Side:夏姫


夏休み初日、アタシ達が居るのは空港だ。
夏休みは皆で楽しく過ごす心算だったんだが、乱とラウラとメアリーの3人は一度本国に帰還しないといけないらしい――まぁ、国家代表候補の専
用機が二次移行したとなれば当然の事か。
二次移行した機体のデータを自国の機体開発に反映する事が出来れば、機体開発に於いて他国よりも優位に立つ事が出来る訳だからな。

尤も、其れは希望的観測でしかない――二次移行した機体は、よりパイロットの特性に有ったモノになっているから、そのデータを反映して新しい
機体を開発しても、結局は尖った性能のワンオフ機体にしかならないだろうからね。
ストライク並みの汎用性を保った高性能の機体は束さん並の頭脳と技術力が無ければ作る事は出来ない……臨海学校の時に現れたザクは、ス
トライクにかなり近い機体だったが、実際には劣化コピーでしかなかったしな。
しかし、お前達と共に一緒に夏休みを過ごせないのは残念だわ。お前達も立場上仕方ないが――まぁ何だ、月並みかもしれんが頑張ってくれ。

「日本に戻ってきたら連絡をくれ。
 その時は、一緒に夏休みを楽しもうじゃないか?――夏休みが、自国への報告だけで終わったなんて言うのは、流石に笑えないからね。」

「そうそう、夏姫の言う通りよ♪
 夏休みはトコトン遊んで、遊び倒して、最後の1日で宿題を片付けるのが正しい過ごし方なんだから♪」

「いや、其れは微妙に間違ってる気がするぜ楯無さん。」

「間違ってる以前に、IS学園の夏休みの宿題を1日で終わらせるって普通に無理だから!
 まぁ、アタシ達みたいな専用機持ちは、ある程度の免除がされるから、宿題の量は一般の生徒達よりも少なくはなってるんだけど、其れでも1日
 は無理だと思うわよ楯姐さん?」

「あら、私は余裕で出来るわよ?」



そんなのはお前だけだ。普通は無理だからな。
まぁ、其れだけ刀奈はハイスペックと言う事なのかも知れないけれどね……或は、これ位でなくては更識家の当主を務める事は出来ないのかも
知れないな。

何にせよ、今日から夏休みだから、思い切り楽しまないと嘘だな。










Infinite Breakers Break47
『夏休み突入!先ずは拠点の整備だ!』











ラウラと乱とメアリーを見送ったアタシと一夏と鈴とマリアは織斑家に。刀奈達は、ラウラ達を見送った後、夫々の家に戻って行ったな。
それにしても、久しぶりに来たなこの家も――アタシが日本を発ったのが10歳の時だから、6年ぶりか……変わって無いな、あの頃から何も。
一夏、お前にとっても久しぶりだろう、この家は。



「だな……3年ぶりか。
 たった3年って思ってたけど、実際に来てみると3年ってのは短い時間じゃなかったって思うぜ……なんて言うか、10年近く帰ってないって錯覚
 しちまったからな。」

「其れは仕方ないんじゃない?
 3年も帰ってないなら、もっと離れてたって思っても仕方ないわよ――何より、『織斑一夏』は世間的に死んだ事になってる訳だから、この家に
 来るのは殆ど無理だったと思うしね。」

「ま、鈴の言う通りだな。」

年単位で離れていたら懐かしくもなるさ――だが、懐かしむ家があると言うのは、アタシからしたら羨ましい限りだよ一夏。
アタシにはもう、懐かしむ家すら残っていない……アタシが行方を眩ました後で、親族共が遺産を分け合い、更にあの家と土地まで売り払って、自
分達の私腹を肥やしたらしいからな。



「マジかよ?……夏姫姉、その親族の連中の事教えてくれ。ちょっと、ぶった斬って来るから。」

「其れならアタシも行くわよ一夏♪」

「此れは、ミス楯無に連絡すべきかしら?」

「うん、ドレもやめてくれ。
 特に楯無に連絡しようものなら、親族の連中に何が起きるか、考えただけでも空恐ろしい事この上ないからな――まぁ、今更アイツ等が如何な
 った所で、如何でも良いけどな。」

