Side:刀奈


さてと、クリアパッションで大量のグフを落とす事が出来たけれど、一夏君の成り損ない達は果たしてどうなったかしら?
並のISだったら大抵クリアパッション一発でシールドエネルギーがエンプティーになる所なのだけど、クリアパッション――水蒸気爆発は物理攻撃である事を
考えるとPS装甲が搭載されている機体には決定打には成り辛いと思うのだけれど……



「確かに決定打にはなってないようだが、其れでももう一発喰らったら今度こそお終いだろうな。
 PS装甲は機体エネルギーの消費と引き換えに物理攻撃を無効にしてしまう便利なモノで、小型の核融合エンジンを搭載して、無限のエネルギーがある私
 達ならば物理攻撃は完全に無効化出来るが、奴等の機体はそうではないらしいからPS装甲で物理攻撃を無効に出来る回数も有限だろう。
 先程までの戦いでエネルギーを消費していた所に、あれだけ破壊力のある物理攻撃を叩き込まれたら、PS装甲を維持する為のエネルギーは、もう残って
 いない筈だ。」

「……如何やらその様ねマドカちゃん。」

クリアパッションで吹き飛ばしてあげた一夏君の成り損ない達は、機体の強制解除こそされてないけれど、機体の色がさっきまでと違ってグレー一色になっ
てる――PSダウン、PS装甲を維持するエネルギーが無くなって、ディアクティブモードと言う状態になってしまったみたいね?
機体は解除されてないからまだ動く事は可能なのだろうけれど、あの状態ならもう物理攻撃を無効にする事は出来ない……確かに、もう一度クリアパッショ
ンを叩き込めば其れでお終いでしょうね。



「ならば今度はさっきよりも派手にやってくれないか楯姉さん?
 そうだな……出来れば奴等が一撃で粉々になる位の破壊力があれば最高だ。奴等の死に顔など拝みたくもない……奴等には『汚い花火』になるのがお
 似合いだろう。」

「……言う事が過激ねマドカちゃん。」

だけど、その意見には賛成だわ。早速準備を――



『『『Berserker System activation.』』』


「「「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」」

「「!!?」」


な、何?PSダウン状態だった機体が真っ黒になって、パイロットが絶叫してる?……よく見ればツインアイがさっきまでとは違って真っ赤に光ってるし、一体
何が起きたと言うの?



「機体が暴走していると言う訳ではなさそうだな?
 恐らくだが、機体エネルギーが一定以下になった際に発動するように組み込まれたプログラムが作動したと言った所だろうさ――多分、機体エネルギーを
 回復させた上でリミッターを解除する感じか?」

「リミッターの解除……其れは厄介ね。」

機体のリミッターだけじゃなく、パイロットのリミッターまで解除されているのだとしたら、きっとさっきまでとは比べ物にならない程の力を手にしている筈だし。
尤も、リミッターが解除された事で理性も吹き飛んでしまったのかも知れないけれどね……織斑計画の成れの果ては、哀れな狂戦士に、か。本当に哀れ過
ぎて同情すら出来ないわね。

良いわ、今度こそ終わらせてあげる。粉々どころか、跡形もなく吹き飛ばしてあげるから掛かってらっしゃいな。


時に、夏姫の方は大丈夫かしら?イルジオンは彼等とは一線を画す力の持ち主みたいだから夏姫でも簡単に勝てるとは思わないわ……其れでも、負ける
事はないと思うのだけれど、何か嫌な予感がするわ。
私の杞憂であれば良いのだけれど……ううん、私は夏姫を信じるだけね。――さて、今は目の前の狂戦士に集中よ!











Infinite Breakers Break116
永遠の自由と殺戮の自由の激闘』









No Side


教授によってバーサーカーシステムを強制発動されたイルジオンは、完全に理性を失って、夏姫に襲い掛かって来る――今のイルジオンにあるのは『眼前
の敵を滅する』と言う意志だけだろう。
両手にビームサーベルを持ち、凄まじい速さで攻撃を繰り出してくる。


「く……型も何もない無茶苦茶な攻撃だが、中々に厳しいな?
 元々の能力が高い奴が理性と言うリミッターを解除されると、思った以上に厄介極まりないと言う事か……だが、其れでも一夏の剣技に比べれば未だ温
 い!」


