ダーダネルスでの一戦で主砲を破壊されたミネルバは、次の寄港地であるマルハラ海の港に入港して補給を行っていた。
同時に此の場所で、回収されたハイネのグフの残骸もミネルバから降ろされていた……グフの残骸は回収されたが、パイロットであったハイネの遺体は其処にはない。撃墜されたモビルスーツのパイロットは遺体すら残らない事の方が多いのだ。
「クッソ!なんなんだよアイツ等は!
アイツ等が現れなかったらミネルバは傷付かなかったしハイネだって死なずに済んだ……特にあの赤黒いモビルスーツ!見境なく手当たり次第に……!」
そんな中怒りを顕わにしたのはシンだ。
マドカ達の介入でミネルバは破損し、マドカの暴走によってハイネが戦場に散る事になった……何が目的であるのかは分からないが、いたずらに戦場を掻き乱し、仲間を死に追いやった相手に怒りを抑える事が出来ないようだ。
「そう言えばアレの相手をしてたのはイチカさんでしたよね?どうして倒さなかったんですか!!」
「……敵は殺す、其れが俺のやり方なのは間違いない。
アイツは二年前のヤキンドゥーエ攻防戦で生死不明になった奴だった……生きてたのなら大人しく平和に過ごしてりゃいいモノを、俺を殺す為だけに戦場に戻って来やがったんだ。
其れに心底呆れて、殺す価値もない敵未満だと判断して少しばかり煽ってやったらブチキレて見境なくなっちまった。
そんな未熟なメンタルじゃ戦場では勝手に死ぬ、そう判断したのが間違いだったよ……その俺の認識の甘さがハイネを死なせちまった訳だからな。」
シンはイチカがマドカを倒さなかった理由を聞いて来たが、イチカは隠す事なく其れに答え、少しばかり自嘲的な笑みを浮かべていた――自分のせいで仲間を死なせてしまったという事を悔いているようにも見えた。
「次に戦場で会った其の時は容赦しねぇ。
だが、ハイネが死んだの俺のせいでもあるからな……アスラン、一発俺の事殴ってくれ手加減なしでな。」
「普通なら断るところだが、そうでもしないとお前は納得出来ないんだろう?なら、やらせて貰うさ……歯を食いしばれイチカ!!」
――バッキィィィ!!
そんなイチカにアスランの鉄拳が炸裂!
イチカは倒れる事はなかったが少しばかり後退し、そして口元から流れてきた血を手の甲で拭うと不敵な笑みを浮かべる。
「サンキュ―アスラン……此れで完全に目が覚めたぜ。
実力差なんてもんは如何でも良い……今度会った其の時は、落としてやるぜマドカ……!!」
「……カタナさん、イチカさんの背後に赤い髪を逆立てて黒い胴着を着て背中に『天』って入った人が見えるんすけど。」
「拳を極めし者を宿すとは流石ねイチカ。」
その姿は闘争本能を剥き出しにした野獣其の物であり、同時にイチカが内に秘める凶暴性を解放した証でもあった――『最強のコーディネーター』を目指して作られたイチカは戦闘に係わる事に関しては誰よりも気分が高揚するという事なのだろう。
そして一行は現地に設けられたハイネの地球墓地(プラントには後に正式な墓地が建設される予定)を訪れて手を合わせ、ハイネの冥福を祈るのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE74
『交わる視線~Sich kreuzende Blicke~』
補給&修理中のミネルバのブリッジには艦長のタリアとFAITHのアスラン、そしてイチカが居た。他のミネルバクルーは夫々の部屋で待機である。
「今回の戦闘は予想外の事が多かったわ……連合でもプラントでもない謎の第三勢力に、アークエンジェルとフリーダム――少なくともアークエンジェルとフリーダムは此方に味方してくれるみたいだけれど、問題は謎の第三勢力ね。」
「第三勢力がどの程度のモノかは分からないですけど、奴等を扇動してるのはマドカなのは間違いないと思いますよ艦長。」
「マドカ?貴方の知り合いなのかしらイチカ?」
「知り合いというか何というか……艦長も俺の出自は御存知でしょう?
