Side:イルジオン


篠ノ之束が男性用ISを発表したと言うのは、お前からしたらある意味で敗北にも等しいんじゃないのか教授?――白騎士事件を、篠ノ之束と織斑千冬
に起こさせて、世界を女尊男卑にしたのはお前なのだからな。
結果的に女尊男卑の世界を作らざるを得なかった篠ノ之束によって、世界は新たに上書きされてしまった……何とも皮肉が利いているものだ。
だが、其れはまぁどうでもいい事だから、必要以上に追及はしないが……一秋と散に何をしてるんだ?アイツ等の強化と調整は一応終わったのではな
かったっけ?



「うむ、強化と調整及び改造は終わったが、一秋君と散君には決定的な物が欠けているのだよ――彼等の憤怒の感情は凄まじい力を生み出すだろう
 が、如何せん彼等の戦い方はあくまでもスポーツの延長上に過ぎない。
 其れでは大凡彼女達に勝つのは不可能なのでね、最後のトリガーデータをインプットしてやろうと思うのだよ。」

「……トリガーデータ、だと?」

「そう、トリガーデータ……人を殺すためのデータだ。」



人を殺す為のデータ……其れをインストールする事で、一秋と散を殺人マシーンに作り替える心算か――否、私が回収した二十五人のゴーストの隊員
も同じ運命を辿るのかも知れんな。
そう言えば教授、この間の事なんだが、どうやってIS学園に気付かれずに仕掛けをしたんだ?



「なに、簡単な事だよイルジオン……ダミーのIDを使ってアクセスしただけだ。
 シンプルな手だが、ダミーIDと言うのは限りなく本物のIDに近いからセキュリティシステムが働く事は先ず無いのだよ――元々は正常な細胞が変異し
 たモノであるガン細胞を免疫が攻撃しない様にね。」

「シンプルな手だからこそ効果もあると言う訳か。……ん?此れは何だ――?」



――ヴィーン



……気になったファイルをタップしたら、其のまま何処かにインストールされてしまったんだが、此れってもしかして触れてはいけないタイプのファイルだ
ったのか?



「イルジオン……君は一体何をしてくれたのだね!
 今君が何処かにインストールしたのは、私が開発途中の体感型恋愛シミュレーションゲームだったのがねぇ?」

「……謎の結社の親玉が何を作ってるんだオイ。」

しかも戦略シミュレーションならば兎も角、なんで恋愛シミュレーション、もっと言うならギャルゲーなのか……天才の考える事は凡人には理解出来ない
とは言うが、天災の外道が考える事はホントに良く分からんな。
取り敢えず、此れがインストールされてしまった何処かの方々は、PCのアプリを起動する際には気を付けてくれ……インストールされたゲームがイキナ
リ起動するかもしれないからね。
……時にインストール先がIS学園だった場合はどうなるのだろうか?……何やらとても愉快な事になる気がするが、アイツ等ならば何が起きても多分
何とかしてしまうだろうな。……時に教授が作った恋愛シミュレーション、一体どんなモノなのか少しだけ興味が湧いたのは秘密だ。









Infinite Breakers Break99
電脳ダイブ訓練~Love&Purge~』








Side:夏姫


束さんが男性用ISを発表した事で世界がどうなるかと思ったが、思った以上に大きな事は起きなかったわね――まぁ、女尊男卑の思想に染まり切った
阿呆が全国で一斉に、其れこそ狙ったかのように犯罪に手を染めてその結果全員がお縄になると言う事はあったけれどね。

まぁ、そんなモノは些細な事に過ぎないだろう――寧ろ、此れまで虐げられてきた男性諸氏が、反動で女性達に対して報復を行わなかった事がアタシ
は驚きだったよ。
何の理由もなく不当な扱いを受けた男性達にとって、男性用ISと言うのは待ち望んだ物でもあり、其れが現れれば女性の社会的優位は完全に崩壊す
るから、溜まりに溜まった鬱憤が爆発するんじゃないかと危惧していたからね。
そんな事になる筈がないとは思っていても、矢張りどうしてもその可能性を考えてしまうからね……アタシの杞憂であってよかったよ。



