Side:夏姫


結局の所、クラス代表決定戦はマリアがアタシとの試合を棄権した事で、アタシの全勝って言う結果になったが、其れはあくまで最終的な星取り
表の上での事であって、事実上はアタシとマリアが無敗って事か。

一秋の奴は、偽シリアとの戦いで運よくワンオフアビリティーである『零落白夜』がヒットしてギリギリ勝ちを拾ったみたいだが、零落白夜は存在そ
の物が反則みたいなものだからな……ある意味でチートで勝ったようなモンか。
元々は千冬さんの『暮桜』の能力だが、ぶっちゃけて言うと千冬さんは零落白夜がなくても普通に勝てたからな……其れでも、アイツは千冬さん
と同じ力を手に出来た事を喜んでいるみたいだけどね。

まぁ、其れは如何でも良いが……何か用か鷹月、相川、谷本?



「蓮杖さん、昨日の試合、とってもカッコよかった!イギリスの代表候補性を手玉に取るなんて普通は出来ない事だと思う……強いんだね!」

「フリーダムもめっちゃカッコ良かったからね!」

「蓮杖さん、良ければISの事教えてくれるかな?」



うん、如何やら昨日の試合で注目されてしまったみたいだな?
だが、何故アタシになんだ?マリアだって事実上の全勝なのに……



「其れは貴女が『カッコいい女の子』だからよ夏姫。
 こんな事を言ったら身も蓋もないけれど女子校に於けるハンサム女子は、如何足掻いても同性にモテる事になるから諦めなさいな。」

「そうだとは思っていたが、矢張り納得できん……」

いや、一秋の毒牙にかかる事がなくなったと思えば悪い事でもないのか?……アイツの毒牙にかかるくらいなら、アタシに懐いてくれた方が万
倍マシかも知れないな。
と言うか、懐いてくれれば鍛えるのも容易だしね……良いだろう、鷹月、相川、谷本は、アタシが直々に鍛えてやるとしようじゃないか。
相川は身体を動かすのが趣味らしいから素質はありそうだし、鷹月と谷本もそのやる気があるのならモノになるだろうしな。
ふふ、此の3人を鍛えるのが少し楽しみになって来たよ。











Infinite Breakers Break13
『クラス代表決定戦~2組の場合~』










其れとは別に、大事な事が……言わずもがな1組のクラス代表だ。
普通に考えれば不戦勝も含めて3戦全勝のアタシがクラス代表になるところなんだが、千冬さんが『最も勝率の良い者に代表決定権を与える』っ
て言ってたから、アタシの独断でクラス代表は決めさせて貰ったよ。



「と言う訳で、1年1組のクラス代表は織斑一秋君に決まりました。あ、一繋がりで縁起が良いですね♪」

「そうですね~~……って、なんで俺が代表!?全勝のなつ……もとい蓮杖がクラス代表じゃないのかよ!!」

「あぁ、普通に考えればそうだが、私は『勝率の最もよかった者にクラス代表の決定権を与える』と言ったんだ――昨日の試合で最も勝率が良か
 ったのは蓮杖姉だ。
 何せ3戦全勝なのだからな。」

「従って、代表決定権を手に入れたアタシが、お前を代表に決めたという訳だ。」

まぁ、そう言う訳だから頑張り給え天才君。
お前は天才らしいからな、クラス代表としては申し分ないだろう?……精々我がクラスに泥を塗らない様にしてくれよ?――まぁ、天才君には要
らない心配かも知れないがな。

其れにだ、元々お前はクラスの大多数からの推薦を受けていたんだ、其れを考えてもお前が責任を持って代表を務めるべきだろう?



