修学旅行が始まり、IS学園の一年生はモノレールで本土まで移動すると、其処からバスで東京駅まで向かい、新幹線に乗り換えて京都に向かい、超高速鉄道と化し
た新幹線で、午前十時には京都に到着だ。
新幹線での移動中は、精々隣の席の生徒とお喋りをしたりゲームをする程度で、割かし静かだったのだが、クラス別のバス移動となれば話は別だ。
バスは夫々のクラスの完全貸し切りなので、他の客に配慮する必要など全くないので、クラスによって差はあるが、バスでの移動中と言うのは修学旅行の中でも、割
とテンションが高くなる時間帯と言えるのだ。
因みにクラス別に見ると……


・一組:特に何の案も出なかったので、クラリッサが持って来たアニメDVDの鑑賞会。

・二組:コメット姉妹によるバス中ライブ。

・三組:クラス代表のロランが事前に用意していたビンゴやらクイズゲームやらのゲーム大会(賞品あり。)

・四組:ある意味一番安定のカラオケ大会。



と言った感じだ。
そして、この盛り上がってるバス内と言うのを使わない手は無く、一夏も新幹線内では停止していた生配信を再スタート!
尚、配信停止中はYouTubeの画面に『只今停止中、○○時より再開』の画像が流れるようになっている。しかも、只文章が流れるだけでなく、一夏と嫁ズのデフォルメ
した似顔絵も一緒の画像がだ。序に言っておくと、全員の頭に獣耳付きと言う遊び心もあり、一夏はオオカミ、刀奈はネコ、ロランはジャッカル、ヴィシュヌは虎、グリフ
ィンはクマ、クラリッサはウサギである。……刀奈とヴィシュヌとクラリッサはメッチャ納得のチョイスである。


「と言う訳で無事に京都に到着しました。
 此れからバスで、奈良に向かう訳なんですが……バスの中では既にカラオケ大会が始まって大盛り上がりです。盛り上がりまくりですよ。如何ですか刀奈さん?」

「本当に盛り上がってるわね?
 でも、盛り上がりっぷりだけを言うのならば、二組のバスの方が盛り上がってるかも知れないわよ?乱からLINEで『コメット姉妹がライブ始めて、メッチャ盛り上がって
 る』ってメッセージが来たし。」

「バス内でライブって新しいな?其れは其れで、生配信したら視聴者めっちゃ増えそうだけど。
 でも移動中のバスで、世界的人気のアイドルのライブを独占出来るなんて、こう言う時って二組の生徒は完全に勝ち組だと思うぜ?コメット姉妹の熱狂的なファンが
 輸血必要なレベルで血涙垂れ流すんじゃないのか?」

「あはは、其れは確かに言えてるわねぇ。」

「それはさて置き、見ての通り我が四組はカラオケ大会なんですが、七月のサマーデビルさんは歌声もデビルだったのは意外だったけど、基本的には歌巧いよな皆?
 こう言ったらなんだけど、コメット姉妹と一緒のステージ立てるんじゃないか?」

「其れは確かに言えてるわね?……っと、此処で今度は我等が担任のスコール先生がマイクを取ったわ!歌うのは……『天城越え』ね♪」

「いや、臨海学校の時も思ったんだけど何で演歌?スコール先生アメリカ人なんだから、其処は英語の歌をチョイスする所なんじゃないのかDMC1のEDテーマの『See
 ds Of Love』とか良いと思うんだけど。」

「其処は、スコール先生の趣味でしょうね。」


再開した生配信も絶好調で、カラオケ大会を刀奈と共に実況して行く――そして、只今天城越えを熱唱しているスコールは、修学旅行なので流石にジャージ姿ではな
かったが、それでもジーパンにボタン付きシャツと革ジャンと言う、『教師としてその格好は如何なのよ?』と突っ込みが入るくらいにラフな服装だった。……矢張り此の
人のファッションセンスは今一良く分からんな。

スコールの演歌の後は、護衛として付いて来たオータムがバリバリのロックを歌い上げ、円夏と静寐が華麗なデュエットを披露してから、簪の怒涛のアニソン五連へと
続き、いよいよ四組的には本命の一夏と刀奈だ。


