ザフトの最新鋭艦『ミネルバ』の進水式が行われる予定だったプラントのコロニー『アーモリーワン』で突如起こった地球連合によるザフトの最新モビルスーツ強奪事件。
プラント最高評議会の議長であるデュランダルとの会談の為に護衛のアスランと共にアーモリーワンを訪れていたカガリは其の戦いに巻き込まれる事になってしまい、アスランが咄嗟の判断で倒れていたザクを起動したのだが、其処に奪われたザフトの最新鋭モビルスーツ、陸戦型の『ガイア』、空戦型の『カオス』、そして水戦型の『アビス』の三機が立ちはだかり窮地に陥ってしまった。
最初に遭遇したガイアだけならば倒せずとも戦場から離脱する事位は出来ただろうが、如何にアスランと言えども量産機のザクで最新鋭機三体を相手にするのは難しかったのだ。

だが、其処で現れたのがシンが乗るインパルスだった。


「ったく、ミネルバの進水式に合わせて来るとはな……だが、少しばかり狙いが甘かったな?
 お前等の誤算は、ザフトの新型はカオス、ガイア、アビスの三機だけじゃなく、もう一機存在してて、そいつは既にミネルバに搬入されてたって事だ……本来なら進水式の場でシンがカッコよく決める筈だったんだが、まぁそれは今更言っても仕方ないか。
 シン、先ずは其のザクを撤退させんぞ。腕一本ならまだ直せるが、ぐっちゃぐちゃのスクラップにされたら流石に直せねぇしな。」

『了解ですイチカさん!……てか、誰が乗ってんですかねあのザク?』

「通信機能がイカレちまってるみたいで通信が繋がらんから知らん……其れよりも、初めての実戦だからな、気を抜くなよ!」

『ハイ!!』


更に其処にホワイトにカラーリングされたイチカのザクファントムも現れてカオス、ガイア、アビスと対峙する。
イチカのザクファントムは標準装備のビームトマホークではなく、より柄が長くブレード部分も大きくなっているビームアックスを手にしていた――ビームアックスは本来はザク用の近接戦闘用バックパック『スラッシュウィザード』に搭載されているメイン武装なのだが、此の状況でウィザードを装備している暇はないと考えたイチカはウィザードは装備せずにビームアックスだけを装備して出撃して来たのだ。


「二年前のヘリオポリスの意趣返しか、其れとも無粋な宣戦布告か……何れにしても人様の家に土足で上がり込んで来やがったんだ……このままタダで帰れると思うなよ?」

「此の進水式にはザフトの軍人じゃない一般の人も来てたのに、平和に暮らす人達まで危険に晒した事は絶対に許さない!」


ザクファントムとインパルスは夫々武器を構えるとカオス、ガイア、アビスの三機に向かって行った。
そして其の際、ザクファントムは片腕を失ったアスランとカガリが乗っているザクウォーリアに向けてモノアイを点滅させていた――其れは長短の組み合わせのモールス信号であり、『即時撤退してミネルバに向かえ』と伝えていたのだ。


「ミネルバに……確かに、今は其れが最善策かもしれないな。」

「アスラン……?」

「此の場を離脱してミネルバに向かう。確り掴まっていてくれよカガリ!」


其のモールス信号を受け取ったアスランは其の場から離脱する事を決めたのだが、せめて少しでも援護になればと新型機三機に向けてザクの腰部アーマーに搭載されているハンドグレネードを投擲した。
カオス、ガイア、アビスの三機はPS装甲を搭載しているのでハンドグレネードで大きなダメージを受ける事はないが、其れでも爆発の衝撃を完全に殺す事は出来ず、爆煙で視界を覆われてしまうので少しばかり隙が出来てしまうのである。


「ただ撤退するだけじゃなく、去り際に出来る事をしてくってか……そして去り際に良い仕事してくれたなぁ?一秒の隙は、戦場では貴重だからな!!」


其の隙を逃さずにイチカとシンは斬り込み、ザクファントムはカオスを、インパルスはガイアを捉え、インパルスはエクスカリバーを、ザクファントムはビームアックスを振り下ろすのだった。











機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE53
『戦いを呼ぶモノ~Derjenige der zum Kampf ruft~』










爆煙の中から襲って来た攻撃。
普通ならば凡そ対処出来るモノではないのだが、ガイアを操縦しているステラとカオスを操縦しているスティングは超人的な反応速度を見せて夫々ビームサーベルで其の一撃を受けてビームエッジの鍔迫り合い状態になっていた。

