Side:夏姫


教授を倒す事は出来たが、教授は大変な置き土産をしてくれました……なんて言うのはマッタク持って洒落にならん――教授の置き土産は、全員仲良く爆
死するか、一人を犠牲にして他が助かると言う最悪の二択だったのだからな。
恐らく教授は、土壇場でこの二択を迫って、人の汚さを露呈させてアタシ達の結束を壊す目的があったのかも知れないが、其れは失敗だったな。



「全員爆死するか、其れとも一人を犠牲にして助かるかとか、最悪以外の何物でもないぜ!……如何しろって言うんだよ!俺等は全員生きて帰らないとい
 けないのに、此れじゃあ其れは出来ないぜ!?
 あの腐れ外道、最後の最後でやってくれたぜ……!!」

「あぁ、マッタクだな一夏――だが、アタシとてアイツの思い通りになってやる心算はない……だから、此処にはアタシが残って、マニュアルで隔壁を上げる。
 お前達は即時離脱しろ一夏。」

「ちょっと待ってくれ、夏姫姉は如何するんだ?全ての隔壁を上げたその時は、隔壁解除を行っていた人の脱出は間に合わないんだろ?其れじゃ、爆死は
 避けられないんじゃないのか!?」



確かにそうかも知れないが、アタシは隔壁を解除するだけじゃなくて、ISの展開を阻害しているジャミングも解除する心算だ――ISの展開を阻害しているジャ
ミングを止める事が出来れば、ISを展開出来るから、仮に脱出が間に合わなくてもPS装甲とビームシールドで爆発のダメージを軽減する事が出来る……少
なくとも爆死する事はないさ。
だからお前達は行け、さっさと此処から離脱するんだ。



「夏姫の言う通りね……一夏君達は行きなさい。私は此処でギリギリまで夏姫をサポートするわ。」

「はぁ?何を言ってるのよ!楯姐さんも残るって言うの!?」」

「IS学園の生徒会長として生徒の安全確保は最重要事項だから、其れを最優先しただけよ鈴ちゃん――其れに、隔壁の解除とジャミングの解除は、一人よ
 りも二人の方が捗るでしょう?」

「其れは否定出来ないな。」

ダメだと言ってもお前は喰らい付いて来るだろうから、素直に申し出を受け入れるとするよ――取り敢えず、隔壁の解除とジャミングの解除だな……難易度
は可成り高いかも知れないが、生きてアークエンジェルに帰還する為にも、絶対にクリアしてやる。



「夏姫姉、楯姉……絶対に死ぬなよ!!」

「あぁ、約束するよ一夏。」

「お姉さんを信じて待ってなさいな。私も夏姫も死ぬ気はないからね。」

「分かった……だけど絶対に死ぬなよ?死んだらぶっ飛ばすからな!」



其れは怖いな?……ならば絶対に帰還せねばだね――一夏の本気のパンチはコンクリートブロックを粉砕するだけの威力があるからね……と言うか死ん
だらブッ飛ばすと言うのは如何考えても死体蹴りでしかないな。
深く考えるのは止めとくか……其れよりも、生徒会長として云々は兎も角として、如何して死ぬ可能性がゼロじゃないのに残ろうと思ったんだお前は?



「私が貴女のパートナーだから、では不足かしら?」

「いや、過不足ないよ。」

其れだけで充分だよ――其れじゃあ、アタシ達が生き延びる為にも、隔壁の解除とジャミングの解除を行わねばだな。……此処からは、アタシと刀奈のコン
ソール捌きに全てが掛かって来る訳か。
戦闘終了と同時に解除したが、今一度SEEDの力に頼るしかないわね。











Infinite Breakers BreakFinal
無限の宇宙(そら)に向かって』










其れじゃあ刀奈、お前は早速隔壁の解除を行ってくれ。アタシはアーク・ジェネシスのシステムの中からISジャマーとも言うべき物を探し出して、システムのク
ラッキングを試みる。
教授にとって、あの特殊空間以外でのIS展開の妨害は、作戦の要だった筈だから簡単には見つからないだろうし、強固なプロテクトも考えられるが、そんな
モノは全て突破してやる。



