Side:夏姫


さてと、修学旅行当日な訳だが……何やら眠そうだなラウラ?
特徴的な鋭い眼光は形を潜めて完全にトロンとして、『思い切り眠いです』って表情が全開になってるが大丈夫か?
と言うか、昨日は確りと睡眠を取ったんだろうな?ハッキリ言って、相当睡眠が不足してない限りはそんな顔にはならないと思うんだが……ラウラ、お
前まさか眠れなかったのか?



「うむ。臨海学校の時以上に楽しみで、寝る事が出来なかったのだ姉上。」

「小学生かお前は。」

修学旅行が楽しみ過ぎて寝不足になるって、ドレだけ楽しみにしてたんだラウラ?
まぁ、此れまで軍属として生きて来たのだから、旅行に胸躍るのは分からないでもないが、寝不足では折角の旅行を楽しむ事は出来ないだろうに。
京都に着くまでは寝ていた方が良いだろう――そう言う事で、やれマドカ。



「京都に着くまで寝てろドイツ人。」

「ぽ!?」



――ガクン



うん、見事だよマドカ。
気配を察知される事なく背後に回り、延髄に手刀を叩き込んで意識を刈り取る等、中々出来るモノではない――まして、現役軍人であるラウラに対し
て其れを決めるのは至難の業だ……大したモノだよ。



「ふ、此れ位は大した事ではないぞ夏姉さん――これしきの事、ちー姉さんや夏兄さんならばやろうと思えば簡単に出来る筈だ。」

「あ~~……其れは確かにそうかも知れないが、ラウラだってドイツの遺伝子強化試験体だぞ?」

「織斑計画やスーパーヒューマン計画と比べたら、質が違うぞ質が。」

「其れを言われたら何も言えんな。」

如何にラウラがドイツが生み出した遺伝子強化試験体――アドヴァンスドだとしても、スーパーヒューマン計画で生み出されたアタシや、織斑計画で
生まれたマドカ達には敵わない、か。
マッタク、本当にアタシ達は業が深い存在だ。人の欲望が生み出した化け物と言える存在なのだからね。

だが、アタシも一夏もマドカも、そして千冬さんだって自分の生まれが如何であるか等は気にしない……生まれがどうであれ、アタシ達は今此処に確
実に存在しているのだから。

そんな事よりも、今は修学旅行だな?京都には初めて行くから、楽しみだ。――いや、初めてだからこそ楽しまねばだな。
日本の歴史が詰まった、古都京都を楽しまない手は無いからね。










Infinite Breakers Break69
修学旅行開始:東京~京都間の戦い』










学園のある島からモノレールで本土に渡り、そこからバスで東京駅までやって来て、東京駅からは新幹線に乗って京都へ直行――所要時間は凡そ
3時間半か。……東京駅に着くまで、熟睡状態になったラウラを移動の度に背負ったのは、まぁ仕方ないか。ラウラが、こんな状態になってしまったの
は、アタシのせいだと言えなくもないからね。

しかし改めて思うけれど、東京~京都間を3時間未満で結ぶ新幹線は世界的に見ても優秀な特急だな――此れだけの高速鉄道でありながら、安全
性に関しては世界トップクラスで、彼是半世紀以上も運用されているのに、只の一度も人身事故は起こしてないと言うのは驚くべき事だ。
こんな高速鉄道は、世界を探しても新幹線だけだわ。――先進国の高速鉄道は、結構な大事故を起こしている事を考えると余計にな。

で、その新幹線での移動なんだが、如何に高速とは言え東京~京都間は2時間以上もあるので、必然的に車内は暇潰しの空間になってしまうのは
仕方ないな。
スマホで音楽を聴く者、動画を楽しむ者、ソーシャルゲームに勤しむ者、寝てる者と様々だが、箒を除く1組の専用機持ち+更識姉妹+のほほんさん
の一団はトランプのポーカーで遊んでる真最中。
箒は一夏の居る2組の車輌に行ってしまったから不参加と言う訳だ。



