城での調査を終えた一夏はレジスタンスの拠点に戻ろうとしていたのだが、その最中でスマホが震えたので見てみると、『ミニゲーム:ダーツが遊べるようになりました。(合計点分のスキルポイント取得)』、『ミニゲーム:ダンスバトルが遊べるようになりました。(勝てばスキルポイント+10、ノーミスの場合+30)』とのメッセージが。シナリオが進行した事でミニゲームが解放されたみたいだ。
一夏としては直ぐに拠点に戻りたかったのだが、街から出ようとすると入り口近くの住民から『この先の橋が壊れて、修理中らしい』と言われ、街から出る事が出来なかったのだ……解放されたミニゲームをプレイしないと街から出られないと言う事なのだろう。実際のゲームでは、ミニゲームを遊んでスキルポイントを得る強制イベントなのかも知れないが、一夏の場合はスキルポイントを消費して修得するスキルは全て開放されているので無用の長物である。
前回『拠点に戻って行ったと言って無かったか?』だって?『拠点に戻って行った』とは言ったが、『街から出た』とは言って無い。つまり、拠点には戻って行ったが街からは出ていないのだ。と言うか、出れなかったのである。
「しゃーない、直ぐに終わりそうなダーツを適当に遊んでから帰るか。」
なので完全に無駄イベントなのだが、ミニゲームを遊ばないと街から出れないと言うのであれば仕方ない訳で、一夏はダーツをプレイして、全て真ん中に命中させると言う事をやってのけた。『投擲武器ならば百発百中』は伊達ではないのだ。
ダーツを遊んだので、今度こそ拠点に戻ろうとしたのだが、ダーツ場を出たところで背後に気配を感じた。
「気のせいか?」
だがその気配は一夏が移動すれば付いて来る……如何やら尾行されているらしい。
なので一夏は真っ直ぐに帰る事はしないで、街の店を梯子しつつ、自分の後を付けて来る相手を撒こうとしたのだが、相手はピッタリとくっ付いて来て撒く事は出来ないみたいだ。
「(ったく、そんだけの闘気を丸出しにしてたらバレバレだっての。其れとも態とバラしてんのか……てか、此れって確実に街から出たら戦闘になる奴だろ。)」
『街から出たら戦闘になる』と判断した一夏は、武器屋で新たに『スローダガー』を十本、雑貨屋で『指開き革グローブ(装備するとEXスキルクリティカル率10%アップ)』を購入すると其れを装備して街を後にする――Gパン+Tシャツ+革ジャン+革製の指開きグローブの組み合わせは中々に格好良いな。
「隠れてないで出て来いよ、アンタが俺を付けてるのは分かってるぜ?」
「ふん、勘は悪くないようだな。」
「アンだけ闘気向けといてよく言うぜ。
余程の鈍感じゃない限り分かるっての……つか、アンタだったのか千冬姉。そしてまたなんて格好をしてんだよ……殆どKOFのクリザリッドじゃんかよ其れ。マジでこのゲームの世界観どうなってんだか。」
街を出たところで、自分を付けて来た相手に『出て来いよ』と言うと、現れたのは千冬だった。しかも、戦闘用のバトルスーツを着て日本刀を装備した状態の。
『城からは無事に逃げる事が出来たけど、実は暗殺者にはバレてました』と言ったイベントなのだろうな此れは――千冬だけで、稼津斗まで来ていない所に束の常識を感じるな。
千冬だけでなく稼津斗まで居たら、其れは最早負けイベント以外の何物でもないわ。
「そんで、俺に何か用か?」
「なに、城でコソコソ嗅ぎ回っていたネズミを駆除しようと思ってな?街中で駆除したら、死体の処理が面倒だが、街の外でなら川にでも投げ捨ててしまえば其れでお終いだからな。
大人しくしていれば、一瞬で終わるぞ?」
「そう言われて、俺が大人しくするとか思ってる訳じゃないだろ?」
そして千冬が一夏目掛けて斬り掛かって来るが、一夏は其れを躱してカウンターの回し蹴りを放ち、千冬は鞘で其れを受け止め、そして間合いが離れる――今のは戦闘前のムービーと言った所か。
間合いが離れた所で、改めて一夏と千冬は構えた状態で対峙する……いざ、戦闘開始だ。
夏と刀と無限の空 Episode62
『記憶の蓋を開ける鍵はキスです!』
戦闘が開始され、千冬のHPゲージが表示されるが、HPゲージの色は『HPゲージ四本』を意味する青色――白雪姫である刀奈のHPが二本であったのを考えると、イキナリHPが二倍の相手と戦う事になった訳だ。
まず手始めに、一夏はスローダガーを使って遠距離攻撃を仕掛けるが、千冬は其れを全て日本刀で叩き落してノーダメージ……だが、その間に一夏は近くに有った『木製ベンチ』を手にして間合いを詰めると戦闘開始早々に『凶器EXスキル』を発動!
