時は十二月三十一日の年の瀬、分かり易く言うのであれば大晦日。
大晦日と言えば、新たな年を迎える為の日であり、その為の準備で正月前に、盆と正月が一緒に来たような、ともすれば忙殺されるんじゃないかってレベルの忙しさになる訳なのだが、其れは我等が主人公である一夏の実家である織斑家も同じだった。


「更識刀奈、雑巾掛け、行きます!」

「同じくロランツィーネ・ローランディフィルネィ、発進する!」

「ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー、全力で行きます!」


現在織斑家では、大晦日の一大行事とも言える大掃除の真最中なのだ。
束が拡張領域を応用した魔改造をしてくれたお陰で、織斑家の内部は此れでもかと言う位にだだっ広くなっているので、大掃除も楽ではない――束製のロボット掃除機が床面だけでなく、壁や天井も掃除してくれるとは言っても、外観の五倍あるであろう内観の掃除と言うのは決して楽なモノではないのだ。
ロボット掃除機がゴミを吸い取った後を雑巾で水拭きし、更にワックスを掛けて行く訳だからね……裸足になって雑巾掛けと言う、一昔前の掃除をしている刀奈、ロラン、ヴィシュヌの姿に一種の感動を覚えても罰は当たるまい。古き良き時代の掃除風景、実に絵になる。


「兄さん、浴室のカビが頑固で落ちないんだが。」

「だったら、キッチンペーパーの上からカビキラーを噴射してくっ付けとけ。十分もすりゃ、カビを根元から殺してくれてるから、簡単に落とす事が出来ると思うぜ……なので、トイレの頑固なカビにもそうしてくれよ千冬姉。」

「うむ、了解だ。」


円夏に指示を飛ばしながらも、一夏は千冬にも指示を飛ばすが、その指示の的確さと言ったら実に見事なモノである。
更に指示を出すだけでなく、自分は各部屋のカーテンの洗濯と窓拭きを並行して行っていると言うのだから凄いとしか言いようがない――流石は主夫と言うか、炊事のみならず、洗濯や掃除も問題無く得意科目であるらしい。一夏の主夫力は、此の家の中に居る女性の女子力を余裕で凌駕していると言えよう。


「一夏、神棚に飾るしめ縄はアレで良いのだろうか?」

「玄関の注連飾りってドレだっけか?」

「しめ縄はそんな感じで良いぜクラリッサ。玄関の注連飾りは偽物のみかんと、金と銀の飾りがついてる派手なやつだグリフィン。装飾の無い小さな注連飾りは脱衣所、各トイレのドア、キッチン、寝室のドアに張り付けておいてくれ。」

「了解!」


そして大掃除だけでなく、明日の正月の準備も同時進行で行われていた……神棚のしめ縄やお札の交換、注連飾りを飾り、鏡餅を供える。此れに加えて、おせち料理の準備などもあり、大晦日とは実はとっても忙しい日だったりするのである。


「一夏、トイレの掃除全て終わったぞ?」

「なら、円夏と一緒に浴室の床掃除!俺は床にワックス掛けるから、刀奈達は洗濯が終わってるカーテンを乾燥機に入れて、乾いたら順番に掛けて行ってくれ!」

「任されたわ♪」


だが、其れだけやる事があっても一夏の適切な指示と圧倒的主夫力、一夏と一緒になってから急速にレベルアップした嫁ズの女子力によって凄まじい勢いで消化されて行く……千冬と円夏が若干置いてけぼりを喰らっているのは仕方なかろう。この二人の女子力は、まだまだ発展途上なのだから。まぁ、少しずつではあるがレベルアップしている事は評価出来よう。
こうして一夏と嫁ズが中心となって行われた大掃除と、正月の飾り付けは午前八時半から始めて、正午には全て完了したのだ……束によって魔改造されてクッソ広くなった内部の掃除を考えると、ロボット掃除機のアシストがあったとは言え三時間半で終わらせたと言うのは驚異的なスピードだと言えるだろう。
『やり切った感』満載の一夏と嫁ズとは対照的に、『銭湯かよ!』と思う位にだだっ広い浴室の掃除を終わらせた千冬と円夏は若干燃え尽きてどこぞのボクシング漫画の最終回みたいになっていた……一夏達と比べると仕事量は圧倒的に少なかったのだが、あまり得意ではない事を三時間以上やると言うのは、結構キツかったのだろうね。









