西暦2024年、令和6年三月某日、IS学園では卒業式が執り行われていた。
卒業証書の授与が終わった後は、一夏から生徒会長の任を任された蘭が在校生の送辞を述べた後に、一夏が卒業生代表として答辞を述べている最中……なのだが、答辞の定型に囚われない答辞と言うのが実に一夏らしい。――答辞の文章に関しては、嫁ズも一枚噛んでいるのだから尚更である。
「最後に、卒業生代表として。
在校生の諸君、決して自分の夢を諦めるな!諦めなければ夢は必ず叶える事が出来るからな……ISの生みの親である篠ノ之束博士も、決して諦めなかった結果として己の夢を叶えるに至ったのだから。
夢を持て!夢を持ったら其れを叶える為に、良い意味での馬鹿になれ!夢は見るモノじゃなくて叶えるモノだ!行くぞーー!1!2!!3!!!」
「「「「「「「「「ダー!!!」」」」」」」」」
そして答辞のシメはまさかのアントニオな猪木さんでお馴染みの『1!2!!3!!!ダー!!!』であった。決して、『1!2!!サンダー!!!』ではないのでお間違えの無いように。
その後卒業式は恙無く進み、学園長の挨拶では、轡木学園長が『卒業生の皆さん、卒業おめでとう。此れからも己の目標に向かって全力で邁進して下さい』と、とっても短い挨拶をした事で生徒達から拍手喝采を浴びていた。長ったらしい挨拶ってのは、最早拷問の類と言っても過言ではないので、此れは学園長の英断であると言っても過言ではあるまい。
最後はお決まりの『仰げば尊し』を斉唱し、そして『蛍の光』のメロディーに送られながら卒業生が講堂から退場して卒業式は無事に終了したのだが――
「それじゃあ皆、次の会場に直行だぁ!!」
「「「「「「「「「「オーーーーーー!!」」」」」」」」」」
「……何で、俺等よりも周りの奴等の方が盛り上がってんだよ?」
「其処は気にしないで行きましょ?」
「気にしたら負けのような気もしますし。」
「其れに祝福はしてくれるみたいだから良いじゃないか。」
「それにしても、本当に卒業式の日に結婚式やる事になるとは……ちょっとビックリ。」
「確かにな。」
卒業生は全員がモノレールに乗り込んで次の会場にレッツゴー!
なんと、以前に千冬が冗談めいて口にした『卒業式の日に一夏達の結婚式も行う』と言うのが現実になってしまったのだ――流石に学園で行う事は出来なかったモノの、学園長が都内でもトップクラスの結婚式場を、其れも最上級のプランで予約したと言うのだから驚きである。結果として一夏と嫁ズは、卒業式の練習だけでなく結婚式の準備もしなくてはならなかったので結構忙しかったりしたのだ。
とは言え、卒業と同時に結婚と言うのも中々出来ない体験ではあるので、一夏達は楽しみにはしていたのだ――なので、一夏達もモノレールに乗り込んで本土の会場を目指す事に。
因みに陽彩はなんとか卒業の単位を取る事は出来たモノの、進学先も就職先も卒業まで決まらず、卒業後は中々に厳しい生活を送る事になるだろう――そして、そんな陽彩が卒業式が終わったと同時に学園島から居なくなっていた事には誰一人気付いていなかった。
夏と刀と無限の空 Last Episode
『Summer&Sword&Infinity Sky』
結婚式に参加するのは、一夏と嫁ズの家族以外だと、本日IS学園を卒業した陽彩以外の卒業生、蘭等の一部の在校生、夏姫やレインと言ったIS学園のOG、一夏と嫁ズの学園外の友人、更識ワールドカンパニーの社員の一部、IS学園の教師の一部、そして何処で情報を得たのか知らないが一夏と嫁ズの結婚式が本日行われる事を嗅ぎ付けたテレビ局の撮影スタッフだ。
