Side:一秋


あの野郎が俺達の前に現れてから、今日でちょうど10日目か……野郎の言葉を信じるなら今日辺りに現れる筈なんだが、今の所は教師以外の
誰かが来た気配はないな。



「一秋、アイツを信じても良いのか?」

「信じねぇが、利用は出来るだろ?――アイツを利用すりゃ、俺達は蓮杖達を超える力を手に出来るんだ。
 俺達の力が完全開放されれば蓮杖の奴を倒せるって事は、臨海学校で証明されたんだからな――まぁ、アイツは運良く生き残ったが、次に会
 ったその時は、一夏の野郎共々ぶっ殺してやるさ。」

「一秋がそう言うのならばそうなのだろうな。
 だが、そう言う事ならば、私は箒姉さんを殺してやるとしよう……あの人が居たからこそ、私は一番になる事は出来なかったのだからね!!」



あぁ、俺達の邪魔になるものは一匹残らず撃滅してやらぁ!!
と言うか、俺の邪魔をする奴なんざこの世に必要ねぇ……全部滅んじまえばいいんだ!!



「クククク……其れはまた、何とも壮大な野望だ――まぁ、潜在能力を完全開放した君達ならば其れを成し遂げる事も出来るかも知れないが。」

「「!!!」」


なんて事を口にした瞬間に俺達の前に現れたのはアンタかよ――てっきり使いを寄越すのかと思ってたぜ……ってかよ、前の時にも思ったんだ
が、アンタ如何やって此処に来たんだ?
学園のセキュリティは可成り厳重だから、部外者が此処に辿り着く事なんて出来ない筈だぜ?



「ククククク……こう見えて少々手品が得意でね?その手品で、私の事を学園の関係者と誤認識させたのだよ。
 序に、監視カメラにも外部からのハッキングを行って記録画像を乱れさせているから、私の事はもとより、今此処で何が行われているのかすら
 IS学園が把握する事は無いから、君達を連れ出すのは容易な事だ。
 とは言え、君達が忽然と消えてしまったとあっては問題なので、少しばかり細工をするが、其れも直ぐに終わるから後は此処を出るだけだ。」



まぁ良い――どんな方法を使ったとしても、此処から出る事が出来れば俺達の力を知らしめる事が出来るからな!!
――覚悟しとけよ蓮杖姉弟……テメェ等は必ず俺がぶっ殺してやるぜ!!其れこそ、煉獄に叩き落してやるから楽しみにして居やがれだぜ!!










Infinite Breakers Break49
『夏休み~夏祭りと不穏な影~』











Side:夏姫


夏休みも早い物で、今日で10日目だ。
この間には色々あったな……一夏と鈴と箒が本当の意味で結ばれて、アタシも刀奈と身体を重ねて、一時帰国組が日本に戻って来て、織斑家
に泊まる事になったり、刀奈の誕生日があったりと色々とな。

刀奈の誕生日にはプレゼントとしてシンプルなシルバーのピアスを送ったんだが、まさかそのせいでボディピアスを空ける事になるとは思わなか
ったぞ?――アタシも刀奈も、お揃いのへそピアスだ。
『耳だとバレるから』と言う理由でへそピアスを選択したのは分からなくもないが、なんでアタシまでやらねばならんのか……其れも、お前に送っ
たシルバーピアスの片割れで。



「夏姫……恋人同士はペアルックでしょう?」

「其れで納得して、折れてしまったアタシも大概だなマッタク。」

まぁ、お前とお揃いと言うのは悪くないけれどね……と言うか、今更だが普通に耳に空けても問題ないんじゃなかろうか?
IS学園は服装に関しては制服の改造が認められてる位には緩いし、アクセサリー類に関しても特に規制はない上に、専用機持ちの中には待機
状態がアクセサリーの者だっているからな?と言うか、静寐と癒子と清香が正にそうだからね。

楯無、お前バレるって言うのは建前で、アタシと揃いのへそピアスをしたかったって言うのが本音だな?



