Side:夏姫


昼休み、ロランとクーリェを連れて屋上まで来たら、既に一夏と鈴と箒が、タイからの代表と一緒に屋上に来ていたとは、特に申し合わせた訳ではない
けれど、考える事は同じだったと言う事か。
少々空気を読み過ぎたかとも思ったが、一夏は『読んで読み過ぎる事はない』と言って居たからね……この分だと簪はカナダ代表の双子を、虚さんは
ギリシャとブラジルの代表を連れて来て、刀奈はダリルとフォルテを引っ張って来そうだな。



「其れで夏姫、君の恋人である楯無とは誰の事だ?其方の黒髪の綺麗な方かな?其れとも、ツインテールが愛らしい子だろうか?其れとも、此処まで
 一緒に来た他の子達かな?」

「どっちも違うしドレも違う。」

「行き成りなんだか凄いの来たなぁ?夏姫姉、その人誰?」



ロランツィーネ・ローランディフィルネィ、オランダの代表候補生で、アタシや楯無と同様の同性愛者で、同性の恋人が九十九人も居ると言う、ギネスに
申請したら『世界で最も多くの同性の恋人を持つ人物』に認定されると思われる奴だ。
そして、アタシに一目惚れして、百人目の恋人としようとしているらしい。因みに名前が長いから呼び名はロランで良いらしいぞ。



「行き成り濃いわねぇ……でもねぇロラン、悪い事は言わないから夏姫だけは止めた方が良いわよ?……楯無さんは悪戯好きでノリも良いから、大概
 の事は笑って許してくれるかもだけど、流石に夏姫を奪おうとしたら黙ってないと思うから!!」

「ご忠告痛み入るよツインテールのお嬢さん。
 だが、略奪愛もまた甘美なるモノだとは思わないかい?……愛しき相手をこの手にする為には手段を択ばない――もしも立ち塞がると言うのであれ
 ば、倒してでも進めばいいだけの事じゃないか。」





「ふぅ~~ん?其れは相手が『学園最強』であってもかしら?」





「勿論その心算さ……って、君は誰だい?」

「彼女がお前が会いたがっていた私の彼女である更識楯無――この学園の生徒会長にして、ロシア代表でISRIの企業代表。
 アタシと共に学園のトップ2を張っている最強の一角である存在だ……完全にタイミングが悪かったとしか言いようがないが、お前の発言は楯無の逆
 鱗に触れた事は間違いなさそうだな。」

屋上に現れた刀奈は顔は笑ってるが、身体からは黒いオーラが見える気がするからね……一緒に来たダリルとフォルテもビビってるじゃないか?
取り敢えず、何とか平和に事が収まりますように……そうとしか言いようがないな此れは。









Infinite Breakers Break97
Archetype Breaker:相見える者達』








そんな刀奈が、顔に笑みを張りつけたままロランの所までやって来たのだが、ハッキリ言って可成り怖い――此の顔で尋問とかされたら、余程肝が据
わってる奴でなければ、速攻失神間違いなしだろうに。
だが、其れを前にしても怯む様子が見られないロランは、流石と言うべきなのか何なのか……同性の恋人が九十九人も居ると、度胸が人よりも鍛えら
れるのかもしれないな。



「君が更識楯無、夏姫の恋人かい?」

「その通りよ、オランダ代表候補生ロランツィーネ・ローランディフィルネィ、通称ロランちゃん。
 私が夏姫の恋人で、IS学園の生徒会長、そして『学園最強』と言われている更識楯無よ、覚えておきなさいな――さて、早速本題に入らせて貰うとし
 ましょうか、ロランちゃん?
 夏姫は確かに極上のイケメン女子で、毎日のように下駄箱の許容量を超えたラブレターを貰ってるのも事実だから、貴女が一目惚れをしたとして、其
 れは仕方ない事って言えるし、其れ位なら私も何も言わないわ。
 だ・け・ど!私から夏姫を奪おうって言うのなら話は別――略奪愛は、全く無関係な第三者として見るのなら、ハラハラドキドキ修羅場劇場だけど、当
 事者になった場合は、笑って見過ごせる物じゃないのよ……其れは分かってるかしら?」