「兄さん、『キンタの大冒険』をリクエストする。」

「誰が歌うか馬鹿!!」


で、何を歌おうか迷っていたら円夏がトンでもないモノをリクエストしてくれた。『キンタの大冒険』……其れは、あまりにも歌詞が下品過ぎたためにテレビやラジオで放
送する事が禁止になってしまったと言う、ある意味で伝説の歌だ。――放送禁止楽曲でありながら、カラオケでは歌えるのが解せぬ。本気で禁止にするなら、カラオケ
でも歌えないようにせんかい!カラオケでは歌えるのでは、禁止レベルがマダマダだぜ!ボディが、お留守だぜ!!
悩んだ末に一夏と刀奈は『HIGH and MIGHTY COLOR』の『遠雷~遠くにある明かり~』をチョイスして、其れを大熱唱!刀奈のメインパートは勿論だが、一夏のラップ
パートもレベルが高く、歌い終わった後はバス内は拍手喝采!!大喝采!!!粉砕と玉砕は今回は必要ない!
同時に一夏と刀奈の歌声は生配信でも絶賛され、大量の赤スパチャが投げられる事に……赤スパチャは五桁の支援なので、この生配信だけで一夏は十万近く稼い
だ事になる訳だ。――もう、大人気ユーチューバーと言っても誰も文句は言わないだろう……冗談抜きで一夏は、総合力で千冬を抜いていると見て間違いないだろう
な。千冬と違い、一夏はエンターティナーとしても一流と言える力を身に付けている訳だからな。












夏と刀と無限の空 Episode53
『修学旅行?そうだ、京都に行こう!!』










修学旅行の一日目はクラス別行動なのだが、最初に訪れる場所は奈良と決まっているのだが、そうなるとクラス別行動で『東大寺』と『奈良公園』が被るってのは、あ
る意味で仕方ないと言えるだろう。奈良観光で、この二つは絶対に外せない場所なのだから。寧ろ、この二つを観光せずに奈良観光を語るなである。
もっと言うなら、この二つを観光せずに、奈良観光を語ってる俄かは、地獄に落ちて己の知識の浅はかさを呪えって感じだわ。俄か知識で語れる程、奈良の歴史って
のは浅くないどころか、むしろこの上なく深いと言えるだろう。
そんな歴史深い場所にて……


「先ずは、東大寺にやって来ました。
 東大寺の大仏様はやっぱりデカいな?マジで圧倒されるぜ。」

「本当に大きいわよね。
 でも知ってる一夏?此の大仏様は奈良時代に建立された時は全身が金色だったらしいのよ?」

「黄金の大仏様って、迫力がハンパないな?……でも、だとしたら何で今は金色じゃないんだ?全身に金箔を貼るってのはトンデモナイ金額になるから財政的に無理
 なのかもしれないけど、金色にするだけならそうでもないだろ?
 普通の金のラッカースプレーじゃ駄目だってんなら、メッキゴールド使えばいいし。」

「此の大仏様をメッキゴールドのスプレーで塗装したら一体何本必要になるのか分からないわね……金色にしなかったのは諸説あるけれど、東大寺の荘厳さと金色と
 は相容れないって説が濃厚ね。」

「って事は、大仏様単体だったら金色になってたかもしれないって事か。ちょっと残念だな。」


四組と二組は、先ず東大寺を訪れており、此処でも一夏は生配信で修学旅行の様子を配信しており、刀奈との遣り取りや、海外組の生徒に大仏に関する一般的な知
識を分かり易く説明する姿が視聴者に割と好印象だった。
イケメン配信者ってのは、ネット民からは敵視されるモノなのだが、一夏は持ち前の人柄でネット民を敵に回す事なく、むしろ自分のファンにしていたと言うのだから驚
きだろう……マジで隙がねぇなこのイケメンは。
加えて、一夏が東大寺の大柱の穴抜けをすると言うのも中々にネットでは盛り上がった――結局はあばらが突っかかってしまって、刀奈に足の方から引き摺り出され
る事になったのだが、そんなコミカルな姿が逆に『イケメンなだけじゃない』と中々の好感触であるらしい。
一夏がそんな目に遭った直後に、円夏が余裕で通り抜けてドヤ顔を晒してくれたが、其れにカチンときた一夏が放った『まぁ、お前は引っ掛かるモノないしな』と言う爆
弾が爆発し、まさかの兄妹喧嘩に!!


「兄さん、今のは聞き捨てならないな?其れはつまり、私には引っ掛かるモノ=胸が無いと言いたいのか!?」

「実際にないだろお前。――学園を去った中華風貧乳娘と比べればあるかもしれないが、千冬姉に比べればまだまだだって。
 つか、本来なら一学年下の乱にも負けてるだろうが!!だから、毎日牛乳を筆頭に乳製品を摂ってバストアップ体操に勤しみなさい!!」

