時は進んで、十月も最終週に入り、そして十月の最終週の一夏のパートナーは、修学旅行で刀奈とローテーションを交換したグリフィンであり、この一週間、一夏とグリフィンは、ラブラブな生活を送り、カップルユーチューバーとしての動画も再生数が割りとトンデモナイ事になってたりするのだ。……一夏と嫁ズのチャンネルハンパないですなマジで。

そんな充実した一週間送った土曜日、一夏はスマホと睨めっこしていた……明日に控えたグリフィンとのデートプランを考えているのだ。


「グリフィン、明日のデートに何かリクエストとか有るか?」


だが、特にいいデートプランが思いつかなかったので、思い切ってグリフィンに尋ねてみた……いいデートプランが思いつかなかったその時は、彼女にリクエストを聞くと言うのは間違いでない。
間違いどころか、彼女の望みを叶える事が出来るかも知れない訳だからな。


「えっとね、動物園と遊園地に行きたいんだけど、私の行きたい所で良いの?前回のデートの時も私の行きたい所ややりたい事だったと思うんだけど……」

「そんなの全然OKに決まってるだろ?
 持論だけどさ、デートって女の子のリクエスト最優先だと思うんだよ俺。前回もグリフィンの希望を聞いて結果良い感じになったしさ……まぁ、俺がデートプランってモノを考えるのがあんまり巧くないってのもあるけど。
 でも、其れだったら尚の事相手の希望を全力で叶えるのが男の役目だと思ってさ……それと、ぶっちゃけ自分の嫁と一緒ならどんな事でも楽しめると思うしな。」


はい、此処でサラリとイケメンムーブかましますね一夏は。
確かに一夏は、マッタクのゼロからデートプランを設計するのは苦手であり、中学時代も刀奈とデートをする時は刀奈の希望を聞き、其れを基にデートプランを構築して居たのだが、その時から一夏は『ゼロからデートプランを設計するのが無理なら、相手の希望を聞いて其れで目一杯楽しめるように考えた方が絶対に楽しい』と考える様になり、同時に自分はそれ程興味がなかったモノであっても、愛する人と一緒ならば楽しめると言う事もバッチリ学んだのだ。なので、アッサリとこんな事が言える訳である。
……確かに、彼氏の方が『なぁ、こっちにしようぜ?』と言ってあまり乗り気でない彼女を自分の趣味に付き合わせるってのは男として如何なモノかと思うが。


「一夏ってさ、本当にそう言う事サラッと言っちゃうよね?中学時代は結構モテたんじゃないの?」

「ん~~~、確かにラブレター貰ったり、告白された回数は多分同世代の中学生の中ではぶっちぎりだったと思うけど、俺には刀奈がいたから全部断ってたからな?
 そのせいで、新聞部に『全校女子を略振った男子・織斑一夏』って記事書かれちまったけどな……まぁ、何で断ったのかちゃんと取材に来ただけマシだけど。」

「ありゃりゃ、其れは大変だったねぇ。」

「ま、唯一の救いは振った女子が逆恨みしてある事ない事吹聴しなかった事だな。
 其れはまぁ、今は良いとしてデートのプランを練らないとだぜ。其れじゃあ、動物園と遊園地は確定として、昼飯に何か食べたいモノとか有るか?」

「ん~~……前回はステーキだったから、今回は日本のモノが良いなぁ?そうだ、お寿司!お寿司が食べたい!」

「寿司ね、了解だ。」


色々と話をしながら、デートプランを練り、一夏は動物園と遊園地と寿司屋をスマホで検索してピックアップしていく……寿司屋に関しては、回転寿司を除外しているところにガチっぷりを感じる。まぁ、最近では回らない寿司でもそこそこリーズナブルな店もあるので、その辺をピックアップしてるのかも知れないが。
その後、一夏は良い場所を見つけたらしく、寿司屋にも予約を入れようとしたのだが、その前に『そう言えば』と学園祭前に夏姫から貰った『全国共通テーマパークフリーパス券』を確認するとペアチケットだったと言う嬉しい誤算が!!
これで、動物園も遊園地もチケット代は無料になり、一夏は寿司屋を『おまかせコース松』と言う、少し高めのコースで予約を入れる事にした……動物園と遊園地のチケット代が浮いた分を、其方に回しても問題はないだろう。