「任されたわ……って、隔壁一枚を上げるのに一々表示されたコマンドを入力しないといけない訳?――成程、此れは確かに全ての隔壁を解除した後に脱
 出時間が残されてない訳だわ。
 だ・け・ど、おねーさんを舐めたらダメよ?……簪ちゃんには負けるけど、タイピング・オブ・ザ・デッドノーミスクリアのタイプスピードを見せてあげるわ!」

「……簪には負けるのか?」

「夏姫も勝つのは無理だと思うわよ?簪ちゃんの得点、カンストしてるから。」

「あぁ、其れは並ぶ事は出来ても絶対に勝つ事は出来ないな。」

こんな話をしながらも、指は分身が見えるんじゃないかと言う速度で動いてるアタシも刀奈も相当だけれどね……それにしても、教授の奴は一体何処にISジ
ャマーシステムのプログラムを隠したんだ?
攻撃プログラム、防御プログラム、セキュリティプログラム……その他諸々色んなプログラムを見つけたがISジャマーだけは見つからない――プログラムの中
に所謂『ギャルゲー』のプログラムがあったのだがアレは一体何だったのだろうか?……あの教授の趣味か?だとしたら不気味でしかないな。

……って、何でゲームのプログラムが存在してるんだ?まさか、此れは……!

「……Jack pot!(大当たり!)」

「夏姫、もしかして見つかったの!?」

「あぁ、やっと見つけた。全く無関係に見えるゲームのプログラムデータに偽装されていたよ……此れの存在を疑問に思わなかったら見過ごしていた所だ。
 恐らく教授は『万が一』を考えてこんな偽装をしていたのだろうな……マッタク用意周到と言うか何と言うか。その執念と頭脳を別なモノに向けて居たら、も
 っと社会の為になる事が出来たかもしれないのにな……」

「其れは言っても仕方のない事よ夏姫。
 束博士も教授も、基本的には『自分の望み』を実現しようとした事に変わりはない――でも、束博士の望みが人を未知なる宇宙に誘う物であったのに対し
 て、教授の望みは自らが支配する超人の世界と言う狂った物だっただけ。
 束博士の望みが『夢』なら、教授の望みは『野望』……似て非なる物だったのよ。」

「要約して言うと?」

「教授は只の腐れ外道。ハイクを詠め、慈悲はない。墓地送りじゃ生温いからソウルクラッシュで除外ね。」

「最早原型が残ってないが、言いたい事は大体分かった。」

何にしてもISジャマーを解除しないとなんだが……予想通り、凄まじいプロテクトがされてるみたいだな?プロテクト総数37564……『皆殺し』って凄まじく物
騒だな?
しかし、凡そ四万個のプロテクトとは流石に骨が折れそうだが、やるしかない――人の限界を超えた処理能力、超人として生み出されたアタシならば決して
出来ない事ではないからな。
生きて戻る為にも、必ずやり遂げてやる。








――――――








Side:一夏


階段を、上るに上って辿り着きましたアーク・ジェネシスの屋上に……殆ど待たずに各階層を突破出来たのは、夏姫姉と楯姉が全力で隔壁を解除してくれた
おかげだな……仕事が速くて確実ってのは流石だぜ。
屋上まで来れば、ISの展開を阻害するジャミングの影響もないから此処から離脱するのは簡単だってな。――でも、俺達が屋上に到達出来たって事は、ア
ーク・ジェネシスが爆発するまであんまり時間はないって事だ……夏姫姉と楯姉は、間に合うのか?



