二学期二日目の朝も、一夏は何時も通りの鍛錬を熟し、そして鍛錬が終わるとシャワーで汗を流した後にキッチンで弁当作りなのだが、本日は一夏の隣にキッチン
に立つ人物が居た――言うまでもなくヴィシュヌである。
一夏ほどではないが、ヴィシュヌも早起きな方であり、一夏が朝の鍛錬をしている間、ヴィシュヌも日課となっているヨガを使った体操をしていたのだ――其の体操と
言うのは、大凡一般人では無理な事この上ないモノであったのだが。
エビ反りから両足を床に付けて、其処から上半身を起こすとか普通に人間技じゃない……千冬とは別の意味でヴィシュヌもまた人間を辞めていると言えるのかも知
れないな。――まぁ、一夏の嫁ズは夫々に得意分野では色々と突き抜けているから、全員が『若干人間辞めてる』と言えなくもないんだけどね。


「悪いなヴィシュヌ、手伝って貰って。」

「いえ、此れ位は大した事ではありませんよ一夏。」


ヴィシュヌが一夏の隣で何をしているのかと言うと、其れは勿論弁当作りの手伝いである。
『一夏が弁当作ってヴィシュヌは朝飯の用意じゃないのか?』と思ったかもしれないが、此れもまた『一夏の同居人は週替わりのローテション』を決める際に『朝食は
必ず食堂で皆と一緒に摂る事』と言うのも決められていたからだ。夕食に関しては『放課後の部活・訓練の状況及び夫々の予定があるのでバラバラでもOK』って事
になっている。こんな所でも『限りなく平等に』の嫁協定は確り機能しているらしい。


「それに、こうして一夏と一緒に料理をすると言うのは勉強になりますし、皆よりも先に今日のお弁当のメニューを知る事が出来るので少し得した気分です……尤も
 お昼の時に『今日のお弁当は何かな?』というワクワクは無くなってしまうのでイーブンかも知れませんが。」

「そう言うもんかね?ま、俺としては手伝って貰うってのは助かるけどな。」

「……刀奈は手伝う事は無かったんですか?」

「無くはないけど、少なかったな。
 此処での生活が始まった頃は、基本的に起きるのは俺の朝練が終わった後で、大概俺が弁当作ってる時だったし、一緒に朝練するようになってからは朝練後の
 シャワーの時間が俺より長くてな……俺が部屋のシャワー、刀奈が大浴場使ってたってのもあるんだけどさ。
 ま、夜は刀奈が作ってくれる事の方が多かったけどな。」

「一夏がシャワーで済ませたのに対し、刀奈は大浴場でバッチリ朝風呂を堪能していた様な気がしますね……夜も大浴場で一緒になる事があるんですが、私よりも
 先に入っていたのに、出るのは一緒或は私よりも後と言う事が少なくありませんし。」

「修学旅行とか、誰かと一緒の時は周囲に合わせるんだけど、そうじゃない時は風呂長いからな刀奈は……『半身浴で十五分位が健康の秘訣よ』とか言ってたよう
 な気がするが、夏に十五分も浸かったら逆上せる気がするんだけどな。」


話しをしながらも着々と弁当が作られて行くのを見るに、完全に『口は動かしながらも手は止まらない』って感じである……いやしかし、こうして話しながらキッチンで
一緒に料理をしている様は正しく夫婦の其れだな。きっとこの光景は一夏の隣に立つのが嫁ズの誰であってもそう見えるだろう。――何かもう、特例で一夏が十八
になる前に籍入れさせても良いんじゃなかろうか?学園で盛大に結婚式あげれば良いと思うよ。


「それにしてもヴィシュヌ、昨日も思ったけどそのエプロン可愛いな?似合ってるぜ。」

「そ、そうですか?この柄がとても気に入ったので……似合っていると言って頂けると嬉しいですよ///」

「あぁ、可愛いよなその猫。」

「一夏……これ、猫じゃなくて虎ですよ?」

「え゛?……いや、ディフォルメされ過ぎて猫にしか見えねぇんだけど!?」


何とも平和な光景である。
結局ヴィシュヌのエプロンの柄については弁当を作り終えるまで『猫か虎か』のどっちかでの決着が付かず、最終的に『猫と虎がジョグレス進化して生まれたキャット
ラ』と言う謎の結論に着地するのだった。

弁当を作り終えた二人は荷物を持って部屋を後にすると、食堂で他のメンバーと合流して朝食タイムに。此処で弁当を嫁ズに渡すのは最早お馴染みの光景となり、
周囲の生徒の反応も『やっぱり仲良いよね』と言った感じだ――中には一夏のお手製弁当をガチで羨ましがってる奴も居るが、其れはもう諦めるしかあるまいて。