「さぁて、其れじゃあ手札公開と行きましょうか?私が揃えた手札は此れよ!」

「スペードの2・3・4・5・6のストレートフラッシュか。」

勝負としてはタイマンだが、負けた方が交代するルールなので、勝っていればずっと遊んで居られると言う訳だ。因みに今の相手は刀奈で、アタシは
現在5連勝中。



「フッフッフ、如何やら貴女の連勝記録は此処までの様ね夏姫?
 カードマークの強弱では最強のスペードで構成されたストレートフラッシュ……此れを超える手は早々揃える事は出来ないでしょう?」

「確かにスペードのストレートフラッシュを超えるのは難しいだろうが、だが存在しない訳では無い。」

そう言いながら手札を1枚ずつオープン。
まずはスペードの10。

「そして、スペードのストレートフラッシュはポーカーに於ける最強役ではない。」

続いてスペードのジャック。

「其れを上回る役が、只一つだけ存在する。」

スペードのクィーン。

「まぁ、其れにお目にかかる事は、滅多にある事ではないがな。」

4枚目、スペードのキング。



「ま、まさか!貴女は揃えたと言うの、あの最強の役を!」

「あぁ、その通りだ楯無。
 アタシが揃えた手札の5枚目は、スペードのエース。アタシが完成させた役は、ポーカーに於いてあらゆる役を凌駕する最強にして無敵の一手であ
 る『スペードのロイヤルストレートフラッシュ』だ。」

「嘘でしょぉ!?
 幾ら何でも有り得ないわよ夏姫!1戦目はスペードのフラッシュ、2戦目は10、ジャック、クィーン、キング、エースのストレート、3戦目はキングとエ
 ースのフルハウス、4戦目はハートのストレートフラッシュ、5戦目はエースの4カードで、今はスペードのロイヤルストレートフラッシュって、ドレだけ
 よ貴女!普通だったらイカサマを疑うレベルよ!?」



だろうな、自分でもこの運命力には驚いているからね……まぁ、一番最初以外は負け抜けした者がディーラーを務めてるからイカサマなどしようがな
いんだけれどね。
或いはこの運の強さもまた、スーパーヒューマン計画で生み出された故の事なのだろうか?……いや、其れは有り得ないか。
運の強さまで作られた存在だからなのだとしたら、僅かな油断があったとは言え、あの馬鹿共に不覚を取る事は無かっただろうからね……強運すら
完全に味方につけているのならば、アタシはあの時無傷で済んだだろうからね。
つまり、アタシの強運はナチュラルって事だ……だから、運の要素が絡むゲームでアタシに勝つのは略略不可能って言う事だろうな、冗談無しのマジ
でな。

まぁ、其れは其れとして次の相手は誰だ?



「其れじゃあ、今度は私が相手だよ夏姫。」

「静寐か、相手にとって不足は無い……本気で行かせて貰う。正真正銘の手加減なしだ――覚悟は出来てるな?」

「勿論!」



良い返事だ……ならば、始めようとしようか!アタシとお前の最高にして最強のゲームと言うモノをな!!


「「デュエル!!」」


「お姉さん、其れはちょ~~~~っと違う気がするわ。」



ちょっとではなく、大幅に違うな。
まぁ、其れは余り突っ込むな、修学旅行のテンションゆえのノリだノリ。其れに、カードゲームを始める前の掛け声として、これ程世間に馴染んでる物
は無いと思うからな。
……時に静寐、お前遊戯王のデッキは有るか?



「実は持って来てたんだけど、そう聞くって事は夏姫もデッキを?」

「あぁ、出来れば御の字だったんだが、まさか静寐が遊戯王のデッキを持ってるとは思わなかったよ。」

「弟が大好きだから、偶に帰った時に付き合ってあげようと思ってデッキは作ってたの――だけど、私のデッキは強いよ?貴女でも勝つのは無理だと
 思うよ夏姫?」

「ほざけ、お前がどんなデッキを組んでるかは知らないが、勝つのはアタシだ。」

まさか、静寐が遊戯王のデッキを持って来てるとは思わなかったが、そうであるのならば静寐との一戦はポーカーではなくデュエルでやるべきだな。
だが、アタシに挑んだ事を後悔するんだな……アタシの青眼の白龍が、お前を撃ち滅ぼす。