「……夏姫とミス楯無を信じましょう一夏。今、私達に出来るのは其れだけしかないわ。」

「マリア……そうだな、俺達に出来るのは信じる事だけ、だな。何も出来ねぇ自分をブッ飛ばしたくなるけどさ。」

「なら、代わりにアタシがブッ飛ばしてあげようか?中国拳法南の地に足を付けない連続蹴りの極意である『千裂脚』で。」

「鈴、其れはブッ飛ばすじゃなくて蹴り飛ばすだと思うぜ……って言うか、こんな状況でもぶれないよなお前は!ある意味で尊敬するぜマジで!」

「だって、アタシ達が彼是慌てた所で如何にかなるモンでもないでしょ来れ?
 だから、アタフタするよりも、姫義姉さんと楯姐さんを信じてアークエンジェルで待ってるのがアタシ達に出来る事なんじゃない?――アタシ達がやるべき事
 は、信じるだけじゃななくて、姫義姉さんと楯姐さんが生きて帰って来る場所になる事。そうでしょ一夏?」

「俺達が、夏姫姉と楯姉の帰って来る場所になる……そうだな、そうだよな。」

夏姫姉も楯姉も帰ってくる場所があれば、必ず帰って来てくれるからな……俺達が帰ってくる場所になってやれば、必ず無事に帰って来てくれる筈だぜ。
根拠も証拠も何もあったもんじゃないけど、夏姫姉と楯姉なら、必ずそうしてくれるって言う確信が持てるんだよな……スーパーヒューマンの成功体であると
ころの夏姫姉と、その夏姫姉とタメ張る楯姉が組めば、其れはもう最強以外の何物でもないから、きっと何とかなるって思えるんだよな。



「一夏、皆、無事だったんだ!」

「ナツ兄さん達が負けるとは微塵も思ってなかったがな……其れで教授とやらは如何した?」



アーク・ジェネシスから飛び立った俺達を迎えてくれたのは簪とマドカか……俺達が負けるとは思ってなかったってのは嬉しい事だけど、ゴメン、ギリギリのと
ころで教授には逃げられちまった。
あの腐れ外道は生きてたら何しでかすか分からないから、キッチリと息の根を止めてやる必要があったのにな。



『あっはっは!其れに関しては心配ご無用だよいっ君!』

「この声は、束さん!?」

「姉さん?その飛行艇に乗ってるのですか?」

『そうだよ箒ちゃん。アーク・ジェネシスに搭載されてた避難艇を使って桜姫ちゃんと脱出したのさ!――まぁ、其れは其れとして、教授ことジョージ・ワイズ
 マンが何かをする事は二度とないから安心して良いよ。
 あの腐れ外道は、私と桜姫ちゃんで完全に滅した……石になった上で木っ端微塵になったからね。もう二度と、あの外道が何かする事はないよ。』




でも、俺の思いも束さんからの通信で吹っ飛んじまったぜ……まさか、束さんと桜姫――元イルジオンがトドメを刺したとは思わなかったからな。……教授さ
んよ、束さんが何をしたかは知らないけど、全身が石になった挙げ句に木っ端微塵になっちまうだなんて、哀れ過ぎて何も言えないぜ。



「そう言えば一夏、お姉ちゃんは?其れと夏姫お義姉ちゃんは?」

「……夏姫姉と楯姉は未だ中に居る。教授の最後の悪足掻きで落とされた全ての隔壁の解除と、アーク・ジェネシス内部に発生してたISを展開させないジャ
 ミングの解除を行ってるんだ。」

「え?其れって、大丈夫なの?お姉ちゃん達は……」



大丈夫とは言い切れないのが辛いな……隔壁を上げる為に残った奴は脱出する事が出来ない――夏姫姉は、其れを何とかする為に、IS展開ジャミングを
解除してるんだろうけど、其れもすぐに解除出来るとは思わねぇ。
幾ら夏姫姉が超人だと言っても、その限界はあるだろうからな。其れは勿論、楯姉もだけどさ。――だけど今は、夏姫姉と楯姉を信じてアークエンジェルで二
人の帰還を待とうぜ?此れは、鈴に言われた事だけどさ。



「其れしかないか……クソ、シールドさえなければ外からの攻撃で要塞に脱出の為の穴を開けてやる所なんだがな。」

「気持ちは分かるけど、其れは止めとこうなマドカ。
 要塞の中枢とかぶち抜いたら、その瞬間爆発起こすかもしれないし、最悪の場合ジャミングを解除して脱出中の夏姫姉達に攻撃が当たるかも知れないか
 らな?」

