Side:夏姫


女権団を潰す事には成功した……其れは本来喜ぶべき物なのだろうが、今のアタシに女権団を壊滅させた達成感やら爽快感はマッタク持って存在
していなかった。
理由は簡単だ……アタシと同じ顔をしたイルジオンと名乗った女が原因さ――アイツのせいで、アタシの10年間の家族の記憶に関して、疑問を持た
ざるを得なくなってしまったからな。
アタシの此の記憶は嘘じゃない……でも、アタシが造られた存在だとしたら、私の家族は一体何だったんだ?いや、両親は本当にアタシの親だった
のだろうか?



「夏姫、大丈夫?」

「楯無……あぁ大丈夫だ。」

皆には余計な心配をかけないように心掛けていた心算だったんだが、如何やらそれは刀奈が相手では効果は無かったらしい――或は刀奈だから
こそ、アタシの異変に気付いてた可能性はあるな。

「マッタク持って笑い話にならないぞ此れは。
 一夏と千冬さんが織斑計画なんて言うモノから造り出された存在だったと言うのが明らかになったかと思ったら、今度はアタシと同じ顔をした奴が
 現れるとは思ってなかったらな。
 しかも、アタシもまた造られた存在かもしれない可能性が出てきた上に、アタシの家族は偽物だったかもしれないと来た……流石に、少しばかり衝
 撃は受けるさ。」

まさか、アタシが知らないアタシの秘密が有ったなんて言う事は思いもしなかったからな。――アタシは、蓮杖の家は一体何者だったのかしらね。



「貴女の家族の事は分からないけれど、貴女は貴女でありそれ以外の何者でないわ夏姫……貴女は蓮杖夏姫以外の何者でもない。」

「楯無……うん、其れはちゃんと分っている心算だよ。アタシはアタシ以外の何者でもないと言うのはな。」

だが、アタシがアタシである事実は曲げる事は出来ないとは言え、もしもアタシが作られた存在だったと仮定した場合、アタシの家族が何者であった
かと言うのは当然気になるんだが、だからと言って何時までも腐ってる訳にも行かないな。
束さんなら、イルジオンが何者であるのか、そしてアタシが何者なのかと言う位は調べ上げてしまうだろうからね……束さんを『歩くスーパーコンピュ
ータ』と称したのは間違いではないなうん。
兎も角、アタシの家族が何者であったのかと言う疑問と不安は尽きないさ。



「なら、その疑問と不安の半分を私に背負わせて頂戴夏姫……1人では重くとも、2人ならば重さは半分になるでしょう?」

「楯無……お前本当に良い女だよ。」

まさか、そう返されるとは思ってなかったから驚いたが、お陰様で幾分気分が楽になったよ。
まぁ、アタシ自身の事もそうだが、最大の謎はイルジオンと名乗ったアイツ……アタシになれなかったアタシとは、果たしてどういう意味なのかしら?
アイツは束さんなら知っているかもしれないと言っていたが……アークエンジェルに戻ったら聞いてみるとするか。










Infinite Breakers Break66
異常なる計画~An unusual plan~』










そんな訳で無事に帰還。
機体の方は整備の方に回して、ブリッジに直行だ――と思ったんだが、ドッグの扉を開けたら既に其処には束さんの姿が……え~と、若しかして待
ってたんですか?



「そりゃ、あんなものを見ちゃったらね。
 なっちゃんがブリッジに直行して来るんじゃないかと思って、逆に此処で待機する事にしたんだよ――音声は拾えなかったけど、黒いフリーダムの
 パイロットの顔だけは、モニターでバッチリ見ちゃったからね……なっちゃんと同じ顔をさ。
 なっちゃんは私に聞きたい事があるんだろうけど、私もなっちゃんに聞きたい事が出来ちゃったからね。」