「あら、ばれちゃった♪」

「『ばれちゃった♪』じゃないだろ!」

今更言っても仕方ないし、空けてしまった物は元には戻せないからね――尤も、『揃いのへそピアスも悪くない』なんて事は絶対に言ってやらな
いけどな。言ったら調子に乗るし。

さて、夏休みだからと遊び惚けている訳でなく、今日は午前中から何時ものメンバーが織斑家に集まって夏休みの宿題を消化中だ。
刀奈と虚さんが居れば、1年の宿題は大幅に捗る――アタシとマリアと一夏と鈴は、3年前から束さんから直々に色々教えて貰ったから、夏休み
の宿題程度は余裕だけれどね。

尤も、此処に集まった面子は学年別の成績トップ組だから然程問題はない――精々、箒達が主要教科で刀奈や虚さんに助言を求める程度に留
まってたしね。
まぁ、ラウラが苦手科目でお約束的な大ボケをかましてはくれたけれどね。

だが、頑張った甲斐があって午前中で宿題の9割を終わらす事が出来たから、此れなら今日中に宿題はフルコンプリート間違いなしだな。


で、今は昼休みで昼食の準備中だ。
キッチンに立っているのはアタシと刀奈で、本日のメニューはアタシ特製の『韓国冷麺風ぶっかけ冷やしそうめん』と、刀奈特製『夏野菜と魚介類
の天婦羅の盛り合わせ』だ。
そうめんの方は具材に茹で鶏の冷製、モヤシのナムル、白菜キムチ、キュウリの細切りと半熟ゆで卵を使って、鶏の茹で汁に水を足して鶏ガラを
追加して作った塩ベースのスープをかけて完成。
因みにスープは一度濾して粗熱を取った後で冷やして、冷えた所で表面に固まった脂を取り去る拘り具合な。
刀奈担当の天婦羅は夏野菜の定番である茄子に獅子唐とカボチャ、変わり種としてゴーヤ、魚介類では定番の海老に夏場が旬の岩牡蠣、小ぶ
りのヤリイカの姿天と食欲をそそるモノが多いんだが……刀奈、その鯖缶は?



「あら、鯖の水煮缶の天婦羅って意外と美味しいのよ?
 私もテレビで見て知ったんだけど、既に火が通ってるから揚げる時間は短時間で良いし、味も付いてるから後から天汁や塩をかけなくても良い
 のよ♪」

「缶詰を天婦羅にって言うのは盲点だったな。」

まぁ、確かに缶詰は加工品だから、使いようによっては充分に食卓の一品になる事は出来るか。――この前も新聞の夕刊に、鯖缶を使ったお手
軽レシピが載っていたからね。

さて、此れで完成だ。待たせたな?



「おぉ、待ってたぜ夏姫姉、楯無さん!!」

「もう、お腹ペコペコよ~~!」

「武士は食わねど高楊枝とは言うが、空腹と言うのは抗い違い物が有る……と言うか、夏姫と楯無さんの持ってるトレイからこの上なく食欲中枢
 を刺激する香りがするから、そろそろ我慢の限界だぞ――!!」



……如何やら、午前中に宿題を頑張り過ぎてエネルギーが枯渇してしまったらしいな?――なれば、早急にエネルギーを回復せねばだ。
そう言う意味では、アタシ特製の『冷麺風ぶっかけ冷やしそうめん』は良いチョイスだったかもな?キムチをトッピングしてあるだけじゃなく、フライ
ドガーリックチップの粉末もふんだんに振りかけてあるからエネルギーとスタミナ回復には持って来いだからね。

其れでは、いただきます。



「「「「「「「「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」」」」」」」」



うん、我ながら旨いな。
具材として作った茹で鶏の煮汁をスープに使ったのは大当たりだったみたいね?思った以上にコクがあるにも関わらず、軽い塩味でサッパリとし
た味に仕上がったからね。
だが、其れにも増してこの天婦羅は可成りの逸品だぞ楯無!!
揚げ具合の素晴らしさもさることながら、此の香ばしさが最高だ!……だが、此の香ばしさはごま油とも違うよな?



