艦首陽電子砲『タンホイザー』を突如乱入して来た黒いインパルスに破壊され、混沌とした戦場にてムラサメにブリッジをロックオンされ、絶体絶命の窮地に陥ったミネルバを救ったのは先の大戦にて多大な戦果を挙げ、伝説的存在となった宇宙最強のモビルスーツ、フリーダムだった。


「フ、フリーダム!?先の大戦で大破した筈じゃ……」

「密かに回収され、レストアされていたという事でしょうね。(……ギルバート、後でキッチリ説明して貰うわよ。)」

『此方はフリーダム。ミネルバ、援護します。』

「貴方達は味方、と認識して良いのかしら?」

『そう思って頂いて構いませんわグラディス艦長。』

「貴女は……矢張りそうだったのね。」


キラからの通信の後に、タリアの問いに答える形で応答した人物がミネルバのブリッジのモニターに映し出されると、タリアは何処か納得した様子だった。
モニターに映し出されたのは、オーブに立ち寄った際にミネルバの整備を行ってくれた技術者の一人、『マリア・べルネス』であり、其の正体は先の大戦でアークエンジェルの艦長を務めていた『マリュー・ラミアス』その人だったのだから。

更に、其の通信の直後、上空からアークエンジェルが急降下してミネルバに並び、更にアークエンジェルからはカガリが乗るストライクルージュが新ストライカーパックの『オオトリ』を装備して出撃していた。


「オーブ軍に告ぐ。
 私はオーブ首長国連邦の代表首長、カガリ・ユラ・アスハ――代表首長として命じる。オーブ軍よ、今すぐ部隊を全軍撤収させてオーブに戻れ!」


若干十八歳のカガリだが、養父であるウズミの後を継いでオーブの代表首長になったのは親の七光りではなく、先の大戦を生き抜いたカガリだからこその迫力があった。
これにはユウナでも若干気圧されてしまった位なのだ。


「フリーダムにストライクルージュ……キラとカガリか!」

「ミネルバの絶体絶命のピンチに駆けつけるとか、相変わらず美味しいとこ持ってくなキラ?……だが、嫌いじゃないぜ其の登場の仕方はよ。」


この突然の援軍にアスランは驚き、イチカは口元に笑みを浮かべ……


「イチカにキラ・ヤマト、役者は揃ったな……此処からが本番だ!!」


マドカは冷徹な笑みを浮かべて、戦争の本番を口にするのだった。












機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE73
『戦火の蔭~In the Shadow of War~』










カガリからの通信を受けたオーブ軍は当然のように混乱し、戦場で棒立ちになるM-1やムラサメも少なくなく、動きを止めた機体は次々とイチカ達によって撃墜されていた。


『ユウナ殿、これは一体如何言う事かな?其方の部隊にはオーブの精鋭が揃っているのではなかったかな?であるのならば、何故アークエンジェルが?』

「これは、その……か、彼女はカガリじゃない!カガリの名を騙る偽物だ!!」


此の状況でネオから圧力をかけられたユウナは戦場に現れたカガリを偽物と言い放った。


「確かに其の可能性はありますが、本物である可能性もあるのですが……」

「本物だとしたら操られているんだ!僕には分る!」


トダカがカガリが本物である可能性を示唆するも、ユウナは連合に尻尾を振る事を優先して真面にとり合う事はしなかった――其の様を見てトダカは一つ大きな溜め息を吐くと――


「ミサイル照準!目標、アンノウンモビルスーツ!!」


ストライクルージュへのミサイル攻撃を命じる。
此の状況では命令に従う以外の選択肢はないと判断したのだろう。


「トダカ一佐!!」

「我等を惑わす、賊軍を討つ!(頼むぞフリーダム……!)撃てぇぇぇ!!」


トダカとしては不本意であるモノのストライクルージュに向けてミサイルを発射――其れもフリーダムへの信頼があればこその命令だった。
これが全弾ヒットしたら、如何にPS装甲を搭載しているとは言っても戦闘不能は免れないだろう――だが、ミサイル発射と同時にフリーダムがストライクルージュの前に躍り出て、マルチロックオンで全てのミサイルをロックオンすると、フルバーストで全ミサイルを破壊する。