バーサーカーシステムによってパイロットの身体能力、機体性能が夫々十倍に引き上げられたイルジオンに対して、夏姫はSEEDを発動して対応し、略互角
の戦いを演じている。
能力の上昇値で言うのならば、パイロットの身体能力、機体性能が共に十倍となるバーサーカーシステムの方が上だが、SEEDの最大の特徴は、思考力と
反応速度の上昇にある――クリアで高速化した思考と、極限まで高められた反応速度を持ってして、超人域の戦いを可能にする。要するに、冷静な思考を
維持した状態で『火事場のバカ力』を発動してるのと等しいのだ。
普通、此れだけの力を発動した場合、其れに振り回されてしまいそうなモノだが、夏姫を始めとしたSEEDに覚醒した者達は、日々の鍛錬で心身共に鍛え上
げているので、其れに振り回される事はない。此度の戦闘でSEEDに覚醒した鈴と箒とマリアと静寐が其の力を既に使いこなしているのが良い証拠だ。
其のSEEDの力を、夏姫と刀奈は自分の意志で発動する事が出来るようになっているのだから、其れはもう恐ろしいとしか言いようがない。尚、一夏は未だ
完全には自分の意志で発動する事は出来ず、感情の爆発が必要な模様だ。

何にせよ、SEEDを発動した夏姫と、バーサーカーシステムを発動させられたイルジオンに大きな差はなく、イルジオンの理性が健在だった時よりも激しいビ
ームサーベルでの剣劇を繰り広げる。其れもその場で剣劇を繰り広げるのではなく、高速移動を繰り返しながらだ。
互いにイグニッションブーストを発動しながら斬り合うこの光景は、モンド・グロッソに出場するIS乗りでも肉眼で捉える事は不可能――ISのハイパーセンサ
ーを使って漸くと言った所だろう。


……戦っている姿を目視するのは不可能で、戦っている音だけが聞こえるとか、一体何処の竜玉漫画的なバトルなのか……或は此れが、形は異なりなが
らもリミッターを解除した超人同士の戦いと言うモノなのかも知れない。


「狂った力では、アタシに勝つ事は出来ないぞイルジオン!」

「アガ?」


だが、SEEDとバーサーカーシステムで互いにリミッターが解除されているとは言っても、理性が有るか否かの差は意外と大きいらしく、何度目かのぶつかり
合いの際に、夏姫はビームサーベル二刀流で超高速の斬撃を繰り出し、イルジオンのビームサーベルのビームエッジ展開部分を切り落として破壊する。
ビームエッジ展開部分が破壊されたビームサーベルはもう武器として使用する事は出来ない。もうビームサーベルとしては機能しない――理性は失っても
其れを理解したのか、イルジオンはビームサーベルを腰部のマウント機構に戻す。


「此処からはお互いの得意分野での勝負と行こうじゃないか……なぁ、姉さん?」

「ウグ……ガァ……ナツキィィィィィィィィィィィィィ!!!」


ビームサーベルを破壊したのならば、このまま近接戦闘を続けた方が有利であるにも関わらず、夏姫は敢えて距離を取って中距離での戦闘にシフトする。
其れは己とイルジオンが最も得意とする射撃戦が出来る距離――互いの得意分野で戦う事を望んだのだ夏姫は。
そして距離が離れると同時に、エターナルフリーダムのツインアイがグリーンに、ジェノサイドフリーダムのツインアイが真紅に光ったと同時にドラグーンを展
開し、超多角立体的バトルを開始!
合計二十機のドラグーンが飛び交ってビームを放ち、夏姫とイルジオンは本体に搭載された火器をフル活用して戦闘を行って行く。
イルジオンがカリドゥス複相ビーム砲を放てば、夏姫はビームライフルを連結させた長射程ビームで其れを相殺し、夏姫がバラエーナを放てば、イルジオン
は其れを避けてビームライフルで反撃し、夏姫はそのビームをビームサーベルで斬り弾く。……もう何度もやっている事ではあるが、ビームを斬るのは凄ま
じいの一言に尽きる。

だが、このまま戦っていても互いに決定打を欠いた千日組み手になるのは間違いないだろう……何よりも、このまま戦い続けたらバーサーカーシステムに
囚われてしまったイルジオンが持たないだろう。
如何に超人として作られたイルジオンであっても、強制的に十倍に引き上げられた力を使い続けたら只では済まない……廃人は回避出来たとしても、病院
生活が長期化するのは避けられないだろう。


「(教授は、アタシが死ぬかイルジオンが死なない限り、バーサーカーシステムが解除される事はないと言っていた……アタシが死ねば解除されるのは、何
  となくだが分かる。
  アタシが死ぬ瞬間を見ればいいのだからね――だが、イルジオンが死んだ場合、バーサーカーシステムはどうやってそれを感知するんだ?)」