デートプランを作り終えたその後は、本日の動画の撮影を行い、夕食後には風呂に入り、入浴後は一夏がグリフィンをマッサージしてやってこの日はお終い。
因みに本日の動画は、『カップルユーチューバーが、もしもお互いの性別が逆だったらどんな感じなのかを本気で語ってみた』と言うモノであり、中々に面白い内容であったのか、結構再生数は伸びた。グリフィンの『一夏が女の子だったら、間違いなく無敵だよ。圧倒的な主夫力は、女子になったら更に凄くなりそうだし。』と言う発言には、コメント欄でも『完全に同意』、『料理動画の腕前がマジでヤバいから』、『IS操縦出来なくても料理屋で生計立てられるだろ』、『一夏ちゃん……絶対美人だ』と言うコメントが寄せられていた……もしも一夏が女の子だったら、言い寄って来る男は全て千冬が抹殺しそうではあるな。










夏と刀と無限の空 Episode57
『Que tengas una gran cita con tu amante』










翌日、デート当日の日曜日。
デートの日でも一夏は朝練は欠かさずに行っているのだが、今日は動物園と遊園地の二ヶ所を回るので、其れを考えて少し軽めのメニューで済ませていた……軽めと言っても、ランニング10km、腕立てと腹筋を百回、素振り五百回、シャドーを三十分、太極拳二十分、ヨガを応用した柔軟体操を十分と言うモノなのだけれどね。……果たして『軽め』とは何だったのか。
なんにしても、日曜でもデートの日でもトレーニングを欠かさないのは素晴らしい事だと言えるだろう。そして、この不断の努力が今の一夏の実力に直結し、そしてレベルアップに繋がっているのだから、愚直な日々の積み重ねに勝るモノはないのかもしれないな。
その一夏の様子を、護衛のオータムも感心しながら見守っているのも最早お馴染みの光景であり、そのオータムに運動部の朝練に向かう生徒が挨拶するのもお馴染身の光景になっていたりする。
男勝りで、口調も荒いオータムだが、一夏の護衛だけでなく学園の生徒に危険が及んだ時にもその生徒を助けたりしているので、実は生徒からは割と慕われていたりするのだ……黒いパンツタイプのレディースのスーツを着込んで、タバコを吹かす姿がカッコいいと映ったと言うのもあるかもだけどね。

朝練を終えた一夏は、何時もの様にシャワーを浴びてからグリフィンを起こし、食堂で嫁ズとの朝食を済ませるとデートの準備に取り掛かった……手早く着替えて必要なモノを持つと、速攻で寮の玄関に!
『同じ部屋ならば一緒に行けば?』と思うかもしれないが、やる事やっているとは言え、女性の生着替えを見ると言う事を一夏はしないので、こうして先に着替えて待っているのだ。普段は、一夏がシャワーを終えた時点で嫁ズは制服(クラリッサは軍服)に着替えているのだけれどね。


「一夏、お待たせ。」

「いや、それほど待ってないぜ。」


一夏が玄関で待つこと五分、グリフィンが着替えて合流……したので、恒例のファッションチェック!
まず一夏だが、本日はダークブルーのジーパンに黒いハイネックの長袖シャツを合わせ、白いレザージャケットと言うコーディネート。
続いてグリフィンは、黒のハーフジーンズに赤いハイネックのスポーツブラを合わせ、その上からファーの付いたベージュのフライトジャケットを着て、フライトジャケットのファスナーを胸の下辺りまで上げた、セクシーさとワイルドさが同居するコーディネートだ。
『寒さが増して来たこの時期に、そんなコーディネートで大丈夫か?』と思うかもしれないが、グリフィンが着ているフライトジャケットは裏フリースで温かいので問題なしである。


「其れじゃ、行くか。」

「うん♪」


一夏とグリフィンは所謂『恋人繋ぎ』をするとモノレールの駅に向かい、其処から本土に向かうのだが、モノレールの駅では意外な人物とエンカウントした。


「あれ、虚さん?」

「随分めかし込んでるわね?」

「あ、一夏君とグリフィンさん……」


其れは虚であり、可成りめかし込んでいた。
ポニーテールには髪飾り、ヘアバンドも何時もとは違いラメ加工がされたモノになっており、服装も七分丈の身体にフィットしたボトムズに、何処か和の意匠を感じるトップスになっているのだ。(イメージとしてはゼノサーガⅡのシオン。)


