Side:夏姫


姉さんが通信と言う形ではあっても参戦して来たのには正直驚いたな……蘇生させたとは言え、最低でも半日は目を覚まさないと思っていたからね――超
人は、回復力もまた高いのかもな。
かく言うアタシも、姉さんからのオープンチャンネルでの話を聞いている間にすっかり回復出来てたから、回復力が高いのは間違いないだろう……一夏と刀
奈も回復出来たみたいだしね。

其れ自体は喜ばしい事なんだが、アタシと一夏は最初から『超人』として生み出されたから特に問題は無いとして、お前は如何してアタシと一夏と同等クラス
の回復力があるんだ楯無。
普通に考えて、その回復力は有り得ないと思うぞ?



「私も天然モノの超人なのかも知れないわね……篠ノ之束博士と同様に。
 そう言う意味では、私は突然変異種の可能性が充分にある訳ね……自分が突然変異種かも知れないって言うのは、ちょっと怖いけれどね。」

「……いや、そもそもにして純粋な日本人なのに、染めてる訳じゃないのに髪が青い、カラコン入れてないのに目が赤いって時点で割と突然変異なんじゃな
 いか?
 其れは簪にも言える事だけどね。簪の目は紫だが、矢張り日本人としては有り得ん。」

「ポケモンの色違いみたいなモノかしら?」

「其れは、なんか違うような気がする。確かに色違いのポケモンは突然変異と言えるかもしれないがな。」

「となるとやっぱり私は突然変異で誕生した天然の超人って事になるわねぇ?……まぁ、良いわ。突然変異は強いって相場が決まってるモノなのだから。
 だったら、その強さで教授にキッチリと落とし前を付けさせるのも私の役目よね。」

「ふ、そうだな。」

尤も其れは、お前だけじゃなくてこの場に居る全員の役目だけれどね。
超人と言う存在に固執し、超人を生み出す為に此れだけの事を行い、更には自らも超人になろうとしてISとの融合を果たしたお前の行きつく先に待っている
のは『破滅』だけだぞ教授。
古来より、神になろうとした人間は碌な目に合わないと相場が決まってるが、超人になろうとした人間もまた同じ事……超人とはなろうとしてなるモノではな
く、生まれながらにして超人であるか、果てなき努力の末に超人として覚醒するかの二択だ。
超人を作ろうとした、超人になろうとしたその時点で、お前は詰んでいたんだよ。
先程まで優位を保つ事が出来ていた要因であるチートな機能はもう存在しない……アタシ達の攻撃を無効化する事は出来ない――其れが、何を意味する
か位は分かるだろう?



「私が負けると、そう言いたいのかね?」

「寧ろそれ以外に何が有るってんだ?
 クソチートな機能のせいで削り切れなかったとは言え、俺達の攻撃は殆どお前にヒットしてたじゃねぇか――其れってつまり、チート機能が無かったらとっく
 にお前は負けてるって事だぜ?
 で、今のお前にチート機能は無くなっちまったんだ、如何考えたって負け以外の未来はありえねぇよ……つーか、チート機能は確かに凄いモンだったと思
 うけど、お前の実力自体は大した事はないぜ。其れこそ、チート機能が無かったら専用機を持ってない一般生徒にすら勝てないだろ絶対。」

「何それ?だったらもう楽勝じゃん。
 要するにコイツはラスボスなんかじゃなく、ラスボス気取りの雑魚だったって事ね!なら、サクッと倒して終わりにしちゃいましょ!」



つまりそう言う事だ……終わりにしよう教授。
束さんの夢を穢し、姉さんを利用したお前の下らない野望も実験も、今此処でアタシ達が終わりにしてやる……貴様が望んだ超人の力、その身で存分に味
わうと良いさ。











Infinite Breakers Break120
最終決戦Final~Judgement Day~』









No Side


桜姫によって、レジェンドのチートな機能が解除された事で仕切り直しとなった戦いは、先程までの様な『互いに決定打を欠く戦い』ではなくなっていた。
其れも当然と言えば当然だろう――教授自身はISを扱う事が出来るとは言え、本来は直接的な戦闘よりも頭脳戦の方が専門なのだ。一応、シミュレーター
を使っての戦闘訓練及び、自身に戦闘技術のインストールと肉体強化を施しているとは言え、本当の意味での実戦経験は皆無……そんな教授が、時には
違法なIS研究所を潰す等の任務で幾多もの戦場を戦って来た夏姫達に敵う道理はないのだから。