「それらしいこと言って、如何考えても厄介事を俺に押し付けただけじゃないか!!勝ったお前がやるべきだろ!!!」

「記憶を掘り返しても、こう言った決め事で勝負に買った奴が代表になると言うのは先ず無かったと思うんだが、其れを議論するのは止めておい
 て、アタシには代表を務められない事情があるんだよ。
 実を言うと、入学早々生徒会長様直々に生徒会へのスカウトを受けて生徒会に入る事になったのんだ――詰まる所、生徒会の仕事とクラス代
 表の仕事を同時に行うのは難しい。他に部活もあるしな。」

「なら、レインは!お前推薦してたじゃないか!!」

「いやぁ、アレはアタシがのほほんさんに推薦されたから、ならばとアタシの理不尽で巻き込んだだけだ。そもそもマリアはやる気ないし。」

其れでもってオルコットは論外だ。
3戦全敗の上に、あの時の一件でクラス全員を敵に回したといっても過言じゃないからな……そんな奴をクラス代表にしたら、暗闇で背後から刺
される事になりそうだしね。
これらの事情を加味して、代表を務められるのはお前しかいないと判断したという訳だ。



「いい加減覚悟を決めろ織斑。
 お前は昔から色々と成績は良かったのだから、ちゃんと訓練をすればIS操縦者としての腕も向上する筈だ――クラス代表は、その為の良い機
 会だと思え。」

「ちふ……織斑先生……分かったよ。
 クラス代表になったからには、精一杯やってやるさ――1組の名に恥じないようにな!!」



やっと納得したか。
其れで決意表明だが……だ~れも、何にもアクションを起こさないな?其れこそ、コイツを推薦した連中ですらだ。
昨日のクラス代表決定戦で、アタシとマリアに完封された事で、一秋の実力が知れ渡ったのが原因だな――スマホでSNSを確認したら、学園の
生徒と思われるユーザーがアタシと一秋の試合の動画をアップしてて『この程度がブリュンヒルデの弟!?』ってタグ付けてたからね。

反応がなくて困ってるようだが、1組の連中からの信頼を得る事が出来るかはお前次第だ一秋。
此処でお前が真剣にISと向き合って訓練を行い、そして実力が向上すればクラスの皆もお前を見直すだろうが、既に錆びついてしまった才能に
胡坐をかいたままならば、皆からの信頼を得る事は出来ないだろうね。

まぁ、アイツの性格と、金魚のフンである散の事を考えると、レベルアップは望めないがな。――だが、それで良い。
お前は此れまで一夏の努力を散々否定して馬鹿にして来たのだから、今度はお前が『千冬さんの弟とは思えない無能』とか言われて罵られると
いいさ……因果応報ってやつだ。



「あの、すみません、発言宜しいでしょうか?」

「オルコットか?良いだろう、発言を許可する。」



ん?此処で偽シリアが……何をする心算だ?



「先ずは先日の件での謝罪を……私の行き過ぎた差別発言で、皆様に深いな思いをさせてしまった事を謝罪いたします。
 蓮杖さんとマリアさんに敗れて痛感いたしました……私が如何に愚かであり、代表候補性となった事で慢心していたのかを……謝罪して済むと
 いう事でないのは理解しています……ですが、本当に申し訳ありませんでした!」



此れは予想外だ……まさかあの一軒の事で謝罪をするとはな。
プライドに手足が生えて服を着て歩いているような奴だと思っていたから、自分の非は認めないと思っていたが……如何やらそんな事でもない
みたいだな。

「(マリア、アイツの事は如何する?)」

「(そうね……自分の非を認めたのだから、此れで手打ちにしましょう――如何やら彼女自身は、其処まで悪い人間じゃないみたいだし、1組の
  皆はオルコット家の彼是は知らない訳だから、其れを追求するのは何か間違っているからね。
  尤も、彼女をセシリア・オルコットに仕立て上げた者には、相応の制裁を加えねばならないけれど。)」

「(お前がそう言うなら、そうしよう。)
 ……確かにお前のやった事は謝って許される事ではないかも知れんが、だがお前は自分の非を認めて謝罪した……なら、此れで手打ちだ。
 皆の中には納得できない者もいるとは思うが……此処は、己の非を認め、謝罪したオルコットの勇気に免じて大目に見てくれないか?」

