バレンタインデーも無事に終わり、バレンタインデー後の二回目の日曜日に、千冬と稼津斗の結婚式が行われていた。
バレンタインデーに稼津斗が千冬にプロポーズして婚約状態となったのだが、其処からはマッハの動きで織斑家と澤家の顔合わせやら結納が行われ、プロポーズをしてから二週間と言う極めて短い時間で結婚式が執り行われる事になったのだった。
普通ならば有り得ない位のスピードなのだが、千冬は結婚してもIS学園の教師を続ける予定であり、稼津斗も千冬がIS学園の教師を務めている間は今の生活を続ける気満々で、また直ぐ国外へ行ってしまう可能性があるので速攻で結婚式を行う事にしたのだ。
その結果として海外赴任中の織斑夫妻は急遽仕事を片付けて帰国する事になると言う、一種のドタバタ劇が行われてしまったのだが、娘の結婚式に不参加等と言う事になったら後悔どころの騒ぎではないので、此れはまぁ仕方のない事であると言えよう。


「千冬姉、『馬子にも衣裳』とは言わないけど、意外に似合ってるじゃないか?」

「意外は余計だぞ一夏?」

「悪い悪い、千冬姉って教師の時のスーツ姿とか、体育や実技の時のジャージのイメージが強くてさ。
 プライベートでも、カジュアルって言うかスポーティーな格好が多いだろ?だからその、何て言うかさ……予想以上に似合ってたから少し驚いた。今の千冬姉を見たらカヅさん惚れ直すんじゃないか?」

「ふ、其れは其れで良い気分ではあるな。」


新郎の控室では、ウェディングドレスに身を包みメイクとヘアーセットも終えた千冬が一夏と話をしていた。……因みに織斑夫妻は、千冬のウェディングドレス姿を見ただけで感極まって泣き出してしまったので、一夏の嫁ズによって退室させられている。ウェディングドレス姿を見ただけで其れとは、実際に式が始まったら如何なってしまうか非常に心配である。
最悪の場合、バージンロードは織斑父ではなく一夏が千冬と共に歩く事になるかも知れない。


「しかしまぁ、結婚しても千冬姉もカヅさんも当面は今まで通りなんだよなぁ……こう言っちゃなんだけどさ、千冬姉さっさと子供作って育休入った方が良くないか?そうなれば流石にカヅさんも日本に居るようになるだろ?」

「確かにその通りなのだが、お前達が卒業するまでは学園で教師を続けたいんだよ私は。
 自慢の弟がIS学園の三年間で何を成し、そして何を残して行くのか、私は教師として其れを見届けたい……私が腰を落ち着けるのは雛鳥が若鳥に育って、巣立ったのを見届けてからだ。」

「無駄にプレッシャー掛けてくれちゃってまぁ……でも、其処まで言われたら、IS学園に代々語り継がれて行く伝説でも残してみようか?……例えばそう、卒業するまでにISバトルで世界最強のブリュンヒルデに勝つ、ってのは如何よ?話題的にも結構イケてると思うんだけど。」

「ほう、其れは面白いな?生身の格闘では既に負けているが、ISバトルともなれば話は別だ……だが、挑んで来るなら前もって言ってくれよ?お前と戦う言うのであれば学園の訓練機ではなく、暮桜を束に頼んで目覚めさせなくてはならないだろうからな。
 だが、暮桜を纏った私は正に最強だと自負しているからな……簡単に勝てるとは思わない事だ。」

「簡単に勝てるとは思ってないさ……だけど、俺はISバトルでも千冬姉を越えてやる。」

「ふ、楽しみにしているぞ一夏。」


そうして姉弟として話をしている千冬も一夏も互いに笑顔だ。学園では教師と生徒と言う立場である上に、千冬は一組の担任、一夏は四組の生徒と言う事で実技の授業以外では中々一緒に居る時間もないので、貴重な姉弟としての時間を楽しんで居る様だ。
尚、同じ頃新郎の控室ではタキシードに身を包んだ稼津斗を見て、円夏が『顔の傷痕のせいでヤクザみたいだな』と言って室内の空気を無意識の内に抹殺、滅殺、大虐殺!!していた……義理の兄となる存在にヤクザは無いだろうヤクザは。

