Side:夏姫


並行世界3日目、つまりは最終日……もう少し長く居たい気もするが、アタシ達が此方に長く居る事で変な歪みが生じてしまっては笑えないから、ソロ
ソロお暇しなくてはだね。

……アタシ達が来た事で、イチとスズ達が絶縁状態になったと言う見方もあるだろうが、楯無さんは既に学園長から連中への処分を記した文書を渡さ
れていた訳だから、アタシ達が来なくても何れはこうなっていただろうさ――アタシ達は、切っ掛けに過ぎないか。
もしも、アイツ等がもう少しだけ自分の欲望を抑えられて、もう少しだけ他人の気持ちを推し量る事が出来ていたなら、こんな事にはならなかったのか
も知れないが、今更言っても後の祭りか。

さてと、今日も今日とて日課の早朝ジョギングだ。
何時もは一夏達も一緒なんだが、昨日も今日も『イチの訓練の為に力を蓄えておく』とか言って不参加だ……まぁ、確かに教える側がへばって居たら
元も子もないが、今更早朝ジョギングで疲れる身体でもないだろうに。



「やぁやぁ、なっちゃん!オッハ~~♪今日も朝から精が出るねぇ?
 上気した肌を流れる汗が、色っぽくて堪らないぜい……この姿の写真だけでも1枚1万円で売れるかも――いや、そっち系のマニアだったら10万で
 も行けるかもね!!」

「……出会い頭に何言ってるんですか貴女は。そんな事したら肖像権侵害で訴えますから。」

「やだな~~、冗談に決まってるじゃんそんなの。売るとしてもたっちゃんだけにしか売らないから♪たっちゃんなら言い値で買ってくれそうだし。」

「いや、そっちの方が大問題です。」

楯無の場合、本気で言い値で買い取りかねませんから……何処で盗撮したのか知りませんが、アタシのプライベートな姿の写真を、黛先輩が楯無に
売ろうとしたのを何度阻止した事か。
まぁ、冗談はさておき束さんは朝っぱらから何をしていたんですか?……よもや、『いつもより早く目が覚めちゃっただけ』って事はありませんよね?
束さんは徹夜した次の日は必ず昼まで寝てるんですから……なのに、こうして起きていると言う事は、やるべき事が有ったから――違いますか?



「フフフ、流石に鋭いねなっちゃん。
 束さん達は、今日で元の世界に帰っちゃうでしょ?だからその前に、この世界の最大級の歪みの元を排除していたのさ!いや~~、何と言うかやっ
 ぱ束さんは最強クラスだね!!
 モノの見事に歪みの元を一晩で消し去っちゃったからね~~!うん、これぞ正に朝飯前!!」

「……山田くーん、束さんの1枚持って行って。」

「なっちゃん酷い!!」



いや、割と使い古されていたネタなので、其れを安易に使った以上座布団没収しかないでしょう……全部没収しなかっただけ優しいと思って下さい。
しかし、この世界の歪みねぇ?……この世界の事を考えると、確実にアレだろうな……だとしたら、本当に束さんはハンパないな。今更だが。










Infinite Breakers Break86
『This is The Final Judgement!










其れで束さん、この世界の歪みの元って言うのは、亡国企業と女性権利団体ですよね?アタシ達の世界と違って、亡国企業は誇大妄想のテロリスト
集団みたいですから……女性権利団体は言うに及ばずですし。



「なっちゃん、大正解!!
 私達の世界と違ってさ、亡国企業はホント頭がトチ狂ってるとしかテロリスト共の集団だからね~~?調べてみたら、第2回モンド・グロッソの時にイ
 チ君を誘拐したのもアイツ等みたいだし。
 しかも、異界送りした天災とも接触してたみたいでさ~~……正直、あの天災がテロリストと手を組むとか悪夢っしょ?『楽しそうだから』って言うふざ
 けた理由だけで手を貸しかねないからねあのゴミは。」

「並行世界の存在とは言え、自分をゴミと言い放つとは……いや、気持ちは分かりますけれど。」

「でしょ?箒ちゃんと鈴ちゃんとマリちゃんも同じ気持ちだと思うんだよね確実に。」



だろうなぁ……アタシだって並行世界の異次元同位体が人の事を考えない自分勝手な我儘DQNだったらドン引きするだろうからね――いや、下手を
したらその場で滅殺するかもだ。
ではなく、どうやって亡国企業と女性権利団体を潰したんです?アタシ達は寝てたし、こっちの世界に無人機は持ってきてないですよね?