「……暗に『無関係なら観客として楽しんじゃう』と言ってる辺りがお前らしいと言うか何と言うか……まぁ、言わんとしてる事は分かるんだがな?」

「成程、君の言う事は尤もだ楯無。
 私だって、九十九人の恋人の内、一人でも奪おうと言う輩が現れたら黙って居られないからね――だが同時に、己が惚れた女性に、既に相手が居
 ると言うのであれば、奪ってでも自分のモノにしたくなると言う気持ちも分かる。
 私は夏姫に惚れてしまった……どうしても彼女をモノにしたい――其れこそ貴女から奪ってでも!!
 嗚呼、私をこんな気にさせるとは、君はなんと罪深いんだ夏姫……」



同性の恋人が九十九人も居るお前と比べれば、アタシの罪など取るに足らんぞ?寧ろ、複数相手が居る事を罪深いと言うのならば、鈴と箒と言う二人
の嫁が居る一夏の方が罪深い事になるぞ?
……嫁が二人になる最後の一押しをしたのはアタシだけど。



「夏姫が罪深いかどうかはこの際如何でも良いとして、私から夏姫を奪うと言う事は、つまり私を倒して奪い去ると言う認識で良いのかしら?」

「其れが妥当だと思うのだけれどね?
 何なら、夏姫を賭けて貴女に決闘を申し込んでも良い。」

「……何を言い出すかと思えば、夏姫を賭けて決闘ですって?馬鹿も休み休み言いなさいな。
 誰が大事な恋人を賭けの賞品にするモノですか……そんなのは映画や小説の中だけの事であって、現実世界ではあり得ない事よ――其れ位も分
 からないようじゃ、夏姫の隣に立つのは無理ね。」



で、ロランはアタシを賭けて刀奈に決闘を申し込む心算だったみたいだが、其れは申し込む前に粉砕されてしまったか……此れは、ロランとしては完全
に目論見が木っ端微塵になったと言う感じかな。
まぁ、賭けの賞品にされるのはアタシとしても気持ちの良いモノではないからね……と言うか、そもそもアタシに何の断りもなく商品にしないで欲しい。



「だけどねロランちゃん、貴女が私から夏姫を奪わずに、夏姫と付き合おうと言うのならば私は別に構わないのよ?」

「「え?」」


……思わずロランとハモッタが、貴女は一体何を仰ってるんでしょうか楯無さん?



「貴女にまるッと上げる心算は更々ないけれど、夏姫が貴女の百人目の恋人になって、貴女が夏姫の二人目の恋人になると言うのならば特別問題は
 ないわ私的には。
 英雄色を好むって言葉があるくらいだから、夏姫だったら幾ら側室が居ても正妻の地位は私のモノだし、夏姫の一番は私以外に居ないモノ♪」

「確かにそうかも知れないけど、すげー自信だな楯無さんは……」

「其れだけ夏姫と深く結ばれてるって事なんだろうけど、こうも堂々と言い放つ事が出来るのは楯姐さんじゃないと無理だと思うわ……箒は如何よ?」

「同意見だな……可成り無理だろうな。」

「……楯無、確かにアタシはお前の事を一番に思っているし、其れが変わる事は無いと自信を持って言えるが、そうもハッキリ言われると流石のアタシ
 も流石に照れるぞ?
 何よりも、アタシは複数の相手を平等に愛する等と言う器用な事は出来ないから、お前以外の相手など考えられんさ。」

「あら、そうなの?一夏君に嫁二人をOKしてたから、てっきり夏姫も複数の相手がイケる口なのかと思ってたわ……あんな事を言ってた割に、夏姫は
 純愛系なんだ~~?ちょっとカワイイ♪」



アタシは同性愛や一夫(婦)多妻を否定する気はないが、自分がそうかと言われればと言うやつさ。
アタシが無自覚な百合だったのは良いとして、だからと言って一婦多妻は絶対に無理なんだ……此れは持論だが、一夫(婦)多妻をやるのならば、全
ての相手を平等に愛してやらねばならないと思ってるんだよ。
其れが出来るのならば何も言わないが、其れが出来ずに女性を囲むのが目的になってる一夫(婦)多妻は言語道断だからね……アタシは、複数を平
等に愛する事が出来る器用さはないんだ。
真に愛する一人が居れば、他は必要ないのさ――その一人は、お前以外には居ないんだよ《刀奈》……



――プシュー!!!