『EXスキル』は所謂『ムービー系必殺技』であるので、発動したら必ず相手にダメージを与えられるので使える時には積極的に使うべきなのだが、今回の『凶器EXスキル』の演出は、先ずベンチでカチ上げ、更にぶん殴ってダウンさせ、ダウンした所にベンチごとダイビングプレスを叩き込むと言う豪快極まりないモノだった。
因みに『EXスキル』を使用するには『EXゲージ』が必要になるのだが、束によって最強状態になっている一夏のEXゲージは最大値の六本であり、全スキルが解放されているので通常攻撃でEXゲージがガンガン溜まっていくので、気軽に必殺技の『EXスキル』が使えると言う訳だ。
今の『凶器EXスキル』に、指開き革グローブの効果で確率が10%アップしたクリティカルが発生して千冬のHP青ゲージを半分ほど削る事が出来たが、此れは全体の八分の一を削ったに過ぎないので、戦闘はまだまだこれからだろう。
「やるじゃないか。」
ダウン復帰した千冬は、其処から踏み込んでの居合いを繰り出し、一夏は其れをスウェーで躱す……体術や一部の凶器攻撃(警棒や木刀)はガード出来るのだが、基本的に武器攻撃はガード出来ないので避けるより方法は無いのだ。
そして避けながら、一夏は細かいカウンターを入れてチクチクとHPを削って行く――千冬にしてはあまり強くないが、まだ前半の敵であり、刀奈達と違って『見た目が同じだけのデータ』なので、極悪な強さではないのだろう。此れが本物の千冬だったら、一夏のカウンターにダブルカウンターを叩き込んでいる筈だ。
「シャア!!」
「グハ!!」
此処で一夏が千冬をホールドすると、掌底を叩き込んでから飛び回し蹴りで吹き飛ばし、千冬のHPゲージが残り二本の黄色に突入――が、このダウンから復帰した千冬はオーラを纏った状態になる。前に刀奈がなった、強化状態と同じだ。
但し、刀奈が纏ったのが白いオーラだったのに対し、千冬が纏っているのは禍々しい紫のオーラだが。
「行くぞ……!」
「速い!ぐあぁぁ!!」
強化状態になった千冬は、凄まじいスピードで一夏に肉薄して突きを繰り出し、一夏は其れを避け切れずに喰らってしまい、HPが一撃で半分に……ゲームだから腹を貫かれても、HPが残ってる限りは死なないが、現実世界だったらこの一撃で瀕死だろう。
だが、只でやられる一夏ではなく、ダウン時のカウンターEXスキルを発動し、腕の力だけで飛び上がって千冬の首を足でホールドすると、後方宙返りの要領でぶん投げ、ダウンした所にバック宙からのニ-ドロップを叩き込む!刀奈に叩き込んだ時と演出が違うが、其処は『味方になるか』、其れとも『敵のままか』で変わると言う事なのだろう……攻撃の演出で味方になるか敵のままかを判断出来るってのはある意味有難い事かも知れないな。
更に一夏はダウンした千冬に対して『ダウンEXスキル』を発動し、エルボードロップを叩き込んだ後にSTFを極めてダメージを与える――『此れって、EXゲージがあればダウンEXスキルでハメられるんじゃね?』と思うだろうが、同じEXスキルは使うたびに与えるダメージが減るので、ハメ殺しは出来ないようになっている。その辺のバランスは束も考えているらしい。
だが、一夏は『此処で一気に決めないと危険』だと判断したらしく、ダウンから復帰した千冬に横蹴り→ミドルキック→後回し蹴りのコンボを叩き込むと、コンボフィニッシュEXスキルを発動!
低い態勢での肘打ちをボディに炸裂させると、右手でショートアッパーを喰らわせ、更に左手で顎をカチ上げると、其のまま左腕を振り抜いてのジャンピングアッパーカットを叩き込む!……ストゼロ3のリュウの『滅・昇龍拳』を最も遠い間合いからヒットさせた場合に変化する『真・昇龍拳』だな此れは。
このラッシュに、遂に千冬の残りHPは最後のオレンジゲージが三分の一になり、一夏はダメ押しとばかりに千冬をホールドすると、『掴みEXスキル』を発動し、一本背負いで投げ飛ばした後で強引に立たせてジャーマンスープレックスを喰らわせると、其処から起き上がって千冬を持ち上げてトドメのライガーボムを叩き込む!