「うん。だから、グゥルを改造して使い捨てのサテライトキャノンにして、宇宙空間から連中の拠点を文字通り木っ端微塵にしてやりました~~!
 だけど、人体にはダメージを与えない特殊なビームを使ったので死傷者はゼロ!その代わり、連中の拠点は吹っ飛んで、持ってたISはコアを残して
 消滅しちゃったけど、コアはキッチリ回収したから問題はないよね♪」

「……何をサラリと恐ろしい事してるんですか貴女は。」

まぁ、女性権利団体は言うまでもなくですが、この世界の亡国企業も争いの火種でしかない訳だから、潰してしまうのは良いと思いますが……けれど
も、今回やった事って結局は拠点潰しとISの没収ですよね?
女性権利団体も亡国企業も、メンバーが無事ならば何れ再起してしまうのではないでしょうか?……あの手の連中の執念は、蛇蝎の如く深いモノだ
と相場が決まってますので……



「うん、そうだね。だけど、此れだけやってやれば再起には時間が掛かるでしょ?組織の再編成にISの強奪とかやる事は一杯な訳だし。
 でもって、この世界の天災はもう居ない訳だから、接触してISを作って貰うのも無理――再起するには年単位での時間が必要になるのは間違いな
 いからね。
 で、再起した頃にはイチ君とタテちゃんとカッちゃんは世界のIS乗りのトップ3になってる可能性が高い上に、イチ君は更識の当主だろうから、腐り切
 った連中が襲って来た所で如何とも出来る訳さ。
 まぁ、女権団や亡国以外にもイチ君を狙ってる奴は大勢居るんだろうけど、束さんが魔改造したイチ君達の機体と、この世界のISじゃあ、例え第3世
 代機であっても性能は比べ物にならないから、襲ってきてもNo problemだし。
 序に、学園のコンピューターにハッキングかけて調べたら、近々台湾、タイ、オランダ、カナダ、ギリシャ、ロシア、ブラジルから代表候補生が編入して
 来るらしいんだよね~~? 
 しかも、IS適性は全員がB+以上で、Sの子も居るって事だから、イチ君に見限られた奴等を補って有り余る戦力が確保されるんだよね~~♪」

「潰された連中が再起する事まで計算の内ですか……」

「そう言う事。
 束さんがやったのはあくまでも一時消火だけだから、火種はいつかまた燃え上がる……だけどその燃え上がった火を消すのは私等じゃなくて、この
 世界の人達、でしょ?」

「仰る通りですね……で?」

「で?」



いや、他にも何かしたでしょう絶対に。具体的に言うなら、あの天災関連の何かを処理したんじゃないですか?と言うか、確実に処理しましたよね?
束さんが、アレの負の遺産ともなるべき物を放置するとは思えませんので。



「フフフ、流石はなっちゃん鋭いねぇ?グングニールの槍もビックリの鋭さだよ。
 なっちゃんの言う通り、天災のアジトも亡国や女権団と同じ方法でぶっ潰してやったさ!な~~んか、ステルス迷彩で誤魔化してるアジトもあったん
 だけどさ、そんなモン私にかかれば見破る事なんて原始人に神を信じさせるよりも簡単だっての。
 光学ステルス迷彩なんて、ミラージュコロイドステルス迷彩に比べれば遥かに時代遅れの骨董品だからね~~……だけどさ、取り敢えずぶっ潰した
 のは良いんだけど、アジトの一つに女の子が居たんだよね~~、ラウちゃんそっくりな子がさ。
 束さんは其の子が天災の言ってた『クーちゃん』とやらだと判断して、直接会いに行ったんだけど……まさか盲目で、ISのハイパーセンサーを目の代
 わりにしてるとは驚きだったね。……ま、其れもあの天災がやった事なんだろうけど。
 そんでさ、如何にもあの天災に忠誠を誓ってるっぽかったから、束さんとアイツの容姿が同じなのを利用して『解放』してやったよ。
 篠ノ之束の命令として、あの子にはこの世界の篠ノ之夫妻の所に向かわせた……此の子が誰なのか、天災とモップが何をやって、その結果如何な
 ったのかの詳細を記した手紙を持たせてね。
 恐らくだけど、この世界の篠ノ之夫妻、特に父親の方は私と箒ちゃんのお父さんと同じ位に厳格な人だろうから、あの馬鹿共の愚行を知ったら速攻
 で絶縁間違いねーと思うのよ?んでもって絶縁した娘の代わりに、今度は此の子で子育てをやり直しなさいって所だよ。」

「色々ぶっ飛んでいて、何処から突っ込めばいいのか分からないんですが……取り敢えず、火種が再燃する可能性はあるけれども、この世界は当面
 平和であると言う認識で良いのでしょうか?」