結局のところ、先程の戦いが拮抗した状態になっていたのは、レジェンドの『超高速シールドエネルギー回復』、『武装を含めた機体の再生能力』、『自機の
分身を作り出す能力』、『零落白夜のレジスト機能』が有っての事に過ぎなかっただけだった。


「ふ、チートな能力が無ければ所詮はこの程度か教授?
 お前は超人になったのだろう?超人ならば、この程度の戦力差は引っくり返して見せるんだな……まぁ、機体の性能頼みでは土台無理な事だろうけど。」

「眠りなさい、私達の奏でるレクイエムで!」

「ぐ……此れが、SEEDに覚醒した者の真の力か……!」


フリーダムとプロヴィデンスの計二十六基のドラグーンが舞い、レジェンドをに対してありとあらゆる方向からの攻撃を行う――其れだけでも充分脅威である
が、その多角攻撃から発せられるビームの総数は八十発にもなるのだから大凡避け切れるモノではない。
特にデストロイ並みに巨大化した状態では尚の事不可能だろう……なので、レジェンドは腕部のビームシールドを全身に範囲を広げてこの猛攻を凌ぎなが
ら、自らはドラグーンで攻撃しているのだが、普段夏姫やマリアの芸術的とも言えるドラグーン操作を見ている刀奈達にとっては大した脅威ではない。
そもそもにしてドラグーンの利点の一つに、IS本体と比べると小型である事が上げられる――IS本体よりも小型であるが故に、高いレベルで操作されると狙
って破壊する事が難しくなるのだが、今のレジェンドは巨大化している事でドラグーンまで巨大化し、通常サイズのISと同じ位の大きさになっている為、容易
に動きが読める為に攻撃を当てる事も難しくないのだ。

勿論、この状態のドラグーンには陽電子リフレクターが展開されているので破壊するのは簡単ではないのだが……


「ちょこまかと鬱陶しいな、今は冬なんだから蠅は大人しくしてろ!」

「この程度、夏姫とマリアの芸術的かつ殺人的なドラグーン操作と比べたら未熟その物!私達には通じんぞ!」


一夏と箒に限ってはそうではなかった。
一夏にはエネルギー系を完全に無効化する零落白夜が有るので、陽電子リフレクターがあったとしても其れごと斬り裂けるのだが、何と箒はヤタノカガミが
コーティングされたシールドを打突武器として使ってドラグーンを破壊したのだ。
元々アカツキのシールドは打突武器として使用する事も考えて設計されているのだが、だからと言って陽電子リフレクターを貫く事が出来るのだろうか?
……実は出来たのだ。
此れは開発者である束も驚く事実だろうが、ヤタノカガミは単純にビームを反射する特殊装甲ではなく、『エネルギーシールドを通過できる』機能まで備えて
居たのだ。
零落白夜の様な一撃必殺ではないが、ヤタノカガミコーティングがされたシールドでの攻撃は陽電子リフレクターを貫通してドラグーン本体にダメージを与え
る事が出来たのだ。


「陽電子リフレクターは厄介だけど、其れへの対処法はもう分かってんのよ!」


鈴もまた陽電子リフレクター搭載型ドラグーンの対処法は分かっているらしく、自分を狙って来たドラグーンにイグニッションブーストで近付くと、ガッチリ掴ん
でパルマフィオキーナをゼロ距離で叩き込む!
臨海学校の時のデストロイとの戦闘で、陽電子リフレクターは明らかな攻撃に対しては自動展開されるが、『掴むだけ』と言った攻撃とは判別し難い行動に
関しては展開されない事を知ったのだ――だからこそ、デストロイの頭を掴んで破壊なんて事が出来たのだが。