そんな中で夏姫は教授が言ったバーサーカーシステム解除の条件に付いて考えていた。
教授は夏姫がイルジオンに殺されるか、イルジオンが死なない限りバーサーカーシステムが解除される事はないと言ってた――であるのならば、夏姫がイ
ルジオンに殺された場合の解除は至極簡単だ。夏姫が態とイルジオンに殺されればいいのだから。
無論夏姫の選択肢にその方法はない……如何に助ける為とは言え、自分の命と引き換えにとか割に合わないにも程がある。其れ以前に、そんな事をした
ら刀奈が悲しむので完全にNGである。命に代えてもと言うのは、一見カッコよく聞こえるかも知れないが、命に代える事が出来るのは一度だけで二度目は
無いのだから。
だが、夏姫の死は感知できるとしても、問題はイルジオンの死をバーサーカーシステムがどうやって感知するかと言う事だろう。教授の言う事が本当である
のなら、バーサーカーシステムにはイルジオンの死を感知する機構がある筈なのだから。


「(バーサーカーシステムはあくまでもプログラムに過ぎない……其れがイルジオンの死を感知するには――脳波か心音の停止の感知か!!)
 ……だが、其れならばやりようがあるかも知れん――行くぞイルジオン!」


夏姫も其れに思い至り、バーサーカーシステムが如何にして搭乗者の『死』を検知するのか考えた結果、一つの可能性に至り、イルジオンに此れまで以上
の激しい攻撃を開始!
ハイパードラグーンが縦横無尽に飛び交い、更にエターナルフリーダムの超火力が火を噴き、ジェノサイドフリーダムのドラグーンを八機破壊する!――未
だ二機残っているが、其れは大した問題ではない。


「貰った!」

「ガァ?」


夏姫はイグニッションブーストでイルジオンに急接近すると、腰部のレール砲をビームサーベルで切り落とし、更に其処にマウントされたビームサーベルをむ
しり取って拡張領域に放り込む。
『壊れた武装を何の為に?』と思うだろうが、此れが夏姫の作戦その一だ。
夏姫は続いて、ドラグーンフルバーストを行い、ジェノサイドフリーダムの翼を破壊!更にそれだけではなく、ドラグーンでジェノサイドフリーダムのバックパッ
クを完全に破壊し機動力を完全に滅殺する。
こうなってしまってはジェノサイドフリーダムの武装はビームライフルと頭部のバルカン砲とドラグーン二機だけであり、夏姫と戦える状態ではないだろう。


「ウグゴアァァァァァ……ナツキィィィィィィィィィィィィィ!!」

「叫ばなくても此処に居るわ。」


そんな状態のイルジオンの背後に夏姫が現れて組み付いたかと思うと、上半身だけ機体を解除し、そのままイルジオンに対してチョークスリーパーを敢行し
て締め上げる。
如何にフルスキンとは言っても、関節まで装甲に覆われている訳ではないので、実は関節部分が弱点なのだ――特に首周りは大事な部位であるのに『動
きを妨げる』との理由で装甲には覆われてない。つまり、フルスキンの機体を使っている相手でも関節技は決定打になるし、チョークスリーパーが完璧に極
まってしまえば其れで勝負ありだろう。
夏姫が事前にジェノサイドフリーダムのバックパックを破壊したのも、バックパックがあれば其れが邪魔になってイルジオンにチョークスリーパーを掛ける事
が出来ないと判断したからなのだ――此の判断力は見事だろう。
そうした下準備が功を奏し、夏姫はイルジオンをチョークスリーパーで絞め上げる事が出来ている――だけでなく、下半身はパロスペシャルの様な形になっ
ているので脱出は難しいだろう。


「ウゴ……アガァァッァァァァァ!!グガぁぁぁ!!」

「暴れても無駄だ、アタシはもうお前を放さない。」


気道を圧迫されている苦しさから、イルジオンは暴れまわるが、全身をガッチリを背後からホールドされている状態では幾ら暴れても拘束を解く事は出来な
いし、残った二機のドラグーンで攻撃しても其れはエターナルフリーダムの全身を包み込むビームシールドで完全に無効にされてしまう。
ドラグーン八機とバックパックは破壊された時点でもう勝負は付いていたのだろう。

暫くするとイルジオンの抵抗は徐々に弱くなり、そして遂に抵抗が完全になくなると同時に機体が強制解除される……イルジオンの心音の停止を機体が感
知してバーサーカーシステムと機体を解除したのだ。


「第一段階は成功……続いて第二段階だ。」


だが、此れで終わりではない。
夏姫は心停止状態になったイルジオンを左腕で抱きかかえると、右手に拡張領域に放り込んだ『壊れたビームサーベル』を出現させる――ビームエッジ展
開機構が破壊されたビームサーベルは、最早何の役にも立たないガラクタに過ぎないのだが……


