修学旅行最終日の今日もまた、一夏は朝の温泉を堪能していた――昨日のように千冬が乱入して来ると言うハプニングもなく、のんびりと温泉を楽しめているようであ
る。露天風呂を一人占めと言うのは、何とも贅沢な事だろう。
「流石に二日連続でハプニングは起きないよな~……起きたら起きたで、俺の身が持たないけど。
にしても、露天風呂を一人占めってのは贅沢極まりないぜ~~!ふ~~~、極楽極楽ってな!!」
温泉に入る前に千冬が居る教員室に立ち寄って、陽彩は如何しているかを尋ねたところ、まだ寝ているとの事だったので陽彩が入って来る心配もないので、思う存分
羽根を伸ばす事が出来ると言う訳だ。仮に、陽彩が起きて温泉に向かおうとしても、其れは千冬が阻止するだろうから問題はないのだ。
「あら?その声は一夏君かしら?貴方も朝から温泉?」
「この声は、スコール先生ですか!?」
温泉を満喫してると、壁一枚で隔てられている女湯から声が……如何やら本日はスコールも朝温泉を楽しんでいるようだが、男湯ではなく普通に女湯に入って居るの
で問題はない。と言うか、普通は入ってるのが弟だからって男湯に入って来る女性なんぞ早々居ないだろう。
……いや、束だったら弟でなくとも入ってるのが一夏ならば『いっ君、束さんも一緒に入って良い~~?』とか言いながら、一夏の答えも聞かずに入って来そうだ。そん
でもって直前でオータムに捕まってシバキ倒されるまでがテンプレだろうな。
「修学旅行は楽しめているかしら?」
「えぇ、其れはもう思い切り。
昨日の班別行動では、円夏達と三組の子達と千冬姉が気を利かせてくれたお陰で嫁達と観光出来ましたしね……同時に、オータムさんの『隠れて護衛する技術』に
改めて驚かされてますよ。
学園では分かり易いように護衛してくれてるんですけど、俺が嫁達と出掛ける時とかは、間違いなく何処かで護衛してる筈なのに姿が見えないんですよあの人。」
「其れはまた何とも凄い隠密技術ねぇ……護衛だけじゃなくて諜報活動も出来るんじゃないかしら?」
「あ~~、多分出来るんじゃないですかね?
……そう言えば、前に更識ワールドカンパニーにTOB仕掛けようとしてる企業の情報を持って来た事があったような……元アメリカ軍の軍人はハンパないっすよ。」
「彼女が退役する際には、上官が泣いて引き留めたと言う噂もあったモノねぇ……」
一夏がスコールと普通に会話出来ているのは、男湯と女湯が一枚だけとは言え壁で仕切られているからだろう。『女性が直ぐ近くで風呂に入って居る』と言うのは、昨
日の朝と同じなのだが、実際に姿が見えると見えないのでは矢張り違うのだ。
『嫁ズとやる事やってるのに今更かよ?』とは言うなかれ!一夏は嫁ズを大事に思っているからこそ、彼女達以外の女性の裸体(アート作品の裸婦像は除外。)ってモ
ノはNGなのである!昨日の千冬だってギリギリNGゾーンになり兼ねないのだ!