そして、陽電子リフレクターの弱点を見抜いたのは刀奈と静寐もだ。


「如何やら、陽電子リフレクターはそもそも近接戦闘には滅茶苦茶弱いみたいね?ビームには無敵だけど、ビーム+質量の合わせ技を完全に防ぐって言う
 のは無理みたいだわ。」

「そうみたいですね楯無先輩!」


普通のビームサーベルの攻撃ではビームエッジが陽電子リフレクターに阻まれてしまうが、其処に別の力が加わればその限りではない――なので、刀奈
は脚部のグリフォンビームブレードを展開して某ストリートでファイターなアメリカ軍人も賞賛するであろうサマーソルトキックで陽電子リフレクターを強引に貫
通してドラグーンを破壊し、静寐はバルムンクを斬馬刀形態にしてドラグーンを斬り付け、これまた力任せに陽電子リフレクターを貫通してドラグーンを斬殺。

正に戦局は夏姫達が教授を圧倒しているとしか言いようがなかった。


「く……馬鹿な、こんな筈は!
 私の計画では、イルジオンは蓮杖夏姫君に殺されている筈だったのに、まさか生きていただと?……幾多のシミュレーションを行ったが、こんな展開は一
 度たりとも起こらなかった……まさか、私の予想を超えた事態が起こってると言うのか!」

「貴様如きの予想で無限にある可能性を予測する事自体が烏滸がましいと知れ……大体にして其の予想は、アタシが姉さんを蘇生させる事を想定してなか
 ったのだろ?
 なら、貴様の予想外の事が起こって然りだろうに。」

「其れが分からない。
 なぜ君はイルジオンを蘇生させた!敵である彼女に、情けを掛ける必要は無かった筈……君は敵と見なした相手には一切の容赦も慈悲もなく叩きのめし
 て来たのに、なぜイルジオンを助けたのかね?」

「直接戦ってみて、姉さんのアタシへの憎悪と嫉妬は偽物だと言う事に気が付いたからだ……貴様が余計な横槍で発動してくれたバーサーカーシステムを
 解除する為にも、一度姉さんの事を殺す必要があったが、そのまま死なせる事は出来なかった……実の姉だしね。
 尤も、アタシが姉さんを蘇生させた理由は、幾らアタシが説明した所で貴様には理解出来ないだろうがな。
 そしてどんな気分だ教授?自分が駒として斬り捨てた相手が打った一手によって自分が窮地に追い込まれていると言うのは……さぞかし、最高の気分じ
 ゃないのか?
 あぁ、此れは聞く相手を間違ったかな?姉さん、今の気分は如何だ?」

『そうだな……最高にハイってやつだ。』

「ふ、的確なコメントをどうもだね。」


この展開は教授にとっては予想外の事だったみたいだが、其れに関しては教授の読みが浅く甘かったとしか言いようがない――そもそものシミュレートが
自分の思惑通りになった事が前提で行われてたのだから、そうでなかった場合にはシミュレートは全く役に立たなくなるのは道理だと言えるだろう。
教授の最大の過ちは、夏姫は確実に桜姫――イルジオンを殺すと決めつけていた事だろう……実際に夏姫はバーサーカーシステム解除の為に一度は桜
姫を心停止状態にはしているのだから。
だが、夏姫は其処で終わらずに電気ショックで桜姫を蘇生させた――其れを読めなかったのだ教授は。
結果として、生きていた桜姫によってレジェンドのチート機能が全て解除されて、今現在は完全に劣勢になっているのだから、教授としては苦笑すら浮かべ
られない状況だろう。


「バカな……こんなバカな事が有り得る筈が無い!
 私の計画では、君達は全員が私の兵隊となっている筈だった……其れが、何故こんな事に……有り得ん、有り得んぞ!!」

「幾ら喚こうとも此れが現実だ……諦めて受け入れるんだな。」

「良い男の条件には『潔さ』が有るみたいだから、大人しく受け入れる事をお勧めするわ。」


教授の喚きを軽く受け流し、夏姫と刀奈は左右両方向から攻撃を仕掛けるがレジェンドは全身に展開したビームシールドで其れを受け止める――だが、其
れで終わる夏姫と刀奈ではない。