「その認識でオケ♪」



此れだけの事をたった一晩でやってしまう束さんは如何考えても超人だよな……と言うか、間違い無く超人か。
織斑計画が凍結されたのだって、束さんって言う天然の超人が存在したからだしね。
だがまぁ、この世界が平和になる為の土台は出来たと言う事になる訳だから、そう言う意味では束さんGJだな。



「なっちゃん、なんかご褒美ないの?」

「元の世界に戻ったら、一夏にイチゴババロア作らせるって事で如何でしょう?」

「充分、商談成立だね♪」



商談と言うのは少し違う気もするが……まぁ、その辺は突っ込み不要と言う所だろうね。
さてと、少し話し込んでしまったが、早朝ジョギングも終わったから、シャワーを浴びて朝食を取って、その後でイチに最後の訓練を付けてやらないとだ
な……アイツの成長は、この世界にとって絶対に必要になるものでもあるのだからね。



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午前中の訓練は、昨日と同様にフィジカルトレーニングと、ISを使わない戦闘訓練だったんだが、イチの力は昨日よりも更に高くなっていた……フィジ
カルトレーニングでは、アタシ達が普段やってるトレーニングに普通について来れるようになっていたからな。
加えてイチはメンタルも強いな?普通なら弱音を吐いてギブアップしてしまうであろうトレーニングであっても、弱音一つ吐かずに、確りと付いて来てい
るからな……皮肉な事だが、イチのメンタルとフィジカルはスズ達からの日常的な暴力を受けて来た事で、本人も無自覚の内に鍛えられていたらしい
わ――果たしてそれは、喜ぶべき事か忌むべき事なのか判断に迷うけれどね。

まぁ、其れは其れとして今は一夏とイチがIS未使用での模擬戦の真っ最中だ。
攻める一夏に対して、防御と回避でやり過ごすイチと言うのは、この間の模擬戦と同じ構図だが、今日の訓練の最大の目的は『大技に対するカウンタ
ー』を決める事だ。
さて、一夏の大技に対して、イチはカウンターの一撃で何を見せてくれるのか……



「コイツで決めるぜ!!」

「……待ってたぜ、勝負を決めるための大振りの一発を!!」



――ガキィィィィ!!



ほう?此れはまた見事だな?
勝負を決めようと一夏が放った大振りの右ストレートに対して、イチは其れを身体を斜に構える事で躱し、逆に一夏の右腕を取って飛び付きの腕十字
固めに極めたか。
無論今の大振りは一夏が態と放ったモノだが、その隙を逃さずに反撃したイチもまた見事だ……何よりも打撃ではなく関節技でのカウンターだと言う
のが素晴らしいな。
複数の相手には使えないが、タイマンでの戦闘あるのならば関節を極めてしまえば大の男であっても如何する事も出来ない……鍛えても鍛えようの
ない関節を極めるのは非常に有効な手段だからね。
しかし、今のタイミング……アタシの見間違いでなければイチはとんでもない事をしでかした事になるんだが……



「どうだナツ!これ以上ない位にバッチリ極まったぜ!!」

「だぁぁぁ、マジで極まってんなオイ!!ギブだギブ!これ以上やったら、腕の筋が伸びちまうって!!」



そしてそのまま一夏がタップアウトして試合終了……いやはや、今のは実に見事な飛び付き腕十字だった。本気を出していないとは言え、一夏をギブ
アップさせるとは大したモノだ。
其れだけガッチリと極まっていたと言う事なのだろうね。



「てて……あ~~クソ、負けちまったか。まさか飛び付き腕十字が来るとは思わなかったぜ?脇固めか背後の腕極めが来ると思ってたんだけどな。」

「其れじゃあ返されると思ってな……ってか、本気じゃなかったくせによく言うぜ。」

「そりゃまぁ仕方ないだろ?今回の訓練の目的は、回避能力と防御技術の向上、それと大技に対するカウンターのタイミングを覚える事なんだから。
 でも、此れで『相手の大技に対するカウンターのタイミング』は大体分かっただろ?序にだけど、細かい技も沢山見たから、其れに対する細かいカウ
 ンターのタイミングも感覚的に掴んだんじゃないのか?」

「其れはまぁ、確かに。大技限定じゃなかったら何度かカウンターの機会あったしな。」

「はぁ……この短期間で其処まで出来るようになるイチに驚きだわ。
 自分より格上の相手との訓練で伸びるのは当然だけど、この成長ぶりは、余程レベルに反映されなかった経験値が溜め込まれてみたいね?」