「ってオイ、行き成りどうした楯無?」

「み、皆に聞こえないように、耳元で小声でそっちで呼ぶとか反則でしょ夏姫……さ、流石に今のは私でも大ダメージを喰らっちゃった感じかも……簪
 ちゃん、夏姫は最強だったわ!!」

「楯無さん気を確かに。其れと何を言ってるのか若干意味が分からないです。」

「うん、静寐の言うようにアタシも良く分からんぞ楯無。其れから、簪はまだ来てないからな?」

だがまぁ、そう言う事で、教室でも言った事だが、アタシは楯無以外と付き合う気は全くないから諦めてくれロラン……が、お前の恋人になる事は無理
でも、お前の友人になる事は出来る。
友人として仲良くしないか?



「あくまでも楯無しか恋人ではないか……君は本当に純情だな――だからこそ彼女を排除してしまえばとも思ったのだけれど、其れも無理か。
 だが、私は諦めないぞ夏姫?友人と言うのは大歓迎だが、その中で必ず君を私のモノにして見せる――要は、私が君にとって、楯無よりも魅力的に
 なれば良いだけの事だからね。
 そうして、君を私に夢中にさせればいいだけの事さ。」

「結局奪う気満々だなお前は……まぁ、アタシを賭けの対象にしていないだけマシだが、その道は険しいぞロラン――自分で言うのも何だが、アタシと
 楯無の絆の強さはハンパなモノではないからね?」

「ふふふ、そうね?
 私と夏姫の絆を切る事は何人にも出来はしないわよ――そう、例え九頭龍閃や牙突・零式を持ってしてもね♪」



牙突・零式は斬撃ではなく刺突であると言うのは突っ込まない方が良いんだろうなきっと。
結局のところ、ロランがアタシを狙っている事が変わる事はなかったが、まぁここら辺が落としどころと言うやつだろうな――強固に拒否した事が原因で
問題を起こされたら、そちらの方が面倒だしね。

そう言えば楯無、ちゃんと持って来てくれたか生徒会室に置いておいたアレは?



「抜かりないわ夏姫。
 この通りちゃんと持って来たわよ?……私と夏姫の力作、忘れるわけないでしょ♪」

「そう思ったが、一応の確認だ。」

「夏姫姉、其れなに?」

「其れは、全員が揃ってからのお楽しみだ一夏――ネタバレしたら面白くないしね。」

っと、次が来たみたいだが……あの特徴的な青髪は簪だな?――楯無とはまた違う青髪だと思うんだが、多くの生徒が其の違いを分かってないんだ
よね……結構違うと思うんだけれどなぁ?
其れは其れとして、簪の所に来たのはカナダの双子姉妹だった筈だが……



「あ~~!お兄ちゃんだ~~!!!」



その双子の片割れの蒼髪の方が、行き成り何か言ってるぞオイ?……お兄ちゃんって、カナダの双子姉妹にはIS学園で働いている兄が居るのか?
……否、アタシの記憶が確かならば教師&用務員名簿には其れらしき人はいなかった筈だ――生徒会長である刀奈も首を傾げてるから、彼女の『お
兄ちゃん』が学園の関係者でないのは確実。
何よりも此の屋上にはアタシ達以外の生徒はおろか、教師も用務員も居ない訳で……となると、『お兄ちゃん』と言うのは……



「おわぁ!?な、行き成りなんだよ!!?」

「えへへ~~、や~っと会えた!ずっとお兄ちゃんに会いたかったんだ♪」

「は?えぇ!?って言うか、お兄ちゃんって俺かよ!!
 つーか、その呼び方は色々とヤバいんだけど!主に俺の彼是その他諸々にとって!!初対面の相手から『お兄ちゃん』呼ばわりされるとか、世の一
 部の特殊性癖の奴しか喜ばないから!」