「奇遇っすね?……若しかして、弾とデートっすか?」

「は、はい。弾君からデートに誘われて……其の、私の格好オカシクナイでしょうか?」

「オカシク無いよ虚!寧ろ虚の魅力が際立ってる!今の虚を見たら、弾は間違いなく惚れ直すと思うよ?」


如何やら虚も弾とデートらしく、可成り気合を入れていたようだ……清楚系真面目女子と、熱血系チョイワル男子ってのは、カップルとしては中々に噛み合うのかも知れないな。不良系男子と委員長系女子の恋愛ってのは創作の世界だけではないようだ。弾と虚も末永く爆発して欲しいモノであるな。

モノレールが到着したら、其れに乗り込んで本土へ移動し、本土に到着してからは虚と別れて、一夏とグリフィンは最初の目的地である動物園に向かってレッツゴーである。
幸いな事に、モノレールの駅と隣接しているJRの駅のバスターミナルから目的の動物園に向かうバスが出ていたので、其れに乗って動物園に直行だ。


そしてバスに揺られる事二十分、目的地である動物園前の停留所に到着し、一夏とグリフィンはバスを降り、動物園の入り口で『全国共通テーマパークフリーチケット』を提示してから園内に。ペアチケットなので二人とも無料と言うのは実に素晴らしいな。

さて、一夏とグリフィンがやって来た動物園には一つの特徴がある……其れは、『草食動物は檻に入れず、自然に近い状態で飼育している』と言う事だ。尤も、大型であるサイやゾウはその限りではないが、猿や鳥は屋内施設で略放し飼いの状態であるので、限りなく野生に近い状態を見る事が出来るのだ。


「おぉ、此れは凄いな?動物達が自由に生きてるぜ?」

「こんな動物園は初めて!」


其の展示方法に一夏もグリフィンも感動していた。より近い距離で動物と触れ合う事が出来ると言うのは、動物園として大きな売りになる訳であり、其れを一夏とグリフィンも肌で感じた訳だ。
小型の草食動物とは言え、間近で触れ合えると言うのは中々無いからね。
そんな感じで、動物達と直に触れあいながら、最初の施設を進んで行った一夏とグリフィンだったのだが……


「黒いサル……クロザルってまんまの名前だな。」

「名前の通りで分かり易いと思うけどね。」

「で、このクロザルは口をパクパクさせて何をやってるんだろ?」

「威嚇……ではなさそうだけど。」


施設の終盤で、毛だけでなく肌も黒いクロザルとエンカウントし、エンカウントしたクロザルはしきりに口をパクパクしているのだ……クロザルは唸り声を上げたりはして居ないので威嚇行動ではないだろう。


「グリフィン、クロザルの口パクパクは挨拶らしいぜ?スマホで調べたらそう載ってた。」

「威嚇じゃなくて挨拶だったんだ?だったら、私達も返さないとね♪」


クロザルの『口パクパク』は挨拶だったので、一夏とグリフィンもクロザルに向かって口パクパクをして挨拶を返す……其れに気を良くしたクロザルが、仲間を連れて来て、一夏とグリフィンはクロザル集団と挨拶をする事になったのだが、クロザルが『争いを好まない穏やかな猿』だったからこそ出来た事だろう。此れがニホンザルやチンパンジーだったら、『雄』として超優秀な一夏に、猿の雄が嫉妬して、『人間vs猿』の種族を越えたバトルが勃発していたかも知れない訳だからね……そんな雄猿の集団をも倒してしまうであろう一夏は、大分人間辞めてる感じだけれどね。
屋内施設を楽しんだ一夏とグリフィンは、今度は屋外施設で大型の草食動物と肉食動物を見て回った――偶然ではあるが、この動物園のメスのアジアゾウの『メアリ』の誕生日だったらしく、化粧されたアジアゾウが園内を歩くと言うレアな光景にも出くわし、そのゾウと一緒に記念撮影も出来た。
だけでなく、メアリは一夏とグリフィンに鼻を巻き付けると、己の背に乗せた……如何やら、自ら動物園を案内する心算らしい――知能が高いと言われているゾウに、その選択をさせた一夏とグリフィンは中々に凄いのだろうな。

その後は、メアリの案内で屋外施設を楽しみ、ホワイトタイガーの檻の前では、『今年生まれたばかりのホワイトタイガーの赤ちゃんとの撮影会』も行われていたので勿論参加して、記念撮影を行った。