「そう来るのは予想済み……」

「私達の狙いは、こっちよ!」


言うが早いか、夏姫はビームライフルを連結させてビームを放ち、刀奈はシールドからビームブーメランを取り出して投擲する――レジェンドの『ビームシー
ルド発生装置』に。
ビームシールドの最大の利点は、実体シールドと違い、防御使用によるダメージの蓄積が一切なく、物理的に破壊される事が無い事にあるのだが、それは
あくまでも発生させたビームシールドの話であって、ビームシールド発生装置はそうではない。
確かにビームシールド其の物は、非常に優れた防御兵装であるが、ビームシールド発生装置自体を保護する機能は有していない、云わば弱点が剥き出し
の状態であると言えるのだ。
とは言え、ビームシールド発生装置自体は、機体によって多少の差があるとは言え、大きさは概ね『親指を折った状態で他の指を真っすぐ伸ばした掌』程で
あり、IS全体からしたら決して大きくはなく、目まぐるしく動く戦闘中に、其れも一番よく動かすであろう腕部に搭載されている装置を狙って破壊するのは難し
い。其れこそ夏姫やマリアがドラグーンを駆使しても成功率は5%有るかどうかだろう。

だが、今のレジェンドは巨大化し、其れと同時にビームシールド発生装置も人間の子供程の大きさになっている――其れだけの大きさがあり、しかも動きが
止まっている状態であれば狙って攻撃するのは簡単だ。
フリーダムのビームライフルが右腕のビームシールド発生装置を撃ち抜き、ジャスティスのビームブーメランが左腕のビームシールド発生装置を切り裂いて
機能停止に追い込み、レジェンドを護っていたビームシールドは消滅!


「ぐぬ、ビームシールドが……!」

「だから言っただろう、巨大化は負けフラグだ、とな。
 もしも大きさを変えずに強化状態になっていたら、或いは姉さんが介入する前にアタシ達は壊滅的なダメージを受けていたかもしれないが、巨大化でメリッ
 トよりもデメリットの方が多くなってしまった結果が此れだ。
 巨大化しなければ、ビームシールドを失う事もなかっただろうからね……だが、此れでもうお前を護る盾はない。」

「PS装甲が搭載されているとは言え、アレはビーム兵器には一切無力だからねぇ?
 おまけにドラグーンも破壊されちゃった上に、残る武装は威力が大きいだけで取り回しの悪い大型のビームライフルと、頭部のバルカン砲のみ……チェッ
 クメイトかしら?」


これによりレジェンドに残された防御機能はビームには一切無力なPS装甲のみと言う絶望的な状況……夏姫や刀奈の様な『被弾率略0%』な回避能力が
あるのならば、其れでも問題はないが、教授に其処までの回避能力はない。と言うか、10m以上の巨体で其れだけの回避能力を発揮しろとか無茶振り以
外の何物でもない。


「認められるか、この様な事が……この私が負ける等と言う事が……!」


状況は圧倒的不利であるが、其れでも教授は己が敗北する事は受け入れらないとばかりにディファイアントビームジャベリンを展開して、夏姫達に斬り掛か
ろうとするが……


「そうはさせないよ。」

「此れでも喰らっときなさい!」


静寐がブラストカラミティに換装し、トーデスブロック2でビームジャベリンの柄の部分を破壊してビームエッジの展開を不可能にし、鈴がパルマフィオキーナ
で頭部のバルカン砲を破壊して更なる武器破壊を行う。
これはもう完全に詰みだ……唯一残ったのはビームライフルだが、この大きさでは夏姫達を狙って撃ち抜く事は難しい上に、下手に撃てば射線上に箒が割
って入ってヤタノカガミによるカウンターを叩き込まれるのだから打つ手は残されていないだろう。


「バカな……私は超人になった筈だ、なのに何故?」

「未だ分からねぇのか?
 アンタは超人ってモノに固執し過ぎて、大事な物が分かってねぇらしいな……確かに五つものISコアと融合したアンタは超人と言えるのかも知れない。否、
 実際超人になったんだろうさ。
 だが、超人的な力を持ってたとしても、人の心を忘れちまったら何の意味もないんだぜ?
 人の心ってモノを失くして、自分の目的の為にはあらゆる物を道具としてしか見てなかったアンタじゃ、超人の力を得てもその力の半分も使う事は出来ね
 ぇんだよ……この腐れ外道が。
 覚悟しな、三度目の正直……今度こそ此れで終わりにしてやるぜ!」