世界初の男性IS操縦者の結婚式など、其れこそテレビ局にとっては美味しいネタ以外のナニモノでもなく、各局――其れこそ国営放送である天下のNHKですら特番組んで生放送を予定しているのだ……一夏達としては追い出したい所だったのだが、『報道の自由』だの何だの煩くなりそうな気がしたので、『撮影と、リポーターによるリポートはOKだが、参加者に対するインタビュー及び新郎新婦への質問はNG』を絶対条件に許可したのである。その際に、千冬が『もしも破ったらどうなるか分かっているな?』と、ドスの利きまくった声で念を押すと同時に道端に落ちていた拳大の石を素手で砂粒に変えて見せていた……うん、此れ以上の警告はないな。
さて、学園から直行した生徒達は被服室にて貸衣装を選んでいる最中だが、一夏と嫁ズは夫々新郎の控室と新婦の控室で準備中だ。
新郎の控室では、一夏が制服から白のタキシードに着替え、今はヘアメイクさんに髪型をセットして貰っている最中――とは言っても、特に奇抜な髪型にする訳ではなく、オーソドックスに前髪をバックに撫で付けたモノとなっている。
「中々様になってるじゃないか一夏。」
「カヅさん、来てくれたんですか?」
「義弟の結婚式に出ない義兄が居るか。
昨日まではブラジルに居たんだが、阿修羅閃空で海を渡って地球の裏側からやって来たって所だな……道中、腹減らしたサメに襲われ掛けたが、まぁ返り討ちにして逆に食ってやったが。」
「相変わらず人間辞めてますね……つか、いい加減日本に腰落ち着けたら如何なんすか?」
「勿論、本日をもってその心算だ。
お前達は学園を卒業したし、そして今日結婚して夫婦となり、千冬さんもお前達の巣立ちを見送って肩の荷が下りる事になるだろうからな……此れからは、日本国内で俺より強い奴に会いに行く事にする!」
「其れ以前に、家に居て下さいよ……」
控室にやって来た稼津斗とそんな会話をしながらも、準備が出来た一夏は嫁ズよりも一足先に式が行われるチャペルに向かって行った。
チャペルは当然の事ながら既に満席の満員御礼、超満員札止め状態になっており、各局のテレビクルーが良い画を取ろうとカメラをスタンバイしている。そんな中で先ずは一夏がチャペルに登場して式台の前に立つ。
そして其れから数分後、チャペル内にFFⅩ-2のOPテーマである『久遠~光と波の記憶~』が流れると同時に、チャペルの扉が開かれ、五人の花嫁が父親と共に現れた。クラリッサだけは養父すら存在しないので、黒兎隊の総司令を務めるエドワードだったが。
ウェディングドレスに身を包んだ嫁ズは何とも言えない艶やかさを放っているのだが、此のウェディングドレスは実は簪と夏姫が手作りしたモノだったりする……趣味のコスプレ衣装制作で培ったノウハウを120%発揮してウェディングドレスを作り上げたのである。もうコイツ等普通に服飾業界に就職出来るだろ。
そのウェディングドレスは純真を表す『白』であるのだが、刀奈は青系、ヴィシュヌは赤系、ロランはグレー系、グリフィンはオレンジ系、クラリッサは銀系で極めて薄い刺繍で纏められており、其れが夫々の魅力を一層引き立てている感じだ。ガチヲタが本気を出して作ったウェディングドレスってのは中々に出来が良いようである。
ヴァージンロードを歩き終えた嫁ズは全員が一夏の左隣に立つ……刀奈が一夏の一番近くに居るのは、交際歴が最も長い刀奈にこそ其の場所が相応しいと言う事だったのあろう。嫁ズ協定の平等は有れど、一夏と刀奈の交際歴の長さと言うモノは無視してはいけないモノだと刀奈以外の嫁ズは思っているのかも知れない。