夏と刀と無限の空 Episode73
『大晦日ってのは、色々あるんだぜ』










午前中で大掃除と飾り付けを終えた一夏達は一息入れる意味もあってランチタイムに。
本日のランチメニューは回鍋肉丼、ツナと生野菜とアボカドのサラダ、ネギとサイコロ厚揚げとワカメとなめこの味噌汁、そして一夏特製の肉じゃがだ。
実は卵焼きと同じ位に人気のある一夏の肉じゃがなのだが、一夏の肉じゃがは一般的な牛肉ではなく豚肉を使っているのが特徴と言える。曰く、『牛肉は高いし、実は豚の方が牛よりも出汁が出る。バラ肉使えばコクの面でも補う事が出来るし、バラ肉が無い時は仕上げに無塩バターを加えりゃ問題無い。』との事。一夏のレシピは単純に美味しいだけでなくコストにも配慮しているみたいだ。と言うか『肉じゃが』なのだから、材料は肉とジャガイモを使っていれば良い訳で、牛肉である必要はマッタク無いのである。
誕生日やクリスマスなど、特別な時には高級な食材を使う事もあるが、普段は出来るだけ低コストに。正に主夫の鑑と言えよう……よくよく考えると、一夏の弁当のレシピの肉料理は、殆ど鶏か豚だからね。


「一夏、この回鍋肉、甜面醤ではなく日本の味噌を使ってますね?」

「おぉ、良く分かったなヴィシュヌ?
 本来なら甜面醤を使うのが正しいんだけど、生憎と切らしてたから麴味噌で代用したんだ。甜面醤も味噌も、大豆の発酵食品だから、代用は出来るんだよ。『此れがないから作れません』なんてのは、主夫失格だね。」

「無ければ似た様なモノで代用するか、確かに其れは大切な事かもしれないね。」

「ネットでカルボナーラのレシピを検索した時に、材料に『パルメザンチーズ(あればパルミジャーノレッジャーノ)』って書いてあるのと、『パルミジャーノレッジャーノ』って限定してるのであれば、圧倒的に前者の方が親近感沸くわよねぇ。」

「因みにカルボナーラを作る時、市販の粉チーズじゃ物足りないって感じた時は、ピザ用のミックスチーズやベビーチーズを細かく切って混ぜるとコクが出るぜ。ミックスチーズやベビーチーズってのは、複数のチーズを混ぜ合わせてある場合が多いから、味に深みとコクが出るんだ。」

「成程、其れは良い事を聞きました。」

「円夏、お前何の話をしてるか分かるか?」

「うん、全然分からない。分からないが、取り敢えず私と姉さんは先ずはレシピ通りに作って兄さんに合格点を貰えるようになるべきだと言う事をひしひしと感じた。」

「だな……取り敢えず、カヅに手放しで『美味しい』と言って貰えるようにならねば!!」


『レシピの材料が揃っていなければ作れないと言うのは主夫(主婦)失格』と言う一夏の意見は、正にその通りであると言えるだろう。
料理店で働く料理人ならば、全ての材料が揃っていると言うのは重要な事であるかもしれないが、家庭の主婦・主夫は『今ある材料で作り上げるスキル』と言うモノが求められるのだ。『此れが無いから作れない』ではなく、『此れが無いけど、此れで代用出来るんじゃね?』と言う柔軟な思考形態が必要なのである。
其れを聞いた千冬と円夏が、自分達とのレベルの差に衝撃を受けつつも、更なる高みを目指しているみたいなので問題はなさそうである――此の少し特殊な遣り取りを除けば、テレビを見ながら談笑しているランチタイムであり、其れは一般的な家庭でも良く見られる光景であると言え……ないか。一夏の嫁が五人も居る時点で既に一般的な家庭とは言えないわな。