「アタシに聞きたい事、ですか?
 ……取り敢えず場所を変えましょう。扉の前で話していると、他の人の邪魔になってしまいますから。」

「其れもそうだね~~?そんじゃ、ラウンジの方に行こうか?
 いっ君達も来るでしょ?って言うか皆おいで~~、任務達成のご褒美にジュースを奢ってあげるから。」

「ちょっと重いと思われる空気の中で、あのテンションを発揮出来るタバ姐さんって流石としか言いようがないわよね……」

「姉さんだからな。と言ってしまえば其れまでなのだろうが、もう少し空気が読めないモノか……或は、空気を読んだからこそなのか、判断に迷う。」

「……良いんじゃないかどっちでも?
 夏姫姉の偽物みたいのが現れたせいで、妙な空気になってたのを変えてくれた訳だし。有り難くジュース貰ってリフレッシュしようぜ。」

「そうだね、一夏君の言う通りだよ。
 何よりも、一番リフレッシュしたいのは夏姫だろうからね。」



……アタシがショックを受けていた事は、刀奈だけでなく皆にバレバレだったみたいだな。
アタシの隠し方が下手なのか、其れとも皆が鋭いのか……若しかしたら両方なのかも知れないわね?……まぁ、此処は束さんの厚意に甘えさせて
貰うとしようかな。



で、ラウンジに到着した訳なんだが、何度見ても戦艦のラウンジとは思えないな?
食事が出来るのは当然だが、和・洋・中のみならず東南アジアや南米の料理まで提供してて、ガッツリ食べられる物から軽食まで揃ってる上に、飲
み物もソフトドリンクだけじゃなくアルコールまであるとか、普通にレストランだろう此れは。
取り敢えず、全員が――途中で合流したのほほんさんと虚さんも入れてだ――束さんにソフトドリンクを買って貰って、ラウンジの中央にある大きな
丸テーブルに腰かけた訳なんだが……束さん、アタシに聞きたい事が出来たって言ってましたけど、其れは何ですか?



「んっとね、さっきも言ったけど、なっちゃんの偽物?の顔は見えたんだけど、会話は拾えなかったから、何を話してたのか教えて欲しいんだよ。
 会話の内容から、アイツの正体とかを探る事が出来るかも知れないからさ。」

「成程、そう言う事ですか。」

とは言っても、それほど多くを話した訳では無いんです。
アイツが私達に言った事は、己の名が『イルジオン』であると言う事、自分の事を『蓮杖夏姫になれなかった存在だ』と言った事、そして何か知りたけ
れば束さんに聞けば良いと言った事、此れ位なモノですよ。

アイツの言った事を鵜呑みにする気はないけれど、だからと言って全く嘘を言ってるとも思えない……だから聞きたいんです。
束さん、貴女はアタシの知らないアタシの秘密を知ってるんですか?



「その問いに関する答えはノーだね。
 如何に束さんが天才でも、君も知らない君の秘密を知る事は略々不可能なんだよなっちゃん――って言うか、なっちゃんの事はいっ君同様、箒ち
 ゃんと仲良くしてくれる子って言う認識だったから態々調べようとは思わなかったからね。
 なっちゃん似のアイツが言ったのは、私が答えを知ってるって事じゃなくて、私なら調べれば分かるって事だと思うんだけど……気に入らないねソ
 イツ。」

「気に入らない、ですか、姉さん?」

「うん、気に入らない。物凄く気に入らないよ箒ちゃん。
 此れってさぁ、取りようによっては『調べられるもんなら調べてみろ』って挑発してるとも取れるじゃん……この束さんに挑戦状を叩き付けるなんて、
 良い度胸だって言ってやりたい位だ。
 だからこそ気に入らないんだよ……何処の馬の骨とも知らない分際のクセに束さんに挑戦してくれた事が、なっちゃんに不必要に不安を与えた事
 が全部ね。
 上等だ、そのケンカ買ってやろうじゃないか……望み通り、なっちゃんの秘密を調べ上げてやるよ!序に、アイツが所属してる組織の事も!!」



……火が点いたな束さん。こうなったら、誰も束さんを止める事は出来ないな――其れこそ、千冬さんでも絶対に無理だ。
アタシを混乱させる心算で言ったんだろうが、如何やらそれは逆効果だったみたいだぞイルジオン……結果として束さんのやる気をブーストさせてし
まったのだからね。

束さん、ドレ位あれば調べ終わりますか?