マドカは最強のコーディネーターの成功例である俺に何かあった時の為にドナーとして生み出された俺のクローンなんですよ……何処を如何やってそうなったのか、俺は男でマドカは女ですけどね。」
「貴方のドナーとして……彼女は自分の出生と自分の存在理由を知って貴方に一方的な恨みを抱いているのかしらね?」
「ほぼ確実にそうでしょうね。
先の大戦にもクルーゼの野郎と一緒に色々とやってくれましたが……どうやら今回も大人しく平和に過ごす気は無いみたいですよ――今後、アイツが戦場に現れたら俺が相手をします。
構いませんよね?」
「えぇ、問題ないわ。
謎の第三勢力についてはマダマダ情報が足りないからその都度対処するとして、今一番知りたいのはアークエンジェルの意思だわ。
此方に味方してくれると言うのであれば議長が掲げる『真なる平和』に同調してくれているのだとは思うのだけれど、何故このタイミングで来たのか、オーブは如何するのか、その辺りの事を知りたいところね。」
マドカ率いる第三勢力『アベンジャー』の動向は予測出来ないが、戦場に現れた其の時はイチカがマドカの相手をする事が決まり、続いてアークエンジェルの動向が上がった。
先刻の戦闘で味方である事は分かったのだが、此のタイミングでの登場とオーブは如何なるのかがタリアは気になっているようだった。
「なら俺が彼等と直接会って話を聞いてきます。」
此処で口を開いたのはアスランだ。
アスランとしてもキラが戦場に戻って来た理由を知りたい事もあったので、此の状況はある意味『渡りに船』と言えるモノだった――更に言えば、久しぶりにカガリに会えるとの期待もあったのかも知れないが。
「其れは、FAITHとしての判断と言う事かしら?」
「……はい。」
「ならば私から何か言う事はないわ。」
「艦長からは何も言う事はないって事だが、俺も一緒に行かせて貰うぜアスラン。」
「イチカ?いや、俺一人で大丈夫なんだが……」
「俺も久しぶりにキラ達に会いたいんだよ。今後の事も相談したいしな。」
タリアはアスランがアークエンジェルのメンバーとコンタクトを取るのを了承し、イチカも其れに同行する事になったのだった。
―――――――
同じ頃、カタナ、シン、ルナマリア、ロランの四名は副艦長であるアーサー・トラインに呼び出されて副艦長室に集まっていた。
其処でカタナ達は、アーサーより廃棄された連合の研究施設の調査を命じられた。
「こんな廃墟、調べる価値があるんですか?」
「何もなさそうですけど……調査命令が出たって事は、無視出来るモノじゃないって事ですよね?」
「あぁ、詳細は不明だが、此処で連合がなにかしらの研究を行っていた事は間違いない――流石に廃棄されてから時間が経っているし、何かしらの資料が残っていれば御の字と言ったところではあるけれどね。」
其の研究所で何の研究が行われていたかは不明だが、何かしらの資料が手に入れば此れから先の戦いに於いてプラントにとって優位に働くモノがあるかも知れないので調査する価値は充分にあるのだ。
「了解しました。
カタナ・サラシキ以下四名、当該施設に向かいます。」
「あぁ、よろしく頼む。」
こうしてカタナ、ロラン、シン、ルナマリアの四名は連合の研究施設に向かって行った。
目的地が廃棄された研究施設だった事もあり、道中は連合の部隊と遭遇する事も無く、当該施設にエアリアルジャスティス、インパルス、ブレイズザクファントム、ガナーザクウォーリアが降り立ち、カタナ達は機体を降りて施設内へと進んで行った。
「完全な廃墟だけれど施設内の照明が点滅してるのを見る限り、まだ電源は生きてるみたいね――となると侵入者対策のセキュリティも生きている可能性があるから慎重に行きましょう。」
「了解です。」
そう言った矢先……
――カチッ
「「「「え?」」」」
誰が踏んでしまったかは分からないが、床の隠しスイッチを踏んでしまったらしく、次の瞬間――
――ドドドドドド!!
「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」
槍の雨が降り……
――バッシューン!
「「「「どぉっせい!!」」」」
頭上をビームカッターが超速で通り過ぎ……
――汚物は、消毒だぁ~~~!!
「「「「汚物はお前だぁぁ!!」」」」」
「ベジータ!!」
火炎放射器を持って現れた世紀末モヒカンに全員で渾身のケンカキックをブチかましてKOした。――尚、この世紀末モヒカンはAI搭載型の警備ロボットであった。
こうして多少の障害はあったモノの一行は施設の奥へと進む事が出来て、其処で何か有益な情報はないかと探していたのだが、其処でカタナは一冊のファイルを見付けた。
其処にはコーディネーターの成長記録を思わせる記録が示されていたのだが……
「う……く……あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「カタナ!?」
「「カタナさん!?」」
それを見たカタナが突如苦しみ始めて其の場に膝をついて俯いてしまった――其の額には大量の汗が浮かんでおり、誰が見ても体調を崩しているのが丸分かりの状態だった。
カタナの状態を見たロランは『此れ以上の調査は不可能』と判断し、一行はカタナが発見した資料だけを持って施設を後にした――カタナが機体を操縦出来る状態ではなかったので、エアリアルジャスティスはインパルスが牽引する形にはなったが。
「(アレは生まれたばかりの私だった……そして其れを見ていたのはお母様とは違う女性……金髪の幼女……彼女は一体……?
