Side:刀奈


アーク・ジェネシスを落とそうと思った所で現れたのは夏姫になれなかったイルジオンと、一夏君の成り損ない達か……イルジオンは夏姫が相手になるとし
て、君達の相手は私が務めてあげるわ、一夏君の劣化品君達?



「俺達がアインの劣化品だとぉ?舐めた事言ってると痛い目見るぜぇ更識楯無ぃ!!」

「ん~~~……君みたいな子に軽々しく名前を呼んでほしくないなぁ?」

「此の状況でも余裕とは……流石は更識の頭首と言った所か?だがな、たった一人で俺達三人の相手が務まると思ってるのか?量産型の俺達じゃあ姉
 上様には劣るのかもだが、俺達だって織斑計画で生まれた最強の人間なんだぜ?」

「つまり、俺達が貴女に負ける事はない……此処で狩らせて貰う。」

「最強の人間、ね……最強の成り損ないの間違いでしょう?日本語と言うモノは正しく使わないとダメよ?
 何なら戦う前に、お姉さんが正しい日本語の授業をして上げましょうか?IS学園の生徒会長に勉強を教えて貰うなんて、滅多に出来る経験じゃない訳だ
 し、今なら序にISの訓練もしてあげるわよ♪」

――【特別授業♪】



「俺達が、最強の成り損ないだと……知った風な事言うんじゃないぜ!」



いや、実際に知ってるから言うのだけれどねぇ?と言うか、京都の時に完敗してるの忘れちゃったのかしらこの子達は?……教授ってのが、記憶を消去し
た可能性もあるけれどね。
君達もきっと色々強化されて、あの時よりは強くなってるのだろうけど、私だってあの時よりもずっと強くなってるし、ドレだけ強化されたとしても、君達じゃあ
一夏君には遠く及ばない……其れじゃあ私に勝つ事なんて出来ないわ。
IS学園における、更識楯無不敗伝説は今もまだ続いているのだから。



「つまりアインはテメェに勝った事がねぇってか?だから、俺達も勝てないって?そりゃあくまでもサシの勝負ならって前提付きだろうがぁ!三人相手にして
 勝てる訳がねぇだろうがよぉ!!」

「残念だけど、私って最大で六人相手にしても勝った事があるのよねぇ?だからその半分の数なんて余裕って感じじゃない?
 其れと、彼はアインじゃなくて蓮杖一夏。名前すら与えられなかった貴方達とは全く異なる存在だと言う事を認識しなさい……さて、お喋りは此処までして
 掛かって来なさい?」

「上等だ、やってやる!」



相手はバスター、デュエル、ブリッツをベースにした機体……バスターは元々砲撃型だったけど、デュエルも火力重視に改造されているみたいね?オリジナ
ルではオプション武装だったゲイボルグが標準装備になってるみたいだし。
逆にブリッツはゴールドフレームと略同じ装備であるのを見ると、メインとなるのは近距離戦闘……ミラージュコロイドステルスには注意が必要だけど、既に
姿を見せている訳だから戦闘中に使われても見失う事はない――と言うか、常に張り付いていれば発動すらさせる事は無いわね。
……戦力分析完了、私が負ける要素は何処にも無い。そして君達が勝つ要素も何処にも無い。京都の時と、大して変わってないみたいだし。
IS学園生徒会長にして、更識家頭首、第十七代更識楯無の力、その身を持って存分に味わうと良いわ。











Infinite Breakers Break115
激闘!乱闘!!超絶大乱闘!!!』









No Side


先に仕掛けたのは、ツヴァイとアハトのヘイルバスターとレーゲンデュエルだ。
ヘイルバスターは高エネルギー収束火線ライフルと35mmガンランチャー、六連装ミサイルポッド、ミサイルポッドカバーの裏の大口径バルカン砲と、搭載さ
れた火器を全開にして放ち、レーゲンデュエルもゲイボルグとビームライフルを連射して刀奈を攻撃する。


「狙いは正確だけど、正確なだけの射撃ほど読みやすいモノはないし、ミサイルの弾幕にしても、簪ちゃんの悪魔の様なミサイル弾幕と比べたら全然マッタ
 ク大した事は無いわ。」