「同郷のよしみと言う訳ではありませんが……彼女は存外悪い人間ではないみたいだから、ね?」



なので、此れで手打ちにしようと言う事をクラスの皆に提案したのだが、アタシとマリアの一言が効いたのか、意外にも一人も反対者が出る事が
なくオルコットは許された……まぁ、此処からがスタート地点だからな、本当に悪かったと思っているのならば、其れを態度で示さねばならないか
らな。


その後は普通に授業が行われて、あっという間に放課後だ。
――一秋のクラス代表就任のパーティ?……そんな物は行われなかった……マッタク持って期待されていないなアイツは。まぁ、自分で選んで
おいてアレだが、アイツには期待できる要素が何一つないからな。


そんな事よりも大事なのは放課後のアリーナだ。
昨日の1組の代表決定戦に続いて、今日は2組の代表決定戦が行われる――一夏と鈴の晴れ舞台となる、試合を見逃す事は出来んからな。
尤も、中国代表候補の末路は容易に想像できるから、これは実質的に一夏と鈴の一騎打ちって所だろうね。

どんな試合になるか、楽しみにしてるぞ一夏、鈴。








――――――








Side:一夏


クラス代表決定戦当日……バトルロイヤル形式って事だけど、俺と鈴は同じピットルームで待機中。まぁ、中国の代表候補と一緒にしたら危ない
からなぁ?……主に相手が。
んで、つかぬ事を聞きますが、何で居るんすか楯無先輩!!



「アラアラ、私は一夏君達の練習に付き合って居た上に指導までしていたんだから、関係者として此処に居てもオカシクはないでしょう?」

「其れは、そうかも知れないですけど……」

「本音を言うなら、一夏君達の華麗な勝利を、一番に目に焼きつけたかったからだけど♪」

「その本音は心の奥底にしまっておいてください!!」

「まぁ、楯姐さんらしいっちゃ、らしいけどね。」



まぁ、鈴の言うように楯無さんらしいと言えばそうなんだろうが……どことなく釈然としないのは、この人の飄々とした人柄故なんだろうな。
其れは其れとして鈴、やる以上は手加減なし、どっちが勝っても恨みっこなしだぜ?



「当然よ一夏。
 寧ろ手加減なんかしたら、ぶっ飛ばすわよ?」

「そりゃあ怖いな?……鈴の場合、ぶっ飛ばすって言いつつ蹴りが飛んできそうだしなぁ。」

「そりゃそうでしょ?
 アタシみたいな体格だと、殴るよりも蹴る方が大ダメージ与えられるし?……オータム姐さんも『オメーは直ぐに足が出る!』って言ってたし。」

「本場の中国拳法仕込みの鈴ちゃんの蹴り技は威力が高そうねぇ?
 だけど君達、中国の代表候補性の事そっちのけで、一対一の話をするのは如何かなぁって、おねーさんは思っちゃうわよ?
 コーチングをしてた訳だから、君達の実力は十分は承知してるし、普通に考えれば私だって君達が勝つと思うけど、だけど何が起きるのか予測
 が付かないのが勝負だから、油断は禁物よ?」



其れは分かってますよ楯無さん。
でも『勝負は何が起きるか分からない』って言うのは、『相手の実力が未知数な場合』が多い訳で、『相手の能力も実力も把握』してる場合は其
の限りじゃないと思います。

代表候補性の試合の映像なんかは動画サイトとかを漁れば幾らでも出て来るんで、俺も鈴もアイツの試合の映像を何個も何回も見て徹底的に
研究しましたから、戦い方の癖も、機体の特徴も全部把握してるんですよ。

勿論、その映像の時よりは今の方が強いとは思いますが、代表候補性の専用機が変更になるってのは相当なレアケースだから先ず無いと考え
ると戦い方の基本は変わってないと考えられますし、如何に強くなってるとは言え、『自分よりも強い相手がいない環境』で訓練しても急激なレベ
ルアップは望めないでしょう?