一夏の事だよな間違いなく。……マッタク、何の躊躇もなく飛びつくとは、余程一夏に会ってみたかったのだなと思うんだが……中々そう簡単じゃない
のがこの面子だ。



「初対面の年下女子に『お兄ちゃん』とか、一夏アンタ……」

「私はお前を理解している心算だったのだが、ぞの実は全くお前の事を理解出来ていなかった様だ……まさか、お前にこんな趣味があるとは思っても
 いなかったよ。」

「一夏……最低ね貴方?」

「アタシの時は鈴お姉ちゃんに許可を求めたのに、其の子には無許可なんだ……へ~~~~?」

「一夏、流石に其れは如何かと思う……ちょっと軽蔑。」

「違う違う違~~~~~~~~う!!俺にそんな趣味ないから!完全に誤解だから!
 それから、そんな生ゴミを見るような目で俺の事を見ないでマリア、乱、簪ぃぃぃ!!」

「イッチ~~。」

「えっと、何かなのほほんさん?」

「へんた~~い~~♪」

「人畜無害な笑顔でトドメ刺しに来たよ此の子!?」



たちまち発生する混沌空間ならぬ、一夏弄り空間……完全に原因は一夏に飛びついたカナダの双子の片割れであるオニール・コメットだと思うのだけ
れどね……と言うか、初対面の男性に行き成り抱き付くとか、少しばかり警戒心が無いんじゃないのか此の子は?
取り敢えず、一夏が困ってるから離れような?



「わひゃあ!?……お姉さん誰?」

「君が抱き付いた蓮杖一夏の双子の姉の蓮杖夏姫だ。
 世界初のIS男性操縦者に会いたかった、その気持ちは分からなくもないが、行き成り抱き付くのは如何かと思うな?……お蔭で一夏が針の筵だ。」

「えっと……その、つい嬉しくなって。
 其れよりも私の事片腕で持ち上げて重くない?」

「君は40㎏もないだろう?ならば片手で持ち上げる事など造作もない事だよオニール・コメット。」

「え、私の事知ってるの?」



アタシは生徒会の副会長なのでね、新たに学園にやって来る代表候補生の顔と名前くらいは完璧に覚えているさ。君と一緒に来たオレンジ髪の子は
君の双子の姉の『ファニール・コメット』だろう?
それと、一夏達と一緒に居たのはタイの代表候補生のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーで間違いないかな?



「はい、仰る通りです蓮杖夏姫さん……タイの代表候補生のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーです。以後お見知りおきを。」

「此方こそ、弟共々宜しくな。
 ……其れでファニール・コメットは何故にそんなに不機嫌そうなのかな?……若しかして、妹が一夏に懐いてる感じなのが不満で不服で、ヤキモチを
 焼いてたりするのかな此れは?」

「なっ、違うわよ!別にヤキモチなんて焼いてないんだから!!」

「アラアラ、ムキになって否定するのは怪しいわねぇファニールちゃん?
 大事な妹が初の男性操縦者に会う事を楽しみにしていて、実際に会ったら行き成り抱き付くと言うぶっ飛んだことをした上に、『お兄ちゃん』呼ばわり
 ですもの……ヤキモチを焼いたってオカシクはないわよ?」

「だから、そんなんじゃないって!!世界最初の男性操縦者にオニールが何かされないか心配なだけよ!!」

「きゃ~~、ムキになっちゃって可愛いんだから~~~♪」



オイオイ、からかってやるなよ楯無……しかしまぁ、分かり易い反応だなファニールも。
天真爛漫なオニールと、少し慎重なファニールと言ったところかなこの双子は?……まったく同じ遺伝子を持っている一卵性の双子でも、性格まで同じ
ではないと言う事か。
……考えてみれば千冬さんとマドカも同じ遺伝子なのに性格は全然違うものね。

「さてと……一夏を弄るのはその辺にしておけ、と言うかのほほんさんの一撃で、既に一夏のライフはゼロになっているからね?……『狂戦士の魂』で
 も発動しているのならば話は別だがな。
 そもそもにして、鈴達だって一夏が特殊な趣味を持ってない事は理解してるだろ?……ならその辺にしておけ。」

「アハハ……分かってはいるんだけど、今のは何て言うかやっておかないといけないかなぁって思ってつい♪」

「折角だから乗るのも悪くないかなと思ってだな……まさか、マリアと乱と簪まで乗って来るとは思わなかったんだが――私としては其れ以上に、本音
 が笑顔でトドメを刺した事に驚いたぞ?」

「えへへ~~、褒められた~~?」

「本音、多分褒めてないと思うよ。」



うん、確実に褒めてないだろうな。
其れでだ、此の子、オニールは前から世界初のIS男性操縦者である一夏の事を知っていて、一度会ってみたいと思ってたらしくて、其れが叶った事が
嬉しくなって行き成り飛びついてしまったらしいんだ。
其れで、なんで一夏が『お兄ちゃん』なんだ?