「時にのほほんさん、其れ旨いの?」

「ほえ、美味しいよ?イッチーも一口食べる~~?」

「いや、遠慮しておく……」


その朝食にて、本音が『クリームソース納豆トースト』なるメニューを食して居たのを見て周囲が若干引いていた……納豆とクリームソースが凄まじい味の不協和音
を奏でそうだが、本音本人は『美味しい』と食べていたのでまぁ、良しとしよう。……何でこんなメニューがあるのかは謎だがな。











夏と刀と無限の空 Episode43
『学園祭の出し物決めと+αである』










二学期二日目の今日からは、本格的な授業の始まりなのだが……授業初日の一時間目から一夏達四組はまさかの自習!!いや、二学期早々行き成り自習なん
て事があるのか?あるのだ!!
教科は英語で、担当教師はアメリカ人女性なのだが……何と此の教師、『天候不良で離陸が遅れた』、『飛行中にエンジントラブルが起き、途中の空港で別の日本
行きの便に乗り換えた』、『航行ルートにハリケーンが発生したので迂回した』、『燃料が足りなくなったので途中の空港で給油した』、『手違いで荷物が麻薬の密売
人の物と入れ替わって麻薬の密輸を疑われた』と言う、『アンタ一度お祓いして貰った方が良いんじゃねぇの?』と言わんばかりの不幸が重なりに重なって、二学期
初日の授業に間に合わなかったのだ……因みに、薬の密売人の疑惑さえ掛けられてなかったらギリギリ今日の授業には間に合って居たので、この不幸体質は何
処ぞの『正義の味方を目指してる家事スキルカンストな赤毛の男子高校生』とタメ張れるかもしれない。

そんな訳で四組は自習なのだが、自習の監督官は担任であり、担任のスコールは『騒がなければ好きにしていいわよ』と言うスタンスなので、黒板にメッチャデカく
『自習!但し騒がない事!!』とだけ書いて、自分は読書タイムを決め込んでいた……仕事しろ教師。
生徒も生徒で『騒がない事』を守りながらも、スマホを見たり、ゲームをしたりとフリーダムだ……『自習時間が自由時間やんけ』とは言うなかれ。四組の生徒は、今
年の一年生の中では座学、実技共に最高レベルの成績を叩き出している優良株の集団であり、ネームドモブ三人娘(静寐、清香、癒子)に至っては、ISバトルの高
等技術とされる『イグニッションブースト』を習得出来るかも知れないと言うレベルにまで来ているのだ。
他のクラスとは違い、専用機持ちが四人、其れも全員がISバトル用にチューニングされた機体持ちだと言う事が大きい事だけでなく、此の四人――否、一夏チーム
の面々が日々ストイックに己を鍛えているのを見て触発された生徒が多かった事もあるだろう。
無論、二組と三組の生徒も一夏達に触発されて訓練や勉学に励む生徒も居たが、四組の様にクラス全員がと言う訳ではないので、四組と成績の差が付いてしまっ
たのだ……尤も、二組と三組の生徒は、其れを悔しく思って居たので、二学期中には急激な伸びが期待出来るかも知れないが。
逆に壊滅的なのが一組だ……多数の問題児が居るだけでなく、一組の生徒の大半は『ISを動かせる』と言うステータスに満足してしまい、向上心があまりない生徒
ばかりなのだ。まぁ、中には向上心のある生徒も居るが。
その為、一組の総合成績は四組の半分以下なのだ……普通ならば担任の千冬の力量が疑われる事態だが、此れは学園が千冬に所謂『問題児』を任せている状
態なので学園としては千冬を咎める事は出来ないのだ。――尚、此れまで千冬が担当した問題児の中には、現在ISバトルでトップ選手になってる者も居るってのを
考えると千冬の指導者の腕は間違いなく高いのだからね。


「ちょっと待って簪!Vソドムは、Vソドムは反則でしょ流石に!!」

「Vさくらを使ってる刀奈が其れを言う?」


そんな訳で、自習時間は自由時間になっても全然問題ないのだ四組の面子は――だって、日々鍛えている上に勉学もバッチリなのだから、滅多にあるモノではな
い自習時間はフリーダムに過ごしたくなるってモンさ。
そんなフリーダムな自習時間の監督官をしていたスコールは夏休みに購入したと思われるゴージャスなゴールドのジャージだった……うん、ジャージじゃなくて女性
物のスーツを買って下さい。
四組の自習時間はフリーダムなので、少しばかり視点を変えて一組と二組に視点を向けてみよう。
一時間目は一組と二組の合同授業で、ISの実技授業。担当するのは当然千冬と真耶である――当初は真耶を舐めていた一組の生徒だが、一学期の真耶vs乱&
セシリアの模擬戦を見て以降、真耶を見る目が変わったらしかった。問題児集団でも、真耶の実力を素直に評価するだけの能力はあった様だ。