「そうだな……とても驚きだ。
 ではタテさん、今の模擬戦の総評をお願いします。」

「任されたわ箒ちゃん。
 と言っても、私から言う事は余りないのよね……防御と回避に関しては、私達が訓練で教えた事をちゃんと行った上で、自分流に昇華しているみた
 いだし。
 ただ、其れとは別に今回の事で気付いたのは、一夏君の特異な能力みたいなモノかしら?」

「あら、そっちの私も気付いたのね?」



矢張り楯無さんと楯無も気付いたか。一夏は……試合を見ている側だったら気付いただろうが、実際に戦っていた状態では気付いてないだろうな。
と言うか、イチも他のメンバーも『何の事?』と言う顔をしているからね……イチ、お前は無自覚で其れをやってたのか。

「最後の飛び付き腕十字の時が一番分かり易かったが、イチは何度か一夏の攻撃が『出切った』のを見てから回避や防御をしていたんだ。」

「え、俺そんな事してたの?」

「無自覚だから気付かなかっただろうがな。
 普通防御や回避を行う場合は、相手が攻撃のモーションに入った瞬間に此方も防御か回避行動を開始するモノなんだ――だからこそ、攻撃側はフ
 ェイントを織り交ぜたりして攻める訳なんだが、イチは攻撃モーションに入った瞬間じゃなく、その攻撃が完全に確定したのを見てから回避や防御を
 行ってたと言う訳さ。」

「言葉にすれば簡単なようだけれど、此れはとても凄い事よ?
 この力を完全に使いこなせる様になれば、一夏君にはフェイントすら通じない事とになるのだから……そして、何よりも恐ろしいのは、其れを可能に
 している一夏君の動体視力と驚異的な反射神経よ。
 攻撃が出切ったのを確認してから防御や回避を行おうとしても普通は絶対に無理……勿論、私にだって出来ないわ。」

「もしも同じ事が出来る人間が居るとしたら、フユ姉さん位だろう……あの人の戦闘力は色々とオカシイからな。推定戦闘力は14億5000万だ。」



マドカよ、千冬さんは何時から伝説の超サイヤ人になったんだ?……まぁ、確かにあの人の戦闘力は色々吹っ飛んでいるから今更何をした所で驚か
ないけれどね。
兎に角、お前の其れは、お前だけの力と言う事だよイチ。



「俺にそんな力が……でも、何だってそんな事が出来るようになったんだ俺?全く身に覚えがないんだけどなぁ?」

「……きっと箒達のせい。」

「簪?其れって如何言う事だよ?」

「一夏は箒達から日常的に暴力を振るわれていたから、危機察知能力が高くなってたのは当然だけど、一夏への暴力は必ず複数で行われていたか
 ら、きっとそれが原因。
 予測で防御や回避をした場合、複数の相手にはその先を潰される可能性があるし、実際に一夏は誰かの攻撃を捌いた直後に他の人の攻撃を喰ら
 う事もあったでしょ?
 その経験から、無意識の内に相手の攻撃を完全に見た上で最小の動きで防御や回避を行うようになったんだと思う……最近、一夏が箒達の攻撃
 に被弾する事が少なくなったのもきっとそれが原因。」

「ぼ~~りょくは~~、イケナイ事だけど~~、偶には役に立つ事も有るって言う事なのかな~~~?」

「だとしても~~、やっぱり暴力はイケナイと思うよ~~~?」

「そ~~~だよね~~?」

「ね~~~♪」



のほほんさんとのんびりさんによる癒しフィールドが発動してしまったが、見事な推理だよ簪君。
イチの此の能力は、皮肉な事だがスズ達の暴力行為の果てに磨かれたモノだと言えるんだ……通常の訓練が一切イチの身にならず、忌むべき暴力
行為の方がイチの可能性を広げていたと言うのは幾ら何でも笑えない事実だわ流石に。



「マッタクね。
 でも一夏君の此の能力は磨けば強力な武器になるから、此れからの訓練は其れを意識して100%使えるようにしていった方が良いんじゃないかと
 思うわ……虚ちゃんは如何思う?」

「そうですね、矢張りその方向で訓練するのがベストかと。
 其れからフィジカルトレーニングに関してですが、一夏君の戦闘スタイルを考えた場合、筋肉を太く固くするよりも、必要な剛性を維持しつつ、柔軟性
 を併せ持ったしなやかな筋肉を作るモノにした方が良いでしょう。」



でだ、イチの特性を知った楯無さんと虚女史はすぐさま此れからのトレーニング計画を打ち合わせか……簪君とのんびりさんも、イチと此れからのトレ
ーニングや機体整備について色々話しているみたいだからな。
この行動力は見事なモノだ……此の5人は、本当に良いチームだよ。

