Side:夏姫
いよいよやって来た臨海学校当日。
移動の為のバスはクラス1台だから、合計4台か――今更ながらに可成りの大所帯であるのは否めんな……まぁ、高校の臨海学校なら、この台数
も普通かも知れないけどな。
因みに、一秋と散の首輪付き2馬鹿は、バスじゃなくて窓に鉄柵を嵌め込んだ特殊車両……まぁ、平たく言えば囚人の護送車だな。
学園長が、あの2人を一般生徒と同じバスに乗せるのは拙いと判断したかららしいが、その判断は実に正しい事だったと言えるな――普通なら、あ
の馬鹿2匹は学園に缶詰めなんだが、学校行事に参加させないとなると政府が煩いから、一般生徒への被害が出ないようにと考えて、この処置に
なったみたいだからね。
まぁ、其れは良いとして何故アタシの隣がお前なんだ楯無?
「あら、嫌だったかしら夏姫ちゃん?
座席は自由だから夏姫ちゃんの隣に来ただけよ?其れに、学園最強と言われてる生徒会長が隣の席じゃ、他の子だと委縮しちゃうでしょ?」
「まぁ、其れは否定出来ないな。」
箒達ならそんな事はないだろうが、箒は静寐と、清香はのほほんさんと、マリアはメアリーと、癒子はラウラと一緒の席になっているから、確かにア
タシの隣以外の選択肢はなかったか。
まぁ、アタシとしてもお前が隣なのが嫌な訳じゃないから問題はない――寧ろ、同室で気心の知れた相手だから気を使わなくても良いからある意味
で精神的に楽だよ。
取り敢えず、此れ食べるか?移動のバスの中でおやつは基本だろ?
「あら、私の大好きなつぶつぶいちごポッキーね?有り難く頂くわ♪
其れじゃあ、お返しに此れをどうぞ夏姫ちゃん。」
「駄菓子の王様『BIGカツ』か……うん、大好きだ。」
見れば、アタシと楯無以外にも夫々の席でおやつの交換をしてる姿がちらほらと見えるから、ヤッパリ移動中のおやつは基本なんだろうな――まさ
か、後ろの席からおやつを貰うとは思わなかったけどね。
何にしても、臨海学校の始まりだな。
Infinite Breakers Break37
『First day of a school trip』
移動中のバスの中でも盛り上がるのが臨海学校なのかも知れないが、我が1組も其れに漏れずに車内でのカラオケ大会が勃発して、『1人1曲は
歌う事!』のルールの下、次から次へと歌いに歌って行く。
で、御多分に漏れず千冬さんにもマイクが回って来た訳なんだが……
「存在が 変わる程の 夢を持ってみたくなる
相棒へと 親友へと 繋がれば現世に立ち
神達に 抱かれながら また今日も待っている
緩やかに吹く 風じゃなくて もっと激しい熱風
決闘の世界に 舞い降りた I was a King
冥界の住人は、闇へ帰らないとな……楽しかったぜ、相棒。」
もうプロかと思う位に上手かった!
チョイスが『雪、無音、窓辺にて。』だったのは意外だったけど、まさかそれを某動画サイトにアップされた替え歌の方で披露するとは、千冬さんも臨
海学校って言う事で、何時もよりも少し緩めなのかも知れないな。
因みにだが、千冬さんの得点は変え歌だったにもかかわらず95点だった……腕っ節以外も色々と最強みたいだな千冬さんは。
で、其の後は山田先生が歌ったんだが……うん、得点はアレだったけどなんか可愛かったから良しとしておこう。
其の後もカラオケ大会は続き、アタシと楯無がデュエットしてバス内を盛り上げたり、箒がコブシの利いた演歌を熱唱して拍手喝采を浴びたりと、移
動中のバス内であるにも拘らず凄く楽しかったな。
そんなこんなをやってる内に、バスは臨海学校の地であるI県のO町内に入って視界が大海原で埋め尽くされる――IS学園は孤島に建てられた学
園だから、海なんて毎日のように見ている筈なのに、感激してしまうのは何時もとは違う空気の中で見るからなのかも知れないな。
「「「「「「「「「「海だーーーー!!」」」」」」」」」」
クラスメイトの面々も、海を見て歓声を上げているからね。
天気は上々で、海の波も穏やか――臨海学校の一日目は自由行動だったから、海で遊ぶには最高のコンディションと言えるかもしれないわね。
「此処の海ってシュノーケリングも出来るんだって!」
「おぉ、其れは面白そうじゃん!皆~、海に潜ったら何を見たい?」
「マグロ!」
「イワシ!」
「サンマ!」
「サバ!」
「イクラ~~。」
「イクラ!?」
……何やら突っ込みどころ満載な会話が展開されてるが、シュノーケリングが出来ると言うのは確かに魅力だな?――時間があったら、一緒に如
何だ楯無?