「ホワイトタイガーの赤ちゃん……大きい猫だね。」

「あぁ、猫だな。」


野生の猫科動物では最大の虎ではあるが、その子供は大きい猫でしかなかったらしく、一夏もグリフィンもホワイトタイガーの赤ちゃんを抱っこして記念撮影をしてターンエンド!
この記念撮影を終えた後は、爬虫類コーナーや、地下生物コーナーを回って動物園を心行くまで堪能したのだった……地下生物のコーナーで、『ハダカデバネズミ』に見入ってしまったのは仕方あるまい。一部から『キモカワ』と言われているハダカデバネズミには何とも言えない妙な魅力があるからね。








――――――








動物園を満喫した後は、そろそろランチタイムに良い時間になってなっていたので、一夏が予約した寿司屋に。
到着したのは『大黒寿司』なる店で、余り大きくはないが木造の建物と、入り口脇の笹と、店の名前にもなっている『大黒様』の置物がアクセントになっている、良い感じの雰囲気の店である。


「らっしゃい!」

「すいません、予約していた織斑なんですが……」

「ご予約の織斑様ご来店だ、席にご案内しろ~~。」

「はい、只今!此方でございます織斑様。」


店内に入り、予約してある事を告げると『予約席』のプレートが置かれたカウンター席に案内された。どうせ、回転寿司ではない寿司を食べるのならば座敷席よりもカウンター席の方が良いと考えて、一夏はカウンター席を予約したのである。
寿司はカウンター席で、一夏は分かっているな。


「予約してたのは、『おまかせコース松』で良かったかい?」

「はい、大丈夫です。」


大将と思われる職人が一夏に予約内容を確認し、一夏も其れで間違いな事を返すと、店に居た他の客の視線が一夏達に集中した……回転寿司がシェアを占めるようになってしまったから知らない人も多いだろうが、元々寿司の食べ方は『お好み』、『お決まり』、『おまかせ』の三種類が存在してるのだ。
『お好み』は回転寿司と同じように自分の食べたいモノを注文する食べ方で、『お決まり』は決まったネタでのコースで、『おまかせ』は全部店に任せる食べ方であり、逆に言うと板前一押しのネタを提供するモノであり、『お決まり』よりも高くなる通好みの食べ方なのだ。そのおまかせを最高級の『松』で予約した者が居ると聞いたら注目もされると言うモノだろう。しかも其れが高校生位の少年なのだから尚更だ……その少年が『織斑一夏』だと言う事を知って更に驚く事になった訳だが。


「其れじゃあ、早速始めさせて貰うぜ。」


大将はそう言うと、早速握り始める。他の板前でなく、大将自らが握ってくれると言うのも『松』コースならではだろう。店で一番の腕を持つ大将が握る寿司と言うのは格別だろうからね。
そして、先ずは白身の握りからだ。
『皮霜作り』の真鯛から始まり、身の色が綺麗な金目鯛、旬の天然鰤、希少部位の縁側と言った白身の定番が提供され、一夏もグリフィンも先ずは白身をした。因みに一夏もグリフィンも箸は使わずに手で食べているのだが、握り寿司ってモノは元々手で食べるモノだったのだから此方の方が正当なのである。握り寿司を箸で食べるようになったのは結構最近の事だったりするのだしね。


「ん~~~、美味しい~~♪」

「そうか、なら良かったぜ。」

「そんなに美味そうに食ってくれると、握り甲斐もあるってもんだ。」


グリフィンが本当に美味しそうに食べるのを見て、一夏は笑みを浮かべ、寿司屋の大将はご機嫌に。
健啖家のグリフィンは食べる事が大好きで、好き嫌いもないのでどんなモノでも美味しく食べられるのだが、そんな彼女だからこそ『美味しい』って口に出す時は本当に美味しい時であるからね。

続いては光り物だ。
寿司のセオリーとしては、光り物はトロの後だと思うだろうが、其れはあくまでも酢〆にしたモノであって、〆てない光り物は白身の後の提供でも問題なのだ。
その光り物は、鰯に始まって、鯵、旬の脂の乗った秋刀魚、そして――