さて、ソロソロいい時間だから午前中の訓練は此処までにしてランチにしようじゃないか。午後もガッツリ訓練するから、確りと栄養補給をしないとね。



「賛成♪
 うふふ、今日のお昼は私と簪ちゃんと虚ちゃんと本音が朝から仕込みをしていたモノだから期待してくれていいわよ~~♪」

「男は先ず胃袋から掴む……こっちの楯無さんも良く分かっていらっしゃるようで♪」

「実際に胃袋掴まれたらめっちゃ苦しいだろうけど♪」

「癒子、そう言う意味じゃないから。リアルに胃袋にアイアンクロー喰らわせるとか、そう言う話じゃないから。絶対に違うから。」



うん、的確なツッコミをありがとう静寐……癒子は時々、反応に困るボケをかましてくれるな。
それはさておき、楯無さん達お手製のランチか、楽しみだ……そして、気持ちは分かるがイチよ、先ずは着替えてから食堂に向かった方が良いと思う
ぞアタシは。まぁ、嫁の手作りランチともなれば、楽しみなのは仕方ないがな。



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ランチ後の小休止を挟んで、午後はISを使っての訓練だ。
楯無さん達お手製のランチのメニューは、地鶏の洋風炊き込みご飯、ブロッコリーのポタージュスープ、トマトと玉ねぎとモッツァレラチーズのサラダ、レ
バーペースト入りハンバーグのデミグラスソース仕立てだった。
味は勿論だが、栄養バランスもとれた文句の付けようがないメニューだったな……アタシ達も大満足だったが、イチは相当に旨かったのか、箸が止ま
ら無くなっていたからね。……まさか、楯無から扇子を借りて『天晴』と出すとは思わなかったけれど。
と言うか、のんびりさんはのほほんさんと違って料理が出来たんだな……のほほんさんが食べる専だから意外だったな。

さて、午後の訓練は改めてイチと楯無さんと簪君の専用機の武装の特性を確認した上で、今はイチと簪君が模擬戦の真最中。
イチの『攻撃が出切ったのを見てから回避or防御』を鍛えるには、先ずはバスターの様な砲撃型と訓練した方が良いから、この組み合わせはベストと
言えるだろうね。
普通は銃器のトリガーを引く所を確認する事など出来ないが、ISのハイパーセンサーを駆使すれば其れを確認する事は出来るからな……其れを使っ
て、『簪君がトリガーを引いたのを確認してから回避or防御』の訓練を行ってる訳だ。



「模擬戦開始から15分……回避率は95%、防御率は98%、シールドエネルギーに影響を及ぼす被弾は未だに0……此れは、驚異的な数値ですよ
 お嬢様。
 一夏君は、いったいどれほどの才能を此れまで腐らせていたのでしょうか?」

「本気でそう思うわ……もしも一学期の頃から私達、或いは織斑千冬達以外の優秀なコーチが彼に就いていたら、若しかしたら今の時点で私に匹敵
 するか、或いはそれ以上になっていたかも知れないわよ。」



……虚女史と楯無さんが驚いているが、其れはこの場に居る全員の総意だろうな。アタシだってイチの急成長ぶりには驚かされているからね。
もしも楯無さんが達が学園に居なかったら、イチはこの才能をスズ達に潰されていたかも知れないと考えると、恐ろし過ぎてぞっとする事も出来ない。
矢張り、幾ら才能があっても其れを正しく伸ばしてくれる存在が居なければ、才能を腐らせて終わりだと言う事なのだろうな……其れを考えると、この
世界の織斑千冬によって潰された才能と言うのは少なくないのかも知れないわ。

しかしまぁ、本当にイチは凄い……弾丸よりも遥かに速いビームを、撃ったのを見てから回避か防御するなど並大抵の事ではないぞ?



「夏姫姉、ビーム斬る人間が言っても説得力皆無だからな?」

「一夏、其処は突っ込むな。
 と言うか、フリーダムはビームを斬るモノなんだ。寧ろ斬らねばならん。ビームを斬ったりレーザーブレード対艦刀を白刃取りしたり、少しばかりイカレ
 た事をしなくてはならないのだフリーダムは。」

「夏姫姉、其れちょっと意味が分からない!」

「安心しろ一夏、アタシも自分で何を言ってるのかマッタク持って分からない。」

「いや安心できねぇから!寧ろ心配だから!!」

「アラアラ平和ねぇ♪」



平和……まぁ、平和なんだろうな。
一夏の言う通り、ビームを斬るアタシが言っても説得力はないかも知れないが、アタシだってビームが撃たれたのを見てからビームを斬る事なんて不
可能だからな?
其れを考えると、矢張りイチのあの能力は驚異だよ。



「やるね一夏……なら、此れは如何かな!!」

「来たか簪の十八番のミサイル弾幕!!」



っと、此処で簪君がミサイルポッドを展開してミサイル弾幕を放ったか……この攻撃は簪の得意技だが、簪君も得意なようだな。
ビームと比べると遥かに遅いミサイルだが、だからと言って60発ものミサイルを全て回避するのは至難の業だ――アタシのフリーダムならドラグーン
フルバーストで相殺出来るが、近接戦闘型のブリッツァーストライクでは其れは出来ないが、如何するイチ?