んで、本日の授業の前に行われるのは一組の生徒vs二組の生徒の模擬戦だ。
本来ならばこの模擬戦は『クラス代表同士』で行われるのだが、一組の代表として出て来たのはクラス代表の陽彩でも、副代表のセシリアでもなくラウラだった。
二組はクラス代表の乱が出て来ているのだが、此れは千冬が考えた故の選抜だった――と言うのも、この模擬戦は生徒達に『同レベル程度のISバトル』を目の前
で見せる事にあるので、陽彩は必然的に除外されたのだ。
陽彩のISバトル者としての能力は転生特典により並の代表候補生よりは上のレベル、しかし機体性能は現行のISを遥かに凌駕しているので、千冬は陽彩を除外し
たのだ。機体性能が同程度ならば陽彩でも良かったのだが、圧倒的な機体の性能で押し切って、他の生徒に『性能差が圧倒的に上なら勝てる』と思われたら模擬
戦を見せた意味がないからね。――セシリアに関しても、機体性能が可成り特殊なので除外したのだ。セシリアのBT兵装適性は最低レベルかも知れないが、前提
としてBT兵装適性を有する人間は稀有なので除外したのだ。セシリアに関しても『機体の性能で勝った』と思われるかもしれないからな――箒も夏休み中に地獄を
体験している際に、二つほど紅椿のリミッターが解除されてしまったので除外したのだ。
『ラウラだってAICあるじゃん』と思うだろうが、既にAICはタネが割れているので乱ならば対処可能だろうと千冬は判断したのだ……タネの割れた手品に対処する方
法なんぞ、乱レベルの操縦者だったら直ぐに思い付くだろうしな。

そんな訳で始まった乱vsラウラの模擬戦だ。
試合開始と同時に互いに飛び出し、即近接戦闘に突入し、先ずは乱のブレードとラウラのワイヤーブレードの剣劇が行われていたのだが、激しい剣劇の隙を突いて
ラウラがAICを発動して乱の動きを止める。


「少しばかり手古摺ったが、動きを止めてしまえば此方のモノだ……ククク、覚悟は良いな台湾人!!」

「アタシの動きを止めた程度で良い気になるんじゃないわよドイツ人……そして、その慢心がアンタの敗因よ!!」


しかし、乱は本体の動きは止められたが、アンロックユニットから『龍砲』をラウラにぶちかましてAICの拘束を強制解除!!――如何にAICとは言え、砲身も砲弾も
見えない龍砲を止める事は出来なかったみたいだ。


「ギアを上げるわよ!」


そして其処からは乱の猛攻が始まった。
近距離での龍砲を意識させる事でラウラに常に二択を迫ると同時に、夏休み中に本国から送られて来たアップグレードシステムで追加された近接武器である『カタ
ール』でラウラを攻め立てる!
カタールは『握って使う』タイプの近接戦闘武器であり、その間合いはアーミーナイフよりも狭いが、反面取り回しが良く、特により近い間合い――格闘戦の間合いで
は抜群の強さを発揮する上に、突く・斬る・打つの使い分けも出来る優秀な武器なのだ。
そして模擬戦は、カタールの性能を見事に引き出している乱の独壇場になっていった。
龍砲によってAICを攻略されたラウラは、ワイヤーブレードで乱の格闘戦に対応しようとするも、格闘戦の間合いではワイヤーブレードは其の力を発揮出来ず、プラズ
マ手刀に関してもモーションが大きい為に簡単にカタールで弾かれてしまい略完封状態にされているのだ。
その状況がラウラを焦らせ、冷静な思考を奪い、ドンドン対処が稚拙なモノになりシールドエネルギーが削られて行く……其れもまた仕方のない事かも知れない。
負けた経験が無い訳ではないラウラだが、仲間内(箒、鈴、セシリア、シャルロット)での模擬戦では負け知らずだったため、無意識の内に他の生徒の実力を自分よ
り下だと思い込んでいたのだ……一夏と刀奈にコテンパンにやられたと言う事はすっかり忘れてやがるな此のドイツ人は。
なので、この模擬戦も圧勝出来ると思って居たのだが、蓋を開けてみれば乱の実力は鈴なんかとは比べ物にならない程高く、切り札のAICも龍砲で攻略されてしま
うと言う予想外の事態、そして格下だと思って居た相手に追い詰められているという現実がラウラを追い詰めて行ったのだ。……現役軍人のクセに相手の実力も見
極められんのね。

