Side:夏姫


ゴールデンウィーク中は、ISRIの本社に戻って、フリーダムの稼働データを束さんに渡さないとだな――一夏とマリアと鈴の機体の稼働データも一
緒に出さなければだけどね。
アイツ等、それぞれ用事があるからって、データの提出をアタシに丸投げしてくれたからな……連休が終わったら色々と覚えておけよ。

まぁ、其れは良いとしてアタシ達もそろそろ出かける訳だが、準備は出来たか楯無?



「勿論、準備万端よ夏姫ちゃん♪
 ISRIに滞在する期間中の着替えにお風呂セット、其れと生徒会で処理すべき書類も全部持って来ちゃったから♪」

「其れはまた何とも……だが、全部持って来ちゃったら虚さんが暇になるんじゃないか?」

「其処は言いっこなしよ夏姫ちゃん♪
 虚ちゃんには普段からお世話になってるから、偶には暇になった方が良いのよ――余りに詰めすぎると、何処かで爆発して取り返しの付かない
 事になるかも知れないからね。
 其れに、夏姫ちゃんだって生徒会役員なんだから書類の処理を手伝ってくれるでしょう?」

「まぁ、其れは当然だ。本当は休み明けに一気に熟す心算だったけどな。」

それにしても虚さんの事を考えての仕事の持ち込みか――部下の事も考えているとは、お前は上司として最高かもな楯無。



「あらま、意外と高評価?ISRIにも高評価で伝えてたりする?」

――予想外の高得点。



扇子を使って言う事でもないだろう?アタシはお前の実力を正当に評価しただけだ。
勿論ISRIの方にも正当な評価を送っているよ……そもそも、お前の実力は疑いようもないだろう楯無?――社長も、お前に会うのを楽しみにして
いるみたいだったしね。

いざ、行くとするかISRIの本社に!!










Infinite Breakers Break22
『G・W其の参~ISRIでの彼是~』










で、今回ISRIの本社に行くのはアタシと楯無、そして静寐と清香と癒子――の筈だったんだが、見覚えのない生徒が一人。
リボンの色からして、2年生だろうが……どちら様でしょうか?



「そういや、こうして面と向かって会うのは初めてだな?
 俺はアメリカの代表候補のダリル・ケイシーだ――でもって、1年2組の担任であるミューゼル先生の姪だ。」

「!!」

アメリカの代表だったか。いや、それ以上にスコールさんの姪である彼女もISRIに行くと言う事は、アタシ達が知らなかっただけで亡国企業の構成
員と言う事になる訳か……そう言う人が居るなら、教えてくださいスコールさん。

「そうだったんですか……と言うか、ケイシー先輩がISRIに所属してたとは知りませんでしたよ。」

「俺の事はダリルで良いぜ――堅苦しいのは好きじゃねぇからな。だから、敬語も無しで良い。
 楯無……は同学年だから当然として、そっちの3人も俺には敬語は必要ないからな?」



如何やらダリルは、口調は荒っぽいけど、気さくでフレンドリーな性格みたいだ――オータムさんとはまた違った『姉御キャラ』って言う所かもな。
さて、そろそろISRIからの迎えが来る筈だが、果たして何が来るのか……と言うか、滑走路やヘリポートじゃなくて埠頭で待っていろと言うのが少
し嫌な予感がするんだが……



――ザバァ!!



「海の中から何か出て来たわね?……潜水艦かしら?」

「夏姫さん、迎えって……」

「あぁ、間違いなくアレだ。
 水空両用航空戦艦『アークエンジェル』……まさか、これで迎えに来るとは思わなかったよ――と言うか、普通に多人数用の輸送ヘリとか、自家
 用小型ジェットじゃ駄目だったのだろうか……」



「其れは言うだけ無駄だな夏姫。
 社長が此れで迎えに行って来いと言った以上、それ以外の機体で迎えに行ける筈がないだろう?……逆らってもいいが、そうすると後が色々と
 面倒だからね。」



リインフォースさん……貴女がお迎えですか。
まぁ、確かにあの人が言い出した以上は、逆らったら逆らったで後が色々面倒だからな……取り敢えず、接岸してタラップ降ろしてくれますか?
そうして貰わないと、乗艦出来ませんので。



「了解だ。……どっせい!!」



――ドッスゥゥゥン!!