其れは其れとして、現在テレビ(束製超大スクリーン16K)で流れているのは、年末特番の『マジック&超能力バラエティ』で、画面の中では様々なマジックや、超能力が披露されて行く。
その出演者の中に、稼津斗が居た事にはこの場に居る全員が驚き、稼津斗が『空中浮遊』を披露した後で、『ワイヤーアクションでない事を証明する為』にボクサートランクス一丁で空中浮遊したのには、画面の向こうで凄まじい歓声が上がっていた……ボクサートランクス一丁の稼津斗の肉体美を見た千冬が鼻血を噴出していたのは、見なかった事にしてやるのが優しさと言う奴かも知れないな。
そして番組の最後には、スプーン曲げで有名なユリ・ゲラー氏が登場した。
ユンゲラーではなく、ユリ・ゲラーである。ユンゲラーを訴えるなユリ・ゲラー。ネーミング的に絶対関係がある筈なのに『ユリ・ゲラーとは一切関係ない』と言い張るんじゃない任天堂。どっちも大人気ないわ。『百合ゲラー』だってんなら、訴えを起こしても良いかも知れないがな。

その番組の中で、ユリ・ゲラーは『この形の中から一つを選んでください。私は、皆さんがドレを選んだのかを当てて見せます』と言って、パネルに『○』、『□』、『△』、『×』、『☆』を書いて画面に出す。
そして、十秒後にユリ・ゲラーが選んだのは『☆』であり、其れは見事に一夏と刀奈以外の嫁ズ、千冬と円夏が選んだ物でもあったのだ。


「当たった!当たったぞ兄さん!彼は本物の超能力者なんじゃないか?私だけなら未だしも、姉さんですら当てられてしまったんだ……此れを本物の超能力でないと言って何が超能力か!」

「確かに不思議だな……何故奴は私達が選んだ図形が分かったのだ?」


此の結果には千冬と円夏だけでなく、ロランとヴィシュヌとグリフィンとクラリッサも驚いた様子だが、一夏と刀奈はそのトリックが分かっているらしく、驚いた様子はない……特に一夏は、ISを動かせると分かってから、刀奈達と『いっそ死んだ方が楽なんじゃね?』と思う位の訓練を行って来た事で、観察眼と言うモノが同年代と比べたらハンパなく発達しているのだ。
ぶっちゃけて言うと、一夏相手にカードゲームでのイカサマは通用しないレベルであり、刀奈も其れと同レベルの観察眼があるのだ。


「其の答えは簡単。
 出された図形の内、四個は単純な形だったけど、『☆』だけは他の四つと比べて複雑な形をしてるだろ?――人ってのは、無意識の内に単純な中にある複雑なモノに目が行っちまうんだよ。」

「つまり、此の五種類の図形の中では、多くの人が高確率で『☆』を選んでしまうのよ……故に、現在日本国内に居て、この番組を見ている九割の人は自分が選んだ図形を、彼が言い当てた事に驚いている筈よ。」


でもって、画面の向こうの『遠隔予知』も、トリックのネタを聞いてしまえば大したモノではなかった……そら、単純な図形の中に少し複雑な図形を混ぜておけば、どうしたって其れに目が行くには当然であり、仕方のない事だからね。
ネタが割れると、マジックも超能力も『こんなモノか』と思ってしまいがちだが、人間の心理を巧みに利用したトリック其の物は賞賛すべきだろう。


「成程、其れは見事なトリックだね。」

「この手のバラエティは、裏の裏まで読んでだぜ。」


一般の視聴者で、此のトリックに気付ける者が果たしてドレだけ居るのかが謎だが……少なくとも一夏と刀奈は、そのトリックには引っ掛からない位に観察眼が養われたいたと言う事なのだろう。
刀奈以外の嫁ズは、日本のバラエティに疎かったと言う事でご容赦願いたい。――『クラリッサだったら疎くないんじゃねぇ?』と思うかもしれないが、クラリッサはアニメ、漫画、ゲームに関しては此の上ないヲタであり、ともすればガチオタ勢なのだが、反面バラエティとかの知識は皆無!
ぶっちゃけて言うと、ヲタ要素皆無のバラエティなんぞ全く興味はないのである。此れが、『日本人が選ぶアニメTOP100』ってな番組ならもっと食いついただろうが。

そんな事をしている内に、ランチメニューはソールドアウトしてランチタイムは終了となり、この後は後片付けをして普段は終わりなのだが、大晦日である本日は後片付けが終了しても終わりではない。