「そうね……もしかしたら束博士はこうなる事も予想して女権団を叩きのめしたのかも知れないわ――女権団が健在だったら、其れこそ冤罪や不当解
 雇を喰らった男性達が、女権団に殴り込み掛けたのは間違い無いと思うもの。
 ……まぁ、女権団が健在だったら男性用ISお披露目の場に乗り込んで来て、会場が即戦場になったかも知れないけれど。」

「あぁ……確かにその可能性は十二分にあったな。」

一夏がISを動かしたと発表した時だって、ヒットマンを報道陣に紛れ込ませて来たからね……男性操縦者以上に、自分達の立場を危うくする男性用IS
を破壊しようとカチコミ掛けて来ても何ら不思議じゃないわ。――まぁ、そうなった所で即返り討ちな訳だけどね。
何にしても、此れで女尊男卑などと言う下らない風潮は淘汰されて絶滅して行くだろうさ……一部の勘違い馬鹿共の『ISを使えるから女性は偉い』と言
う謎理論は、もう通用しないのだから。

其れは其れとして、男性用ISの登場で一番大変な事になってるのはIS学園だな……来年度からは男子生徒も学園に来るだろうから、その為に色々と
やらなければならない事があるからね。
大浴場は既に男子用があるから兎も角、寮の部屋を増設した上で男子棟と女子棟に分ける必要があるし、男子用トイレと更衣室の増設も急務……他
にも色々あるが、そのせいで生徒会が処理しなくてはならない書類の数が物凄いわ。
此れでも、教師陣が処理しなくてはならない書類と比べたらまだ少ないらしいんだが、生徒会の人数を考えたら一人当たりの処理する量では絶対にア
タシ達の方が多いよな?



「間違いなく多いわよ?
 生徒会のメンバーは四人だけど、本音は書類処理とかでは戦力外だから実質三人ですもの……普通なら絶対無理だわ――まぁ、そんな訳だから一
 夏君達にヘルプをお願いしたんだけどね。」

「すまないな、手伝って貰って。」

「此れ位は別に大した事じゃねぇって夏姫姉。寧ろこの量を三人で何とかしろってのが無理ゲーだからな……でもさ、一つだけ聞いて良いかな?
 夏姫姉、楯無さん、何してんの?」

「何、とは?」

「何かしら?」

「あのなぁ、なんで夏姫姉の膝の上に楯無さんが座ってんだよ!?
 しかも向き合うとか背中を預けるとかじゃなくて、椅子に横に座るような形で!!……其れだけなら、『仕事しろ!』で終わるんだけど、夏姫姉は楯無
 さんの腰に左腕回しながらも右手で持った書類は読んで処理してるし、楯無さんは楯無さんで夏姫姉の肩に右腕回しつつ左手で書類処理してるから
 『仕事しろ』とも言えねぇし!」

「いっやぁ、夏姫と楯姐さんはナチュラルにこう言う事をする事に先ずは突っ込むべきじゃないかしら一夏?……って言うか、ぶっちゃけて言うと一夏が
 突っ込まなかったら気付かなかったわアタシ。」

「お前もだったのか鈴、私もだ。」



なんだ、此れの事か?……別に大した事ではないだろう此れ位の事は。
少なくともアタシにとっては此れ位は日常茶飯事と言っても良い位だぞ?……何時の頃からだったか、生徒会室で生徒会の業務を行う時は、この状態
が普通になってしまったからな。