「そう言えば今更なんすけどスコール先生、海とか温泉とか入って大丈夫なんですか?左腕と右足は機械だって言ってませんでした?」
「うふふ、ご心配ありがとう一夏君。
でも大丈夫よ。私の左腕と右足は、ISの技術を応用して作った特注の機械義肢だから海水も温泉も平気なのよ。神経とも繋いであるから、生身の腕と同じ様に動か
せるしね。」
「鋼の錬金術師のオートメイルみたいですね。」
「オートメイル……良いわね其れ。
今度メンテナンスの時に改造しちゃおうかしら?マシンガンとか近接戦闘用のブレードなんかを仕込んで……変形機構を内蔵すればいけると思うし。」
「スンマセン、今のは俺が悪かったんで忘れて下さい。担任がリアルロボコップとかマジ笑えないんで。」
少々漫才が始まってしまったが、こう言う軽い遣り取りが出来るのもスコールの魅力と言えるだろう。
千冬が生徒からの憧れで人気があるとすれば、スコールはその親しみ易さで人気がある教師なのだ……モデル並みの美女でありながら、基本ファッションがジャージ
って言うのも親しみ易い要因かも知れないが。
その後、朝温泉を満喫した一夏とスコールは、ロビー脇のサロンで風呂後の牛乳を堪能した。早朝なので、売店は未だ営業してないから自販機で購入したのだが、瓶
入りの牛乳を販売してる自販機ってのは可成りのレア物だろうな。
因みにこの牛乳代は、スコールが一夏の分も払ってくれた。一夏は断ったのだが、『話し相手になってくれたお礼よ』と言われ、素直に御馳走になったのだった。
夏と刀と無限の空 Episode55
『修学旅行最終日!思い切り行くぜ!』
修学旅行最終日。
この旅館に滞在するのは本日で最後になるのだが、最終日の朝食も中々に豪華なモノとなっていた。
艶々の銀シャリに、京都の名物漬物の『柴漬け』、絹ごし豆腐とつみれの澄まし汁、キンキの梅紫蘇焼き、京風だし巻き卵と言ったラインナップに、生徒の多くは満足し
ていた。……本音だけは『納豆がない』と不満そうだったが。本音は『朝は納豆』を地で行くタイプなのかも知れないな。
朝食後は、各自荷物を纏めてチェックアウトの準備をして、其れが終わったら旅館の玄関前に集合だ。
「三日間、お世話になりました!」
「「「「「「「「「「お世話になりました!」」」」」」」」」」
「此方こそおおきに~。京都にまた来た際には、御贔屓になさってくれると幸いどす~~。」
その玄関前で、一夏が代表してお礼を言うと、他の生徒も其れに続いて礼を言い、旅館の女将は京都らしいはんなりとした言葉遣いで其れに返してくれただけでなく、
四台のバスが旅館前から見えなくなるその時まで手を振ってくれていた。一流旅館の女将ともなると、見送りも徹底しているようである。
さて、修学旅行最終日は全体行動なので、四台のバスは同じルートを進んで行く訳なのだが、バスでの移動中と言うのは当然の如くレクリエーションの時間だ!修学
旅行のバス移動の基本だ!古事記にだってそう記されている!……いや、最後のは嘘だが、移動中は暇なのでクラスごとに色々とやるモノなのだ。
で、四組は何をやってるかと言うと……
「オラァ!俺のケンと刀奈のリュウに勝てるもんなら勝ってみろや!行くぜ、オリコン発動!!」
「オ~ッホッホ!挟み撃ちからのケンの連続竜巻旋風脚と、リュウの連続波動拳の極悪コンボでヒット数を稼いだトドメはダブルアッパー昇竜拳でトドメよ!格ゲーに於
ける初代ライバルコンビを甘く見たらダメよ!」
格ゲー大会が開催されていました。
其れも只の格ゲー大会ではなく、ストリートファイターZERO3の『ドラマチックバーサスモードで、一夏と刀奈のタッグに挑む』と言うモノだ――ドラマチックバーサスモード
では、一人の方はX-IZMとZ-IZMではスーパーコンボゲージが、V-IZMではオリジナルコンボゲージが常に満タンで、スーパーコンボとオリジナルコンボが使い放題とな
となっており、一対二のハンデを覆せるようになっているのだが、一夏と刀奈のV-IZMリュウ&ケンコンビはそんなモノは関係ない位にヤバかった!
連打系必殺技を持つキャラ二人で挟み撃ちにしてヒット数カンストの極悪オリコンってのは割とあるんだが、一夏と刀奈は連打系必殺技を持たないケンとリュウで挑戦
者達を滅殺!抹殺!!瞬獄殺!!!していたのだ。
そもそもにしてZERO3でV-IZMって点で可成りガチなのだが、挟み撃ちからのオリコン発動から、一夏はケンのダウンしない竜巻旋風脚を連発し、刀奈はリュウで鎖骨
割り→下中足→波動拳のコンボを連発してチャレンジャーを完全完封していたのだ。
そして、其れだけでなく時にはZ-IZMを使ってダブルスーパーコンボを叩き込むと言う魅せプレイもやってたけどな……但し、簪が挑んだその時は、簪がV-IZMの極悪