「これ、生鯖ですか!?」

「おうよ。良いのが手に入ったんでな、〆ないで生での提供だ。」


超レアネタである『生鯖』が!
鯖は普通、『しめ鯖』で提供されるのが普通だ――鯖は足の速い魚なので、流通技術が良くなった今でも中々生での提供は難しいのだが、その鯖を生で出すとは余程いいネタが入ったと言う事だろう。
生の鯖はしめ鯖とは違い、ダイレクトに鯖の濃厚な旨味を堪能出来るので光り物では最高の味わいと言っても過言ではあるまい。

光り物を堪能したら次は赤身だ。
本鮪の赤身に始まり、戻り鰹、本鮪の赤身の漬け、メカジキ、本鮪のハラミ、本鮪中トロ、本鮪大トロの炙りのコンボ!『大トロを炙りで?』と思うかもしれないが、大トロは表面をほんのりと炙ってやる事で脂が程よく溶けてその旨味を倍増させるのである。


「スッゴク美味しい!鮪の大トロは霜降りの牛肉よりも美味しかも……大トロをレアステーキにしたら最高だと思う!」

「其れは『将太の寿司』でやってるんだよな。」

「ハハハ。さて、次はちょいと変わり種だが、分かるかな?」


大トロの炙りの後で提供されたのは、これまた脂が乗った赤身なのだが、大トロはまた違ったモノだった。――食べてみても、グリフィンは其れが何かは分からなかった。美味しい事だけは分かるのだが、大トロ以上に濃厚な味の魚が何かは分からなかったみたいだ。


「これ、若しかして赤マダですか?」

「ほう、其れに気付くとはやるな兄ちゃん?」


だがしかし、一夏は見事に正解を導きだした。
赤マダとは、赤マンボウの事であり、赤マンボウの身は普通のマンボウの身とは違って締まっていながらも脂の乗りが良く、本鮪の大トロ以上に赤みの旨味と脂の濃厚さを堪能出来る魚なのだ……偶然網にかかる事しかないので、市場に出回る事はない『美味しいけど知名度がどん底』の魚なのである。
そのレア魚を知っていた一夏に驚きだが、中学の時に船中拍で訪れた北海道で、偶然にも赤マンボウの刺身を食べる機会があり、その濃厚な旨さを覚えて居たのだ……二年前の味を今も覚えてるとかマジ凄過ぎですわ。

そして其処からは、今度は貝や海老、タコとイカが提供され、貝類では『アワビの踊り軍艦』に舌鼓を打ち、海老では『車海老の活き締め』と兜焼きを堪能し、姿ヤリイカの握りと生ゲソの旨さに感激し、そこから更に湯葉で巻いたウニの軍艦、サーモン三種(トロ秋鮭、炙りハラス、生筋子)、と繋いで、最後はアナゴ二種だ。


「一夏、このアナゴってどう違うの?」

「一つは焼きアナゴで、もう一つは蒸しアナゴだな。
 焼きアナゴは香ばしさを、蒸しアナゴは身の柔らかさを楽しむんだ。其れと、表面に塗られたツメ……タレの事な、それも良く味わえよ?ツメの味ってのは、代々店が守って来た伝統の味でもあるんだからな。」


アナゴは焼きアナゴと蒸しアナゴでは全く味が異なるので、アナゴもまた寿司屋のレベルが分かるネタだったりするのだ……特に蒸しアナゴを提供している場合は余計にだ。蒸しアナゴは、焼きアナゴと違って焼いた香ばしさでの誤魔化しが利かないので、マジで職人の腕が問われる逸品なのだ。
だが、此の店の蒸しアナゴの蒸し加減は絶妙で、アナゴの身をふっくらと仕上げながらも、脂を落としすぎる事なく、ツメを塗っても『軽い味わいでありながらアナゴ本来の旨味を味わえる』逸品になっているのだ。


「ん~~、本当に美味しい!特に最後のアナゴは最高だったよ大将さん!こんなに美味しいお寿司を食べたのは初めてだよ!!」

「そうかい?そう言って貰えっと、嬉しいもんだぜ!!」


最後の一品も堪能して、お茶を飲んでからお会計……最高級コースだったのだが、二人で一万二千円ならば可成り安いと言えるだろう。銀座の高級店だったら軽く倍の値段は余裕で行くだろう。一夏が此の店を選んだのも、この料金設定が一つの理由だ……勿論、レビューで最高評価だったと言うのもあるが。