「マジか!?のほほんさんはあれで良いのか!?虚さんも何とか言ってやってください!!」

「ナッキーとお嬢様が良いならそれでいいかな~~って。ちゃんと~、仕事はしてるしね~~?」

「寧ろ、ちゃんと仕事をしない貴女の方が問題ですよ本音……
 私としても生徒会の業務に支障はきたしていないので別分問題はないかなと……と言うか、私も弾君とあんな言う事をしてみたいと言いますか、少し
 羨ましいと言う思いはありますが……」

「ヤッベー、ストッパーがいなかった此れ!!」

「いやぁ、今日の一夏の突っ込みは一段と切れ味が良いわねぇ箒?」

「そうだな。斬鉄剣も真っ青な切れ味だ……因みに、この場合の斬鉄剣はボスに対して使っても大抵効果のない方ではなく、某大泥棒の仲間の侍が
 使う方でな。」



……絶好調だな一夏。
だが、アタシと楯無の事が気になるなら、いっその事お前も同じようにしてみたら如何だ?お前なら、片膝に鈴と箒を夫々乗せても全然大丈夫だろ?



「あら、其れは良いわね夏姫?鈴ちゃんと箒ちゃんも、一夏君にやって貰いなさいな。
 単純な事ではあるんだけど、此れって結構いいモノよ?……なんて言うかこう、ハグやキスとはまた違ったモノがあるのよ膝椅子は――この何とも言
 えない距離感が溜まらないのよ~~♪」

「ハグとは違って、空いた手で仕事その他が出来るのもポイントだな。」

だがな、一夏……お前の鋭い突っ込みは称賛に値するが、お前がアタシと楯無に突っ込みを入れる事が出来る立場か?乱に聞いた話だと、二組では
割とナチュラルに鈴とイチャ付いてるそうじゃないか?
其れから、四十院が言うには剣道部では休憩中に箒と随分と仲良くやってるみたいだな?……そんなお前が、アタシと楯無に突っ込んで良いと思って
いるのか?
盛大に突っ込んでくれたが、お前もアタシ達と同類だからな?



「ぐ……そう言われると何も言えねぇだろ夏姫姉……」

「そうだな、何も言えないな……だが、ショックを受けてる暇が有ったら手を動かした方が良いぞナツ兄さん。私達が助っ人に来たとは言え、処理しなく
 てはならない書類はまだまだあるのだからな。」

「……だな、頑張るかマドカ。」



アタシの一撃に其れなりのダメージを負った一夏だったが、マドカの一言で即復帰したか――一夏はシスコンと言う訳では無いんだが、そうであっても
妹からの一言は身に染みるらしいな。
っと、朱肉のインクが切れた。マドカ、インクを充填してくれ。其れから代わりの朱肉を取ってくれるか?



「了解だナツ姉さん。……何と言うか、平和だな。」

「あぁ、本当に平和だな。」

束さんによる二度目の世界変革が行われたとは思えない程に世界は平穏無事なモノだよ……其れこそ、この空気と長時間触れあって居たら、間違い
なく平和ボケの『平和廃人』になってしまうしてしまう位に平和だね。

尤も女権団が崩壊し、男性用ISの登場で女尊男卑の風潮が淘汰されて行ってるとは言え、此れまで起きた事件の黒幕とも言える謎の組織――ライブ
ラリアンが健在である以上は、この平和は一時のモノに過ぎない、正に嵐の前の静けさなのかも知れないけどね。

「取り敢えず、仕事の手を休めるなよ?」

「一人当たり三百枚が本日のノルマだから♪」

「「「「ブラック企業か!!」」」」



失礼な、ブラックではないと思うぞ?……文句を言うのならば、此れだけの書類を生徒会に回して来た教師陣と、男性用ISを開発した束さんに言ってく
れ――アタシ達が忙しくなった原因は其処だからね。
まぁ、束さんのやった事は世界的に見れば、実に素晴らしい事だったから、文句を言う気にもならないからな。
しかし、一夏の存在が明るみになった時からある程度の準備をしていてこの仕事の量とは、マッタク全然準備をしていなかったらドレだけの激務になっ
ていたのか……想像するのも恐ろしいな。