「こう言っちゃなんだけど、アイツの実力は言うならふしぎなあめでレベル50まで育てたヒトカゲみたいなモンよ。
 対してアタシと一夏は、努力値を限界まで入れて、戦闘でレベルアップしたレベル100のリザードン……ハッキリ言って勝負にならないわ!」

「アラアラ其れじゃあ圧倒的ねぇ♪
 彼女を落とすのに必要な時間は……カップラーメン1個分の調理時間があれば充分かしら?」

――【3分クッキング】



ハハ、俺と鈴が力を合わせれば3分も必要ないですよ楯無さん。

「夏姫姉も言ったと思いますけど、コーチの前で負ける事は出来ないんで、バッチリ勝ってきます!!」

「アタシと一夏の勝負は分からないけど、アイツの事は華麗に倒してくるから期待しててよ楯姐さん!」

「うふふ、今年の1年生は大豊作ね♪
 頑張ってらっしゃいな、君達のカッコいい所をおねーさんに見せて頂戴。」



勿論その心算です!
来い、ストライク!!



「行くわよ、ストライク!」



俺も鈴も機体を展開してカタパルトに……入ってみて初めて知ったけど、アリーナのピットってカタパルトが2つずつ搭載されてるんだな。
でも、これなら殆ど同時に出撃できるな。



『機体情報確認。機体番号『GAT-X105E 04S』、機体名『バーストストライク』、パイロット『凰鈴音』。
 確認完了。進路クリア。バーストストライク、発進どうぞ。』


「凰鈴音。ストライク、出るわよ!」


先ずは鈴から……んでもって次は俺だな。



『機体情報確認。機体番号『GAT-X105E 02S』、機体名『ブレードストライク』、パイロット『蓮杖一夏』。
 確認完了。進路クリア。ブレードストライク、発進どうぞ。』


「蓮杖一夏。ストライク、行くぜ!」

さぁて、夏姫姉達に負けない位に派手にブチかましてやるとするか――取り敢えず、鈴を泣かせたアイツは速攻で撃滅してやるぜ!!








――――――








No Side


アリーナは昨日の1組のクラス代表決定戦に負けず劣らず……否、若しかしたらそれ以上の観客で埋め尽くされていた。
注目は言うまでもなく一夏だろう。
世界で初めてとなるISの男性操縦者と言う事も有るが、昨日の1組の代表決定戦で圧倒的な強さを見せつけた夏姫の双子の弟もなれば期待す
るなと言うのが無理だ――付け加えるなら、もう1人の男性操縦者である一秋が全くの期待外れだったと言うのもあるだろう。

その観客の中には当然夏姫の姿もある。クラスは違えど、弟と弟の彼女の晴れ舞台は見ておきたかったのだろう。


「ねぇ蓮杖さん、此の試合どうなると思う?」

「そうだな……身内贔屓をする訳じゃないが、一夏と鈴の実力を考えれば、先ずは2人が連携して中国代表候補を瞬殺し、其の後で一対一の勝
 負と言う所だろうが、何方も決定打を与える事は出来ずにタイムオーバーになり、最後はシールドエネルギー残量による判定だろうね。」

「おぉ、的確な予想なのだナッキー♪」


その夏姫は、一緒に見に来ていた静寐、清香、癒子、本音との雑談をしながら、試合を的確に予測して行く。こんな事が出来るのも、一夏と鈴の
実力を知っているからこそだろう。



観客席でこんなやり取りが行われている間に、アリーナには一夏と鈴が纏った2機のストライクと、中国の第3世代機である『甲龍』を纏った香龍
が出てきていた。
試合形式はバトルロイヤルだが、見た目としては一夏&鈴vs香龍と言った感じだ。……一夏と鈴が同じピットから出撃したせいもあるが。


「さぁてと、覚悟できてるわね裏金候補生?……アタシと一夏でアンタを完膚なきまでに叩きのめしてあげるから、精々負けた時の良い訳でも考
 えておきなさい!」

「お前は俺を怒らせた……其れが敗因だぜ。」

「企業代表風情が、一国の代表に勝てると思うのカ?力の差を見せてあげるヨ!」


三者三様にやる気は満タン!