そして、いよいよ式が始まり、チャペルのバージンロードは……号泣して使い物にならなくなってしまった織斑父に代わって、一夏が千冬と共に歩き、稼津斗に『千冬姉を宜しく頼みます』と言って席に戻り、稼津斗も『勿論だ』と返し、其処から神父によるお決まりの言葉が続き、互いに愛を誓いあって指輪の交換をし、誓いの口付けを交わした。誓いの口付けを交わした時に、参加客から盛大な拍手が撒き上がったのは当然と言えような。
式後のブーケトスでは、千冬がブーケを五つに分け、それぞれ一夏の嫁ズに投げ渡して『次はお前達だ!』と言って決め、披露宴ではビデオ再生の為の大型モニターを束がハッキングして、千冬と稼津斗にお祝いのメッセージを送って来ると言うサプライズを決行し、実に賑やかな披露宴となったのだった。









夏と刀と無限の空 Episode81
『色々彼是とホワイトデーと、紡がれる未来』










千冬と稼津斗の結婚式も終わって時は三月。
三月三日のひな祭りは、IS学園の正面玄関に立派なひな人形の段飾りが設置され、学食にもひな祭り限定メニューとして、『ひな寿司定食(五目ちらし寿司、ハマグリのお吸い物、菱餅ムースケーキ《レアチーズケーキ、抹茶ムースケーキ、苺ムースケーキの三段重ね))』が登場して大人気だった。

一夏もその日の夕食は奮発して、鶏肉、タケノコ、シイタケ、ゴボウ、油揚げを混ぜ込んだ五目ちらし寿司と、エビ、イクラ、刻み蒸しアナゴ、スモークサーモン、蒸しウニ、錦糸卵で作った『ひな寿司ケーキ』、桜肉(馬肉)のカルパッチョ、ハマグリよりも安価で旨味の強いホンビノス貝の和風コンソメスープ、甘酒を使った和風のチーズケーキを作って、嫁ズと共にひな祭りを楽しんだ。
尚、密かに簪が作っていたひな祭りの衣装を着せられて写真を撮る事になったのも、まぁ良い思い出と言えなくはないだろう。一夏お内裏様と、嫁ズおひな様のツーショットは中々に華があるモノだったからね……その中でも、一夏と刀奈のツーショットの破壊力がぶち抜けているのは、矢張り交際歴三年と言う、他の嫁ズには覆せないアドバンテージの賜物って奴だろう。一夏は嫁ズ全員を平等に愛しているし、嫁ズも嫁協定によって平等を貫いて居るが、交際歴だけは仕方ない!流石に此ればかりは神の力を持ってしても覆す事は出来ないのだから……まぁ、其れでも刀奈以外の嫁ズとのツーショットも中々の破壊力がある訳だけどね。
ヴィシュヌとグリフィンはエキゾチックな褐色肌と和服が絶妙な化学反応を起こして何とも言えない魅力を醸し出しているし、クラリッサの『眼帯のおひな様』もコアな人気が出そうだし、ロランの白い肌と銀髪は和服と絶妙な調和を見せているからな。
実際に、簪が一夏に許可を取ってSNSにアップしたら、此の上なくバズって、Twitterの『カンちゃん』のアカウントは登録者数が一気に倍増した位である……今や世界的な有名人である一夏と嫁ズの影響力ハンパないですな。


ひな祭り後は特に大きな何かはなく、三月十一日には卒業式が行われ、一夏が在校生代表として『送辞』を述べた。尚、卒業式で一年生が送辞を述べるのはIS学園始まって以来であり、早くも一夏は『IS学園の歴史に残る事』をした訳だ。

また、話は前後するが、二月中に行われた次期生徒会長の選任選挙では、現生徒会長である夏姫の推薦を受けた一夏が、立候補した他の生徒三人を抑えて当選し、目出度く新たな生徒会長となった。……二位に倍の得票差を付けて当選したと言うのを考えると、一体ドレだけ多くの生徒が一夏を支持していたと言うのが分かると言うモノだ。
だが、この結果はある意味では当然と言えるだろう。
一夏はクラス代表決定戦、クラス対抗戦、学年別タッグトーナメント、学園祭のイベントバトル、一年生選抜チームvs二年生選抜チームの全てに参加していて無敗と言う『公式戦無敗』を誇っている上に、誰か困っている人を見付けたら真っ先に救いの手を伸ばし、トラブルが起きた場合には率先してその解決に当たっていたので生徒達からの好感度は可成り高かったのである。学園の女子憧れの『織斑千冬の弟』と言うネームバリューも後押ししたのは間違い無いだろうけどね。