「最速でアークエンジェルが学園に到着するまで。遅くとも今日の夕方には必要な情報は調べ上げる事が出来るよ!!」

「マジか?」

「流石はタバ姐さん……ハンパないわ。」

「お姉ちゃん、私は今ほど束博士が味方で良かったと思った事はないよ……頭脳チートが味方だと、此処まで頼もしい物なんだね?」

「簪ちゃん、そう思うのは間違いではないわ。」

「はっはっは~~!束さんに任せておきたまえ君達!!
 其れじゃあちょいと調べて来ようかな?……あ、そうだ!戦ってお腹減ってるだろうから、束さんのツケで食事しちゃってOKだから。じゃね~~!」

「姉さん、太っ腹なのかなんなのか……」

「ま、まぁ此処は有り難く博士の御厚意に預かろう箒?」

「静寐……そうだな。」



マッタク、どんな時でもぶれないな束さんは?あの人が取り乱す姿など想像も出来んよ……だからこそ頼りになるって言えるんだけどな。
最速の場合、学園に戻る頃にはアタシの秘密が明らかになってるんだろうが……果たして、その結果にはどんな真実が隠されているのやらだ。



「だよな……でも、夏姫姉ならある程度の仮説は立ててるんだろ?」

「まぁ、其れなりにな。」

先ずはアイツがアタシのクローンであるという説だ、可能性としては此れが最も高いと考えて良いと思う。
次はアタシとアイツは『織斑計画』の様な狂った計画で生み出された存在であると言う事――だが、此の説はアタシに両親と弟が存在していたと言う
事を考えると少し無理があるだろう。
アタシの両親が、本当にアタシの両親だったと言う事が前提として必要になるがな。
最後は、実は本物の蓮杖夏姫はアイツの方で、アイツの記憶は何らかの方法で消去されクローン体であるアタシにオリジナルの記憶を植え付けた
存在だったと言う説だ。



「夏姫姉、1つ目と2つ目は兎も角として3つ目は普通に有り得ねぇだろ?
 其れじゃあまるで、KOFのK'とクリザリッドだ――第一に、記憶の転写なんてのは簡単に出来る事でもないから、3つ目だけは絶対にないって!」

「だよな。」

アタシ自身、言ってて3つ目だけは無いと思ったからな。
だが、逆に言うのならば1つ目と2つ目は可能性としては充分にある……果たして、束さんはどんな情報を持って来てくれるのか?或は束さんならア
タシが思いつかなかった4つ目の答えを見つけてくるかもしれないわね。








――――――








Side:イルジオン


戻ったぞ教授……取り敢えず、今回は此れで任務終了で良いのか?



「うむ、構わんよ……寧ろ時間の割にはよくやってくれたと言うべきだろう――ISRIの諸君と共闘したとはいえ、女権団を完全に葬り去る事が出来た
 と言うのは大きい事この得ない。データを取り終えた実験台は、処分しなくては危険だからね。
 其れも君と言う存在が有ったからこそだがねイルジオン?」

「称賛の言葉は受け取っておくが、貴様の口先だけの称賛は有難みも何もない……寧ろ相手に不快感を与えるだけだから、早急に辞める事をお勧
 めするぞ?」

「口先だけとは心外だね?私は常に正当な評価を下している心算なのだが。
 其れよりも、彼女と会ってみて如何だったかな?期待通りの反応は得られたかね?」

「其れは、存分にな。」

今頃は盛大に混乱しているんじゃないのか?まさか、自分と同じ顔をした存在が現れて、更には『お前になれなかったお前だ』などと言われたら、誰
だって混乱すると言うモノだ。
フェイスガードは付けたままだったので驚いた顔を拝む事は出来なかったが、アレは相当に動揺していたと思うぞ?
今頃は、自分の家族が何者であったのかについて悩んでいるんじゃないのか?