結局そのままラウラは碌に反撃も出来ないままシールドエネルギーがエンプティーとなり模擬戦終了。乱も無傷とは行かなかったが、何方の方が上だったのかは誰
の目にも明らかだっただろう――てか、予想外の事態にパニくって適切な対処が出来ないとか、ラウラは良く今まで黒兎隊の隊長を務めてたモノである。
ラウラを降格させて隊長職を剥奪し、クラリッサを新たに隊長に就任させたエドワード中将の判断は英断だったと言えるだろう。

この結果は勿論ラウラもショックだったが、其れ以上にショックを受けていたのはシャルロットを除く陽彩の嫁ズだった……自分達が一度も勝てないラウラに圧勝して
見せたのだからショックを受けるのも致し方ないだろう。……シャルロットがショックを受けていないのは、普段の訓練では彼女達のレベルに合わせている故に本気
を出せばラウラを圧倒出来るだけの実力があるからである。
……ラウラの敗北を見て黒い笑みを浮かべていたのを見ると、心の中で『今度本気出して陽彩以外を叩きのめして絶望させるのも面白そう』とか考えてるのだろう。
うん、腹黒なだけじゃなくサディスティックな面も持ち合わせているみたいだな此のフランス人は――弩Sの腹黒とかもう最悪に怖すぎるわ!此れでクラスメイトには
人当たりが良いってんだから笑えない。如何してこんな子になってしまったのか謎である。

さて、模擬戦は乱が圧勝したその後は、専用機持ちがメインとなって訓練機を使っての実技なのだが、此処でも一組と二組の差はハッキリと出ており、二組の生徒
の大半はイグニッション・ブーストは無理でも可成り自由に飛行出来る様になっているのに対し、一組の生徒は未だに飛行の基本に戸惑っている者が多かった。
まぁ、一組の専用機持ちは兎に角教え方がヘタクソなので仕方ないと言えるだろう……一応千冬と真耶がフォローはしているモノの、相手は問題児故に言う事を聞
かず、最終的に千冬の鉄拳が炸裂するまで話を聞かないので、結果として中々レベルアップしないのである。……問題児を受け持つ教師は大変だな。
結局本日の一組と二組の合同授業も、一組と二組のレベルの差を見せ付ける事になるだけだった……このレベルの差を見せ付けられて奮起しない一組の生徒が
若干心配である。
序に、乱に負けたラウラはショックで指導其の物が出来ない状態になっていたのだが、其処は千冬が『己の役目を果たさんとは良い度胸だな?』と言って強制的に
再起動させていた――そして、陽彩は陽彩で『ラウラを慰めてやるか』とか言いつつ、今夜はラウラとやる事を考えていた。……何処までも己の下半身に正直な奴と
言えるだろう。見習いたくはないが。


そして二時間目は三組と四組の合同授業で、今度は三組のクラス代表であるロランと、四組のクラス代表である一夏が模擬戦――と言うよりも『戦闘演武』とも言う
べき物を披露してくれた。
距離が離れた時はロランが銃器で攻撃して一夏が其れに対して高度な回避技術や完璧な防御をして見せ、近距離では一夏が刀で攻撃してロランが点をずらす防
御や円運動での回避を行い、他の生徒に『遠距離戦での攻撃と防御』、『近距離戦での攻撃と防御』の高レベルな手本を見せたと言う訳だ。……尤も、演武の最後
には、円運動で回避したロランがカウンターを放ち、そのカウンターを一夏が弾いて、そして体勢を崩したロランを片腕で抱き留めてポーズを決めると言う事をやって
くれた訳だが。しかも、ポーズを決める際にはフェイスパーツはオフにしていたのだから徹底している。
普通ならば千冬の出席簿が炸裂する事態だが、一夏もロランもやるべき事はキッチリとやっていたので、千冬も『人前では程々にしろ』と注意するだけだった。
で、その後の実技も恙無く進み、この授業でネームドモブ三人娘はイグニッション・ブーストの習得に至る事が出来たのだった……此の三人は、日本の国家代表候
補生として専用機を与えても良いかも知れんね。