「……確かにその危険性があるか。仕方ない。」

「思い留まってくれて良かったぜ。」

その後俺達は全員がアークエンジェルに帰還――ライブラリアンの有人機はまだ存在してたけど、そいつ等はアストレイ部隊やイージスとセイバーで充分倒
せるレベルだったから任せて良いって束さんに言われたしな。
アークエンジェルに戻った俺達は、速攻で機体を解除してブリッジに……俺達が脱出してからそろそろ三分か。最深部からIS無しで階段を駆け上がったのに
かかった時間が凡そ十分弱――此れでも充分爆発までの時間が有ったって言えるんだが、だからこそ爆発まではもう時間が残されてない筈だ……つーか
アーク・エンジェルに帰還するまでに爆発しなかったのが不思議な位だしな。
ジャミングを解除すればISが展開出来るから爆発が起きても大丈夫とは言え、やっぱり爆発前に脱出して欲しいぜ……夏姫姉、楯姉、早く出て来てくれ!



「姫義姉さん、楯姐さん……」

「義姉さん、楯無さん……」

「お姉ちゃん、夏姫お義姉ちゃん……」



この場に居る全員が同じ思いで、夏姫姉と楯姉がアーク・ジェネシスから無事に脱出するのを今か今かと待ってるんだ……爆発までの残り時間は、恐らくだ
がもう一分もない筈だからな……頼む、間に合ってくれ夏姫姉、楯姉!!

だが、俺達の思いも虚しく……



――バガァァァァァァァァァァァァァァン!!!



アーク・ジェネシスは大爆発を起こし、その爆風で近くに居たライゴウやアストレイも粉々に破壊されちまった……幾らPS装甲が搭載されてないとは言え、IS
を粉々にする程の爆発の中心に居た夏姫姉達が無事である保証はない。
ジャミングの解除に成功してたとしても、あの爆発のダメージを完全に防ぐ事が出来るのか?PS装甲とビームシールドですら貫通する程の爆発の威力が有
ったとしたら?
最悪の考えが頭を過ぎるのは、俺だけじゃない筈だ……簪なんかは、今の爆発を見て完全に座り込んじまってるしな。



「ん?ん~~~?……これは~~!!イッチー、皆~~!!フリーダムとジャスティスのシグナルを確認~~!ナッキーもお嬢様も無事だよ~~!!」

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」(鍵カッコ省略)



だけど、オペレーターを務めてたのほほんさんが『フリーダムとジャスティスのシグナルを確認した』って言った事で、アーク・ジェネシスの爆発でブリッジに漂
ってた絶望は吹っ飛んだぜ!
夏姫姉、楯姉……無事だったんだな!!



『此方フリーダムの夏姫だ……制限時間ギリギリでジャミングを解除したんだが、脱出には至らなかった……アタシも刀奈も機体を展開して爆死は回避し
 たが、ビームシールドでも爆発の威力を防ぎ切る事は出来なくてな……ブースターとスラスターが少しばかりイカレてしまってな……』

『ちょ~っと、飛び辛いのよね此れ……誰でも良いから迎えに来てくれたら嬉しいなぁ、なんて。』




更に夏姫姉と楯姉からの通信が入った事で、二人は本当に無事だったと分かって、ブリッジは大歓声の嵐だ――其れから、夏姫姉と楯姉はイージスとセイ
バーの力を借りてアークエンジェルに帰還した。
戻って来た楯姉に、簪が抱き付いたのはまぁ、当然と言えば当然だな。



「何だ、お前は来ないのか一夏?てっきり、アタシの生存に歓喜した弟が抱き付いて来るモノだと思って……カウンターのブレーンバスターをかましてやる心
 算だったんだがな。垂直落下で。」