「ちょっと待って、イチ君避けない心算!?」

「そんな、其れじゃあミサイル直撃だよ!!」

「オイコラ、ぼさっとしてねぇでさっさと避けろイチ!テメェ、死にてぇのか!!」



如何するのかと思ったらイチはその場から動かない……静寐と清香とダリルが言葉を飛ばすもイチが動く気配はない――イチの奴、一体何をする心
算なんだ?



――フッ



そう思った瞬間、イチの姿が消え、簪君の放ったミサイルは目標を失って互いに激突して爆発し、其処から誘爆が引き起こされてミサイル弾幕はその
全てがなくなってしまった。
其れは其れとして、イチは一体何処に……?



「貰ったぁぁぁぁ!!」

「一夏?きゃあああ!!!」



簪君の上から!!
アイツまさか、態とミサイルをギリギリまで引き付けて誘爆を誘ったって言うのか?……なんと言うか大胆な事をしたモノだな。



「夏姫、如何言う事?」

「簪、バスターのミサイルには誘導性能が付いているだろう?イチは其れを逆手に取ったんだ。
 誘導性能がある以上、ドレだけ逃げてもミサイルは確実に自分に向かって飛んでくるからな……ならば、敢えて回避行動をとらずにギリギリまで引
 き付けた上でイグニッション・ブーストを使ってその場を離脱すれば、ミサイルの側からしたら突如目標が消えたに等しい状態になるだろう?
 だが、だからと言って着弾間近では軌道修正は不可能だから、予定通りに突き進んでミサイル同士が接触して爆発し、其れがトリガーとなって誘爆
 を引き起こしたんだ。
 そして、その場を離脱したイチは、其処から更にイグニッション・ブーストを使って簪君の頭上から奇襲をかけたと言う訳さ。」

「何それ凄い。」



本気で凄い事だよ。
ほんの一瞬でもタイミングを間違えば即戦闘不能になってしまう一手だが、其のカードを迷わず切ったイチは度胸があるのか、其れとも『出来る』と思
った事は迷わずやってしまう馬鹿(褒め言葉)なのか…あるいはその両方かも知れないわね。
だが、今回はその判断が正しかったな?ミサイル弾幕を躱して簪君の頭上から奇襲の一発をかましてからは終始イチのペースになったからな。
一撃を入れても連続では攻撃せずに離脱して、攻撃が来たらイグニッション・ブーストで近付いてカウンターを叩き込む、カウンターの集合体で形成さ
れた究極のヒット&アウェイ……カウンターを入れては離脱され、離脱した所を攻撃すればカウンターを入れられるとは、何ともやり辛い相手だよ。

そんな攻防が何回か続き……



「此れで終わりだぜ簪!!」

「一夏……きゃぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」



形勢逆転を狙った簪君のフルバーストをイチが躱し、カウンターでの一閃を叩き込んで勝負あり……空中戦だったせいで、機体が強制解除された簪
君は地面に向かって真っ逆さまだったんだが、其れを確りと空中で受け止めたイチはナイスだ。
しかもただ受け止めただけではなく、所謂お姫様抱っこで受け止めたのもポイント高しだな。



「ゴメン、大丈夫か簪?」

「う、うん……一夏が受け止めてくれたから大丈夫。」



で、イチにお姫様抱っこされて真っ赤になる簪……何とも初々しいとは思わないか楯無?



「そうねぇ……正に『命短し恋せよ乙女』かしら?」

「其れは、微妙に違う気がするぞ。」

まぁ、イチ達の愛は此れから育まれていくんだろうが、今は此れ位の初々しさがあった方が良いのかも知れないな……楯無さんに関しては、そんなモ
ノとは無縁でガンガン行きそうだがな。



「あ~~、簪ちゃんだけズルいわ!一夏君、私もお姫様抱っこして!!」

「その、もしよろしければ私もお願いしても……」

「おりむ~~、私も姫抱っこ~~♪」



……取り敢えず平和だな。
さてと、午後の訓練はこの辺までだな……アタシ達もそろそろ元の世界に変える事にしよう――あまり長居して、この世界に要らん歪みが生じてもイ
ケナイからな。



「……もう、帰っちゃうのか?何だか寂しいな。」

「ま、俺達はこの世界からしたら異物だから何時までも居る事は出来ねぇって事だ……けど、もう会う事が出来ねぇって訳でもないんだから、そんなシ
 ケタ面するなよイチ。
 機会がありゃ、またこっちに来る事だってあるかも知れないからな。」

「そっか、そうだよな。」



そう言う事だイチ。
だが、元の世界に戻る前に、最後の厄介事を片付ける必要があるみたいだがな。……ふん!