「ほう?自分自身が何者であったかではなく、家族の方に悩むと?」

「連中の戦力の中にテスタメントが、織斑マドカが居た。
 ならば、奴から『織斑計画』について聞かされた可能性は充分にある――己の今の弟が造られた存在であると言うのを知ったのならば、自分もま
 た造られた存在なのかも知れないと考えても、其れ程動揺はない筈だ。
 だが、だからこそ10年間自分が共に暮らしていた家族が何者であるのかが大きな疑問になると言う訳だ。」

「成程成程……家族と過ごした10年間は嘘だったかもしれないと言う事に悩むと言う事か。
 ふむ、その悩む姿を拝む事が出来ないのが実に残念であると同時に、彼女に私から家族の事を彼是吹き込む事が出来ないのが残念だ……彼女
 の心を壊し、私の操り人形に出来たら、さぞや楽しかっただろうに。」

「……矢張り、悪趣味を通り越して最早貴方は病気だよ教授。悪い事は言わない、早急に精神科を受診した方が良い。」

「ふふふ、私が悪辣な性格をしている事は自覚しているよイルジオン。
 だが、多かれ少なかれ、人は誰しも私の様な暗く黒い感情をその身に宿しているモノだ――私は其れを誤魔化さずに、其れに忠実に生きているだ
 けに過ぎないのだよ。」

「其れが病気だと言っているんだ私は。」

まぁ、貴方の事は良いとして、この後の予定はどうなっている?
クラス対抗戦以降、IS学園には直接的な襲撃は行っていないが……



「暫くは静観しようと思っていたが、其れでは一秋君と散君が我慢できないだろうから、修学旅行の時に襲撃を考えているよ。
 其れと、IS学園で行われる予定の電脳ダイブ訓練の際にも少しばかり仕掛けてやる心算ではいる……まぁ、きっと楽しい事になる筈だ。」



……教授が『楽しい事』と言った時は、絶対に碌でもない事を考えてる時だから、IS学園の連中には些か同情してしまうな――尤も、学園の連中が
どうなろうと知った事ではないけれどね。
それ以上に、真実を知った蓮杖夏姫がどうなるのか、其方の方が私は楽しみだ。



「私を病気だと言うのなら、君も充分に病気ではないかねイルジオン?」



……余計なお世話だ、精神異常のマッドサイエンティスト。








――――――








Side:夏姫


「と言う訳で、なっちゃんと謎の組織に関する彼是をバッチリ調べて来たよ!!」

「マジで学園到着までに調べやがった!!」

「束博士パネェだろオイ……」

「だがしかし、『姉さんだからな』で納得してしまった私が居る。」

「其れは仕方ないわよ箒……アタシも同じ事思ったから。
 『タバ姐さんなら』でめっちゃ納得しちゃったから。寧ろ、学園到着までに調べる事が出来なかったら、タバ姐さんの調子が悪いんじゃないかって思
 うレベルよ?」



束さんは、本当に学園到着までにアタシに関する彼是を調べ上げてしまったみたいだな……本当にこの人の頭脳レベルはどうなっているのか、1度
調べてみたいよ。
若しかしなくても、かのアインシュタインを余裕で凌駕してるだろうね。
それで、何が分かったか教えてくれますか束さん?



「勿論。
 だけどその前に、ちーちゃんと、やまちゃん、乱ちゃんと、ラウちゃんと、セーちゃんに来て貰おうか?……此れから話す事はちーちゃん達にも聞い
 て貰った方が良いだろうからね。」

「……其れだけの物だったんですね、アタシの秘密は?」

「まぁ、そう言う事だね。」



如何やらアタシの秘密は、アタシが思ってる以上のモノみたいだな……だが、其れを聞く覚悟は出来てるから大丈夫だ。
どんな事実が明らかになったとしても、アタシは其れを受け入れる――アタシが背負う物の半分を、刀奈が背負ってくれるから受け入れる事が出来
るよ……だから大丈夫だ。

そして学園到着と同時に連絡を入れて、千冬さんと山田先生、乱とラウラとメアリーがアークエンジェルのブリーフィングルームに合流――ブリーズが
呼ばれなかったのは、未だアイツは信用するに足りない存在だからだろうね。
其れじゃあ束さん、お願いします。



「OK。
 先ずは話す前に約束して欲しいのは、此れから話す事は他言無用、聞いた内容は墓場まで持って行って欲しいって事――此れから話すのは、そ
 れ程のモノだからね。」