此の攻撃で、千冬のHPはゼロになったのだが……其処からはムービーになったらしく、一夏が千冬にフックとボディブローを叩き込むと、追撃した所に千冬の鞘攻撃が一夏の顎にヒットしてダウンさせる。
「ぐ……クソ……」
「完璧に顎に叩き込んだから、暫くは自分の思うように動く事は出来ん……今のお前を殺す事は赤子の手を捻るよりも簡単な事だが、私の質問に答えてくれたら見逃してやっても良いぞ?」
「なん、だと?」
「貴様が何故城の事を探っていたのかは大体想像が付く……お前も白雪姫の仲間だろう?白雪姫が今何処に居て、ドレだけの戦力を有しているのかを話せば、此の場は見逃してやろう。
悪い話ではないと思うがな?」
「冗談、誰が仲間売るかっての……其れに大抵の場合、こう言う状況で口を割ったらぶっ殺されるって相場が決まってんだ。如何やったって、殺されるって分かってて口を割る奴が居るかってんだ。」
「そうか……ならば死ね。」
ゲームが進行し、千冬は一夏に『白雪姫の居場所と、保有戦力を言え』と迫ったが、一夏は其れを拒否――其れを聞いた千冬は、一夏にトドメを指すべく日本刀を頭上に掲げ……
「油断大敵だぜ!!」
振り下ろされる直前に、一夏がポケットからスプレー缶を取り出して千冬に発射し千冬の顔面が真っ赤に染まる!……購入したアイテムではないが、ゲーム的にはムービーシーンなので、『事前に持っていた』と言う事なのだろう。
「ぐわぁぁ!目が、目がぁぁぁぁ!!」
「最強の『キャロライナ・リーパー』を使った唐辛子スプレーだ……最低でも三十分は目を開ける事が出来ないと思うぜ――目が見えなきゃ、俺を追う事も出来ねぇだろ?……少し格好悪いかも知れないけど、アディオス。」
「オノレェ……次に会った時は、只では済まさんぞ!!」
「だろうな……」
千冬の目を一時的に潰した一夏は、ふらつく身体で何とかその場を離れて、レジスタンスの拠点へと戻って行ったのだった。
「(倒しても、ヤバい状況になるとか……まぁ、ゲームならアリか。
だけど束さん、キャロライナ・リーパーの唐辛子スプレーは流石にヤバ過ぎるって。こりゃ、現実世界に帰還したら、キャロライナ・リーパーを使ったペペロンチーノを振る舞って、そのヤバさを体感して貰った方が良いかもな。)」
そして一夏は現実世界に帰還してからの事を考えていた……此れは、束に激辛地獄フラグが建ったな。
キャロライナ・リーパーは冗談抜きで『口から火を吹く辛さ』と言うモノだからね……ぶっちゃけ、胃袋が相当なダメージを受けそうだ。――其れでも食べると言うのだから、人類の激辛への挑戦は果てしないと言えるのかもな。(謎)
――――――
レジスタンスの拠点へと戻って来た一夏は、可成りフラフラだったので、救護班によって手当をされ、手当が終わるとHPは完全回復していた。先の千冬戦でドレだけのダメージを受けようとも、倒して拠点に戻ってしまえばHPは全回復するらしい。
手当てを終えた一夏は、拠点内を歩き回って刀奈達を探し、レジスタンスのメンバーから『白雪様なら、外に居るよ』と聞くと、迷わずに拠点の外に向かい、そして拠点の入り口で刀奈を見付けた。いや、刀奈だけでなく他の嫁ズもだ。
「よう、お姫様達がこんな所で何をしてるんだ?」
「織斑君……もう大丈夫なの?」
「あぁ、もう大丈夫だ……若しかして、心配してくれたのか?」
「大切な仲間だからね、心配もするさ。」
「……随分とやられてしまったようですが、何があったんですか?」
「……城に潜入して、城の間取りとかを調べてたんだけど、女王様が雇った暗殺者には気付かれてたみたいでな、街を出た所で襲われたんだよ……何とか逃げる事が出来たけど、アイツはマジでヤバい。
加えて、そいつよりも更に強い奴を女王様は雇ってるからな……女王様は、可成り本気でお前の事を殺す心算みたいだぜ刀奈。」
一夏が話し掛ければ、嫁ズは一夏の事を心配してくれたが、只のゲームキャラとしての反応ではなく、何処か本気で心配している様に見えるのは、彼女達が『本物』だからだろう……一夏も其れを感じたのか、安心させるために笑顔を浮かべてから何があったのかを話したのだが、その内容に嫁ズは驚いていた。
女王が白雪姫を亡き者にしようとしているのは分かっていたが、自分達を圧倒した一夏をボロボロにした相手が居るだけでなく、其れよりも更に強い刺客を雇って居ると言うのだから、驚くなって方が無理な話なのかも知れないが。
「お母様……其処までして私の事を……」
「自分よりも美しい娘ってのが如何にも許せないらしい――だけど参ったな、今回の事でオレの顔も女王様には割れちまった筈だから、気軽に街での調査は出来なくなっちまったぞ?