「流石は夏姫、此の香ばしさがごま油じゃないとよく分かったわ。
 正解はオリーブオイルよ。エクストラバージンオイルを、サラダ油に半分混ぜて揚げる事で、ごま油とはまた違った香ばしさと風味を持たせる事
 が出来るのよ。」

「へぇ、オリーブオイルを使う事で、天婦羅ってこんなに美味しくなるんだ!!」

「オリーブオイルとは盲点だったな……」



まさかのオリーブオイルだったか。
揚げ油の違いで味が変わるのは知っていたが、基本的にイタリア料理やスペイン料理以外で使われる事のないオリーブオイルを天婦羅の揚げ
油に使う事で此処まで違いが出るとは思わなかったよ。



「ふふ、お褒めに預かり光栄よ夏姫。
 そう言えば、今日って夏祭りの日じゃなかったかしら?」

「あぁ、その通りだぞ楯無さん。
 今日の祭りでは、篠ノ之神社で、私は神楽舞を奉納する事になっているんだ。」



夏祭り……そう言えば、この地区の夏祭りは今日だったな?
午前中は小学生達が子供神輿を担いで地域を回り、午後は商店街や神社に出店が出るって言う結構規模の大きな夏祭りだ――アタシにとって
は、実に6年ぶりの夏祭りだな。
まぁ、残りの宿題は午後で片が付くだろうから夏祭りに参加する事は出来るだろうね――と言うか、夏祭りに参加する為にも、午後の1時間で残
理の宿題を全て片付ける!異論は認めないからな?



「そうね?夏姫の言う通り、後顧の憂いを失くした上で夏祭りを楽しまないとだわ♪――夏祭りに参加したせいで宿題が終わってませんなんて言
 うのは笑い話にもならないモノ♪
 だから、午後は覚悟しておきなさい?虚ちゃんと一緒に徹底的にやってあげるわ!!」

「やり過ぎて夏祭りに参加できませんなんて事になったら本末転倒だから程々にな。」

尤も、刀奈も虚さんも必要でなければ『やり過ぎる』事は無いからあまり心配はしてないけれどね――さて、夏祭りの為にアタシももう一頑張りす
るとしようかな。








――――――








Side:一夏


昼飯の後は超特急で残った課題を片付けて行って、祭りが本格的に始まる2時間前には夏休みの課題が全部終わっちまった――つーか、夏姫
姉と楯無さんと虚さんが居ると勉強が捗りまくるからスゲェよな……各学年トップは伊達じゃねぇぜ。

そんな訳で今は祭りに行くための準備。ただ、箒だけは神楽舞の支度があるから家に戻っちまったけどな。
つっても、祭りの準備って何をすればいいんだ?スマホと財布があれば充分だし、俺は浴衣を持ってる訳でもないから特別着替える事も無いか
ら――って、そう言えば浴衣は買わなかったけど、アレがあったな?
アレなら夏祭りの会場でもおかしくないし、皆が浴衣の中でも浮く事は無いよな。

うし、早速着替えてと!……よっしゃ完成!



「一夏、お待たせーーー!!」

「鈴、準備できたのか――」

着替えてリビングに戻ってきたら、後から鈴の声が聞こえて来て振り返ったんだが……うん、思わず見惚れちまった。其れ位、鈴の浴衣姿は見
事だった!
鈴のイメージカラーの赤を基調とした浴衣は、学園の制服同様に肩が露出するタイプに改造されてて、帯から下の部分は本来ならある筈の生地
の重なりがなくなってチャイナドレスのスリットみたいになって、ツインテールを縛ってるのも何時ものリボンじゃなくて鈴の付いた髪飾りに変わっ
てるし……コイツはいろいろヤヴァイな。

「その、何だ……滅茶苦茶可愛いぞ鈴!」

「へ?あ、ありがと。アンタも、其れ……甚平って言ったけか?良く似合ってると思わよ♪」



へへ、サンキュー。
浴衣ってのは動き辛いだろうと思って甚平を買ったんだけど、如何やら当たりだったみたいだ――此れなら、下駄で行く事も出来るしな。

で、鈴が来たのを皮切りに夏姫姉達も来たんだが、こんな事言ったらアレだけど、此れだけタイプの違う美女がデザイン豊富な浴衣を着てるって
のは其れだけで映えるよな。
これは、普通に浴衣のカタログのモデル出来るって。
因みに鈴以外の浴衣は、