「新郎、織斑一夏。
汝は更識刀奈、ロランツィーネ・ローランディフィルネィ、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、グリフィン・レッドラム、クラリッサ・ハルフォーフの五人を妻とし、健やかなる時も病める時も、共に歩み生涯その愛を貫く事を神に……いえ、己自身の魂に誓いますか?」
そうして始まった結婚式だが、誓いの儀にて神父さんが何とも粋な計らいをしてくれた。
『神に誓いますか?』と言うのが普通なのだが、この神父さんはまさかの『己の魂に誓いますか?』と来た……居るかどうかも分からない神ではなく、己の魂にと言うのはある意味で神に誓う以上の宣誓となるだろう。まぁ、此の世界に神は存在している訳ですが。
「はい、誓います……!」
其れを聞いた一夏は、迷う事無く力強くそう答え、神父も笑みを浮かべると今度は新婦達に問う。
「新婦、更識刀奈、ロランツィーネ・ローランディフィルネィ、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、グリフィン・レッドラム、クラリッサ・ハルフォーフ。
汝は織斑一夏を夫とし、健やかなる時も病める時も、共に歩み生涯その愛を貫く事を己自身の魂に誓いますか?」
「「「「「誓います……!」」」」」
嫁ズもその問いに迷う事無く答え、そして指輪の交換(一夏は流石に五つも薬指に装備出来ないので、刀奈が代表して五人で選んだ指輪を一夏の薬指にはめた)を行い、一人ずつベールアップを行って、誓いの口付けを交わす……特に、最後に行われた刀奈との誓いの口付けは他の嫁ズの誓いの口付けとは一線を画す破壊力があった。……一夏は嫁ズを平等に愛しているのだが、交際期間の壁を越える事は難しかったようである。
交際歴五年の刀奈と交際歴三年の他の嫁ズの間には僅か二年だが、決して越える事が出来ない壁があるのかも知れない……まぁ、そんな壁なんぞ知ったこっちゃねぇって感じで嫁ズを平等に愛してるのが一夏なんですけどね。
式が終わった後はチャペル外にて参列者のライスシャワーの祝福を受けながら花嫁がブーケトスを行うのがお決まりなのだが、其の場に突如フルスキンのISが現れた。
陽彩のダブルオーライザーに酷似したその容姿――其れは異世界からやって来たナツキのフリーダムとカタナのジャスティスだった。
其の二機はブースターを全開にするとカラーのスモークを散布して、空に『Happy Wedding!!』のメッセージを書き、そのメッセージをピンクのハートのスモークを使って彩るおまけ付きだ。
「粋な演出、ってか?」
「ま、そうでしょうね。」
そんな粋な演出をして貰った後で、改めて嫁ズはブーケトスを行い、五つのブーケは夫々山田先生、乱、円夏と簪、レインがゲットする事になった……乱以外は見事に百合カップルの片割れだったと言うのは突っ込んではいけない事だろう。百合カップルであっても幸せになる権利はあるのだから!(謎)
――――――
無事に式が終わったその後は今度は披露宴だ。
披露宴では新婦も新郎もお色直しをして、一夏は紋付き袴、刀奈とクラリッサは和服、ロランはオランダの、ヴィシュヌはタイの伝統の花嫁衣裳に着替えたのだが、グリフィンはまさかのリオのカーニバルの衣装のアレンジで登場して会場の度肝をぶち抜いた!