今日戦った奴は、間違いなく女王様が雇った傭兵集団に俺の事を伝えてるだろうからな。」
「ふむ、確かに自由に動ける戦力が居なくなってしまったと言うのは痛手だね。」
「でも、悪い事ばかりじゃないぜ?城の内部を略全て撮影出来たからな。刀奈以外は、城の内部が如何なってるかは知らないだろ?」
更に悪い事に、今回の一件で一夏の顔も割れてしまったので、此れからは街に行った際に女王が雇った傭兵集団との戦闘が発生する場合もあると考えた方が良いだろう……流石にゲームなので、街に行ったら必ず戦闘発生と言う事はないだろうが。
だが、其れでも収穫があったのは事実なので、一夏は自分のスマホで撮影した城内部の写真を、嫁ズのスマホに転送する――しかも、只撮影した写真ではなく、写真ごとに『死角になる場所』、『凶器として使えそうなモノ』が書き加えられているのだ。一夏は城の内部を調べながら、細かい仕事もしていたのである。
「城の内部の情報ですか……此れは、確かに貴重な情報ですね。」
「私が居た頃とは絵画が変わってるわね?私が城に居た頃は風景画が多かったのだけど、此れを見る限りではお母様の肖像画ばかりになってる……一体ドレだけ自己顕示欲と自己愛が強いのかしらお母様は?」
「白雪のお母さんって、めっちゃナルシストっぽいよねぇ……でも、だからって普通自分よりも美しいからって殺そうとする、実の娘を?」
「普通はしないだろうな。白雪の母親はサイコパスと言う事か。」
「己よりも美しいモノの存在を認めようとしないとは、容姿は美しくとも心は醜いとしか言いようがないね。」
この城内部の写真は、刀奈にとっても貴重なモノであったらしく、彼女が城に居た頃とは絵画が異なっていると言う事を話してくれただけでなく、城内部に飾られている甲冑や調度品も少し異なっていると言う事を教えてくれた。
女王が白雪姫を城から追放した後で、白雪姫が居た時の痕跡を消す為に模様替えをさせたのかも知れない……だとしたら、ドンだけ白雪姫の事を憎んでるんと言う事になるのだけどね。つか、そもそもにしてなんで白雪姫の女王は子供を産んだのか、其処が謎だわ。生まれたのが男児なら未だしも、女児だった場合は自分よりも美しい女性になる事は考えていなかったのだろうか?
そして、最大の謎として白雪姫のお父さんは誰?普通に考えれば国王様なんだろうけど、国王様の存在は作中で語られてないからなぁ……女王が権力を握る為に暗殺したとか普通にありそうだわ。だとしたら、女王はマジでサイコパス過ぎるな。
「でも、あんまりのんびりはしてられないかも知れないぜ?
此の場所の事は知られなかったけど、此れまでとは違って、此処に来た奴等は返り討ちにしてお終いって訳には行かない……女王様が雇った傭兵を生きて返しちまったら此処がバレちまうからな?
皆も、殺しをする心算はないんだろ?」
「そうね、殺しをする心算はないわ、賞金稼ぎの事はね――でも、お母様は必ず仕留めるわ。お母様が女王で居る限り、若くて美しい女性はあの街で怯えて暮らす事になるのだからね。
だから、少し計画を前倒しにして三日後にお母様に戦いを挑む事にするわ。」
此処で急展開!