・夏姫姉&楯無さん:袖なしタイプで、肘から下に別途袖パーツを装着するタイプ。2人とも笹模様のデザインで、夏姫姉が白、楯無さんが水色。
・マリア&セシリア:オーソドックスタイプ。2人とも花火をあしらったデザインで、マリアが濃紺でセシリアが青。
・清香&癒子&ラウラ:ミニスカタイプ。無地で清香が緑で、癒子が桃色、ラウラは黒。
・静寐&簪&乱:完全な袖なしタイプ。地は3人とも濃紺で、静寐が星空模様、簪は特撮キャラがプリントされてて、乱は龍……簪と乱は良くそん
 なデザインのがあったな。
・虚さん:オーソドックスタイプ。黒地に金で京都の街並みが描かれてる。
・のほほんさん:裾は兎も角、袖は相変わらずだぼだぼ……最早何も言うまい。着ぐるみじゃなかっただけ良いとしよう。


しかし、この面子での夏祭り、弾と会ったら俺殺されるんじゃねぇかな?……まぁ、弾と会ったらその時はその時だな。



・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



でもって、夏祭り開幕!!
駅からのメインストリートは歩行者天国になって、商店街をメインに出店が出て祭囃子が聞こえて来て、其れだけでテンションが上がるってモン
だぜ!
其れじゃあ早速屋台巡りをって言う所なんだが、先ずは祭りのオープニングを飾る、篠ノ之神社の神楽舞の奉納は見逃せないよな。
っつーか、彼女の晴れ舞台を見ないとか有り得ねぇし。



「ふふ、確かに其れは外しては駄目だぞ一夏?」

「分かってるよ夏姫姉。」

っと、丁度始まるみたいだな。



――~~~♪~~~~♬~~♪



そして始まった神楽舞なんだが……完全に引き込まれちまったな。
巫女服に身を包んで、黒髪を何時ものポニーテールじゃなくて完全に降ろして、神楽舞の為の装飾を身体に施して、金の扇を手に、雅楽に合わ
せて舞う箒の姿は、いっそ神聖な感じすらしたぜ。
舞の後半では、扇を刀に持ち替えて、篠ノ之流の型を混ぜ込んだ剣舞を披露して見せたからな……神楽舞が終わった瞬間に、割れんばかりの
拍手が巻き起こったのは当然だぜ。

「箒!」

「一夏!えっと、見ていたのか?」

「当たり前だろ?……凄く良かった。本気で天女が舞い降りたのかと思っちまったぜ。」

「天女って、其れは流石に褒め過ぎじゃないのか?」

「其れ位綺麗だったって事だよ。
 ポニーテールじゃない箒も新鮮だったし、巫女服も良く似合ってたからな――いっその事、其れで祭り回るか?」

「~~~///!!馬鹿な事言うな、巫女服は意外と動き辛いんだ。
 浴衣に着替えてくるから少し待っていろ。」



巫女服は駄目か、ちょっと残念だぜ。
まぁ、浴衣に着替えて来た箒は、髪型こそポニーテールに戻ってたけど、まさかの袖なしタイプの浴衣で、青地に白で天の川の模様が入ってるデ
ザインはマジで箒に似合ってた!!
余りの破壊力に、思わず箒を抱きしめた俺は絶対に悪くない!!あぁ、悪くねぇよ!文句ある奴は名乗り出やがれってんだ!!