――ガキィィィィィィン!!!



振り下ろされた鉄パイプをアーマーシュナイダーでガードしてやったが……如何言う心算だスズ?行き成り鉄パイプで殴りかかって来るとは、クレイジ
ーな挨拶じゃないか?
いや、お前だけでなくモップにオルコットにデュノアにボーデヴィッヒも、血走った目で鉄パイプやら木刀やらを手にして鈴や静寐に襲い掛かって来てく
れるとはな……何の心算だ?



「アンタ達が……アンタ達が来なければこんな事にはならなかった!!
 アンタ達のせいでアタシ達は一夏と引き剥がされたのよ……そうよ、アンタ達のせいで!!アンタ達が居なければ、アタシ達は!!アタシ達はぁ!」

「ふん……何を言うかと思えば、トチ狂うのも大概にしろよ?
 楯無さんは既にお前達への処分を記した文書を学園長から預かっていたんだ……遅かれ早かれ、お前達はイチから引き剥がされていたんだ。
 アタシ達がこの世界に来た事で、其れが少しだけ早まっただけに過ぎん。其れを、アタシ達のせいにするとはお門違いも甚だしいぞ?」

「黙れ!アンタ達が来なかったら、その時は来なかったかも知れないんだ!!だから全部アンタ達のせいだ!アンタ達が悪いんだ!!!」

「そうだ……全部お前達が悪い!お前達のせいだ!!」

「私に対するその無礼、命をもって償うべきですわ!!」

「私から嫁を奪ったその報い……此処で受けろ!!」

「一夏は僕のモノだ……誰にも渡さない!一夏は僕のモノなんだ!!」



駄目だコイツ等話が通じん。さて、如何したモノか……



――パン!



と思っていたら、イチがスズにビンタを喰らわせたか。……スズは驚いているようだが、イチの目にはこの上ない程の怒りの炎が宿っているようだ。
一昨日に処分を言い渡された身でありながら、此処で我儘を炸裂させたスズ達に対して、最後の情もなくなったと言う所か此れは。



「一夏?」

「いい加減にしろよお前等。
 テメェの自業自得で今の状態になっちまったってのに、其れを他に責任転嫁して逆恨みするとか、ドンだけ厚顔無恥なんだよマジで!俺は、俺の意
 思でお前等との関係を終わらせたんだ!夏姫さん達は関係ない!!
 そもそもにして、俺への接触禁止が言い渡されたってのに、たった一日で其れを破るとか有り得ねぇっての……本気で最悪だぜお前等。
 大人しくしてたら時を見計らって許してやろうと思ってたんだけど、もうその気も失せたぜ……だから改めてハッキリと言ってやるよ!俺はなぁ、お前
 達の事が大嫌いだ!!
 過去の事にすがってる篠ノ之と凰、俺の善戦でクラっと来たオルコット、VTシステムから救ってやったら手の平返したボーデヴィッヒ、少しばかり気を
 許してやったら依存してきたデュノア……正直言って迷惑以外の何物でもないんだよ、気持ち悪い!!」

「「「「!!!」」」」



……此れは完全にトドメだな此れは。アタシ達を襲って来た勢いは完全になくなり、スズ達の口からは魂が抜けかけているからな……マッタク持って
よく身体から抜ける魂だこと。
だが其れは其れとして、コイツ等は『織斑一夏への接近禁止』を破ったのだから……つまりは、そう言う事だな楯無さん?



「そうね……篠ノ之箒以外の4人は本国へ強制送還。篠ノ之箒は退学処置にした上で少年院送り確定だわ……政府は篠ノ之束の報復を恐れて、此
 れまで、厳しい沙汰を行わなかったけれど、天災はもうこの世界には居ないのだから此れまでのようには行かないわ。
 更識からも政府に圧力を加えて、篠ノ之箒には然るべき罰を与えて貰うわ。」

「其れがベターよね。」

――【此れにて一件落着】



楯無、其れは若干違う気もするが……まぁ、此れでイチの周りから不純物は略取り除かれる事になった訳か――織斑千冬が、何も言って来なかった
事は気になるが、何も言う気が起きない位にショックを受けたと言う事のなのだろうね。
最後の最後で、問題が起きてしまったが、其れもちゃんと処理されるだろうから大丈夫だろうな。――其れじゃあ此れでお別れだ。