選挙で選ばれたのならば一夏も断る事は出来ないので新年度からは生徒会長を務める事を決めたのだが、其れで終わらないのが一夏だ!新生徒会長の権利として存在している『他の生徒会メンバーは、新生徒会長が選任出来る』と言う権利を使って、副会長に刀奈を、会計にロランを、書記にヴィシュヌを、護衛にグリフィンとクラリッサを指名した……護衛って何ぞやとは突っ込んではいけない。護衛は護衛なのだ。普段の一夏はオータムが護衛となり、生徒会長としての一夏はグリフィンとクラリッサが護衛すると言う事なのだろう。そう言う事で納得しておけ異論は無視する。


「一夏君、此れが生徒会長の正しき姿だ!常に威厳と言うモノを忘れるな!」

「うっす!分かりました!!やっぱ威厳ってモンは大事っすからね!!」


そんでもって夏姫から何かを仕込まれたのか、来年度からの生徒会長となった一夏は、黒いインナーを着て制服の上着を肩に引っ掛けると言う『闇遊戯スタイル』で居る事が多くなった……普通なら突っ込み全開なのだが、一夏のような極上イケメンがやるとどんな事であっても絵になってしまうので、其れに突っ込みを入れると言うのは其れは其れで負けた気分であると言えるだろう……ノリの良いイケメンとか、マジで最強過ぎんだろコイツは。


さて、大分長い前振りとなってしまったが、本日は三月十四日、ホワイトデーである!バレンタインデーのお返しをする日である!『ホワイトデーは三倍返し』なんて言葉もあるが、そんな半沢直樹なモノは無視して、普通のお返しをするのがベストであると言えよう。ともすれば三倍返しなんてのは、重過ぎてドン引きされてしまうかもしれない訳だからね。等価交換になるようにお返しをするのが無難な訳だなうん。

一夏は円夏と簪を除く四組の生徒全員からバレンタインのプレゼントを貰っているだけでなく、乱にコメット姉妹、フォルテとレインからもバレンタインのプレゼントを貰っているので、そのお返しをしなくてはならないのだが、一夏は前日にお返し用のクッキーの生地を仕込み、朝のトレーニング前に其れを型抜きしてオーブンにセットして、朝のトレーニングが終わる頃に焼き上がるようにタイマーを設定していたので問題ない。

その一夏は、今日も今日とてハード極まりない朝のトレーニングを熟していた……10kmのマラソンだけでも大分ぶっ飛んでいるのだが、その後で腕立て伏せ二百回、腹筋二百回、スクワット五百回を熟した上で、筋肉の柔軟性を失わないように柔軟体操と太極拳をみっちり九十分行った後は、木刀を使っての素振りを千回!其れも只の素振りではなく、居合いや突きも混ぜた素振りなのだから凄い事この上ないだろう――居合いや突きと言うのは、相手が居ないと中々にトレーニングが出来ないモノでもあるが、一夏は己のイメージで最適な相手を作り出しているのだ。イメージで最適な相手を作り出すとか、お前は範馬刃牙か!イメージトレーニングでダメージまで再現出来るのとでも言うのか……一夏ならば出来そうで怖いなうん。最終的には、人間大のカマキリを練習相手としてイメージするのかも知れないな。


「ったく、毎度毎度朝っぱらから精が出まくりだな坊主?ったくドンだけ強くなる心算だテメェは?」

「はぁ、はぁ……俺が求める強さはマダマダこんなモノじゃないですよオータムさん……俺はもっともっと、此れ以上に強くならないとですからね?……強くないと、テメェの大切なモノを守る事なんて出来ないですから。」

「そりゃ、確かにその通りだが……自分を虐め過ぎて壊すなよ?お前が壊れちまったら、悲しむのは嫁さん達なんだからよ。」

「流石にその辺は分かってるから大丈夫ですよ……っとそうだ、オータムさんハッピーホワイトデーだ。」

「コイツは……最新型の電子タバコ加熱器のプルームXじゃねえか!スタイリッシュながらもシンプルなデザインが堪らない、電子タバコ愛用家の中では一種のステータスになってるコイツとは……ありがとよ坊主、大事に使わせて貰うぜ。」


此処で一夏は一足早くオータムにホワイトデーのプレゼントとして、最新型の電子タバコの加熱器をプレゼントした――普通ならば、未成年の一夏には購入出来ないモノなのだが、一夏は千冬に頼み込んで、千冬のアカウントでAm○zonで購入して貰ったのだ。……本土に買い出しに行ける機会の少ない千冬は主にAmaz○nを使って買い物をする事が多いので、専用のアカウントを持っていたのだ。
此れは未成年が酒やタバコを購入する為の究極の裏技ではあるが、善良な読者諸氏は絶対に真似しないように!もしも真似して、其れが摘発されたら、天の声もしょっ引かれてしまう可能性がある訳だからね!絶対に悪用はダメだ!絶対にダメだ!大事な事なので二度言いました!お酒とたばこは二十歳からである!!