「誰も文句は言わん。取り敢えず食べるか?」

「夏姫姉。あ、この夏祭りのタコ焼きは名物だから頂くぜ。」

大分久しぶりに食ったけど、やっぱ夏祭りのタコ焼きは最高だぜ!
直系4cmのタコ焼きの8個パックが300円ってのもリーズナブルだしな――まぁ、この夏祭りの出店は可成り料金設定が良心的なんだけどさ。
ぶっちゃけ殆どの店が500円玉1枚ありゃ何か買えるからな……ジャンボ串焼きのカルビ串ですら500円で買えるってんだから驚きだぜ。



「儲けは度外視なんだろうな――だからこそ、町内会の祭りであるにも関わらず人が集まるのかもな。」

「ネットで調べたら、今年の来場者は現時点で3万人を超えてるみたいね?」



マジっすか楯無さん?
でも、其れだけ盛り上がってるってんなら、俺達だって楽しまないと嘘だから、楽しもうぜ夏祭りを!
屋台巡りに盆踊り、フィナーレには花火も待ってるから、最後まで飽きるなんて言う事は無いからな!!――最後の最後まで祭りを堪能しないと
損だしな。


で、祭りを回り始めたんだが、その道中で弾に出会って、色々と迫られたな――鈴だけじゃなくて箒も嫁だって言ったらショックを受けたみたいだ
ったけど、夏姫姉が姉貴だって言う事を言ったら更に燃え尽きてたな。
だけどなぁ弾、お前は如何思ってるか知らないが、蘭ちゃんみたいな可愛い妹がいるお前は、世間の野郎共から見たら充分勝ち組だから、其処
を理解しろよ――言うだけ無駄かもだけどな。








――――――








Side:夏姫


一通り夏祭りを回り、いよいよ祭りのフィナーレである花火だ。
その花火を、アタシと刀奈は篠ノ之神社の社の屋根の上って言う特等席で観覧中だ――此処は渡英するまで、アタシの特等席で、一夏にだって
教えてない場所だから、アタシ以外で此処に上るのはお前が初めてだ刀奈。



「そうなの?
 でも、そうならどうして私をこの場所に誘ってくれたのかしら?」

「自分の特別な場所に恋人を招待するのに理由が必要か?」

「あら、そう来られたら何も言えないわ――と言うか、其処までストレートに言われちゃったら、流石に照れちゃうわよ夏姫?」

「だろうな、照れさせる心算で言ったからね。」

だが、お前を誘うのに理由は無かったと言うのは本当だよ刀奈――この特別な場所で、お前と一緒に花火を眺めたかったんだ。
夏にだけ夜空に大輪の花を咲かせるこの光景を、最高の場所でお前と見たかった、只それだけだったんだよ――ふふ、少し興醒めだったか?



「そんな事は無いわ夏姫――寧ろ、惚れ直しちゃったわ♪」

「ふ、其れは光栄だな。」

互いに笑い合い、そして何方からと言う事も無くキス……恋人同士になったあの日から、何度目かは分からないが、其れでもその度にドキドキ
するのは、其れだけ刀奈の事を思っているって事なんだろうな。

因みに、一夏のダチ公の五反田弾は、如何やら虚さんに一目惚れしたらしく、一夏に色々聞いていたんだが……虚さんも弾を見て何やらビビッ
と来たらしいから、此れは案外良いカップルになるかも知れないね?
此れは、2学期の文化祭には、彼にも招待状を送ってやるべきかも知れないな――主に、虚さんに春の訪れを運んでやるために、な。








――――――








Side:千冬


IS学園の教師に緊急招集が掛かり、全ての教師が学園長室に集められたのだが、緊急招集とは穏やかではないな――尤も、学園が外部から
何か干渉を受けたと言う事ではなさそうだが……?



「ふむ、全員集まりましたね?
 では、始めるとしますが――先ずは此れから先に語られる事は絶対に口外にしない事、其れを今此処で誓って下さい。誓約書も書いて頂きま
 す。」



口外にしないと言うだけでなく誓約書までとは、余程の事が起きたのか?――クラス対抗戦や、学年別タッグトーナメントの際に起きた事にすら
これ程までの強固なプロテクトが掛けられた事は無いと言うのに。
つまりは其れだけの事態だと言う事だ――学園長、単刀直入に聞きます……何があったんですか?



「今日の昼過ぎ、懲罰房に収監していた織斑一秋君と、篠ノ之散さんが自殺しました。」

「んな!?」

「自殺ですって!?」



山田先生もスコール先生も驚くのは無理もない――否、私だって驚いたからな……まさか、アイツ等が自ら命を絶つとは思ってなかったからね。
或いは、其処まで追い詰められて遂に決断したのかもしれないが――私には、此れが単なるアイツ等の自殺とは考えられん。
いや、そもそもどうやって自殺などしたのだ?懲罰房の中にはロープや刃物の類は置かれてなかった筈だが……?