「そうね、そのお誘いは受けさせて貰うわ。
どうせなら、簪ちゃんも誘っちゃいましょう!」
「そうだな、其れが良い。」
なんて事を言ってる間に、宿泊先の旅館に到着。
海岸沿いにあるこの旅館は、庭から海を一望出来て見晴らしは最高だ――ネットで調べてみたら、初日の出を拝む為に、大晦日に部屋を予約する
客が多いとか……まぁ、納得だな。
「ようこそ御出でいただきました。
私、花月莊の女将の清洲景子と申します~~。」
「此方こそ、色々とお世話になる――其れでだ、こっちが。」
「蓮杖一夏です。臨海学校の期間中、お世話になります。」
「織斑一秋です、お世話になります。」
で、宿の女将と学年主任である千冬さんが挨拶をした後、2組のバスから降りて来た一夏と、護送車から降りて来た一秋が、揃って女将さんに挨拶
をした訳なんだが、一秋の外面の良さには嫌悪感しか覚えんな……あの張り付けたような笑顔には吐き気すら覚えるぞ。
女将の景子さんも其れを感じ取ったのか、一秋には少し引きつった笑みを向けていたからね。――其れでも笑みを維持したのは、見事であるとしか
言い様がないな……流石はプロだ。
まぁ、宿の女将さんが本物のプロだったのは良いとして、部屋割りはどうなってるんですか織斑先生?――より詳しく聞くなら、一夏と一秋の部屋割
りはどうなってるんですか?
「蓮杖弟はお前と同室だ蓮杖姉――凰や篠ノ之姉と一緒とも思ったが、臨海学校の宿泊先で間違いが起きたと言うのは、幾ら何でも洒落にならな
いのでな……お前と同室にさせて貰った。」
「賢明な判断ですよ織斑先生。」
自分で言うのもなんだが、一夏はアタシの事を文字通り『姉貴分』としてしか見ていなかったし、姉弟となった今ではアタシの事を『本当の姉』として
見ているから絶対に間違いだけは起こらないからね。
で、一秋と散の部屋は?
「私と同部屋だ。」
「……OK、完全にアイツ等に自由はないって事ですね。」
千冬さんの監視の下では、下手な事は出来ないだろうし、千冬さんに何か用事があった場合にはまず間違いなくスコールさんが千冬さんに代わっ
て監視するだろうし、何方も居ない場合は楯無がだからな……お前達が臨海学校を堪能するのは不可能だろうね――まぁ、自業自得だが。
でだ、取り敢えず自室に荷物を置いて……さて、如何する一夏?
「聞くまでもないだろ夏姫姉?
此れだけの良い天気なんだ、海で遊ばないなんてのは損だぜ!――実を言うと、速攻で海で遊べるように、制服の下に海パン穿いてました!」
「奇遇だな一夏、アタシも制服の下に水着を着こんでいた。」
「気が合うな夏姫姉?」
「姉弟だからな。」
こんな事を言ったらアレだが、アタシは千冬さんよりもお前の事を知っていると自負しているよ一夏――血は繋がって無いが、お前と共に過ごした時
間は、血の繋がり以上の物が有ったと思ってるからね。
「そう言って貰えるのは嬉しいけど……夏姫姉、取り敢えず浜辺に着くまではパーカー着用してくれよ?
俺が『良いんじゃないか?』って言ったのとは全然違う水着を選ぶとは思わなかったぜ……ぶっちゃけ、目のやり場に困るぜその水着は?」
「アタシとしてはお前が『良いんじゃないか』と言ったので決める心算だったんだが、楯無が『お揃いにしない?』って言ってきてな……少々過激なデ
ザインだとは思ったんだが、断る理由もないから色違いのお揃いにしてみたんだ。」
「って事は楯無さんも、その水着の色違いって事になるのか……ちなみに色は?」
「ゴールドだ。」
「夏姫姉がシルバーで、楯無さんがゴールドのその水着とか破壊力ハンパねぇ!