そしてトドメとばかりに一夏が吼え、三度零落白夜を発動し、エクスカリバーに眩い光が宿る。
其れと同時に、ストライク、プロヴィデンス、アカツキのドラグーンが舞い踊り、レジェンドの動きを制限して零落白夜から逃れられない様にする……事前に打
ち合わせをした訳でもないのに此れだけの連携が出来ると言うのは、其れだけ普段から連携の訓練をしている事の証だろう。
兎に角これで教授が一夏の攻撃から逃れる事は不可能だ。


「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


裂帛の気合と共にアンビスフォームにしたエクスカリバーをレジェンドの頭部に突き刺すと、そのまま降下しながらアンビスフォームのエクスカリバーを振り回
してレジェンドを切り裂いて行く。
一撃必殺の零落白夜を喰らっても機体が解除されなかったのはISコアを五つも搭載してるからだろうが、其れでも何度も零落白夜を喰らったら堪ったモノで
はない……バッキバキに鍛えている肉体であっても、何度もボディブローを叩き込まれたら耐える事が出来ないのと同じだ。


「此れで、終わりだぁぁ!!」


トドメとばかりに、一夏はエクスカリバーの連結を解除して、逆手二刀流でレジェンドを連続で斬り付ける……その猛攻にレジェンドが解除されると同時に景
色が一変し、戦闘前のアーク・ジェネシスの最深部の部屋に戻る。
此の部屋ではISの展開が出来ないので夏姫達も強制的に機体が解除されてしまったが、だとしても此の勝負はどちらに軍配が上がったかは明白――レジ
ェンドが解除された教授がボロボロだったのに対して、SEEDに覚醒したレギオンのメンバーは、夏姫と刀奈と一夏が多少の擦り傷を負っているだけだから。


「ククク……まさか、私が負けるとはね――だが、此処に戻ってきた以上、君達は私にトドメを刺す事は出来ない……とは言え、私ももう君達と戦う力は残っ
 ていないから敗北を認めるしかあるまい。
 だが、私は只では負けんよ。」

「なに?」


此の状況で、敗北を認めつつも只では負けないと言う教授に訝し気な視線を向けたと同時に其れは起きた。


『レジェンドの機能停止を確認。レジェンドの機能停止を確認。
 アーク・ジェネシス全隔壁閉鎖。これより爆発処理に入る。』


「「「「「「「!!?」」」」」」」

「クククク……万が一の保険と言う奴さ。
 私が負けた場合の事を考えて、アーク・ジェネシスには自爆する機能を搭載しておいたのだよ……私には転移機能が有るから此処から脱出するのは難し
 くないが、君達は果たしてどうかな?
 SEEDに覚醒した者達よ、見事私の最後の足掻きから生き残ってみたまえ!生きていたらまた会おうじゃないか。」

「テメ、待ちやがれ!!」


教授が最後の切り札としてアーク・ジェネシスに搭載していた自爆機能が作動し、其の作動を見るや否や、教授は捨てゼリフ的なモノを残して其の場から転
移して離脱……流石は外道、やる事が汚くてセコイ。
本当に最悪だコイツと言った所だが、外道教授だから仕方あるまい。


「アンの野郎ぉぉぉぉ、土壇場で逃げやがった!このクソッタレ……此のままじゃヤバいだろ流石に――ISも展開出来ない状況で自爆に巻き込まれたら、幾
 らなんでも閻魔様の前に参上しちまうぜ!?」

「其れは流石に御免被りたいが……此処から脱出する手段は絶対ある筈だ――まずはこの部屋をくまなく探すんだ。諦めるにはまだ早いぞ。」

「そうね……全員生きて帰還する、其れが目標だからね。」


だが、夏姫達に『諦める』と言う選択肢はない。
全員が生きて帰還する為に、脱出の手段がないかと先ずはこの部屋をくまなく調べ上げ始めたのだった。








――――――








一方で、最深部から転移した教授は、緊急脱出用の通路を左足を引き摺りながら歩いていた……ISと融合したとは言っても、零落白夜の連続攻撃と言うオ
ーバーキル上等のコンボを喰らったら、流石に只では済まなかった様だ。