――因みに、この後もガンガン業務を熟して、全部が終わった時には、時計の針が夜の八時ジャストを指していた……今日は晩飯はなしかと思ってい
たんだが、生徒会の仕事に駆り出されなかったレギオンのメンバーが全員分の弁当やら何やらをキープしていてくれたのは素直に嬉しかったよ。



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其れから数日後、本日は土曜日だから本来は学校は休みなのだけど、アタシを含めた学園の専用機持ちは全員学園地下のアクセスルームに集合し
ていた。
と言うのも、今日は此れから『電脳ダイブ』の訓練を行うからだ。
電脳ダイブそのものは、ISの操縦者ならば誰でも行う事が出来るんだが、自分の精神を直接電脳世界に送り込む訳だから可成り大変な事であるのは
想像に難くないからこそこうやって訓練が必要になる訳だね。



「蓮杖さん、久しぶりだね?」

「ブリーズか……本当に久しぶりだな?――最近まったく見てなかったから、風邪でも引いたかと思っていたが息災の様だな?……思えば、お前は新
 フランスの代表でもあったな。
 元気そうで何よりだ。」

で、その場にはシャルロット・ブリーズの姿もか……彼女はISRIのメンバーではないが、フランスの代表で専用機も持ってる訳だから、此処に居ても何
らオカシイ事は無いと言う訳か。
……だが、悲しい事に他の面子――主に新たに学園にやって来た代表候補生の個性が強いせいで、声を掛けられるまでお前の存在に全然気付いて
なかった。
もう少し自分のキャラと言うモノを確立した方が良いと思うぞブリーズ。



「声掛けるまで気付かなかったって、僕ってそんなに影薄いかなぁ?」

「いや、影が薄いんじゃなくて個性が薄いんだよお前の場合。
 特に髪型に特徴がある訳でもなければ、金髪だってフランス人なら珍しくもないし、唯一の特徴が『僕』って言う一人称だけってのは少しばかり弱い。
 出戻りのフランス代表って付け加えても良いんだけど、其れは流石に如何かと思うしなぁ……頑張って個性を磨けよブリーズ。」

「あ、相変わらず姉弟揃って容赦がないね?……敵意とかは全く感じない分余計に何かと突き刺さる気がするのは僕だけなのかな?」

「「安心しろ、お前だけだ。」」

「いや、二人ともわざとやってるよね其れ!?」

「あらあら、一々反応が良いわねぇシャルロットちゃんは♪」

――【リアクション芸人♪】



弄った側のアタシが言う事でもないと思うが、其れは何かが違うと思うぞ楯無よ……だがまぁ、此れ位の遣り取りは普通に出来るし、聞いた話だと三組
のクラス代表として中々頑張ってるみたいだから、そろそろ距離を縮めてやっても良いか?
まぁ、最終決定を下すのはスパイ未遂を働かれた一夏か……一夏がブリーズを認めれば、恐らくは誰も何も言わないだろうしね。

「其れで織斑先生、山田先生、ミューゼル先生、電脳ダイブの訓練と言う事で専用機持ちが集められた訳なんですが……この人数で訓練するって言う
 のは少々無理がありませんか?」

「そうよねぇ?去年までは専用機持ちは私とダリルちゃんだけだったけど、今年は一気に二十四人にもなっちゃってるんだから、一気には無理だわ。
 そもそもにして電脳ダイブ用の装置だって七台しかない訳だしねぇ?」

「其れに関してはちゃんと考えてあるから安心しろ。
 電脳ダイブの訓練は全体を四つの組に分けて行う事とする。全員を集めたのは、訓練に関する事前説明を一度で終わらせる為だ。――さて、新たに
 学園にやって来た代表候補生も含め、IS学園が旧アメリカの極秘部隊からの襲撃を受けたのは既知の事だと思うが、その際のサイバー攻撃では外
 部からの割り込みで、電脳ダイブを行った者が電脳空間に捕らわれると言う事態が発生してしまった。」

