Side:夏姫


束さんから『男性用ISが完成した』との連絡を受けたが、それ程驚く事はなかったと言うのが正直な所かな?……一夏がストライクを起動した時点でIS
は女性にしか扱う事の出来ないモノではなくなったと言っても過言ではないから、束さんならば一夏のストライクの稼働データから男性用のISを完成さ
せるのはそう遠くないと思ってからね。
まぁ、其れの発表の時にはISRIに行かねばならないのだが、一夏の事を世間に発表した時の様な事が起こらない事を願っているよ――ISの事を女性
だけの特権だと勘違いした輩が、また現れては溜まらないからな。

……尤も、アタシ達ならば、そんな輩が現れた所で速攻で撃滅できるのだけどね。


さて、今日も今日とて放課後の部活の時間だな。生徒会の仕事は無かったから、今日は刀奈が軽音部の練習を見学している――其れだけならば、よ
くある事なんだが、今日は刀奈以外の見学者も居るんだよなぁ。



「此れは、凄いよオニール!!」

「此れで学生ってマジで?……ファニールの言う通り、凄いわ此れ……私達のバックバンドとして雇いたい位よマジで。」

「夏姫……エレキギターを奏でる君は、とても美しい……嗚呼、私の心は完全に君に奪われてしまったよ!」



その見学者はコメット姉妹とロラン……アタシ達の演奏に関するコメット姉妹のコメントは兎も角として、お前は相変わらずだなロラン……アタシがお前
の心を奪ったかどうかは如何でも良いんだが、アタシは楯無以外の相手を愛する心算はマッタクないから、諦める事をお勧めするぞ?



「ふ、その釣れない態度がまたそそるモノだね。」

「ロランちゃん……貴女のその情熱と言うか諦めの悪さにはある意味お姉さん感心しちゃうわ……その情熱を別なモノに向ければいいのに。
 其れよりも、私以外を愛する心算はないって、其れは恋人冥利に尽きるわね夏姫?
 普段はべったりって訳でもないんだけど、さり気なくそう言う嬉しい事を言ってくれるのよね?……ホント、夏姫ってばイケメン女子なんだから。
 貴女と結ばれたって言う事は、私の人生で最も大きな事だと断言しちゃうわ。」

「其れは、アタシも同じ気持ちだよ楯無。」

出会いは神の御業と言う言葉があるが、お前との出会いは正にそうだったのかも知れないな……神や仏を信じる方ではないのだが、刀奈と出会えた
と言う事に関しては、神に感謝しても良いかも知れないわね。



「はいは~い、イチャ付くのはその辺にしなさいよ夏姫?其れから楯姐さんも。今は部活中だから、イチャ付くのは自室に戻ってからにしてくれる?」



……言われてみれば、未だ部活の真っ最中だったな。――ならば、お前と戯れるのは、寮に戻ってからにするか楯無。
取り敢えず、もう一曲行くとしようか……鈴、音くれ!



「了解!もう一発かますわよ!!」

「L'ets Rock!!」

部活でのラストナンバーは、アタシが作曲した未だ曲名もないロックミュージックだ……荒々しさと、静けさが同居したメロディーは、我ながら良く出来た
と思ってるよ。
……演奏が終わった其の後で、コメット姉妹から、この曲に歌詞を付けて歌いたいと言われるとは思わなかったけれどな。









Infinite Breakers Break98
まったりとした日常と、変革の爪牙』








部活が終わった其の後は、此れも日課になってるトレーニングなんだが、今日はアリーナを借りる事が出来なかったので、ジムでのフィジカルトレーニ
ング&生身での格闘訓練だな。
そんな訓練の中で、ジム内に設置されたリングの上では、アタシとヴィシュヌが模擬戦の真っ最中だ。
ヴィシュヌがアタシを相手に指名して来たので、断る理由も無かったから相手になった訳なんだが――



「シッ!!」

「ちぃ!!」

アタシが思っていた以上に強敵だなヴィシュヌは……拳脚一体の隙の無い攻撃がムエタイの強さだとは理解していたが、ヴィシュヌはその攻撃に加え
て、しなやかな肉体から繰り出される強烈無比の蹴りがある。
ムエタイの蹴りの真骨頂は、身体の最も固い部分の一つである膝蹴りだと思っていたが、ヴィシュヌの場合は鞭のように撓るミドルキックやハイキック
こそが真骨頂と言った感じだからね。

尤も、其れだけならばカウンターも出来るのだが、まるで踊るように繰り出されるミドルとハイの連続攻撃には、付け入る隙が無い――此れだけの蹴り
の集合体を相手にしたら、余程の達人であっても苦戦は必至だろうさ。

其れはアタシもなのかもだが……此れもアタシが超人故か、徐々にヴィシュヌの蹴りの軌道が分かって来た……否、もう全てが見える。
このハイキックは見せ技で、本命は其処からの踵落とし……だが、其れを躱せば、次は隙の少ないミドルキックを放って来る筈だから、其処を捕える。



――ガシィィィィ!!!