「ビームエッジは展開出来なくとも、この状態でスイッチを入れれば、高電圧の電流が発生する……即席のAEDとして使う事が出来なくもないってね。」


破壊された部分から火花放電が起こっているビームサーベルを、夏姫は纏わずイルジオンの胸に押し当てる!――と同時にイルジオンの身体が跳ねるの
だが、そんな事はお構いなしに電気ショックを与え続け、更に人工呼吸も行ってイルジオンを蘇生させようとする。

此れこそが夏姫の作戦だ。
自分が死ぬのは論外であるのならば、イルジオンを殺すしかないバーサーカーシステムの解除方法だが、イルジオンの死が条件である事を利用した解除
方法が一つだけ存在していた。
其れが、『イルジオンを何らかの方法で心停止状態にし、機体が解除された後に蘇生処置を施して生き返らせる』と言う方法――コンピューターが人の死を
断定する材料は心音か脳波の停止しかないと言う事を突いた方法だったのだ。
決して成功率が高い作戦ではないが、自分が死なずにイルジオンも結果として死なせない為には、これ以外の方法は無かったのだ。


「死ぬな姉さん……閻魔と対面するのは、まだ早いぞ!戻って来てくれ……クリア!!」



――バチィィィィィィィィ!!

――ビクン!!




「ガハッ……ハァ……ハァ……フゥ……」

「イルジオン?」


何度目かの電気ショックを与えた瞬間、イルジオンの身体が大きく跳ね、そして咳込んだ後に呼吸を開始した――夏姫が、胸に耳を当ててみれば、イルジ
オンの心臓はその鼓動を取り戻して一定のリズムを刻んでいる。夏姫の作戦は成功し、イルジオンは蘇生したのだ。
とは言え窒息状態で心肺停止に至った事で脳は酸欠状態であり、更に自分の意思とは無関係に無理矢理限界を超えた力を行使させられた事による身体
へのダメージが重なって暫くは目を覚まさないだろう。


「さて如何するか?ミーティアに乗せてアークエンジェルに……と言うのは危険だな。この乱戦の中では攻撃してこないミーティアは只の的だからね。
 ……アタシが抱えてアークエンジェルに一度帰還するのがベターだな。ビームシールドを全身展開すれば、敵の攻撃をやり過ごす事も出来るだろうしな。」

「その必要は無いわよ夏姫。彼女は私がアークエンジェルまで連れて行くわ。」

「スコールさん、如何して……?」


その状態のイルジオンを安全な場所に移すべく、アークエンジェルに帰還しようとした夏姫だったが、其処にスコールが現れ、その役目は自分がやると言っ
て来た。
スコールは亡国企業の実働部隊『モノクロームアバター』の隊長を務める程の実力者なのだから、イルジオンを運ぶ役目を任せる事に不安はない。
だが、夏姫は何故態々スコールがその役目を買って出たのかが分からなかった。


「貴女は戦場から離れるべきではないからよ夏姫。
 あの要塞を落とすには貴女の力は絶対に必要になるし、教授とやらを倒すのにも貴女の力は欠かせない筈だもの……だから、彼女は私に任せて貴女は
 行きなさい。
 ミラージュコロイドステルスを起動すれば彼女共々姿を消す事が出来るから安全にアークエンジェルまで帰還できると思うしね。」

「……分かった。必ずイルジオンを、姉さんをアークエンジェルまで届けてくれスコールさん。」

「えぇ、任せなさい――貴女は、彼女を無理矢理狂わせた狂授(誤字に非ず)を断罪してやりなさい。
 モノクロームアバターの隊長として、そしてIS学園の教師として貴女に特別任務を与えるわ……ライブラリアンの首領である教授を抹殺せよ!!」

「了解したよスコールさん。」


だが、スコールからその理由を聞いた夏姫は、イルジオンをスコールに預けると、機体をフルモードに戻してアーク・ジェネシスに向かい、スコールはその姿
に『頑張って来い』の意味を込めてサムズアップする。
其れと同時にミラージュコロイドステルスを起動して姿を隠すとアークエンジェルに向かって発進。


「一秋と散の機体に搭載されていたバーサーカーシステムが、此の子の機体にも搭載されていたとはね……しかも、其れを遠隔で強制発動するとは、私が
 思っていた以上の外道ね教授は。
 貴方のシナリオでは、夏姫にイルジオンを殺させて、『姉殺し』の重責を負わせる心算だったのだろうけど、夏姫はその思惑を超えた……同時に、貴方へ
 の怒りをその身に宿したわ。
 最高の人間の怒り、その身で精々味わいなさい?そしてその後は、地獄で永遠の責め苦を受けると良いわ。」