「此れを仮に『ワールド・パージ』と命名したのだけれど、今回皆には疑似的に再現された『ワールド・パージ』を体験して貰おうと思ってるのよ。」



アタシと楯無の発言を受けて、織斑先生とミューゼル先生が説明を始めてくれた訳だが、電脳空間に捕らわれた体験をするとは、疑似的なモノであると
言っても果たして大丈夫なのだろうか?
一夏から聞いた話だと、人によってはトンでもない世界が再現されるとの事だったが……



「アレを体験する訳ね……アハハ、一夏の姿をした偽物が出てくるアレをねぇ?……今度もアレが出て来たら、その時はキッチリ嫁壱号として成敗して
 やらないとだわ。」

「バイオとDMCとジェイソンとフレディ……今度は何が出て来るんだろう?」

「次こそはティラノサウルスをハントして、恐竜肉のワイルドステーキをゲットだね!!」



何やら本当にトンでもない世界が再現されてるみたいだが、鈴は一体何を体験したのやら……詳細を聞きたい所だが、身体から迸ってるオーラが怖く
て聞けない。まるで殺意の波動かオロチの暗黒パワーだな。

「……あの時に実際に体験した連中の事は取り敢えず放置しておくとして、安全性の方は大丈夫なんですか?電脳空間内に作り出された幻想空間を
 疑似体験すると言うのは少々不安なのですけれど……」

「其れについては心配無用だ蓮杖姉。
 この疑似ワールド・パージは、学園で再現したモノであり、此方で完全に制御している――其れこそ、束並みの頭脳とハッキング技術を持った奴が何
 かしてこない限りは大丈夫だ。
 序にこの間の一件の後で、学園側のサイバーセキュリティを束に強化して貰ったから問題はあるまい。」

「あぁ、姉さんが一手加えたのならば大丈夫だろうな。」



箒の言うように、束さんがセキュリティを強化してくれたのならば大丈夫だろうきっと。――取り敢えず話を纏めると、今回の訓練は、学園側で疑似的に
再現した通称『ワールド・パージ』を夫々が体験する事で、同じ事が起きた時の対処法を身に付けようと、そう言う事で良いでしょうか山田先生?



「はい、其の通りです蓮杖さん。
 ですが、蓮杖君だけはダイブせずに私達教師陣と一緒に皆さんのサポートを行って貰います。」

「へ?俺が、ですか?」

「前回、一夏が捕らわれた皆を救い出したから、その経験があれば対処法をアドバイス出来るからだと思う……んだけど、実際にアドバイスって出来る
 対処法なの?」

「其れは……ちょっとノーコメントだ簪……ぶっちゃけ、俺がいてサポートになるとは思わねぇって。
 寧ろ、助け出す側だったせいで電脳世界の幻想空間をガチで体験してない分、俺もダイブした方が良いんじゃないのか?」



如何やらアタシの予想は大当たりだったみたいだね。
だが、一夏がサポートに回ると言うのは、本人も言ってる様に余り意味がないのかも知れないな?あの時助け出したとは言え、其れが誰にでも出来る
訳では無いからね。
寧ろ本人が希望してるんだから一夏もダイブさせた方が良いと思うわ。

「お前は如何思う楯無?」

「そうねぇ、此れは夫々のログはバッチリ残る訳だし、一夏君には是非とも電脳ダイブをして貰いたいものだわ~~♪……世界初のIS男性操縦者の幻
 想空間なんて、とっても楽しそうだしね?」

