――ミレニアム艦内:レクリエーションルーム
「でもユーラシアって、コンパス承認してないよな?」
「だから総裁自ら同行されるんでしょう?勿論副総裁もね。政治的な事とか、色々あるんじゃない?」
「政治的な事とか全然分かんねぇ……」
「私達軍人は其れを理解する必要が無いのかも知れないわ。
何時だったかイチカさんが言っていた事なんだけど、『軍人の本分は国の為に戦う事であり、其処に私情を挟んではならない……だが、軍を動かす権限を持っている政治家が無能な場合は軍事クーデターを起こすべし』って言ってたんだけど、これってある意味真理よね。」
「普通に聞いたら極論なんだけど、イチカさんが言うとめっちゃ納得出来るのは何で?」
「人生経験前世を含めて千年以上だからでしょ。」
「あ~~~……成程。」
地球に向かっているミレニアム艦内では、シンが『コンパスに承認されてないユーラシア連邦であるファウンデーションの提案を何故コンパスが受け入れたのか』を疑問に思っていた――だからこそルナマリアが言うように総裁であるラクスと副総裁であるカタナが揃って出向く事になった訳なのだが。
「よう坊主達、気を付けろよ!あそこはお化けが出るからなぁ?」
「はぁ?」
「ファウンデーションだよ。」
其処に現れたのはヒルダ・ハーケン、マーズ・シメオン、へルベルト・フォン・ラインハルトのヤマト隊とは異なるコンパスの部隊『ハーケン隊』の面々だった。
ハーケン隊の面々は二年前の大戦にも参戦し、『ドムトルーパー』で大暴れした『コズミックイラ版黒い三連星』だ――コンパス参加に当たり、部隊名をコンパスの『ハーケン隊』として、隊長のヒルダはギャンシュトロームを、マーズとへルベルトはゲルググに搭乗して大きな戦果を上げている精鋭部隊だ。
「あそこの独立運動の時、ユーラシアの連中が見たんだよ、ケルピーをさ。」
「ケルピーって?」
「水に住む化け物の事。
まぁ、それだけ得体の知れない国って事さ、あそこは。」
隊長のヒルダはニヒルな笑みを浮かべてルナマリアに近付くと、其の身体に抱き着いた。
突然の事にルナマリアも驚いたモノの拒否はしていないところを見ると、ヒルダが『可愛い女の子に抱き着く』のはコンパス内では日常の事なのだろう……ヒルダは割とガチの百合だったりするのだが。
「化け物……」
其れは其れとして、『化け物』と聞いたシンの脳裏には『フリーダム強奪事件』が浮かび上がっていた。
如何にテロリストが起こした事とは言え、コズミックイラ史上最強のモビルスーツとも言えるストライクフリーダムを瞬く間に戦闘不能にした『ブラックナイト』なるモビルスーツは、シンにとっては化け物でしかなかったのだろう。
地球が近付くとコンパスの部隊はミレニアムで大気圏に突入し、大気圏突入後にアークエンジェルと合流して、ファウンデーションに向かうのであった
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE103
『邂逅と戦闘と~The First Contact&Battle~』
――ファンデーション王国:首都イシュタリア
独立国家となったファウンデーションの首都は賑わっており、未だにザフトとブルーコスモスの戦いが続いているのが嘘であるかのようだ――ともすれば、ファウンデーション王国となる以前に受けたダメージも完全回復していると言っても良いだろう。
「思ったよりも復興が進んでいるようね。」
「よっぽど優秀な国民か政府があるって事だな。」
『ミレニアム、右舷に合流します。』
此処でミレニアムがアークエンジェルと合流し、海に着水するとファウンデーションの港に向かい、コンパスの部隊はミレニアムとアークエンジェルからヘリコプターで先行してファウンデーションに降り立ったのだった。
ヘリコプターから降り立った面々は軍帽を被り、軍服もキッチリと正していたのだが、イチカとシンだけは軍帽を被らずに軍服も着崩していた――本来ならば問題なのだが、『少しアウトローな隊員が居た方がインパクトがある』とのイチカの意見を採用してイチカとシンの師弟コンビは不良スタイルでだ。
更にイチカは逆刃刀まで装備しているのだ。
帯刀は流石に問題になりそうだが、『護身用であり通常使用での殺傷能力は極めて低い』との理由でファウンデーション側に認めさせていた。
さて、そんな一行を出迎えたのはファウンデーションの精鋭達だ。
「ようこそおいで下さいました姫。ファウンデーションの宰相のオルフェ・ラムです。」
「同じく宰相のゾルガ・ラムです。」
一団の代表として挨拶して来たのは宰相の『オルフェ・ラウ・タオ』と其の双子の弟で同じく宰相の『ゾルガ・ラム・タオ』だった。
「コンパス総裁のラクス・クラインです。」
「コンパス副総裁のカタナ・サラシキよ。お会い出来て光栄ですわラム宰相。」
ラクスとカタナはオルフェとゾルガと握手を交わしたのだが――
――パリィィィン!!