「よもやこんな結果になろうとは……だが、私は生きているし、蓮杖夏姫君達の遺伝子サンプルはアジトに残っている……暫くは身を隠して力を蓄える事に
 専念し、何時の日かまたこの計画を遂行し、今度こそ完遂させて見せよう。
 今回の事で良いデータも採れたから、次こそは私の思い通りになる筈だ。」


この期に及んで教授は未だ諦めていなかった……その執念は見事であると言えるだろう――だが……


「残念だけど、お前に次なんて無いよ?」

「最悪のマッドサイエンティストには此処で退場して貰うぞ教授……いや、お前の場合は『きょう』の字に『狂』を当てて、狂授と呼ぶべきかな?」

「篠ノ之束君!?其れにイルジオン!?」


その前に現れたのは、束と桜姫――桜姫の予想通りに、敗北した教授は此処に転移して来たのだ。


「その名で私を呼ぶな。私の名は桜姫だ……貴様に付けられた名など、もう名乗る気にもならん――私が望んだ事で生まれた妹との殺し合いをさせた貴様
 が付けた名などはな。」

「其れは残念……して、君達は私に何の用かな?」

「何の用って、そんなの決まってんじゃん……お前をぶっ殺しに来たんだよジョージ・ワイズマン。
 私がISを学会に発表した時に、お前だけはISの性能を評価してくれたけど、其れって結局はISを自分の野望の為に利用するのに必要だったから……そし
 て、私とちーちゃんに白騎士事件を起こさせて、世界を混迷させたお前を生かしておく理由は何処にもねーんだよ。」

「妹殺しをさせようとした代償は払って貰う……お前の命でな。」


その教授に対して、桜姫は44口径リボルバーのマグナムを向け、束は大型のボウガンを向ける――夏姫は大口径のガバメントで桜姫は44口径のマグナ
ムとは、姉妹だけに得物も似通っているのかも知れない。


「ククク……最深部ではない此処ならば、君達の武器でも有効だろう……だが、マグナムとボウガンで私を倒せると思っているのかね?確かにマグナムは
 破壊力抜群だし、ボウガンも急所に矢を放てば必殺だろう。
 しかし、私はISコアと融合し、超人となった――故に、その武器で私を殺す事は出来ん。」


其れを見た教授は怯む事はなく、逆に其れでどうやって自分を殺す心算なのかと煽る……夏姫達に負けたとは言え、教授の身体には五つのISコアが融合
されているのだから通常兵器は略意味を成さないだろう。
だが、其れでも桜姫と束は止まらず、流れるような動きで教授に照準を定めると……


「地獄への片道切符だ、餞別にくれてやる。」

「そんじゃ、バイバ~い!」


マグナムとボウガンを発射し、弾丸と矢は教授の胸に突き刺さる……貫通しなかったのは、ISコアと融合した事で身体の耐久性が上がったからだろう。。


「ぐむ……此れは可成り効いたが、この程度では私は――な、何だ?身体が動かない?」


其れでも、教授にとっては大したダメージではなかったらしく、直ぐに動こうとした所で異変が起きた……動こうと思っても身体を動かす事が出来ない。其れ
も只動かせないのではなく、腕や足がドンドン硬くなって来てる感じなのだ。


「篠ノ之束、お前の思惑は如何やら当たりだったみたいだな?」

「だね。まさか、此処まで巧く行くとは思ってなかったよ……まぁ、巧く行ったなら文句は言わないけどね。」


桜姫と束は『してやったり』と言った感じだが、教授にしてみれば意味が分からない事この上にない――超人の域に踏み込んだ己が、たった一発の弾丸と
ボウガンの矢で、明らかな異常をきたしているのだから。