圧倒的な火力に晒されても、刀奈は眉一つ動かさずに、頭部のバルカン砲でミサイルを迎撃すると、ビームやレールガン、リニアキャノンの攻撃を楽々躱し
ながら、シールドからフラッシュエッジビームブーメランを取り出して投擲し、レーゲンデュエルのビームライフルを破壊する。
更に流れるような動きでビームライフルを放ち、ヘイルバスターのミサイルポッドカバーのバルカン砲も破壊し、同時に誘爆でミサイルポッド其の物も破壊。


「馬鹿な!?」

「こうも簡単に俺達が被弾するだと!?」


ツヴァイとアハトは予想もしていなかった事態に驚く……本人達の予想では、初手の大火力攻撃で落とせると思ったのだろう。仮に落とす事が出来なかっ
たとしても大ダメージを与える事は出来ると思ったのは間違いない。
しかし蓋を開けてみれば、ダメージを与えるどころか、逆に自機の武装を破壊される始末。其れも、此方の攻撃を迎撃、回避された上でだ。
尤も、刀奈自身が言っていたように、正確なだけの射撃ほど読みやすいモノは無いので、刀奈からすればこの程度の攻撃を迎撃、回避するのは朝飯前で
しかない。――と言うか、普段から夏姫とマリア、時には箒も加えたドラグーンの集中砲火を回避する訓練をしている刀奈からしたら、全ての攻撃が正面か
ら来ると言うのはイージーモードを通り越しているのだ。
なので――


――バチィィィ!!


「んな、この攻撃に対応するだと!?」

「火力重視の二機のフルバーストをやり過ごした私に、近距離型の君が奇襲攻撃を掛けて来る事なんてのは織り込み済み……腕前は予想よりも悪くない
 みたいだけど、悲しいかな実戦経験が圧倒的に不足しているわ!」


奇襲して来たネブラブリッツの攻撃をビームシールドでガードし、カウンターの蹴りで左腕に搭載されたグレイブニールを破壊する事も造作もない。最大で三
十三基ものドラグーンの攻撃を回避する訓練をしている刀奈は、防御面での空間認識能力が滅茶苦茶高くなっており、多方向からの攻撃に対しての反応
速度が半端じゃなく高いのだ。
故に予想済みの奇襲は奇襲に非ずなのである。


「本当の戦い方と言うのが如何言うものか、特別にレッスンしてあげるわ。
 感謝なさい?IS学園の生徒会長が直々にレッスンしてあげるなんて事は、早々ある物じゃないのだからね。」


――パリィィィィィン!!


意識を集中してSEEDを発動すると、ビームサーベルを連結させたアンビデクストラス・ハルバードを展開し、ネブラブリッツに斬りかかるが、その斬撃の速さ
は凄まじいの一言に尽きるだろう。
刀奈は以前の使用機体であるミステリアス・レイディを使っていた頃からランスによる近接戦闘を得意としていたのだが、ジャスティスを使うようになってか
らは、其れに更に磨きが掛かっていると言える。
特にビームサーベル二本を連結させたアンビデクストラス・ハルバードは刀奈に合っていたらしく、刀奈自身もこの形態を愛用している。
普通は柄の両方に刀身が備えられているツインブレードの武器は使い勝手が良いモノではないのだが、刀奈はこの武器の特性を理解しており、実に見事
に使い熟しているのだ。


「ぐ……速い!此の俺が、防ぐので精一杯だと……そんな馬鹿な!!」

「如何したの?君達は最強の人間なんでしょう?だったらこれ位の攻撃は何とかして見せなさいな……少なくとも一夏君だったら、エクスカリバーの二刀流
 で対処して見せるわよ?
 あぁ、一夏君に出来るからと言って君達も出来ると思うのは間違いだったわね……君達は所詮一夏君になる事の出来なかった失敗作でしかないのだも
 のね?
 一夏君の戦闘力……いえ、織斑計画的には此処は超人強度で表わすべきかしら?兎も角、一夏君の超人強度が8000万パワーだとした場合、君達の
 超人強度はドレだけ高く見積もっても90万パワーが限界でしょう?それも火事場のクソ力無しのね。
 其れじゃあ私に勝つ事なんて出来ないわ……私の強さを超人強度に換算したら9000万パワーは下らないもの。因みにそれは夏姫もね。
 そして現役復帰した織斑先生の超人強度は神々もビックリの1億5千万パワー……量産型だからワンオフな織斑先生に劣るのは仕方ないのかも知れな
 いけど、量産型の成功例である一夏君と比べても、所詮十分の一程度の力しかないのだからね君達は。
 弱い者いじめは好きじゃないから、出来ればここらで自主的に撤退して欲しいかなぁなんて思ってるんだけど、戦う事しか出来ないお馬鹿さんには望むだ
 け無駄だったかもしれないわね?
 ごめんなさい、無理な事言って悪かったわ。」