一夏の話を聞いた刀奈は、『三日後に女王に戦いを挑む』と言う事を宣言したのだ――可成りの急展開だが、ゲームなので決行までの期間は自由に行動出来ると言う事なのだろう多分。
そして、マジでそうだったらしく、翌日からは一夏は自由行動となり、街に繰り出してアイテムの補充をしつつ、エンカウントした傭兵達を蹴散らして、夜には嫁ズのマッサージイベントを熟して信頼度を高めて行った……マッサージイベントの際に、嫁ズが一糸纏わぬ姿になって背中にタオルだけを掛けていると言うのは、束が『マッサージ』と『エステ』の区別が付いていないからかも知れないな。
それはさて置き、嫁ズとの信頼度が高くなった事で、新たに『合体EXスキル・改』が解放され、『合体スキル』の威力が大幅にアップしたみたいである。
そして、決行日前日の夜――
「不審者発見。これより職務質問を開始する。」
「何それ?」
「ちょっとしたネタだ、忘れてくれ。」
拠点の入り口で夜空を見上げていた刀奈に、一夏は声を掛けていた。声の掛け方が遊戯王5D'sの牛尾なのは仕方あるまい。最終回での牛尾のアレは5D'sの名ゼリフの一つだと言われているのだからね。
「其れで、何してたんだ?」
「星を見てた、其れだけよ。……なんてね。いよいよ明日かと思うと気持ちが昂っちゃってね――ううん、其れだけじゃない……君を見てると、心がざわつくのよ織斑君……君の話を全て信じるのならば、私達と君は婚約状態にある恋人だったのよね?
其れが本当であるのなら、私は其れを思い出したい!でも、どうしても思い出す事が出来ないの……この数日で、君が本気で私達の事を愛してくれていたって言う事は分かった……でも、君に愛されていた時の事が思い出せない……其れが辛くて、夜空を見る事で其れを紛らわせていたのかもね。」
「刀奈……そんな泣きそうな顔をしないでくれよ……お前にそんな顔は似合わない。」
「泣きそうな顔なんてして……え?あ、あれ……何で?」
記憶に蓋がされているとは言え、刀奈は――刀奈達は一夏を愛して事を忘れた訳ではない。
だからこそ、苦しい物があるのだろう……自分が愛していた筈の相手の事を覚えていないと言うのは、此の上なく辛い事だからね――だが、だからだろうか?刀奈の瞳からは自然と涙が流れていた。
記憶に蓋がされている状態でありながら、だからこそ一夏と交際関係にあった事を忘れてしまっている今の状態に、一抹の哀しさを覚えたのだろう――人の愛と言うモノはAIで支配は出来ないモノだと言う決定的な証拠と言っても良いかも知れない。
「刀奈……」
「え……?」
其れを見た一夏は、刀奈の肩を抱くと、迷う事無くその唇に口付けをした。
突然の事に驚いた表情を浮かべた刀奈だったが、直後に目を閉じて一夏からのキスを受け入れた――そして、一夏と刀奈は互いの背に手を回して、そしてキスは深いモノになって行く……キスを終えて唇を話した時、一夏と刀奈の間に銀糸が張っていたのがその証だ。
「ぷはぁ……一夏、愛してるわ。」
「俺もだよ刀奈……って、今俺の事を一夏って呼んだか?お前、記憶が戻ったのか刀奈!?」
「あ、あら?うん、如何やらそうみたいだわ一夏。思い出したわ、全てをね。」
「キスで記憶の蓋が開くとかマジかよ……」
だが、此処で刀奈の記憶の蓋が開いたらしく、一夏の事を『織斑君』ではなく、一夏と呼び、更には『全てを思い出した』とまで言って来た――ディープで濃厚なキスで記憶の蓋が開くとか、此れは流石に難易度が高いわ。……元々そう言う仕様だったのか、一夏が電脳ダイブしてアクセスしたからだったのかは不明だが、前者であった場合は、R指定が必須になるので修正が必要になるだろう。
「一夏のキスには、私達を元に戻す力があるのかも知れないわね?……と言う事は、私以外も一夏とキスすれば記憶を取り戻せるかもしれないって事よね?」
「あ~~~……まぁ、その可能性はあるだろうな。でもさ、流石に全員とキスってのは無理があるんじゃないか?」
「そうとは言えないと思うわ。
記憶に蓋をされていたとは言え、私は貴方に愛されていたのを覚えていない事を辛いと思っていたわ……そして其れはロラン達も同じだと断言出来るわ。