「乳製品で胸が大きくなるって迷信じゃなかったかと思うんだが、その辺どうなんだ兄さんよ?」

「まぁ、科学的根拠はないな。じゃあ、束さんに頼んで豊胸剤でも作って貰うか?」

「効果はありそうだが、空恐ろしいな。」

「なら仕方ない、乳製品はバストアップに効果がある以上の都市伝説、『外部刺激で大きくする』を試そう。なに、鷹月さんに頼めば大丈夫だろ。」

「おうふ、そう来るとは思わなかった!!」


発展はせずに変な方向にぶっ飛んでいた!
円夏と静寐は百合ーんなカップルになってるとは言え、パートナーに大きくして貰えって言うのは兄として如何なのよ?……少しばかりカチンときた一夏だったけど、ガ
チでキレた訳ではなく、『ちょ~~っと、ムカついた』程度の事だった様だ。そうじゃなかったら、こんな事は言えんだろうからな。


「と言う訳で鷹月さん、円夏を宜しくお願いします!!」

「うん、任されたよ織斑君!」

「静寐ちゃんも、大分染まってるわねぇ……」


静寐も静寐で一夏に言われて速攻で了承している辺り、『朱に交わって赤くなった』と言う事なのだろう。――円夏と静寐の百合カップルのラブラブっぷりが加わったと
言うのは四組の生徒にとっては地獄だったかもな。
一夏と刀奈のラブラブっぷりに耐性が付いて来たとは言え、其処に新たなラブラブカップル、しかも百合カポーが加わったら大凡耐える事なんて出来ないだろう。ぶっち
ゃけるとブラックコーヒー程度では足りんのですわマジで。――尤も、二学期が終わる頃には耐性が出来ているであろう事を考えると四組の順応性の高さと言うモノに
は、脱帽するより他ない。……早いとこ耐性付けんと日常生活に支障が出るってのもあるんだろうけどな。四組の生徒の環境適応能力は、ウィルス並であるな。


取り敢えず東大寺を満喫した一行は続いては奈良公園に移動して、奈良公園の鹿達と戯れている。
本来秋と言う季節は、繁殖の時期であり、雄鹿は互いの角を突き合わせて、雌を巡るバトルを繰り広げるモノなのだが、奈良公園の雄鹿の角は、秋口に切り落とされ
ているので、雄同士の雌を巡る戦いと言うのは余り見られるモノではない。――そもそもにして、奈良公園の鹿は雄も雌も相当数の数が居るので、野山に住む野生種
とは違い、雌を巡る争いはそんなに起きるモノではないのだ。野生生物としては可成り珍しいと言えるだろう。


「さて、奈良公園に来た訳なんですが、鹿せんべいも持ってないのに何故か鹿に群がられてます。何でだよ?
 俺、鹿せんべい未だ買ってないから。俺の妹が鹿せんべい持ってるからそっちに行きなさいって。」

「一夏に群がってるのは全て雌の鹿ね?……其れはつまり、一夏は人間だけじゃなく、人間以外の雌から見ても魅力的な雄だと言う事なのかしら?……雌の鹿から
 もモテモテとは、凄いわね一夏?」

「冷静に解説してないで助けてくれよ刀奈!鹿に囲まれて動く事が出来ねぇ!!」


そして、奈良公園では一夏が複数の雌鹿に囲まれると言うハプニングが!……刀奈の言うように、一夏は種族を越えて雌からは魅力的な雄なのかも知れん。某N○
Kの自然番組で、大人気タレントの福山雅治が南米の猿から求婚された事があったが、一夏も似た様な状況なのだろう。
否、福山雅治がまだ同じ霊長類からであったのに対し、一夏の場合は大きな括りで見ても全く別種の鹿から求婚されてるんだから其れ以上か。


「あらあら困ったわねぇ……アンタ達、私の旦那に色目使うとは良い度胸じゃない?
 確かに一夏は魅力的だから、種の垣根を越えて惹かれるのも分からなくはないけど、一夏は既に私を含めた五人の女性と将来結婚する事が決まってるんだから諦
 めてくれるかしら?」

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」(シカト。鹿だけに、)

「あらぁ、良い度胸してるわねぇ?
 そう言う態度を取るのなら、私も実力行使に出ようかしら?溺死にします?凍死にします?其れともバ・ク・死?好きなのをを選ばせてあげるわ♡」

「貴様等、良い度胸だな?今夜の私のディナーになるか?」


最初は刀奈をガン無視でシカトをかましていた雌鹿達も、刀奈と、一組の面々と此の場所に来ていたクラリッサのガチの殺気を受けたら蜘蛛の子を散らすどころではな
い勢いで逃げて行った――『目が笑ってない笑顔』を見て、雌の本能がこの二人に勝つ事は出来ないと察したと同時に、下手に一夏に手を出したらデッドエンドだと言
う事も感じたのだろう。
野生動物に『死』を感じさせるって、果たしてドレ位の人間が出来る事か――少なくとも稼津斗と千冬なら余裕で出来るでしょうけれど。