「そう言えばオータムさん、電子タバコに切り替えたアンタに言うのもアレなんだけど、オータムさんってタバコの煙芸って出来るのか?」

「出来るに決まってんだろ?基本のドーナツだけじゃなく、三連ドーナツ、最高難易度の∞マークだって出来るっての……電子タバコでも、やろうと思えば蒸気で同じ事が出来ると思うぜ?
 コツは一緒だからな。」


オータムは意外と器用であるらしい……煙よりも薄い蒸気で紙のタバコと同じ芸当が出来るってのは、其れだけタバコと言うモノを極めていると言う事だろう。真の喫煙者は、こう言った芸当を身に付けているモノなのかも知れない。其れが生活の役に立ってるかどうかは別だが。
まぁ、少なくともオータムの場合はこのスキルが一部の生徒にウケているのでマイナスではないだろう……一昔前ならば、タバコの煙のドーナツは、子供を楽しませる手段であったのだが、今では子供に披露する事は出来ない芸当となってしまっているのが悲しいな。まぁ、副流煙による健康被害は無視出来ないモノがあるから仕方ないのかも知れないけどね。


「マッタク持って器用な事で……でも気に入ってくれたのなら良かったぜ。大切に使ってくれよな?」

「おうよ。コイツは一生モンとして使わせて貰うぜ?何と言っても、世界最初の男性IS操縦者から貰った電子タバコの加熱器なんてのは、其れだけでプレミアが付きそうだからな……オレが死ぬ前の日まで、使わせて貰うぜ坊主。」

「……そう言って貰えただけでもプレゼントした甲斐があったってモンだよ。」


一足先にオータムにホワイトデーのお返しをした一夏は、寮に戻るとシャワーで汗を流すと、まだベッドで寝ているヴィシュヌを起こしてから食堂に向かって、嫁ズと共に朝食を摂った。
本日の朝食は、全員が和定食でありご飯と味噌汁(なめこ、ワカメ、油揚げ、ネギ)は同じなのだが、おかずが異なっている。
一夏は納豆(卵黄、ネギ、鰹節トッピング)、アジの干物、小松菜の辛し和え。刀奈は納豆(温泉卵、シラス、おろしショウガトッピング)、サバの一夜干し、ホウレン草のゴマ和え。ヴィシュヌは子持ちシシャモの南蛮漬け、チリメンジャコのおろし和え、キンピラゴボウ(辛口)。ロランはホッケの開き、コンニャクと海藻のサラダ、野沢菜の漬け物。グリフィンは納豆(海苔、シラス、卵黄、キムチトッピング)、サンマの塩焼き、アジの干物、イワシの塩焼き、冷ややっこ、ヒジキの炒め煮、キャベツとキュウリの浅漬け。クラリッサは鮭のハラスの塩焼き、切り干し大根の炒め煮、佃煮三種(海苔、ワカサギ、コンブ)と言った具合である……全員焼き魚がある辺りに、一夏と刀奈以外も『日本の朝食』と言うモノを良く分かっていらっしゃる。欲を言えば、全員に納豆が欲しかったところだが、まぁ其れは仕方あるまい。
今では珍しくなったが、日本の朝食はご飯、焼き魚、味噌汁の三つは鉄板だったのだ!其処に漬け物やお浸しが付けば栄養バランス的にも充分!『塩分多くね?』と言われるかもしれないが、昔の日本はミネラル豊富な天然塩を使っていたので問題ない!塩分による健康被害が出るようになったのは、天然塩ではない食塩『塩化ナトリウム』を使うようになってからである!ミネラル豊富な天然塩ならば、塩分を取り過ぎたとしても、塩に含まれているミネラル成分の働きによって、不要な分は体外へ排出されるようになっているのだ!
勿論、IS学園の食堂で使われているのは海水を天日干ししたり煮立たせて作った塩や、天然の岩塩であるので問題無しである。生徒の健康にも配慮しているのであるIS学園の食堂はね。


「三学期も残すところあと少しになったな……皆、ヤッパリ競技科に進むんだろ?」

「えぇ、勿論その心算よ?ISバトルの競技者は、IS関連の仕事の中でも花形って言われているし、私自身もISバトルが大好きだから競技科に進んでプロを目指す心算で居るわ。」