ザンギエフを使って、ドラマチックバーサスならではのハメを使って一夏と刀奈を圧倒した。
ロシアの赤きサイクロンは、矢張り最強であるらしい。最強の夫婦であっても、最強クラスヲタが使うガチキャラに勝つと言うのは難易度が高かったようである。
このバス内の様子は勿論生配信され、チャット欄には『鬼夫婦ワロタww』、『リュウケンコンビで此処まで出来るんかい!』、『其れを粉砕したザンギエフ激強じゃね?』
等のコメントが寄せられていた。
さて、そんな熱いバス内の戦いを繰り広げている内に到着したのは、全体行動の最初の場所となる『京都水族館』だ。
修学旅行の京都と言えば、古都の名所を巡るのが王道なのだが、王道を巡るだけが修学旅行ではないと考え、IS学園の修学旅行では、この京都水族館を全体行動
に組み込んだ訳である。新しい名所を抑えると言うのも修学旅行では必要かもしれないな、
全体行動なので、基本的には同じ場所でもクラスごとに回る事になるのだが……
「見て、一夏!ウミガメがよって来たわよ!」
「ウツボが穴から出て来たね?心無しか、君を睨んでいないか一夏?」
「海のギャングが相手か……上等だぜ。やんのかコラ?やるってんなら俺も手加減しないぜ?カヅさん直伝の滅殺剛波動でお前を滅殺してから刺し身にして喰ってや
るから覚悟しろよ?」
「……ウツボが逃げましたよ?」
「海のギャングが逃げるとは、君は本当に凄いな一夏。」
一夏は嫁ズと回っていました。
一夏と嫁ズの関係はIS学園に居る者ならば誰でも知っているので今更誰が何を言うって事もないのだ――と言うか、寧ろ殆どの生徒が一夏達を祝福してるので、『可
能な限り一緒に居させてあげよう』と思うのは当然の事なのかも知れないな。良い子達が多いですねIS学園は。
水族館内を一回りした後は、お決まりのイルカショーを見たのだが、一夏と嫁ズは最前列に座ったせいで、盛大に水飛沫に被弾して『水も滴る良い男』と、『水も滴る良
い女』になってしまった。
ずぶ濡れになった一夏が濡れた髪をかき上げた時には時には多くの生徒がハートブレイクされたみたいだったがな……『男性操縦者重婚法』に国籍制限と人数制限
が無かったら、一夏はIS学園の99%の生徒を嫁にする事態になっていたかも知れんな。この、極上イケメンの天然女たらしが!!
若しかしたら、一夏は雌雄が分かれている全ての生物における『最高にして最強の雄』なのかも知れないな……自然界で言えば、雌は優秀な雄の遺伝子を欲しがる
モノですからねぇ?……こう言ったらなんだが、核戦争で世界が滅びても、一夏と一夏の嫁ズが生存してれば人間種の保存は出来るのではなかろうか?優秀な雄が
一人居て、その子供を埋める雌が複数いれば種の保存は可能なのだから――一夏と一夏の嫁ズは令和のアダムとイヴと言えるかもな。
因みにずぶ濡れになった一夏達はヴィシュヌのフェニックスの発火能力を応用した即席ドライヤーで乾かしたので問題なし。序に、濡れてしまった他の生徒の服も乾か
して上げたらメッチャ感謝された模様である。
通常、こんな場所で専用機を展開するのはご法度なのだが、今回ヴィシュヌは発火能力を使う為の部分展開であったのと、服が濡れたままでバスに乗ったら、バス会
社にも迷惑が掛かると言う事で、千冬をはじめとした教師陣に咎められる事はなかった。寧ろ、教師陣で唯一水飛沫に被弾した山田先生が、『私も乾かしてください』と
お願いした位であるからね。
その後はバスの時間まで売店で土産品を物色し、その際に一夏達は水族館や博物館の定番とも言える記念メダルを購入して、日付と名前を刻印してから別売りのキ
ーホルダーに嵌めて世界に一つだけのキーホルダーが完成だ。
勿論一夏は、自分の分だけでなくグリフィンの分も購入し、日付と『For Griffin Redrum From Ichika Orimura』と刻印した。一緒に来られなかったグリフィンへの、ちょっ
としたプレゼントと言った所だが、こう言う気遣いが出来るのも一夏の良い所だと言えるだろう。……何より凄いのは、一夏は『もっと好かれたい』とかそう言う打算はマ
ッタクなくこう言う事が出来るってとこだ。正に真のイケメン此処にありである。
メダルを購入した後は、ヌイグルミや水族館特製のお菓子等も購入したのだが、その際に円夏が購入したヌイグルミが『ハイパーDXヌイグルミ・ダイオウグソクムシ君』
だったのはきっと突っ込んだらいけないのだろう。ヴィジュアル的には『メンダコ君』の方が可愛いのだが……ダイオウグソクムシには、コアなファンが居るので、円夏も
きっとその一人だったのだろう。
そんなこんなで、水族館を目一杯楽しんだ一行が次にやって来たのは、京都が世界に誇る観光地にして名所の『金閣寺』だ!