「そんじゃ、買い物に行って来るか。
 おせちの材料は大体決まってるから、希望を聞くのは年越しそばのトッピングなんだが、何かリクエストある?」

「はーい!海老天は外せないと思いまーす!海老天は、最早殿堂入りのトッピングでしょ?」

「海老天は学食の天ぷらそばにも乗っているから鉄板だろうけれど、穴子天も外せないんじゃないかな?」

「彩として、水菜の塩茹ではどうでしょう?」

「其れも良いけどお肉ーー!ガッツリとしたお肉は絶対必須!!」

「温泉卵も、アリだろうな。」

「肉を入れるのであれば、牛や豚よりも鴨肉の方が良いだろう。鴨南蛮そばと言うのもあるからな。」

「トッピングのリクエストは無いけど、そばの汁は黒くない方が良いぞ兄さん。」

「海老と穴子、水菜に鴨肉と卵、黒くない汁ってなると白醤油も必要か……OK、じゃあ買い出しに行って来るわ。」


そう、大晦日には年越しそばの材料と正月のおせち料理の材料の買い出し言う重要なミッションがあるのだ!
おせちのメニューは一夏の中では決まっているので、一夏は嫁ズと千冬と円夏に年越しそばのトッピングリクエスト(円夏は汁のリクエストだったが)を聞き、其れをメモして行く。一夏は己の主夫力を全開にして、確実に全員のリクエストに応えた最強の年越しそばを作り上げる事だろう。


「兄さん、今日は私が一緒に行くぞ。」

「そうねぇ?偶には円夏と一緒でも良いんじゃないかしら?私達だけで一夏を独占しちゃったら、お兄ちゃん大好きっ娘の円夏も色々と良くないでしょうし♪折角だから、思い切り甘えて来ちゃいなさいよ円夏。」

「ふむ、確かに兄妹水入らずと言うのも良かろう。」

「千冬姉は良いのかよ?円夏以上に俺との時間が無いと思うんだけど。」

「学園では教師と生徒だからな……まぁ、私もお前と水入らずで過ごしたい気持ちはあるが、冬休みは未だあるのだから私は追々にさせて貰う事にするさ。」

「まぁ、そう言う事なら……んじゃ、行くぞ円夏。」

「うん!」


本日の買い出しには円夏が同行する事になり、家には千冬と一夏の嫁ズが残る事に……まぁ、冬休み中に一夏が買い物に行く際のパートナーは、嫁ズが日替わりだったので、偶には妹の円夏と一緒と言うのもアリと言えるだろう。兄妹仲良くお買い物ってのも良いモノだからね。
まぁ、円夏がブラコン全開になって、一夏がそのブラコンパワーに辟易してしまうんじゃないかと言う一抹の不安があると言えばあるのだが、まぁ多分大丈夫だろう。


「それにしても束の奴め、勝手に人の家を改造しよってからに……外観は変わっていないのに、中は明らかに外観とは異なる広さって、どんなビックリハウスだ?此れは何か?某青色猫型ロボットの漫画で使われている圧縮空間と言う技術か?」

「束博士は、『ISの拡張領域を応用したんだよ~~』と言っていたよ義姉さん。」

「マッタク、其れは技術の無駄遣いと言う奴ではないのか?全くアイツと言う奴は昔から変わらんな。」

「そう言えば、お義姉さんと束博士ってドレ位の付き合いになるんです?」

「束とは中学からの付き合いになるから、もう十年以上か。
 今のアイツからは想像も出来ないだろうが、あの頃の束は所謂コミュ障と言う奴でな、真面に人との会話が出来ない奴だったんだ……正確に言えば、自分から他人と関わる事をしていなかったと言うべきか。何時も教室の隅で一人でいた記憶があるな。
 私も当時は『変な奴だ』としか思っていなかったのだが……中一の一学期のスポーツテストで、私は束以上の成績でぶっちぎりの学年トップどころか校内トップをも突き抜けて全国トップになってしまったんだ。
 其れで、其れを知った束が私の元に突撃して来てな……小学校の時、束は運動でも勉強でも誰にも負けた事が無かったらしくて、自分が一番だと思っていたのだが、初めて自分の上を行く奴に出会って興味を覚えたらしくてな。
 『お前中々やるじゃないか!束さんと勝負しろ!』と頭のネジが吹っ飛んで来た事を言って来たので、断ってやったのだが、その後もしつこく勝負を申し込んで来たので、『教師立会いの下でなら』と言う条件の下で柔道部と剣道部が使っている道場で一本勝負を行う事になってな。」