「織斑一秋君と篠ノ之散さんは、自ら舌を噛み切って命を絶ったようです。
 が、些か不可解な事も有ります――彼等が自ら命を絶つその瞬間が、監視カメラには一切映っていないのです。」

「え?其れは、一体如何言う事でしょう?」

「カメラの映像には、彼等が事切れた姿は映っていますが、その過程が全く記録されていないのですよ――時間にしておよそ15分、映像が不明
 瞭な状態になっているのです。
 そう、まるでモザイクをかけて詳細をぼかしたかのように。」

「……妙ね其れは。
 監視カメラの不具合と考える事も出来るけれど、余りにも不自然……外部から、何らかのアクセスが有ったと言う事でしょうか?」

「その可能性が高いでしょう、スコール先生。」



監視カメラへの外部からのアクセスか……妙な話になって来たな?
この一件は、如何やら、アイツ等が自殺したと言う事では済まないかも知れん――何れにしても、面倒な事態が起きてくれた事に変わりはない
か……マッタク持って、ヤレヤレだ。



「千冬、心中察するわ。」

「分かってくれるかスコール。」

実際に問題が山積みになった訳だからね――死して尚迷惑をかけるとは、本気でお前は最悪最低の弟だったよ一秋。
精々、涅槃で魂の修業を積んで頑張るんだな。
尤も、お前に修業が出来るとは思わないが……何にしても警戒だけは怠らないようにしなくてはな。
警戒が緩んだ所を襲われましたなんて事になったら其れこそ笑えないからね――尤も、蓮杖姉と更識姉が居れば、大概の事は如何にかなると
思ってる私が居るのも否定できないのだけれどね。

何にせよ、此れで一秋と散は学園からの登録は抹消された訳なんだが、如何にも其れで終わるとは思えん……この胸騒ぎが、杞憂であればそ
れで良いんだが、恐らくだが私の杞憂では済まないのだろうな。

一秋と散が居なくなって、果たして世界は何処に向かおうとしているのか――其れを、見極めねばならないのかも知れん……否、見極めるべき
なのだろうな、私と束は……世界を変えてしまった者の、責務としてな。








――――――








Side:一秋


まったく、俺達の死を偽装するとは思ってなかったぜ?ご丁寧に、『身代わり』の死体まで用意してよ?
だが、如何に見てくれを似せても、DNA鑑定されたらバレちまうんじゃねぇか?そうしたら、俺達が脱走した事もバレて色々と面倒な事になっちま
うぜ?



「其れについては心配無用だ。
 アレは、この間君達に会った時に採取させて貰った君達の髪の毛から遺伝子を抽出して培養したクローンだから、遺伝子構造は100%君達と
 一致する。
 つまり、DNA鑑定をされた所で、何ら問題は無いと言う事だ。」

「私と一秋のクローン!……と言うか、何時の間に私達の髪の毛を……」

「人は何かに意識を向けている時、それ以外の何かには意識が向かなくなるものなのだよ。
 其れを利用し、君達があそこから出られると言う話に集中している間に、こっそりと私の部下達に髪の毛を採取させたのだ――毛先を僅かに切
 られた程度だから気付かなかっただろう?」

「チッ、全く気付かなかったぜ。」

って事は、準備の10日間ってのは俺達のコピーを作る期間だったって事か――僅か10日程度でクローン培養が出来るかどうか知らねぇけど。
まぁ、そんな事は今は如何だって良いぜ。大事なのは、俺も散も自由の身になったって事だ。
しかも、其れだけじゃなく此れから俺達は『力』を手に入れる事が出来るんだ……俺達を、あんな場所に閉じ込める原因になった連中をぶっ倒す
事が出来る絶対的な『力』を!!

ククク……待ってろよ蓮杖姉弟、天才である俺を虚仮にした事を、骨の髄まで後悔させてやるからな!!












 To Be Continued… 





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