「私の蹴りを、受け止めた?」

「ふ、中々に良い蹴りだったよヴィシュヌ……だが、暴れん坊の足には、お仕置きのドラゴンスクリューだ!!」

「ふえ?きゃぁぁぁぁぁ!!!」



カウンターでのドラゴンスクリューは決まって、足殺しのチャンスだけれど……一体何の技で足殺しを……この局面で使える足殺しの関節技って言うな
ら、此れだな。
喰らえ、足4の字固め!!アメリカプロレスのスーパースター、リック・フレアーの必殺技の威力は如何?――ガッチリ決まった足4の字からは、誰も逃
れる事は出来ないわ。



「此れは……プロレス技など、見せかけのモノだと思ってましたが、完璧に極められると此れは中々……!!」

「プロレス技は派手過ぎて嘘くさいと思われがちだが、その技は全て本物だ……此の足4の字固めも、シンプルではあるがガッチリと極まったら逃げる
 事は出来ないからね。
 因みに、今のカウンタードラゴンスクリューからの足4の字は、天才プロレスラー武藤敬司がUWFとの対抗戦の大将戦で、高田延彦を倒したコンボで
 もあったりする。」

「くぅぅぅ……プロレスなどショーマン要素の強いモノだと思って甘く見ていました……ですが、簡単にはやられませんよ?」



――シュルリ



なっ……完璧に極まった足4の字から脱出しただと?



「私はヨガをやっているので身体の柔軟性には自信があるんです……そのお陰で何とか逃げる事が出来ました――もう少しだけ足の隙間が狭かった
 ら逃げられない所でした。」

「あ~~……成程、夏姫姉は足長いからなぁ?
 足4の字は短足の方が隙間が無くなって威力が増す技だからな……身体の半分が足の夏姫姉じゃ隙間が大きくなって本来の威力を発揮出来なか
 ったって事か。」



……オイ、アタシを作り出した何処の誰かとも知れないマッドよ、お前は完璧な人間を想定してアタシの身体も設計したのだろうが、足が長い事が逆に
仇になると言う事は考えてなかったみたいだな?
足が長い方が走る場合も、蹴り技を使う場合も有利なのは間違い無いが、ごく限られた状況に於いては足が長くない方が良いと言う場合もあるって事
だな……短足の人間が聞いたらブチキレそうな事ではあるけれど。

ともあれ此れでまた仕切り直しか……今のコンボはもう二度と入らないだろうから、此れはグラウンドではないサブミッションで極めるしかないのかもだ
が、ヴィシュヌもそう簡単にはやらせてくれないだろうな。
ならば……アタシも打撃でやるしかなさそうだ。行くぞ。



――バシュウ!!



「!!……踏み込みからの鋭い横蹴りから流れる様な回し蹴り、そしてネリチャギ……大振りながら多彩な蹴りを繰り出す此の武術は、テコンドー!」

「正解だヴィシュヌ。」

拳打はあまり得意ではないが、蹴りには自信があったから、独学ではあるがテコンドーを習得してみたんだ――独学故に少々粗さが有るだろうが、其
れなりに様になって居るだろ?
アタシの蹴りとお前の蹴りの何方が強いか、勝負と行こうじゃないか。



「望む所です……蹴り勝負となったら負けられません。」

「行くぞ。」

其処からはアタシとヴィシュヌの凄まじい蹴り合戦の始まりだった……ヴィシュヌがローでアタシの脛を蹴れば、アタシはヴィシュヌの横っ腹にミドルを叩
き込み、ハイキックを放って来たらアタシも其れにハイキックを合わせ、アタシのネリチャギにはヴィシュヌが蹴り上げで対応する。