「……夏姫さん、あの人今、タラップを一人で持ち上げて設置しなかった?」

「確かにそうだが、其れを気にしたら負けだ静寐……リインフォースさんが本気を出したら、多分織斑先生も瞬殺できるかもしれないからな……」

「ブリュンヒルデを瞬殺って、マジっすか!?」



本気と書いてマジだ清香。
アタシと一夏、マリアと鈴を見て貰えば分かるかも知れんが、ISRIってのは色々と規格外の連中が集まる場所みたいでな……今日知り合ったダリ
ルだって、並のIS乗りを遥かに凌駕してるのは間違い無いからね。

此れから、そんな連中が居る会社に行くんだ、心の準備は出来てるか?



「凄い人達の集まりだと言うのは理解できたけど、だけど余計に行くのが楽しみになって来たわ♪」

――超期待♪


「凄い所だって言うのは分かったけど、逆にそんな所を見学できるのは貴重な事だから、楯無先輩じゃないけど楽しみかな?」

「其れに、新機体のトライアルに参加出来るかもしれないって話だったし、これは楽しみにならないのが嘘でしょ!」

「新型機に触れるって言う事だけでもいい経験になりそうだし♪」



ふ、如何やら要らない心配だったみたいだな。
其れじゃあ、行くとするかISRIの本社に――安全運転でお願いしますよ、リインフォースさん?



「任せておけ。アークエンジェル、発進する。」



学園までは海路で来て、学園からは空路で……此れは、下手したら各国が欲しがる物かもしれないなアークエンジェルは。
潜水能力と飛行能力だけでなく、メインブースターの出力を最大にすれば宇宙進出も可能な航空戦艦だからな――尤も、これを作るには、束さん
級の頭脳が必要になるから、設計だけ手に入れても意味は無いけれどね。


で、アークエンジェルに乗り込んでからは、本社に着くまでの間に色々と楽しんだな。
ダリルを入れて6人だった事も有って、3on3形式でカラオケバトルをやったり、格ゲーのチーム戦をやったり、勝ち抜き式のカードゲームバトルを
やったりとな。

序に、これを機に静寐と清香と癒子には、敬称は要らないと言う事を伝えておいた――同学年の奴から敬称付きで呼ばれるのは余り好きではな
いし、今更敬称を付ける間柄でもないからね。
『のほほんさん』について突っ込まれはしたが、あれは『のほほんさん』までが渾名であって、敬称付ではないと言う事で納得させた。

静寐の『ポケモンのスイクンみたいなものだね』ってのはちょっと違う気がしなくもないがな。――さて、ISRIの本社がある島が見えて来たぞ。



「あの孤島にISRIの本社があるのね?
 でも、どうやって島に入るのかしら夏姫ちゃん?滑走路らしき物は見えないし、埠頭みたいな物もないようだけれど……」

「其れは、これから分かる。」



「此方、アークエンジェル艦長のリインフォース・クロニクルだ。
 蓮杖夏姫とダリル・ケイシー、他4名を連れて来た、着陸用滑走路の展開を求む。」



リインフォースさんが要請した次の瞬間には、島が持ち上がり、一部が変形して迫り出して着陸用の滑走路の完成だ。――島を丸ごと改造するな
んて言う事を思いついた社長には頭が下がるけれどね。



「島が変形って、まるで特撮ね?」

「リアルでこんな光景を見る事になるなんて思わなかった……」

「これは、初めて見たら相当驚くんじゃないの!?」

「其れを狙ったらしいからな。」

まぁ、取り敢えず降りてくれ。
まずはISRIの施設を案内するからさ――どうせなら、ダリルも一緒に如何だ?