「年上の男の人だから『お兄ちゃん』なの♪
 だから、此れからも貴方の事をお兄ちゃんって呼んでいいかな?」

「ダメだって言ったら言ったで面倒な事になりそうだし、もう既にそう呼ばれちまったから好きにしてくれ……だけどなぁ、此れだけは言っとくぞマジで!
 俺は決して特殊な趣味は持ち合わせてない!俺はロリコンじゃねぇんだよコンチクショウが!!!」



……心中察するよ一夏――しかし、乱にマドカにオニールに、お前は妹が多いな一夏……否、アタシほどではないけれど。……アタシは今現在で妹に
該当する人間が六人だからな?
何処のギャルゲーの主人公だよマッタク。



「皆さんお揃いの様ですね?少しばかり遅れてしまいました。」



っと、最後にやって来たのは虚さん――ギリシャ代表のベルベット・ヘルと、ブラジル代表のグリフィン・レッドラムも一緒だが、ベルベット・ヘルは何やら
浮かない顔をしているような?
具合でも悪いのだろうか?



「虚、矢張り私は遠慮させて貰う……人が多く集まる場所はあまり得意ではないんだ。」

「もう、此処まで来て何言ってるのよベル!皆集まってるんだから覚悟を極めなさいって?其れに、折角誘ってくれた虚にも悪いでしょうに?」



人が多く集まる場所が苦手だったのか……まぁ、確かに多いな此れは。
レギオンのメンバーだけで十七人なのに、其処に新たにやって来た代表候補生七人が加わって、計二十四人だからね……其れでも未だスペースに
余裕がある辺り、学園の屋上の広さが分かると言うモノだ。



「ふぅ、相変わらず賑やかなのは苦手みたいっすね?……久しぶりっすねベル?」

「……フォルテ!!」



そんな中でベルベットに話しかけたのはフォルテか……何れ話をしてみるとは言っていたが、まさか初日から行くとは、フォルテもフォルテなりに考えて
いると言う事なのだろうね。
話かけられた方のベルベットは、少し驚いた後で表情が険しくなっていったみたいだが……まぁ、大丈夫だろうきっと。



「本当に久しぶりだなフォルテ……と言うか、よく私の前に顔を出すことが出来たモノだな?――代表候補になった途端に祖国を飛び出しておいて。」

「いやぁ、其れについては悪かったと思ってるっすよベル……ジャンク屋のギルドの活動に興味を持ってギリシャを飛び出しちゃったっすからねアタシ。
 飛び出す前に、アンタに相談するべきだったと思ってるんすよベル。」

「そうだ、何も相談せずに行き成りいなくなって……私がどんな気持ちで居たかお前に分かるか?……共に祖国を護ろうと誓った相手が突然国を出て
 しまった気持ちが分かるか?」

「……分かんねっす……だから、ベルがアタシを恨んでても何も言わねっすよ……ベルからしたら、アタシのやった事って裏切りにも等しいと思うし。」

「裏切り……確かにそうだ。
 だが其れはお前が国を飛び出した事じゃなくて、私に何も言わずに居なくなってしまった事がだ!!何故何も言ってくれなかった……私達は友では
 なかったの?……そう思っていたのは、私だけか?」

「そんな事ねぇっす!ベルはアタシのダチ公っすよ!!……国を飛び出しちゃってからも、ベルの事は実は結構気にしてたんすから――だから、ゴメン
 っす、ベル。
 アンタに何も言わずにジャンク屋のギルドに参加しちゃって……でも、あの約束は嘘じゃないっす!!
 アタシは今でも自分の国を護りたいって気持ちは持ってるし、ジャンク屋のギルドに参加したのだって難民救済とかの活動が、将来的にアタシ等の国
 の為になるんだと思ったからっすよ……!!」

「フォルテ……お前はお前で、国の事を考えていたのね?――ならば、此の再会からもう一度やり直さないか……こうして、お互いの思いを知る事が
 出来たのだしね。」

「そうっすね……此処からもう一度っす。」



……実際に大丈夫だったからな。
フォルテもベルベットも、夫々思う事があったのだろうけれど、だからこそ其れをぶつけ合う事が出来れば、分かり合う事が出来ると思っていたからね。
――しかし祖国と言うと、お前は大丈夫なのかダリル?