建物全体に金箔を貼り、時の権力者の力ってモノを『此れでもか』と言う位に誇示したモノだが、逆に言えば此れだけのモノを作るだけの財政的余裕と言うが、時の将
軍・足利義満にはあったと言う事だろう。
太陽の光がサンサンと降り注ぐ快晴の元では、日光を反射してよりその輝きを強調している様にすら見える。
「流石は金閣寺、見た目の派手さなら京都一だな。」
「本当に見事なまでの金色なのですね?……昨日の銀閣寺の様な美しさはありませんが、迫力はあると思います。」
「そう言えばヴィシュヌ、タイのアンコールワット遺跡って、出来た当時は金色だったんじゃなかったっけか?」
「確かそうだったと聞いていますよ一夏。
ですが、正直アレだけの規模のモノが全部金色と言うのは、最早悪趣味すら通り越して居るのではないかと……正直な話として、アンコールワット遺跡を当時の姿に
戻す計画は白紙になって良かったと思います。」
ともすれば『金持ちの道楽』と捉えられる事がある金閣寺は、実際に成金趣味なのだが、それだけに見た目のインパクトは強烈であり、超ド派手な建物の印象は一度
見たらバッチリと記憶のアーカイブスに刻み込まれて、忘れる事は出来ないだろう。
「確かにヴィシュヌの言うように迫力はあるわよね。」
【豪華絢爛】
見た目の豪華さだけならば京都の観光名所の中でもぶっちぎりのトップであり、刀奈も扇子に【豪華絢爛】と出して――
【でも悪趣味♪】
裏返したら、確かに其の通りではあるけど結構酷い事が書かれていた。上げてから落とすのは、本当に泣けてくるのであまりやらない方が良い……今回は、相手が無
機物だから兎も角、人間相手にやったら凹んで二度と立ち上がれなくなる場合もあるのだから。
で、一夏達は金閣寺での一時を楽しんでいたのだが……
「一夏達か、奇遇だな。」
「あらあら、貴女達も来ていたのね♪」
其処で一夏達に声を掛けて来たのは二人の女性。
一人は長い銀髪を首の辺りで纏めて眼鏡を掛けた女性で、もう一人は金髪を外跳ねのショートカットにした青目の女性だ――勿論一夏の知り合いに、こんな女性は居
ないので、一夏はスルーしようとしたのだが……
「オイオイ、無視は悲しいな?此の容姿では分からないかも知れないが、アタシだよ。ナツキだ。」
「そして、私はカタナよ一夏君♪」
「え?はぁぁぁぁぁぁ!?」
一夏達の前に現れたのは、平行世界からこの世界にやって来たナツキとカタナだった……此の世界に暫く滞在する事にした彼女達もまた、京都観光をしていたのだろ
う。其処で一夏達を見かけたので声を掛けて来たのだ。
ナツキとカタナの髪と目の色が変わって居るのは、此の世界の刀奈と夏姫の事を考えての事だろう。
此の世界に置いて、更識刀奈は専用機持ちの企業代表にして日本代表で、一夏の嫁ズの一人と言うステータスがあり、夏姫もまたエジプトの国家代表でありながらIS
学園の生徒会長の肩書を持っている有名人なのだ――そんな有名人と瓜二つの人間が歩いていたら注目されてしまうので髪と目の色を変えたと言う訳だ。
ナツキは肌の色が違うとは言え、カタナは刀奈と全く同じだからね。
「あらあら、臨海学校の時以来ね?元気にしていたかしら平行世界の私?」
「勿論元気にしていたわよ、此の世界の私♪」
驚いている一夏を他所に、こんな遣り取りをしている辺り、世界は違えど刀奈はカタナでありカタナは刀奈と言う事なのだろう……若干、意味が分からない感じがしなく
もないが、まぁそう言う事だ。
同じ顔と髪型の人間の目と髪の色と服装が違うってのは、なんか格闘ゲームのカラーバリエーションを見てるみたいで、少し不思議な感じがしなくはないな。
「貴女達は臨海学校の時の……若しかして、貴女達も京都観光かい?」
「正解だロラン。アタシ達も京都の観光に来ていてね、そしたらお前達を見かけたからな……修学旅行は楽しんでいるか一夏?」
「あ、あぁ楽しんでるぜ?今日が最終日で、あっと言う間って感じだったけどさ。」
「そうか。あっと言う間だったと感じるのならば、其れだけ充実した時間を過ごしたと言う事だ。充実して楽しい時間だったからこそ、早く過ぎると感じるモノだからね。
……其れは良いとして、二人目の彼は最近どんな感じだ?」
「正義か?……あんな感じだぜ。」
簡単な会話を交わした後、ナツキに陽彩の事を聞かれたので、一夏は陽彩の方を指差したのだが……その先に居た陽彩は、漫画やアニメだったら『背中に影』ってな
表現がされるんじゃないかと思う位に沈んでいた。氷山に激突して海の底に沈んだタイタニック号も驚く位に沈んでいた。