「お誘いは嬉しいが、俺は機体メンテナンスの為に戻って来たから、あんまし時間的な余裕がねぇんだ――残念だが、今回は見送らせて貰うぜ。
 次の機会があったら、そん時は参加するけどよ。」

「其れは残念だ――次は、一緒に回れると良いな。」

「次の機会を楽しみにしてますね、ダリル先輩。」

「だから、俺の事はダリルで良いっての。」



もっとダリルとも親睦を深めたかったんだが、其れは次の機会にだな。まぁ、学園に戻れば機会など幾らでもあるか。
さて、其れじゃあ先ずは施設内を一通り見て行くとするか。新型機のトライアルは午後の予定だし、楯無の専用機も今は最終調整の段階だと社長
から聞いているから渡すのは午後になるだろうからね。

先ずは格納庫から、動く床で移動して、エレベーターを上がった此処がロビー。地下通路の真上の地上にはIS用の屋外訓練場があって、主に新
型機のテストやトライアルが行われてる。



「って事は、私達が参加する新型機のトライアルも其処で?」

「あぁ、その通りだ癒子。あと、楯無の専用機の稼働テストも其処でやる事になるだろうね。」

「まぁ、そうなるわよね。」

「所で夏姫、何だかIS纏って働いてる人が居るみたいだけど……」

「いや、アレは人じゃないよ静寐。アレはAIを搭載した無人機だ。
 だが、無人機でも搭載しているAIは可成り高性能で、人と全く変わらないコミュニケーションを取る事が可能なんだ――まぁ、流石に声は合成音
 だけどね。
 尤も社長は、有名声優呼んで声のサンプル取りたかったみたいだけど。」

「其れって、開発費が大ダメージ……でも、人と同じコミュニケーションが出来るAIなんて凄いね!」

『オ褒メニ預カリ、光栄デス。』

「「「!!!」」」

「なんとも人間臭い無人機ねぇ……」

――どっちかと言うと人造人間?



確かに、そう言った方が正しいかも知れないな楯無。
さて、ロビーから少し進むと見えてくるのが、社員全員の胃袋を預かっている食堂だ。この食堂の最高責任者であるチーフシェフが鈴の母親だ。
中華は勿論だが、和と洋も絶品だ。と言うか、この食堂のメニューはどれを食べても最高に美味しいからな――まぁ、その中でも一押しは、中華だ
ったら酢豚定食と麻婆定食、和風なら親子丼と天婦羅定食、洋風ならチキンソテー定食とステーキ丼がお勧めだな。
滞在中は此処で食事をとる事になるから、その間にたっぷりと堪能すると良いさ。



「そうさせて貰う。
 ところで夏姫、食堂で使う食材って何処から調達してるの?其れと、電力とかのエネルギーも……此処って完全な孤島だから、食材とかの物質
 は外から輸送して貰うにしても、エネルギーは難しいんじゃないかと思うんだけど。」

「其れについては問題ないぞ静寐。
 この島は絶海の孤島だが、土地は広いから、島には幾つかの食糧生産プラントが存在してるんだ。農場から牧場、そしてそれらを加工する工場
 がね。
 雑貨に関しても材料だけ外から輸送して貰って、後は全部自社生産をしているから問題ない。
 エネルギーは……社長自ら開発した『核融合原子炉』を搭載した原子力発電所が地下にあるから心配なし。核融合原子炉は、一度稼働したら
 地球が寿命を迎えるまでは余裕で動くからな。」

「核融合炉、其れは恒星と同じ仕組み……つまり、50億年は余裕で動き続ける訳ね。」



そう言う事だ。
加えて言うなら、アタシのフリーダムを始めとしたISRI製のISには、此の核融合炉を超小型化してエンジンに搭載しているから、事実上のエネルギ
ー切れは無い。
まぁ、流石に其れだと強過ぎるから、試合では稼働エネルギーとは別にシールドエネルギーを設定しているけどね。