「楯姉さん、其れ訓練の趣旨から可成りずれてると思うんだけど如何よ?」

「あら~~、鈴ちゃんは興味ないのかしら?」

「いえ、めっちゃ興味あります!!」

「いや、あるのかよ鈴!!」

「わ、私も興味がないと言えば嘘になるな、うん。」

「お前もか箒!!」

「ナツ兄さんの幻想空間……何だかとても面白い事になりそうなのは気のせいだろうか?」

「其れは間違い無くお前の気のせいだマドカ!!って言うか、俺の幻想空間なんて見たって面白くねぇって!誰得だよ其れ!!」



さて、誰だろうな?少なくとも鈴と箒は得であるのは間違い無いと思うぞ。……かく言うアタシも興味がないと言ったら、其れは嘘になるからね――と言
うか、お前に限らず誰もが自分以外の誰かの幻想空間には興味があるんじゃないのか?
どんな世界が再現されたのかで、そいつの深層心理が明らかになる場合もあるだろうしね。



「はいはい、少し落ち着きましょう?
 時間は限られているから、早速訓練を開始するわ――で、二十四人を四つの組に分けるのだけれど、此れはちょっとした遊び心として、このPCアプリ
 のルーレットを使おうと思ってるの。
 このルーレットに選出された六人がダイブを行って、他は待機と言う形を取らせて貰うわ。」

「楽しそうだな、叔母さん……」

「ダリル、その気持ちは少し分かるかも知れん――が、この方法は案外悪くないかも知れないぞ?組み分けがキッチリされて、訓練の順番が分かって
 いるのなら、ある程度気持ちを落ち着かせる事も出来るが、ランダムに選出されるのならば自分の番が何時回って来るか分からない、ある意味で実
 戦に最も近い形での訓練が出来るからね。」

「ふむ、言われてみればその通りだね夏姫……即座にその可能性に気付くとは、君は美しいだけでなく聡明で頭もキレるらしい――ふふ、益々君を私
 の百人目の百合にしたくなったよ。」

「だからならんと言ってるだろうがロラン。」

コイツの諦めの悪さには、ある意味で感心しても良いかも知れん……何度も言うが、アタシは楯無以外と付き合う心算はマッタクない上に、百合ハーレ
ム構築する予定もマッタクないからな。

なんて事を言ってる間に、最初のメンバーが選出されたみたいだが、最初に訓練に臨むのは、楯無、ダリル、ヴィシュヌ、ブリーズ、コメット姉妹か。コメ
ット姉妹は二人で一つのISを使ってはいるが、電脳ダイブの際は別々に行う事になるのか……少し不思議だな。

「先発メンバーに選抜されたが、頑張って来いよ楯無?生徒会長として、他の生徒の模範になるような対応をしてくれる事を期待しているぞ。」

「あらあら、夏姫にそう言われたら頑張るしかないわよねぇ?……良いわ、第十七代更識家当主、更識楯無の実力をじっくり見せてあげちゃうから♪
 私に惚れ直させてあげるわよ夏姫。」

「ほう、其れはとても楽しみだ。」

「おぉっと、見せつけてくれんねぇ、此のラブラブカップルは?フォルテなんぞ『ダリル、ガンバっス!』だけだぜぇ?……まぁ、其れだけでも充分アイツの
 言いたい事が分かっちまう自分が複雑なんだけどよ。」



ダリル、其れが分かれば良いだろうとアタシは思うよ?――愛されてる事が実感出来てる訳だからね。
取り敢えず、気を付けて……と言うのも何だか変だが、とにかく気を付けて行って来てくれ。



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・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

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・・・



先発組である楯無達がダイブしてからそろそろ三十分、一回当たりのダイブ時間がジャスト三十分だから最初の訓練もそろそろ終わりか……何も起き
なくて良かった。
ホイ、スペードのジャックとエースでトゥルーブラックジャックだ。



「うわ、また負けたし!夏姫、お前ゲームも強いねぇ?」

「いや、そうでもないぞグリフィン……アタシは大勝ちしたら其の後でまるで帳尻を合わせるかのように大負けしてしまうんだ――勝ってる時は勝ちまく
 るが、一度負けると負け数が勝ち数と同じになるまで負けるんだよアタシは。」