――【謝罪】


其れに加えて、刀奈は弁が立つ。
更識家の頭首にしてIS学園の生徒会長と言う肩書を持つ刀奈は、本人の意思は如何あれとも、政治的な彼是の矢面に立つ事も少なくないので、そう言っ
た場面で言い負かされない様に訓練した結果、『IS学園で生徒会長に弁舌で対抗するのは無理であり無謀』、『下手に何か言おうモノなら、其れが十倍に
なって返って来る』、『飄々とした態度で毒吐かれるとダメージがデカい』と言われる程になっているのだ。
正論だけではなく、時には暴論をも交えて相手のペースを崩し、更には神経を逆撫でまでするのだから恐ろしい事この上ない……『人をおちょくる事』に関
しては、IS学園で刀奈の右に出る者は居ないだろう。
今だって、右手にはアンビデクストラス・ハルバードを握りながら、左手は人差し指をクイックイと動かして『掛かって来な』と言わんばかりの仕草……ぶっち
ゃけムカつく事この上ない事をやってくれているのだ。


「掛かって来なさいな……其れとも、私が怖いのかしら?」


更に刀奈は、人差し指だけでなく、左の手首全体を使って手招きして煽る。煽り運転は犯罪だが、戦場で敵を煽るのは極めて有効な手段だ――煽られて
冷静さを欠いた敵は、カモでしかないのだから。
因みに相手は三人なので、カモの他にネギと鍋でも良いかも知れない。


「だ、誰がテメェなんぞを恐れるかぁ!!」

「ぶち殺す……覚悟しろ更識楯無!」

「テメェは殺す!滅殺だ!!」

「滅殺ね……その言葉を使うなら、殺意の波動に目覚めて、鬼のような激しい形相になって、身体をガチムチに鍛え上げて、年季の入った紫の胴着を着て
 からにしなさいな。」


其処からは刀奈の独壇場だった。
相手が三人である事をものともせずに、アンビデクストラス・ハルバードを使った近接戦闘でネブラブリッツを圧倒し、ファトゥム-01を分離した攻撃でヘイル
バスターとレーゲンデュエルを攻撃して、確実にダメージを与えて行く。
誤解の無いように言っておくと、ツヴァイ、ツィーン、アハトが弱い訳ではない――仮にも織斑計画の『量産型の織斑千冬』として生み出された彼等は量産
型の唯一の成功例である一夏に比べれば能力は劣るモノの、並の人間と比べれば超人と言っても良い位の能力を有してはいるのだ。
加えて、ヘイルバスター、レーゲンデュエル、ネブラブリッツも、束が開発した『対IS用IS』の初期シリーズをベースとしているとは言え、性能的には『GATセカ
ンドシリーズ(フォビドゥン、レイダー、カラミティ)』に匹敵する一線級の機体だ。
で、あるにも拘らず普通の人間である筈の刀奈に一方的に蹂躙されているのだ……否、スーパーヒューマンである夏姫と互角に戦える刀奈を普通の人間
とカテゴリして良いのか若干迷う所ではあるが。
此れはもう、刀奈が束と同様に『突然変異的に生まれた、天然の超人タイプ』であるとしか言いようが無いだろう。……束さんとタメを張る天然超人って、何
それ怖い。流石は夏姫の彼女、モノが違うぜ。


「随分と楽しそうじゃないか楯姉さん。私も混ぜてくれないか?不出来な兄の始末を手伝っても良いだろう?」

「あら、其れは大歓迎よマドカちゃん♪」


此処でマドカが参戦し、状況は更に刀奈が有利になる。
量産型ではなく、千冬のスペアとして生まれたマドカの基礎能力は当然ながら量産型(量産型完成形の一夏は除く)よりも高い……そんなマドカが参戦し
たら、刀奈一人にキリキリ舞いだったツヴァイ、ツィーン、アハトが更に追い込まれるのは火を見るよりも明らかだろう。