ブラジルに関する知識が殆どない野郎に、『ブラジルってどんな国か知ってるか?』と聞けば『女がケツ出して踊る国ですよね?』と言う答えが返って来る位に布面積が少ないあの衣装のアレンジモノを着て来るとはグリフィンの強心臓ハンパないですな。まぁ、此れもブラジルの伝統衣装と言えばそうなのだろうけれども。
グリフィンのまさかの衣装に驚きは有ったモノの、披露宴も大いに盛り上がる事になった。
披露宴の料理も、日本料理、タイ料理、オランダ料理、ブラジル料理、ドイツ料理と新婦達の出身国の料理が振る舞われた。一例を挙げると、日本料理として縁起物のタイとエビのお造り、天婦羅と言った定番の他、元は外国の料理だが日本で独自の進化をした変わり種の日本料理(明太パスタ、トンカツ等々)、タイ料理としてトムヤムクン、タイ風生春巻き、ナマズの唐揚げの香味ソース、オランダ料理としてニシンとウナギのキベリン、ボイルしたロークウォルスト、ワーデルゾーイ、ブラジル料理としてブラジル風上げ春巻きのパステル、ブラジル風ビーフストロガノフのエストロゴノッフィ、日本でも有名なシュラスコ、ドイツ料理としてアイスバイン、ロルモプス、ケーゼ・ミット・ムジーク等である。因みにビュッフェ形式である。
参加者の殆どが未成年と言う事もあり、ドリンクは全てノンアルコールだが、ノンアルのビールやカクテルも用意されているので大人組も其れなりに楽しめるだろう。
尤も、『ノンアルのウォッカ』と言うのは、其れは只の水ではないかと思うのだが。
披露宴の盛り上がりポイントの一つである、新郎新婦によるウェディングケーキカットでは、一夏と嫁ズの六人で大きなケーキカットナイフでウェディングケーキに切り込みを入れると、何処に隠していたのか刀奈が一夏に居合い用の日本刀を渡し、其れを受け取った一夏は神速の居合いでウェディングケーキを一瞬で食べ易い大きさにカット!しかも、切れ目は入れておきながらもウェディングケーキ全体の形は崩さないと言う凄まじいまでの神技を披露し、会場からは拍手喝采!大喝采!!
新婦から両親への挨拶では、愛娘達からの感謝の言葉に、主に親父共が号泣し、家族からの挨拶では円夏が『私の大好きな兄さんの事を、どうぞ宜しくお願いします。』とブラコンぶりを披露し、そんでもって千冬と稼津斗の結婚式の時同様に束がモニターをジャックして一夏と嫁ズに祝福の言葉を送っていた。
本当ならば直接会場に来たかっただろうが、世界からその身を追われている束的に其れは出来なかったのだろう。『南風野吏』として式に参加する事も出来たのだが、『南風野吏』ではなく『篠ノ之束』として一夏達を祝福したかったと言う事なのだろう。
その後披露宴は二次会へと移り、二次会では無礼講の大宴会だ!
カラオケあり、舞台に上がっての一発芸あり、中にはこの日の為にネタを考えていたと言うIS学園の『お笑い研究同好会』による渾身のコントが披露されるなんて言う事もあって大いに盛り上がった!
そんな中でも、一夏が嫁ズとデュエットしたのは一番の反響だった。刀奈との『夕陽と月~優しい人へ~』、ヴィシュヌとの『楽園』、ロランとの『FUTURE』、グリフィンとの『奇跡の地球』、クラリッサとの『メルト』、そして一夏と嫁ズ全員による『With
you 絆』でフィニッシュし、会場からは満場の拍手が送られる事となった。
披露宴のラストは一夏と嫁ズ、親族の記念撮影。
中央で腕を組んで不敵な笑みを浮かべる一夏の右肩に刀奈が肘を掛けてポーズを取り、左肩にはロランが肘を掛けてポーズを取り、一夏の真正面でヴィシュヌが禅を組み、其の両隣ではグリフィンとクラリッサが一夏に身体を預けるように腰を下ろしていた。……其れだけでも中々に良い感じなのだが、画面の隅でフュージョンのポーズを決めている円夏と簪がシュールながらも中々に良い味を出していた。
兄と姉の結婚式の記念撮影で何やってんだと思わなくもないが、此れは此れで記念となるのである意味ではファインプレイだったと言えるだろう……最悪の場合は黒歴史として永遠に弄られる事になるかも知れない自爆技だったけどな。