「刀奈とクラリッサが言ったらいなくなっちまったか……何を言ったんだよ刀奈もクラリッサも?」

「何もしてないわよ?ただ、あの鹿ちゃん達に、『一夏は私達の旦那だから手を出しちゃダメよ』って言っただけよ。其れ以外の事はしてないわ。」

「中々に聞き分けの良い子達で助かったよ。」

「私の旦那って……間違っちゃいないか。」


うん、間違ってはいないな。少しばかり気が早いけどな。――てか、刀奈もクラリッサも殺気は雌鹿達だけに向けていたらしい。一夏はマッタク何も感じなかったみたい
だからな。高等技術である『殺気を対象者にだけ飛ばす』を会得しているとは、お見事である。
因みに三組と二組は、四組とは逆に『奈良公園→東大寺』のルートで回っているので、ロランとヴィシュヌは居なかったのだが、若しもロランとヴィシュヌも一緒だった場
合、一夏達に群がって居た雌鹿達は倍の殺気を浴びせられて、逃げる前に卒倒していたかも知れないな。

その後は鹿達と戯れる様子を生配信していたのだが、その生配信の最中に『鹿せんべいを持った円夏に鹿が群がって、円夏が鹿におしくらまんじゅうされる』と言うハ
プニングがあったのだが、円夏は無事だったので、此れも動画の視聴数に一役買ったと言えるだろう――自分が同じ目に遇うのは絶対に嫌だけれど、見てる分には
楽しいと思ってる視聴者は少なくないだろうから。


「そうだ、折角だからおみくじ引いて行こうぜ?」


此処で一夏からの提案で、織斑兄弟と更識姉妹と本音はおみくじを引く事に。
そんでもっておみくじの結果は、織斑兄弟と、更識姉妹は揃って『大吉』で、本音は『スペシャルゴールデン超大吉』と言う、モノを引き当てていた――大吉の更に上が
あると言う事に驚きだ。最近追加したんだろうけどな。
だがまぁ、五人とも良い結果だったので問題なしだ。特に一夏と刀奈は、結婚運で互いに『来るべき時に結ばれれば、永遠なり』との事だったからね。
なので、取り敢えずおみくじは満足する結果だったのだが――


「大凶とは、笑えないぜ。」


奈良公園には一組も来ており、陽彩もまたおみくじを引いたのだが、その結果は最悪の『大凶』であり、細かい運性も、『待ち人来ないでしょう』、『無くしモノ、出ないで
しょう』、『金運その他全部だめでしょう』と言う散々な結果だった。
束にチートを無効化されたせいで、如何やら運も最低レベルになってしまったらしい――余りの結果を心配した一組の生徒が『もう一度引いてみたら?』と言ったので
もう一枚引いてみたのだが、結果は矢張り『大凶』だった。そして、その後も連続でおみくじを引くも全て『大凶』だった。
此処まで来ると、最早呪いのレベルだと言っても過言ではないだろう。――チートのなくなった転生者に待っているのは、地獄と言う現実なのかも知れないな。自分を
主人公だと勘違いして、本来の主人公である一夏を踏み台にしようとしていた時点で間違っていたと言う事に気付く事は、きっと永遠にないんだろうな。


「『矢沢永吉』……此れはどう反応すればいいんだろうか?」


尚、クラリッサもおみくじを引いていたのだが、その結果は謎の『矢沢永吉』……いやそれ運勢じゃないから。日本でとっても有名なロックミュージシャンだから。奈良公
園のスタッフに永ちゃんファンでも居ったんかなぁ?
尤も、大運勢こそ謎だったが、細かい運勢は割とよく、結婚運に関しては一夏と刀奈と同じく、『来るべき時に結ばれれば、永遠なり』だったのだが、其れは、先に奈良
公園を訪れていたロランとヴィシュヌも同じだった――きっとこの場に居ないグリフィンがおみくじを引いても同じ事が書かれていただろう。流石は、神公認であるな。
因みに、クラリッサの小運勢は『無くし物』だけは良くなく、『出ません諦めましょう』だった……『矢沢永吉』なら、『気を落とさずに頑張ろうぜ』位は書いても良かったんじ
ゃないかと、クラリッサは思ったとか思わなかったとか。