アークエンジェルに向かいながらも、スコールはアーク・ジェネシスを一瞥すると右手でサムズダウンし、アーク・ジェネシス内部に居るであろう教授に死刑宣
告を行う。
『亡国企業最強』のスコールが死刑宣告を下したのならば其れはもう絶対と言えるだろう。処刑人が夏姫であるのならば尚更だ。



「(バーサーカーシステムが強制発動される前のイルジオンは明らかに何かおかしかった。
  妹が欲しかった、連中は自分を切り捨てたのではなく己の望みを、妹をと言っていた……若しかしてだが、イルジオンがアタシを憎んでいたのは、後から
  植え付けられた偽の記憶だったりするんじゃないか?
  イルジオンは成功例が自分だけなのを寂しがって、妹の存在を望み、計画に携わった科学者がその望みを叶える為に作ったのがアタシなのだとしら、イ
  ルジオンの行動の矛盾にも説明が付く。
  偽の記憶を植え付けられても、本来の記憶は消されずに上書きされた状態だったから、アタシへの情があって殺す事が出来なかったんだろう……記憶
  を改竄したのは、恐らく教授か……よし、滅殺確定だな。
  姉さんの記憶を改竄してアタシへの憎悪を植え付けただけでなく、アタシと殺し合いをさせたのだからな……泣いて謝っても絶対に許さん。生きている事
  を後悔させてやるわ。)」


そしてその夏姫も、イルジオンが自分に向けて居た憎悪の感情が、実は後から植え付けられたモノではないのかと言う可能性に至り、其れを行ったであろ
う教授に対して冷たい怒りを抱く。
燃え盛る烈火の怒りも怖いが、冷静な絶対零度の怒りの方が実は可成り怖い。冷静な怒りは言うなれば冷たい炎だ。『冷たい炎が世界の全てを包み込む
。漆黒の花よ開け』ってな感じだ。ブラックローズ・ドラゴンのブラックローズガイルは恐ろしいですマジで。
取り敢えず教授はハイクを詠む準備をしておいた方が良いかも知れないだろう。








――――――








一方でバーサーカーシステムが発動したツヴァイ、ツィーン、アハトと戦っている刀奈とマドカは――


「ウガァァァァァァァァァァ!!」

「グゥゥゥゥ……アグゥゥゥ!!」

「あらあら、中々に激しいわね?激しいのは嫌いじゃない、寧ろ大好きな方なのだけど、激しいだけで下手なのは好きじゃないわね?激しさの中にも洗練さ
 れたテクニックが無いと満足できないわ。」

「楯姉さん、其れは戦闘技術についてなのか?何やら別の何かを感じてしまうのだが?」

「あら気付いちゃったマドカちゃん?
 そうなのよ、夏姫ってば『禁則事項』は凄く激しいんだけどテクニックも凄くて『見せられないよ』『閲覧禁止』『滅びのバーストストリーム』になっちゃった回
 数は数知れないわ……若しかしてそっち方面に興味あるのかしらマドカちゃん?」

「其れはまぁ、私だって年頃の娘だからそっち方面の話題に興味が無いと言えば嘘になるさ――特に、ナツ姉さんとナツ兄さんは経験済みらしいからな。
 まぁ、私としてはちー姉さんが未経験である事が心配なのだが、ちー姉さんと交際できる男性は早々居ないだろうから、其処が悩みの種だよ……如何に
 かちー姉さんに良い人が現れてくれると良いんだが、中々に難しいだろうな。」

「世界最強のブリュンヒルデと交際したいと思ってる男性は居るだろうけど、その思いを打ち明けられる人は先ず居ないでしょうからね。」


マッタク持って余裕だった。
余裕のよっちゃんイカ――と言うのは前回やったから自重するが、うまい棒と並んで大人気の駄菓子は『Bigカツ』だと思うのだが如何だろう?良くないです
かBigカツ?……二百円あれば駄菓子屋で豪遊出来たんだよ昔は。
百円で駄菓子が三~四個買えた上に、初代ストⅡが一プレイ三十円だから三回は遊べたからね――って、其れは如何でも良い。カレーをこぼしてしまった
時に、ティッシュで其れを拭き取るととっても微妙な感じになる位如何でも良い。
大事なのは、バーサーカーシステムが発動したツヴァイとツィーンとアハトを相手にしても、刀奈とマドカはこんな馬鹿話が出来る位に余裕であったと言う事
である。
刀奈はSEEDを解放しているので、バーサーカーシステムで狂戦士と化した相手でも余裕で対処出来るし、マドカはジャンク屋のギルドで実戦で鍛えて来た
ので一夏の成り損ない程度は相手ではないのだ。
尤もこいつ等は一夏と比べた場合、一夏の一割以下の力しかないので、刀奈とマドカが負ける可能性は限りなく0であると言えるのであるが。