其の瞬間にラクスとカタナのSEEDが弾けた。
ラクスは暫しオルフェとお見合い状態になったのだが……
「!!……何故、拒絶するのですかカタナ!!」
「貴方と私は魂で繋がっていないから、と言っても分からないでしょうけどね。」
カタナの方はゾルガに明確な拒絶の意を示していた。
其れが出来たのは、圧倒的な人生経験と、ゾルガの容姿が夢に出て来た黒髪の青年と瓜二つだった事が大きいだろう――ラクスもキラに呼びかけられて我に返り、一行はファウンデーションの宮殿に向かう事に。
『『邪魔な奴……』』
そんな中、イチカとキラの頭の中にはこんな言葉が流れ込んで来た――此れには流石のキラも戸惑ったのだが、千年以上の人生経験があるイチカは動じる事無く逆に『邪魔なのはテメェ等だ、つか人の頭の中覗いてんじゃねぇこのクソ虫が!』と返して逆にゾルガ達を驚かせたのだった。
――――――
イチカ達がファウンデーションに到着したころ、ターミナルに出向していたアスランは地球のある場所に居た。
其処ではファウンデーションが提唱する『デスティニープラン』に反対の意を示す市民によるデモ活動が連日のように行われ、地球連合によるデモの鎮圧も日常的に行われているのだが、攻撃手段が精々火炎瓶程度のデモ隊に対して、連合は銃を使うと言う少々過剰な対応が行われていた。
此の日も鎮圧隊に対して火炎瓶を投げた若者四名が連合の兵士に銃殺される事態が起こっていた。
「自分達に従わないモノは武力をもって弾圧するか……ファウンデーションも結局はブルーコスモスとやってる事は同じか……」
ビルの陰に隠れて一部始終を見ていたアスランは、一部始終を修めた動画データをメイリンに送るとミラージュコロイド光学迷彩が使用可能な『キャバリアーアイフリッド-0』を装備した新専用機『ズゴック』に乗って其の場を離脱するのだった。
――――――
――ファウンデーション王城・謁見の間
「ようこそファウンデーションへ。アウラ・マハ・ハイバルである。此度のコンパスの迅速な対応、痛み入る。」
ファウンデーション王城の謁見の間にやって来たコンパスの面々は女帝アウラ・マハ・ハイバルと対面していた。
「ご拝謁の栄誉を賜りまことに光栄に存じますアウラ陛下。」
先ずはアウラがコンパスの部隊に声をかけ、ラクスが其れに応じてキラ達も頭を下げた……但し、イチカとシンだけはラウラに頭を下げる事はしなかった。
普通ならば此処で総裁であるラクスが注意するところなのだろうが、其れをしなかったのはファウンデーションに対して、イチカとシンを『一筋縄ではいかない問題児』との印象を植え付ける思惑があったからだろう。
「っと、タバネさんからのメールだ……『ファウンデーションの女帝アウラ・マハ・ハイバル。年齢:五十歳』……だとよ。」
「マジっすか?って事はリアルロリババアっすか?」
「リアルロリババアだが侮れないな……ゆかりんボイスの少女キャラは下手すりゃ星を破壊する一撃かましかねないから。」
「全力全壊SLBっすね……」
イチカとシンは小声でこんな会話をしていた。
それはさて置き、ミケールに対してはファウンデーションも手を焼いている状況であり、状況を打破する為に此度コンパスに要請したとの事で、少し考えた後ラクスはその申し出を受け入れたのだった。
その後、『細やかながら歓談の席を設けさせて貰った。そこでそなた等の話を聞かせて欲しい』と言われ、一行は宴の席へと移動する事になったのだった。
――――――
宴の席へと移動中、コンパスの一行はファウンデーションの面々が訓練している場所を通る事になった。
其処では剣をメインにした実戦訓練が行われており、模擬戦用に刃を潰した剣を使ってるとは思えない程に激しい剣戟が行われていた――其の剣戟は実に見事なモノであり、ムゥも感心していたのだが……
「温いな。」
イチカは思わずそう漏らしていた。
近接戦闘に関しては間違いなく世界最強である姉を持ち、更に篠ノ之流の『剣道』ではなく実戦的な『剣術』を修めていたイチカには、ファウンデーションの面々の訓練は生温いモノに映っていたのだ。
「我等の訓練が温いと?……なれば、一手御指南願えるかなオリムラ副隊長?」
イチカの言葉を聞いたシュラが此処でイチカに挑戦状を叩き付けて来た――イチカには特に断る理由もなかったので、其れを受ける事にしたのだが……
「悪いが剣は自前のモノを使わせて貰うぜ?