「アタシの『氷獄龍 トリシューラ』が、貴女を凍り付かせる。」

「言うな……では、改めて行こうか?」


「「デュエル!!」」


夏姫:LP4000
静寐:LP4000




期せずして静寐とのデュエルになったが、此れは中々楽しめそうだな――だが、デュエルは矢張りもっと臨場感が欲しいものだ……今度束さんに、デ
ュエルディスクを作ってくれるように頼んでみようかな。
取り敢えず、此のデュエルは勝たせて貰うぞ静寐。








――――――








Side:一夏


一つ前の1組の車輌からは凄い怒号が聞こえてくるようになったが……こりゃ、間違いなく夏姫姉が誰かとデュエルを始めたな?――夏姫姉の遊戯
王デッキはガチブルーアイズだから、並大抵のデッキじゃ太刀打ちできねぇっての。
俺も参戦したいところではあるんだが、此れじゃあ無理だよな?



「うぅん、一夏ぁ……」

「一夏……」



俺と鈴と箒は一緒のシートで、俺が真ん中で鈴が窓側、箒が通路側だったんだが、新幹線が出発して5分も経たない内に、鈴も箒も俺に寄りかかる
形で眠っちまったからな。
ったく、何度見ても可愛い寝顔だぜ……此れだけの美少女2人が彼女だなんて、俺って本当に果報者だよなぁ……世間的には彼女が2人居るって
のは宜しくないんだろうが、鈴も箒も其れを是としてるんだから問題ないよな。
ってか、自然界を見たら、一夫一妻の方がレアケースだし、何よりも俺自身が鈴と箒を愛してるんだからマッタク持って問題はないよなうん。
問題はないんだけど、京都までこの状態ってのは流石にキツイよなぁ?……俺だって男子だから、この状態は役得なんだろうけど、京都に到着する
までクラスメイトとの交流が出来ないってのは、些か寂しいぜ?
つーか、ぶっちゃけ1組の車輌に行って、俺もデュエルに参加したいし!



「いやぁ、相変わらずラブラブだね一夏君?」

「其れは否定しないけど、この状況を京都到着まで続けるってのは地味にキツイぜティナ。」

「アハハ、其れは彼氏の宿命と思って諦めるべし。其れに、鈴が箒以外も認めてたらこの比じゃなかったんだから。」

「空恐ろしい事言わんでくれ。
 俺だって鈴が箒の事を嫁にしろって言うなんて思わなかったんだから……ったく、彼女が2人も居るとか何処のエロゲってか恋愛シミュレーションゲ
 ームの主人公だっての。ハーレムエンドかオイ。」

「あはは、其れは確かに。
 でも、アタシも鈴があんな事言ったのは予想外だった。でもって、その結果として一夏君の彼女の座をゲットした箒を羨む子は多いんだよね?
 入学した時には一夏君を狙ってた子は多かったけど、入学初日に彼女持ちである事が明らかになって撃沈したって言うのに、箒は鈴公認のセカン
 ドガールフレンドになっちゃったんだから。」

「まぁ、そうだろうな。」

其れだけじゃなくて、箒には束さんから直接渡された専用機もあるから、嫉妬と羨望を向けられる事は多くなっただろうさ……まぁ、そんな物を気にす
る箒じゃないし、下らない嫉妬と羨望で箒に何かしたら俺が許さないし、最悪の場合は束さんがこの世から抹消するだろうから問題ないぜ。
時にティナ、お前なにかゲーム持って来てる?



「PSVita持って来てるけど?」

「TFSPまたは、共闘先生はインストールされてるか?」

「共闘先生はインストールしてあるよ……やりますか?」

「他に選択肢はあるまいて……我等『鬼討つ鬼』とならん!」

ゲームなら身体を大きく動かす事も無いから鈴と箒を起こす事は無いし、時間がかかる任務を選べば長く楽しめるし、通信プレイだからこそ出来る事
もあるからな。

んで、ティナとのオンラインプレイやってたら、オンライン部屋に他のプレイヤーが……此れもオンラインプレイの醍醐味なんだが――新たに入室して
来たモノノフ、オレンジ色の長い髪の女性モノノフで名前が『大多無』って絶対秋姉だろ!
つーか、当て字が適当すぎ!大きいのか多いのか無いのかハッキリしなさいマッタクもう!!
此れだけでも驚きだったんだが、最大の驚きはティナの札ノフに『モモノフ塚』が居た事だよ!どんなビッグネームと札交換してんだお前は!!