「寿司は堪能出来たかグリフィン?」

「うん、とっても美味しかった!だけど、少し物足りないかも。」

「だろうな。だけど、遊園地でのジャンクフードも食べたいだろ?だから、寿司屋では少し物足りない位の方が良いのさ。」


寿司は満喫したグリフィンだが、腹は未だ満たされてないらしい……だが其れも、一夏が遊園地で何か食べる事を考えての寿司屋でのコースだったので問題は何もないだろう。遊園地内にはソーセージやポップコーンと言ったジャンクフードに溢れている訳だから、其れを使えばグリフィンを鬼柳京介(満足の意訳)させる事は出来る訳だから。








――――――








大黒寿司で最高のランチタイムを終えた一夏とグリフィンは、デートの午後の部でグリフィンがリクエストした遊園地に来ていた……此処でも、全国共通テーマパークフリーパス券を使って無料入場だ。……果たしてこんな物を、夏姫はどうやって六枚も用意したのか若干謎である。


「さて、先ずはドレに行くグリフィン?」

「勿論あれでしょ♪」


二人がまず最初にやって来たのは、この遊園地の目玉でもある大型のジェットコースター。其の名も『超爆裂ハイパーデンジャラスアルティメットラビリンスロケットジェットコースター』……なんか色々と詰め込み過ぎて逆に意味が分からない名前になってしまっているが、兎に角『物凄いジェットコースターである』と言う事を強調したかったのだろう。
実際に此のジェットコースターの最大落差は300m、最大傾斜は七十度、十連続ループに機体が完全に横倒しになるカーブ等があり、最大時速は120km、最大Gは5Gと言うヤバめなモノなのだ。此れに乗ってガチで失神した客まで存在し、そのヤバさはSNS等でも有名だったりするのだ。


「だよなぁ……どうせなら、一番前が良いよな?」

「そりゃ、ジェットコースターは一番前が基本でしょ?」


だが、そんな前評判も何のその、一夏もグリフィンも意気揚々とジェットコースターの列に並ぶ……しかも只並ぶだけではなく、『何処で列に入れば先頭に座れるか』を計算してだ。機体一つに何人座れるか、何両編成か、今並んでるのは何人かを把握すれば其れ位の計算は難しくないのだ。
列に並ぶ事約五分、一夏とグリフィンは計算通りに最前列の車輌の一番前の席をゲット!安全ベルトを装着すると、発車ベルが鳴りコースターは発進!

先ずはケーブルで長い上り坂を上って行く……この上り坂も結構な傾斜があり、ケーブルの『ガコン、ガコン』と言う音も緊張感を高めてくれる。この上り坂のドキドキ感もまた、ジェットコースター独特のモノであると言えるだろう。
そして上る事およそ五分、先頭車輌は頂上に到着し、其処から……



――ギュオン!!



一気に急降下!登った直後に行き成り最大落差300mが乗客に牙を剥き、其処から急上昇しての今度は最大傾斜七十度の断崖落とし!からの四回転捻りに繋いで、またしても急上昇から今度は最大落差と最大傾斜のコンボ攻撃が炸裂し、その後で待っていましたの十連続ループ!


「ハッハー!楽しいなグリフィン!!」

「うん、最高!!」


こんなトンデモナイジェットコースターの最前列に乗っていながら、一夏とグリフィンは他の客の様に絶叫せずに寧ろ笑い声を上げる余裕っぷり!まぁ、普段ISでの高速機動を体験している身としては、ジェットコースターは絶叫マシーンには分類されないのかもしれない。
イグニッションブーストは極めれば亜音速に達すると言われているし、一夏に至ってはリミットオーバー使用で通常の三倍のイグニッションブーストが出来る訳だからな……IS操縦者を絶叫マシーンで絶叫させるのは不可能なのかも知れんね。


「あ~~、楽しかった!!」

「ISとは違った高速の世界ってのも、中々に良いもんだな。」


ジェットコースターの全工程が終わり、ホームに戻って来た多くの客が若干グロッキーになってる中で、一夏もグリフィンもピンピンしており、足取りも軽く次のアトラクションに向かって行く……IS操縦者は、三半規管も相当に鍛えられていて、乗り物酔いとかには無縁の生物になっているのかもしれないな。