――――――








そんな訳で午前中の授業は無事に終わり、ランチタイムを経て午後の授業だ――とは言っても本日の午後はLHRとなっており、各クラスとも文化祭の出し物を決め
る事になっているのだ。
だが、その前に最早恒例となっている本日の一夏特製弁当のメニューを紹介して行こう。
本日の弁当はサンドイッチ(具材はコンミートのカツと千切りキャベツ、タラモサラダとスモークサーモン)、鶏団子と香味野菜のエスニック炒め、モヤシのザワークラフ
ト風浅漬け、ウズラの卵の小さいベーコンエッグと言った内容だ。
若干たんぱく質が多めだが、此れもアスリートとしての必要な栄養素を考えての事だ――アスリートとして必要な筋肉を維持する為にはたんぱく質が必要不可欠に
なるのでたんぱく多めになるのは必然であり、その筋肉のエネルギーとなる糖質と脂質も多くなるのは必然と言えるだろう。
一夏の弁当と言うか一夏の料理は見た目が良くて美味しいだけでなく、アスリート飯としても最高レベルのモノであると言えるのだ……そのくせ、アスリート飯じゃな
い料理も作れるってんだからハンパない。マジで将来は料理屋を経営しても良いかも知れんな。

其れは其れとして、午後のLHRは四組も当然学園祭の出し物を決めてるのだが……


「刀奈、俺は何処から突っ込めば良いんだ?」

「前にします?後にします?其れともお・く・ち?なんて悪ふざけをしてる場合じゃないわよね此れ……」


出て来た案にクラス代表である一夏と、副代表である刀奈は頭が痛くなる思いだった……刀奈が若干エロネタに走る位だからな。『突っ込む』ってのはそうじゃない
とだけ言っておこう。
で、どんな案が出て来たのかと言うと……


・一夏君とポッキーゲーム

・一夏君とツイスターゲーム

・一夏君とマット運動

・一夏君とレスリング



うん、真面な案が出てないわ。
四組の生徒は成績は優秀だが、こう言ったお祭り事になるとリミッターが解除されてトンデモない方向に思考がぶっ飛んでしまうらしい。って言うか、此れを採用した
場合、一夏の負担がハンパない――其れ以前に一夏とのポッキーゲームだけは嫁ズが絶対に許さないだろう。


「全部却下だ却下!クラス代表の権限で持って、此れ等の案は全て却下する!!」

「織斑君、其れ権力の横暴だよ!」

「やかましい、此れが権力だ!使う時に使わんで何が権力だ!」


一夏が何処かの蟹みたいな髪型の決闘者が聞いたらブチ切れて『オイ、デュエルしろよ』と言ってきそうな事を言ってが、此れは一夏の言う事の方が正しいだろう。
確かに一夏は今この世界で最も知名度のある人物なので、其れをクラスの出し物の売りにしたいと言う気持ちは分からなくもないが、だからと言ってあからさまにと
言うのは一夏も好きではない……もっと言うのならば、IS学園の生徒ならば未だしも、見ず知らずの外部の客とポッキーゲームとか冗談ではないのだ。


「だけど織斑君、此のままじゃ決まらないよ?」

「分かっとるわ!……取り敢えず他のクラスと被らないようにしたいから、他のクラスの面子にどんな出し物をするのかLINEで聞いてみるよ。」


此のままでは埒が明かないので、一夏はグループLINEでクラリッサ、乱、ロラン、グリフィンにメッセージを送って四組以外のクラスは何をやるのかを聞く事に。
以下、LINEのやり取りだ。



一夏:皆のクラスは文化祭で何やんの?

クラリッサ:一組はボーデヴィッヒの提案でメイド喫茶をやる事になった。

乱:二組は日本の夏祭りをイメージした屋台村に決まったわ。定番の屋台に加えて、台湾で人気の『ルーロー飯』の屋台も出すから必ず食べに来なさいよ!

ロラン:三組はヴィシュヌが提案してくれた『東南アジアカフェ』をベースに、『東南アジア風キャバクラ』をやる事になったよ……まぁ、キャバクラとは名ばかりだがね。


グリフィン:競技科二年は串焼きとタコ焼きとその他色々なスウィーツの店だよ。



三組が大分攻めてるなぁ?名ばかりとは言え、学園祭で『キャバクラ』の名を冠した出し物をするってのは可成り攻めてると言わざるを得ないだろう――下手すれば
申請段階で弾かれるかもだが、それでも其れを選んだ三組の生徒は可成りハッチャケてると言えるだろう。まぁ、祭りは楽しんだ者勝ちだから、多少はハッチャケる
位が丁度良いのかも知れない。普段ならポリスメン案件な事も、祭りの場では見逃される事も少なくないからな。


「……よし、俺からクラスの出し物を提案するぜ。」


LINEで他のクラスが何をやるのかを知った一夏は何かを思い付いたらしく自ら四組の出し物を提案すると言って来た……その時のポーズがエヴァンゲリオンの碇司
令だったのは突っ込み不要だろう。