「くっそ!このバカIS、もうパワーがヤバい!!」

「またかよ?前々から言ってんだろ、お前はドカドカ撃ち過ぎなんだよバーカ!少しは学習しろよな?」

「るせぇ!砲撃型の機体にもっと容量のデカいバッテリー積んどかねぇのが悪いんだろうが!……ったく、教授は大切な所でミスりやがる!!」

「いや、其れでも考えて撃てよ。俺等の機体エネルギーは有限なんだからさ……イルジオンの機体を除いてだけどな。」


攻撃を受けていた機体の内、砲撃型であるヘイルバスターは如何やら機体のパワー残量が少なくなって来たらしい。
教授が開発した機体も、シールドエネルギーとは別に、戦闘用の稼働・攻撃用のエネルギーとして大容量のバッテリーが搭載されているのだが、小型の核
融合エンジンとは違って、そのエネルギーは有限だ。なので、バスターの様なエネルギー喰いの機体がドカドカ撃てば、そりゃエネルギー切れが早くなるの
は当然の事。
一応母艦のドミニオンから遠隔充電は可能だが、此の状況では其れも難しいだろう。
因みにだが、イルジオンのジェノサイドフリーダムだけには小型核融合エンジンが搭載されているのだが、此れはイルジオンを特別扱いしていると言う訳で
は無く、ジェノサイドフリーダムをバッテリー稼働にした場合、バラエーナを一度使っただけでエネルギー切れを起こす為、搭載したに過ぎないと言う訳だ。


「あらあらエネルギー切れ?駄目よ、機体エネルギーは計画的に使わなきゃ。ところで、少し蒸し暑くなったと思わない?」

「蒸し暑く、だと?」

「なんだお前等、湿度を感じないと言うのか?鈍感だな。」

「湿気を感じないからって、だったらそれがどうした!!」

「蒸し暑いならテメェが蒸し焼きになれ!!」

「はぁ……分からないのね。はい、ドカン。」



――ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!



更に此処で、刀奈は必殺のクリア・パッションを発動!如何やら戦いながらナノミストを散布して準備をしていたらしい……この抜かりの無さは見事であると
言えるだろう。
この一撃でツヴァイ、ツィーン、アハトを纏めて吹き飛ばす……だけではなく、近くにいたグフとライゴウをも巻き込んで大ダメージを与えて鎧袖一触!
ヘイルバスター、レーゲンデュエル、ネブラブリッツとライゴウは何とか無事だったが、グフはこの一撃で約一割が撃滅された……水蒸気爆発はガチの本気
でおっかねぇです。


「蒸し器に入れられた肉まんやシュウマイの気分は味わえたか?蒸されると同時に爆発したがな。」

「水蒸気爆発にはご注意をってね。
 それにしても、圧倒的な力で敵を蹂躙するって言うのも悪くないわねぇ?なんだか、病みつきになっちゃいそう……フフフ……アハハハハハハハハハ!」


クリアパッションを喰らって落ちて行くグフを見ながら高笑いをする刀奈……その姿は何処をどう見ても200%悪役だった。頑張れダークヒーロー刀奈。








――――――








刀奈が一夏の成り損ない達を相手に無双していた頃、夏姫はイルジオンとの戦闘を繰り広げていた――スーパーヒューマン計画で生み出され、片や普通
の人間として生きる道を選び、片や其れを妬む者と言う戦いだ。


――バチィィィ!!


先ずは互いにビームサーベルで斬り合い、そして超近接距離でビームシールドを付き合わせる形となり、ビームシールドが触れ合った場所からはバチバチ
と火花放電が起こっている。
普通ならば火花放電に驚いて距離を取るところだが、夏姫もイルジオンも驚くどころかその状態のまま力比べを開始――互いに相手を押し切ろうとしようと
も、力が完全に拮抗している事で其れは難しいようだ。


「ちっ……!」

「ふん……!」


此のままでは埒が明かないと判断したのか、互いに左腕を振り払って距離を取り、其処から再び接近し、夏姫は突きを、イルジオンは斬り下ろしを繰り出す
が、今度は互いに其れをビームシールドでガードする。
だが、今度はそこで膠着せずに、ビームサーベルでの剣戟に発展し、夏姫は二刀流、イルジオンは二刀を連結させたアンビデクストラス・ハルバードと、異
なるビームサーベルの使い方で高速の剣戟を行う。

その剣戟のレベルは非常に高く、刀奈レベルでなければ何が行われているかすら分からないだろうが、そんな剣戟を行っている夏姫とイルジオンが得意と
しているのは射撃と砲撃なのだから恐ろしい事この上ない。
……要するにこの二人は、やろうと思えば近接戦闘でも並の相手を圧倒出来ると言う事だ。スーパーヒューマンの名は伊達ではない。