「おぉっと、お別れ前に此れをイチ君に渡しておくよ!!」

「なんすかこれ?」

「フッフッフ、此れは束さん特製の精力ドリンク『ドクマムシ君一号』!!不能になった親父でも、男の活力を取り戻す事が出来る優れもの!!
 若くて精力溢れるイチ君が服用すれば、一晩中股間がバーストモードになるのは間違いない!!タテちゃん達4人を相手にしても全然余裕だよ!」



……此の土壇場で何を渡してんですか束さん――『ドクマムシ』って、無駄に効果がありそうな所が恐ろしい事この上ないが……まぁ、お前は此れか
らお前の愛を育んで行けイチ。
約束できるか?



「おうよ!約束するぜ!!」

「ふ、そう言いきれるのならば大丈夫だな。――それじゃあ、これでさよならだ。また、何時か会おう。」

「あぁ、会おうぜ!必ずな!!」



時間にして僅か3日だったが、とても貴重な体験だった――機会があれば、またこの世界に来てみたいと、本気でそう思ったよ。








――――――








Side:一夏(並行世界)



帰っちまったか……ちょっと寂しい気もするけど、また会えるだろうからその時を、楽しみにしていた方が良いか。

さて、ナツ達が帰っちまった後の事を少し話そうか?
篠ノ之達は、俺への接触禁止を破っちまった事で処分が下され、凰、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノアの4人は本国へ強制送還となり、篠ノ之はIS
学園を退学になった上で少年院に送致……今までの事を考えると漸くかよって感じだぜ。
此れまでは篠ノ之束の報復を恐れて、篠ノ之の事を特別扱いしてた日本政府も、流石に更識からの圧力があった以上は、然るべき処置を取らざるを
得なかったって事なんだろうな。
ま、此れまで我が儘を通して来たツケが回って来たと思って、その処分を受け入れるんだな……そして、少しでも真人間になれよ。
因みに、あの時何も言って来なかった織斑千冬の事を後で見てみたが……ブリュンヒルデと言われたのが嘘みたいに塞ぎ込んじまってたぜ……まる
で別人とはあぁ言うのを言うんだろうけど、それもまたアイツが選んだ道って事だから、俺が何を言う事でもないよな。

其れとは別に、俺が将来的には更識に婿入りする事になるだとか、そうなったら楯無さんは楯無の名を返上して俺が十八代目の楯無になるとか、楯
無さんの本名が『刀奈』で、楯無の真名は生涯の伴侶となる人以外に言ってはならないとか、色々とぶっ飛んだ事が有ったけど、俺は今最高に幸せ
だからマッタク持って問題は無いぜ。
何よりも、こんだけ最高の嫁さんを四人も貰って文句を言ったら其れこそ罰当たりだからな。



「一夏君、如何かした?」

「いや、何でもないっすよ刀奈さん。」

もしも今度またアイツ等と会う機会があったその時は、俺が勝たせて貰うぜナツ!!……だから、またコッチに来いよ――その時を待ってるぜ!!








――――――








Side:夏姫



――シュゥゥゥゥゥン



此処は……ISRIの本社か。如何やら無事に戻って来れたようだな?



『キュ~~ン♪』

「おぉっと、ただいまクスハ。いい子にしていたか?」

とは言っても、こっちの世界では一秒程度の時間しか経過していないのだから、良い子にしていたかもへったくれも無いのだけれどね……だが、無事
に戻って来れた事を先ずは喜ぼうじゃないか。
もしもマシンに不具合が起っていたら、アタシ達は次元の海に投げ出されて二度と元の世界に戻る事が出来なくなっていたか知れないからな。



「なっちゃん、束さんがそんなへまをすると思うの?」

「いえ、マッタク。」

貴女ならば、万が一にも失敗はあり得ないでしょうからね。――まぁ、無事に戻って来る事が出来たのならば、アタシ達のこの世界での役目を果たす
だけだ……其れじゃあ行くぞ!!

「レギオンIB!ファイ!!」

「「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」」



気合は充実!!
さぁ、新しい一日を始めようじゃないか……何よりも、この世界にはアタシ達が倒さねばならない絶対的な敵が存在する訳だからな――ライブラリアン
よ、精々首を洗って待っていろ。
然るべき時が来たらその時は、迷わずにその首を狩ってやる……精々その時が来るのを楽しみにしていると良い――必ず、撃滅してやるから、最低
限の覚悟を決めておくんだな……!









 To Be Continued… 





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