フリーダムが全てのミサイルを破壊した事にトダカとクラリッサは安堵の溜め息を吐き、ユウナは唖然としていた。


「謎の第三勢力にアークエンジェル……しかもアークエンジェルはミネルバに味方するか――となれば、こちらも出し惜しみは出来ん。
 スティング達を出撃させろ!」


混沌として来た戦場にて、ネオはスティング達の出撃を命令し、即座にカオス、ガイア、アビスの三機が出撃し、カオスは空から、アビスは海から。ガイアは近くの孤島に降り立って夫々ミネルバとアークエンジェルへの攻撃を開始。


「進路クリア。発進どうぞ!」

「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。ザク、発進する!」

「ルナマリア・ホーク。ザク、出るわよ!」

「ハイネ・ヴェステンフルス。グフ、行くぜ!」


それに対してミネルバもロラン、ルナマリア、ハイネが出撃。
ロランとルナマリアは飛行支援機『グゥル』を装備しての出撃だが、ハイネのグフは単独での出撃――グフはザフトの量産機としては珍しく、大気圏内における単独飛行能力を有しているのだ。

ザフトに連合、謎の第三勢力にアークエンジェルと、戦力が入り乱れ状況が混乱する中であっても連合はオーブ軍と共にミネルバを執拗に狙って来た。
無論其れは全てフリーダムによって戦闘不能にされてしまっているのだが、此の状況にキラはオーブ軍だけを撤退させるのは不可能だと感じていた。


「カガリ、もうダメだ。あとは、やるだけやってみるから。」

「え?」

「バルトフェルドさん!カガリとアークエンジェルを頼みます!」

「了解!とは言っても、俺はキラ程の腕は無いからね?援護は頼みますよ、ラミアス艦長。」

「了解。」


此処でキラはバルトフェルドに出撃要請をし、バルトフェルドも其れを受けてイエローのパーソナルカラーに染められたムラサメに乗り込む。


「バルトフェルド隊長、発進よろしいですわ。」

「アンドリュー・バルトフェルド。ムラサメ、行くぞ!」


ラクスの発進コールでバルトフェルドも戦場に降り立つ――そして其の直後、オーブ軍のM-1とムラサメを立て続けに合計五機撃墜してみせた……『砂漠の虎』は未だ健在であった。


「俺にキラ程の腕はないって言ったろうが……落としちゃうぞ!」


落とすと言いながらもコックピットは外しているので、バルトフェルドもまた無用な殺生は好まないのだろう。


其の一方で、空戦ではアスランのセイバーがスティングのカオスを圧倒していた。
セイバーとカオスは共にザフトのセカンドステージとして開発された機体であり、可変機構を備えているので基本的な性能差は其処まで無いのだが、実戦経験で勝るアスランがスティングを略完封状態であった。


「本隊ががら空きなんだよぉ!落ちろ!!」

「ところが、そうは行かないのよね♪」


海中からはアビスが現れ、ミネルバに対して搭載された全火器の一斉発射を行うが、其れはエアリアルジャスティスがエスカッシャンエネルギーフィールドでガードし、エアリアルジャスティスはカウンターのビーム射撃でアビスを攻撃――したのだが、アビスは海中に逃げて攻撃を躱す。
海中ではビームが使えないのでアビスを追っても徒労に終わる可能性が高いのだが……


「ロラン、ルナマリアちゃん……やりなさい。」

「はい、これでも喰らいなさい!」

「PS装甲はどこまで物理攻撃に耐えられるのか見せて貰おうか!」


此処でロランとルナマリアがザクの標準装備である腰のハンドグレネードを全弾海中のアビス目掛けて投擲した。
PS装甲の前ではハンドグレネードでは有効打にはならないのだが、ハンドグレネードは着弾と同時に炸裂して広範囲に散らばり、その結果としてPSのアクティブ状態を維持するためのエネルギーを大きく減少させる事が可能なのである。
此の攻撃を受けたアビスは一気に機体エネルギーが半減する事となり、一度帰還する事となってしまった。