だってそうでしょう?貴方は私達五人の事を真剣に、そして平等に愛してくれているのよ?そして、貴女が私達に与えてくれる愛はとても大きくて深いモノなのだから、その事を思い出す事が出来ないと言うのはとても辛い事なのよ……其れに、王子様のキスでお姫様が目を覚ますって言うのは、御伽噺の定番でしょ?」
「……普通に考えると、毒リンゴ食べて死んだ白雪姫に行き成りキスする王子様ってヤバい奴だよな?しかも、其の時の白雪姫死んでんだけど……流石は、原展の王子様はネクロフィリア(死体愛好家)だっただけの事はあるぜ。
因みに原典では、白雪姫の死体を運んでる最中に馬車が揺れて、その衝撃で白雪姫が毒リンゴを吐き出して生き返ります。」
「ロマンもへったくれも無いわね。」
「ホントにな……でも、確かに其れは王道だからアリかもな。」
……御伽噺の原典は子供に聞かせられないモノが実はあったりするからねぇ?白雪姫は一夏が言ったように王子様がヤベー奴なだけでなく、蘇生した白雪姫と結婚した後は、女王を白雪姫を殺そうとした罪で、焼いた鉄の靴を履かせて処刑してるし、シンデレラは舞踏会後の王子様の嫁探しをしている際に、シンデレラが意地悪な義姉二人に靴にサイズが合うように足を切る様にそそのかし、王子様との結婚式の時に両脇に座った義姉の目を、自分と仲良くしてた小鳥が潰し、自分の娘が目と足を失った事にショックを受けた継母は自殺した挙げ句、復讐が出来たシンデレラは満面の笑みを浮かべましたって感じだからね……御伽噺の原典にはサイコパスしか居らんのか?こんなん子供に聞かせる事は出来ないわ!!
まぁ、その辺をマイルドにして子供向けにしたのが今知られている御伽噺なのだろう。
だがしかし、刀奈に自分達がドレだけ愛されているのかを聞いた一夏は、『その方法もアリかもな』と言った……御伽噺の王道展開と言う事もあるが、一夏自身がソロソロ自分の事を覚えてない嫁ズに大分参っていたのかも知れない。
当たり前の様にお互いに触れあって、キスしたりしていた関係だったのが、自分は覚えているのに相手は覚えてないって関係になってると言うのは可成りキッツイモノだったのだろう――一夏だって健全な男の子なのだから、自分が好きな女の子に触れたい、キスしたいって言う欲求はあるのだ!其れが普通だからね。
だから、『記憶を取り戻す為』にキスをすると言う選択肢は全然ありな訳だ――『全員とは無理じゃないか?』と言ったのは、『自分との関係を覚えていない相手とのキスを全員とするのは無理じゃないか?』との事であり、全員が刀奈同様に自分との関係を思い出せない事を辛いと思っていると言うのならばその限りではない。
「でしょ?だ・か・ら、出て来て良いわよ皆~~?見てたんでしょ、私と一夏のキスシーンを?」
「其れはもうバッチリとね……そして、君は刀奈としての記憶を取り戻したんだな白雪?」
「ま、まさかあんなラブラブなキスシーンを目撃する事になるとは……其れだけ、お二人は愛し合っていたのですね……そして、其れは私達とも……」
「其れじゃあ、キスしようか織斑君?私達が君との事を思い出す為にも♪」
「君とのキスか……とてもそれは良い気分を味わえそうだ。」
此処で刀奈が自分以外の嫁ズを呼び出した!全員が、一夏と刀奈のキスシーンをバッチリ目撃していたようだ……本来のゲームだったら、こんな事にはならなかったのだろうが、一夏が電脳ダイブをしていて、嫁ズもデータではなく本体が存在しているからこそこんな事が起きたのだろう。――逆に言うなら、本来のゲームにない流れを引き起こす程に、一夏と嫁ズの愛は深いと言う事なのだろう。
「白雪も言っていたが、私達は君に愛されていると言うのに、私達は其れを思い出す事が出来ないと言うのはとても辛い事だよ……だから、君が思い出させてくれないかい織斑君?君とのキスで忘れている記憶を取り戻せると言うのは、とても素晴らしい事だと思うんだよ私は。」
「ロラン、ゲームのキャラになってもお前はあんまり変わらないんだな……なら、先ずはお前の記憶から取り戻させるよ。」
でもって、先ずはロランから!