「オンラインモードで共同戦線をクリアしたらゲットしてた。」

「何だよそのミラクル……」

まぁ、良いや。
取り敢えず京都に到着するまでの間、楽しもうぜ?移動中にクラスメイト達と楽しい時間を過ごすってのも、修学旅行の醍醐味だからな!……言って
から思ったけど、俺って修学旅行行った事ねぇじゃん。
中1の時に誘拐されて、其処から3年間束さんの所に居たから、中学のイベント全部スキップじゃん俺!……クッソ、女権団の馬鹿が俺の誘拐を握り
潰してくれた事で、俺の青春の一コマが完全になくなってるじゃねぇかオイ!
女権団を壊滅させるだけじゃなくて、俺の誘拐の情報を握り潰した弩阿呆はぶっ殺した方が良かったかもだぜ。



「一夏君、固い。」

「へ?何が?」

「顔。顔怖い。リラックスして……そうそう、そんな感じ。」



如何やら、無意識に怖い顔になってたみたいだな、気をつけないとだぜ。
んで、其れからは京都到着まで討鬼伝2のオンラインプレイを楽しんだんだが……秋姉、次元薙刀の会心特化壊スタイルとか、手加減無用のガチ構
成過ぎるだろ。
因みに俺は気力回復特化の双刀で、ティナは属性特化の繰薙刀、モモノフ塚は何も言うまい。
取り敢えず言える事は、秋姉のプレイ技術ハンパねぇって事だな……敵の攻撃をパーフェクト流転ってドンだけだって――秋姉は、ようつべにスーパ
ープレイ動画を投稿しても良いんじゃないかと思うぜマジで。

ま、何にしても京都に到着だ。
ほら、起きろ鈴、箒。そろそろ京都駅だぜ?



「んあ?……もう京都に着くの?」

「新幹線の速度は、凄いものだな……」

「ま、出発直後に寝ちまったらそう思うよな。」

だが、京都に到着したのは嘘じゃないから2人とも降車の準備だ。
特に箒は1組の車輌に荷物があるんだから、降車前に1組の車輌に戻れよ?車内に忘れ物をしましたとか、笑い話にもならないからな。



「そうだな、確かに車内に真剣を忘れたと言うのは大問題だな。」

「OK、何で其れを持って来たし。」

「ライブラリアンとやらが襲撃して来た時に、斬り捨てる為に必要なんじゃないかなと。」

「嫁の発想が物騒でした!!って言うか銃刀法違反!学園内なら兎も角、此処日本本土!日本の法律下だから!」

「大丈夫だ、所有許可は取ってあるから問題は無いぞ?」

「所有許可が有るって事と、持ち歩いて武器として使って良いってのはまた別問題だと思うんだけどなぁ俺。」

いやまぁ、お前の懸念は分からなくもないよ?
だけどさぁ、俺達には専用機があるんだから、態々真剣の日本刀持ってこなくても良いんじゃないかと思うんだけど、その辺は如何よ箒ちゃんや?



「不慮の事態でISが展開できなかった時の事を考えて、転ばぬ先の杖としてだな?」

「転ばぬ先の杖どころか、石橋を叩き過ぎて割るパターンだろそれは。」

「石橋を、殴って壊そう、オベリスク。」

「もう意味が分からない。」

「確り五七調になってる……やるわね箒!」



何がだよ鈴!!
クッソ、夏姫姉が居ないと突っ込み役がマジで足りないぜ……でも、鈴と箒のこんな所も愛おしいって思っちゃう辺り、もう俺は完全に鈴と箒に魅了さ
れてるって事なんだろうな、
だけど、其れは其れとして箒が懸念したライブラリアンの襲撃の可能性はゼロじゃないから、警戒だけはしておいた方が良いかもだぜ。
特に夏姫姉と同じくスーパーヒューマン計画で生み出されたアイツ――イルジオンの実力は、俺と同等クラスか其れ以上……最悪の場合、夏姫姉や
楯無さんに匹敵するレベルの実力者なのは間違い無いからな。
何とか無事に修学旅行が終わって欲しいモンだが、多分それは望み薄だろう……まぁ、襲撃して来たらして来たで叩きのめしてやるだけだぜ!
ある意味で、其れが『人を超えた人』である、俺の役目なんだと思うからな。








――――――








Side:夏姫


そんなこんなで京都に到着。到着したのでラウラを起こしたが、気分は如何だ?