サーベルは手に合わないんでね……それにどうせやるなら力を十全に出せる俺の方が良いだろ?」
「違いない。」
サーベルを構えるシュラに対し、イチカは逆刃刀を左手に持って無形の位で対峙する。
此の時点でアドバンテージはイチカの方にあると言える――構えると言う行為は自然なモノであるが、一流の戦闘者は構えを見ただけで相手がどんな攻撃をして来るのか、どんな攻撃が得意で逆に不得意な事は何か等々様々な情報を得る事が出来るので、イチカは実際に戦う前にシュラがどんな戦い方をするのかが大体分かってしまっていたのである。
「疾っ!!」
先に動いたのはシュラ。
鋭い踏み込みから袈裟斬りを振り下ろす――イチカは其れを僅かな動きで躱すも其れを読んでいたかの如くシュラは逆袈裟に斬り上げる。
其れもイチカは僅かなバックステップで回避し、シュラは其れを追って突きを繰り出すもイチカは其れを横に身体をずらして回避――したところに横薙ぎが飛んで来るが其れは見事なサイドロールで回避。
「逃げてばかりでは勝てんぞ?」
「そっちこそ、そんなに引き出し空けて良いのか?
俺はまだお前に一つも技を見せてないが、お前は一体俺にどれだけの技を見せてくれた?もう、お前の戦い方は分かった。これからどんな攻撃が来るのかも、それにどう対処すればいいかもな!!」
これまで回避に徹していたイチカは、此処で神速の踏み込みでシュラに肉薄すると至近距離での斬り上げ式の鞘当てを繰り出して来た。
其れをシュラはギリギリで回避したが、イチカは今度は逆刃刀を鞘に納めたまま脳天を撃ち抜くかのような突き刺し型の振り下ろしを繰り出し、其れを回避したシュラに続けざまに横薙ぎ式の鞘当てを繰り出し、其れをガードしたシュラに対して今度は鞘打ちを繰り出して強引にシュラのガードを抉じ開けると、此処でイチカは初めて逆刃刀の柄に右手を添えた。
「(これは居合か!!)」
シュラは居合が来るとみて、抉じ開けられたガードを何とか再び固めたのだが……やって来たのはまたも鞘当てだった。
そして其れはこれまでの鞘当てとは全く異なる強烈さで、シュラは固めたガードを強引に崩される形となった――そしてそうなれば、次の攻撃を防ぐ事は不可能だ。
「篠ノ之流剣術奥義……桜花一閃!せめて桜の花の如く美しく散れ。」
イチカが大きく踏み込んで遠心力が乗った居合を放つと、シュラは其れを防御も回避も出来ずに真面に喰らい、イチカが逆刃刀を納刀した後に膝から崩れ落ち、この勝負はイチカに軍配が上がったのだった。
「中々にやるが、俺からしたらマダマダ温い。
ま、精々戦闘では足手纏いにだけはなってくれるなよ?」
イチカは挑発的にそう言うと、その場から移動し、ヤマト隊の面々も移動を始めるのだった。
「何をしているんですシュラ!貴方ならばあんな奴に後れを取る筈がないでしょう!!」
「其の筈だったのだが……奴の思考を読めなかった。
いや、もっと正確に言うなら、アイツは考えるよりも先に身体が動いていた……奴は危険だ、キラ・ヤマト以上に……我々の優位性が通じないのだからな。」
其の場に残ったファウンデーションの面々は、シュラの話を聞いてイチカに格段の警戒をするのであった……
To Be Continued 
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