最初が刀奈だったので、次はロランと言うのは、一夏の嫁になった順番と同じだが、一夏はそんな事は考えてはいない――記憶を封じられる前と、それ程変わって居ないと言うのはあったかも知れないが、一番近くに居たのがロランだったからだ。
そのロランとのキスも、刀奈の時と同じく深いモノになって行き、唇が離れた時には一夏とロランの唇の間には銀の糸が繋がっていた……うん、とってもエロチックであるな。
「嗚呼、君とのキスは矢張り最高だよ一夏……ふふ、このまま愛し合いたい気分だよ。」
「其れは、同室になった時にな。」
そして、此れでロランも記憶の蓋が開いた――刀奈に続いてロランも記憶を取り戻した事で、『キスで記憶の蓋が開く』と言う事を確信した一夏は、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサとも迷う事無くキスをして記憶の蓋を開けて行った……全員と大人で深いディープなキスをしていると言うのもまた、一夏が嫁ズを平等に愛している証と言えるかもかも知れないな。
刀奈とロランにだけ深いキスをしておきながら、ヴィシュヌとグリフィンとクラリッサには触れるだけのライトキスと言う選択肢はそもそも存在していない!キス一つだけでも平等であるべきなのですよ真の一夫多妻と言うモノは!ハーレムってのは、野郎の憧れかも知れないけど、実はとっても難しいモノなのだ……何故かと言うと、嫁ズ全員を平等に愛さねばならないからね――嫁に順位を付けてるようでは一夫多妻は不完全って事ですよ。そもそも『第○夫人』と言うのが女性に対して失礼極まりない。『何番目の妻か』とか、本来ならば問題にもならない事だ。その愛が本物であれば、何番目とかは関係ないからね。
そう言う意味では、一夏は真の一夫多妻を体現して居ると言える訳である。一夏の愛は大きいけれど平等だからな。
だが、何にしても此れで一夏の嫁ズは記憶を取り戻し、同時に本来の力を取り戻したと言う事にもなる――嫁ズのHPゲージは、此れまでマックスで三本の緑だったのが、記憶を取り戻したら五本の紫になっていただけでなく、その他のステータスも爆裂に上昇し、更に一夏のHPも束によってマックス値になって居た筈なのに、更に上昇してHPバーが二倍になっていた……此れもまた愛の力なのかも知れないな。愛で強化されるステータスと言うのも中々に謎だけどね。
「嫁ズ全員が記憶を取り戻したら超強化されただけじゃなくて、俺も強くなるとか意味が分からないが……其れだけ俺達の絆は強いって事なのかもな?――嫁ズが強くなれば俺も強くなって、俺が強くなれば嫁ズも強くなるってのは、ある意味で最高の関係だって言えるよな?
お前達もそう思うだろう?」
「えぇ、其れは最高だと思うわ。」
「愛する人と切磋琢磨して共に高みを目指す、嗚呼、果たしてこれ以上の幸福が存在するだろうか?此れは、愛し合う事に匹敵する幸福じゃないか!少なくとも私はそう思うよ。」
「其れは私もですよ。」
「右に同じ!」
「同じく二号。」
一夏のキスによって記憶を取り戻した事で、一夏と嫁ズの絆は更に強固になったと言えるのかもしれない――だとしたら、AIは下手打ったとしか言えないだろうオーバーフローの原因となった存在を電脳空間に閉じ込めて解析しようとして所に一夏が乱入して、嫁ズの記憶を開放する事になったのだからね。
まさか、こんな事になるとは思っていなかっただろう。
ならば、一夏は『異物』としてAIに弾かれそうなモノだが、一夏の銀龍騎に搭載されているISコアは白騎士のモノであり、ありとあらゆる障害を吹き飛ばすだけの力があるので、AIの干渉をシャットアウト出来たのだ。流石は、原初のISのコアはハンパない。コア人格が、リインフォース・アインスだっただけの事はあるな。
「其れじゃあ行くとしようか、最終決戦ってヤツにな――準備は良いか?俺達の手で、ぶっ飛ばすぜ……クソッタレな女王様って奴をな!」
「「「「「「「「「「おーーーーーー!!」」」」」」」」」」
集まった仲間を前に一夏が号令を掛けると、レジスタンスのメンバーは闘気を一気に爆発させてやる気十分!――ゲーム的には、白雪姫とのキスイベントを終えた後で主人公がレジスタンスのリーダーになるのだろうが、一夏は刀奈以外の嫁ズの記憶を取り戻してレジスタンスのリーダーになったのだから、ゲームの彼是を越えてると言えるかもな。
そして、街に向かう前に、スマホが震え、起動してみると『ここから先はバトルが連続するので、アイテムとかを補充しておく事をお勧めします。』とのメッセージが表示されたので、一夏は街に向かう前に、昨日までは無かった露店で回復アイテムを買えるだけ買ってから街に向かった。