其れこそ、金閣寺の黄金の輝きすら消してしまうのではないかと言う位の『負のオーラ』を纏っていた……見習い神に貰ったチート特典が束によってデリートされてから
は、ダブルオーライザーも真面に扱う事が出来なくなり、授業には付いて行けなくなると散々な日々を過ごしているのだから、こうなるのも仕方ないけどな。
其れだけならば、未だしも、学園祭後に行き成り弱体化した事で、此れまでは陽彩のシンパであった一組の生徒からも『若しかして、此れまでは何かズルをして居たん
じゃないのか?』との疑惑を持たれて、急速に人が離れて行ったと言う、『追撃可能な必殺技を喰らわせた後に、超必殺技で追い打ちする』のと同じ位の追撃を喰らっ
てしまい、陽彩はスッカリ己に自信が無くなってしまったのだ。
「奴の事は、それとなく監視してたんだが……アレは、本当にお前に散々挑んで来た自信過剰に手足が生えた様な生き物だった二人目か?まるで別人じゃないか。」
「学園祭の後でイキナリあぁなっちまったんだよ。ま、何が遭ったかは知らないし、知りたくもねぇけど、俺としては余計なチョッカイを掛けて来なくなったって言うのは、マ
ジで有難いぜ。
大した実力もないクセに粋がってる奴を相手にするのは、面倒な事この上なかったからな。」
「そうか……あの様子では、この先何かトンデモナイ事をしそうにはないから放っておいても問題はなさそうだな。最悪の場合は、アタシとカタナが出張る心算だったが
其れは必要ないだろう。
最も、アタシ達が出張らずとも、お前達で何とかしてしまうだろうけれどね。」
「大丈夫、俺達で何とかするって……この世界は、俺達の世界だからな。」
「其れを聞いて安心したよ。」
取り敢えず陽彩は、『自分がオリ主だと勘違いした転生者のなれの果て』になっているので放置しても問題はないだろう。
一夏との会話を終えたナツキは、一夏の頭を一撫でするとカタナと共に金閣寺から去って行った……自分が居た世界では弟だった故に、自然にやってしまった事なの
だが、撫でられた一夏も悪い気分ではなかった。世界は違えども、姉弟の絆は繋がってるのかもしれないな。
「……頭撫でられたのって、何年振りだろ?」
「最後に頭撫でられた記憶は何時?」
「あ~~……多分小学生の時?でも、その時撫でてくれたのって千冬姉なんだよなぁ……ってか、親に頭撫でられた記憶がねぇんだけど、其れって逆に色々問題じゃ
ねぇかな?」
其れは大問題だ。
織斑両親は、大企業の役付き社員であり、収入も物凄いのだが、それだけに子供達との交流が少なく、一夏と円夏が小学校に上がってからは授業参観位でしか顔を
合わせた機会はないのだ――其れでも、授業参観や運動会ってイベントには参加してくれたのだから最低限の親の務めは果たして居たのかもしれないが。
そんな家庭環境でも、一夏達が寂しい思いをしなかったのは、千冬が一夏と円夏との触れ合いを大切にしてたのと、第二回モンド・グロッソの後は更識ワールドカンパ
ニーで刀奈達と一緒に過ごしていたからだろうな。親からの愛は最低限だったかも知れないが、他の人物からの愛は充分だったのかもしれないな。
「宇治抹茶ソフトクリームか……皆、食べる?」
「宇治抹茶ソフトは、やっぱり外せないわよね♪」
「抹茶のスウィーツ、少し興味はありました。どんな味なのかと。」
「抹茶のアイスやソフトクリームと言うモノは、抹茶スウィーツの王道にして基本と聞いているからね。此れは是非とも堪能しなくてはだ。」
「31アイスクリームをダブルを頼む場合、下は抹茶で上は大納言小豆が基本だと聞いた。抹茶と餡子の組み合わせは最強だ。」
「クラリッサ、其れは違う。ダブルの基本はバニラ&チョコか、バニラ&ストロベリーだからな?抹茶と大納言小豆のコンボは玄人好みの組み合わせであって、ダブル初
心者の組み合わせじゃないから。」
そんでもって、金閣寺をバックにクラスごとの集合写真を撮った後は、バスの発車時刻まで金閣寺の駐車場に併設された甘味処で、本場の抹茶を使ったソフトクリーム
に舌鼓を打ちながら、此の甘味処の名物である『みたらし団子』も堪能した。
モチモチとした団子の食感と、醤油と砂糖で作った甘辛いタレの相性は抜群なのであり、みたらし団子は、団子のキングオブキングスと言っても過言ではあるまいな。
「ソフトクリームも団子も実に美味しかったが……一夏、アレは私の目の錯覚かな?本音が手にしているソフトクリームは、トンデモナイ高さになってる気がするのだけ
れどね?」
「見間違いじゃないと思うぜロラン。
アレは間違いなく、KOFの紅丸の頭越えてんだろ……如何少なく見積もっても、七個分は堅いだろうな。」
のほほんさんは、何かやってた!