「篠ノ之束、イルジオン……一体何をした!」

「貴様に応えてやる義理も義務もないが……死に行く者へのせめてもの手向けとして教えてやる――私の放った弾丸は『ISコア強制停止プログラム』が搭
 載された特別な弾丸で、篠ノ之束のボウガンの矢には、彼女が開発したトンデモナイ毒が塗られていたんだよ。」

「ISコア強制停止プログラムに、其れに毒だと?」

「そう、毒だよ。ISコア強制停止プログラムは名前のまんまだけど、私が開発した毒って言うのは、この地球上の略全ての生物にとっての劇薬になるヤバ過
 ぎる代物だよ。
 尤も使うのは今回限りだし、作り方とかのデータも全部消してあるから二度と作られる事はないんだけど……お前にぶち込んでやった毒は、皮膚や筋肉を
 構成してるメイン物質であるタンパク質をガッチガチに凝固させる物だよ。」

「な、なに……!?」

「毒は触れただけでも効果が発揮される上に超即効性。
 手足の指から身体が固まって行き、其れが胴体に達すると内臓諸共固まって行って、最後には完全に石になる――あぁ、心肺機能が石になってから脳
 が石になるまでは十秒程だから息出来ない苦しさは殆ど感じる事ないから其処は安心して良いよ~~。」


その原因は束のボウガンの矢に塗られていた束お手製の猛毒……タンパク質を凝固させて身体を石に変えてしまうとは、何とも恐ろしい事この上ない毒で
ある。身体の構成物質の多くがゼラチンである深海魚の一部を除いて、殆どの生物はこの毒に触れたら死は免れないだろう。


「つっても、ISコアと融合したお前にはこの毒単体じゃ効果は無かっただろうね――ISの『搭乗者保護機能』が働いて、解毒を行うだろうから。
 だから、ISコア強制停止プログラムも用意した訳さ……桜姫ちゃんが、お前がISコアと融合してる事を教えてくれたから作れたんだけどね~~。」

「バカな……ジェノサイドフリーダムが停止したのを確認してからまだ一時間も経っていないと言うのに、コアの強制停止プログラムを搭載した特殊弾丸を作
 ったと言うのかね君は!?」

「そうだよ?
 ISコア強制停止プログラム其の物は、アメリカに盛大に制裁かました時に出来てたから、其れを弾丸に搭載するなんてのは朝飯前のお夜食さ!
 ま、もうお前はお終いだよ外道教授……閻魔様にお前の罪状送っといたから、地獄の裁判を楽しむんだね~~。」

「ぐぬ……この私がこんな所で……だが、私が死んでもISが兵器としての側面を持ち、人類が其の力を手放す事が出来ない事実は変わらない――何時の
 日か、第二・第三の私が現れる!
 私と同じ考えを持つ者は、必ず何処かに居るのだからね……君達が何処まで己の正義を貫けるか、楽しみ――」


此れが教授の最期だった……全てを言い終わる前に完全に全身が石になり、同時に生命活動も完全に停止した。
そして桜姫は、石となった教授にマグナムを向けると迷わずに引き金を引き、石化した教授を粉々に砕く――44マグナムは、装甲板ですら容易く貫く威力を
持った最強の銃なのだから、石程度なら容易に砕けるのだ。


「何処までかだと?愚問だな教授――無論、死ぬまでだ。」

「斎藤一かな?ま、お前の言う事も一理あるけど、この世界を安定させるベターな策は考えてあるから、お前の言うようにはならないよ、絶対にね。
 取り敢えず教授は倒したけど、なんか此処もヤバいっぽいよね?爆破処理するとかアナウンスしてなかったっけか?其れから隔壁も全部閉鎖するって。」

「あぁ、だからさっさと脱出するぞ。
 ジェノサイドフリーダムの転移機能は、ライブラリアン所有の場所や艦にしか転移出来ないからな……この先にある緊急脱出用のドックから脱出艇で逃げ
 るぞ。」

「って、なっちゃん達は!?
 隔壁が下りてるって事は、なっちゃん達は脱出出来ないんじゃないの!?」

「その心配は要らん。
 アークジェネシスの最深部には隠し部屋としてコントロールルームが有るから、其処で隔壁の解除は出来る筈だからな……なに、夏姫達ならば必ず全員
 無事に脱出するだろうさ。
 何て言っても、アイツ等は自ら超人に進化した人間なのだからね――信じてやれよ、お前が力を託した奴等の事をな。」