「それで結果は如何だったんです?」

「何方も一歩も譲らない展開だったのだが、最後は私がスーパーアルゼンチンバックブリーカーからのフラッシュエルボーのコンボを叩き込んで勝った――が、自分を負かした私の事が気に入ったらしく、その日から私の事を『ちーちゃん』と呼んでくっ付いて来てな。
 私としても束のような奴は初めてだったのでな、嫌われていないのならば良いだろうと思って付き合ってる内に本当の親友になっていたと言う訳だ……私と付き合うようになってからの束は、私以外の人達とも積極的に関わろうとしていたと言うのを考えると、束と私が出会ったのは束にとっても良い事であったのかも知れん。」


残った面子は、少しばかり雑談タイムに。
其処で千冬と束の過去が明かされたのだが、もしも中学時代に千冬と出会ってなかったら、束はトンデモナイ引き篭もりの陰キャになっていただけでなく、自分が認めた人間以外は認知しないと言う、トンデモナイ存在に――其れこそ、一夏がイチカ・アインザックとして訪れた平行世界の束みたいなロクデナシになっていたかも知れない訳だ。
ガチバトルと言う力技で束に勝った千冬は、束のDQN化を阻止していた訳だ……この事実だけでも、国民栄誉賞を与えても良いんじゃないかと思うわ。束がDQNになっていたら、ISも世界もきっともっと違うモノになっていただろうからね。


「其れよりも、お前達は一夏とは如何なのだ?学園で見ていた限りでは問題はないように見えるが……」

「其れは心配ありませんわお義姉さん。更識刀奈以下五名、一夏との関係は至極良好!時々ちょっとした喧嘩をする事はあるけれど、其れが逆に絆をより強くしている位ですから。」

「雨降って地固まる……絆を強くするためには、適度な喧嘩は必要な事であるのかも知れないね?」

「お互いに相手の事を本気で愛しているからこそ、本音で話す事が出来る……本音をぶつけ合った末の喧嘩と言うのは、後腐れなく仲直りも出来ますので。」

「ぶっちゃけ、時々一夏と喧嘩しないと刺激が無いって言うか……まぁ、仲直りした後は一夏と、アレなんだけど。」

「喧嘩後のアレは直前まで気持ちが昂っていたせいか、何時もよりも激しいからな……其れを良いと思ってしまっている私達もまた大概であるとは思うが……」

「お前達がしてる事をしてるのには今更何も言わんが、流石に在学中に妊娠だけはしてくれるなよ?世界初の男性IS操縦者が在学中に己の嫁ズを孕ませたなんて言う事になったらマスゴミ共が黙ってないだろうからな。」

「其れは大丈夫ですよ。一夏とする時は、束博士お手製の避妊薬を服用してますから。」

「……確かに、其れは避妊率120%だろうな。」


雑談の内容がちょっとアレな方向に進んでしまったが、一夏の姉であると同時に、IS学園の教師でもある千冬としては、一夏と嫁ズが今どんな状況であるのかと言う事は何よりも把握しておきたい事だろう。
一夏と嫁ズの関係に亀裂が入っている様ならば、其れを何とか修正してやろうと思っていたのだが、少なくとも現状ではその必要はないと言って良いだろう。時々軽い喧嘩をする事はあっても、其れは直ぐに仲直りをしており、そう言った日はより激しい夜のISバトルをしているみたいだからね。
何よりも、そう言う時の一夏は激しくとも嫁ズへの愛を120%の状態で事に及んでいるので、嫁ズは一夏に抱かれるほどに一夏からの愛を実感出来るのだ……加えて、一夏はそっちの方の技術も経験するたびに巧くなって行くと言うおまけ付きである。織斑一夏と言う男は、あらゆる面において上限と言うモノが存在していないのかも知れん。


「だが、お前達は一夏の事を本気で愛してくれていると言う事は良く分かっているから、姉としては安心して愚弟を任せる事が出来ると言うモノだ……法的に一夏が結婚出来るようになるのは二年後だが、いっその事IS学園の卒業式の後で、お前達の結婚式を挙げるか?」


此処で千冬がトンデモナイ爆弾を放り込んで来た!
確かに一夏が法的に結婚出来るようになるのは、二年後なのだが、だからと言って卒業式の後で結婚式とか流石にぶっ飛んでいると言わざるを得まい……そもそもにして学園側から許可が下りるのかと言う問題がある。