――――――








奈良観光を終えた一行は、これまたクラス別のランチタイムになるのだが、四組がランチタイムに訪れたのは、『奈良の名物グルメ十三選』に選出されている『釜飯』で
有名な店だ。
クラス別行動時のランチタイムをどうするかをクラスごとに決めるのも、IS学園独自のシステムだ。
普通は、学年会議とかで学校側が決めるモノであって、生徒の意向と言うのは最初から入り込む余地がないのだが、IS学園では生徒の意向を第一に考えて、ホーム
ルームで決める事になっているのだ。
四組のランチタイムは、奈良名物グルメの中から『柿の葉寿司』、『飛鳥鍋』、『釜飯』、『天理ラーメン』が候補として挙がり、投票の結果、『釜飯』と『天理ラーメン』が同
票数となって、決選投票を行った結果『釜飯』が勝利したのだ。
天理ラーメンは、醬油ベースで白菜たっぷりのラーメンなのだが、白菜だけでなくニンニクもタップリなのが女子的にNGだったのか、最初の投票で『柿の葉寿司』と『飛
鳥鍋』に投票した生徒全員が『釜飯』に投票したと言う訳だ……『天理ラーメン』に投票した生徒は悔しい結果だっただろうが、其れは明日の班別行動で解消すれば良
いだろう。班別行動なら、行きたい所に行ける訳だからな。

で、訪れた店は釜飯の種類の豊富さが有名で、一般的な『鶏五目釜飯』をはじめ、『ハマグリ海鮮釜飯』、『鯛釜飯』と言ったモノの他、秋限定の『松茸釜飯』に、少しば
かり変わり種の『韓国石焼ビビンバ風釜飯』や、『スパイシーカレー釜飯』と言ったモノまである。伝統の味を守るだけじゃなく、新しい味に挑戦するって言う気概は素晴
らしいですね。


「此れだけ種類があると迷うけど……俺は、『ホタテとカニの釜飯』にしようかな。」

「私は、店一押しの『鱧と舞茸の釜飯』にするわ♪」

「ふむ……私は基本の『鶏五目』にするか。基本となるモノの味が如何程かでその店のレベルが分かると言うからな。――初めて入るラーメン屋のメニューに塩ラーメ
 ンが有ったら、先ずは塩ラーメンを頼め。
 塩ラーメンが旨いラーメン屋ならば何を食べても旨いからな。」

「円夏、何を言ってるの?」

「……気にするな、ちょいとラーメン屋における持論を展開しただけだ。其れよりも、お前は決まったか簪?」

「うん。私は『日替わり釜飯』にする。開けるまで、どんな釜飯なのか分からないのは、少しドキドキ。」


織斑兄妹と更識姉妹のオーダーは、兄・姉ズと妹ズで値段が分かれる結果に。
兄と姉は、割と高価なオーダーだったのに対して、妹ズは割と安価なオーダーだった――一夏と刀奈と円夏と簪は値段とかは関係なしに、純粋に自分の食べたいモノ
をチョイスしたんだろうけどな。
修学旅行のクラス別行動や全体行動の時の食事の料金は、修学旅行の積み立て金+学校の年間予算で賄われているので、本来は皆同じメニューになるモノなのだ
が、自由に注文出来るのは、IS学園が日本だけでなく世界各国から支援を受けていて、資金が潤沢にあるからと言うのと、『一年に一度の修学旅行なのだから、生徒
に思い切り楽しんで貰いたい』と言う思いもあるからだろう。

そして、注文から暫く待って、一夏達の前にはホカホカ美味しそうな釜飯が!
一人用の釜の蓋を開ければ、食欲をそそる良い匂いが湯気と共に立ち昇り、付属のしゃもじで釜を混ぜれば、釜飯の最も美味しい部分である『お焦げ』が現れて食欲
中枢にダイレクトアタックを仕掛けて来る――となれば、我慢しろってのが無理な話だ。
尚、簪がオーダーした『日替わり釜飯』は、本日は『五種のキノコ(紫シメジ、舞茸、タマゴタケ、アミガサタケ、白キクラゲ)と秋鮭の釜飯』だった。スーパーとかには流通
してないレアなキノコが四種類も使われているのを考えると、本日の『日替わり釜飯』は当たりだったと言えるだろう。


「全員に行き渡ったわね?其れでは、いただきます。」

「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」


で、スコールの号令と共にランチタイムがスタート!
因みに四組の担任のスコールのオーダーは『鯛釜飯』で、一夏の護衛を務めているオータムのオーダーは『ガーリックステーキ釜飯』だ――スコールは兎も角、オータ
ムのオーダーは『其れは釜飯か?』と言ったモノなのだが、一人用の釜に入っている以上は釜飯なので其れ以上は突っ込めないだろう。
もっと言うなら、オータム以上に突っ込みを入れるべきメニューをオーダーした生徒が居るからな。