其れよりも、中に入って家の中がどうなっているか確かめないか?
千冬さんも一秋も、1学期中は家に帰っていなかったから、3カ月半分の埃が溜まってるのは間違いないだろうが、それ以外にも掃除や補修をし
なくてはならない場所があると思うからね。
と言うか、その可能性を考えたからこそDIYの道具を、この携帯型道具箱を持って来た訳だしな。



「家のリフォームもする心算かよ夏姫姉……だけど資材は如何するんだ?」

「其れについては問題ないぞ一夏。
 束さんに連絡を入れたら、セイバーとイージスに必要な部材を持たせて此方に寄越すと言っていたからな――最高性能の無人機を輸送用に使
 うのは如何かと思うけれどね。」

「流石はタバ姐さん、やる事のスケールが違うわ。
 でもDIYの道具があって、部材があるなら、家の補修は難しくないわね?外見的にはあんまり傷んでる所は無いから、補修も最低限で済むと思
 うわ。」



アタシもその可能性が高いと思ってるよ鈴。
でだ、一夏が鍵を開けて中に入ったんだが……うん、見事なまでに3ヶ月オーバーの埃が蓄積していたな?まぁ、千冬さんは帰る暇なんてなかっ
たし、一秋の奴はゴールデンウィークは強制労働だったから、これもまた仕方ないか。
だが、これで午前中のやるべき事は決まったな一夏?

先ずは全室と廊下をハタキがけしたのちに掃除機……は、ロボット掃除機があるから良いとして、ロボットが掃除した所から水拭きして、乾いたら
ワックスがけね。
風呂場は流石にカビが生えてるかもしれないから、其処はカビ取り剤を使ってやるしかないか。



「まぁ、其れが一番だと思うぜ夏姫姉。
 しかし、風呂場は仕方ないとしても、他の部屋にはカビが一つも生えてない事には驚きだぜ……若しかして、カビ菌が存在してないとでも言うの
 か此の家は?」

「いや、其れは流石にないと思うぞ?」

カビが繁殖するには、一定以上の温度と湿度、そして栄養が必要になるから、実は相当に劣悪な環境でも、条件が揃わなければカビは増殖する
事が出来ないんだ。
其れを考えると、風呂場以外の場所は、この家はカビが増殖出来ない温度と湿度、その他諸々の条件を保っていたんじゃないかと思うわ。
――如何やらこの家は、家主が留守の間でも快適に過ごせるように設定された家なのかもな……多分だけど、AI搭載型なのかも知れないわね。



「其れ、どんなハイテクな家だっての。
 少なくとも、俺が居た頃はそんなハイテクとは無縁の家だったぜ――俺が居なくなった後でスマートハウスにリフォームしたのか?」

「いや、流石に其れは無いだろ一夏。
 リフォームしたのなら、千冬さんが『お前の部屋はあの時のままだ』とは言わないだろうからね。」

「そう言えばそうだな。
 って事は何か、俺が知らなかっただけで最初からハイテクスマートハウスだったって事か!?」

「或は、夜な夜なこっそりと改造してたのかも知れないわ……プロフェッサーが。」

「あぁ、タバ姐さんだと否定できないわ其れ。」

何してんすか、束さーーーーん!!!

「うん、お前がそう叫びたくなる気持ちも分かるぞ一夏。」

となると其れを念頭に置いて、織斑家の大掃除をしないとだ……取り敢えず、昼前には2階の全室を清掃完了としたい所だが、一秋の部屋を整理
する時だけは気をつけておくか。
束さんがこの家を改造したとしたら、一秋の部屋に、アイツに対する嫌がらせをする為のトラップがドレだけ仕掛けられてるか分からないからな。

其れじゃあ分担だが、アタシと鈴とマリアは各部屋と廊下、一夏は風呂場とトイレを頼む。風呂のカビ落としは洗剤を使っても可成り大変だし、天井
のカビ落としは、この中で一番背の高いお前がやった方が効率が良いしね。