最低でも七個分に相当するソフトクリームってのは相当なモノだと思うが、其れをワッフルコーン一つで作り上げた甘味屋の店員も大概だわ!アイスクリームであれば
其れなりの堅さがあるので超積みも出来るだろうが、アイスよりも遥かに柔らかいソフトクリームでタワーを作ると言うのは難易度がハンパないからな。
本音の要望に応えて見せた店員は、きっと只者ではないのかもしれないな。
まぁ、本音はその特大ソフトクリームを完食して満足そうだったのだから良いだろう。傍から見れば異常なモノでも、その異常に触れた本人が満足であるのなら、マッタ
クもって何の問題もないからな。
――――――
金閣寺を後にした一行がやって来たのは、京都のとある物産センターだ。
そして此処が修学旅行で訪れる最後の地だ――此の物産センターでのショッピングの後は、物産センターの多目的ホールを借り切ったバイキング形式のランチを終え
たら、京都駅に直行だからね。
「京都土産と言えばやっぱり生八つ橋は欠かせないよな。自分用と、其れから外国にいる父さんと母さん用にだな。」
「む、兄さんは生八つ橋を買うのか?ならば私は父さん達へのお土産は別のモノにした方が良いな……兄さんが甘味だから、私は鱧の燻製にするか。珍しいしな。」
「一夏は生八つ橋で円夏は鱧の燻製か……ならば私は、京都の名酒を父さん達に送ってやるとしよう。
日本酒は海外にも輸出されてはいるが、外国人の舌に合うように作られているから父さん達は純粋な日本酒を飲む機会は中々無いだろうしな――円夏の選んだ品
も良い肴になりそうだ。」
先ずはショッピング。
地元の物産センターと言う事で、京都の名物が一通り揃っているのだが、矢張りお土産として大人気なのは『生八つ橋』である。京都に来たのなら、生八つ橋を買わな
いと言う選択肢は、甘い物が嫌いでない限りは存在しないと言っても過言ではあるまい。
その生八つ橋だが、時代のニーズに合わせて『チョコレート』、『カスタード』と言った物もあるのだが、一番人気は矢張り王道の『粒あん』だったりする――色んなフレー
バーを出しても、王道は矢張り強いのだ。多種多様なポテトチップスが生まれようとも、『うすしお』と『のり塩』は駆逐されずに生き残っているのが其れを証明している。
さて、生徒も教師も夫々お土産を購入しているが、IS学園は全寮制であり、教師も学生寮の寮長以外は教員寮で寝泊まりしているので、自分用でないモノは受け付け
窓口から実家に郵送して貰う手続きをしている。
この場合、実家が日本にある生徒はまだ良いが、海外組は郵送料金が可成り割高になってしまい不公平になるので、郵送料は後日IS学園に一括で請求されると言う
システムになっている。……但し、適応されるのは生徒だけで教師は自腹である。
なので、海外組の生徒も安心して実家にお土産を送れると言う訳だ。
「生八つ橋と、鮎のスモークにしようかな?鮎のスモークは父さんが喜びそうだ。」
「生八つ橋は確定で……京都の柚子七味と言うのは良いかも知れません。お母さんは辛い物が好きですから。」
「中将殿には日本の酒、黒兎隊の皆には生八つ橋だな。……しかし、京都の物産店であっても逆刃刀の模造刀は売っていないか。あれば買いたかったのだけどな。」
なので一夏の嫁ズ(海外組)も夫々の実家にお土産を送る手筈を整えていた……クラリッサは自分用にどこぞの流浪人の武器の模造刀を探していたようだが、流石に
アレはないだろう。そもそもにして逆刃刀其の物が創作の世界にだけ存在する架空の武器なのだから。
そんな楽しいショッピングの中、一夏はあるモノが目に留まった――其れは丁寧な仕事が施された銀細工のチェーンに鼈甲の勾玉をあしらったネックレスだった。
あまり京都らしいとは言えないモノだが、一夏は迷わずに其れを嫁ズの数だけ購入した――夏休みの温泉旅行の時には、全員に簪をプレゼントした一夏だが、今回も
また、嫁ズへのプレゼントをするらしい。……決して安い値段ではなかったが、嫁ズの為ならば一夏は諭吉さんが異界送りになるのも厭わない!嫁ズの皆が綺麗で可
愛く居る為のフレーバーとして必要なモノに金を掛ける事に迷いはないのだ!って言うか、更識ワールドカンパニーの企業代表として入って来る収入ってのは、並の高
校生のバイトの収入の十倍であり、貯金は溜まっていく一方だからこそこんな大胆な使い方が出来るのかもしれないけどね。
そんでもって、購入したネックレスをプレゼントしたら、其れはもう喜ばれました!
