるだろう。
「……え?……この子が、ガイアの……?」
其れは其れとして、コックピットに座っていたパイロットの姿を見てシンは愕然としていた……ガイアを操縦していたのは、先の休日にてルナマリアと共に海に落ちた所を救出した少女、ステラだったのだから。
「ステラ……!」
マッタクもって予想していなかった再会。
しかし、此の再会が今後の戦局に決して小さくない影響を与える事になるとは、この時は誰も想像していなかったのであった。
To Be Continued 
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