「のほほんさん、其れは旨いのか?」

「美味しいよイッチー♪」


そのメッチャ強気のオーダーをしたのは、『皆大好きのほほんさん』である本音だ。
と言うのも、本音がオーダーしたのは『納豆キムチチャーシュー釜飯』と言う途轍もなく地雷としか思えない逸品だったから――納豆とキムチを一緒に炊き込んだと言う
時点で既にヤッベーオーラが漂っているんだが、のほほんさんは其れを美味しそうに食べている以上は何も言えまい。本人が美味しければ其れで良いのだ。
因みにですが、炊き込まずに、納豆にキムチと刻んだチャーシュー混ぜて白飯に掛けて食うか、或は同じ材料を炒飯にした場合には滅茶苦茶旨いので一度お試しを。

尤も、一夏は此のランチタイムも生配信していたので、チャット欄では『ヤベェ劇物の予感。』、『材料が地雷過ぎる。』、『其れを頼んだこの子は真のチャレンジャーなん
じゃね?』、『つか、そもそもこの店は何で此れ作ろうと思ったし。』、『でも話のタネに一度食べてみるのはアリかも。』と言った感じのコメントが寄せられており、此のラ
ンチタイム生配信で一部の視聴者は本音の魅力に取りつかれたとか何とか。


「どうせなら食レポしてみない一夏?」

「食レポって、ぶっつけ本番でかよ?俺は、あんまり自信ないから刀奈宜しく!刀奈が巧く出来たら俺も頑張ってみるから。」

「分かったわ。
 この釜飯は、先ずは鱧がふっくら炊き上がってて其れだけでも美味しんだけど、其処に舞茸の食感が加わって鱧の食感との違いが楽しいのよ。
 そしてなんと言っても、鱧の出汁と舞茸の出汁が染み込んだ此の御飯が最高なのよ♪鱧と舞茸だけじゃなく、他の具材からも充分な出汁が出てるから、鰹や昆布と
 言ったモノの出汁を別途加える必要がないのね。
 そして其れ等の旨味を、薄口醬油と味醂が巧く纏めて調和させてる……此れは、尋常ならざる手腕と言わざるを得ないわ。」

「食レポってか、ガチの美食家の評論みたいになってるけど、刀奈の釜飯がドンだけ旨いかってのは伝わって来た。」

「でしょ?其れじゃあ次は一夏の番ね♪」

「刀奈が巧く出来たらって約束だったからな。
 俺の釜飯は、ホタテと蟹がメインの食材なんだけど、此れは出汁に干し貝柱と蟹の殻を使ってるな?生のホタテと蟹の身だけじゃ此処まで濃厚な出汁は取れないか
 らな。
 その濃厚な出汁を活かす為に、味付けはシンプルに塩のみで、濃厚な出汁をサッパリと味わえるように、炊き上がった後で刻んだ山椒の葉が加えられてるのもポイ
 ントだな。山椒の葉は、実みたいな辛さはないけど、実にはない爽やかさがあるからな。……こんな所で如何でしょうか刀奈さん?」

「うん、完璧よ一夏君。」


唐突な食レポも見事にミッションクリアである――が、一夏と刀奈の食レポは中々に見事であり、生配信を見ていたユーザーがこの店を特定して大勢で来店すると言う
事態が起き、更に来店したユーザーによって此の店の釜飯の美味しさや店の雰囲気の良さがSNSで拡散されて、此の店は奈良県でも指折りの人気店へと昇り詰める
と言う事を、この時は一夏も刀奈も予想して居なかった。
YouTubeの力と言うのは中々に侮れないモノだな。








――――――








ランチタイムを終えた後はバスに乗って京都に移動し、クラス別行動最後の場所となる『平等院鳳凰堂』に四組は来ていた――京都の名所は数あれど、此処もまた外
す事は出来ない場所だ。だって此処は、十円硬貨に刻印されている建物だから!
寧ろ、修学旅行で平等院鳳凰堂を訪れて、財布から十円玉を取り出して確認するのはある意味で基本だ!異論は認めん!!!