ジェットコースターを堪能した一夏とグリフィンは、その後、ホラーハウスやゴーカート、海賊船などのアトラクションを楽しんだ。
特にホラーハウスは、大人気ホラーゲーム『バイオハザード』とのコラボアトラクションになっており、一作目の洋館と二作目の警察署を模した造りになっているフリー移動タイプで、何処でゾンビやモンスターが出て来るのか分からない仕様になっており、其れがドキドキ感を高めてくれてとても楽しめたようだ。
洋館パートでは、『かゆ……うま』のシーンも再現されていたのも高ポイントと言えるだろう……突如現れたタイラントに驚いたグリフィンが、タイラントに扮したスタッフにアッパー掌底を叩き込んでKOしてしまうと言うハプニングもあったのだが。
そしてゴーカートでは一夏とグリフィンがマリオカート張りのデッドヒートを演じて、ギャラリーから声援を受けていた。


「ふぅ、結構遊んだなグリフィン?」

「そうだねー?でも、いっぱい遊んだから少しお腹減ったかな?」

「だと思った。俺もそうだからさ、何か買って来るよ。何が良い?」

「んっとね、チーズチリドッグとポテト、其れからコーラ!」

「OK、少し待っててくれ。」


アトラクションを堪能した一夏とグリフィンは、少し小腹が空いたので、一夏がスナックとドリンクを買いに行き、グリフィンはその場で待つ事に……だがしかし、美少女が一人で待っていると言う事は、お決まりのイベントが発生してしまうと言う事でもありまして――


「ヘイ彼女、今一人?」

「暇だったら俺達と遊ばない?」


其れはつまり、チャラ男からのNA・N・PAである!
ワイルドかつセクシーなコーディネートのグリフィンは褐色肌と青髪の組み合わせと言うエキゾチックな見た目も相まって、ナンパ師達は一夏がグリフィンの側を離れるのを今か今かと待っていたのだ。……因みに今声を掛けて来たナンパ師は二人組で、一人は髪を金髪に染めて両腕に入れ墨をした男で、もう一人は髪を真っ赤に染めて両耳に三連ピアスをぶち開けた男だ。ぶっちゃけ、こんな外見で良く警官に職質されなかったモノだと、少し驚きである。
グリフィンは勿論こんなナンパ師に付き合う気はないのだが、無視をしたらしたで面倒な事になると思い、切り札を切る事にした。


「Por algo para mim?(私に何か用?)」

「「え?」」


その切り札とは、自国語で対応すると言うモノであり、刀奈以外の一夏の嫁がナンパに対して切り札として搭載しているスキルである。……こう言っては何だが、ナンパ師のチャラ男なんてモノは、脳ミソレベルはハッキリ言って高くないので精々出来て英語までなので、英語以外の外国語を話されたら一体全体何を言われているのかチンプンカンプンなのだ。
ドイツ語とオランダ語とブラジルの公用語のポルトガル語でも可成り難易度は高いのだが、タイ語なんて聞く機会すらないので話されたら頭がジャングルグルグルの大混乱になるのは間違いなしであろう。


「Por favor, recuse se for uma pick-up. Estou namorando meu amado namorado.(ナンパならお断りよ。私は愛しの彼とデート中なの。)
 Além disso, é uma loucura falar com uma mulher sem dizer o nome dela?(それに、名乗りもせずに女性に声を掛けて来るなんて非常識よ?)」

「「え?は?えぇっと……」」

「Se for uma pick-up, vai a algum lugar? Não tenho tempo para sair com vocês. (ナンパなら何処かに行って?貴方達に付き合ってる暇はないのよ。)」

「「し、失礼しました~~!!」」


盛大に混乱しているナンパ師達ポルトガル語でまくし立てて撃退!!


「お待たせグリフィン。えっと、何かあった?」

「ううん、何もないよ一夏♪」

「そうか?グリフィンがナンパされてないかと思ったけど、俺の杞憂だったみたいだな。」


直後に軽食とドリンクを買いに行っていた一夏が戻って来て、スナックで小腹を満たした――一夏のてりやきバーガーと、グリフィンのチーズチリドックをお互いに一口ずつ交換と言うのも恋人の鉄板イベントと言えるだろう。
小腹を満たした後は、アミューズメントゲームコーナーで一夏がユーフォーキャッチャーでヌイグルミだけでなくブランド物の腕時計や、グリフィンのリクエストで超巨大なきのこの山やバケツサイズのラーメンをゲットし、グリフィンがパンチングマシーンにチャレンジして本日最強の記録を出して賞品をゲットし、本日の記念としてこの遊園地限定のフレームのプリクラを撮影。
更に『リオのカーニバルパレード、飛び入り参加OK』とのイベントがあったので、グリフィンが其れに参加して、リオのカーニバルのあの露出度高めな衣装を身に纏って本場ブラジルのラテンのノリが効いたキレッキレのダンスを披露してパレードを観覧していた観客を魅了した……尤も、グリフィンのダンスは一夏只一人に向けてのモノだったので、グリフィンのダンスの真の魅力に気付けたのは一夏だけだった訳だが。大勢の観客の中のたった一人に向けた情熱的なダンス、此れも一つの『愛』の表現方法だと言えるだろう。