「私もですね……もっと言うならば、武器攻撃が主流のISバトルの世界に徒手空拳メインの戦い方で旋風を巻き起こせれば良いかなと。ISバトルでムエタイを使う選手が現れたらきっと衝撃的だと思います。」

「私も競技科に進む予定だけれど、私は勝つ事よりも魅せる事を意識した、エンターテイメントとしてのISバトルを追求したいね。勿論やるからには勝ちを取りには行くけれども、只勝つのではなく如何にして観客を満足させる、楽しませる戦いが出来るのか、其れを突き詰めようと思っているのさ。
 女優として、魅せる要素は外す事が出来ないからね。」

「私は前言ったように、申告留年してもう一回競技科の二年生をやる心算。学年が一緒なら、修学旅行とかも一夏達と一緒に行けるからね♪」

「私は引き続き特別指導員として学園に残る事になる。其れと、来年度からは、ドイツの国家代表として、黒兎隊からマチルダが学園に入学する事になっている。」


グリフィンは予定通り申告留年をして、競技科の二年生をもう一度やる事を決め、一夏、刀奈、ヴィシュヌ、ロランは競技科の生徒として進級し、クラリッサは引き続き特別指導員として学園に残る様だ。
新年度からは、クラリッサの部下が学園に来ると言うのも中々楽しみな事であると言えるだろう……何となく、一夏とクラリッサに『お兄様、お姉様!』と言ってくっ付いて来そうな気もするが、年下のあしらい方は一夏もクラリッサも熟知しているので問題ないだろう。問題ない筈だ。


「しかしまぁ、サンマもイワシも頭から骨ごと食べるとは、中々にワイルドだなグリフィン?」

「一夏がデートで連れて行ってくれたお寿司屋さんで食べたエビのカブト焼きが美味しかったから、魚の頭もイケるんじゃないかと思って食べてみたら少し硬かったけど食べられたから。
 其れにこうやって食べれば、カルシウムとDHAも摂れて一石二鳥かなって。ワタの苦さも慣れると美味しいし♪」

「まぁ、美味しく食べられてるなら問題無しだ。確かに頭から骨ごと食べちまえば、食堂のスタッフも食器を洗うのが楽になるだろうから良い事尽くめだしな。」


サンマの塩焼きとイワシの塩焼きを頭から骨ごと喰らうとはグリフィンらしいワイルドさではあるが、確かに頭から骨ごと食べてしまえば魚の栄養素を余す事なく全て摂取出来るので実に理に適った食べ方と言えるだろう……分かってはいても、中々出来る事ではないが。
まぁ、一夏と嫁ズは和やかな朝食タイムを楽しんだようだ――其れとは対照的に、陽彩は食堂の隅っこで一人寂しく朝食を摂っていた……その周囲だけ、気温が氷点下になってるのではないかと錯覚する位の暗い雰囲気を醸し出しており、其処に嘗て『チート転生特典』がある事でイキリ散らしていた頃の面影は微塵もない。
そんな陽彩は、一応競技科への進級を考えているのだが、学園祭以降は成績が駄々下がりで、此のままでは留年確実であり、春休み中は補習と進級の為の追試が確定していた……チート特典を失った転生者とはかくも憐れであるな。








――――――








その日の授業も恙無く進んだ。
四組は二時間目の授業が担当教師の出張によって自習となり、簪の提案でポケモンのトーナメントバトルが始まって、決勝戦は一夏と簪の6vs6のフルコンタクトバトルとなり、一夏も簪も一歩も譲らず、遂に大将戦として一夏はリザードン(こうげきととくこうに全振り。ねっぷう、じしん、はかいこうせん、りゅうのまい、持ち物:きあいのタスキ)を、簪はメタグロス(こうげきとくこうに全振り。コメットパンチ、サイコキネシス、じしん、ねむる、持ち物:ラムのみ)を繰り出した!
種族値ならばメタグロスの方が圧倒的に上だが、タイプ相性で言えばリザードンの方が有利であり、サイコキネシス以外は碌なダメージを与えられないと言うのが勝負を分けた!
メタグロスのとくぼうの値はそれほど高くないので、ねっぷうを使えば或は速攻で勝負を決める事が出来たかもしれないが、一夏はりゅうのまいを連発してリザードンの攻撃力と素早さを極限まで上げると、じしんで大ダメージを与えて赤HPにすると、次のターンではかいこうせんを使い、此れが急所に当たって一夏の勝利が決定したのだった……効果は今一つになるが其れでも大技をブチかまして勝つと言う所に一夏の拘りが見て取れるな。