「其れじゃあ、そろそろ終わりにしましょうか?」

「そうするか……雑魚の相手をしている暇はないからな。」


そして次の瞬間、刀奈はツヴァイとツィーンに襲い掛かり、ツヴァイの右腕と左足をビームサーベルで切り落とし、グリフォンビームエッジを展開した蹴りを叩
き込んでツィーンの両足を切り飛ばす。
この時点ですでに戦闘不能なのは間違いないのだが、其れでもツヴァイとツィーンは戦闘行為を止めようとはしない……バーサーカーシステムには痛覚を
遮断する機能が搭載されているのだろう。身体の一部を欠損しても暴れ回るとは、正に狂戦士だ。


「この分だと、達磨にされても突撃してきそうだな?マッタク持って面倒だ。
 織斑計画の失敗作として捨てられ、教授とやらに拾って貰ったモノの結局は実験動物にされただけだったと言う事か……哀れ過ぎて同情すら出来ん。」


マドカもまた、トリケロス改のクローに仕込まれたビーム砲でアハトの左腕を肩から吹き飛ばす……ツヴァイもツィーンもアハトも、普通なら失血死が免れな
いのだが、ビームで斬り落とされた事で傷口が焼き固められているので失血死する事はない。
失血死する事はないモノの、それでもなお暴れ続けた結果、ヘイルバスター、レーゲンデュエル、ネブラブリッツは再びPSダウンを起こし、PS装甲がディアク
ティブ状態になってしまう――バーサーカーシステムによってエネルギーが回復したとは言え、暴走状態でバカバカビーム撃ったりすれば、エネルギーが枯
渇するのは当然だ。ぶっちゃけバーサーカーシステムは完全に失敗作であると言えるだろう。
だが、PSダウンは刀奈とマドカが待っていたモノでもある。仕込みは既に終わっているのだ。


「PSダウン……待っていたぞこの時を!楯姉さん、やってしまえ!!」

「えぇ……今度こそ此れで終わりよ!喰らいなさいな、ナノミスト濃度二十倍の……クリアパッション・エクサブラストォォォォォォォォ!!」


――バッガァァァァァァァァァァァァァァン!!


刀奈が叫んだ次の瞬間、ツヴァイ、ツィーン、アハトを取り囲むように凄まじい水蒸気爆発が発生……否、その破壊力は最早水蒸気爆発を通り越した水素
爆発……水素爆弾が炸裂したかの如き破壊力だ。
此れこそが刀奈の切り札中の切り札にして超必殺技の『クリアパッション・エクサブラスト』である。
通常のクリアパッションに使用するナノミストを遥かに凌駕する二十倍のナノミストを同等の範囲に散布する事で破壊力を格段に高めたモノであり、此の一
撃を喰らったら、PS装甲が搭載されたISであっても、小型の核融合エンジンを積んでない限りPSダウン状態になるだろう。
尤も、通常のクリアパッション以上に仕込みに時間が掛かるので、刀奈も実戦で使う事は滅多にないのだが、今回は理性を失って暴走している相手である
から仕込みを見破られる事も無いと考えて使用に踏み切ったのだ。


「……ふん、跡形もなく吹き飛んだか。」


爆煙が晴れると、其処には何もなかった。
水爆に匹敵する威力の爆発を間近で喰らったツヴァイとツィーンとアハトは、機体ごと完全に粉々にされて燃え尽きてしまったようだ……織斑計画によって
生み出されたモノの、成功の基準を満たせなかった事で失敗作として捨てられ、そして教授に拾われた挙げ句に実験動物にされてしまった哀れな命は、此
処で終わりを告げた。


「До свидания, подделки Икацу-куна. (バイバイ、一夏君の偽物達。)」

「楯姉さん、なぜロシア語なんだ?」

「私、元ロシアの国家代表だから。」

「うむ、良く分からないがとっても納得してしまった私が居るのが否定出来んな。」


跡形もなく吹き飛んでしまった一夏の成り損ない達に刀奈とマドカは一瞥をくれてやる事もせずにその場を離脱し、アーク・ジェネシスへと向かう――そして
此の時、同時に一夏と箒と鈴もアーク・ジェネシスへと向かっていた。
奇しくもSEEDの覚醒を果たした者達が、一斉にアーク・ジェネシスへと向かっていたのだった。








――――――








そんな中で、先陣を切ってアーク・ジェネシスに向かっていた静寐とマリア率いるアストレイ小隊+途中で合流した黒兎隊の混成部隊は、アーク・ジェネシス
に近付けさせまいと襲ってくるライゴウやグフ、ザムサザーにゲルスゲー、挙げ句にはデストロイまでもマッタク問題にしないで鎧袖一触!
ブラストとザンバーを的確に切り替えて戦う静寐と、十六機ものドラグーンを巧みに操るマリアの前では有人機も無人機もハッキリ言って雑魚でしかない上
に、其処にグフを上回る性能を持った無人機のアストレイと、ラウラが隊長を務める黒兎隊が加わったら要塞の護衛如き屁のツッパリにもならないだろう。