幾ら何でも、こんな事は千冬の一存で決める事は出来ない事ではあるんだが……十蔵学園長なら、とっても良い笑顔で了承してくれる未来しか見えない。と言うか間違いなくOKするだろう。
IS学園の学園長である轡木十蔵は、人の好さそうな、所謂好々爺と言った雰囲気ではあるが、良い事とダメな事をキッチリ線引きする人間だ。が、しかし同時に『誰かに多大な迷惑が掛からないのであればやっても良いよ』と言う部分もあったりするのだ。
学園祭に於ける、『一夏チームvs陽彩チーム』のISバトルに関しても、企画を持って来た夏姫に最終的なゴーサインを出したのは学園長なのである。
千冬が『卒業式後に一夏と嫁ズの結婚式を挙げたい』と本気で申請すれば、其れは許可される可能性が高いと言えよう……『世界初となる男性IS操縦者が、IS学園で卒業式後に嫁五人と結婚式を挙げる』と言うのは、学園にとっても良い宣伝になる訳であるからね。まぁ、実現するかどうかはまだ二年も先の話ではあるが。


「学園を卒業後に、婚約者も卒業して妻になります……其れも良いかも知れませんわねお義姉さん?」

「卒業式の日には、ウェディングドレスも必要になると言う訳か……三年間苦楽を共にした学友達に祝福されながらの結婚式、悪くないかな。」

「ウェディングドレスか、其れともタイの伝統衣装にするか迷いますねぇ?」

「リオのカーニバルの衣装をアレンジしたドレスにしようかな私は♪」

「……あの衣装のアレンジだと、ウェディングドレスとしては些か露出度が高過ぎるような気もするが……私は、和装でやりたいな。」


其れでも、その方向の話に飛びついてしまうのは現役JKと二十歳の若者であるが故か。
一夏と円夏が買い出しから帰って来るまでの間、千冬と嫁ズは学園では中々出来ない『ガールズトーク』に花を咲かせ、未来の義姉妹の時間を楽しむのであった。


因みに買い出し中の一夏と円夏は何時ものようにオータムが陰で護衛をしているのではなく、最早お馴染みとなった『T-はっぴゃっ君』が護衛を行っていた。
と言うのも、オータムは束から『年末年始くらいは、オーちゃんもゆっくりしてよ』と、年末年始の休暇を貰い、現在アメリカに一時帰国中なのである――学園でも、学園外でも一夏の護衛をキッチリ務めていたのだから、年末年始くらいはゆっくり休んでも罰は当たるまい。
ただ、束が『一体でいっ君を護衛するってのは効率が悪いかなぁ?』と考えたせいで、複数のT-はっぴゃっ君が配備されたせいで、本日は街の至る所で人造シュワちゃんが目撃されたのであった……今更だが、此れは本人に肖像権云々の許可は取ってあるのかちょっと謎である。まぁ、束なら実際には許可を取ってなくても、『許可済み』と言う結果だけを残す事は造作も無いだろうけどね。


「しかし、束は一体何人の人間が住む事を想定して、此れだけの広さに改造したのだろうな?
 将来的に、一夏とお前達の間に子供が出来る事を考えて広くしたのだろうが……アイツは一体、お前達が一人頭何人の子供を産むと思っているのやらだ。」

「此の広さだと、一人五人……つまり合計で二十五人の子供が出来てもまだ余裕があると思いますわお義姉さん。」

「此のまま旅館でも開業出来るんじゃないかと思う位の広さだからねぇ……夏休み終了から、僅か四ケ月足らずで此処まで改造してしまう束博士には驚きだよ。」

「家主に無許可で、と言うのはきっと言うだけ無駄なのでしょうね。」

「今更だが、黒兎隊の宿舎よりも広いな此れは。」

「広いお家ってのは、気分が良いけどね♪」


果たして、束が一夏と嫁ズの間に将来的に何人の子供が出来る事を予想して織斑家の内部を魔改造したのは、きっと本人にしか分からないだろうが、確実に『大は小を兼ねるから、広い分には問題ないよね♪』ってな考えがあった事だろう。
『広い家は、其れだけで掃除がクソ怠くなるほど大変だ』と言う根本的な大問題に関しては、間違いなく考えていなかった事だろう。精々『束さんお手製の、超高性能ロボット掃除機を搭載しとけば大丈夫だよね!』程度しか考えていなかった筈だ――まぁ、確かに本日の大掃除では、そのロボット掃除機が大いに活躍してくれた訳ではあるのだけれどね。