だが、ビームサーベルとレーザーブレード対艦刀、そしてビームアックスでは近接戦闘武器としての強さに大きな差がある――ビームサーベルはビームエッジのみだが、レーザーブレード対艦刀とビームアックスは実体ブレードも搭載されており、更にビームエッジの出力もビームサーベルよりも高出力になっているので鍔迫り合いになっても負ける事はないのだ。


「どぉぉっせい!!」

「うおりゃぁぁぁぁぁ!!」


其の差を利用してザクファントムとインパルスはカオスとガイアを盛大に弾き飛ばす。
無論鍔競り合いを押し切った程度では勝負は決まらないが、其れでも鍔迫り合いを押し切ったと言うのは有利状況を得る事が出来たとも言えるので勝利の一手と言えるだろう。


「やるじゃんあの二機……だけど、スティングとステラに集中したら俺はフリーになるんだぜ?」


此処でアウルが操縦するアビスがインパルスに向かって行った。
アウル自身、何故インパルスを狙ったのかを理解していないだろうが、直感的にイチカのザクファントムよりもシンのインパルスの方が倒す事が出来ると考えたのだろう。
尤も、イチカのザクファントムとシンのインパルスは、機体性能とパイロットの力量を複合した総合力ではほぼ互角なのだが。
其れでもアスランのザクが離脱した事で数の上ではイチカとシンのコンビの方が不利であり、アウルの一撃もインパルスに炸裂――


「おぉっと、其の攻撃に対してトラップ発動!万能地雷グレイモヤ!!」

「ミラーフォースではなくグレイモヤ……ハンドグレネードを投げつけたのだから間違いではない……のかな?」

「えっと、何の話ですかカタナさん、ロランさん。」


する直前にアビスが爆撃され、その場に新たに三体のザクが現れた。
一機は機体をライトグレーにカラーリングし、右のショルダーアーマーに百合の花を描いたザクファントムで、一機は機体をレッドにカラーリングしたザクウォーリア、一機はノーマルカラーのザクウォーリアだ。
ライトグレーのザクファントムにはロラン、レッドのザクウォーリアにはルナマリア、ノーマルカラーのザクウォリーアにはカタナが乗り込んでおり、更には此の増援によって数の利も逆転したが、一機の最新鋭モビルスーツと四機の量産機のチームと最新鋭機三機のチームならば機体の総合性能は此れでやっと互角と言ったところだろう。

あくまでも機体の総合性能は。


スティング、ステラ、アウルの三人は実戦訓練は受けているモノのモビルスーツでの実戦は此れが初めてであり、其れはシンとルナマリアも同じだが、イチカとカタナとロランは先の大戦を生き抜いた実戦経験豊富な猛者だ。
ロランはヤキンドゥーエの戦闘にこそ参加しなかったモノの、アラスカ基地でクルーゼに見つかりザフトの捕虜になるまでは連合の兵士として戦っており、イチカとカタナに至ってはヤキンドゥーエの戦いでも三隻同盟の一員として戦果を挙げているのである。


「数の上では五対三だが、性能差を考えるとザクは二機で対応した方が良いな。
 ロランとルナが組んで、カタナは俺と。其れを基本にして、戦局を見て臨機応変にな……だけどザクは必ず二機で、其れだけは絶対に守ってくれ。」

『了解よイチカ!』

『私のパートナーは君かルナマリア……フッ、情熱的な赤でカラーリングされた機体、私のパートナーとしては申し分ないね。』

『……戦場でもそのキャラは健在なんですねロランさん……』



此処でイチカが指示を飛ばし、フォーメーションを組んだのだが、イチカとカタナ、ロランとルナマリアがコンビになったのも意味がある。
イチカとロランの機体はザクファントムで、カタナとルナマリアの機体はザクウォーリアと何方も現在のザフトの主力となっている量産型モビルスーツでありほぼ同性能なのだが、ザクファントムはザクウォーリアには左肩にだけ装備されているシールドが両肩に装備されている事で防御面で優れており、更にこのシールドにはビームライフル用のバッテリーパックも搭載されているのでザクファントムの方がザクウォーリアよりもビームライフルを長く使えると言う利点があるのだ。