一方で戦場近くの無人の孤島ではハイネのグフとステラのガイアが交戦状態となっていた。
機体性能で言えばガイアの方が上だが、経験ではグフの方が勝るので、互いに譲らない互角の戦いとなっていた――のだが、グフは両手首に内蔵された電磁ウィップでガイアのビームライフルを絡め取るとそれを破壊し、更にビームウィップでガイアを打ち据えた。
物理攻撃なので決定打にはならないが、機体エネルギーを減らせる事を考えると有効な攻撃であると言えるだろう。


「ザクとは違うんだよ!ザクとは!!」


ハイネはザクの後継量産機であるグフを見事に操りガイアを圧倒して見せていた。


一方で、キャリバーンフリーダムはテスタメントと切り結んでいた。


「この感じ……イチカか!ククク、この時を待っていたぞ!貴様を殺す、此の時をな!!」

「……ふっ……」

「貴様、何がオカシイ!」

「お前の馬鹿さ加減に呆れてな。
 先の大戦で拾った命を、こうしてまた捨てに来てるんだ、呆れる以外に何が出来る?……其れとも、そんなに俺に殺されたいのかお前は?」

「貴様ぁ!!」


そんな中でイチカがマドカを挑発し、マドカは其れに乗ってしまいキャリバーンフリーダムに攻撃を仕掛けるも、それは全て回避されてしまっていた――過去の記憶を取り戻したイチカにとって、今のマドカを相手にするのは児戯に等しかったのだ。


「キラ!……戦場に戻って来たのか……」

「僕にも思うところがあったんだよアスラン……だけど、詳しい話はまたあとだ。今は、此の戦場を終わらせる!」

「だな。」


更にカオスを撤退させたセイバーがフリーダムと合流し、フリーダムとセイバーのダブルフルバーストで連合のモビルスーツを次々と戦闘不能にして行った。


「キラ・ヤマト……俺ではない俺……俺がなれなかった俺……お前の存在は、認めない!!」


此処で黒インパルスがフリーダムに向かって来たのだが、キラは冷静に其れを見極めると、『お前はお呼びじゃない』と言うかのようにカウンターの前蹴りで黒いインパルスを攻撃し、腰部レールガンで両足の膝フレームを破壊してあっと言う間に戦闘不能にして見せた。
其の力の差は正に圧倒的であり、キラとフリーダムは二年のブランクを感じさせない最強っぷりを発揮してくれたのである。


「アレが、フリーダム……!」


其の他を寄せ付けない強さにはシンも驚かされていた。
シンの中での最強は、兄貴分であり師匠格であるイチカなのだが、イチカが敵は容赦なく殺す『滅殺の強さ』であるなら、キラは敵であっても極力殺さない『不殺の強さ』があり、モビルスーツ戦における不殺の難しさをイチカから教えられたシンにとって、一機たりともコックピットを破壊せずに戦闘不能にしたフリーダムに異質の強さを感じたのである。

其れは其れとして、イチカに良いようにあしらわれてしまったマドカはイチカから『今のお前に戦う価値はねぇよ』と言い放たれ、イチカはオーブ軍と連合の部隊に対処する為に離脱してしまった。
この二年間、イチカを殺す事だけを考えて来たマドカにとってそれは最大級の侮辱と屈辱であり、それによってマドカは激情し、ザフトも連合も関係なく襲い掛かり始めた。

二年前の機体とは言え、テスタメントもまたフリーダムと同様の核エンジン搭載機であり、現行のモビルスーツとは一線を画す性能をしている。
其の性能を持ってしてオーブのムラサメを切り裂き、スティングのカオスの足を斬り落とし、モビルアーマー形態のガイアのウィングを破壊し、ハイネのグフの右腕を斬り飛ばす。


「手当たり次第かよ……この野郎、生意気な!!」


右腕を斬り落とされた程度では戦闘不能にはならないので、グフは左手にビームソードを握ってテスタメントに突撃する――と同時に、ガイアもモビルアーマー形態で突進し、残った片方のウィングにビームエッジを展開する。
このままグフとガイアの同時攻撃がテスタメントに炸裂すれば最高だったのかもしれないが……


「邪魔だぁぁぁぁ!!!」



――ビー!ビー!!