「了解。ま、織斑だった頃から其処の掃除は俺がやってたから慣れてるしな。」

「ならば大丈夫だな。」

其れじゃあ、大掃除を始めようか?
4月から一度も掃除されていないから大変だろうが、多分これから長期休みの際の拠点は此処になるだろうから、確りと綺麗にしないとね。



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で、其れから2時間で一秋の部屋以外は全てワックスがけまで終わり、一夏の方も風呂場とトイレの掃除は終わった様だな。――何と言うか、一
夏が掃除した風呂場とトイレは新品なんじゃないかと言う位に綺麗だったわ。
さてと、残すは一秋の部屋だけなんだが……あそこは整理するだけじゃなくて、部屋その物を作り替えないと到底使う事は出来んから最後に回し
た訳だ――アイツの部屋だった痕跡を完全に消し去らないと、静寐たちが泊りがけで訪ねて来た時の部屋を確保できないからな。

だが、そろそろいい時間だから、一秋の部屋に取り掛かる前に昼飯にしようか?



「賛成~~!流石にお腹すいちゃったわ!
 こっちに来る前に数日分の食材を買って来たのは正解だったわね?此れならすぐにお昼の準備が出来るわ。」

「まぁ、其れを見越して買い物を先にした訳だからな。
 其れで、色々と買って来た訳だが、何を作ろうか?此の暑さだから、夏に効くメニューが良いと思うんだけれど……」

「ふっふーん、そう言う事ならアタシに任せなさい夏姫!
 本格中華の、だけどしつこくなくて夏を乗り切るスタミナがバッチリつくメニューを作ってあげるわ!!」

「おぉ、鈴が作ってくれるのか!其れは楽しみだぜ!!」



確かに楽しみだ。鈴の料理の腕前は、一夏への愛妻弁当で証明されているからな。夏に効くメニューか……期待させて貰うぞ。





――ピンポーン





っと、誰か来たみたいだな?
一夏は鈴の手伝いをする為にキッチンに行ってしまったし、マリアはマリアで料理が出来るまでの間、ダイニングを調度品で飾り付ける心算らしい
から、来客の対応はアタシがするべきなんだろうね。

「はーい。って、静寐?」

「来ちゃった。」

「お前、実家に戻るって言ってなかったか?」

「うん、そう言ったけど、清香や癒子と違って、私も此処が地元なんだ。
 学区が違うから夏姫や一夏君とは同じ学校じゃなかったけどね。あ、これ差し入れ。最近駅前にオープンしたケーキ屋さんの人気商品。」

「あぁ、態々スマナイな……まぁ、上がれよ。」

まさかお前が来るとは思わなかったが、生憎と今は大掃除の真っ最中でな……悪いが大したもてなしは出来ないぞ?――其れとも、まさかアタシ
達を手伝いに来てくれたのか?



「うん、その心算で来たんだよ?」

「アタシ達の手伝いってのは冗談で言った心算だったんだが、本気だったのか。」

「本当は午前中から来る心算だったんだけど、午前中はお父さんやお母さんから色々質問攻めに遭っちゃって来る事が出来なかったんだ。
 主に私が何時の間にか企業所属になって専用機持ちになってた事に関してだったけど。
 カラミティを貰った時に話はしてたんだけど、改めてどういう事なのか問い質されちゃった。」

「あ~~……成程。」

元々一般生徒でしかなかった娘が、夏休みに帰ってきたらイキナリ企業所属の専用機持ちになってたら、其れは親としては驚くだろうな……如何
に電話で話を聞いていたとしてもな。
だが、手伝いに来てくれたというのなら有り難い限りだ。
其れに、これから昼食にしようと思ってた所だから丁度良い。お前もまだ昼は食べてないだろ?



「うん、まだ。
 途中で食べて来ようかとも思ったんだけど、其れだと時間が無くなるかなと思って。」

「なら、アタシ達と一緒にランチにしないか?
 今日のランチは鈴が作ってくれてるから味の方は保証する。序に一夏が手伝ってるしね。」

「あ、其れは楽しみ。
 其れじゃあお言葉に甘えて同伴させて貰おうかな♪」

「是非もなし。ってな。」

おーい、鈴!静寐が来たから一人前追加で頼む!!