「うわぉ、バイオレンス。」

「其れともキン肉バスターにして、楯無とのNIKU→LAPの方が良かったか?」

「やめて、俺死んじゃう。」

「織斑計画の成功体であるお前が、そう簡単に死ぬとは思えんがな……だが、取り敢えずただいま、一夏。」

「あぁ、おかえり夏姫姉。」

俺と夏姫姉は、そう言って拳を軽く合わせる……俺達は、こっちの方が似合ってるしな。
で、夏姫姉と楯姉が帰還した後は、束さんがアストレイ部隊の生き残りを帰還させてからアークエンジェルの両舷に搭載されてる陽電子砲『ローエングリン』
を展開して、ライゴウとドミニオンを一撃で掃滅!!
女権団との戦いでは箒が無効化しちまったけど、直撃すれば此れだけの破壊力とはな……だけど、此のローエングリンの一撃をもって、この戦いは終わり、
ライブラリアンのアジトだった場所も、桜姫が教えてくれた事で破壊する事が出来たから、ライブラリアンとの戦いは終結だぜ。
一秋、散……そしてクソッタレの教授、お前等がどの地獄に行くのかは分からないけど、精々地獄を楽しみな。俺が死んで地獄に行ったその時にゃ、せめて
顔位は見に行ってやるからよ。



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あの戦いのあと、世界は大きな変革を迎える事になった。
先ずは、ISRIの社長である東雲千鶴が、自身の正体が篠ノ之束である事を明かした上で、各国にISコアの所持数が五百個になるようにコアの分配を行った
んだけど、タダでISコアを提供した訳じゃない。
束さんはISに兵器の側面がある事を認めつつ、『分配したISコアを軍事転用出来るのは百個まで』と言う制限を付けた……如何やったのか分からないけど、
『百一個目のコアを軍事転用しようとしても、コアが其れを拒否して一切の兵器が搭載できなくなる』ようにしたらしい。
残りの四百個は、民間企業に回した上で、最低でも半数は宇宙開発の為に使う事が厳命された――こっちも二百一個目のコアに、ISバトル用に使おうとし
ても、コアがISバトル用の武装を拒否するようにしたらしい。
結果的にISから兵器としての能力を奪う事は出来なかったけど、束さんとしても此れが落としどころだったって事なんだろうな――一度手にした力を、無理矢
理取り上げたら、何が起こるか分からないからさ。
まぁ、其れ以上に凄かったのは、『ISRIは現行の戦闘用ISを遥かに凌ぐ対IS用ISを有してる……ISを戦争に使ったら、ISRIの私設武装組織である『レギオンI
B』が武力介入してその場にあるISをぶっ壊してコアを回収する』って脅しだけどな……普通なら一笑にふす所だけど、束さんが言ったんなら其れは、出来ね
ぇんだよな――束さんはマジでやりかねないからな。


其れとは別に、カナダとフランスが壊滅させられた事件は『血のクリスマス』、IS学園とライブラリアンの戦いは『IS大戦』と呼ばれるようになって、社会の教科
書にも載る事になったみたいだ。
まさか、自分が教科書に載る事態に関係するとは思ってなかったけどな。

ライブラリアンの攻撃で壊滅したカナダとフランスは、生き残った人達によって国の立て直しが行われ、諸外国からの支援もあり、国として再起するのはそう
遠くないだろうな――つっても、政府の要人が全員死んじまってるから、新たな政府を作らないとだけさ。
だが、再建を始めたカナダとフランスとは真逆なのが、ライブラリアンに参加したロシア、中国、そして南北の朝鮮だ――ロシアと中国は国連の常任理事国を
外され、更には交易のあった国全てから貿易停止を喰らって経済が困窮し、其処に現政府に不満を持つ市民の不満が爆発して市民運動が激化して、遂に
はロシアのプチーン大統領と中国の臭主席が打ち倒される事になった。
まぁ、此れは自業自得だな――ライブラリアンに参加して、軍隊の99%をライブラリアンに提供しちまったんだからな……残った1%で不満が爆発して殺意の
波動が暴走した国民を抑えられる筈がねぇって。
そんな訳で、ロシアは、ロシア帝国の滅亡→ソビエト連邦の崩壊に続く、三度目の革命で新たな国となり、中華民国から名を変えた中華人民共和国は僅か
七十七年でその歴史に幕を下ろす事になった。
南北の朝鮮は、やっぱり今回の事で国民の不満が爆発しただけじゃなく、軍人なんかの不満も爆発したらしく、北の『金』は軍に捕らえられて銃殺刑に処さ
れて、韓国の大統領は、やっぱり同じく捕らえられて即日電気椅子で処刑されたらしい……ま、此れまで好き勝手やって来て、散々良い思いをしたんだから
思い残す事なんてないだろうぜ。