「俺は……男装ホストクラブを提案するぜ!!」

「「「「「「「「「「な、なんだってー!?」」」」」」」」」」


その一夏が提案したのは、まさかの『男装ホストクラブ』!
通常のホストクラブとは違い、女性が男装してホストになり切ると言う可成り特殊なモノであり、百合~んな奥様方からは絶大な支持を受けているとってもコアなコン
テンツを提示してくれた。
まぁ、四組の生徒は刀奈を筆頭に顔面偏差値が高いので、男装しても全員が『イケメンホスト』になるのは間違い無いのでこの一夏の提案はある意味で行けてると
言えるだろう……髪の長い生徒は、首下で縛ってしまえはノープロブレムだからね。


「IS学園は俺と正義以外に男子は居ないから、必然的に女子目的の男子をターゲットにした出し物になると思うんだが、IS学園の見学を兼ねて来る女子も結構居る
 と思うから俺達は其の子達をターゲットにしようぜ?
 大丈夫、四組は顔面偏差値高いから、男装しても全員イケメンになるって断言すっから。必要なら内容証明出すぞ。」

「で、でも織斑君……男装って言うのはやっぱり恥ずかしいよ?」

「安心しろよ夜竹さん……皆にだけ男装はさせないからさ。
 皆が男装してホストになるってんなら、俺は女装してそのホストクラブのママになる!!」


此処で一夏が更に原爆投下!!
『ホストクラブのママになる』って言う事はつまり、四組の生徒が男装ホストになると言うのならば、一夏は女装ママになると言う事なのだろう……三組の出し物より
も一夏の考えはぶっ飛んでな、うん。
男装ホストクラブはまだ良いとして、自分が女装してそのクラブのママになるってのは早々思い付くモノではないだろう――しかも、其れを冗談じゃなくて、『本気と書
いてマジと読む』って感じで提案したってんだから、一夏は本気なのだろう。


「男装ホストクラブだけでなく、自身は女装してクラブのママになるとは、大分攻めて来たな兄さん……!」

「でも一夏はイケメンだから、本気で女装したら結構行けると思う。胸のボリュームは……シリコン材でブラタイプのニセ乳作ればなんとかなるだろうし。」

「織斑君がクラブのママ……有りかも。」

「イケメン男子が女装すると、其れだけでご飯三杯は行けるわ……美形の男の娘、最高!!」

「一夏君の女装……じゅるり。」

「女装した一夏君が、男性化した刀奈さん達に襲われる……此れは新しい本のネタが出来たわ!!」


しかし、この一夏の提案は好意的に受け止められて、その結果四組の出し物は『男装ホストクラブ』に決定した――ヤバい事を口走ってる奴が居たが、其れは刀奈
が『そんな事したらどうなるか分かってるわよね?』と言って黙らせた。
この時の刀奈は笑顔であったのだが目は『ふざけた事ぬかしてっと、サメの餌にすんぞ』と言っていたので、その生徒は顔を青くして首を縦に振るしか無かった訳で
ある……腐女子思考は程々にだな。


「其れから、クラブのママは俺がやるけど、クラブのオーナーはスコール先生な。――なので、学園祭当日はゴージャスな衣装でお願いしますよスコール先生。」

「私がオーナーとは光栄ね……それじゃあ、学園祭の時には飛びっきりのドレスを持って来る事にするわ――本気を出した私に惚れちゃダメよ一夏君?」

「あぁ、其れはないから安心して下さい。
 俺、嫁以外の女性に興味ないんで……そもそもにして、此れだけ最高の嫁さんが五人も居るってのに他の女性に目移りするとか無いですよ。――何よりも、俺は
 嫁達を裏切るような事は絶対したくないんで。」


はい、イケメン発言頂きました。
まぁね、一夏の言ってる事は正しいわ全面的に。此れだけ最高の嫁さんが五人も居るってのに他の女性に目移りするとか、ドンだけ節操がないんだって話だからな
ぁ……嫁さん居るのに浮気とかマジ最低としか思えんからね。


「あらあら嬉しい事言ってくれるわね一夏?」

「本当の事だからな。」


そうなれば当然、一夏と刀奈から『ラブオーラ』が発生する訳だが、一学期で四組の生徒は此れに対する『完全耐性』を獲得しているので全然平気であり、寧ろこの
光景は四組では、『一日一回は此れ見ないと逆に不安になるよね』と言った感じになっているのかも知れない。慣れって怖いなぁ。

兎に角、四組の出し物は『男装ホストクラブ』に決定し、そんでもって衣装は主夫力限界突破の一夏とコスプレ衣装制作で裁縫能力がぶっちぎれてる簪が制作する
事になった――まぁ、この二人なら全員分の衣装とか楽勝だろうけど、フリーサイズの衣装じゃなくて個人の身体にバッチリ合った衣装を作りそうで怖い。簪なら、女
子同士って事でサイズを測るのも難しくないだろうからな。
果たしてどんな出し物になるのか、学園祭当日が楽しみである。