こう言ったら何だけど、鈴と箒が居なかったら、確実に俺陥落してるぜ!!――くれぐれも、ビーチの軽薄なナンパ野郎には気をつけてくれよ?」
あ~~、其れに関しては大丈夫だ一夏。
アタシも楯無も、その辺の軽薄なナンパ野郎に引っ掛かるような阿呆ではないし、断られて逆上して襲い掛かって来たとしても速攻で返り討ち確定
だよ――アタシと楯無の蹴りは、共に450kgの破壊力があるからな。(総合格闘技の選手の平均キック力が大体500kgだ。)
「流石、学園の生徒トップ2の呼び名は伊達じゃねぇな。」
「自由のアタシと、正義の楯無は最強って事だ。」
取り敢えず準備は出来たから海に行こう――そう言えばお前、何処でそんなお洒落なサングラスとチョーカーを手に入れたんだ一夏?
「鈴と箒から貰ったバースデイプレゼントって奴だ――サングラスは箒から、チョーカーは鈴からな。結構良いデザインだろ?」
「確かに、お前によく似合っているよ。」
鈴と箒のセンスは可成り高いと見て良いだろうな――まぁ、アタシも誕生日プレゼントとして、楯無から今使ってる伊達眼鏡と同じデザインのサング
ラスを貰ったけどね。
さて、それではビーチへ行くとするか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
と言う訳でビーチにやって来たんだが、如何やら皆が皆同じ考えだったらしく、学園の1年生全員がビーチに来ているみたいだな?……一秋と散の
二人だけは、千冬さんとスコールさんの監視の目の下に、ビーチの清掃作業をさせられている様だけどね。
まぁ、千冬さんとスコールさんが目を光らせているなら滅多な事は起きないだろうさ……お前は、もしもの場合の保険みたいだな楯無。
「まぁ、そうだとは思ってたわ。
逆に言うなら、私が織斑君達の監視をする事態が訪れない方が良いって事よ――私が監視員になったって言う時は、織斑先生もミューゼル先生
も監視に回る事が出来なくなったって言う事だから。」
「確かに、その通りだな。」
にしても楯無、流石のお前もビーチに来るまではパーカー着用だったか?
「私は別に良かったんだけど、簪ちゃんに『お願いだからパーカー着て行って』って言われちゃってね?
可愛い妹のお願いを断る事は出来ないわよね♪」
「その意見には全力で同意しようと思ってるアタシが居る。
だが、其れは其れとして、パーカーを羽織ったままでは海で泳ぐ事は出来ない――ならば如何するか?パーカーを脱ぎ捨てるしかないよな?」
「えぇ、その通りよ夏姫ちゃん。」
ジッパーを降ろして、袖を抜いて、そして襟口を掴んでパーカーを脱ぎ捨てる。
そして、その瞬間にアタシと楯無にビーチの視線が集中したが、まぁ仕方ない事だろうね?――自分で言うのも如何かと思うけど、アタシのプロポー
ションは可成り良いと思ってるし、楯無のプロポーションだって並みの女子高生のレベルを超えているからな。
そんなアタシと楯無が、色違い(アタシはシルバーで、楯無はゴールド。)の紐パンビキニを装備してたら、そりゃあ注目も浴びると言うモノだ。
しかもこのビキニは紐パンってだけじゃなくて、ビキニトップも胸を覆ってる布地を繋いでいるのは紐だからね……我ながら、楯無に誘われたとは言
え、大胆な水着を選んだモノだよ。
だがまぁ、アタシと楯無が衝撃の水着姿を披露したが、何時もの面子の水着姿だって魅力的だ。雑誌のグラビア飾れるレベルだぞ?
鈴は赤のセパレートタイプで、箒は黒のセパレート、マリアはパレオの付いたパールホワイトのビキニでラウラは背中とお腹が大胆にカットされたデ
ザインのスポーツタイプ、静寐はフリルの付いたピンクのビキニ、清香はシンプルなデザインの水色のセパレート、癒子は腰骨部分まで大きくカット
れたハイレグのスポーツタイプ、簪はシンプルな白のビキニでメアリーはフリルの付いたシンプルなワンピースタイプ、のほほんさんは……うん、言う
に及ばずだなアレは。
まぁ、此れだけの『華』が揃ったんだ、その『華』が注目されるのもある意味では仕方ないと言うか、当然と言えるだろう?