『其れでは、1年2組クラス代表決定戦バトルロイヤル、試合開始!!』



そして此処で試合開始のアナウンス。
先に動いたのは香龍――甲龍の専用装備である青龍刀『衝天月下』を手にし、鈴に向かう。……代表候補選定試験の実技で苦汁を嘗めさせら
れた鈴をまずは潰そうと言うのだろう。


「おぉっと、そうはさせないぜ!!」


だが、その瞬間に一夏がストライクのワイヤーを射出して香龍をぐるぐる巻きにして動きを封じる。
1G下で最大10tの物体を振り回しても切れないワイヤーを現行のISのパワーで引き千切るのは略不可能――つまり、香龍はこの瞬間に一切の
攻防手段を失ったのだ。


「ぐ……放せぇ!卑怯だぞ!!」

「卑怯?一夏はルールに抵触する行為はしてないわ……其れなのに、自分の動きが封じられたから卑怯って、呆れてモノが言えないわ!」


其れに続くように鈴がゲイボルグⅡでリニア榴弾を喰らわせ香龍に大ダメージを与える!
そして、其れに追い打ちをかけるように、一夏がワイヤーの巻取り機能を利用して香龍に肉薄すると、シュベルトゲベールを袈裟懸けに一閃!!
その一撃を持ってして、香龍の甲龍はSEがエンプティ―となり試合から脱落。

この間僅かに1分半――楯無が予測した試合時間の半分で中国の代表候補生はISRIの企業代表に叩きのめされる結果となったのだった。


残るは一夏と鈴の一騎打ちだ。
何方も実力は申し分ないので、可成りのハイレベルなバトルが期待される――


「次はアンタね一夏?……ねぇ、勝った方がクラス代表ってのも味気ないから、負けた方が次のデートで勝った方の言う事を1つだけ無条件で聞
 くって言うのは如何かしら?」

「良いな?寧ろそっちの方が燃えてくるぜ!」


と思った矢先に、一夏と鈴は勝手に試合結果に於ける商品を改竄、と言うか追加。
完全な公私混同だが、客席から『いいぞー!』と言った歓声が上がってる以上、無碍に辞めさせる事は出来ないだろう――実際に2組の担任で
あるスコールも、少し額をおさてはいたが、最終的には『其れでも良いか』となったくらいだから。


其れは其れとして一夏と鈴のタイマンは、序盤から魅せる展開となっていた。
鈴がビームライフルと右肩のコンボユニット、そしてゲイボルグⅡによる遠距離攻撃を行ってくるのに対し、一夏はビームライフルショーティと二連
装リニアガンを使って対処する。

とは言え此のままでは埒が明かない……なので先に動いたのは一夏だった。
ビームブーメラン『マイダスメッサー』を展開すると、其れを鈴に向けて投擲!狙いは右手のライフルだ。


「武器破壊?だけどそうは行かないわ!!」


其れを鈴は持ち前の反射神経で避け、マイダスメッサーは目標を見失ってアリーナを彷徨う事になってしまった――のだが、一夏の本当の目的
は此処からだ!

回避した先にアンカーワイヤーを射出し、鈴のライフル――もっと言うならライフル下部に搭載されたグレネードを貫いた。
そしてアンカーに貫かれたグレネードは其のまま誘爆し、鈴のビームライフルは使用不能になってしまったのだ。


「今だ!」


其処に此れを好機とした一夏が斬り込んで来るが、其れを易々と許す鈴ではない。


「コンのぉ……喰らえ!!」


突っ込んで来た一夏に向かってゲイボルグⅡの砲撃をブチかます。
其の効果は絶大で、避けられないと判断した一夏はパンツァーアイゼンのプラットフォームにもなっているショートシールドでガードするが、着弾し
た瞬間にシールドが砕け散る。

鈴は通常弾ではなく、榴弾を放っていたのだ。
着弾と同時に炸裂する弾を使った事で、一夏のストライクのシールドの耐久値を上回ったのだろう。


「やってくれるぜ……」


だが、其れに負けじと一夏もシュベルトゲベールを投擲して、ゲイボルグⅡを破壊する。
これで鈴は、高威力の砲撃をする事が出来なくなったが、一夏の射撃は決定打にはならないレベルのモノ――つまりは決着は格闘でと言う事に
なるのだが、ハッキリ言って一夏と鈴の殺陣アクションは目視が難しいレベルだ。