それから、IS学園も大きな変革を果たした――男性操縦者の受け入れを始めただけじゃなく、此れまで一つだったクラスを『戦闘科』、『競技科』、『宇宙開発
科』、『整備科』に細分化する事で、生徒の目指す道を明確にしたぜ……此れなら、自分が目指す道をある程度決める事が出来るからな。
何にしても、多少の妥協案はあったとは言え、ISは束さんが夢見たモノになったと言っても良いだろうな……だって、ISは全ての国で宇宙に進出する為のツ
ールとして研究が続いてるんだからさ。

今回の一件で一番難しかったのが桜姫の扱いだっだな……あいつ自身は、テロリストとして国際警察に出頭して、ライブラリアンで犯した罪を裁いて貰う心
算だったみたいなんだけど、アイツは戸籍みたいな『自身を証明するモノ』が一切存在してない事が明らかになり、結局裁きを受けるどころか逮捕すらされる
事はなかった。
『法的に存在していない人間を逮捕、拘束する事は勿論、裁判に掛ける事は出来ない』って事らしい――桜姫は納得してなかったけど、最終的には『行く所
が無いなら、ウチのスタッフとして働かない?ライブラリアンでやった事は消せないけど、今度は人の為になる事をして贖罪とする事は出来るし、君位のレベ
ルのスタッフが居るとウチとしても助かるんだよねぇ。』って言う束さんの提案を受け入れて、今はISRIのスタッフとして働いている。

こうして、世界に新たな風が吹き込んで、IS学園も変わってくんだろうなと思った新学期が始まる其の日に、夏姫姉と楯姉はIS学園からその姿を消した。
夏姫姉と楯姉の部屋に、たった一行のメモを残して。
メモにはこうあった。



『アタシ達は、務めを果たす』



務めってのが何なのかは分からないけど……当然の如く、この事態に学園は大騒ぎになった。生徒会長と副会長が揃って姿を消したってのは、只事じゃな
いからな。
勿論二人の捜索は直ぐに行われた。
束さんも力を貸してくれたし、桜姫も『同じ遺伝子を持つ者の共鳴』を使って夏姫姉達を探してくれた……でも、二人の行方を掴む事は誰にも出来なかった。
束さんも、更識も、世界中の諜報機関も、蓮杖夏姫と更識楯無が何処に行って、何をしているのかを知る事は出来なかったんだ――だから、こう考えちまう
のは当然だったのかもしれないな。


『あの二人は、もしかして地球上に居ないんじゃないか?』


誰が最初に言ったのかは分からないけど、その言葉で誰が何処を探してもあの二人が見つからない事に、皆が納得したのは事実だった――夏姫姉と楯姉
は、ロケットも使わずにフリーダムとジャスティスの力だけで大気圏を突破して宇宙に飛び立ったんだ。
其れを確認する方法はないけど、もしそうだとすれば、ISはロケットみたいな補助動力無しで大気圏外に出る事が可能って事になる――その事に誰もが気
付いた時から、世界各国でIS単体での大気圏突破の実験が行われ、程なくしてISは単機での大気圏外突破能力を有している事が立証された訳だ。
其の後は瞬く間に、『宇宙開発用』として使われていたISコアは次々と宇宙飛行用の外装が開発され、各国で『ISを使った宇宙開発&宇宙旅行』を企画する
事態に……宇宙開発は勿論だけど、ISでの宇宙旅行は、ロケットの物とは違って対G訓練とかは必要なく、ISを動かす事が出来れば誰でも行けるってのが
大きな売りらしい。なんでも、『適性に影響されない機体にした』とかなんとか。
あの戦いで世界は大きな変革を迎えたと思ったけど、夏姫姉と楯姉が居なくなった事で、更に大きな変革を迎える事になったなマジで。