「お前が其処まで言うとは、相当な内容なのだな束?」

「その通りだよちーちゃん。
 ぶっちゃけ、此れから話すのは、織斑計画が可愛く思える程のモノだからね……」

「其れ程か……ならば、確かに他の誰かに言うべきではないだろうな。
 諸君、此れから聞く事は他言無用!間違っても誰かに話す事はないように!其れが出来る自信がない者は、今すぐこの場から去るように。」



千冬さん……だが、その物言いは効果的だな。
でも、其れを聞いても誰もこの場から去らないのは、其れだけの覚悟は決めていると言う事か――ならば何も問題はない。始めて下さい、束さん。



「了解。
 まず最初に、女性権利団体との戦いの最中に乱入して来た一団が有ったんだけど、その中の1人がなっちゃんの生き写しとも言える奴でさ、ソイツ
 が色々と思わせぶりな事を言ってくれたんで、なっちゃんとその家族、序になっちゃん似の奴が所属しているであろう組織について調べたんだけど
 さ、そしたら色々とトンデモナイ事が発覚したんだよ。
 先ずはなっちゃんなんだけど……なっちゃんは『織斑計画』以上に狂ったプロジェクトによって生まれた存在だったよ。」

「!!」

ある程度の予想はしていたが、アタシも矢張り造られた存在だったのか。
だが、『織斑計画』をも上回るプロジェクトとは何なんですか束さん?



「『プロジェクト・スーパーヒューマン』……其れがプロジェクトの名前。
 『織斑計画』が、最強の兵士を作り出すプロジェクトだとしたら、『プロジェクト・スーパーヒューマン』は、本当の意味で『最高の人間』を造る計画だと
 言えば良いのかな?
 戦闘能力だけでなく、理論的思考と直感力、そして肉体強度と自己治癒力までも最高レベルの数値を持った、文字通りの『超人』を造り出すって言
 う狂気のプロジェクトだよ。」

「超人を造り出す……確かに狂った計画だ。」

だが、今更試験官ベイビーで驚く事でもないんじゃないですか束さん?
織斑計画で生まれた一夏達だけでなく、ラウラもドイツの『アドヴァンスト計画』で誕生した試験管ベイビーだ……アタシが試験管ベイビーであったと
言っても其れ程は驚きませんよ?



「チッチッチ、甘いよなっちゃん。
 いっ君やラウちゃんが試験管ベイビーなのは確かだけど、織斑計画やアドヴァンス計画を行った連中は、胎児が育つ環境と同じ環境の試験管、培
 養ポッドの中で受精卵を育てたんだけど、その環境だと外部からの情報を得てしまうから少しばかり本来の胎児が感じる母体の影響を受けちゃう
 んだ。
 だから、『プロジェクト・スーパーヒューマン』では、受精卵は外部からの干渉を一切受けない特別な培養ポッドで育てられたんだよ――母体からの
 一切の影響をシャットアウトすれば、真に最高の人間が出来ると信じてね――尤も、そう簡単には行かなかったみたいで、失敗した実験体は相当
 数に上るみたいだけどね。
 そして度重なる失敗を重ねた数年の後に、遂にプロジェクト・スーパーヒューマンは完成形を造り出す事に成功したけど、その完成と同時に計画は
 その存在ごと葬られる事になったんだよ。
 違法な実験を行ってる事を察した日本政府が、更識に計画の消滅を依頼した事でね。
 その命令を受けた楯無――たっちゃんじゃなくて先代の楯無は、研究拠点を襲撃し、研究員を全て排除した上で、培養ポッドの中に居た赤ん坊を
 保護し、その赤ん坊を知り合いの夫婦に預けたみたい。」

「……お姉ちゃん、知ってた?」

「私も初耳よ簪ちゃん。
 と言うか、そんな事をしてたのなら私が楯無になった時に教えてくれても良いんじゃないかと思うんだけど……今度家に帰った時、お父さんには少
 しだけお仕置きしちゃおうかしら?」

「お嬢様、事が事だけに先代の楯無様も話す訳には行かなかったのではないでしょうか?
 私も本音も、父からはそのような事があったとは、全く聞いておりませんでしたから……まぁ、楯無となったお嬢様には話しておくべきだったかも知
 れませんが。」