喜びのあまりに、刀奈が『一夏大好き!』と言ってキスしたのを皮切りに、修学旅行に参加した嫁ズとのキスタイムになり、IS学園の生徒はブラックコーヒーを購入し、一
般の客は砂を吐く事になり、彼氏又は彼女いない歴=年齢の人物は一夏と嫁ズのラブオーラを喰らって『死神ピヨリ』になっていた……もうコイツ等のラブオーラは一種
の必殺技って言って良いかも知れんな。
そんな感じでショッピングを済ませた後は、多目的ホールでのバイキング形式のランチタイムだ。
バイキング形式なので、各々好きなモノを選べるのだが、用意されているメニューは京都のグルメだけでなく、焼き肉やフライドポテト、唐揚げと言った定番メニューもあ
る――京都グルメは修学旅行の醍醐味だが、其れだけでは飽きてしまうだろうと言う学園側の配慮なのだこのメニューは。
そして其れは大当たりで、生徒達の多くは京都グルメを取りつつも、京都グルメ以外のメニューも取っているからな。
「一夏、凄いわね?」
「一々取りに行くのも面倒くさいからな。」
其の中でも一際凄かったのは一夏だ。
大皿三つと言う時点で可成りの量なのだが、右手に持った皿には京都グルメが山盛りになり、左手に持った皿には唐揚げやスモークサーモン、ローストビーフと言った
バイキングの人気メニューがてんこ盛りで、右肘に乗せられた皿は、オムカレーにハンバーグとエビフライをトッピングした超豪華版の『お子様ランチ』があったのだから
な――一夏だけでなく、一夏の嫁ズも大皿大盛りだったのだが、一夏は更にその上を行っていたのだ。
普通に考えたらカロリー注意報なのだが、一夏達はアスリートとして日常的に鍛えているので、寧ろ此れ位のカロリーを摂取しないと身体が持たないのだ――なんとも
燃費の悪い身体だが、燃費の悪い身体こそ一流アスリートの証とも言うので、それ程大きな問題ではないだろう。
そして、各々が好きにランチタイムを楽しんだのだが――
「デザートにクレープを自分で作れるのか……なら、最高のクレープを作らないって選択肢はないよな?」
「ふ、ならば私も其れに参加させて貰おうかな?料理の腕では負けるけれど、スウィーツの腕ならば負けない自信があるからね――修学旅行の最後の思い出に最高
のスウィーツを提供しようじゃないか。」
「ロラン……OK、行くぜ!」
ランチタイムのラストに。一夏とロランによるデザートのクレープが振る舞われて生徒達は大満足だったようだ。
一夏がクレープの皮を焼き上げると、ロランが絶妙な手付きでフルーツ類、生クリームとカスタードクリーム、チョコレートソース等のトッピングを施して、激うまなクレープ
に仕上がっていた訳だから、其れを食べて満足しないってのは相当な捻くれ者か素直になれないツンデレだろうな。
因みに、嫁ズと一夏チームの面々及び四組の生徒は一夏の家事スキルが可成りガチでヤバい領域にあるのは知っていたが、其れを知らなかった生徒は、此のクレー
プを食べて完全にKOされたのは間違いないだろう。
家事スキル最強の一夏と、菓子作りならば一夏を越えるロランの合作クレープは天下最強のスウィーツと言っても過言ではあるまいな――でもって、その後はロランだ
けでなく、他の嫁ともクレープを作ったのだが、其れは全てが大好評だったと言っておこう。
そんな感じで、ランチタイムも終わり、バスに乗って京都駅に……此れで京都もサヨナラなのだが、京都駅に向かうバスの中では、『此れでラストだ!』と言わんばかり
に盛り上がり、四組のバス内では初日と同様にカラオケ大会が開催されていた!