午前中の授業が終わった後は、ランチタイムで一夏特製の弁当(パエリア風炊き込みご飯、イタリア風フライドチキン(塩とバジルとワインで下味をつけて、粉チーズを混ぜた衣を付けてオリーブオイルで揚げた)、シーフードとトマトのマリネ、イタリア風出汁巻き卵(卵に刻みバジルと粉チーズを混ぜてオリーブオイルで焼き上げた))を堪能し、午後の授業では実技で一夏と刀奈の最強タッグに、簪と円夏の妹タッグが挑む模擬戦が行われたのだが……此れは見事なまでに一夏と刀奈のタッグが圧勝した!円夏も簪も実力は申し分ないのだが、二人とも中~遠距離型なので間合いを詰められて近距離戦を強いられると中々にキツイのである。一夏と刀奈は、スタイルこそ違うが近距離戦が強いので尚更であると言えるだろう。
何よりも、兄と姉として、妹の戦い方は誰よりも熟知しており、更に其の力を伸ばしに伸ばしているので、負ける要素は何処にも無い……円夏と簪が弱いのではなく、一夏と刀奈が強過ぎた、只それだけであるのだけどね。


「ふ、マダマダだな円夏?そんなんじゃ俺に勝つ事は到底出来ないぜ?俺に勝ちたいってんなら、修業して出直して来な……修業して強くなったと思ったら何時でも挑んで来な。其の時は快く受けてやるからよ。」

「でも筋は悪くないわ……貴女達からのリベンジ、楽しみにしているわ。」

【リベンジ上等!】


「はぁ、はぁ……今回は負けたが、次は負けんぞ兄さん!」

「次は勝つ……負けっ放しは好きじゃないからね。」


若干煽っているとも言える一夏と刀奈のセリフにも、円夏と簪はその闘気を爆発させて応える……円夏も簪も負けず嫌いなので、こうなったのは当然と言えば当然であったと言えるだろう。
その後の授業では、四組の生徒は略全員がイグニッションブーストを会得している事が明らかとなって、千冬と山田先生を戦慄させる事になったのだった――イグニッションブーストはISバトルの競技者の間では難易度がクッソ高い高等技術と言われているので、其れをクラスの略全員が会得してるとなったら其れは驚くなって言うのが無理ってモンである。――逆に言えば、四組の生徒は其れだけ負けん気が強く、織斑姉弟と更識姉妹に追い付き、追い越したいと思っている生徒が居たって事なんだけどね。此れもまた、絶妙な化学反応であると言えるだろう。

そしてその日の放課後は――


「一年四組に、菓子の雨が降るぞーーー!!」


一夏が教壇に上がると、大人気プロレスラー、オカダ・カズチカのレインメーカーポーズと同時に、綺麗にラッピングされたクッキーをばら撒いて、女子達は其れを手にせんと闘争本能を全開にして一夏のクッキーをゲットしようとする!……一夏には五人の嫁が居る事は理解していても、男子からのホワイトデーのお返しともなれば矢張りゲットしたいモノなのだろう。其れが主夫力限界突破している一夏のお手製となれば尚更だ。


「鷹月さん、ちょっとこっち来て。」

「なに、一夏君?」

「はい此れ、ホワイトデーのお返しな。教室でばら撒いたのよりも少し豪華だから。」


混沌としている教室から、一夏は静寐を廊下に連れ出すと、ちょっと豪華なホワイトデーのお返しをプレゼント。他のクラスメイトよりも接点が多く、妹の円夏と交際関係にあると言う事を考えて、少しだけお返しを豪華にしたようだ。
クラスでばら撒いたクッキーもプレーンやらチョコレート味やらバラエティに富んでいるのだが、静寐に渡したクッキーは其れ等に加えてドライフルーツやナッツ、チョコチップ等を加えているモノなのである。此れは、乱とコメット姉妹、フォルテとレイン、夏姫へのお返しも同様のモノを用意してある……全員同じお返しで済まさない辺りに一夏の拘りと言うモノを感じるな。


「皆よりも少し豪華なお返し……此れは、将来の義妹と認定して貰ったと言う事で宜しいのでしょうかお義兄さん?」

「そう言う訳じゃないけど、一緒に訓練する事多いしさ……と言うか、その呼び方止めてくれないか?」

「……お義兄ちゃんの方が良いかな?」

「そう言う事じゃないから!てか、鷹月さんが俺の事をそう呼んだ瞬間に、俺はクラスの連中からドン引きされてしまうわ!オニールからのお兄ちゃん呼ばわりだって若干引かれてる部分が否定出来ねぇし!」