「ホントよね……だけど姫義姉さんと楯姐さんが本当に宇宙に行ったとして、如何して宇宙に行こうと思ったのかしら?」

「……其れなんだがな鈴、あの二人と言うか、夏姫義姉さんは多分、姉さんの夢を叶える為に宇宙に行ったのではないだろうか?――姉さんがISを開発す
 るに至った原初の願い、『宇宙に行きたい』って言う夢を叶える為に。そしてISが本来の使われ方をするように。
 ISが単機で宇宙に行く事が出来ると分かれば、人は必ず其方に興味をそそられる……そうなれば、ISを使っての宇宙開発も行われるようになるだろうし、
 各国のISの絶対数は五百と決まっているから、必要数を確保する為に軍事用が宇宙開発に回される事になるだろう。
 そして何時かはISから兵器としての側面は消え去り、娯楽としてのISバトル用の専用機と、宇宙に行くためのパワードスーツと言う認識になって行くのだろ
 うと思う……ISは、やっと姉さんが本来望んだ形になろうとしてるんだ。
 楯無さんは……まぁ、夏姫義姉さんのパートナーだし、『其れ面白そう』とかそんな理由で付いて行ったんじゃないか?多分だがな。」

「束さんの為にか……夏姫姉なら、確かにその為に其れ位はしそうだぜ。其れから楯姉もそんな理由で一緒に行きそうではあるな、うん。」

でも其れなら其れで、メモを残して行くだけじゃなく、一言言ってから行ってくれよな二人とも……生徒会長と副会長が突然消えちまったから、虚さんが冗談
抜きで大変だったんだからな?
新たな生徒会長と副会長も決めなくちゃならなかった訳だし……たく、帰って来たら最低でも一時間は説教だぜ。

だけど、幾ら待っても、俺達が学園を卒業する時になっても夏姫姉と楯姉は帰っては来なかった……時折、俺達の機体に二人からのメッセージが送られて
来たから無事ではいるみたいだったけど、今何処で何をしてるのかは、何も書かれていなかった。









――――――







Side:夏姫


あの日、地球を飛び出してから一体どれ位の時間が経過したのかもう分らないな?……と言うか、太陽系の外に出たのは何時の事だったか……お前は覚
えてるか刀奈?



「さぁね……随分と時間が経っちゃったから覚えてないわ。
 其れよりも夏姫も手伝ってくれる?地球の文明を、この星の言語に翻訳した状態で残すって言うのは結構大変なんだから。」

「あぁ、了解した。」

アタシと刀奈は地球を飛び出し、宇宙を飛び回る生活をしている……ISの性能って言うのは本当に宇宙に進出する為のモノだって言うのを改めて感じたわ。
ISなら、何万光年と離れている場所にもドレだけ長くても一~二年あれば到達する事が可能だったのだからね……よもや地球上で最も速いとされている光
よりも速い速度での移動が可能だとは思わなかったな。
其のISの機能を最大限に使って、地球を飛び出したあの日から、アタシと刀奈はNASAですら認知してない惑星を転々とし、意外にも宇宙には生命が存在す
る星が多い事を知った。
地球よりも遥かに優れた文明を築いた星もあれば、地球の縄文時代程度の文明の星もあった……地球よりも文明レベルが低い星に行った時に、その星の
人達に知恵と文明を授けた時には、若しかしたら地球人もこうして地球外からやって来た存在に知恵や文明を授けられたのかも知れないと思ったよ。
そして、そうした存在を人々が『神』と崇めたのかも知れないとね。



「あながち間違ってないと思うわよ夏姫?神様って言うのは等しく空から降臨してるのだから、惑星外の存在である可能性は充分にあるでしょ?――少なく
 とも私は、地面から湧いてきた神様なんて聞いた事が無いわ。」