「大丈夫って何が?」

「いや、お前の祖国であるアメリカはあんな状況になってしまったから、お前としては思う所があるんじゃないのかと思ったんだが……如何やら其れは
 アタシの思い過ごしだったかな?」

「今回ばかりは思い過ごしだぜ夏姫。
 こう言ったら何だが、オレはアメリカ代表だが、アメリカに忠誠を誓ってる訳じゃないし、星条旗に向かって敬礼する気もない、愛国心0%女だぞぉ?
 今更アメリカがどうなろうと知ったこっちゃねぇっての……アメリカ代表の肩書が無くなっても、ISRIの企業代表の肩書は残るから別に問題ねぇしな。」



……いっそ清々しい位にドライだなダリル。
そう言えば、もう一人の三年生であるグリフィンはベルベットの手を引いてた筈なのに、ベルベットとフォルテの話が始まったら姿が見えなくなったな?
一体何処に行ったんだ?



「あそこよ夏姫♪」

「何処だ楯無?……って、一夏の所か!!」

まぁ、世界初のIS男性操縦者は物珍しい事この上ないから、真っ先に一夏のとこに行ってもオカシクは無いが、あの僅かな時間で一夏達と打ち解ける
事が出来るとは、凄いコミュニケーション能力じゃないかな?
世のコミュ障に、彼女の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい気分だわ。



「そうか、お前年下なのか一夏。……なら、アタシの事は『お姉ちゃん』って呼んでも良いぞ?って言うか、そう呼んでくれると助かる。
 アタシ自身孤児院育ちってのもあるが、今でも孤児院の子供達の面倒見てて、皆『お姉ちゃん』って呼ぶから、年下から名前で呼ばれるのって、少し
 違和感があるからさ。」

「今度は姉かい!一夏、アンタ姉多くない!?」

「夏姫姉に千冬さん、束さんに秋姉にダリル先輩に楯無さん……確かに六人は多いな……そして、今此処に新たに七人目か……だけどな、『お姉ちゃ
 ん』ってのは俺のキャラじゃない。
 なので、『グリ姉』と呼ぶ事にする!!!」



そして、何かやってたみたいだな?
『グリ姉』とはまた何とも……ダリル、いっその事お前も『○○姉』で呼んでもらったらどうだ?一応お前もオータムさんと同様に一夏の姉貴分な訳だし。
オータムさんは秋姉と呼ばれているしね。



「成程な。
 ――一夏、其れで行くとオレはどうなるんだ?」

「ダリル先輩は……ダル姉だな。ダリ姉だと語感が悪いし。――いっその事、此れからこう呼ぶかダル姉?」

「……夏姫、思った以上に破壊力が凄かった!オータムさんがやられたのも分かるってモンだぜ此れは……弟分から『姉』と呼ばれる事が此処までの
 破壊力を有してるとは思わなかったぜ!!!」



ハハ、慣れてないと余計だろうな。
ともあれ、此れで全員が揃ったのでランチタイムスタートだ――と同時に、楯無が生徒会室から持って来た荷物をオープン!正体は五段の重箱に詰ま
った弁当が二つだ。
今日のランチは大人数になると思ったから、昨日の内から楯無と一緒に作っておいたのさ。因みに和風弁当がアタシで、洋風弁当が楯無だ。

そして、其れから全員が改めて自己紹介をして、後は弁当を食べながらの親睦会だったな――孤高の一匹狼みたいな雰囲気だったベルベットが、実
は可愛いもの好きとか意外な事を知る事が出来たからね。
まぁ、クーリェが楯無に引っ付いていたのは良いとして、その状態でクマのヌイグルミに話しかけていると言う光景は、中々にシュールと言うか、若干の
ホラー要素が有ったのは否定出来ない事だけど……其れもまた彼女の魅力だから、彼是言うのは無粋よね。

因みに、グリフィンはメアリーが作って来たサンドイッチと言う名の殺人兵器を普通に食べていたが、良く意識を失わなかったな?……南米人には、科
学でも解明出来ない毒物耐性があるのだろうか?
取り敢えず、保健室騒動にならなかったのだけは良かったな、うん。
あと、クスハは皆に大人気だったと言っておくよ。



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・・・・・・

・・・



で、あっという間に時は過ぎ、アタシも刀奈もシャワーを浴びて後は寝るだけなんだが……ふぅ、大分凝ってるぞ刀奈?代表候補生の彼是で仕事が多
かったのが原因だろうが、肩も背中もバリバリじゃないか?