――――――
その後の一夏達の事を語る前に、陽彩と陽彩の嘗ての婚約者達について語るとしよう。
篠ノ之箒はIS学園を去った後、一般高校に編入し、其処でも剣道部に入部したのだが、自分の腕が思った以上に錆び付いていた事を実感させられ、IS学園での出来事を振り払うかのように一心不乱に剣道に撃ち込んだ結果、三年次には剣道部の部長となり、全国大会を制覇するまでに至った。
その過程で、陽彩に褒められた事で続けていたポニーテールをバッサリと切って陽彩への思いを断ち切り、高校卒業後は大学でも剣道を続け、そして現在は篠ノ之道場の師範を務めるまでになっている。束との関係は元に戻す事はせず、生涯己の罪の証として背負って行く様だ。
凰鈴音は強制帰国後、楊麗々の厳しい指導の下でその才能を開花させ遂には中国の国家代表にまで上り詰めるに至った――そして、その最中で陽彩への思いを断ち切って中国の国家代表として活躍し、ISバトル界でもトッププレイヤーとなり、数年の後に自分の機体の整備スタッフの男性と結ばれる事になった。
セシリア・オルコットは、強制帰国後は失意の底にあったが、其れでも自分に献身的に尽くしてくれるチェルシーに報いるべく一念発起して一般スクールに編入し、其処で参加したテニスサークルでテニスの魅力に取りつかれてテニスに没頭する事に。
BT武装の適正があると判断された高い空間認識能力はISバトルよりもずっと狭いコートで行われるテニスで十全に発揮されて、『絶対に返せないサーブ』を編み出して、二十歳でウィンブルドンを制覇すると、世界四大大会を総なめにして一躍テニス界の女王に君臨。数年の後に、同じくテニスのトッププレイヤーの男性と恋に落ちて結婚する事に――陽彩の事なんぞ、最早頭の片隅にも残っていないようだった。
ラウラ・ボーデヴィッヒは強制帰国後、ドイツ軍から除隊され、ストリートチルドレンとしての日々を送っていたのだが、ある日移動式パン屋を営む女性から恵んで貰ったパンの美味しさに感激して、女性に弟子入りし、数年の修業の末に女性から免許皆伝を貰い、今では移動式パン屋の二代目としてドイツ各地でパンを売り歩いている。日々美味しいパンを作る事を考え、其れに没頭した結果、陽彩の事なんぞ頭の中から完全に消え去ってしまったらしい。
銀髪に眼帯と言う特殊な容姿も相まって移動式のパン屋には固定客が付き、其れなりに繁盛している。
シャルロット・デュノアはIS学園を卒業後、代表候補生の座を辞して専用機をフランスに返却し、日本の大学で経済学を学んだ後に帰国し、陽彩から得た機体データを基に次々と新型のISを開発して、デュノア社を欧州屈指の企業へと成長させるに至った。そして数年の後に、シャルロットはデュノア社の二代目社長としてその名を世界に轟かせる事になる。
シャルロット以外の四人は、奇しくも全員が陽彩への思いを完全に断ち切り其れなりに明るい未来を歩んでいる様だ――其れは或は、陽彩のチート転生特典が束によって削除された事が大きいのかも知れない。
陽彩の目的である『一夏ハーレムを自分のモノにする』の為に、彼女達は無意識の内に陽彩に惚れるようになっていたのかも知れない――がしかし、陽彩と離れた事で陽彩の影響が無くなり、夫々が新たな人生を歩むに至ったと言う訳だ……箒達も、ある意味では腐れ転生者の被害者だったのかも知れないな。
其れを踏まえると如何してシャルロットだけは陽彩に惚れなかったのかと言う事になるのだが、チート転生特典の影響を跳ね返してしまう位のどす黒い腹黒オーラを其の身から悟られないように放出していたからかも知れない……腹黒マジヤベェわ。
そして、その腐れ転生者である陽彩はと言うと……
「へへ株が上がったか……ならコイツを売却して……」
前世同様に引き篭もりとなっていた。
卒業式後に行方を眩ませた陽彩は、暫くは『二人目の男性IS操縦者が行方不明となった』と言う事で世間を騒がせ、捜索も行われたのだが、陽彩はダブルオーライザーのステルス迷彩機能やら粒子化なんかを使って逃げ回っていたので誰にも捕まる事がなく、やがて捜索は打ち切られる事に。