「地面から湧くって、ミミズが大量発生したみたいに言うな。」

あの日からもう大分時が経った筈だが、アタシも刀奈も一切容姿は変化してない……地球を飛び立った時のままだ。

あの日……ライブラリアンとの戦いの時、アタシと刀奈はアーク・ジェネシスからの脱出はギリギリ間に合わなかった――と言うよりも、ISジャマーシステムの
解除が出来なかったと言うのが正しいか。
三万七千五百六十四個と言う途方もないプロテクトを解除してったのだが、最後の最後で『三十桁のパスワードを入力しろ』と言う無理ゲーが待ち構えてい
たとは思わなかった。
しかも数字だけでなく、大小の英文字までだから、組み合わせが天文学的過ぎで突破は殆ど不可能だった……時間が限られていたしね。
爆発までの残り時間が0になって、アタシも刀奈も死を覚悟したんだが、アタシ達を爆死から救ったのは、他でもないフリーダムとジャスティスだ――アタシ達
が爆風に飲み込まれる刹那、フリーダムはアタシと、ジャスティスは刀奈と融合して機体を強制展開してアタシと刀奈を護ってくれた。
皮肉な事に、教授と同じ存在になる事でアタシと刀奈は生き永らえたんだが……ISコアとの融合を果たした事で、アタシ達には『加齢による死』が存在しなく
なってしまったと同時に、加齢による老いすら存在しなくなった。
アタシと刀奈には、ISコアが停止しない限り、時間経過による死は訪れない不老不死が備わったと言う訳だ……だからこそ、こうして広大な宇宙の旅を続け
る事が出来るのだけれどね。
有限の命では宇宙の全てを知る事は出来ないが、不死者であるのならば其れは可能だ……だからこそ、アタシと刀奈は不死者の務めとして、宇宙の全て
を見る為に地球から飛びったんだ。……一夏達に何も言わず、メモだけ残したのは、言えば絶対に付いて来るだろうからだ……一夏と鈴と箒の三人は特に
な。

アタシと刀奈の旅にきっと終わり何て言うモノは存在しない……この広大な宇宙には、まだまだ色んな所がある筈だし、惑星だって日々生み出されてるんだ
からな。

「刀奈、この作業が終わったら、次は何処に行こうか?」

「そうねぇ……M78星雲を探すって言うのは如何かしら?ウルトラマンはフィクションの存在であったのかどうか、其れを確かめるってのも面白くない?」

「其れも良いな?なら、M78星雲の捜索が終わったらキン肉星を探してみるか。キン肉マンも実は存在してたかもしれないからね。」

「もしも存在してたら、本場のキン肉バスターをご教授願いたいわね♪」

「だな。」

アタシと刀奈の旅は続く……無限の命と、インフィニット・ストラトス(無限の成層圏)と共にな。――さて、大体こんな物かな?アタシ達が残した地球の文明を
どう生かすかは、この星の人達次第だからね。
余りアタシ達が手を出し過ぎるのも良くないさ……其れじゃあ次の旅を始めようか刀奈?



「えぇ、そうね。」


――ピピ……


・Generation
・Unsubdued
・Nuclear
・Drive
・Assault
・Module

――G・U・N・D・A・M




「更識刀奈。ジャスティス、発進する!」

「蓮杖夏姫。フリーダム、行きます!」

アタシと刀奈は新たな空に向かって飛び出して行った……そう言えば、一夏からメッセージが届いていたな?……半年後に鈴と箒と結婚式を挙げるから絶
対に参加しろだったか?
そうだな、久方ぶりに地球に戻るのも良いかも知れないな……何よりも、弟の結婚式に出席しないのは姉として如何かと思うからね。
だけど、其れが終わったらまた宇宙の旅の再開だ――広大な宇宙って言うのは知れば知るだけ同じ数の謎が湧いて来るって言う、面白い事この上ないモ
ノだからね。
さぁ、終わる事のない宇宙の旅を続けようじゃないか?アタシ達の時間は無限にあるのだからな――次に訪れる星には何が有るのか、楽しみだわ。











 Fin




InfiniteBreakers

原作:IS-インフィニット・ストラトス

STAFF



企画・原案:吉良飛鳥



ストーリー構成:吉良飛鳥&kou



文章更生:kou



Specialthanks:読んでくださった読者の方々。



Thank you For Reading



Presented By 吉良飛鳥


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