「マジで十円玉と同じだな。」

「其の十円随分とピカピカね?何時の?」

「令和三年。」

「今年のなら、其れはピカピカな筈だわ。」

「因みに此方は、ピカピカのギザ十だぜ。」

「これ、どうやってピカピカにしたのかしら?」

「タバスコぶっ掛けて錆びを取った後に、金属磨き粉で徹底的に磨いて光沢を出したんだ。いやぁ、磨けば光る物を磨くのって楽しいモンだな?『磨けば光るモノ磨く大
 会』とか有ったら、俺は優勝出来るかも知れないぜ。」


一夏と刀奈が、なんかやってたが、其れはまぁ其れとしても、平等院鳳凰堂の完璧なシンメトリ構造は美しいと言う以外にないだろう――現代とは違い、コンピューター
による計算とか出来ない時代に、此れだけの左右対称建築をやってのけるってのは脱帽モノだろう。
この美しい左右対称の建物には、当時の職人の卓越した技術と、長年の経験によって培われた『勘』が使われてるのは間違いないだろう……職人の技術レベルは昔
の方が高かったのかも知れんな。

クラス別行動の最後は、平等院鳳凰堂の前での記念撮影だったのだが、最前列中央は一夏と刀奈が務め、一夏が制服の上着を肩掛けにしてる所に、刀奈が背を預
けると言った感じに……其れが実に絵になってるから何も言えんわな。矢張り、恋人関係が他の嫁ズよりも長い一夏と刀奈は、平等を基本としていても、少し特別なん
だろうな。恋人同士になって三年の月日は、短くないからね。
だが、其れでも刀奈を特別扱いしない一夏は偉い!普通だったら、付き合いの長い刀奈を贔屓してしまいそうなモノだが、一夏は刀奈を贔屓する事はせずに、自分の
嫁は全員平等に扱ってますから!マジで、イケメン過ぎんだろ一夏君!流石は、選ばれし神の子だな。








――――――








初日のクラス別行動を終え、各クラスとも修学旅行中お世話になる旅館に到着。(旅館への到着時間は決められているので、クラスごとの行動でも定時には旅館に到
着しているのだ。)
学園に二人しか存在しない男子である一夏と陽彩だが、一夏は同じ班のメンバーと同室で、陽彩は千冬の教員室だった――一夏は、嫁ズ以外には手を出さないので
大丈夫だが、陽彩は中学時代の彼是から、女子生徒と一緒にしては危険と判断して千冬と同室になったのだ。……他の教師ならいざ知らず、千冬と同室になってしま
うとは、憐れの極みである。千冬が同室では、就寝時間後に何処かに行く事も出来ないし、下手すりゃアイアンクローで強制的に夢の世界にセイグッバイですからね。

それはさて置き、この旅館は温泉も完備されており、特に露天風呂は修学旅行期間中は、IS学園の貸し切りになって居たので大いに満喫させて貰った――四組が使
った時は、刀奈が『あらあら、胸が大きくなったんじゃない簪?もしかして、夏姫さんに……』、『やぁ、そんな事言わないで刀奈ぁ……』と言う何とも艶っぽい遣り取りが
あったせいで、男湯に居た一夏は野郎の雪片弐型が零落白夜してしまった訳だけどね。――更識姉妹は、姉妹で何しとんねん。


そんな、温泉タイムを終えた後は、ディナータイムなのだが、この旅館の夕食のメニューは一般的な高校の修学旅行の夕食とは一線を画していた。
刺し身の盛り合わせ(金目鯛、秋鮭のハラス、戻りガツオ、活け〆アワビ)だけでも充分に豪華なのに、其処に『生湯葉』、『京野菜の天婦羅』、『エビと鯛の吸い物』が
ある訳だからな。
で、そのディナータイムはクラスごとに席は分かれているのだが、一夏の周りはクラスとかを無視して、嫁ズが固めていた。一夏の両隣りをロランとヴィシュヌで固め、正
面は刀奈とクラリッサだ。――『背後がお留守だぜ!』と思うかもしれないが、背後から何かが来ても一夏の正面に陣取っている刀奈とクラリッサが一早く気付くのでマ
ッタク問題はないのだ。


「一夏、金目鯛のお刺身一切れ頂戴?好きなのよ此れ。」

「良いぜ。その代わり、アワビ一切れ貰うぞ刀奈。」

「そのアワビを一切れ貰えるかい一夏?」

「勿論だぜロラン。代わりにハラス一切れな。」

「そして、そのハラスを一切れ下さい一夏さん。」

「そう言う流れか?なら、代わりにカツオ貰うぜヴィシュヌ。」

「リバースカードオープン、『エクス・チェンジ』!そのカツオを私にくれないか一夏?」

「そりゃいいけど、まさかのエクス・チェンジか。間違ってはいないけどな。それじゃあ、代わりに金目鯛を貰うぜクラリッサ。」


そんな一夏達は、刺し身の盛り合わせの好みの逸品の交換が行われており、交換を繰り返した一夏はプラマイゼロだったが、嫁ズが自分の好物を思う存分堪能出来
た事には満足しているみたいだった。嫁が満足するのが最優先と言うのは、一夫多妻における野郎の基本かもな。
テメェの嫁全員が満足出来なければ、そもそも一夫多妻なんてモノは真に存在出来ねぇからな。全ての嫁を平等に愛し、そして嫁全員が満足してこその一夫多妻って
モノだからな。真のハーレムを構築して維持するってのは簡単な事ではないのだ。一夏と嫁ズのように、お互いに『真の愛』が無くては無理なのである!!
……其れを踏まえると、陽彩がハーレムを構築するのは無理だっただろうな――陽彩と、シャルロットを除く陽彩ラヴァーズには、一夏と嫁ズの様な本物の信頼関係や
絆と言うモノはなかった訳だからね。