そして、遊園地のラストとなるのはお決まりの観覧車。
この遊園地の観覧車は直径150mと国内でも有数の大きさがあり、頂上からの眺めは最高で、恋人同士のデートにおける最高のスポットの一つだったりするのだ。


「今日のデート、楽しんでくれたかグリフィン?」

「うん、とっても楽しかったよ一夏。最高の一日だった。」

「なら良かったぜ。」

「其れでね、デートの最後のお願いがあるんだけど、良いかな?」

「お願いって、何?」

「観覧車のゴンドラが頂上についたら、キスして欲しい。」

「そう言う事なら、仰せのままに。」


グリフィンの『お願い』を受け入れた一夏は、自分達の乗る観覧車のゴンドラが頂点に達した所で席を立つと、グリフィンの肩を抱いて唇を重ねた……本当に触れるだけの優しいキスだったが、グリフィンには其れで充分だった。己の願いが叶った訳だからね。


「一夏、大好きだよ。」

「うん、俺もだ。」



キスを終えた一夏は、グリフィンの隣に座ってその肩を抱くと、グリフィンも一夏の肩に頭を預けて観覧車の残り半周を過ごした……甘い恋人同士の時間だった訳だ
――もうマジで未来永劫爆発して下さい。

遊園地を心行くまで堪能した後は、一夏が『少し早めの夕飯』として選んだラーメン屋に。
基本はアッサリ系の野菜たっぷりタンメンが売りの店なのだが、バリエーションとして豚骨ベースの濃厚タンメン、辛口の雷神タンメンと言ったメニューもある店なので、ガッツリ系のグリフィンでも満足出来ると踏んだのだ。


「俺は、雷神タンメンの激辛を麺大盛りで、其れとトッピングを肉増し刻みニンニクで。其れと、単品で餃子五個で宜しく。」

「私は濃厚タンメンの大盛りで、トッピングに肉増しと味玉と海苔。其れと単品で唐揚げ四個で。」


其処で、夫々好きなメニューを頼み、単品で頼んだ餃子と唐揚げを交換して、夕食も大いに楽しんだ……だけでなく、炒飯と唐揚げをテイクアウトして他の嫁ズのお土産にするのも忘れない。スマホで連絡を入れて、夕食を食べないように言っておくのも忘れずにな。


「とっても楽しい一日だったよ、ありがとう一夏。」

「いや、俺の方こそそう言って貰えるなら良かったぜグリフィン。」


修学旅行に同行出来なかったグリフィンの埋め合わせデートは言うまでもなく大成功だった様である――デートプランをゼロから構築する事は出来ない一夏だが、デートでは見事なエスコートをして見せたので、其処は大幅なプラス要素だね。








――――――








一夏とグリフィンがラーメンを満喫していた頃――


「スコール、貴様鍋のシメがうどんとは戯言を抜かすなよ?鍋のシメは雑炊こそが王道だ!鍋の出汁を全て吸った米こそが最強だろう!!」

「貴女こそ何を言ってるのかしら千冬?鍋のシメはうどんでしょう?うどんこそが王道にして正道……のど越しの良いうどんとダシを別々に味わうのがだいご味と言うモノではないかしら?」


千冬は一緒に飲みに来ていたスコールと、鍋のシメで争っていた……鍋のシメは雑炊かうどんか、其の答えが出る日は永遠に来る事がないと言っても過言ではあるまいて――取り敢えずこの日は、千冬とスコールがじゃんけんを行い、結果としてスコールが2-1で勝ったので本日のシメはうどんになったのだった。
ちょっとした一悶着はあったが、先生方も其れなりに休日を楽しんでいる様で何よりだ……IS学園の教師は割と激務なのでこう言った息抜きは必要だからね……明日の月曜日からまた頼りにしてますよ先生!











 To Be Continued