「はぁぁぁぁ……タイガーレイド!!」

「鳳凰脚!!」

挙げ句の果てには互いに格ゲーの超技を発動する始末だからね……まぁ、その結果は互いの技が見事にかち合ってダブルKOの幕切れだったけど。
だが、スパーリングで此れだけ気持ちのいい汗をかく事が出来たのは、一夏と楯無以外ではお前が初めてだヴィシュヌ……ムエタイの真髄、堪能させ
て貰ったよ。



「此方こそ、プロレスとテコンドーの奥深さを見せて貰いました夏姫……もしよろしければ、今後もスパーリングをやって頂けますか?」

「願ってもないよヴィシュヌ……お前とのスパーリングならば、アタシとしても得る物が多いと思うからね――主に、スタンドでの打撃に関してはな。」

そう言う訳でアタシとヴィシュヌのスパーリングは終わったんだが、もう一つのリング上で行われてた楯無とロランのスパーリングは如何なっている?
アタシの恋人である楯無と、アタシを狙ってるロランの戦いは、スパーリングとは言え激しいモノになると思うんだが……



「此れで終わりよロランちゃん!
 サンダーファイヤーパワーボム!!から、両足を私の足で極めた上で背中合わせになってブリッジをして、両腕をチキンウィングに極める……此れぞ
 アタル版マッスルスパーク、サブミッションバージョンよ!!」



豪快なサンダーファイヤーパワーボムから、流れるように見事な動きでアタル版マッスルスパークを極めたか……身体をくの字に折り曲げられた上に
両足を極められて、両腕をチキンウィングに極められたら脱出は不可能だわマジで。
原作に於いて『完全な殺人技』と称された技は伊達ではないわね。



「ギ、ギブアップ。」

「ふふふ、学園最強を甘く見たらダメよ?お姉さんは多少の事は容認するけど、行き過ぎたオイタは見過ごす事が出来ないからね……何より、私から
 夏姫を奪おうとする相手に容赦してあげる程、私は優しくないのよ。」

「つ、次は負けないぞ楯無!!」

「ふ、何時でも挑んでくると良いわ……その度に返り討ちにして上げるから、その心算で居なさいな――学園最強の看板は、そう簡単に取る事が出来
 るモノじゃないからね。」



で、スパーリングは刀奈の完勝だ。
ロランの攻めも悪くは無かったが、一国の代表候補生と、暗部の長ではそもそもの戦闘力に雲泥の差があったと言う事なのだろうな……アタシの見立
てでは、刀奈の戦闘力はドレだけ低く見ても5000万は下らないだろうからね。
一介の代表候補生では食い下がる事も難しいだろうな。


ま、そろそろいい時間だから切り上げるとしようか?――日々のトレーニングは大事だが、やり過ぎてオーバーワークになってしまったら全然意味がな
いからね。
……って、一夏お前は一体何をしてるんだ?



「え?腕立て伏せだけど?」

「うん、其れは見ればわかるが……何故に背中にコメット姉妹が乗っているんだ?出来れば、其れの説明をお願いしたいんだけれどな?……まさかと
 は思うが、ロリコンじゃないよな一夏?」

「夏姫姉、天地神明に誓って其れは無いって言うぜ。
 単純にトレーニングの成果を上げる為に頼んだんだよ――鈴や箒が乗るのには慣れたけど、だからと言って鈴と箒の二人分に耐える事は出来ない
 からな……そう言う意味ではファニールとオニールは俺にとっては良い重石になるんだよ。」



そうか……まぁ、合計体重が100㎏に満たないコメット姉妹は、筋トレの重石としては優秀なのかも知れないな――それを迷わず選択する事の出来る
一夏も大概だと思うけれどね。
ともあれ、トレーニングで大分汗を掻いたから、風呂と行こうか?
汗でべたついていると言うのは不快な事極まりないし、JKとしても如何かと思うからね。



「夏姫姉がJKとしての彼是を気にするだと?……明日の天気は晴れ後、核爆弾か?」

「一夏、お前はアタシを何だと思ってるんだ?」

「もしかしたら、千冬さんをも越えるリーサルウェポンになるんじゃないかと思ってんだけど、其れって何か間違ってるか夏姫姉?――俺的にはゼンゼン
 マッタク間違ってないと思うけどな?」

「……まぁ、間違いではないと思うが。」

だが其れでもリーサルウェポンはないだろう一夏よ……アタシがリーサルウェポンって、『最終兵器姉貴』だとでも言うのかお前は?
そもそもにしてアタシがリーサルウェポンなら、現状ではアタシよりも強い千冬さんは一体何だと言うのか?現代兵器が一切通用しないゴジラか、モスラ
か、ビオランテか?