「うむ、熟睡したので気分爽快だ姉上。」

「時間にしたら僅か3時間と少しだが、其れで確りと目が覚めるとは、睡眠は時間ではなく質だな。」

取り敢えず無事に到着した訳だが、結局新幹線内のカードゲームでは、誰一人としてアタシに勝つ事は出来ず、京都到着までにアタシの連勝記録は
30までカウントされる事になった。
ポーカーでダメならと、ブラックジャックや神経衰弱、静寐のように遊戯王で挑んでくる奴もいたが、その全てをアタシは粉砕!玉砕!!大喝采!!
例えゲームであっても、普通の人間が、人を超えた人に限りなく近い人外生物に勝つのは容易では無いようだな……遊戯王に関しては全部が全部
楽勝と言う訳では無かったが、此処まで来ると只のバグかチートなのではないかと思ってしまうよ。



「と、トリシューラでフィールドも手札も墓地も壊滅させたのに、ダイレクトアタックをガードブロックで防いで、返しのターンで白石コストに目覚めの旋律
 を発動して青眼3体揃えて融合で究極竜召喚して、魔法カード『アルティメットバースト』発動って、普通に有り得ない。
 其れだけじゃなく、ブラックジャックで3回連続でスペードのジャックとエースでトゥルーブラックジャック揃えるとかドレだけ?」

「ま、アタシは頭脳と戦闘力だけでなく、運命力も最強だったって事で納得しろ静寐。」

「出来る訳ないでしょう!!正直ディーラー役が面白がって積み込んだとしか思えないよ!!」

「まぁ、そうだろうな。」

アタシだって、この運命力は有り得ないと思っているからな……まぁ、真の強者には自然と最強の運命力が宿ると言う事なのだろうな。そうでないと
説明のしようが無いからね。



「なら、なんで学園最強の私がゲームとは言え夏姫に負けるのかしらねぇ?」

「知らん。同レベルの強者が対峙した場合、何方に運が味方をするのかは其れこそ時の運なんだろさ。」

まぁ、ナチュラルな存在でありながら作られた存在であるアタシや一夏と互角以上にやり合えるお前は、束さん同様の天然のチートキャラである可能
性は否定できないけどね楯無。



「其れは喜んでいいのか迷う評価だわ。」

「だろうな。……其れは其れとして、少しばかり妙だとは思わないか楯無?」

「そうね……正直な事を言うのならば、新幹線での移動中に襲撃を掛けてくるんじゃないかと思ってたわ。
 時速300km近いスピードで走行する新幹線を襲撃すれば、私達を出撃させる事なく私達を始末する事が出来るのだから――勿論、そんな事が起
 きた時の対策として、束博士に頼んで上空にイージスとセイバー、数機のアストレイを飛ばして貰っておいたけどね。
 それらが出撃する事が無かったと言うのは有り難い事だけれど、臨海学校や学園祭の時の事を考えると、何もなかった事が逆に不気味だわ。」

「確かにな……或は敢えて襲撃せずに、此方を油断させる心算なのかも知れないが――」



――キュピーン!!



――!なんだ、此の妙な感覚は?……アタシの中の何かが、同じ何かに共鳴しているのか此れは?
アタシと同じ何かとなれば、答えは1つしかないわね……ハッキリと何処に居るかは分からないが、イルジオン、貴様見ているな?



「夏姫、如何したの?」

「お前達は感じなかったかも知れないが、イルジオンの気配を感じた……何処にいるかまではハッキリとは分からないが、何処かでアタシ達の事を見
 ているのは間違いないだろうね。」

「イルジオン……もう1人の夏姫とも言えるあの子か。
 確かに覗き見とは良い趣味とは言えないわね?……夏姫、イルジオンが大体どのあたりに居るか分かるかしら?大体で良いから。」