――――――








買い出しから戻って来た一夏と円夏は結構な大荷物だった。
おせちの材料は兎も角として、年越しそばの材料が、人数は八人なのに対して倍以上の十八人分もあるのだ。
だが此れは決して間違いではない。一夏は普通に二人前食べるし、刀奈達だって二人前とは行かずとも一人半前食べるし、グリフィンに至っては軽く五人前は食べるのだから、此れだけ買っておいても問題は無い。特にそばは乾麺を買っているので余ったとしても保存が出来る訳だからな。

其れは其れとして、一夏は只今大鍋でそばの汁を作りながら海老と穴子の天婦羅を揚げており、嫁ズと千冬と円夏はお風呂タイムだ。
『どうせ今日は夜更かしするんだろ?なら飯の前に風呂入った方が良い』との一夏の意見を聞いて、夕飯の前にお風呂タイムと言う訳である。一夏も夕飯の前に風呂に入る予定だが、風呂に入ってから揚げ物とか冗談ではないので、風呂の前に天婦羅だけは仕上げていると言う訳である。


「っと、温くなったからお湯代えるか。卵八個なら、此れで良い感じの温泉卵になるだろ。」


否、天婦羅だけでなく、同時に温泉卵も作っていた。
温泉卵は作るのが中々に難しいと思うだろうが、冷蔵庫から出した卵をボールに入れ、其処に煮立った熱湯を注いで、そのお湯が温くなったら湯を捨てて新たな熱湯を注ぐ事で簡単に作る事が出来るのである。


「一夏、出たよ?」

「ナイスタイミングだな?こっちも丁度天婦羅が揚げ終わった所だ。そんじゃ風呂行って来るから、水菜茹でてネギ切っといてくれ。」

「うん、了解。」


此処で刀奈達がお風呂タイムを終え、一夏も丁度天婦羅が仕上がったので、入れ替わるようにして今度は一夏がお風呂タイムである。学園の大浴場並みにだだっ広い風呂を一人占め出来るとか、此の上ない贅沢と言っても過言ではあるまいな。
二十分ほどで風呂を終えた一夏は、改めてキッチンに立つと年越しそばを仕上げて行く!
大鍋でそばを茹で、少しだけ早めに湯から上げると水で表面の滑りを落とすと同時に麵を〆た後に、別の鍋で沸かしていた熱湯に潜らせて温めると、よく湯を切ってから大きめの器に盛り、其処に海老天と穴子天、刻みネギと水菜の塩茹で、温泉卵、網焼きにした鴨肉のスライスをトッピングしてから、鰹節、サバ節、昆布、タイのアラ(魚屋で貰ったモノ)で出汁を取って、白醤油で仕上げた特製の黄金色の汁を注いで、一夏特製の年越しそばの完成だ。
更に副菜として、小松菜と油揚げの煮びたしと、鮭と生ゲソの漬けもあると言うのだから、中々に豪勢な大晦日の晩餐メニューであると言えるだろう。


「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」


大晦日の晩餐は年越し特番と共にと言うのが基本であるが、一夏達が今見ているのは、大晦日の恒例行事である国営放送の『紅白歌合戦』である――流行りのアーティストに興味がある訳ではないが、コメット姉妹が出場すると言うのであれば見ないと言う選択肢はあり得ない。
何しろコメット姉妹は、昨日のレコード大賞では、外国人の双子アイドルで大賞を受賞と言う、レコード大賞史上初となる偉業を達成した居るので、本日の紅白も注目されているのである。

そのコメット姉妹は、本番でやってくれた。
歌う前のトークでは本番用の衣装を着ていたのだが、ステージに向かってから曲のタイトルコールが行われる僅かな時間の間に控室に戻って、IS学園の制服に着替えて本番に登場したのだ。
此れには番組スタッフも驚いたが、更にコメット姉妹はステージ上で専用機を展開し、アクロバット飛行を披露して会場を盛り上げると言う更なるサプライズをやってくれたのである……ファニールもオニールもエンターティナーとしては超一流であると言っても過言ではあるまいな。後日、コメット姉妹が登場した際の紅白の瞬間最大視聴率は40%オーバーと言う凄いモノであった事が明らかになるのだった。