「信じる……そうだね、なっちゃん達だったらきっと大丈夫だよね。
 だったら、束さんは先にアークエンジェルに戻って、皆の為のお疲れパーティの用意をしないとだ!」


教授を完全に滅した束と桜姫は、夏姫達が無事に脱出する事を信じ、自分達は緊急脱出用のドックから脱出艇を使ってアーク・ジェネシスから離脱してアー
クエンジェルへ帰還。
その道中で、ライブラリアンの無人機が次々と機能を停止したのを見て、束も桜姫もこの戦いの終わりを予感したのだった。








――――――








Side:夏姫


自分が負けたら要塞諸共爆破するって、何だって悪役と言うのは素直に負けずに道連れを狙うのか……自爆オチ野郎はKOFのルガールで充分だぞマッタ
ク――しかも、ISの展開を阻害するジャミングは健在だと言うのだから最悪過ぎる。
如何にかして隔壁を開く方法か、ジャミングを解除する方法はないか……此のままじゃ全員アーク・ジェネシスと仲良く爆死だぞ?



「ん?何だ此れ、ちょっと凹んでる?……此れは隠し扉!夏姫姉、こっちに隠し部屋か隠し通路があるみたいだ!」

「本当か?」

「あぁ、此処だけちょっと凹んでるし、なんかスライド式のドアみたいな感じがする――間違いなくこの先に部屋か通路があると思うぜ。」

「良く見つけた一夏……鈴、やってくれ。」

「了解よ姫義姉さん!覇ぁぁぁ……中国拳法・南の絶技、七星閃空脚!」



だが、一夏が隠し部屋か隠し通路に繋がっているであろう隠し扉を見つけ、鈴がブルース・リーやジャッキー・チェンも真っ青な見事な飛び蹴りでその隠し扉
を蹴り壊してくれた。
扉の先にあったのはモニターやらキーボードが沢山ある部屋……此処はコントロールルームか?だとしたらラッキーだわ。
コントロールルームであるのなら、閉じた隔壁を開ける事が出来るかもしれないし、上手くいけばISの展開を阻害してるジャミングも停止させる事も出来るか
も知れないからな。
早速、プログラムを探ってみるか。



「マリア、私の見間違いかな?キーボードを叩く夏姫の指の動きが見えないんだけど?」

「見間違いじゃなくて現実よ静寐……昔から、夏姫は電子系には滅茶苦茶強かったのよ――イギリスでストリートチルドレンをやってた時には、其れを生か
 してタイピングゲームの大会で優勝して賞金を稼いだ事もあったもの。」



そう言えば、そんな事もしてたな……あの頃は、その日を生き抜く為に色々やったからね――盗みだけは絶対にやらなかったが、レストランのゴミ箱漁りや
ら、パン屋でパンのミミ譲って貰ったりと本当に色々な。
あの時の苦労を思い出せば、どんな事だって出来る自信があるわ。

っと、見つけた。これが隔壁を開く為のプログラムか……って、此れはマジなのか?



「夏姫姉、如何した?」

「……強制的に下ろされた隔壁を上げるためのプログラムを見つけた。」

「マジか!だったら早速其れを使って隔壁を上げて脱出しようぜ!」

「そうだな……と言いたい所だが、教授は最後の最後までアタシ達に嫌がらせをしたかったみたいだ――下りた隔壁を、一度に全部上げる事は出来ない仕
 組みになっている。
 一つずつ、此処でマニュアル操作で上げて行く事しか出来ないらしい。」

「一つずつって……夏姫、其れってまさか!」

「あぁ、お前の思ってる通りだよ楯無。」

隔壁を上げて脱出するには、誰かが此処に残って隔壁を一つずつ上げて行くしかない……しかも、全ての隔壁を上げた後では、脱出の時間は残ってない。
全員仲良く爆死するか、其れとも一人を犠牲にして助かるか……最悪の二択だな、此れは――!











 To Be Continued… 





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