「ザックリと言うならあそこだな。ホームから見える高層ビル群の何処かに居る筈だ。アイツの気配は大体あの辺りから感じたからね。」

「其れが分かればOKよ。
 其れじゃあ、盛大に宣戦布告しておきましょうか……来るなら来なさい、お望み通りにスクラップにして上げるわ。」

「なら、廃品回収業者を手配しておかねばな。」

で、イルジオンが大体何処に居るかを教えてやったら、刀奈はその方向に向かって左手で手招きをし、右手に持った扇子を開いて『来るなら来てみ
なさい』の文字を浮かび上がらせて挑発か。この距離では双眼鏡を使っても扇子の文字が見えてるかどうか分からないが、刀奈が何をしたのか位は
分かるだろうさ。
随分と大胆な事をしたと思うが、アタシだって同じ気持ちだ――お前達が襲撃をかけて来ると言うのならば其れは其れで構わんが、アタシ達に牙を剥
くと言うのならば、相応の覚悟だけはしておいてくれよ?
生憎と、敵対者に情けを掛けてやれる程、アタシは優しくはない……敵対すると言うのならば、叩き潰す、其れだけだからね。

「アタシ達は逃げも隠れもしない、来るなら来てみろ――返り討ちに遭う覚悟があるのならばな。」

アタシもアタシでイルジオンが見ているであろう場所に向かってピストルを撃つ真似をしてやったら、何故かクラスメイトから黄色い歓声が沸いたのだ
が何故に?
それ程の事をした心算は無いんだけど……



「自覚しなさいおっぱいの付いたイケメン。」

「褒めてるんだか貶されてるんだか分からんぞ楯無。」

「一応褒めてるわ。」



さよか。

ん?一夏と箒もアタシ達と同じような方を見ているな?……一夏は一秋の気配を、箒は散の気配を感じ取ったと言う所かな此れは?
同じ遺伝子を持った一卵性の双子は、距離が離れても互いの存在を感知すると言うからね。
だがまぁ、学生の楽しみである修学旅行を台無しにしようって言うのなら、その代償は払って貰うから覚悟しておけ……同じ計画の中で生まれた、双
子とも言うべき存在だが、敵対すると言うのならば一切の容赦をする心算は無いからな。
同じ遺伝子を持った存在であっても、アタシとお前は全く別の人間だ、其れを教えてあげるわ。








――――――








Side:一秋


ククク……もうすぐだ、もうすぐ俺を虚仮にしやがったあのクソ野郎共に復讐する事が出来る!こんなに嬉しい事は無いぜ!!
特に蓮杖一夏――あの出来損ないの織斑一夏の成れの果てをこの手でぶっ殺す機会が来たんだからな……天才の俺を散々虚仮にしてくれた事を
後悔させてやるぜ!!
散、お前も行けるだろ?



「勿論だ一秋!このミラージュフレームなら、箒にだって負けない……私はこの力で箒を超える!!」

「ハッハッハ、その意気だぜ散!此れだけの機体があれば、もう負けないぜ俺達は!!」






「力を手にして慢心したか……愚かだな。所詮は失敗作の試作品に過ぎんか。」






あん?何か言ったかイルジオン?



「何も。
 まぁ、昂るのは構わないが、昂り過ぎて目的を見失って、直ぐに地獄行きにならないようにだけはしてくれ……お前達でも、私達にとっては貴重な
 戦力なのだからな。」

「ふん、誰に物を言ってる。」

俺は天下無敵にして史上最強の大天才である織斑一秋だ!
夏姫には負けたが、あんなのはただの偶然だ!実力なら、俺の方が圧倒的に上なんだ……だから、今度は一夏諸共あの世に葬ってやるぜ!!

俺達が出撃したその時が、貴様等の命日だ!その時が訪れるまで、精々京都の町を楽しむんだな!!

必ず殺してやるぜ一夏!!テメェみたいな出来損ないが、俺の前に居るって事だけで万死に値するんだからな!!出来損ないは、出来損ないらしく
俺の踏み台になれってんだ!!
テメェ等をぶっ殺して、俺はこの世界の絶対王者になってやるさ……クククク、ハハハハハハ、ハァッハハッハ!!
このゲイルストライクの力で、その名の通り嵐の如き攻撃で、全部纏めてボロボロになるまでぶっ壊すぜ!俺を虚仮にしたアイツ等も、俺の事を捨て
やがった織斑千冬も、俺を地下に閉じ込めやがったIS学園も、全部皆全て!!
俺の思い通りにならないモノなんて、全部消えちまえばいい――否、全部消えて無くなるべきなんだからな!!












 To Be Continued… 





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