コメット姉妹の晴れ舞台を見た後は、クラリッサの希望で年末特番の『ジブリアニメ名作選』にチャンネルを変えて、ジブリ作品の名作を楽しむ事に……因みに、放送されるのは、新聞のテレビ欄によると『風の谷のナウシカ』、『となりのトトロ』、『もののけ姫』との事。うん、ジブリ作品不朽の名作トップスリーだな此れは。

一夏特製の大晦日の晩餐メニューは、見事にソールドアウトし(一夏の予想通り、グリフィンは結局五人前どころか七人前平らげて、購入したそば十八人前は見事に無くなった。)、一夏はおせちとお屠蘇の仕込みだ。
お屠蘇は、日本酒とみりんを混ぜたモノに屠蘇散を入れればOKなので難しくなく、おせちに関してもかまぼこや伊達巻、昆布巻き、小鯛の笹漬けなんかは市販のモノを使うのだが、其れだけでは良しとしないのが一夏だ。
煮物、田作り、栗きんとんと黒豆、鮗の粟漬けは手作りし、更にオリジナルメニューである野菜のチキンロールも作り上げていく
栗きんとんや黒豆も、普通なら市販のモノを使う所だが、手作りするのは一夏の拘りと言った所だろう。手作りなら、甘さも調節出来るしね。
クチナシと一緒に砂糖煮にした栗とサツマイモは見事な黄金色に仕上がっており、一夏特製の栗きんとんは『黄金の栗きんとん』に仕上がり、黒豆も良い色艶だ。
煮物に田作りも良い感じに仕上がり、鮗の粟漬けも明日の朝には良い感じの漬かり具合になるだろうし、野菜のチキンロールも断面が色鮮やかに仕上がり、一夏も満足そうだ……が、此れだけでなく、一夏はおせちには少し奮発して、車海老とアワビも購入しており、其れ等を酒蒸しにして重箱に詰めて行く。此れは、可成り豪華なおせちになるだろうね。

そして、其れだけでは終わらないのが織斑一夏だ。テレビを横目で見ながらおせちを作っているだけではない。


「はい、つまみは此れで良いか千冬姉?」

「あぁ、すまんな一夏。うむ、ドレも旨そうだな。いや、実際に旨いに決まっているか。」


晩酌を始めた千冬に、酒の肴を提供するのも忘れずに、バッチリと作っているのだ。何処までも抜かりの無い男である。
一夏が作った酒の肴は、『クリームチーズのスモークサーモン巻き』、『チョリソーの網焼き、七味マヨネーズ添え』、『タコと胡瓜の明太子和え』とドレも酒がすすむモノだった。実の弟だけに、姉の好みは熟知していると言う事なのだろう。

其処からは、特に何もなくジブリ作品を堪能していたのだが、途中で円夏が睡魔の限界に来たので、一夏が円夏を寝室に運んでベッドに寝かせてから、引き続きジブリ作品を楽しみ、途中で潰れた千冬は、円夏と同様に寝室に放り込んだ。円夏も千冬も、一夏は軽々と片腕で持ち上げていたのは素直に凄いと言っても何ら罰は当たるまい。
其の後は、最後までジブリ作品を楽しんでから嫁ズと共に洗面所で歯を磨き、そんでもって寝室に行ってベッドイン。


「「「「「「良い年を。」」」」」」


でもって、寝る前に一夏は嫁ズ全員とキスをすると、超キングサイズのベッドで全員一緒にオヤスミナサイってな所だ……因みに本日一夏の隣を勝ち取ったのは刀奈とヴィシュヌであった。
公平なじゃんけんで決まった結果なので、文句は付けようがないが、其れでも一夏の右隣を勝ち取ったのが刀奈なのは『元祖一夏の嫁』としての面目躍如と言った所だろうか?『嫁ズは平等』と率先している刀奈ではあるが、こう言った場面では『一夏の元祖嫁』としての力を遺憾なく発揮して、無類の強さを見せてくれるようである。だからと言って、嫁ズの仲が悪くなるとかそう言う事は絶対ないのが彼女達の凄い所であると言えるだろう。

何にしても、本日は最高の大晦日だった、其れだけは間違いないだろう。一夏と嫁ズは、ベッドの上で此の上ない位の良い顔で眠りに就いていた訳だからね。











 To Be Continued