「其れは、ISバトルやISなしでのバトルでも?」

「いや、あくまでもゲームに限っての話だ。」

待機中は暇なので、スマホのアプリでグリフィンとブラックジャックで対戦中――注意されるかと思ったが、本来は学校が休みの土曜日の訓練だったと
言う事もあるのか、織斑先生ですら何も言わなかった。
……否、何も言わないどころか、ただいま絶賛一夏とスマホの格ゲーで対戦中みたいだからね?――一組の生徒が此れを見たら大層驚く事だろう。



――ビー!ビー!!



「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」


って、何だ此の音は行き成り?――まさか!!



「き、緊急事態発生!学園のサーバー内で謎のプログラムが起動!……最終ファイヤーウォール、突破されました!疑似ワールド・パージを侵食!!
 プログラムの侵入経路、プログラムの製作者、共に不明!!」

「謎のプログラムだと?其れも学園内のサーバー内で起動したとは、何時の間にか入り込まれていたと言うのか?……馬鹿な、束が構築したセキュリ
 ティを突破したとでも言うのか?……だとしたら、信じたくない悪夢だな。」

「えぇ、其の通りだわ千冬……でも、そんな事を言ってる場合じゃないわよ此れ――こっちからの指示が届かない……違うわ此れは、ネットワーク通信
 が遮断されている!
 此れじゃあ、状況の把握も出来ないわ!!」



予感的中で問題発生か……しかも、ネットワーク通信も遮断されたとあっては、ダイブした皆との連絡を取りようがない――疑似ワールド・パージが侵
食されていると言っていたが、皆は、楯無は無事なのか?
もし楯無に何かあってみろ、そのプログラムを作って仕掛けた輩を束さんも巻き込んで探し出して、アタシの知り得るあらゆる方法を駆使してジャスト十
七分割した上で亜空間にばら撒いてやる。



「……ナツ姉さん、顔が怖いぞ?」

「すまんマドカ、少しばかり興奮してしまったみたいだ。」

だが、状況はお世辞にもいいとは言えないだろう?ネットワーク通信が行えない以上はダイブした者達との連絡は取れないし、正体不明のプログラム
に侵食されてしまった以上、疑似ワールド・パージを強制的に終了する事も出来ない……そんな事をして、ダイブした皆が未帰還者にでもなってしまっ
たら大問題だからね。

さて、如何したモノか――って、何をしてるんだ箒?



「えぇ、はい。そうです、少し問題が……なので少し力を借りたいかなと思いまして……分かりました、では浴衣と部屋着と袴姿の写真で如何でしょう?
 ……もっと露出度の高いやつが良い?……調子に乗ってると殴りますよ?
 とにかく早く来てください、事は一刻を争うかもしれませんので。」

「箒、若しかして今のは……」

「うむ、姉さんに連絡したんだ一夏。あの人の事だから、三十秒もあれば此処に――「ヤッホーい、やって来たよ箒ちゃん!!」……三十秒も必要なか
 ったみたいだな。」



……束さんに連絡していたのか、良い判断だね。
そして、箒との電話が終わった僅か三秒後にやって来た束さんは流石すぎる――恐らくだが、あの並行世界移動装置を使って並行世界に行ってから
出発後の三秒後のIS学園のアクセスルームに戻って来たって所だろうな。



「おぉ、夏姫ちゃん大正解!!
 其れから、直接会うのは大分久しぶりだね皆!!初めましての方は初めまして!私こそがISで世界転覆を目論む、正義のマッドサイエンティスト篠ノ
 之束さんだよ~~!」

「束……まぁ、お前が来てくれたのならば百人力だが――お前が強化した筈の学園のセキュリティを突破して来たプログラムが、疑似ワールド・パージ
 を侵食してしまったのだが……」