「静寐が?了解!一人前増えた位じゃなんて事ないわ!!一夏、ギアを上げるわよ!!」

「合点だい!!」



「何か気合が……て言うか、会話だけを聞くと普通に料理屋をやってる若夫婦だよね此れ?」

「其れはアタシも思ったが、絶対に本人達を前にして言うなよ?
 一夏と鈴……あと箒もだが、アイツ等は無自覚に周囲に糖分を巻き散らすクセに、其れをネタにされると盛大に爆発するキライがある――特に
 女子二人はな。」

そのクセ、鈴も箒も一夏に大胆なアプローチを仕掛けるのだから訳が分からないわ。……と言うか、タイプの違う美女に迫られてる一夏の理性は
そろそろ限界が近いかも知れないな?
女子に囲まれて3カ月半も我慢して来た訳だし、ここら辺で許可してやっても良いのかも知れん――考えてみれば、好き合ってる者同士ならばと
っくにそうなっていておかしくない訳だしね。

まぁ、其れはまた後で伝えるとして、本日のランチメニューは、鈴の特性『四川風汁なし冷やし担々麺』と『超スタミナ回鍋肉春巻き』だった。
担々麺は花椒を効かせたパンチのある肉味噌とコクのある胡麻ダレが良く冷やされた中華麺とベストマッチしていたし、春巻きは具材が回鍋肉だ
って言う事に驚かされたが、その回鍋肉も辛味噌でパンチを利かせているだけじゃなく、ニンニクと韮を使って夏バテ防止をしているのだから大し
たモノだわ。
何よりも驚きなのは、これだけの確りとした中華でありながら、中華にありがちのしつこさや油っこさを全く感じなかった事ね……流石だな鈴、外国
向け中華の調理技術も身に付けていたという訳か。

だが、此の昼食のおかげで午前中の疲労が吹き飛んだよ――午後は、一秋の部屋を丸々入れ替える予定だから、昼食で回復出来たのは大き
いな。
さてと、其れじゃあ午後の部も張り切って行こうか!!



「「「「おーーーーーーー!!!!」」」」



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そして午後の部として一秋の部屋の整理……と言う名の事実上の作り直しだ。
タイミングよくセイバーとイージスが、必要な部材を届けてくれた上に、作業を手伝ってくれるという事で掃除から何からがスムーズに進んで居た
訳なんだが……お前は何をしてるんだ鈴?



「何って、男子のベットの下にはお宝があるもんでしょ?其れを探してんのよ♪」

「そう来たか……まぁ、アイツも男だから、そっち方面に興味がない筈がないから、ある可能性は否定出来んが……果たして、本当にあるのか如
 何かが問題だな。」

「そうね……だけど、アタシの勘は此処に有るって告げてるわ!!ドロー!!
 夏姫、アタシは此処で最強の一手を引き寄せたわ……アタシは『一秋秘蔵のエロ本』を攻撃表示で召喚するわ!!」



召喚しなくてもいいわそんなモノ!!
それ以前に男子のベットの下にエロ本は都市伝説だと思ってたのに事実か!!――其れだけでも引くのに、この雑誌のモデル……髪型のせい
もあるけど千冬さんに似てるよな?



「言われてみれば確かに……知らない人が見たら千冬さんと勘違いするかもだが、其れよりも此れの中身って近親相姦モンじゃねぇか!!
 あの野郎、只のシスコンじゃなくて、実の姉を性の対象として見てたってのか?……其れは流石に引くぜ。否、引く所じゃなくてドン引きだぜ!」

「うっわぁ、普通に引くわ其れ。」

「只の人格破綻者ではなく、歪んだ性嗜好を持っていたとは……既に世間的に立場を失くしているけれど、これはもう更なる評価の下落は避けら
 れないでしょうね。」

「マイナスを突破して更なるマイナス……なんて言うか、落ちるとこまで落ちるって言う感じだよ。」



其れは否定できないな。
まぁ、アイツと散は此れからの人生を檻の中で過ごす事が決まっているんだから、アタシ達が一々気に掛ける事も無いだろう――愚者は、其れに
相応しい末路を辿る、其れだけだからね。








――――――








Side:一秋


クソ!クソ!!クッソォォ!!!
なんで俺と散が、こんな目に遭わないといけないんだ……俺達の邪魔になる奴を排除して何が悪いってんだ!!――自分の邪魔になる奴を排
除するなんてのは此れまで人間がやって来た事だ!!
其れを、否定されるなんて納得できるか!!