そして、私もまたタダのコーディネーターではなさそうね……私も並のコーディネーターを超えたコーディネーターと言う事なの……?)」
そんな中でカタナはぼんやりと自分がどんな存在であるのかを想像するのだった。
――――――
ミネルバを発ったイチカとアスランはアークエンジェルの情報を得るべく、とある街にやって来て現地で聞き取り調査を行ったのだが……現時点では有益な情報を得る事は出来ないでいた。
「イチカ、お前キラの連絡先知らないか?」
「知ってたらとっくに連絡してるっての。
そもそもにして知るも知らないも、キラって前の大戦後にスマホ解約してるから連絡のしようがねぇのよ……つまり俺達キラの居場所が分からん戦隊!!」
「なんとか連絡を取る方法を考えないとな……カフェで一息入れるか。」
「賛成。」
イチカとアスランは一息入れようと近くのカフェに向かったのだが……
「ん?アレは、ミリアリア?」
「え、イチカ?其れに、アスラン?」
その道中で偶然にも懐かしい仲間と再会した。
其の相手はミリアリア――先の大戦でアークエンジェルのオペレーターを務め、ディアッカと恋仲となり、現在は戦場ジャーナリストとして世界中を飛び回っている人物だった。
互いに全く予想していなかった再会だったのだが、久しぶりに会ったという事でミリアリアも交えてイチカ達はカフェで一息だ。
「戦場ジャーナリストって事は、此の前の戦闘も?」
「えぇ、遠巻きにだけれどカメラで撮影していたわ。」
「逞しい事で……まぁ、其れは良いけどディアッカに連絡してやれよ?アイツ、お前からの連絡がない事にダイブ凹んでたからな。」
「地球とプラントじゃ中々スマホの電波繋がらないのよ。」
「……宇宙規模の遠距離恋愛は相当に難しいなオイ!
……時にミリアリア、お前アークエンジェルとの通信手段って持ってる?俺とアスランはアークエンジェルとコンタクトを取りたいんだけどその手段がないから少し困ってるんだわ。」
「イチカ……本当は早々使うモノじゃないんだけど、貴方なら信用出来るからアークエンジェルとのコンタクトを取ってあげる――私専用の秘匿コード、如何して私はこんなものを託されたのやらだわ。」
「信頼されてるって事だろ。」
そのカフェで少し雑談した後に、ミリアリアが先の大戦後に得たアークエンジェルとの秘匿回線を使ってアークエンジェルに『白き戦士と赤の騎士が自由の翼とオーブの姫君を待っています』とのメッセージを送り、それを受けたアークエンジェルはキラとカガリをメッセージに記されていた町へと向かわせたのであった。
――――――
夕暮れの浜辺にはミリアリアが運転する車が停まっており、砂浜にはキラとカガリの姿があった。
アークエンジェルに連絡を入れた後、ミリアリアは港に向かい、其処でアークエンジェルと落ち合いキラとカガリを車に乗せて此の場所までやって来たのだ。
――ヒィィィン……シュゴ~~~!!
続いて其処に現れたのはキャリバーンフリーダムとセイバー……イチカとアスランはミネルバから自身のモビルスーツを使ってこの街までやって来ていたのである。
無論戦闘ではないのでパイロットスーツではなく私服での運転であるが。
「よう、こうして顔合わせんのは二年振りだな相棒?……元気そうで安心したぜ。」
「イチカも元気そうだね。……その機体はフリーダム、なのかな?」
「キャリバーンフリーダム。色んな新技術が使われてるらしいが詳しい事は俺も分からん。そもそも設計者はタバネさんらしいしな。」
「成程。」
「お前、プラントに行くと言ったっきり連絡が取れなくなったと思ったらまさかザフトに復隊してるとは思わなかったぞ!?」
「スマナイ。
真っ先に伝えようと思ってオーブに向かったんだが、既に君はいなくなってたらしくてな……ザフトのモビルスーツって事でスクランブル掛けられたよ。」
「お前にスクランブルを……命じたのはユウナだな?