――――――








夕食を終えた後は、夫々班ごとに割り当てられた部屋でそれぞれに好きな時間を過ごしていた。
織斑兄妹、更識姉妹+本音の班もその後多分に漏れず、部屋に戻ってからはトランプやUNOで盛り上がった――本音が『ドローツー』の三連コンボにチェーンして、一
夏が『ドローフォー』の三連コンボを叩き込み、円夏に合計で二十一枚の手札を加えると言う鬼畜コンボを叩き込んだ時には刀奈と簪も若干引いてたけどな。
そして、カードゲームだけじゃなく、ボードゲームも白熱し、一夏と刀奈がプロ棋士も唖然とするであろう高速将棋を行って、本日最後の生配信を視聴してるユーザーを
魅了する!!


「チェックメイト!此処に桂馬を張れば、もう逃げ道は無いわよ一夏?」

「敢えて成らずに桂馬のままで来たのは此の為か!……此れは、此処で逃げても次の刀奈のターンで飛車に取られるし、金で桂馬を潰しても、次のターンで角が来る
 か……降参だ刀奈。頭脳戦では、まだ勝てないか。」


その勝負も、百五十手を越えて刀奈が『王手』を掛けた所で一夏が降参して、勝負あり!
最後まで諦めない姿勢は大事だが、其れ以上に『勝てない相手に、負けを認めて降伏する』と言うのも大事な事だろう――頑なに負けを認めずにいたら、その先に待
っているのは、滅びの未来、陽彩がその典型と言えるだろう。――だから、一流選手こそ己の敗北を素直に受け入れて次への糧にするのである。

其れは其れとして、修学旅行の一日目は中々良いモノとなっただろう。
奈良と京都の名所を旅しただけでなく、昼は奈良の名物グルメを堪能し、旅館では温泉に夕食の今日グルメと最高のもてなしを受けると言う、一般高校の修学旅行と
比べたら、可成り豪華で贅沢な修学旅行と言えるだろう。此の内容に文句を言う奴が居たら、其れはトンデモナイ我儘かへそ曲がりかの何方かだ。文句を言う生徒な
んて一人も居ませんが。

まぁ、そんなこんなで就寝時間は過ぎたのだが、そろそろ日付が変わろうと言う時間に、一夏は布団を抜け出して部屋のベランダに出ていた――特に理由なんてモノ
はなく、少し目が覚めたので夜空を見たくなったのだろう。


「…………」

「不審者発見。此れより職務質問を開始する。」

「何処の牛尾さんだよ其れ。」


そして、其処に刀奈が現れ、しばし京都の夜空を堪能する――余計な明かりがない京都は、星が良く見えるのだ。


「こんな時間にベランダに出て何をしているの?何か、不安な事でもあるのかしら一夏?」

「いや、不安はないよ刀奈。ただ、少し星を見たくなった、只それだけさ。今日は新月だから、より星が夜空に映える――其れを目に焼き付けておきたくなったんだ。」

「言う事が気障ね。でも、一夏が言うと其れが決まってるから何も言えないわ。
 其れで一夏、貴方が起きたのに釣られて目を覚ましちゃった私は如何すれば良いのかしら?――夜が明けるまではまだまだ時間があるけど、すっかり目が覚めてし
 まったのだけれど?」

「なら、また直ぐに寝たくなるおまじないをしてやるよ。」


と、言うが早いか、一夏は刀奈を抱き寄せると、唇にキスを落とす――其れも只のキスじゃなく、大人のディープな方だ。
時間にしてバッチリ十秒間の濃厚なキスを終えた刀奈は、完全に蕩けており、結果として一夏と同じベッドで朝まで過ごす事になったのだった――円夏と簪と本音も居
たので、R-18な展開にはならなかったが、同じベッドで寝るだけでも一夏と刀奈は互いの愛を確かめ合うには充分だったのだけれどね。

取り敢えず、修学旅行一日目は無事に終了!二日目は、お待ちかねの班別行動だが、果たしてどんなモノになるのか楽しみだな♪














 To Be Continued