其れは兎も角として、合計八機のモビルスーツが入り乱れての戦いは一気に激しさを増す事になった。
インパルスがエクスカリバーでカオスに斬りかかり、イチカのザクファントムがビームアックスでカオスに斬りかかればカタナのザクウォーリアがビームライフルで援護し、ロランのザクファントムとルナマリアのザクウォーリアはビームトマホークでガイアを攻撃する。

近距離戦を行っているのは、遠距離戦になった場合に市民が流れ弾の犠牲になる事を防ぐ為だ。
ビームライフルの使用はあくまでも援護射撃の必要最低限であり、其れ以外ではインパルスはバックパックに搭載されたビームブーメランを、ザクはビームトマホークを投擲する事で遠距離攻撃を行っていたのである。


「はいはーい、ビームサーベルゲット!」


そんな中でカタナのザクウォーリアはインパルスが投擲し、しかしカオスに弾かれたビームブーメランをキャッチし、ビームエッジの出力を上げてビームサーベル状態にしてアビスに振り下ろす。


「あっぶね!
 何処が簡単な任務だよ……滅茶苦茶強い奴いるじゃん!簡単なツマラナイ任務だと思ったけど、コイツは楽しめそうじゃんよ!!」

「良いねぇ……コイツは俺好みの性能だ!」

「コイツ等……やってやる!!」


予想外の抵抗があった事に対し、アウルは逆に喜んでいる様子であり、スティングもまたカオスの性能を試す事を楽しんでおり、ステラは予想外の強敵の出現に闘志を燃やしていた。
正に互角の戦いだったのだが、アーモリーワンの外でも動きがあった。


「さぁてと、其れじゃあ始めるとしようか!」


強奪グループを送り込んだ特殊部隊の母艦『ガーティ・ルー』が司令官『ネオ・ロアノーク』の指揮の元に行動を開始してアーモリーワンを強襲し、其の電撃的奇襲でザフトの護衛艦隊を瞬く間に撃沈し、更に港湾部まで破壊してしまったのだ。


そして其れが合図だったかの如く、カオスとアビスは撤退行動を開始したのだが、ガイアだけは撤退しようとはしなかった。


「ステラ、撤退だぞ!」

「まだ……コイツ等を倒す。」


ガイアを操るステラは完全に戦闘に没頭し、眼前の敵を倒す事に固執していたのだ……其処に撤退する意思はなく、あるのはトコトンまで戦う闘志のみであり、こうなったステラはテコでも動かない事を知っているスティングは少しばかり頭を抱える事に。


「そっか……まぁ、好きにしろよ。
 だけどな、死ぬならお前一人で死ねよ!ネオには俺から言っといてやるよ、お前は死んだって!」

「馬鹿、やめろアウル!!」


此処でアウルがステラを煽るかのような事を言ったのだが……


「え……あ……いやぁぁぁぁ!!!
 死ぬのは嫌……死ぬのは怖い……!!」


『死』と言うワードを聞いたステラは、此れまでとは一変して錯乱状態となり、アーモリーワンの外壁を内側からビームライフルで撃ち抜いて離脱しようとする。
無論スペースコロニーの外壁がモビルスーツのビームライフル程度で簡単に壊れる事は通常は有り得ないのだが、其れはあくまでも外側からの攻撃に対してであり、内側からの攻撃に対しては実は其処まで強くなく、ランチャーストライクやバスターならば一発で撃ち抜く事が可能で、ノーマルなビームライフルでも連射すれば撃ち抜く事は可能なのである。


「そうはさせるモンですか!!」


――プスン


逃がすまいと、ルナマリアのザクウォーリアがガイアに迫ったのだが、其の途中でザクウォーリアから煙が上がってまさかの機能停止に陥ってしまった。
如何やら瓦礫の下敷きになった事によるダメージが駆動系に発生していたらしく、なんとか動けていたのだが此処に来て運悪く限界が来てしまい動作不良を起こしてしまったのだ。


「えぇ!?此処でそんなのってありぃ!?」

「あらぁ……まぁ、結構な量の瓦礫に埋まってたから此れも仕方ないと言えば仕方ないのかしらね?」


辛うじて機能停止には至っていないが、こんな状態で戦闘継続は不可能なので、ルナマリアは戦線を離脱して本来自機が搬入される筈だったミネルバに帰投する事になった。
強奪された三機がアーモリーワンから離脱しようとしているところでのルナマリアの離脱は痛手だが、だからと言って追撃の手を緩める事は出来ない。