「正直に言って驚いたぞイルジオン……まさか、此処までとは思っていなかった。
 アタシがスーパーヒューマン計画における唯一の成功例だど?……アタシと互角に遣り合えるお前を切り捨てるとは、計画に携わった連中は余程見る目
 が無かったとしか言いようがないな?」

「科学者と言うのはより良い結果と言うモノを欲するものと言う事だ。
 私は連中が望む結果を満たしてはいたが、新たに誕生したお前は、連中の望む結果以上の結果を持って居た……だから、私はお役御免となって捨てら
 れた訳さ。」

「そうは言うが、多分アタシとお前の間に能力の差はないと思うぞ?
 分かり易くカードゲームで説明すると、アタシとお前は同名カードで強さは同じだが、恐らくレアリティが違う程度の差しかない……其れもシークレットレア
 かエクストラシークレットレア程度の差だ。」

「略互角か……だが、其処には明確な差があるのは事実だ。だからこそ、私は捨てられたのだからな!」


夏姫の逆手の斬り上げと、順手の斬り下ろしを、イルジオンはアンビデクストラス・ハルバードの両刃でガードすると、其れを強引に回転させて二刀を弾き、
そして前蹴りで夏姫を蹴り飛ばす。
この攻撃には夏姫も驚いたが、其れでも冷静にビームシールドを展開してダメージを防ぐ……流石に蹴りの勢いを殺す事は出来なかったので、三度イルジ
オンとの距離は離れてしまったのだが。


「だからこそ私はお前が憎い、妬ましい。だから殺す。僅かな差で成功例と言われたお前を殺して、私が真の成功例になるんだ!」

「……アタシが誕生したから、お前は歪んでしまった訳か。
 ならば、アタシはとことんまでお前に付き合う義務があるわね……良いだろう、姉の望みに付き合ってやるのも妹の務めと言えるから、気が済むまでやっ
 てやる。
 来いよ姉さん、不肖の妹が相手になってやるわ。」

「そうだ、それで良いんだオリジナル!
 スーパーヒューマンの成功例は二人もいらない……私かお前か、そのどちらかだけだ!それを此処で決めてやる!」



――バババァン!



今度は互いにドラグーンを展開し、両手にビームライフルを持っての中距離以上の戦い方に、夏姫とイルジオンの本来の戦い方にシフトし、戦場には夥しい
数のビームが飛び交う。
夏姫、イルジオン共に、機体本体に搭載された火器は、二丁のビームライフルと腹部のカリドゥス、腰部の電磁レールガン二門、背部のバラエーナ二門で、
其処に十機のドラグーンが追加される訳だが、夏姫のエターナルフリーダムのドラグーンは、束の手によってスーパードラグーンからハイパードラグーンに
魔改造され、搭載されているビーム砲塔が二門に強化されている。
つまり、夏姫は単機で二十七もの火器を搭載しており、イルジオンも十七の火器を搭載している事になる訳で、そんな『動く火薬倉庫』と言っても、過言でじ
ゃない二機が本気を出したら誰も近付く事の出来ない戦場の出来上がりだ。
火力で言うのであれば、ドラグーンのビーム砲塔が多い夏姫に分があるが、ジェノサイドフリーダムのドラグーンは、ビーム砲塔こそ一門だが、此方にはビ
ームエッジを展開して刺突武器として使える機能がある為、総じて戦えば五分と言った所だろう。


「てぇぇぇいぃ!!」

「させるか!!」


イルジオンが腹部のカリドゥスを撃てば、夏姫も腹部のカリドゥスを放って其れを相殺し、二丁ビームライフルとドラグーンで攻めれば、イルジオンもビームラ
イフルとドラグーンで対応し、互いにクリーンヒットを許さない。
否、クリーンヒットを許さない所か、夏姫もイルジオンも、戦闘が始まってこの方、互いの攻撃は掠ってすらいないのだ……幾ら何でも有り得ねぇだろ、普通
に考えたら其れは。
だが、夏姫もイルジオンも普通じゃない。だって、どっちもスーパーヒューマンなのだから、此れ位の戦闘で被弾ゼロなんてのは割と余裕だ。余裕のよっち
ゃんイカだ。……駄菓子としては、よっちゃんイカよりもBigカツとうまい棒の方が好きです。特にうまい棒のめんたいと納豆は神……だがサラミ、テメーは駄
目だ!召喚士は通す、ガードも通す、キマリは通さない!ってレベルで駄目だ。アレの何処がサラミやねん。
まぁ、そんな事は如何でも良い事であるが、夏姫とイルジオンの戦いは加速し、夏姫とイルジオンのドラグーン操作によって、この二人の戦場は『ビームの
結界』とも言うべきものが形成されており、外部からこの戦いに干渉するのは略不可能となっていた。
本人達にその意識があったかどうかは分からないが、この場は夏姫とイルジオンが完全決着を付ける場所になっていたのである……或いは、同じ遺伝子
であるが故に、考える事は同じだったのかも知れない。