『チキンプレイ』と言うなかれ……ラスボスの女王の前には、ラスボスよりも強いであろう千冬と稼津斗が待っているのだ――前に戦った時には余り強くなかった千冬も、今度は本気モードになるだろうから、回復アイテムは持てる最大値まで持っておくに越した事はないのだ。『備えあれば憂いなし』って奴だろう。
でもって、街に到着して城の前までやって来たのだが正面は門番ががっちり固めているのでバレずに入り込むのは難しいだろう――裏側から、フック付きのロープを使ってと言う方法もあるが、其れもバレたらタダでは済まない。最悪の場合、ロープを渡っている最中に射殺なんて事は普通にあるだろうからね。
「面倒なのは好きじゃねぇ……正面突破で行かせて貰うぜ俺は……クソッタレな女王を、この手でブッ飛ばしてやらねぇと気が済まねぇからな?」
「ふふ、貴方ならそう来るわよね一夏――なら行きましょう!女王を倒す為に!」
「レジスタンスによる革命の幕開けさ……せめて、覚悟だけは決めておいておくれよ女王様?覚悟を決めていない相手を処刑すると言うのは、あまり良い気分はしないからね。」
「敢えての真正面から……貴方らしいですね一夏。真正面から行きましょう!」
「真正面からぶっ飛ばす!右ストレートでブッ飛ばすって奴だね――ぶっちゃけ、本気の真正面からの一撃ってのは可成り効果があると思うんだよね?」
「其れはそうだろうな。」
なので、一夏達は堂々と正面から城に向かって行った――途中には、『此れ以上の進行はさせまい』と立ち塞がった兵士が居たが、一夏と記憶を取り戻した嫁ズの敵ではなく、あっと言う間に城の庭園はKOされた兵士で一杯になっていた。まぁ、主人公とヒロインズのチームの前では、城の警備兵程度はウォーミングアップにもならないかも知れないがな。
だが、此れで城の中に入る事は出来が、本番は此処からだ――パレードの時とは違って、城には充分なほどの戦力がある訳だからね。
「俺等が目障りなんだろ?だったら殺してみろよ、お前になら出来るかも知れないぜ?」
「次の相手は誰かしら?……其れとも、ビビっちゃったのかしら?だとしたらとんでもないチキンね?その程度で、ビビる相手とかお呼びじゃないわ!一昨日来なさいな!!」
此処でも、一夏と刀奈が、隠れている兵に、悪意たっぷりな事を言ってやったら、アッサリと現れたので、嫁ズと共に逆にフルボッコにした――嫁ズが記憶を取り戻した以上、此のチームは無敵なのは間違い無いな。
「大人しく寝てろ!」
一階を守っていた兵士集団を蹴散らした後は、一夏がリーダーに顔面キックを叩き込んでターンエンド――なのだが、此処からは城を攻略しながら敵を倒して行くという感じになるので、幾つかの強制戦闘が待ち受けているのは間違いないだろう。
「上等だっての……徹底的にやってやるぜ!」
だがしかし、新たに現れた敵は、一夏達を見ると襲って来るよりも前に何故か怯んだ様子を見せる……ゲームの演出ではなく、一夏達の闘気に怯んでいるのだ。
一夏も、一夏の嫁ズもその闘気が人外の存在にも通じると言うのは驚異的な事であると言えるだろう――其れは其れとして、此のゲームもいよいよ佳境に入って来たのかも知れないな。
この先で、一夏達には一体何が待っているのだろうか……其れは、神のみが知ると言う事なのかも知れないね――取り敢えず、ラスボス前の中ボスがぶっ壊れだから倒した敵がドロップしたアイテムは確実に取っておくのが得策だろう。
「本番は此処からだ!派手に行くぜ!!」
「掛かって来なさいな……其れとも、怖くて来れないのかしら?」
新たに現れる敵も、まるで敵ではなく、一夏と嫁ズが鎧袖一触だった――正に圧倒的な強さと言うモノをこの世に知らしめたと言えるだろう。次から次へと『増殖するG』の如く現われる敵も全く寄せ付けずに城内を制圧して行く。
たった六人で城の兵士達を壊滅させるとは、恐ろしい事この上ない。
「俺の……勝ちだ!」
そして、一夏の勝利宣言を聞いて、城内の制圧は完了!主人公である一夏が拳を突き上げたのがその証だ――此れで、残るは稼津斗と千冬とスコール……女王直属の兵士がいるかも知れないが、何れにしても強敵であるのは稼津斗と千冬の二人で間違いないだろう。
本気モードの千冬は勿論、稼津斗も相当にヤバい事この上ない相手だろうからね――この二人の前では、ラスボスすらも雑魚であるのかも知れないな。
To Be Continued 
|