「ハァァァァ……消し飛べ!!」


静寐は両腕のトンファーブレードでザムサザーとゲルスゲーを切り捨てると、胸部のカリドゥス複相ビーム砲を放って、迫りくる敵を速攻極滅!
滅殺!抹殺!!瞬獄殺!!!の『殺』の三段活用(?)をしても良い感じの撃滅っぷり――普段大人しい子がブチ切れると怖いとはよく言うが、SEEDが覚
醒した静寐は正にそんな感じだ。
此のまま押せ押せムードではあるが、教授とて馬鹿ではない。迫りくる一団を纏めて葬り去ろうと、主砲の陽電子砲を始めとした火器を全開にして、静寐達
を葬ろうとするが……


「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」


陽電子砲の軌道上に箒が割って入り、アカツキのヤタノカガミで陽電子砲を防ぎきると同時に、ドラグーンを展開して簡易のバリアを張って主砲以外の攻撃
も完全にシャットダウンする。


「箒?来てくれたんだ!」

「同室の者を蔑ろには出来んだろう?――そして来たのは私だけではない。」

「オラァ、道を開けやがれ雑魚共……テメェ等なんざお呼びじゃねぇんだよ!汚いケツ見せてさっさと帰りな、そうすりゃ命だけは助けてやるぜ。」

「雑魚共が群れてんじゃないわよ……群れなきゃ何も出来ないクソ雑魚が、纏めて蹴散らしてやるわ!!」

「ククク……鈴姉さんの言う通りだな?来いよ雑魚共、ラスボス前の準備運動くらいにはなるだろうからな……精々、私達のウォーミングアップはさせてくれ
 よ?出来るかどうかは分からないがな!」

「楯無、面倒だからミーティアフルバーストで一気に行こうかと思うのだけど如何だろうか?」

「奇遇ね夏姫、私も同じ事を考えていたわ。」


そして駆けつけたのは箒だけではない。
一夏はエクスカリバーの二刀流で敵機を両断し、鈴はアロンダイトで次から次に敵機を切り捨て、マドカはトリケロス改で敵機を次々を落とし、夏姫と刀奈に
至ってはミーティアを装備して、ミーティアフルバーストを敢行!
だが、この圧倒的な攻撃でアーク・ジェネシスの護衛を行っていた者達は消え去り、アーク・ジェネシスは丸裸の状態になった――であるのならば、此の好
機を逃さない手はない。


「此れで決める!」

「逝きなさい、私とプロヴィデンスの奏でるレクイエムで!」

「だが、此れはまだ始まりに過ぎん……貴様に本当の地獄が訪れるのは此処からだ――覚悟しておけよ教授。」

「すこ~しばかり、調子に乗っちゃったわね?……やり過ぎた子にはお仕置きが必要だからね――おねーさんがお尻ペンペンしてあげるわ!」


静寐はブラストに換装して火器を全開し、マリアはドラグーンのビーム砲と本体の火器を全開にし、夏姫と刀奈は反則ギリギリでしかないミーティアフルバー
ストをブチかまして、アーク・ジェネシスに搭載されている火器を一機残らずに粉砕!玉砕!!大喝采!!!正に強靭!無敵!!最強!!!
此れでもう、アーク・ジェネシスは只の巨大要塞に過ぎないのだが――


――ヴィン


搭載されていた全ての火器を破壊した次の瞬間、アーク・ジェネシスはその身をビームシールドに覆われた『絶対防御状態』とも言われるべき状態になって
しまった……恐らくすべての火器が破壊された場合に、自動的にこの状態になるようにプログラムされていたのだろう。
だが、そんな中でアーク・ジェネシスには不自然に開けられた穴が……其処だけはビームシールドに覆われておらず、内部に入る事が出来そうな感じだ。
普通に考えれば此れは罠以外の何物でもない。と言うかあからさまにも程がある感じだ。
なので、如何したモノかと夏姫達も悩むのだが――


『おやおや、アーク・ジェネシスの火器が全て潰されるとはねぇ……私の思った以上の力を持っている様だね君達は。だからこそ、私は君達を歓迎しよう。
 君達の前に開けてあげた入り口から入って来たまえ――但し、入り口を通過できるのはSEEDの力に目覚めたモノだけだから注意したまえよ。』