そして、後述する一夏の活躍もあって、次第に世間は行方を眩ました陽彩の事を気に掛ける事はなくなり、やがて『二人目の男性IS操縦者が居た』と言う事実までもが人々の記憶から忘れ去られる事になったのだった。
その後陽彩は整形手術で顔を変え、其れからは誰にも見つからないようにアパートでの一人暮らしをしつつ、生活費は株で稼いでいた――ダブルオーライザーをネットに接続して株取引や投資のデータをインプットすれば、後はダブルオーライザーが最適なタイミングで株の売買を行ってくれるので絶対に負けない株投資が出来るのである。
なので陽彩は普段の生活には困っていないが、徹底的に人との接触を辞めた結果、陽彩は引き篭もりとなってブクブクと太って行き……数年の後に、心筋梗塞を発症して此の世から永遠にセイグッバイ!ハーレムエンドを狙っていた陽彩は、哀れにも前世と同じ末路を辿る事になり、死後その魂は輪廻の輪から外され、ゴッド・フェニックスで焼かれた後に、ゴッドハンド・クラッシャーで粉砕され、超電導波サンダー・フォースで跡形もなく滅殺された。……見習い神の暇潰しで転生された自称転生オリ主の末路とはかくも憐れであった。余りにも憐れ過ぎて同情すら出来ない。……もしもチート転生特典を望まずに、ハーレム計画なんぞ立てずに真っ当に生きていたら結果は違ったのかも知れない。
陽彩の最大の失敗は、『インフィニット・ストラトス』と言うライトノベルの原作知識を持っていた事、そしてこの世界がそのライトノベルと同じ様に事が進むと思っていた事、何よりもチートな転生特典を望み其れに頼りきりになってしまった事だろう……『チートがあるからと言って幸せになれる訳ではない』、そう言う事だった訳だ。
――――――
其れでは、改めて一夏達の未来を見て行くとしよう。
織斑円夏と鷹月静寐は、IS学園卒業後『ISバトル』の専門学校に進学し、二年間みっちり腕を磨き、在学中に静寐が日本の国家代表候補生となって更識ワールドカンパニーから専用機『ネオ・クルーガー』を受領。
専門学校では徹底的にコンビネーションを磨き、タッグユニット『アマゾネス・クルーガー』を結成。
専門学校卒業後は、ISタッグバトルの世界で大活躍する事になるが、円夏の容赦のないビット武装による多角的攻撃と、それによって動きを制限された相手を静寐が近接戦闘で斬り捨てると言うスタイルが観客の目には血も涙もない冷徹な戦術に映ったのかヒール扱いされてしまい、円夏と静寐もヒールに徹してヒールとしての人気を高めて行った。
数年後、『同性パートナシップ制度』によって籍を入れたのと同じ状態となり、私生活でも充実した日々を送っているようだ。
更識簪は蓮杖夏姫の専属整備士となり、夏姫のISバトルを裏方として支え、夏姫はそんな簪に感謝しながらISバトルの世界で活躍し、シングルプレイヤーとしてその名を世界に轟かせる事に。
一夏とはライバルとしてお互いを高めており、一夏と夏姫の試合はISバトル界におけるドル箱カードに。
簪と夏姫も、『同性パートナーシップ制度』で婚姻状態と同じになっており、夏姫はその際に蓮杖夏姫から更識夏姫に改名し、現役引退後は更識ワールドカンパニーで簪と共に働き、数年の後に夏姫は新社長、簪は新副社長として会社を受け継ぐ事になる。
凰乱音はIS学園卒業後、台湾の国家代表に上り詰め、国内外のISバトルの大会で活躍し、『アジアでも五本指に入るシングルプレイヤー』と呼ばれる事に。
中国で開催された大会に出場した際に鈴と再会し、互いに全力で戦い僅差で勝利した後に和解し、今では互いにライバルとして認め合う仲になっている。一夏とは相変わらずの悪友的仲を続けながらも、ロックミュージシャンの男性と恋に落ちその後結婚し、幸せな家庭を築いている。
ファニール・コメットとオニール・コメットはアイドル業を続けながらISの宇宙開発にも関わるようになり、遂には人類初となる『ISのみでの宇宙進出』を達成し、更に其処でこれまた人類初となる『宇宙でのライブ』を行い、其れは世界中に生配信され彼女達のトップアイドルとしての地位を確立する事になった。