「義兄上!」

「そもそも義兄から離れて!?」


静寐の思考が若干崩壊しているような気がするが、果たして如何してこうなってしまったのか……嘗ては『四組の良心』と呼ばれた事もあるほどの常識人であったと言うのに。いや、今でも充分に常識人ではあるのだが、色々とノリが良くなり過ぎているのである。朱に交わって紅くなるとはきっとこう言う事を言うのだろうな。

その後、一夏は乱とコメット姉妹、フォルテとレインにホワイトデーのお返しを渡すと、生徒会室に行って夏姫にもホワイトデーのお返しを渡す。来年度からの新生徒会長は一夏なのだが、今年度中はまだ夏姫が生徒会長なのである。
丁度生徒会室には虚も居たので一緒にホワイトデーのお返しを渡す序に、バレンタインデーは如何だったのかを聞かせてくれた――如何やら虚と弾は、バレンタインデーも今回のホワイトデーも前日の日曜日にデートをして確りとその時にプレゼントを渡し、お返しを貰ったとの事。
しかもホワイトデーデートの際には、弾はお返しのお手製のチーズタルトだけでなく、本革製のチョーカーもプレゼントしてくれたとの事。ネックレスやペンダントでは校則に抵触するのではないかと考えて、貴金属ではないチョーカーにしたのだろう。
生真面目な優等生タイプで、眼鏡にヘアバンド、ポニーテールと言う絵に描いたような委員長スタイルの虚に本革製のチョーカーと言うのも、中々にギャップが魅力となっている。
因みに、夏姫も実はバレンタインデーの時に簪からチョーカーをプレゼントされていたのだが、そのチョーカーには装飾品としてチェーンが付いているのが何となく、簪は実は独占欲が強いのかと考えてしまう感じだ。まぁ、そんな事はないのだろうが。

此れにて嫁ズ以外へのお返しを渡し終えた一夏は、其のまま放課後のトレーニングへ。とは言っても、本日は既にアリーナの予約は埋まっているので、シミュレーターを使ったトレーニングになるのだが、シミュレーターでのトレーニングは普段使わない機体での訓練も出来るので、其れは其れでスキルアップに繋がる訳である。
そのトレーニングで、一夏は嫁ズの機体を全て使ってみたのだが、一番戦績が良かったのは刀奈の紅龍騎だった。武装に細かい違いはあるモノの、銀龍騎の兄弟機と言う事もあって一番扱う事が出来たようである。
尚、此のシミュレータは対人戦だけでなく、CPU戦も行う事が可能で、モンド・グロッソに出場した選手と戦う事も出来るのだが、隠しコマンドで出現する千冬には誰も勝つ事が出来なかった……全盛期の千冬に束の『ちーちゃん最強補正』が入っているせいでトンデモナイクソチートキャラになっているのだ。
此方の攻撃を的確に潰して来る高性能AIに加え、発動時に無敵時間が存在するイグニッションブースト、カウンターで一撃必殺の零落白夜を確実に当てて来る鬼畜っぷり……勝てるかこんなの。
因みに、デフォルトで戦える相手で一番強いのは全盛期のスコールである。


トレーニングを終えた後は、シャワーで汗を流した後で夕飯なのだが、一夏と嫁ズは本日は食堂ではなく一夏の部屋での夕飯だ。
バレンタインデーには嫁ズがバレンタインディナーを用意してくれたので、ホワイトデーはお返しを含めてホワイトデーディナーを一夏が振る舞うと言う訳である。既に下準備は終わっているので、後は調理するだけなのでモノの一時間程度でホワイトデーディナーが完成だ。
メニューはシーフードドリア、アンチョビのフリッター、ヒラメのカルパッチョと見事なまでに『白』であり、正にホワイトデーディナーと言った所である。更には用意したオリジナルドリンクも、特製のミルクセーキにヨーグルトドリンクと言う『白』であった。


「一夏、此のシーフードドリアスッゴク美味しい!ホワイトソースがスッゴク濃厚で!!」

「そのホワイトソースにはカマンベールチーズを溶かし込んであるんだよ。同じ乳製品だから相性も良いしな。」

「アンチョビのフリッターも衣はサクサク、中はジューシーだね?でも、アンチョビと言う割には余り塩気を感じないけど、此れは如何言う事なんだい?」

「アンチョビって、イワシをオリーブオイルと塩で漬け込んだモノだと思われてるけど、アンチョビってのはイタリア語でカタクチイワシの事なんだとさ。イワシ全般はサーディンって言うらしい。
 だから其れは、普通にカタクチイワシのフリッターって事だ。塩漬けのアンチョビをフリッターにしたら、其れは其れで旨いだろうけどな。」