もう一本のシュベルトゲベールを抜いた一夏と、シュベルトゲベールⅡを抜いた鈴の戦いは、正に剣聖のぶつかり合いその物だったのだから。



「おぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「これ位……なんて事無いのよーーー!!!」



正に目にも留まらぬ攻防……このまま行けば引き分けだが、此処で鈴が奇策に出た。


「どっせい!!」

「んな!シュベルトゲベールが!!」


其れは武器破壊――此れは、相手が強ければ強い程に効果を発揮する戦術だ。強者程、慣れ親しんだ得物を失うのは大きな事なのだから。
これで一夏の装備はストライカーパックの二連装リニアガンとビームライフルショーティのみだ。
鈴のシュベルトゲベールⅡも壊れたが、鈴には双刃式のビームサーベルがあるので、どちらが有利かは火を見るよりも明らかだろう。
これでは一夏は只の的になりかねないが――


「何て言うと思ったか?」

「一夏?……何ですって?」

「こう言う事さ!!」


一夏は言うが早いかブースターを全開にして飛翔すると、空中で何かを掴み、そのまま鈴を斬りつける!


「此れは、マイダスメッサー!?」

「そうだ。
 マイダスメッサーはお前のライフルを破壊するための見せ技として使った後もアリーナを旋回していたのさ……勝負は此処からだぜ鈴!!」

「上等!!」


その正体はビームブーメラン『マイダスメッサー』だ。
鈴のライフルを破壊するための見せ技として放ったビームブーメランは役目を終えた後もアリーナを旋回し、そして一夏の手に戻ってきていた。

マイダスメッサーをキャッチした一夏はビームエッジの出力を調整して、ビームブーメランを近接戦闘用のビームソードへと変えたのだ。

そしてそこからは、一夏も鈴も互いに退かぬ凄まじいチャンバラの応酬!
互いに攻防一体の剣術を使う故に決定打が与えられない上に、この近距離でのコンボユニットやリニアガンの展開は自分も余波ダメージを受け
かねないので選択する事は出来ない。


故に斬り合いを展開するしかないのだ。――其れでも決着はつかなそうだが。



――ビー!!



『タイムオーバー!試合終了!!』



そんな事には関係なく、バトルの最中に試合終了が言い渡されたのだ――其れはつまり、試合の制限時間が来てしまったと言う事だ。
こうなった以上は判定になるのだが……


・蓮杖一夏:SE残量599
・凰鈴音:SE残量600




此処は鈴が意地を見せ、僅か1ポイントではあるが、一夏を上回って僅差の勝利。
だが、此の一戦は観客に一夏と鈴の実力を把握させるには充分な物だったと言えるだろう――連携をしたとは言え中国の代表候補を瞬殺し、そ
の後のタイマン勝負では見事な殺陣を披露してくれたのだから。



「くっそー!負けちまったか……!!」

「今回はアタシの勝ちね♪」


尚、試合後に鈴が一夏に『勝利のキス』をねだり、一夏が其れに応えた事で、色々と場は騒然となった事を追記しておく。
何にしても、此の一戦は一夏と鈴の評価を爆増させる事になったのは間違い無いだろう。









――――――








Side:???


す、凄い……ISRIの企業代表は化け物なのかな?……アレだけの機体を使いながら慢心は微塵にも感じない……其れがこの結果に直結して
居ると言っても過言じゃないからね。

それ以上に、ISRIの人達には感謝しないとだね――あの人達は機体が強いだけじゃなく、パイロットも相当だから、試合のデータは私の専用機
を作り上げる上でも役に立ちそうだからね。

今はまだ基礎フレームも出来ていないけど、貴女の事は必ず完成させるから――だから、もう少しだけ待っていてね、私の専用機……


あ、其れから織斑一秋を叩きのめしてくれた蓮杖さんとレインさんには、今度お礼を言いに行く事にしよう。










 To Be Continued… 



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