何やら注目を集めてしまったが、折角の快晴の海で遊ばないと言うのは損と言うヤツだから、先ずは思い切り海で遊び倒すとしようじゃないか。
「そうね、そうじゃないと損だわ♪」
――【貴重な自由時間】
「そうよね~~……それじゃ取り敢えず一夏、日焼け止めオイル塗ってくれる?」
「は?」
「あぁ、私にもオイルを塗ってくれるか一夏?日焼けは大敵なのでな。」
「ファッ!?」
そして、早々に嫁二人から重要ミッションを仰せつかったみたいだが、其れは二人の嫁を持った者の宿命として諦めて受け入れろ一夏――って言う
か、鈴と箒の様な極上の美少女に日焼け止めオイルを塗る事が出来るなんて言うのは、世の男共の羨望の的だから、有り難く承れ。
「逃げ道がない!?」
「一夏、これはRPGで言う所の逃げる事の出来ないバトルだから覚悟を決めろ。
其れに、鈴も箒もセパレートだからビキニの様にブラ部分の紐を外してと言う事も無いから、ハプニング的な事も起きないだろう?だから頑張れ。」
「優しい姉上のエールが身に染みるぜ……この場に弾が居なくて良かった。本当に良かった。」
まぁ、タイプの違う美少女を2人も侍らせてるお前に、ビーチのモテない哀しい野郎共が因縁をつけてくるかもしれないが、その時は手加減なしで返
り討ちにして格の違いと言うモノを見せつけてやればいいさ。
さてと、あのラブラブカップル達はアレで良いとして、アタシ達は如何する?
アタシは早速シュノーケリングを楽しもうかと思うんだが……
「そうね?私は夏姫ちゃんと御一緒するわ。
バスの中で約束したしね――もしも良かったら簪ちゃんも如何かしら?」
「シュノーケリング……うん、面白そうだし一緒に行くよ、お姉ちゃん。」
「私も、夏姫達と一緒にシュノーケリングをしようかな?海の中って、面白そうだし。」
「ふむ、ならば当然私も一緒に行くぞ姉上!」
楯無と簪、静寐とラウラがアタシと一緒にシュノーケリングだな。
で、マリアと清香と癒子は他の生徒と一緒にビーチバレー、メアリーはウィンドウサーフィンでのほほんさんは砂浜でサンドアート造りか……まぁ、の
ほほんさんの選択は当然と言えば当然かもしれなないな?――アレで泳ぐ事が出来るとは思わないからね。
其れじゃあ、シュノーケリング組は早速海の家からシューノーケリングに必要な物を借りに行くか?
「其れなんだけど夏姫ちゃん、ISのナックルガードとアンクルガードだけを部分展開すればシューノーケリングの道具は要らないんじゃないかしら?
部分的にとは言えISを展開すれば、不可視のシールドが張られて、そのシールドのおかげで宇宙空間でも活動が出来る訳だから海の中だって余
裕で行けると思うんだけど。」
「其れはそうかも知れんが、ラウラはそうは行かないだろう?」
ISRI製の機体ならば、ナックルガードとアンクルガードと言う細かい装甲になっているが、ラウラの機体は肘下と膝下にゴツイ装甲が展開される訳だ
から、可成り見た目がアレだと思うんだが……
「ならば、本体に展開されるフレームのみを展開すれば問題ないだろう姉上?
此れならば、水着に少しアクセントが加わった程度で済むからな。」
「成程、その手が有ったか。」
此れなら全く問題ないから、いざ海の中にレッツゴーだ。
……成程、流石は本来宇宙活動用のパワードスーツとして作られただけあって、ISのシールドは優秀だな?