――――――








その日の放課後、一夏と嫁ズはアリーナでISの訓練を行っていた――他の生徒が居ないのを見る限り、本日のIS指導の方は円夏と簪がメインとなって此処とは別
のアリーナで行っているのだろう。
だが、今日は訓練を指導してやる生徒が居ない代わりに珍しい人物が訓練に参加していた。


「流石はタイの代表候補生とオランダの国家代表だ、他の生徒とはレベルが違うな。」


其れは生徒会長である夏姫だ。
夏姫は以前より一夏達に注目していて、『いつか実力を確かめてみたい』と思って居たらしかったのだが、一学期中は中々生徒会の仕事との折り合いが付かず、断
念していた――が、二学期二日目の本日は生徒会の仕事も特になかったのでアリーナの使用申請をして、こうして一夏達と共に訓練に勤しんでいる訳だ。
その夏姫は現在、ロランとヴィシュヌに二人を相手に模擬戦中なのだが、二対一と言うハンディキャップマッチで、しかもロランとヴィシュヌの機体は二次移行してると
言うのに、夏姫は余裕の試合運びをしていた……この二人を相手に余裕があるとか、生徒会長ハンパないなマジで。
ロランもヴィシュヌもトップクラスの実力者であるのだが、夏姫の強さは更にその上にあるようだ――が、その圧倒的な実力を目の当たりにしても、ロランとヴィシュヌ
は折れず、果敢に挑んで行き、その戦いを見守る一夏達もエールを送る。


「ヴィシュヌ、もっとムエタイを生かすんだ!ロランはグレネードで援護だぜ!!」

「会長さんは一撃は重くないからもっと踏み込んで行っても良いわ!一撃の重さならヴィシュヌの方が上よ!」

「ロラン、グレネードの弾も使い分けるんだ。グレネード弾以外にも、火炎弾や氷結弾もあるだろう?」

「コンビネーションでもっと攻めて!確かに夏姫は強いけど、勝てない相手じゃないよ!――って、目下十連敗中の私が言っても説得力が薄いか。」


そのエールを受けてロランとヴィシュヌは猛攻を加えるが、夏姫はそれ等を全て見事に捌き、逆にカウンターを叩き込んでくる……そのカウンターをギリギリで躱して
いるロランとヴィシュヌも大したモノだが。しかし、ハンディキャップマッチだと言う事を考えると夏姫の実力が勝っていると言うのは間違い無いだろう。
IS学園の生徒会長は『学園最強』と言われているが、夏姫の場合は其れは決して誇張ではないと言えるだろう――其れこそ、現役を退いた今の千冬にならば勝つ
事も出来るかも知れないレベルだからな。
だがしかし、そのレベルに二対一とは言え喰らい付いているロランとヴィシュヌもまた大したモノと言えるだろう……と言うか、一夏と嫁ズは全員が此れ位の強さを持
ってるんだけどね?――と言うか、タッグパートナーが一夏だったら逆に夏姫を圧倒するかもしれんわ。
今や一夏の実力は現役時代の千冬に迫る勢いだし、嫁ズも一夏と一緒なら能力がブーストして本来の実力以上の力を発揮するからな……此れもまた『愛の力』で
あるのかも知れない。愛の力は本当に無限大です。


「と、時間だな。タイムオーバー!時間切れだぜ!!」


此処で一夏が時間切れを告げて模擬戦は終了――互いに決定打を与える事は出来なかったが、ハンディキャップマッチであるにも拘らず時間切れまで持ち込んだ
夏姫の実力は疑う事は出来ないだろう……グリフィンがタイマンで十連敗中と言うのも納得出来るって感じだ。


「はぁ、はぁ……まさかこれ程の実力だとは……正直、二対一と言うのは甘く見られたと思いましたが、その実力ならば確かに今の私達では二人がかりで挑まねば
 勝負になりませんか――時間切れですが、私達の負けですね。」

「だが、負けっぱなしと言うのは好きではないのでね……必ずリベンジさせて貰うよ生徒会長さん。其れこそ、今度はタイマンでね。」

「ふふ、何時でも挑んでくると良い。私は何時でも挑戦を受けるよ――尤も、アリーナの使用申請が通ったらと言う前提条件は付くけれど。」


だがしかし、夏姫の実力を目の当たりにした一夏達は、其れに心が折れるどころか逆に奮起していた――まぁ、稼津斗って言うガチで人外この上ない存在を知って
る一夏達からすれば、夏姫の実力を目にした所で心が折れるって事は無いわな。寧ろ、新たな目標が出来たって感じで燃えるってモノだろう。
何にしても、夏姫との訓練は一夏達にとってはプラスになる事だったのは間違いないね――最高レベルのISバトルの競技者の戦いを生で見る事が出来た訳だから
な。実際に戦ったロランとヴィシュヌだけじゃなく、観戦していた一夏達にも良い経験になった事だろう。