「何!?……ガッ!!」


自分の前に居たグフを、ガイアは無慈悲にウィングブレードで真っ二つに切り裂いてしまった……腰から下を斬られたのならばまだ良かったのだが、ガイアはグフのコックピットがある腹部を完全に切り裂いていたのだ。
此れではハイネの生存は絶望的だろう。


「「ハイネ!!」」

「イチカの仲間が死んだか……此れは此れで良い収穫だ……今日はここ等で退散するとしよう。……イチカ、今日私を殺さなかった事を後悔するが良い。」


ガイアによってグフが撃破された事で冷静さを取り戻したのか、マドカは戦場から去り、足を破壊された黒いインパルスも戦場から去って行った。
そしてザフトも連合とオーブの混合軍も双方に受けたダメージが決して少なくなかったので、互いに帰還シグナルを発射して戦闘は停止したのだが、マドカ率いる謎の第三勢力の介入によって、此度の戦闘はなんとも後味の悪いモノとなってしまったのであった。


「……俺を殺す事だけが目的ならまだしも、あの程度の煽りで見境がなくなっちまう程度なのかマドカ……そんな奴は戦場では勝手に死ぬと判断した俺の甘さのせいでハイネは死んだ……なら、せめてもの償いとして俺がお前を殺さないとだな。
 次に会った其の時は容赦はしないぜマドカ……そんなに殺されたいならお望み通り殺してやるよ、完膚なきまでにな……!」


同時にイチカはマドカの打倒を誓うのであった。










 To Be Continued 








おまけの小ネタ。
もしもSDガンダムバトルオペレーションにイチカがいたら

ビャクシキの場合

アムロ(ガンダム)

アムロ「この感じ、君もニュータイプなのか?」
イチカ「ニュータイプ……アニメ雑誌っすか?」


シャア(ザク)

シャア「白いモビルスーツ、見せて貰おうか其の性能を。」
イチカ「アンタをがっかりさせるほど、俺は弱くないぜ?」


アムロ(νガンダム)

アムロ「凄いな、バックパックを換装できるのか!」
イチカ「俺の機体は世紀の天才の特別製なんでね。」


シャア(サザビー)

シャア「君と共に戦うか、悪くない。」
イチカ「同じ仮面キャラだけど、クルーゼと比べるとはるかに良いな。」


キラ(フリーダム)

イチカ「行くぜキラ!準備は良いか?」
キラ「行こうイチカ!僕達の未来の為に!」


アスラン(ジャスティス)

アスラン「正義の名は、伊達じゃないぞ!」
イチカ「悪を滅ぼして正義を示すってな!」


スレッタ

スレッタ「あああ、あのよろしくお願いします!」
イチカ「OK。先ずは落ち着こうか?深呼吸しよう深呼吸。」



キャリバーンフリーダムの場合

アムロ(ガンダム)

アムロ「其れも、ガンダムなのか?」
イチカ「ガンダムだと思う、知らんけど。」


シャア(ザク)

シャア「其の機体は相当な力を秘めていると見た。其の力で君は何をするのかな?」
イチカ「さぁな?俺は俺のやるべき事をするだけだ。」


アムロ(νガンダム)

アムロ「凄いな、ファンネルまであるのか其の機体は。」
イチカ「ファンネルじゃなくてエスカッシャンって言うらしいぜ?詳細はタバネさんによろしく~~!」


シャア(サザビー)

シャア「この世界は理不尽に満ちている、そうは思わないかね?」
イチカ「そうかも知れないが、その理不尽を超えて生きるのが人間ってモンだろ?」


キラ(フリーダム)

イチカ「戦場に舞い戻ったかキラ……!」
キラ「戦いたくない、だけど僕は……!」


アスラン(ジャスティス)

イチカ「ジャスティスもフリーダムと同様に回収されてたのか?」
アスラン「は?お前は何を言ってるんだイチカ?」


バナージ(ユニコーン)

バナージ「行くぞ、ユニコーン!!」
イチカ「な~んか、他人の気がしねぇんだよな此の人。」