海の水が目に沁みない所か、陸上と同じように呼吸が出来るからね――今更ながらに、束さんは本当に凄い物を開発したモノだと実感するわ。
お陰で海の中でも良く見える……ゴーグル装着以上だよ此れは。
浅瀬から始まって、少し泳いでいくと、出くわしたのは珊瑚礁の住人達か。
極彩色の模様は見ているだけで楽しい物が有るな――イソギンチャクに隠れてるお前はクマノミかな?映画でも大人気になったが、こうして見ると
確かに愛らしい外見をしているね。
――チョイチョイ
ん?何だ楯無――
『ウミガメ~~~』
「と思ったらウミガメだったか。何か用かなカメさんや?」
「若しかして、一緒に泳ぎたいんじゃないかしら?」
『カメ。』
楯無かと思ったらウミガメだった訳だが、まさかの楯無の予想が大正解だと?
器用にヒレでサムズアップするとは、このカメを捕獲して水族館に売ったら可成り儲ける事が出来る気がする――まぁ、そんな事は絶対にやらない
けどね。
なら、一緒に楽しむとしようじゃないかカメさん。
その後もシュノーケリングを楽しみ、岩場でウツボとコンニチワしたり、ハリセンボンと睨めっこしたり、ジンベイザメと一緒に泳いだり(何故居るし。)と
海の世界を満喫だ。
此れもISのおかげと思うと束さんには頭が上がらない思いだよ。
さて、ウミガメ君に先導される形で大分浜辺から離れて場所までやって来たな?
此処からは浜辺近くとは違った生き物が見れるだろうね……珊瑚をかじってる大型の魚はコブダイか?穴の中から此方を見てるのは、タコだな。
海底の砂地から生えてる(?)のはチンアナゴと言ったか?うん、面白い生き物だ。……っと、あの岩場の影、な~~~にか見えるぞ?
「沈没船だろうか?自然物ではないみたいだが……」
「でも、こんな所で船が沈没したなんて聞いた事がないよね?」
「取り敢えず調べてみましょうか、夏姫ちゃん?」
「あぁ、そうしようか。」
明らかに自然に出来た物ではないアレは一体何なんだ?――スルーしても良いが、見付けてしまった以上は気になるから、その正体を探ろうと近
付いた訳だが……うん、此れは驚きだ。
自然物ではないと言うのは確かに当たりだった。此れは人が海の中に設置した人工漁礁だった訳だからね。
だが、其れに珊瑚やカイメン、フジツボなんかが複雑に張り付いて、遠目にはまるで船の一部であるかのように見えていたのか……近付いて見て
みると、色取り取りの珊瑚やら何やらが、まるでモザイク模様のようだ。
「此れはまた、何とも見事な自然の芸術ね……水中カメラを持って来ればよかったわ。」
「カメラが無いのなら、確りと記憶に焼き付けておきましょう楯無さん――データに残すよりも、心のアルバムにですよ。」
「あらあら、上手い事言うわね静寐ちゃん♪」
心のアルバムに永久保存か……確かに。
若しかして、ウミガメ君はアタシ達に此れを見せようとして先導する様に泳いでくれていたのか――と言うのは、流石に考え過ぎか。アタシ達が此れ
に見とれている間に、何処かに行ってしまったみたいだからね。
「さて、貴重な自然の芸術を見る事も出来たし、そろそろ浜に戻るとするか?
自由時間はまだまだあるが、シュノーケリングだけで全ての時間を潰すと言うのも勿体ない気がするしね。」
「そうしよう姉上。
私も海で遊ぶのは初めてなので、色々な事をしてみたいからな。」
なんだ?海で遊ぶのは初めてなのかラウラは?――なら、尚の事色んな事をしてみないとだ。
ビーチバーレーにサーフィンにサンドアートと、海のレジャーは多種多様だからな?身体を砂に埋める砂風呂なんかも健康には良いし、正に目白押
しだよ。
と言う訳で、浜辺に戻って来た訳なんだが……何だ、此の浜辺に積み重ねられた軽薄そうな男共で構築されたタワーは?
「俺の鈴と箒に、分部不相応にも拘らずナンパかましてくれた野郎共に先制ファイナルブレイクかましまくった結果、あぁなっちまったんだよ。」
「先制Sブレ連発って、お前は常に0Craftsのボーナスが発生してるのか?……だとしたら、反則極まりないぞ流石に。」
「夏姫姉、『主人公は何をしても許される』って言葉知ってるか?」
「メタい上に身も蓋もないなその言葉は……まぁ、可成り的を射た言葉だとは思うけれどね。」
まぁなんだ、一夏の嫁達に手を出したのが間違いだったな?