初日同様、皆が美声を披露していたが、矢張り最強だったのは一夏と刀奈のデュエットだ。
『軌跡の地球』、『楽園』、『遠雷』等のデュエット曲を披露したが、中でも一番盛り上がったのは『夕陽と月~優しい人へ~』だろう。
KOF屈指の人気キャラである『八神庵』を主人公にしたラジオドラマ内でのみ流れたデュエット曲だが、刀奈がコノエパートを、一夏が庵パートを熱唱してバス内は大熱
狂に!特に一夏が最後に庵パートでオリジナルの歌詞を披露したのも大きいかもな――『炎は月夜の欠片』とか、マジでカッコ良すぎる歌詞ですから。
此のカラオケ大会の様子も勿論生配信されていたのだが、其れは一夏と刀奈の美声も生配信されたと言う事で、チャット欄には『夫婦のデュエットヤベェ。』、『此れ、ガ
チで歌手デビュー出来るだろ』と言ったコメントが寄せられていた。
で、京都駅に到着したら、新幹線に乗って東京にだ――新幹線内は、バス内とは打って変わって静かだったが、其れは此処でテンションが切れて、旅行の疲労がドン
とやって来たからだ。
修学旅行中は、テンションが上がっているので披露なんてモノは一切感じないのだが、修学旅行の終わりが見える帰りの便に乗ると、その疲労が一気に開放されてし
まう生徒は多く、IS学園の生徒もその御多分に漏れずに東京駅までは暫しのお休みタイムって言う訳だ。
「目一杯楽しんだようだから、暫しの間だが良く休むと良い。」
車両内の見回りをしていた千冬は、そう言って眠る一夏の髪を一撫ですると、額にキスを落として見回りに戻って行った……『姉弟で何してんの?』とか言うなかれ!
額へのキスってのは、恋愛的な要素は一切無く、親が子への愛情表現の一つであり、千冬のそれは姉弟愛の表現なのだ。異論は認めんよ。
「それと、お前達も一夏の事を宜しくな。」
そう言って、一夏の肩に頭を預けている刀奈の頭を一撫でして四組の車両から去ると、千冬は三組の車両でも寝ているロランとヴィシュヌの頭を撫でて同じ事を言い、
一組の車両では、車両のロビーで待っていたクラリッサにも同じ事を言い、親愛の情で頬にキスをした……全員が同性で一夏の嫁だったから良かったモノの、そうじゃ
なかったら、千冬さんはトンデモナイたらしになっていたかも知れんな。
そんなこんなで東京駅に到着し、其処からバスでIS学園行きのモノレール駅まで移動し、モノレールでIS学園まで移動して無事に修学旅行は幕を閉じたのだった。
――――――
そしてその夜――
「一夏……其の、修学旅行が終わったばかりだけど、良いかしら?――修学旅行中は同じ部屋でも、簪達が一緒だったから……ね?」
「仰せのままに……愛してるよ刀奈。」
「うん、私も。」
一夏と刀奈は、夫婦の甘い夜を過ごしたらしいです。
一夏と刀奈の愛の行為は、『愛の限界量は存在しない』って言う事を証明するかのように日付が変わる近くまで続き、終わったその後はお互いに抱き合って夢の世界
に旅立って行った……はい、ラブラブですねマジで!!!もうね、末永く爆発して下さい!!刀奈とだけじゃなく全ての嫁とな!!
まぁ、其れは其れとして、この修学旅行も良い思い出になったのは間違いないだろう。京都の名所を回って、グルメも堪能した訳だからね――そして、修学旅行最終日
の翌日に、束宛に一夏の京都土産が届き、束は狂喜乱舞してISの更なる開発を続けるのであった。
天下無敵の稀代の天才も、溺愛してる弟分には絶対に勝つ事は出来ないのだろうな……今更かもしれないが、陽彩さえ居なければ此の上なく平和な世界だったかも
知れないな。
矢張り転生者は異物以外の何物でもないと言う事であり、転生者が『俺TUEEEEEE』をする事は不可能であり、其れをしようとした瞬間に破滅が待っているって事な訳
である――如何に神様転生した所で、その世界の真の主人公に勝つ事は絶対に不可能な事だからな。
To Be Continued 
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