其れに何より、蓮杖夏姫……完全に仕留めたと思ったのに、生きてたとは……マッタク持って呆れたしぶとさだぜ!!
そもそもにして、アイツが居たからこそ俺達は……クソッタレ、どんな方法を使ってでも俺と散は此処から抜け出して、必ず貴様を殺してやる!!



「ふふふ……その暗い情念、実に素晴らしい。」

「お前は!!」

声に気付いて振り向いたら、臨海学校で俺と散に力を与えた奴が居が……不気味な事この上ないが丁度良いぜ。
おいテメェ、テメェのせいで俺と散は真面に動く事が出来なくなっちまったんだが、如何してくれるんだ?お前、こうなるなんて事は一切言ってなか
ったよな?



「其れは失礼――何分、私も急いでいたので説明が十全でなかったのはお詫びしよう。おまけにアフターケアまで忘れるとは迂闊だったよ。
 だが、前回は忘れてしまったアフターケアを受ければ、君達は今すぐにでも動く事が出来るだろう……尤も、アフターケアは定期的に受ける必要
 があるから、こんな所に居ては無理な話だがね。」

「っけ、よく言うぜこの野郎。
 何処から入って来たかは知らねぇが、お前がそう言うって事はつまり俺と散にお前の配下に入れって事だろ?」

「ふふ、嫌かね?
 アフターケアを行えば、君達は更なる強さを手に入れる事が出来るのだよ?」



俺は誰の指図も受けねぇ心算だから、本来ならテメェ等をぶった切ってる所だが、アフターケアを行えば、更なる力を得る事が出来るって事に関し
ては興味があるぜ。
其の力を得れば、アイツ等に勝てるのか?



「勝てるかどうかは君達次第だが、絶大な力を与える事が出来るとだけ言っておこう。」

「絶大な力……良いね、最高だぜ!!そんな力が得られるなら、俺は悪魔や化け物とだって契約してやる!!お前も其れで良いよな散?」

「あぁ、勿論だ……この世は力こそが全て――強ければ生き、弱ければ死ぬ……弱肉強食こそが、この世界の理だしな!!」

「つまりそう言う事だ……アンタに俺達の力をくれてやるよ。」

だがな、俺と散の力を使うなら、生半可な事に使うのは許さないぜ?――俺達の力を使うってんなら、必ず蓮杖夏姫達を叩きのめせ!
アイツ等さえいなければ、俺達がこんな目に遭う事も無かった……アイツ等は全員叩きのめして、ぶち殺さないと俺も散も気が治まらねぇんだ!



「そうだ!アイツ等さえいなければ……特に姉さん、篠ノ之束は許せない!!
 私の人生を滅茶苦茶にしたくせに、其れに対する贖罪も何もせずに、箒姉さんだけを贔屓して……アイツには死にたいと思う位の屈辱を味わわ
 せてやらんと腹の虫が治まらん!」

「ふふふ、そう来なくては張り合いがない。
 ですが、準備を整えるのに10日ほどかかるので、もうしばらく待っていたまえ――待っていたからこそ、望んだ力を得た時の喜びは大きくなるモ
 ノだからね。」

「確かに其の通りかもな。」

なら10日ぐらいは我慢してやるぜ……其れだけ我慢しただけでアイツ等をぶち殺せるって事を考えれば悪い条件じゃねぇからな――散々俺を虚
仮にしやがって!!
あの屈辱、万倍にして返してやるから楽しみにしていやがれだぜ!!