「こんな物じゃないだろ?本気を出せよ姉さん。」

「その言葉、そっくりそのまま返すぞオリジナル……見せてみろよ、私を超えた其の力と言うモノをな。」

「上等だ。」


そして恐るべきは、此れでも夏姫もイルジオンもまだ本気ではなかったと言う事だ……だとするならば、夏姫とイルジオンの本気とはどれ程なのか、想像す
ら出来ないレベルだ。
だが、確実に此処から先は人外の超人バトルになるのは間違い無いだろう。








――――――








刀奈がヘイルバスター、レーゲンデュエル、ネブラブリッツを圧倒し、夏姫がイルジオンとのバトルを演じていた頃、他の戦場でも激しい戦いが続いていた。


「オラオラオラァ!如何した、こんな物なのかよライブラリアンってのはよぉ?……だとしたら温い、温すぎるぜぇオイ!
 この程度じゃ俺は満足出来ないぜオイ……つーかよ、テメェ等みたいな糞弱いのと戦うってのは心底ムカつく上にストレスが溜まって仕方ないぜ……戦
 場出てくるなら、もうちっとマシな実力を身に付けてこいや雑魚が!!」

「ふ、気が合うなオータム?……私も今、マッタク同じ事を思っていたよ!」


その戦場に於いて、千冬とオータムのコンビは正に無敵で最強であり、倒した敵の数は、有人・無人を問わずIS学園側トップとなっている。世界最強と亡国
企業最恐は伊達じゃない。
千冬はガーベラストレートとタイガーピアスの二刀流、タクティカルアームズの大剣、トンファーブレードを見事に使い分けてライブラリアンの機体を斬り落とし
て行き、オータムは右手でビームライフル、左手でアグニを操りながら、右肩のシヴァ、左肩のミサイルポッドを連発して敵を爆殺しながらも、近付いて来た
相手はシュベルトゲベールでぶった斬る。
この二人は正に鬼神と言えるだろう。だって、マジで鬼強いし。

勿論活躍しているのはこの二人だけではない。


「此れで……落ちて!!」

「こっから先は通行止めさ。悪いけどね!」


簪はバスターの火力を全開にして次々と敵機を撃破し、グリフィンはセイバーの機動力を生かした中距離戦で的確に敵機を駆逐して行き、アーク・ジェネシ
スから新たに出撃して来たグフは確実にその数を減らして行く。
否、グフだけではない。
有人機のライゴウも、レイダーのスーパーミョルニルで爆砕され、フォビドゥンのデスサイズによって切り裂かれ、ドゥルガージャスティスに蹴り壊され、ラウラ
率いる黒兎隊と、真耶率いる教師部隊によって数を減らして行く。
中でも絵面的に凶悪なのはレイダーのスーパーミョルニルだろう……何だって束はトゲ付き鉄球なんて原始的な武器を搭載したのか――その大きさ故の
破壊力のおかげで、PS装甲に対しても其れなりのダメージを与える事が出来るので性能的には問題ないが。……束的ロマンだったのかも知れない。

とは言え、IS学園側だって被害がゼロと言う訳ではない。
教師部隊や黒兎隊の中には、被弾して補修の為にアークエンジェルに帰投する者も居るし、無人機のアストレイも何機かは落とされている――その原因と
なっているのが、アーク・ジェネシスだ。
ミーティア級の火力を備えた移動要塞から放たれる攻撃は強烈無比で、大口径のビーム砲は兎も角、電磁レール砲やミサイル、小口径のビームは威力で
劣る分連射が効く為、矢継ぎ早に放たれているのだ。
其れを全弾回避するのは如何にIS学園の精鋭と言えども無理と言った所だろう。