「何を馬鹿な、ちー姉さんはキングギドラだろう。」

「マドカお前、流石に其れは如何かと思うんだが……でも、ちょっと納得しちゃったよ俺。」



いや、其処は納得する所じゃないと思うぞ一夏?……其れにしても、この場に千冬さんが居たら、アタシと一夏とマドカには間違い無く一撃必殺出席簿
アタックが炸裂してただろうな。
……出席簿が凶器になる時点で、千冬さんが最終兵器だろ本気で。



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で、トレーニング後は大浴場でお風呂タイムだ。
IS学園の大浴場は、地下から引き上げた温泉の外にも、バブルバスや薬湯、サウナまで備えている、スーパー銭湯も真っ青なモノなのだけれど、其れ
は其れとして、何時も髪を洗って貰ってスマナイな楯無?



「良いのよ夏姫、私がしたくてやってる事だし、夏姫ほどの髪の長さだと洗うのも一苦労でしょうからね……この髪のボリュームは、箒ちゃんといい勝負
 だと思うわ。」

「……箒も、可成りの髪の量だからな。」

アタシと箒だけじゃなく、髪を解けば鈴と乱だって相当に長いし、ラウラは言うに及ばず、グリフィンだってポニテを解けば可成り長い――と言うか新たに
やって来た代表候補生達はヴィシュヌとロランを除けば全員髪長いからな。



「其れでも夏姫が一番長いんじゃない?腰を越えてお尻の辺りまであるわよねぇ?」

「まぁ、子供の頃からその辺りまで伸ばしていたからなぁ?――小学校の時は、プールの時間が大変だったよ。髪を纏めた上で水泳帽を被らねばなら
 なかったからね。」

「……なんか、水泳帽の中だけ巨大化しそうね?」

「実際巨大化していたからな……お蔭で直ぐに伸び切ってしまって、プールの期間に最低でも二回は買い替えていた記憶があるよ。」

「髪が長いと長いで大変よねぇ……」



まぁな。
だが、髪の長さ以上に髪色の方が大変じゃないのか楯無?お前も簪も染めてなくてその色なんだろ?……こう言ったら何だが、子供の頃はその髪の
せいでからかわれたりしなかったのか?



「まぁ、そう言う事がなかったとは言わないけど、そう言って馬鹿にして来た奴等は男女問わず制裁してたから大丈夫だったわよ?
 私に言うのなら未だしも、簪ちゃんに彼是言ってくれたりチョッカイ出してくれた輩には、と~~~っても怖い目に遭わせてやったし、簪ちゃんの事を弄
 ってくれた教師は、当時の楯無だったお父様に頼んで、二度と教師が出来ない様にして貰ったし♪」

「子供の頃から何をサラッと恐ろしい事してるんだお前は……」

矢張りと言うか何と言うか、楯無は束さんや千冬さんと同じレベルで敵に回してはいけない相手だろうな間違いなく……仲間や大切な人には厚情だけ
れど、敵と認めた相手には何処までも冷酷非情になる事が出来るだろうしね。
齢十七で楯無の名を襲名したのは伊達ではないと言う事か……本当に、味方だと頼りになる事この上ないがな。



「うふふ、褒めても何もでないわよ夏姫?」

「褒めてる訳じゃないからな?……其れよりも、シャンプーはもう流し終わったのか?」

「うん、今はトリートメントの真最中よ。これだけ長い髪だとお手入れのし甲斐があるわね。」



そうか……ならばまだもう少し時間がかかるだろうから、マドカこっちに来い、髪を洗ってやるから。



「ナツ姉さん?……そうだな、お願いしようかな。」

「なら、此処に座れ。」

マドカの髪は長くは無いが、千冬さんと同じ綺麗な黒髪で手入れのし甲斐があるね……毛質も良いから、シャンプーも良く泡立つし、此れならば綺麗な
髪を維持する事も難しくなさそうだ。
さて、シャンプーを流すから目を閉じてろよ?



――ザバァ!!