――――――








Side:夏姫


セイバーとイージスの参戦に加え、予想外だった静寐の手助けもあり、一秋の部屋の完全リフォームが出来たな――こう言ったら何だが、一日で
終わらせるのは並大抵じゃないと思っていたからね。
取り敢えず一秋の持ち物は全部訪問リサイクルに引き取ってもらって、天井と壁と床はぶち抜いて新たな天井と壁と床を張り直して、束さんが資
材と一緒にセイバーとイージスに持たせたベッドや調度品やらをセットした結果、マッタク持って別の部屋になったな。

全ての作業が終わった後は、全員で夕食を食べて、其れから順次風呂に入って後は寝るだけだ。
既に鈴とマリアと静寐は風呂を終えて夫々の寝室で(鈴は一夏と同室だ)過ごしているからね――っと、上がったか一夏。



「夏姫姉、起きてたのか?」

「少し、お前と話しがしたくてな。」

「話?」



いや、難しい事は何もない……一夏、正直な事言うと、そろそろ限界だよな?



「ナニがとは言わないけど、確かに限界だぜ……鈴も箒も積極的にアプローチかけてくるから、理性を保つのが可成り難しいぜ夏姫姉!!
 って言うか、3カ月半も我慢した俺はとっても偉いと思うんだけど如何よ!!」

「あぁ、其れは確かに立派だと思う。」

だが、何時までも無理矢理抑え込んでおくと言うのはよくないし、鈴と箒だって不安になってしまうだろうから、今この時よりお前に課していた制限
を撤廃する。



「はぁ!?マジか夏姫姉!!!」


「マジだ。」

アタシは冗談は言うけど嘘は吐かないからね。
まぁ、『据え膳喰わぬは何とやら』だ――お前達はお互いに本気みたいだからアタシはもう何も言わん……こう言っては何だが、鈴と箒を『女』にし
た上で、お前が『男』になっても良いだろうと思っているよアタシは。
そもそも、お前と鈴を同じ部屋にしたのも、な。



「夏姫姉……」

「みなまで言うな……お前がしたいようにすれば良い。
 アタシのエゴで随分と溜め込ませてしまったが、もう我慢する必要はないよ。」

「夏姫姉……ちょっと違うかもしれないけど、ありがとな。」



礼など要らん。
弟の恋路を応援するのは姉として当然の事だからな。――だがな一夏、許可を出したその日の内に鈴に手を出すというのは、流石にお姉ちゃん
も予想外だったぞ?……其れだけ我慢していたという事なのだろうけどな。
取り敢えず一夏の部屋は防音加工しておかねばだ……壁越しではあるが、鈴の嬌声は確りと聞こえていたからね。

まぁ、これもまた夏休みの思い出なのかも知れないが……何か嫌な予感がするな?――具体的に『何』と言う事は出来ないんだが、漠然と『嫌な
予感がする』と言った感じが。
尤も、何か起きたらその時は、アタシ達で大抵何とかできるから大丈夫だろう。此れまでも何かが起きても何とかして来たしね。

ともあれ夏休みは始まったばかりだから、細かい事は気にしないで楽しまないと損だ!――夏休みってのは、楽しむためにあるモノだからね。



「勿論、全力で楽しむ心算だぜ?」

「ふ、ならば聞くまでもなかったかな?」

「おうよ!夏休みはイベントも盛りだくさんだからな!」

「確かに。
 夏祭りに、海に、山に……ちょっとした旅行なんてのもいいかもしれないな?夏休みは始まったばかりだが、色々と楽しみだね。」

「だろ?思い切り楽しもうぜ!」



あぁ最高の夏休みにしようじゃないか――その為に色々と計画も立てているからね。
学生にとって最大のロングバケーションとも言える夏休み――此の40日の間に何が起こるのか、少しばかり、楽しみだと思ってしまったわ、本気
でね♪
何にしても、夏休みは楽しまないと嘘だから、力の限り思い切り楽しまないと大損よね?――ふふ全力全壊で、夏休みを堪能させてもらおうかな。












 To Be Continued… 





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