「ん~~……やっぱあれを何とかしなきゃいけねーよね?つほちゃん、なっちゃんとたっちゃんと連絡取れる?」

「ダメです、お嬢様とも夏姫さんとも通信繋がりません。さらにフリーダムとジャスティス、テスタメントのシグナルロスト、状況混乱!」


その状況を打開しようと、アークエンジェルのブリッジでは、束が夏姫と刀奈に連絡を取ろうと試みるが、オペレーターの虚から返って来たのは、通信不能と
シグナルロストの報告。
まぁ、此れだけ乱戦となっている戦場では、戦況把握が混乱するのも無理はないだろう。


『私がアーク・ジェネシスに行きます!』

「しずちゃん?」


そんな状況でアークエンジェルに通信を入れ、自らアーク・ジェネシスに向かうと言って来たのは静寐だ。夏姫と刀奈と連絡が取れない今、自分が行った方
が良いと判断したのだろう。


「私も一緒に行くわ静寐。」

「マリア……うん、一緒に行こう!アストレイ一個小隊も付いて来て!」


其処にマリアが合流し、更にアストレイ一個小隊に付いて来るように指示を飛ばし、一路アーク・ジェネシスに向かう――進路上にいる敵も、ブラストカラミテ
ィの火力と、プロヴィデンスのドラグーンの前には大した問題にならないだろう。


――パリィィィィィン!


その道中で、静寐とマリアの中で何かが弾ける感覚が起こり、一気に思考がクリアーになる……鈴と箒に続き、静寐とマリアもSEEDの覚醒を果たしたのだ
ろう。……SEEDのバーゲンセールじゃないかって?超サイヤ人や火事場のクソ力のバーゲンセールや、戦闘力や超人強度のインフレに比べりゃ可愛いモ
ンだと思います。


「道を開けろぉぉぉぉ!!」


SEEDが発芽した静寐は、ブラストカラミティからザンバーカラミティに換装すると、レーザーブレード対艦刀バルムンクをトンファーブレード状態にして次々と
敵を両断していく。
ライブラリアンからしたら、それは正しくカラミティ……厄災以外の何物でもなかっただろう。








――――――








Side:夏姫


アタシもイルジオンもドラグーンを展開しての超多角的戦闘を行ってるんだが、矢張りイルジオンは強いな……スーパーヒューマン計画に携わった連中は、
此れでイルジオンをアタシに劣ってると判断したと言うのか?だとしたら目が節穴すぎるわね。
イルジオンがアタシに劣っていると言うのならば、既に勝負は付いている筈なのに、今もこうして決着が付いていないと言うのは、其れだけアタシ達の力が
拮抗している証拠だからね。

「イルジオン、アタシを殺して真の成功例になると言っていたが、其れはアタシを殺してお前がアタシになると言う事か?」

「そうだ……お前さえいなければ、私は唯一の成功例で居られた!
 其れだけじゃない、お前が生まれなければ更識に保護されたのは私であり、蓮杖の家に預けられるのも私だった……お前が今手にしている物は、私が
 手にしていたかもしれない物だ!お前さえ生まれなければ!!」

「確かにそうかも知れないが、だが違う!」

「なに?」



確かにアタシもお前もスーパーヒューマン計画で生み出され、そして全く同じ遺伝子を持っているが、其れでもアタシとお前は違う人間だろう?一卵性の双
子だって、違う人間なのだからね。
だから、アタシを殺してもお前はアタシにはなれない。アタシはアタシで、お前はお前なのだからな。



「私とお前は違うと言うのか!?」

「当たり前だろう?
 命は何にだって一つだ。だからその命はお前だ、アタシじゃない!」

何よりも、本当にアタシが憎くて、殺したくてしょうがないのならば、京都でのお前の行動には矛盾があるんだイルジオン……アタシを殺したいのならば、如
何してシネマ村でアタシの事を殺さなかったんだ?
お前ほどの実力があるのなら、やろうと思えばやれた筈だ……其れこそ、アタシを殺す事が目的なら、周囲の目など気にしないだろうからな。
だがお前はアタシを殺そうとはしなかった……何故だ?そもそも、殺したいほど憎い相手とシネマ村を一緒に回ろうとは思わない筈じゃないか……何故、お
前はアタシ達と一緒に行動したんだ?