ふふふ、私の恋人にスクランブル掛けさせるとは良い度胸だなユウナ……もう一発殴る心算ではいたが其れだけでは足りんな?男としての選手生命を終わらせてやろうか……!」
久々の再会は少しばかりカオスな様相を呈していた。
「さてと、本題と行こうぜ。
此の前の戦闘でアークエンジェルは少なくとも俺達の敵じゃないって事は分かったんだが、俺達としてはアークエンジェルが何を目的として動いてるのかを知りてぇんだわ。」
「どんなスタンスで居るのか、それが分かればミネルバも協力出来るところがあれば協力するしな。」
「僕達の目的は大きく分けて三つだね。
戦争を終わらせて平和な世界を作る、オーブ軍を戦場から撤退させる、そして連合――と言うよりはブルーコスモスの壊滅だ。」
「平和な世界の実現とオーブ軍の撤退は分かるんだがブルーコスモスの壊滅と来たか……お前の口からそんな事が出て来るのは意外だったぜキラ?」
「確かにイチカの言うようにお前がそんな事を言うとは思わなかった……キラ、何があった?」
アークエンジェルの目的を聞くと、平和な世界の構築とオーブ軍の戦場からの撤退に加え、ブルーコスモスの壊滅と言う事がキラの口から発せられた。
平和な世界の構築とブルーコスモスの壊滅はプラントも目指している事なので協力する事は出来るだろうが、イチカもアスランもキラの口からブルーコスモスの壊滅と言う言葉が出て来たのが意外ではあった。
キラの性格的に戦争を終わらせたいという意思はあっても極力人を殺したくないので、そんなキラから『壊滅』と言う極めて破壊的な言葉が飛び出すとは思わなかったので何があったのかを聞いたのだ。
「襲われたんだ、僕達が暮らしていた孤児院が、連合の暗殺部隊に。」
「「……!?」」
「フレイとラクスも危険な目に遭ったし、何よりも平和に暮らしていただけの子供達まで下手したら殺されていたかもしれないんだ……自分達の目的を達成するためなら人の命を簡単に奪うような連中を黙って見てられるほど僕はお人よしじゃない。」
キラから返ってきた答えにイチカとアスランは思わず言葉を失った。
連合が目的の為ならば手段を選ばないのは先の大戦で分かっていた事だが、まさか民間人を、それも子供を巻き込むというあまりの外道さに驚きを隠せなかったのであった。
To Be Continued 
おまけの小ネタ。
もしもSDガンダムバトルオペレーションにカタナがいたら
グラディエーターの場合
アムロ(ガンダム)
アムロ「黒いモビルスーツ……ガンダム、なのか?」
カタナ「OSの頭文字並べたらガンダムになるわね。」
シャア(ザク)
シャア「ふむ、中々の手練れと見た。」
カタナ「え、議長?」
アムロ(νガンダム)
アムロ「援護する。君は思い切り突っ込め!」
カタナ「それじゃあいっくわよ~~!」
シャア(サザビー)
シャア「巨大な刀剣を装備するか……古代の剣闘士を連想させる。」
カタナ「グラディエーターの名は伊達じゃないわよ。」
イザーク
カタナ「イザーク、カンザシちゃんが今度のデートはアニメ映画行きたいって言ってたわよ?」
イザーク「ではチケットを抑えんとな……って、今はそんな話をしている場合ではないわ!!」」
ディアッカ
カタナ「砲撃の支援任せたわディアッカ!」
ディアッカ「任されたぜ!」
刹那(ダブルオーライザー)
刹那「俺が、俺達がガンダムだ!」
カタナ「人間辞めてガンダムになるって事?」
エアリアルジャスティスの場合
アムロ(ガンダム)
アムロ「その姿、まるで悪魔だな?」
カタナ「悪魔……否定はできないわね。」
シャア(ザク)
シャア「これはまた、なんとも強そうなモビルスーツだ。」
カタナ「議長、その仮面やめません?」
アムロ(νガンダム)
アムロ「自立稼働できて着脱可能なバックパック……凄い技術だな?」
カタナ「不可能を可能にする女、その名はタバネ・シノノノ!」
シャア(サザビー)
シャア「人は何故戦うのか……君は如何考える?」
カタナ「現状に満足出来ないから、今以上のモノを求めて戦うのかも知れないわね。」
グラハム
グラハム「自らガンダムに乗り、そしてガンダムと共に戦える……ガンダムに心を奪われた私にとってこれ以上の幸福はない!」
カタナ「あらあら、私が言う事でもないけど大分ぶっ飛んでいるみたいね此の人。」
スレッタ
スレッタ「くくくく、黒いエアリアルぅ!?ななな、なんでそんなモノがあるんですかぁ!?」
カタナ「気持ちは分かるけど少し落ち着きなさいな……可愛いわね。」
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