「此の装備じゃダメだ……ミネルバ、フォースシルエットを!」


此処でシンはミネルバに『フォースシルエット』を要請した。
実はインパルスもザクがバックパックの『ウィザード』を換装する事が出来るのと同様に、専用バックパック『シルエット』を換装する事であらゆる状況に対応出来るようになっているモビルスーツだった。
その設計思想には先の大戦で大きな戦果を挙げたストライク系の機体の影響を受けているが、インパルスの場合シルエットを『シルエットフライヤー』と言う専用の無人機で運ぶ事が可能で、更にインパルスとシルエットの接続は無線誘導で行われるので戦闘中でも正確な換装が可能なのだ。

但し、此れは機密事項であり、進水式ではソードインパルスのみの披露の予定だったので、ミネルバのクルーは如何したモノかと艦長であるタリアを見る。
タリアも少し考えたが……


「緊急事態なのでインパルスからの要請通りにフォースシルエットを射出――よろしいですね議長?」

「こうなってしまっては機密事項どころではないからね……其の判断で正しいよグラディス艦長。」


フォースシルエットの射出を決定し、ミネルバに避難していたデュランダルに伺いを立てると、デュランダルも其れを是とした事でフォースシルエットを搭載したシルエットフライヤーがミネルバから発進した。

そしてシルエットフライヤーからパージされたフォースシルエットは、ソードシルエットをパージしたインパルスと合体し、パージされたソードシルエットはシルエットフライヤーが回収してミネルバに帰還した。
フォースシルエットに換装したインパルスは『フォース・インパルス』となり、ソードの時は赤かった部分が青に変わり、左腕に搭載されている小型シールドが展開して大型のシールドとなった。
中距離高機動型のフォース・インパルスならばソードの時よりも機動力が大幅に上昇しているのでアーモリーワンから離脱しようとしている強奪された三機を追いかける事も出来るだろう。


「逃がさねぇ……追うぞシン!」

「はい!……って、其のソードシルエットは!?」

「ミネルバに帰還中のシルエットフライヤーからかっぱらって来た……ウィザードとシルエットは互換性があったみたいだぜ。」

「良いんすか其れ……」

「非常事態だから四の五の言うなって……にしても、ビームアックスにレーザーブレード対艦刀二本って、滅茶苦茶な近接装備だな。」


フォース・インパルスだけでなく、ミネルバに帰還中のシルエットフライヤーからソードシルエットを奪って強引に装備したイチカのザクファントムも追撃してアーモリーワンから外に出る。


「此の状況……ミネルバも発進するしかないでしょう――構いませんね?」

「うむ……其れが賢明な判断だ――こうなってしまった以上は仕方あるまい。」


其れに続いてミネルバも発進してアーモリーワンから宇宙空間へと飛翔して行った。



そしてミネルバが発進する前にルナマリアは帰投していたのだが、ルナマリアに少し遅れて一機のザクウォーリアがミネルバに収容されていた――片腕を失い腰部アーマーに搭載されているハンドグレネードを使い切った其のザクウォーリアは満身創痍であり、ルナマリアも心配そうに見ていたのだが、其のザクウォーリアから降りて来たのはザフトの兵士ではなかった。
一人は黒髪でサングラスを掛けてグリーンのインナーに上下とも黒のラフジャケットの青年で、もう一人は金髪のセミロングにオーブの首長服を纏った女性だった。
女性の方はオーブの代表首長であるカガリだと判断したルナマリアだが、男性の方は何者か分からなかったので、牽制の意味で銃を向けた。


「貴方達は……何故ザフトのザクに?」

「……俺はアスハ家のアレックス・ディノだ。
 アスハ代表の護衛として共に此処にやって来たが、不測の事態に遭い、アスハ代表の命を最優先にした結果、貴軍のモビルスーツを拝借する事になってしまった。
 此方に敵意はない――銃を下ろしてもらえないか?」

「巻き込まれたと言う事……?
 だけど、『はい、そうですか。』と言う事も出来ないわ……まして、ザフトの最新型のモビルスーツが強奪されるなんて言う事が起きたのならばね。」

「……まぁ、其れは致し方ないか……」

「アスラン……」


此処でアスランは己の身分を明かしたのだが、ルナマリアは警戒を緩める事無く、其れでも状況が状況なのでアスランとカガリをミネルバに受け入れたのだが、まさかの事態にカガリが無意識に口した『アスラン』と言う言葉に少し訝し気な視線を送っていたのだった。













 To Be Continued