「「「ISRIハンパねぇ……」」」

「ホントに凄いわねぇ……」



まぁ、社長があの人だからね。
しかし、なんだろう……物凄く嫌な予感がする――具体的に言えば、楯無達の前に『東雲千鶴』じゃなくて『篠ノ之束』として社長が現れるんじゃな
いかと言う予感が。

……盛大にフラグを建てた気がしなくもないが、こればっかりはフラグが折られる事を期待するしかないか。



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・・・



そんな訳で、午前中はISRIの内部案内や関連施設を見て回り、ランチは食堂で摂った。(メニューは、アタシが赤豚骨ラーメン、楯無が酢豚定食、
静寐が麻婆定食のライスが半チャーハンになったモノ、清香が天婦羅定食で、癒子がステーキ丼だった。)

其れで此れから楯無の機体を取りに行く訳だが……



「なっちゃーん!お帰りーーーー!!!」

滅殺……



――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……カキィィィン!!



                                            



我こそ、拳を極めし者!



「し、瞬獄殺かまさなくても良いんじゃないかな?流石の私も、ちょっとだけ地獄を垣間見たよ!?」

「刹那の瞬間に地獄を垣間見る、故に瞬獄。まぁ、垣間見ただけで生きてるんだから大丈夫でしょう。
 と言うか、普通に変装なしですか……嫌な予感が現実になってしまって、少しばかり気分がブルーです……まぁ、此れからの事を考えれば正体
 を隠す意味はありませんが……せめて普通に登場してください束さん。」

「ハッハッハ!私に其れを求めるのは無理ってもんだよなっちゃん!
 其れは其れとして、ようこそISRIへ!私が社長の東雲千鶴こと、ISの生みの親である天才科学者篠ノ之束だよーーよろしくね~~~!!」


「へ?篠ノ之束博士って、本当に!?」

「マジっすか!?」

「まさか、ISの生みの親が社長だとは……」

「あらあら吃驚♪」

――驚天動地



そして、この衝撃の登場に、静寐は目が点なって、清香は開いた口が塞がらなくなり、癒子に至っては驚きのあまりおさげが重力に逆らって真上
を向いていた。――お前の髪の毛はどうなってるんだ癒子よ。
楯無が全く驚いているように見えないのは、性格ゆえだろうな。



「本当も本当、本気と書いてマジだよ!
 そして、ISRIとは世を忍ぶ仮の姿……その実態は、戦争介入や違法軍事施設の破壊によって世界の安定を保つ裏の組織、亡国企業だー!」



……あのですねぇ、幾ら何でもぶっちゃけ過ぎじゃないですか束さん?
楯無は兎も角、静寐達は其れを全く知らないんですよ?――幾ら何でも、行き成り爆弾を落とし過ぎでしょう?



「うん、其れは分かってる。
 だけどさ、何れバレちゃう事なんだから、最初っからオープンにした方が良いでしょ?――特に、夏姫ちゃんが見出した3人は、完全にこっち側に
 引き込む事になる訳なんだから。」

「其れはそうですけど……あぁ、もう仕方ないな!
 本当はもっと段階的に話す心算だったんだけど、束さんがばらしてしまった以上、隠すのは無理だから言わせて貰う――静寐、清香、癒子、ISRI
 は、聞いた通り亡国企業だ。
 お前達に新型機のトライアルを持ちかけはしたが、トライアルに参加したら、其処からは裏の社会と付き合わねばならなくなるんだが……」

「……私は、トライアルを受けるよ夏姫。
 夏姫達が、何処か普通じゃないのは分かってたけど、まさか亡国企業だとは思わなかったから、其れには驚きだけど――一つだけ聞かせて。
 ISRIの目的は何?」



静寐……ISRIと言うか亡国企業の目的は『ISを本来の姿に戻す』、これに尽きる。
束さんはISを宇宙進出のための新技術として発表したが、その後に起きた『白騎士事件』でISは兵器として認識されてしまい、更には女性用が先
に完成していたせいで『ISは女性だけが扱える』と言う間違った認識が広がって女尊男卑の世界になってしまった。