「はふぅ~~~……だからこそ、このマッサージが効くのよね~~……夏姫ってば本当にマッサージ上手なんだから~~♪
 いっその事、あん摩マッサージ師の資格を取っても良いんじゃないかと思うわ。あ~~~……其処、其処気持ちいいわ~~、其処もっとやって♪」

「はいはい、此処だな。」

「はぁ~~ん、もう最高~~~♪」



そうかい、其れは良かったよ。
一風呂浴びた後の方がマッサージは効果が高いし、マッサージで体を解して副交感神経の方を刺激してやれば、より質の良い睡眠をとる事が出来る
からな。
はい、終わったぞ。



「ん~~~~……ありがと夏姫。其れじゃあお礼に、今度は私が夏姫をマッサージしてあげるから、ベッドに横になって頂戴な?」

「良いのか?……なら頼むよ――放課後の訓練で、ダリルとプロレスやったから結構凝ってると思うしね。」

「了解♪フッフッフ、私のテクニックで天国に逝かせてあげるから覚悟なさい夏姫!」

「刀奈、其れ如何考えても此れからマッサージを行うって時に言うセリフじゃないから。どっちかと言うと、此れから『放送禁止』する前の弩Sバリタチの
 セリフだからな?」

「まぁまぁ、良いじゃないの♪偶には言ってみたくなるのよ、どっちかと言うと私はネコだし。」

「さよか。其れは其れとして、マッサージの方頼むよ。」

「うん、丁寧にやらせて貰うわね。」



結果、刀奈のマッサージも凄く巧かった……思わず眠りそうになってしまったからね。
其れで、互いにマッサージを遣り合った後は仲良く就寝ってな……確り寝て疲労を回復して、明日に備えねばだ――明日からは、今まで以上に忙しく
なるだろうしな。



「そうね……おやすみなさい夏姫。」

「お休み刀奈、良い夢を。」

今日は普通に寝るだけなんだが、アタシが刀奈に腕枕をするのはもう当たり前になってしまったか……ふふ、其れも良いと思えるのは、アタシが刀奈
を愛しているからなのだろうね。
明日も良い日になると良いな……平和な一日と言うのは、何にも代えられないモノだと思うしね。








――――――








Side:束


ふふふ、遂に遂に此れで完成だ~~~!!見てよリインちゃん、オーちゃん、遂に完成したんだよ!!



「完成したとは何がだ束?」

「世界征服をなす為の企画書でも出来たってのか?」

「ちっちっち、そんなちゃちなモンじゃないよオーちゃん!って言うか、ISRIが本気を出せば世界征服位訳ないから、別に企画書とか必要ないからね!
 そもそも、世界征服とか考えてないし。」

完成したって言うのは、この『男性用IS』の事だよ!
いっ君のストライクから得られたデータを事細かに解析して、白騎士事件以前にはまだ完成してなかった男性用を完成させるに至ったのさ!!
そして、此れが完成した男性用ISである『アストレイ・グリーンフレーム』だよ!
無人機であるアストレイを有人機仕様にしたモノだけど、新たにウィンダムと同様のストライカーシステムを搭載してるから、性能は無人機のアストレイ
よりもはるかに高い――其れこそウィンダムにだって勝るとも劣らないレベルだからね!!



「男性用のIS……遂に完成したのか!」

「へっ、此れが世に出たら、女尊男卑思想のクソ女共がどんな反応するか見物だなぁ束?女性権利団体はぶっ潰したが、だからと言って女尊男卑な
 奴がゼロになった訳じゃねぇからな。
 んで、世界を変えちまうかもしれないようなものを開発したのは良いが、ISRIは何時此の事を公表するんだ?」



そうだね、再来週の日曜にしようかな?
流石に今度の日曜だと早すぎるし、なっちゃん達にも寝耳に水になっちゃうからね――って言うか、此れを発表する記者会見の場には、ISIR所属のパ
イロットは全員同席させたいからね。

何にしても、此れを発表すれば世界はまた変わる――白騎士事件によって変えられてしまった世界を、今度は私が私の意思で変えてやるのさ!!
此れで、一つ借りを返させてもらうよ、私とちーちゃんに白騎士事件を起こさせたであろう黒幕……そして、男性用ISの発表は、私からお前に対しての
宣戦布告でもあるんだよね此れが。

決着を付けるのは、きっとまだ先の事になると思うけど、先ずは六年前の意趣返しを、きっかりとやらせて貰うからね!!










 To Be Continued… 





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