因みに、己の夢を叶えてくれた事に感激した束が、コメット姉妹を猛烈に推す事になり、彼女達の熱狂的ファンになるのはまた別の話ではあるが。
布仏虚は五反田弾と数年の交際を経た末に結婚して五反田虚となり、五反田食堂の美人女将として常連客から大人気に。
ワイルド系料理長の弾と、知的美人な女将の虚のコンビは中々に良い感じであり、弾の料理の腕と虚の接客能力の高さもあって五反田食堂は地域最強の食堂となり、ネットの口コミサイトでも五つ星の最高評価をされる事になった。
虚の妹の布仏本音も五反田食堂の店員として働いており、食べる事が大好きな事を活かして五反田食堂の新メニューの開発にも貢献しており、彼女がゴーサインを出したメニューは五反田食堂の人気メニューとなっている。
そして、此処からは本命である一夏と嫁ズだ。
更識刀奈、ロランツィーネ・ローランディフィルネィ、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、グリフィン・レッドラム、クラリッサ・ハルフォーフは一夏と結婚後、夫々織斑刀奈、ロランツィーネ織斑、ヴィシュヌ・I・織斑、グリフィン織斑、クラリッサ織斑となり、ISチームバトルユニット『カオス・ヴァルキリーズ』を結成し、ISチームバトルの世界で敵なしの強さを見せつけて大活躍し、世界最強チームユニットと呼ばれるようになる。
しかし、全員が第一子を身籠った事を機に現役を引退し、その後は子育てをしながら一夏のマネージャーとして、全員で愛する夫を支えて行く事になる。――因みに第一子は全員が双子を出産すると言うトンデモねぇミラクルをブチかまし、『一夫多妻で妻全員が第一子で双子を出産した』と言う記録でギネス認定される事に。
織斑一夏は、卒業後ISバトルの世界にプロとして参戦して、国内外の大会を総なめにして、第八回モンド・グロッソに出場し、圧倒的な力で破竹の勢いで勝ち進んで行き、決勝戦では夏姫とアリーナのシールドを吹っ飛ばすほどの大激戦を行った末に勝利を収め、世界初となる男性の覇者となり『ジークフリート』の称号を得る事になり、其れは一夏を表す単語となる。
その後も一夏はISバトルの大会で活躍する事になるが、高額賞金が掛かった大会は頻繁に開催されるモノではないので、一夏は五人の嫁と子供達の将来を考えて料理屋『織斑飯店』を開店して、『世界初の男性IS操縦者』が経営する店として人気を博すだけでなく、五人の美人妻が店員を務めていると言う事でも話題となり、五反田食堂と同様に口コミサイトで五つ星の評価を受ける事になる。
五反田食堂とは違い、日本料理だけでなく、オランダ料理、タイ料理、ブラジル料理、ドイツ料理を提供する店としてもその名を轟かせる事になる。
そして、一夏達がIS学園を卒業して十年後――
「なぁ、母さん、父さん勝つよな?」
「当然でしょ?彼方達のお父さんは世界最強なんだから♪」
「一夏は勝ちます。絶対に。」
「一夏が勝利すると言う以外の選択肢は存在しない……嗚呼、矢張り君は最高だな一夏!!」
「ロラン、貴女はどんな時でもブレませんね……」
「其れがロランママだからね。」
「流石我が娘、良く分かっていらっしゃる。」
「さぁ、試合が始まるぞ。」
第十七回モンド・グロッソの決勝戦、其の会場には一夏の嫁ズと子供達が応援に集まっていた。
嫁ズと子供達は、勿論一夏の勝利を願っており、一夏も其れに応える心算だろう――だから、一夏は龍刀・朧を抜刀して対戦相手に突き付ける。フェイスパーツに覆われてその顔は見えないが、唯一露わになっている口元の笑みが浮かんでいるのを見る限り、一夏はこの試合を楽しむ気が満々なのは間違い無いだろう。
「さぁ、始めようぜ?俺達の最高の試合って奴をな!!」
そして、この第十七回モンド・グロッソの決勝戦は後世に語り継がれるモノになるのだった。
THE END
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