其れを如何にかするには、ISから兵器としての価値を奪わなければならない――ISを越えるISの存在を持ってしてね。
アタシのフリーダムをはじめとするISRIの機体は、束さんが最初から兵器として開発したモノだ……宇宙進出のためのパワードスーツですらあらゆ
る現行兵器を上回る力を持っていたんだ――その束さんが最初から兵器として開発した機体なら現行のISを上回るからね。

ISを上回る兵器を持ってして、この世界を正常に戻す――其れが目的だ。



「世界を変える……可成り大それた目的だとは思うけれど、悪くないわね?
 と言うか、暗部の長としては其れに協力しない理由が無いわ――寧ろ、今の世界は何処かで正さないと、絶対に破綻して取り返しの付かない事
 態になりかねないモノ。」

「そう言う事なら、私達にも手伝わせて。」

「ちょっと予想外だったけど、これを断る理由は無いからね!!」

「寧ろ裏社会上等!とことんやってやるわよ!」



楯無だけじゃなく、静寐達も此方側に来る事をアッサリと決めるとは思っていなかったよ――或は、これもまたアタシ達と訓練を続けて来た事で度
胸と言うか、そう言ったモノが身に付いた結果なのかも知れないけど。
だが、お前達が二つ返事で此方側に来てくれたと言うのは、素直に嬉しいよ――ありがとうな。



「其れじゃあ、この話は此処まで!湿っぽいのは性に合わないからね!
 と言う訳で、研究棟にレッツゴー!楯無ちゃんの専用機は、後はコアを埋め込むだけだし、新型機のトライアルもそろそろだからね!!」



って、強引ですね束さん!?……まぁ、其れが貴女らしいと言えば其れまでなんですけどね?
今更ながら、この人の行動エネルギーに付いて行くのは、並大抵の事じゃないな絶対に。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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・・・



そんなこんなで、静寐達は新型機のトライアルに行って、楯無にはISRI製の専用機が渡される訳だが、これが楯無の専用機ですか束さん?



「うん。
 形式番号ZGMF-X09A、機体名『ジャスティス』。夏姫ちゃんのフリーダムの兄弟機って言う所かな?――攻守速のバランスを高水準で搭載して
 るのはフリーダムと同じだけど、ジャスティスは何方かと言うと近接戦闘に重点を置いた機体だよ。」

「ジャスティス……正義の名を冠したIS。これが私の専用機……」

「其の通り!そしてその性能は、今君が使ってるミステリアス・レイディよりも遥かに上だよ。
 って言うか、束さんに言わせれば、その機体はハッキリ言って欠陥機でしかない。否、着眼点そのものは悪くないけど、暗部の長が使う物として
 は、不確定要素が多すぎるからね。」

「け、欠陥機!?」



自分が使ってた専用機を、真正面から欠陥機と言われたら、そりゃ楯無だって驚くよな……一応理由を聞いても良いですか?



「確かに水の盾や、水蒸気爆発での攻撃はとても強力だし、大気中の水分を利用する訳だから理論上はエネルギーを必要としないよ。
 だけど水ってのは無形である分、とても周囲の環境に左右されやすい――つまり、ミステリアス・レイディがその機体性能を十全に発揮する為に
 は、水が水として存在できる場所じゃないとダメなのさ。
 極寒の地では水は凍っちゃうし、水蒸気もダイヤモンドダストになっちゃう。逆に高温の場所では水はあっと言う間に蒸発しちゃうから、大気中
 の水分を集めた所でほんの数秒で其れは蒸発しちゃって使えない。
 アリーナみたいな整った場所で試合をするなら兎も角、暗部の人間なら、整ってない環境で戦う事だってあるでしょ?」