一夏は人当たりが良くて、仲間思いのイケメンだが、反面己の大事なモノに害を与えんとするモノに対しては徹底的に冷酷に――ともすれば、修羅
を通り越して悪鬼羅刹にすらなれるからな。
声を掛けた相手が悪かったと思って、ナンパをした己を恨め……聞こえてないだろうけどね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
自由時間も終わり、軽くシャワーを浴びた後は、待望の夕食なんだが……正直臨海学校の食事とは思えない位に豪華だった。
まさか、刺身と天婦羅の両方が出てくるとは思わなかった――しかも、刺身と天婦羅の魚介類は今日水揚げされた新鮮なモノらしいし、天婦羅の山
菜も朝採りだと言うのだからね。
何よりも驚きなのは、刺身に添えられた山葵が、練り山葵じゃなくておろし山葵……其れも、おろしたての天然山葵だった事だ――何とも豪勢な事
だよマッタク。
「ホントよねぇ?
お造りも、マグロにサヨリにキンメダイと豪華極まりないモノ。だから、食が進むのも分かるんだけれど……」
「あぁ、アレは少し食べ過ぎのような気もする。」
「おかわり!!」
向かいの席では、一夏が豪快に白飯をかき込んで都合五杯目のおかわり……鈴と箒へのオイル塗りで精神力をガリガリ削られ、鈴と箒をナンパし
て来た不逞の輩を退治した事で体力を使ったから腹も減ったのかも知れないけどな。
「まぁ、食は健康の基本と言うから、アレだけ健康的に食べる事が出来てれば大丈夫だろうな。
……ん?何だ静寐、食べないのか茶碗蒸し?出汁が利いてて、エビやシイタケも入ってて美味しいぞ?」
「あ、うん……子供の頃に、茶碗蒸し食べてお腹壊した事があって、それ以来トラウマで……夏姫、良かったら食べて?」
あ~~……其れは仕方ないなうん。
オータムさんも酒は割と好きなクセに、『ガキの頃に泡の消えたビールを麦茶と間違って飲んでえらい目に遭った』と言う理由で、ビールだけは飲む
事が出来ないからな。
其れじゃあ有難く頂くとしますか。――そう言えば、マリアは日本暮らしも長いからアレだが、メアリーとラウラは生魚平気なんだろうか?否、ダメだっ
たら何か言ってくるだろうから大丈夫だったんだろうな。
取り敢えず、この旅館の食事レベルは高い――食事が終わったら、間違いなく癒子がSNSに写真付きでアップしてるだろうね。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
食事の後は、少し休んでから温泉に。自由時間の後はシャワーだけだったから、今度はゆっくりと浸からないとな。
海が一望できる露天風呂とは、眺めも最高だし、海から流れてくる潮の匂いにも風情がある……この温泉に入りに来るだけでも価値があるかも知
れないな此の旅館は。
「えぇ、マッタクね。
食事も美味しくて、温泉も最高となれば人気間違いなしじゃない♪――学園も、相当奮発して宿を探したみたいね?」
「まぁ、有り難いとは思うけどね。
……なぁ、楯無。この臨海学校、此のまま無事に終わると思うか?」
「……正直な事を言うなら、此れまでの事を考えると無事に終わるとはちょっと思えないわね。
クラス対抗戦、学園別トーナメントとイベントの度に何かしら起きて来た訳だし、何方も無人機の襲撃があった訳だから、今回もまた似たような事
が起きる可能性は決してゼロじゃないと思ってるわ。」
「お前もそう思うか。」
加えて、臨海学校に出席してるのはお前を除けば全員1年で、学年最多の専用機持ちが要るとは言え、学園よりも警備が手薄な民間の旅館なら
ば襲撃もしやすいからな。
あくまでも可能性の話ではあるが、一応の警戒はしておいた方が良いかも知れないわね。
此れが、私達の杞憂で済めば、それに越した事は無いんだけれどな……初日は何事もなく終わりそうだが、明日以降に何が起きるのか――何が
起きても対応できるようにしておかねばだな。
取り敢えず今は、この温泉を楽しまないとだ。
――数分後、男湯の方から凄い音がしたから何かと思ったが、如何やら一夏が覗きを敢行しようとした一秋を雪崩式ジャーマンスープレックスでKO
した音だったらしい……あの馬鹿は、監視処分の下で何やってんだかなマッタク……
To Be Continued… 
機体設定
|