だが、其の後で束さんが語った内容は、確かにショッキング極まりないわね……アタシが『最高の人間を造り出す』って言う、狂ってるとしか言いよう
がない計画で生まれたと言われたら、流石にな。
と言う事は、先代の楯無が知り合いの夫婦に預けた赤ん坊と言うのは、若しかしなくても……



「君だよなっちゃん。
 そして、君が蓮杖の家に引き取られてから数年後に生まれたのが君の弟君だ――なっちゃんの家族は、血の繋がりは無かったかも知れないけど
 家族として過ごした時間は嘘じゃないよ絶対にね。」

「血は繋がってなくとも、アタシの家族は嘘じゃなかった……其れが分かっただけでも充分ですよ束さん。
 でも、其れとは別に、イルジオンと名乗ったアイツは一体何者なんですか?」

「アイツは、言うなれば『プロジェクト・スーパーヒューマン』によって生み出された存在ではあるけれど、研究者の求めるレベルに達する事出来なかっ
 た存在って所じゃないかな?
 本来なら廃棄処分になる所を、教授とやらに拾われた……そんな所だと思う。」



成程な……確かに其れなら、アイツが自分の事を『蓮杖夏姫になれなかった存在』だと称したのが納得できると言うモノだ――研究者の望む水準に
達しなかった者は、失敗でしかないからな。
マッタク持ってショッキングな内容だったが……逆に迷いが吹っ切れたよ。
それで束さん、イルジオンが所属してるであろう組織については何か分かりましたか?



「バッチリとね――組織の名は『ライブラリアン』……狂った思想に染まり切った狂人の集団だよ。」

「ライブラリアン……観測者か。」

ライブラリアンとやらの目的が何であるかは分からないが、アタシ達の敵であると言うのならば叩きのめす其れだけだ。
同時に、アタシが最高の人間を造り出すと言う狂った計画の果てに造られた唯一の成功体だと言うのならば、最高の人間とてやるべき事を成すだけ
だわ。
せめて、其れ位はしないと、アタシが完成するまでに散った命に申し訳が立たないからね。
アタシが何者だったのか、アタシの家族は何だったのかが明らかになったけれど、その全てを受け入れてやるさ……アタシの力でな。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



その後は流れ解散となり、夫々が自室に戻って行った訳なんだが……お前は一体何をしてるんだ刀奈?


「私にします?私にします?其れとも私?」

「だから、選択肢が無いと言ってるだろうが!!」

裸エプロンでベッドに腰かけるとか、ドレだけだ刀奈!!――鈴と箒だって此処まではしないと思うぞ多分!!……何だって、こんな事をしてるんだ
お前は?



「束博士の話があまりにショッキングだったから、そのショックを和らげようかと思って♪
 如何、少しはショックが和らいだ?」

「少しだけな。」

だが刀奈、アタシを待っていた理由は他にあるんだろう?……お前が無意味にこんな事をするとは思えないからね。
だけど、何だって裸エプロンなんだ……もっとこう、マシな格好はなかったのか?



「其れが良いと思ったから。」

「理由が適当だったな。」

だが、お前がそう言う格好をしていると言うのは、その気の表れだと思って間違いではないのだろう?……抱かせて貰うぞ刀奈――今は、お前が欲
しくて堪らないからね。
だから手加減は出来そうにない……スマンな刀奈。



「良いわよ夏姫……貴女の好きなようにしてくれて構わないわ――そう言うのって、恋人の特権だと思うから。」

「言ってくれるな刀奈……だが、だからこそ安心が出来るよ――愛してるよ刀奈。」

「其れは私もよ夏姫。」



其れを皮切りに、アタシと刀奈は時を忘れて愛し合った。
でも、そのお陰でアタシが何者であるのかと言う事を割り切る事が出来た――アタシの出生が如何であろうとも、イルジオンとやらが何者であったと
しても、アタシはアタシであり、アタシの家族はアタシの家族以外の何者でもないと思えたからね。
だから、アタシはもう迷わない――此れから先、何が起きても全て受け入れてやろうじゃないか……スーパーヒューマンの力を持ってしてな。









 To Be Continued… 





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