「うん、其れは箒ちゃんから聞いたから、速攻で其れの正体を解析してみたんだけど……こりゃ、ダミーのIDを使って外部からインストールされたモノだ
 ね?……しかも、まさかのギャルゲー。」


「「「「「「「「「「……はい?」」」」」」」」」」



で、束さんが解析した謎のプログラムの正体を聞いて、思わずその場にいた全員の目が点になった……何でギャルゲーのデータが学園内のサーバー
にダミーIDを使ってまでそんな物がインストールされていたのか?
そして、何で其れが今の今まで起動しなかったのか……謎過ぎるんだがなぁ?



「ん~~……此れって、如何やら大きなプログラムを実行した時に、連動して起動するみたいで本来は危険性は皆無っぽいけど、今回は似たようなプ
 ログラムである疑似ワールド・パージとやらに引き寄せられる形で侵食しちゃったみたいだこれ。」

「益々意味が分からないですよ束さん……まぁ、どうしてそんな事になったのかは、この際如何でも良いので、如何すれば疑似ワールド・パージに閉じ
 込められた皆を助け出す事が出来るんですか?」

「うん、其れは至ってシンプル。現在ダイブしてない誰かがアクセスして、ゲームをクリアすれば良いんだよ――ギャルゲーだから、一人でも攻略してし
 まえばクリアになるから、そうすれば全員が解放される筈。
 とは言っても、ギャルゲーは一人プレイ用のゲームだから、必然的にアクセスできるのも一人になっちゃうんだけどね~~?」



面倒なのかバカバカしいのかよく分からないプログラムだが、そう言う事ならばアタシが行こう。



「待てよ夏姫姉、此処は俺が行った方が良いんじゃないか?其れこそ、前の時の経験がある分だけ、俺が行った方が確実性が高いと思うぜ?」

「其れは一理あるが、今回がギャルゲーと融合した世界だから、クリアするまでの間に幾つか選択肢が出てくると思う――その選択肢を誤ったらクリア
 出来ないかも知れないしね。
 何よりも、楯無が捕らわれてるのならアタシが行った方が確実だ――攻略対象を楯無にしてしまえば、大体当たりの選択肢を選ぶ自信があるさ。」

「確かに、ギャルゲー仕様だって言う事を考えると、一夏よりも夏姫の方が良いかも知れない――と言うか一夏は、鈴と箒が居るんだからギャルゲーな
 んてやらなくて良い。
 お姉ちゃんは捕らわれの姫状態だから、夏姫が助けに行くのが正解だから。」

「簪、流石は良く分かってるね。」

と言う訳で、アタシがダイブして楯無を攻略して皆を解放して来るから……止めないで下さいよ織斑先生……尤も、止めた所で止まる心算は微塵もあり
ませんけれど。



「ならば言うだけ無駄だろうに……ならば行ってこい蓮杖姉。そして全員と帰還しろ。」

「了解。蓮杖夏姫、電脳ダイブ、行きます!!」

さてと、人生初の電脳ダイブ、一体何が起きるか、だな。








――――――








Side:楯無?


はぁ~~……行商人を装った暗殺者に毒リンゴを持たせたて来たと思ったら、今度は通常の倍はありそうなイノシシをけし掛けて来るとは、お母様った
ら、そんなに私の事を殺したいのかしら?
巨大イノシシは返り討ちにして、此れで暫くは私のゴハンは確保出来たから良いけれど。

マッタク、娘の私が自分よりも綺麗で美人なのがそんなに気に入らないのかしらお母様は――まぁ、巨乳のロリ眼鏡のお母様よりも、私の方が肌の艶
も良いし、背も高いし、プロポーションの均整もとれてるのは間違いないけれどね。
だ・け・ど、私はそう簡単には殺されないわよお母様――だって私は、天下無敵の白雪姫なんだから♪











 To Be Continued… 





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