「わぷ!?……シャ、シャワーかと思ったら洗面器で来たか!」

「こっちの方が一気に洗い流す事が出来るからな……アタシの様な超長髪ならば兎も角、お前位の髪の長さならば、寧ろこっちの方が一発でシャンプ
 ーが落ちるんだよ。」

「意外に豪快だなナツ姉さん……」

「細かい事は、あんまり得意ではないだけさ。」

マドカの髪を洗い終えたその後は、湯船に浸かって一日の疲れをリフレッシュだ……何やら鈴と乱と箒がサウナ勝負をしていたみたいだが、上せない
様に程々にな。



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そんな感じの日常を過ごして来たが、今日はいよいよISRIが男性用ISを発表する日だな――会場は、機体のデモンストレーションが出来るように屋外
なんだが、よくもまぁ国立競技場を借り切る事が出来たモノだ……否、束さんが本気を出せば此れ位は雑作もない事か。
今日この日を持って、ISは真の完成を見る事になる訳だからね。

そして、その会場には多くの報道陣と、各国の代表候補生が……まぁ、世界初の男性操縦者を有するISRIの重大発表となれば、此れ位の事になるの
は当然と言えば当然だな。
さて、時間だ――新たなる変革が始まる時のね。



「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。
 私はISRIの社長の東雲千鶴と申します――この度我が社は、ISを真に完成するに至りましたので、其れを発表しようと思い、この場を設けさせて頂き
 ました。」



東雲千鶴に変装した束さんの挨拶から、会見がスタートだ……しかしまぁ、あそこまで別人を演じ切る事が出来るとは、束さんは女優の才能があるんじ
ゃないだろうか?
まぁ、束さんはなんでもそつなく熟してしまう気がするけれどね。



「我がISRIは、此度『男性用IS』の開発に成功しました。
 蓮杖一夏君の専用機の稼働データを解析した結果、男性でもISを起動するには如何すればいいのかが解明され、そのデータをISに組み込んだ事に
 より、男性でも使用出来るISの完成にこぎつけました。」



で、一夏と言う存在が現れた時以上の爆弾を投下だ――男性でも起動出来るISが出来たと言うのは、今の世にとっては核爆弾級の衝撃だと言うのは
間違いないだろうからね。
特に『ISを使えるから女性は偉い』と思ってる輩にとっては、死刑宣告にも等しい事だろうさ……己が声高にしていた女性の優位性が一瞬にして無くな
ってしまったのだからね。



「此のアストレイ・グリーンフレームが男性用ISとなります――つきましては、この機体を、現在各国が保有しているISと同数だけ無償で提供しましょう。
 無論、望むであればそれ以上の数も出しますが、追加注文は無償ではなく有料なのでその心算で居て下さい。
 そして、更に重大発表第二弾――この度我が社は、ISコアの量産に成功しました!!」



男性用のISだけでも驚きモノだと言うのに、更なる爆弾としてISコアの量産まで明らかにしたか……まぁ、束さんが居るんだからコアの大量生産は何時
でも出来た訳だが、其れをも此処で明らかにするとはね。
此れは、ISRIに各国からコアの受注が来るかもしれないわ……開発部は大変だろうけれど、此れで漸くISは真の完成を見たと言えるだろうな。



その後は、グリーンフレームが真に男性用のISだと言う事を知らしめるために、報道陣の中から男性カメラマンを一人選び、男性用ISであるアストレイ
グリーンフレームを使って貰うデモンストレーションだ。
初めて動かすと言う事だったから動きはぎこちなかったが、其れでも男性がISを起動したと言う事実を世に知らしめることが出来たのだから、この記者
会見は大成功だったと言えるだろうね。

其れは兎も角、男性用ISの開発と、ISコアの量産と言う事が相まって、ISRIの株価は急上昇して天井知らずになっているみたいだね……だが、今回の
事で女尊男卑なんて言う下らない風潮は絶滅間違いないだろう。
この下らない風潮のせいで、ドレだけの男性が冤罪や不当な解雇を喰らったか分からないからね――だが、男性用のISが世に現れた以上、其れも終
わりさ。

普通に考えると、女尊男卑の風潮のせいで不当な扱いを受けた男性の報復があると思うのだろうが、女尊男卑思想の根源であった女権団はアタシ達
の手で壊滅し、そのメンバーはあの戦闘で死んだか、或いは捕縛されて檻の中になった訳だから、その結果で男性諸氏も一応の留飲は下がったと思
うから、其処まで混乱はない筈さ。