「成程、そうだったんですね?だからフリッター用のディップソースが……納得です。」


一夏がアンチョビに関する豆知識を披露しつつも、ホワイトデーディナーは和やかに進んだが、ホワイトデーディナーはあくまでも前座であり、本命のお返しはデザートのスウィーツである!尚、フリッター用のディップソースは、『マスタードマヨネーズ』、『ガーリックサワークリーム』、『明太バター』であった。
クラスメイトや夏姫達にはクッキーだったが、嫁ズにはクッキーで済ます筈がない!!
一夏が嫁ズに用意したホワイトデーの真のお返し、其れは巷で大人気の『バスクチーズケーキ』であった!表面は黒く、断面はクリーム色に仕上がった完璧な出来栄えであるだけでなく、ケーキにはマスカルポーネチーズを使った濃厚なチーズクリームと彩り鮮やかなクランベリーのジャムが添えられており、見るからに美味しそうである。


「「「「「!!!」」」」」


チーズクリームとジャムと一緒にケーキを口にした嫁ズには、一瞬で衝撃が走った!
チーズケーキのコクに、そのコクを更に引き立てる濃厚なチーズクリーム、其れを爽やかに纏めるクランベリーのジャムが見事に調和して何とも言えない味のビッグバンを引き起こしたのである!其れこそ、そのあまりの旨さに口から『美食の爆裂疾風弾』を放ってしまいそうになるレベルである。
一夏は普通の料理だけでなくスウィーツに関しても最強であるらしい。

ホワイトデーディナーを終えた後は、全員仲良くバスタイムを終えて、その後は一夏の部屋でスマブラや格ゲーの対戦が深夜まで行われ、最終的に全員が寝落ちすると言う結果に……其処までゲームに集中出来るってのはある意味で凄い事であると思うが。
因みにスマブラではクラリッサが最強と言われているベヨネッタで無双し、格ゲーでは一夏がKOFⅩⅤで『京、リョウ、テリー』の『SNK主人公チーム』で無双していた。








――――――








その後はあっと言う間に時が過ぎ、終業式後は短い春休みを経て一夏達は二年生に進級した。
織斑兄妹、刀奈、ヴィシュヌ、ロラン、乱、フォルテ、静寐は競技科に進み、簪と本音は整備・開発科に、コメット姉妹は宇宙開発科に夫々進み、グリフィンは申告留年をして一夏達と共に競技科の二年生として留まり、クラリッサは特別指導員として学園に残った。
新年度からは一夏が新たな生徒会長となり、嫁ズが生徒会メンバーとなったのだが、夏姫時代以上に生徒からの苦情や要望に素早く対処する、『仕事が早い生徒会』になっており、次期生徒会長として一夏を推薦した夏姫も満足そうであった。


因みに陽彩は、春休み中の補修を全て熟し、進級の為の試験を何とかギリギリで突破した事で競技科の二年に進級出来たのだが、競技科と言う事はつまり一夏と一緒のクラスと言う訳で、其れはもう毎日が地獄なのは間違いなかろうな。
同じクラスである以上、顔を合わせない訳には行かないのだが、もしも一手でも間違ってしまったらその瞬間に束によって人生にピリオドを打たれてしまう訳なのだから、感じるストレスはハンパないだろう。下手すりゃストレス性の胃潰瘍になって入院なんて事にもなるかも知れない……コイツが入院したらしたで、学園が平和になるような気がしなくないがな……そもそもにして、コイツの存在は此の世界にとっては完全にイレギュラーな存在なので、居なければ居ないにこした事はないのだ。最高神のゴッドフェニックスで爆殺されてないだけも有り難いと思うべきである。

其れは其れとして、新年度の新入生の中には、弾の妹である蘭の姿もあり、彼女が目標を果たした事に一夏は心の中で賞賛を送っていた。
その後の学園生活は、一夏と千冬が本気のISバトルを行ってアリーナを半壊させ、更には学園に其れ以上の被害が出ないように日本領海にある無人島に移ってバトルを行って島を半壊させた結果、一夏が千冬に勝ったと言うトンデモイベントがあったモノの、学年別トーナメントも一年生の臨海学校も去年のようなトラブルが起きる事はなく、平穏無事に過ぎて行き、そしてあっと言う間に二年の歳月が経ち、一夏達が学園を卒業する時がやって来たのであった……光陰矢の如しとは、マッタク持ってよく言ったモノであるな……










 To Be Continued