「其れは……何故だ?如何して、私は……?」

「……気付いてなかったみたいだな。
 お前はアタシを殺してアタシになりたかったんじゃない……お前は、普通の人間として、普通に生きたかったんじゃないのか?だから、シネマ村ではアタシ
 を殺そうとはせずに楽しんだんじゃないのか?
 だが、ライブラリアンに居る現状で、普通の人間として生きる事は出来ない……本能的に其れが悲しかったから、お前は別れ際に涙を流したんだ!」

「私は……普通の人間として生きたかっただと?」



あぁ、きっとそうなんだ。
だから、もう終わりにするんだイルジオン……お前が一歩踏み出せば、お前の望む物は手に入るんだぞ?――あの腐れ外道の教授に義理立てしなくても
良いじゃないか?
其れにな、この戦いで分かってしまったんだ……アタシを殺すと言っているのに、お前の攻撃からは一切の殺気を感じない――それどころか、アタシに対し
て攻撃する事を何処か躊躇ってる感じがするのをな。
……お前、本当にアタシを殺したいのか?実は、そうじゃないんじゃないのか?



「私は……私は……私はお前を……違う、私は……そうだ、私は……妹が欲しかった?……連中は私を失敗作として斬り捨てた?……違う、彼等は私の
 望みを……妹を……」



何だ?なんだか様子がおかしいぞ?
妹?イルジオンの望み?如何言う事だ?



『おやおや、思った以上に苦戦している様だねイルジオン?』

「教授……?」

「教授とやらか……何用だ?生憎と、アタシとイルジオンは暇じゃないんだがな。」

『ふむ、私が思っていた以上に気が強いらしいな、蓮杖夏姫君……だが、その性格は好ましい。
 貞淑な女性も悪くはないが、私としては勝ち気で少々男勝りな女性の方が魅力的なのだよ……そう言う意味では、篠ノ之箒君と凰鈴音君も私的には直
 球ドストライクゾーンだがね。』




いい歳したオッサンがJKに熱上げるとか普通に犯罪だな……取り敢えず通報しておいた方が良いかも知れないが、何をしに現れた、このマッドサイエンテ
ィスト?
束さんは正義のマッドサイエンティストと言うか、実は超絶シスコンの愉快な人だから良いとして、お前の様な腐れ外道で悪党のマッドサイエンティストはお
呼びじゃないから帰れ。そして二度と戻って来るな。



『此れは実に辛辣だが……私はイルジオンに用があってね。
 ククク、駄目じゃないかイルジオン、敵の言葉に絆されそうになっては……君は君の本来の目的を果たしたまえ――そう、蓮杖夏姫君を殺すのだよ!』


「殺す?オリジナル……妹を?」

『おやおや、少しばかり迷いが生まれてしまったのかな?
 ならばその迷いは私が消してあげよう……この力でね!!』




『Berserker System Forced activation.』



「此れは……教授、お前私の機体にも……!!……うぐ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!?」

此れは……イルジオンのジェノサイドフリーダムの黒くなかった部分までも漆黒になって、ツインアイが真っ赤になった?……明らかに何かあったのは間違
いないが、教授、貴様何をした?



『なぁに、秘密裏にジェノサイドフリーダムに搭載していたバーサーカーシステムを強制発動しただけさ。
 本来はシールドエネルギーがゼロになった時に発動するシステムなのだが、其れを強制的に発動してイルジオンには狂戦士になって貰っただけの事だ
 よ、君を殺す為にね。
 ククク……因みにバーサーカーシステムは発動したが最後、ターゲットを抹殺するか、発動者が死ぬまで解除される事はない。
 まぁ、精々狂戦士化した自分との戦いを楽しみたまえ。』




この腐れ外道、イルジオンの意思を無視してそんな危険なシステムを強制発動したと言うのか!?しかも、アタシが死ぬか、イルジオンが死ぬ以外に解除
の方法はないって、本気で最悪だな貴様……反吐以下の外道とは貴様の事だな。
だが、其れ程の外道ならばアタシも躊躇せずに討つ事が出来るから、其処だけは安心したよ――とは言っても、貴様を討つ前に暴走したイルジオンを何と
かしなくてはならないか。



「うぐあぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「無理矢理狂わされて、苦しいよな……その苦しみを、今終わらせるよ姉さん。」



――キィィィィン

――パリィィィィィン!!




アタシは死なないし、お前の事も死なせない!
アタシもお前も生きて、そして狂戦士から解放する……そして、姉さんを解放した後は覚悟しておけよ教授――貴様は滅するだけは足りん。肉体だけでなく
魂までも完全に滅してやる。

だが、先ずはお前からだなイルジオン……来い、その苦しみから救ってやる。必ずな!!













 To Be Continued… 





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