此処で教授からの通信が入り、アーク・ジェネシスに入って来いと言って来た。しかも入って来れるのはSEEDの覚醒を果たした者だけだと言うのだから、相
当に性質が悪いだろう。
だって、IS学園サイドでSEEDに覚醒したのは夏姫、刀奈、一夏、鈴、箒、マリア、静寐の七人なのだから……教授は自らの元に来る相手を最初から制限し
ていたのだ。


「SEEDの覚醒を果たした者だけがお前に会えるという訳か……良いだろう、貴様の提案に乗ってやる――だが、貴様の事は必ず殺す。其れを忘れるな。」

『夏姫君か……怖い怖い。そう熱くならないでくれ給えよ?熱くなって冷静さを欠いた君を倒しても何の価値もないからね。』

「ふん、精々吠えていろ。
 貴様の命は、アタシ達が貴様と出会ったその時が終わりの時だ。アタシ達が貴様の前に現れるその時まで、余生を楽しむんだな!……貴様は滅殺だ。」

『滅殺か……楽しみにしているよ夏姫君。』

「ほざけ!」


だが、其れが如何したとばかりに、SEEDに覚醒した夏姫、刀奈、一夏、鈴、箒、マリア、静寐は教授が用意した入り口に向かって行き、入り口に設置されて
いたエネルギー障壁を楽々突っ切ってアーク・ジェネシス内部に到達!


「……機体が解除されているだと?」

「此れも、アーク・ジェネシスの機能なのかもな。」


だが、内部に入った途端に機体が強制解除されて待機状態に戻ってしまった――此れも教授が開発した何かの効果であるのだろうが、その程度の事で
は驚く夏姫達ではない。


「だが、其れが如何しただ。
 教授が何をやってるのかは知らないが、ISを動かす事が出来ないからと言って慌てる私達ではない――ISが使えないのならば使えるモノを全力で使用
 するだけの事だ。」

「だよな……行くぜ、夏姫姉!!」

「無論その心算だ……行くぞ一夏!」


すぐさま思考を切り替えて教授の撃破に集中する――とは言え、此処は敵の本拠地とも言えるアーク・ジェネシスの内部だ。なので一切合切油断は出来な
いのだが、IS学園を代表する実力者が居るのならば大概の事はどうにかなるだろう。
そして、夏姫を始めとした七人のSEED覚醒者は、アーク・ジェネシスに乗り込む事が出来た――此処からが、真のラスボス戦と言った所だろう。








――――――








Side:束


スーちゃんが連れ帰ったこの子――なっちゃんと同じ計画で生まれたって言う事だけど、その見た目はなっちゃん其のままだったから、流石の束さんでも、
思わず驚いて心臓が口から飛び出すかと思ったよ。
まぁ、其れは兎も角として、此の子が此処に居るって事は、なっちゃんはイルジオンを殺さずに撃破したという訳か……感心感心だね。
見た感じ可成りボロボロだけど、致命的なケガはないから此れなら治すための時間も大幅に短縮できるしね……君は本当によく頑張ったよイルジオン。
だから今度は、私の番だ。

教授……私とちーちゃんに白騎士事件を起こさせたのはお前なんだろ?――だから、覚悟しとけよこのクズ野郎……お前には、最悪クラスの地獄を見せて
やるからね!!
そして後悔すると良いさ、束さんとちーちゃんをにあんな事をさせた事をね……覚悟しておけ!オマエには最大レベルでの無様な『死』を用意してるからね。
天災と世界最強に喧嘩を売った代償を、今此処で払って貰う!逃げようたって逃がさない……キッチリと耳を揃えての一括払いだ!
払えないのなら、強制的に搾取するだけさ――精々束さんに喧嘩を売った事を後悔するんだね教授……否、私が学界にISを発表した際に、唯一その有効
性を認めてくれた科学者である、ジョージ・ワイズマン!
お前の事は必ず滅してやるから、その時を楽しみにしてるが良い……アタシと会ったその時が、アンタの人生のピリオドだって言う事を忘れるなよ――まぁ
何にしてもお前達はもうお終いさ。
なっちゃん達がアーク・ジェネシスの内部に入る事が出来たみたいだからね――先ずはなっちゃん達に任せるのが当然だね……なっちゃんはきっと勝つっ
て信じてるからさ!
そして待っていろ教授、アンタの目的が何であるのかは知らないけどその目的が成就される事は絶対に無いよ、だってアンタは此処で死ぬんだからね。
今はその時が訪れるのを待ってると良いさ――そして教えて上げるよ、君では束さんに勝つ事は出来ないってね!――其れを骨の髄まで叩き込んであげ
るからね!
まぁ、何にしても此れが最終章だろう教授?私も参戦するから、覚悟しとけよこのクズ野郎が!!!













 To Be Continued… 





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