そうでなければ束さんだって男性用のISの開発成功の発表には至らなかったと思うしね。――だが、男性用のISが登場したとなったら、学園も大変だ
ろうな?
グリーンフレームが訓練機として貸し出されるのは間違い無いが、来年以降は男子生徒も受け入れなければならない訳だからな……此れは、学園に
戻ったら暫くは生徒会室に缶詰め間違いなしか。



「其れは仕方ないけど、一夏君って言う存在が明らかになったその時から、何時新たな男性操縦者が現れても良いようにちゃんと準備はしていたから
 それ程大変じゃないと思うわ。
 男子寮を建てる為の予算も確保してあるからね。」

「ふ、準備が良いな楯無。」

何にしても、これでISは真の完成を見た訳だ……ふふ、間違いなく此処から世界は新たな革新に向かって行く筈だ――束さんも、其れを願って男性用
ISの開発と、コアの量産に踏み切ったのだからね。
同時に此れは、束さんから白騎士事件を起こさせた相手への宣戦布告でもある訳か……ISを兵器として認知させ、女尊男卑の風潮を広めた相手に対
して、今回の事は強烈なメッセージになるだろうからな。

白騎士事件を束さんと千冬さんに起こさせた犯人は、恐らくはライブラリアンだろうな……イルジオンから聞いた限りでは、教授とやらは束さんとタメ張る
だけの頭脳があるらしいからね。

まぁ、貴様等とは何れ決着をつけてやるから、その時が来るのを首を洗って待っているが良い……イカレタ観測者など、この世界にはマッタク持って不
要なモノだからね。








――――――








Side:イルジオン


男性用のISか……つまり、其れが現れた事で女尊男卑の思想は粉々に砕け散った事になる訳だ――此れまで、女性だと言う事だけで威張り散らして
いた輩も、此れで大人しくなるかもしれんな。
しかしまぁ、男性用のISにコアの量産とは、流石だな篠ノ之束は――大天才とは、彼女の事を言うのだろうな……本気で、こっちの外道とは比べるのも
失礼な位だわ。
教授は正に外道。外道・オブ・外道……外道の極致に居る様な奴だからね……教授以上の外道が居ると言うのならば是非とも会ってみたいモノね?



「褒めているのかディスってるのか、分からないよイルジオン。……其れとちょっと締まってるのだがね。」

「まぁ、頑張って脱出してくれ、健闘を祈る。祈るだけだがな。」

男性用ISの発表を見て、何やら不気味に笑っていて気持ち悪かったので、手加減とか一切なしのチョークスリーパーで絞め落してターンエンドってね。
教授の事だから速攻で復活するのかもしれないが、其れならば、其れで構わんさ。……そもそも教授の生命力は黒いG並みだから、そう簡単に死ぬと
も思えないしな。
お前の力はライブラリアンにとってなくてはならないモノだし、教授が居なければ兵士の強化や機体の開発も出来ないからね。


其れよりもオリジナルよ……次に会うのが何時かは分からないが、次に会ったその時は私の全力を以てしてお前を殺す――お前を殺し、真に私が私
になるのが、私の生きる意味であり望みなのだからね。
次に会ったその時は、存分に戦おうオリジナル――否、私のたった一人の妹である夏姫よ……お前と再び戦場で見える日が来ると信じているよ……
その時は京都の時の様な手加減は無しだ、互いに、全力でやろうじゃないか。

たった一人の妹を殺す事しか出来ない私を許せとは言わないが、私がお前を殺し損ねたその時は、お前の手で私を滅してくれオリジナル……オリジナ
ルに葬られるのならば寧ろ本望だと言えるからね。

遠くない未来に確実に訪れる其の時が来たら、どんな結果であってもありのままに受け入れるだけだ――私とお前が戦うと言うのは、最早運命すら超
えた宿命だからな。
私が誕生し、そしてお前が完成したその時から、此れは決まっていた事なのかも知れん。



「ふふふ、その通りだイルジオン。君と夏姫君の戦いは、最早逃れる事の出来ない宿命なのだよ!」

「復活するのが早いな教授……本気でお前の生命力はG並みか?殺しても中々死なない外道とは、流石の私も少し引くぞ?」

「其れは褒め言葉と受け取っておこう。」

「……此れを褒め言葉と受け取るとは、相当に根性ひね曲がってるなお前は。今更かも知れないけれどね。」

ともあれISRIの『作戦』は成功した――今は其れを広げている最中か……何にしても変革の時はなった、後は人々がどのような選択をするのかだな。

此れから先の未来がどうなるのか、楽しみだ。








 To Be Continued… 





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