「確かに……そんな極地の戦闘では、ミステリアス・レイディの能力を十分に発揮する事は出来ないわね……」

「でしょ?だから、安定した力を出せる機体の方が絶対に良いと思ったの。
 まぁ、心配しなくても、ジャスティスは鎧装と武装が出来ただけで、まだ完成してない――ミステリアス・レイディのコアを移植して完成となる訳だ
 からね。」

「ミステリアス・レイディのコアを……分かりました、お願いします束博士。」

「お任せあれ!」



成程、言われてみれば確かに弱点が多いなミステリアス・レイディは。
だが、それらを論破した上で、コアをジャスティスに移植すると言うのは束さんらしいと言うか何と言うか……で、ミステリアス・レイディのコアはジャ
スティスに移植され、ミステリアス・レイディの機体はそのままISRIで保管、研究される事になった。
で、全くの偶然だが、コアの移植によってジャスティスにはミステリアス・レイディの機能の一部であるナノマシン精製能力が受け継がれた様だ。

そして、楯無にジャスティスが渡されたのと同じ頃に静寐達がトライアルから戻って来たんだが……如何だった?



「バッチリだよ夏姫!
 アタシはフォビドゥンで、癒子がレイダーで、静寐がカラミティでAランク叩き出したから!」

「まぁ全員、Aランク叩き出した機体以外の結果はCランクだったけど……でも、これも夏姫達と訓練した結果かな?」

「かもな。」

その結果を踏まえると、静寐がカラミティ、清香がフォビドゥン、癒子がレイダーの担当と言う事になる訳か。

記録映像を見せて貰ったら、皆良い動きだったが、一番驚かされたのは静寐だ。
ノーマルとソードの切り替えが早いのは言うまでもないが、ソード状態の時にシュベルトゲベールの二刀流を難なくやって見せるとは思わなかった
な……アタシ達と訓練をしてるとは言え、アレだけの武器で二刀流をやってのけるってのは相当な物だ――よもや一夏以外に出来る奴は居ない
と思っていたからな。



「見様見真似だけど、結構様になってたでしょ?」

「様になってる所か、堂に入ってるよ静寐。」

尤も、楯無は機体変更をしたし、新たに3人も専用機持ちが生まれた訳だから、此れから千冬さんとスコールさんは学園への専用機登録の手続
きとかで大変だろうな……まぁ、それもIS学園の教師の仕事だから頑張って下さい。

取り敢えず、今回のISRI訪問は大成功だったな。








――――――








Side:千冬


折角の休日なので、スコールと共に、昼間から飲んでいたのだが――



『楯無の専用機が変わって、静寐と清香と癒子が新たに専用機持ちになったので手続きの方宜しくお願いします。』



夏姫からこのメールを受けて一気に酔いが吹っ飛んだよ――其れはスコールもだがな。
しかしまぁ、1組でも練習熱心なあの3人ならば、ISRIが目を付けて専用機を渡したとしても不思議ではないな――楯無に関しては言わずもがなだ
からな。

まぁ、専用機持ちが増えたと言うのは、其れだけ学園に提出する書類が増えると言う事だが……生徒の成長の証と思えば苦痛でもないさ。



「仕事が増えると言うのに、随分とプラス思考ね、千冬?」

「マイナス思考では、何をやった所で良い結果にはならないからな。只、其れだけの事だよスコール。」

「あら、男前♪」



からかうなスコール。
何にても、1組に新たに専用機持ちが3人か――普通なら面倒だと思う所だろうが、楽しみだと思っている辺り、私も今の世界にどっぷりと浸かっ
て居るようだ。

これは、連休明けが楽しみで仕方ない――そう思ってしまったからな。











 To Be Continued… 



キャラクター設定



・ダリル・ケイシー

IS学園の2年生。
アメリカの代表候補性だが、その実は、スコールの姪っ子であり亡国企業の構成員の一員。
性格は粗暴な面があるモノの、年下の面倒はキッチリと見る姉御肌であり、オータムとは違った『姉御キャラ』が定着している。
尚、1年生の『フォルテ・サファイア』とは、恋人関係であったりする。