本日の放課後訓練は実に濃い内容になった訳だが――


「よう、何だか凄い訓練してるじゃねぇか?俺達も混ぜてくれよ。」

「……正義、テメェ何の用だ?お呼びじゃないぜ。」


其処に現れたのは陽彩と陽彩の嫁ズだ。


「何の用だと?そんな物決まってんだろ織斑……テメェをぶっ倒しに来たんだよ俺は――いや、テメェだけじゃねぇ。テメェの嫁ズもぶちのめしてやりに来たんだよ!
 テメェのおかげでこちとら夏休みには地獄を味わったからな……その礼をしねぇと気が済まねぇ!!」

「いや、其れ自業自得だろ?臨海学校でアホな事したテメェのせいだろ……俺のせいにすんなっての。
 そもそもだ、俺はテメェに殺されかけたんだからテメェも千冬姉に地獄見せられて、此れでチャラだろうが……つーか、俺としては金輪際お前等とは係わりたくない
 んだよ。」

「そうね、一夏の言う通りだわ。貴方達が係ると余計な面倒事に巻き込まれて迷惑なのよ。
 何よりも、自分よりも遥かに弱い人とは戦う気にもならないわ……まぁ、叩きのめされて病院のベッドで長期生活したいと言うのならば考えてあげるけど。」

「アレだけの事をして、夏休み中に特別指導を受けながらマッタク反省もしてなければ懲りても居ないとは……嗚呼、何処までも愚かであるとしか言いようがない。」

「其れに、その地獄を見せたのはお義姉さ……織斑先生ですよね?でしたら、織斑先生にお礼参りに行くべきでは?……行った所で纏めて返り討ちでしょうが。」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……降格と隊長職の剥奪だけでなく、軍から追放される事も望むか?次に問題を起こせば、確実に除隊は免れないのだぞ?」

「って言うか、良い感じで訓練してたんだから邪魔しないで欲しいんだけどね?こっちは貴重な時間を無駄にしたくないんだよ!夏姫と一緒に訓練する機会ってそん
 なにないんだから。」


何やら極めて自分勝手な事を言ってきてくれたが、一夏達からしたら『お前何言ってんの?』レベルなので、見事にバッサリと切って捨てる――クラリッサだけは、ラ
ウラに対して警告していたが、多分ラウラの耳には入ってはいないだろうな。夏休み明けに『隊長職の剥奪と降格』と『クラリッサが黒兎隊の新隊長』の事実を知った
時に、クラリッサの事を『敵』と認識したみたいだからな……ドンだけ単細胞だコイツ。如何して此れで最高傑作と思った、製作者?
身勝手な因縁を付けて来た陽彩の事を、夏姫も冷ややかな目で見ているが、一夏達にぶった切られた事も、夏姫に冷めた目で見られている事も陽彩にはマッタク
持って通じない。……人の話をちゃんと聞かない奴ってのはマジでめんどくせぇな。


「ルセェ!テメェをぶちのめすだけじゃ満足出来ねぇんだよ……お前の嫁ズもぶっ倒して、俺がキッチリ躾けてやるよ!此の俺の肉奴隷になるようにな!!」

「正義テメェ何言ったか理解してんのか?俺の嫁をぶっ倒して肉奴隷にするだぁ?随分とふざけた事ぬかしてくれるじゃねぇか?……OK、ぶっ殺す。」


陽彩は此れまで同様に一夏に勝負を申し込んで来たのだが、今回はただ勝負を申し込むだけでなく、嫁ズもぶちのめすとぬかした上に、この上なく最低発言をした
事に一夏がキレた……自分の嫁を肉奴隷にするとか言われたらブチ切れて当然だわな。――と言うか、テメェの嫁ズの前で堂々とこんな事を言う陽彩は、頭のネジ
が二・三本吹っ飛んでるのかも知れないわ。この陽彩の発言を聞いて何も言わん陽彩の嫁ズも大概だけどな。――シャルロットだけは『最低のクズだなコイツ』と思
ってるかも知れないが。
そして、こんな事をガチで口にする陽彩に一夏の嫁ズは揃ってドン引きし、夏姫はスマホで虚に『正義陽彩をSSS級ブラックリストに追加するように』と言っていた。

だがしかし、状況は一触即発……二学期開始早々、面倒な事態が勃発してしまった様だ。一体、如何なってしまうのか――!!












 To Be Continued 







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